Title マレーシアの選挙制度および政治状況と2013年総選挙の結果

Author(s) 山本, 博之

Citation JAMS Discussion Paper (2013), 3: 10-17

Issue Date 2013-10

URL http://hdl.handle.net/2433/228913

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Type Journal Article

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Kyoto University

10 JAMS Discussion Paper No.3

マレーシアの選挙制度

議会の構成　マレーシアの国会は下院と上院の二院制をとる。また、各州に一院制の州議会がある。

下院　下院は「国民院」（Dewan Rakyat）と呼ばれる。下院議員の任期は５年で、現在の定数は222。小選挙区制をとり、選挙権と被選挙権はいずれも21歳以上のマレーシア国民。　選挙区割りは10年ごとに行われる国勢調査に基づいて見直されるが、マレーシア結成の経緯により、ボルネオ島のサバ州とサラワク州（以下、「ボルネオ２州」）は半島部の諸州に比べて1票の重みが大きい。また、半島部各州の選挙区どうしでも、農村部は都市部に比べて１票の重みが大きい。その結果、現在、マレーシア全体で１票の重みは最大で約９倍の開きが生じている。　以下、特に断らない限り「国会」は下院を指す。

上院　上院は「国家院」（Dewan Negara）と呼ばれる。各州から指名される2名（13州で26名）および国王が指名する44名の合計70名から構成される。国王が指名する44名は、連邦直轄区、各産業界、民族的マイノリティーの代表などから成るが、実際には与党連合が政党ごとに上院議員の割り当て数を決めており、上院議員は各政党からの推薦に基づいて選ばれる。　上院はもともと各州からの指名議員だけから成り、州の利害を調整する役割が期待されていたが、現在では国王が指名する議員が過半数となり、しかも上院議員は与党連合に所属する政党政治家であるため、州の利害を調整する役割は薄れている。　上院議員の任期は３年で、任期途中の解散はない。上院議員は再任が認められているが、任期が連続しているかいないかにかかわらず、同一の人物は通算で２

期までしか上院議員になれない。

州議会　各州には一院制の州議会（Dewan Undangan Negeri、DUN）がある。州議会議員（Ahli Dewan Undangan Negeri、ADUN）の任期は５年で、定数は州によって異なる。小選挙区制をとり、選挙権と被選挙権は21歳以上のマレーシア国民。　州議会の解散・総選挙は州の専管事項だが、2008年まではほとんどの州で国会と州の与党が同じだったため、半島部の各州は国会にあわせて州議会の解散・総選挙を行ってきた。ボルネオ２州では国会と州議会の解散・総選挙の日程が異なっていたが、サバ州は国会にあわせて州議会の解散・総選挙を行うようになった。

国会の解散と総選挙　首相は、国会の解散を決定して国王に報告し、国王が国会を解散する。選挙（投票）は、国会の解散が国王に報告されてから60日以内（サバ州とサラワク州では90日以内）に実施される。

選挙運動期間　立候補届け出日から投票日の前日までが選挙運動期間となる。かつて選挙運動期間が約１か月間だったこともあるが、選挙運動期間が短い方が与党に有利だと考えられており、選挙運動期間は短くなる傾向がある。2004年総選挙では過去最短の８日間だった。2012年には選挙運動期間の規定が「最低７日間」から

「最低10日間」に延ばされた。

マレーシアの主要政党

与党連合　マレーシアの与党（連合）は、半島部のマレー人、華人、インド人の三つの民族別に結成された政党の連

マレーシアの選挙制度および政治状況と2013年総選挙の結果山本 博之

11マレーシアの選挙制度および政治状況と2013年総選挙の結果　山本博之

合体として成立し、後にボルネオ２州を代表する政党が加わって今日に至っている。　現在の与党連合は国民戦線（マレー語略称はBN、英語略称はNF）。1973年、与党連合だったマラヤ連盟が野党を取り込むかたちで結成された。BNは、前身であるマラヤ連盟を含めれば、1957年の独立以来50年以上にわたって与党連合の地位にあり続けている。　BNの構成政党のうち最大のものは統一マレー人国民組織（UMNO）。UMNOはマレーシアの多数派民族であるマレー人を主要支持基盤とする政党（以下、

「マレー人政党」）。UMNOの歴代総裁は、オン・ジャアファル（1895-1962）、アブドゥル・ラーマン（1903-1990）、アブドゥル・ラザク（1922-1976）、フセイン・オン（1911-1990）、マハティール・モハマド（1925-）、アブドゥッラー・バダウィ（1939-）、ナジブ・ラザク

（1953-）で、第２代総裁のアブドゥル・ラーマン以降、UMNOの総裁がマラヤ連盟／BNの総裁を兼ね、連邦の首相を務めてきた。　マラヤ連邦の独立前夜である1955年、マレー人政党のUMNO（1946年結成）、中国系政党のマラヤ華人協会（MCA、1949年結成）、インド系政党のマラヤ・インド人会議（MIC、1946年結成）の３党がマラヤ連盟を結成した。1963年にマラヤ連邦、シンガポール、サバ、サラワクが新連邦のマレーシアを結成すると、MCAはマレーシア華人協会、MICはマレーシア・インド人会議に改称した（それぞれ略称は変更なし）。　1969年５月10日に行われた総選挙ではマラヤ連盟が３分の２の議席を割り込み、いくつかの州議会で与党連合が過半数割れとなった。５月13日には祝勝デモどうしの衝突を契機にクアラルンプール周辺で民族暴動が発生し、警察発表によれば196人が亡くなった。国王は非常事態を宣言し、憲法と国会を停止した

（1972年２月に再開）。　1973年、マラヤ連盟は当時野党だったマレーシア人民運動党（Gerakan、1968年結成）や人民進歩党（PPP、1953年結成）を取り込んで国民戦線（BN）を結成した。Gerakanはペナン州、PPPはペラ州を主要支持基盤とする多民族政党だったが、BNに加盟することで民族政党として位置付けられ、Gerakanは華人政党、PPPはインド人政党として見られるようになった。　また、BNはサバ州とサラワク州の地元政党を加えることで全国的な与党連合となった。現在では半島部の５政党、サラワク州の4政党、サバ州の4政党がBNを構成している。

野党と野党連合　マレーシアの野党は、マレー人と非マレー人をそれぞれ主要支持基盤とする二つの政党があるが、路線の違いのため両者の共闘は難しいと考えられてきた。ただし、1980年代末以降には、UMNOの非主流派が結成した新党が仲介役となり、野党間の連携がしだいに強まって制度化が進んできた。　汎マレーシア・イスラーム党（PAS、1948年設立）は、イスラム国家の樹立を掲げ、マレー人を中心とし、クランタン州とトレンガヌ州を主要支持基盤とする。政党のシンボルマークは月。PASの精神的指導者はニック・アジズ（2013年で83歳、以下同じ）、党首はアブドゥル・ハディ・アワン（65歳）。　民主行動党（DAP、1965年設立）は、中国系を中心とし、ペナン州やペラ州を主要支持基盤とする。党のシンボルマークはロケット。党首はインド系のカーパル・シン（72歳）。長く党首を務めたリム・キッシアン

（72歳）の息子リム・グアンエン（53歳）が党幹事長を務める。グアンエンは2008年以降ペナン州首相も務めている。　人民公正党（PKR）は、1998年に公正党（Keadilan）として設立された。党のシンボルマークは目（青痣）。アンワル・イブラヒム（65歳）の妻ワン・アジザ（60歳）が党首。1998年に連邦の副首相と財務相を解任され、UMNOから除籍されたアンワルの支持者が組織した政党。アンワルは有罪判決を受けたが、2008年５月に公民権停止期間（５年間）が満了となり、補欠選挙を経て国会議員になった。　野党間の連携は1990年以降に試み ら れ て き た。1990年、UMNO党役員選挙で敗れたラザレイ・ハムザが結成した1946年精神党（S46）は、DAPと人民戦線（Gagasan Rakyat）を、PASとウンマ統一戦線

（AngkatanPerpaduanUmmah、APU）をそれぞれ結成し、S46を仲介した野党のブリッジ共闘が成立した。さらに1990年の総選挙ではサバ州与党のサバ団結党

（PBS）がBNを脱退して野党共闘に参加したが、選挙ではBNが勝利した。　1999年、Keadilan（後にPKR）、DAP、PASの３党が代替戦線（BarisanAlternatif、BA）を結成した。2001年、DAPがBAから脱退して野党共闘は解消した。　2008年、PKR、DAP、PASの３党が選挙協力を行い、選挙後、３党は人民連盟（Pakatan Rakyat、PR）を結成した。

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資料Ⅰ　議席獲得政党リスト（2013年）政党名

結党 解党・改組 備考

略称 マレー語 英語 日本語半島部を拠点とする政党

UMNOPertubuhan Kebangsaan Melayu Bersatu

United Malays National Organisation

統一マレー人国民組織

19465/11 ―

英国のマラヤ連合構想に反対し結成【Onn Jaafar】。独立期以来、与党連合の中核となる最大のマレー人政党。常に首相を担ってきた。1988年２月、党内選挙をめぐり違法判決を受け、直後にUMNO Baru（新UMNO）として登録、同年７月に党名からBaruを外した。

MIC Kongres India Se-Malaysia

Malaysian Indian Congress

マレーシア・インド人会議

19468 ― インド社会の利益を護るために結成されたインド人政党【John A. Thivy】。

結党時の党名はMalayan Indian Congress。与党連合の初期からの構成党。

MCA Persatuan China Malaysia

Malaysian Chinese Association マレーシア華人協会 1949

2/27 ― 華人政党【Tan Cheng Lock】。 結党時の党名はMalayan Chinese Association（馬華公会）。与党連合の当初からの構成党。

PPP Parti Progresif Penduduk

People's Progressive Party 人民進歩党 1953 ―

Seenivasagam兄弟によって結成された多民族のペラ進歩党（Perak Progressive Party）が起源、1956年に現在の党名に変更。1954～55年および1972年5月以降に与党に参加。ペラ州が拠点。

PAS Parti Islam Se-Malaysia

Islamic Party of Malaysia

汎マレーシア・イスラム党（全マレーシア・イスラム党／マレーシア・イスラム党）

19555/31 ―

UMNOの宗教部が分離したイスラム政党【Burhanuddin al-Helmy】。結党時はPan-Malayan Islamic Party。1955年に政党として登録された。1973年1月～77年12月まで与党入り。2008年にPRを結成。イスラム国家建設を掲げる。クランタン州が拠点。

DAP Parti Tindakan Demokratik

Democratic Action Party 民主行動党 1965

10 ―起源はシンガポールの人民行動党（PAP）。1965年のシンガポール分離独立後にDAPとして発足【Chen Man Hin】。華人を中心とする主要な野党。2008年にPRを結成。

Gerakan (GRM, PGRM)

Parti Gerakan Rakyat Malaysia

Malaysian People's Movement マレーシア人民運動党 1968

3/24 ―MCAの総裁選に敗れ たLim Chong EuやTan Chee Khoon、Syed Hussein Alatasらが結成した華人を中心とする多民族政党。1972年に与党入り。

BN（NF） Barisan Nasional National Front 国民戦線 19746/1 ―

1969年総選挙とその後の騒乱を受けて、与党連合・マラヤ連盟（Alliance）に一部の野党とサバ・サラワクの政党を加えて大連合に改編。構成党に変化はあるが、常に政権を担ってきた。

BerjasaBarisan Jemaah Islamiah Se-Malaysia

Pan-Malaysian Islamic Front

汎マレーシア・イスラム戦線 1977 ― UMNO寄りのクランタン州首相【Mohamad Nasir】がPASから解任され

た後に結成。1978年2月～1989年まで与党入り。

KITAParti Kesejahteraan Insan Tanah Air

Malaysian People's Welfare Party マレーシア人民福祉党 1995

2/16 ―元PASメンバーにより結成。結成時の名称はマレーシア人民公正戦線

（AKIM)。2010年12月の党大会でZaid Ibrahimを総裁に選出し、党名をKITAに改称。多民族政党。

PSM Parti Sosialis Malaysia

Socialist Party of Malaysia マレーシア社会主義党 1998

5/1 ―マレーシア人民党（PRM）の流れを汲む。結党時は治安上の理由から政党登録が認められなかった（2008年6月に政党登録認可）。この間の選挙では、1999年にはDAP、2004年以降はPKRとして出馬し、2008年に国会に議席を得た。

PKR Parti Keadilan Rakyat

People's Justice Party

人民公正党（人民正義党）

20038/3 ―

マレーシア人民党（PRM）と公正党（Keadilan）の合併により結成。Wan Azizah Wan Ismailが党首だが、実質的なリーダーはAnwar Ibrahim。2008年にDAPやPASとPakatan Rakyat (People's Pact)を結成。

PR Pakatan Rakyat People's Pact/ People's Alliance

人民連盟（人民同盟／人民協約）

20084/1 ―

2008年総選挙に お け る選挙協力を起源と し てPAS、DAP、PKRによって結成された非公式の政党連合。2010年4月にSNAPが加盟したが2011年5月に脱退した。2009年にPKRのZaid Ibrahimを代表として正式な政党登録を試みたが、登録が認められないままZaid Ibrahimは2010年11月にPKRを離党した。

PCM Parti Cinta Malaysia マレーシア人民愛国党 2009 ― Gerakanの元メンバーらにより結党。ペナン州が拠点。2011年にはサラ

ワク州議会選挙にも候補を立てた。サバを拠点とする政党

PBS Parti Bersatu Sabah Sabah United Party サバ団結党 1985

3 ―1985年州選挙直前に与党Berjayaから離脱したメンバーが結党した多民族政党【Pairin Kitingan】。1986年6月～1990年10月にBN加入。2002年1月23日にBNに再加入。

LDP Parti Liberal Demokratik Sabah

Liberal Democratic Party Sabah 自由民主党 1989

8 ― 元Berjayaメンバーにより結成【Hiew Ming Kong】。タワウ拠点、華人中心。1991年7月、BN参加。

SAPP Parti Maju Sabah Sabah Progressive Party サバ進歩党 1994

1 ― 1994年州選挙直前にPBSから離党したメンバーによって結党【Yong Teck Lee】。華人中心。1994年6月、BN参加。2008年9月、BN脱退。

PBRS Parti Bersatu Rakyat Sabah

Sabah United People's Party サバ人民団結党 1994

3 ―1994年州選挙直後にPBSから離党したメンバーによって結党【Joseph Kurup】。内陸部のカダザンドゥスン人（ムルト人）中心。1994年6月、BN参加。

UPKOPertubuhan Pasok Momogun Kadazandusun Bersatu

United Pasokmomogun Kadazandusun Murut Organisation

統一パソモモグン・カダザンドゥスン・ムルト人組織

19998 ― サバ民主党（PDS、1994結成、1996年BN参加）が改称。カダザンドゥス

ン人中心。1960年代のUPKOとは無関係。

MUPP（Bersama）

Parti Bersatu Sasa Malaysia

Malaysia United People's Party マレーシア人民団結党 2011

3/23 ― サバで1994年に結成されたSETIA党が前身【Shuhaiddin Langkap】。2011年に半島部への進出を決定し、党名を改称した。

サラワクを拠点とする政党

SUPP Sarawak United People's Party サラワク人民連合党 1959

6 ― サラワクで最初の政党【Ong Kee Hui】。イバン人と華人の支持を背景とする。支部レベルでは共産系勢力が優勢。1976年にBN加盟。

PBBParti Pesaka Bumiputera Bersatu

United Sarawak Native Inheritance Party

サラワク統一ブミプトラ・プサカ党

19734 ― ブミプトラ党（Bumiputra）とサラワク保守党（Pesaka）が合併して結党

【Abdul Rahman Yakub】。

STAR Parti Reformasi Negeri State Reform Party 州改革党 1996

10/9 ― サラワク国民党（SNAP）の元メンバーが結党【Patau Rubis】。サバでは2012年1月6日に結成【Jeffrey Kitingan】。

SPDPSarawak Progressive Democratic Party

サラワク進歩民主党 200211 ― サラワク国民党（SNAP）の解党直後に元SNAPのメンバーが結党【William

Mawan Ikom】。2003年1月にBN加入。

PRS Parti Rakyat Sarawak

Sarawak People's Party サラワク人民党 2004

10 ― サ ラ ワ ク・ ダ ヤ ク民族党（PBDS、1983結成 ）を継承【James Jemut Masing】。2005年6月にBN加入。

SWP Parti Pekerja Sarawak

Sarawak Workers Party サラワク労働党 2012

4/2 ―サラワク人民党（PRS）の元メンバーが結成。党首はタイブ州首相の「お気に入り」の【Larry Sng】。親BNの立場をとるが選挙ではBN構成政党（主にPRS）と戦う。

※原則として連邦議会または州議会で議席を獲得した政党を挙げた。政党連合は政党として登録されたもののみ挙げたが、PRは記載した。※党名のマレー語表記と英語表記は基本的に公式名称を載せたが、公式名が確認できない場合は一般に用いられている名称を載せたものがある。※解党年月が「－」となっているのは2013年現在存続していることを示す。※備考欄の【　】は結党時の党首名。

13マレーシアの選挙制度および政治状況と2013年総選挙の結果　山本博之

2013年の解散・総選挙まで

前回総選挙（2008年）　第12回総選挙は2008年３月８日に実施された。　2008年総選挙では、BNは約408万票（有効投票総数の50.3%）を得て国会の140議席（定数の63.1%）を獲得し、PRは約380万票（同46.8%）を得て82議席（同36.9%）を獲得した。国会ではBNが過半数を制して勝利を収めたが、BNの国会での議席数が３分の２を割り込んだことと、同時に行われた州議会選挙で五つの州でPRが過半数を占めて「野党州」となったため、2008年総選挙はBNにとって「大敗」と評価される。この責任を取るかたちで第５代首相のアブドゥッラー・バダウィ（73歳）が退陣し、2009年４月にナジブ・ラザク（59歳）が第６代首相に就任した。

今回総選挙（2013年）　国会は2013年４月３日に解散され、4月20日に公示

（立候補届け出日）となり、５月５日に投票が行われた。選挙運動期間は16日間だった。　2012年末から2013年にかけて、ナジブ首相が国会をなかなか解散させなかったため、マレーシア史上初の任期満了解散となる可能性が生じ、このとき国会議員の任期はいつまでなのかが問題となった。国会議員の任期は当選の日から５年間なので2013年３月７日までだとする考え方もあったが、初登庁が2008年４月28日だったことから任期を2013年４月27日までとすることが確認された。各州議会議員の任期も同様に問題となり、前回の選挙は（サラワク州を除いて）国会と同じ2008年３月８日に行われていたが、初登庁の日は州ごとに異なったため、州議会議員の任期満了の日も州ごとに異なると理解された。

候補者　BNは、国会の222の選挙区のうち221区で候補者を立てた。PRは221の選挙区で統一候補を立て、ラブアン選挙区でのみPASとPKRがそれぞれ候補者を立てた。州議会選挙では、BNは全国505の選挙区で統一候補を立てたのに対し、PRは６の選挙区（トレンガヌ州３、ペナン州１、スランゴール州１、ジョホール１）でPASとPKRがそれぞれ候補者を立て、499の選挙区で統一候補を立てた。　国会の222議席に579人が立候補を届け出た。そのうち無所属の候補は79人で、同時に行われた州議会選挙とあわせると無所属候補は過去最多の270人となった。無所属の候補の多くは政党から公認をもらえなかった候補者やその支持者が無所属で立候補したもので、UMNOは無所属で立候補した党員58人を除名処分にした（その半数以上はサバ州の党員）。

選挙運動　半島部の主要メディアはBNの影響下にあり、新聞・テレビはBN寄りの報道を行うと広く考えられている。フェイスブックなどのソーシャルネットワークサービスが代替の情報源となっている。　居住地や年齢層による情報の断絶をつなぐものとして、マレーシアに特徴的なものに「チェラマ」（ceramah）と呼ばれる政治集会がある。チェラマは、選挙運動期間中、主に夕方から夜にかけて行われる。都市部では会議場やレストランを借り切って行われ、農村部では地元の支持者の家などで行われる。規模は十数人から数千人、数万人までさまざま。都市部では１人の候補者が一晩に２、３か所のチェラマをまわることもある。多くのチェラマに共通することとして、まず歌で盛り上げ、支持者による応援演説を受けて候補者が登場して支持を呼びかけるスタイルが見られる。今回の選挙

サバ州ケニンガウでのチェラマ。子どもを連れた女性や若い女性の姿も多く見られた

サバ州ルヤンでのチェラマ。まずは歌などで参加者を盛り上げ、支持者の応援演説のあと候補者が登場する

14 JAMS Discussion Paper No.3

では、チェラマの会場で動画上映も見られた。　今回の選挙では、BNのチェラマではたいてい一つの政党の候補者や支持者が登壇するのに対し、PRのチェラマではたいてい３党から１人ずつ登壇していた印象を受けた。BNのチェラマでは候補者が同じ民族の人々に「私たちの民族のために」と支持を呼び掛けたのに対し、PRのチェラマでは「『自分の民族のために』という政治はもうやめよう、マレーシア国民としての意識を持とう」と呼び掛けていた。

選挙結果

概要　マレーシア史上初の政権交代が実現するとの予測や期待もあり、また、国外在住のマレーシア人に帰国して投票しようという呼びかけがなされたこともあり、84.4％という極めて高い投票率となった。投票結果は即日開票され、定数222のうちBNが133議席、PRが89議席を獲得してBNが政権を維持した。州議会選挙では三つの州でPRが過半数の議席を占めて野党州となった。　与野党の獲得議席数は、前回の選挙結果（BNが140議席、PRが82議席）と大きく変わらなかった。地域別に見ると、半島部ではBNが85議席に対してPRが80議席で、前回の選挙結果と同じ結果となった。ボルネオ２州では、サバ州（ラブアン選挙区を含む）とサラワク州をあわせてBNが48議席、PRが９議席で、前回（BNが55議席、PRが2議席）と比べてPRは議席を増やしたもののBNが依然として多数の議席を占め、国会全体でBNが多数派となった。　ただし、得票数を見ると、BNが約523万票、PRが約561万票で、PRは得票数で勝ったが議席数で負けるという逆転現象が起こった。この背景としては、小選挙区制で死票が多くなることに加え、選挙区ごとに１票の重みが異なることが挙げられる。選挙区ごとの平均登録有権者数を見ると、サラワク州（31区）が３万5,038人で国内最少、次いでサバ州（25区）が３万9,292人であるのに対し、国内最多のスランゴール州（22区）は９万3,254人で、サラワク州に比べると１票の重さが2.66分の１となっている。また、半島部の各州でも１票の重さが異なり、最大で約９倍の差が見られる。　以下、半島部のマレー人、華人、インド人、ボルネオ州のサバ州、サラワク州の五つのブロックごとに、与党連合を中心に国会の選挙結果を簡単に整理する。

マレー人　UMNOは、半島部では106の選挙区で候補者を立て、73の選挙区で当選した（サバ州では15の選挙区で候補者を立て、全員当選した。これにより、UMNOは全国では121の選挙区で候補者を立てて88人が当選した）。　半島部でUMNOが議席を得られなかった33の選挙区では、野党のPASが19議席、PKRが13議席、DAPが１議席を得た。なお、クランタン州のパシルマス選挙区ではBNが候補者を立てず、PASの候補者と無所属候補者の戦いとなり、PASの候補者が当選した。華人　MCAは37の選挙区で候補を立てて７議席のみ当選、Gerakanは11の選挙区で1議席のみ当選となった。これにより、華人は総人口の24.6％を占めるが、華人政党は与党連合133議席の6.0％を占めるのみとなった。MCAが議席を得られなかった30の選挙区では、DAPが20議席、PKRが10議席を得た。Gerakanが議席を得られなかった10の選挙区では、華人以外の候補者を含めて、DAPが９議席、PKRが１議席を得た。　ボルネオ２州でも、華人が多数の選挙区（華人区）でBNの候補が多く落選した。サラワク州ではサラワク統一人民党（SUPP）が七つの選挙区で候補を立てたが当選は１議席のみとなり、残りの６議席はDAP（５議席）とPKR（１議席）がそれぞれ得た。サバ州では、PBSが五つの選挙区で候補を立てた。そのうち三つが華人区であり、PBSは２議席を得て、残りの１議席をDAPが得た。また、別の一つの華人区ではBN構成政党のLDPが候補を立てたが、DAPが議席を得た。

インド人　MICは九つの選挙区で候補者を立てて４議席のみ当選した。PPPは一つの選挙区で候補を立てたが当選しなかった。これにより、インド人は人口の7.3％を占めるが、インド人政党は与党連合の国会での議席数の3.0％を占めるのみとなった。MICが議席を得られなかった五つの選挙区では、PKRが４議席、PASが１議席を得た。PPPが議席を得られなかった一つの選挙区ではDAPが議席を得た。

サバ州　 サ バ州で は、26議席中23議席でBNが勝利し た。BNが議席を得られなかった三つの選挙区では、DAPが２議席、PKRが１議席を得た。州議会選挙でも半島部出身の野党の躍進が見られ、定数60のうちPKR

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が７議席、DAPが４議席を得た。　地元政党の野党は、国会・州議会ともにほとんど議席が得られなかった。とくにSAPPは、2008年総選挙ではBN構成政党として国会の３議席を得て、後にBNを脱退して野党になり、今回の選挙には「サバの自主権」を掲げて臨んだが、選挙結果は国会・州議会ともに議席ゼロとなった。

サラワク州　サラワク州では31議席のうち25議席をBNが占めた。サラワク州のBNを構成する４政党のうち落選者が出たのはSUPPのみだった。主に華人区で候補を立てたSUPPは七つの選挙区のうち一つの選挙区だけで当選し、残りの六つの選挙区はDAPが５議席、PKRが１議席を得た。　サラワク州の州議会の任期は2016年４月であり、解散・選挙は行われなかった。サラワク州のタイブ州首相（77歳）は32年続く長期政権で、タイブのもとで地元政党が結束してBNを支持してきたが、ポスト・タイブの行方によっては地元政党がBN支持とPR支持に分かれる可能性もある。今回の選挙で大きく議席を減らしたSUPPはBNからの離脱を検討し始めたと報じられた。

野党　野党連合PRを構成する３政党は、DAPが国会の51の選挙区に候補を立てて38議席を得て、PKRが99の選挙区に候補を立てて30議席を得て、PASが73の選挙区に候補を立てて21の議席を得た。PRの勢力は全国で89議席となり、その地域別内訳は、半島部で80議席、サラワク州で６議席、サバ州で３議席。政党別にみると、DAPは半島部で31議席、サラワク州で

５議席、サバ州で２議席。PKRは半島部で28議席、サラワク州で１議席、サバ州で１議席。PASは半島部で21議席で、ボルネオ２州では国会の議席はない。

州議会　サラワク州を除く12の州で、総選挙と同日に州議会選挙が行われた。2008年の州議会選挙では12州のうち五つの州（クダ州、ペナン州、ペラ州、クランタン州、スランゴール州）でPRが過半数を占めて野党州となったが（ペラ州は後にBNが多数派となり与党州となった）、今回の州議会選挙ではBNがクダ州政権を奪回し、野党州はペナン州、クランタン州、スランゴール州の三つとなった（資料Ⅱ）。　国会の選挙区レベルの与野党の「ねじれ」現象はほとんど見られなかった。国会の選挙区は州議会の２～６の選挙区から成る。国会の222の選挙区のうち、州議会がない連邦直轄区（13区）と州議会選挙を行わなかったサラワク州（32区）を除く177区のほとんどで、州議会議員の多数派と国会議員が与野党の同一陣営に所属している。例外は、国会議員がBNで州議会議員が３人全員PRとなったクランタン州のマチャン選挙区など、全国で九つの選挙区のみだった（資料Ⅲ）。

新内閣　2013年５月15日、ナジブ首相が新内閣を発表した。24省で大臣級は31人、副大臣は27人となった。MCAとGerakanからの入閣はゼロで、華人は大臣級で１人のみとなった。　BNの勝利に貢献したサバ州とサラワク州からの入閣が増え、サバ州からは大臣６人（解散前は４人）と副大臣４人、サラワク州からは大臣７人（解散前は３人）と副大臣４人が入閣した。

資料Ⅱ　州議会の与野党の議席数（2008-2013）

2008年 2013年BN PR BN PR

プルリス 14 1 13 2クダ 14 21 21 15クランタン 6 39 12 33トレンガヌ 24 8 17 15パハン 37 4 30 12ペナン 11 29 10 30ペラ 28 31 31 28スランゴール 20 36 12 44N.スンビラン 21 15 22 14マラッカ 23 5 21 7ジョホール 50 6 38 18サバ 59 1 48 12

ジョホールサラワク

サバ

プルリス

ペナンペラ

クダ

スランゴール

ヌグリ・スンビラン

パハン

クランタン

トレンガヌ

ムラカ

16 JAMS Discussion Paper No.3

資料Ⅲ　国会と州議会の獲得議席（クランタン州、2013年）国会 州議会

UMNO PAS UMNO UMNO UMNOUMNO PAS UMNO UMNO UMNOUMNO PAS UMNO UMNO PAS PASUMNO PKR UMNO PAS PASUMNO PKR UMNO PAS PASUMNO PAS UMNO PKR PAS PASUMNO PAS UMNO PAS PAS PASUMNO PKR PAS PAS PASUMNO PAS PAS PAS PASUMNO PAS PAS PAS PASUMNO PAS PAS PAS PASUMNO PAS PAS PAS PASUMNO PAS PAS PAS PAS

- PAS PAS PAS PAS

資料Ⅳ　連邦下院議員選挙結果（2013年）

合計 222 3 15 14 8 13 24 14 22 11 1 8 6 26 1 25 31579 7 39 30 18 32 56 35 64 29 2 21 12 54 3 95 82

BN 133 3 10 5 4 3 12 10 5 2 1 5 4 21 1 22 25221 3 15 13 8 13 24 14 22 11 1 8 6 26 1 25 31

UMNO 88 3 10 5 4 3 10 8 4 2 1 5 3 15 1 14121 3 13 13 8 5 12 11 10 4 1 5 4 17 1 14

MIC 4 1 1 1 0 19 2 1 4 1 1

MCA 7 0 0 1 1 0 0 0 1 437 2 4 7 2 7 4 2 2 7

Gerakan 1 0 0 0 0 111 4 3 1 2 1

PPP 0 01 1

PBS 4 45 5

UPKO 3 34 4

PBRS 1 11 1

LDP 0 01 1

PBB 14 1414 14

SUPP 1 17 7

PRS 6 66 6

SPDP 4 44 4

PR 89 0 5 9 4 10 12 4 17 9 0 3 2 5 0 3 6223 3 15 14 8 13 24 14 22 11 1 8 6 26 2 25 31

PAS 21 0 1 9 4 0 2 1 4 0 0 0 0 0 0 0 073 3 8 11 7 2 7 6 7 1 1 3 1 8 1 2 5

DAP 38 7 7 1 4 5 2 1 4 2 551 7 7 3 4 5 2 2 6 4 11

PKR 30 4 0 0 3 3 2 9 4 1 1 1 0 1 199 7 3 1 4 10 5 11 5 3 3 12 1 19 15

Berjasa 0 0 0 0 0 0 09 2 1 1 3 1 1

SAPP 0 08 8

KITA 0 0 02 1 1

STAR 0 0 028 21 7

PCM 0 02 2

MUPP 0 01 1

SWP 0 06 6

無所属 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 079 1 5 3 2 4 7 6 17 6 4 2 15 7

サラワク

合計

プルリス

ペナン

クダ

クランタン

トレンガヌ

ペラ

パハン

スランゴール

サバ

ラブアン

ジョホール

マラッカ

Ｎ．スンビラン

プトラジャヤ

ＫＬ

17マレーシアの選挙制度および政治状況と2013年総選挙の結果　山本博之

資料Ⅴ　州議会議員選挙結果（2013年）

合計 505 15 36 45 32 40 59 42 56 36 28 56 (445) 601322 35 98 96 72 103 143 95 156 82 59 120 (1059) 263

BN 275 13 21 12 17 10 31 30 12 22 21 38 (227) 48505 15 36 45 32 40 59 42 56 36 28 56 (445) 60

UMNO 240 11 19 12 17 10 30 28 12 21 17 32 (209) 31340 13 28 43 31 15 36 31 37 22 18 34 (308) 32

MIC 5 0 0 0 0 0 1 1 3 (5)17 2 2 3 1 2 2 1 4 (17)

MCA 12 2 2 0 0 0 1 2 0 0 3 2 (12) 089 2 4 1 1 10 15 8 13 10 7 16 (87) 2

Gerakan 3 0 0 0 0 0 0 0 1 (1) 231 2 13 4 2 3 2 1 2 (29) 2

PPP 0 0 0 0 0 (0)4 1 1 1 1 (4)

PBS 7 713 13

UPKO 4 46 6

PBRS 1 11 1

LDP 3 34 4

PR 229 2 15 33 15 30 28 12 44 14 7 18 (218) 11511 15 36 45 35 41 59 42 57 36 28 57 (451) 60

PAS 86 2 9 32 14 1 5 3 15 0 1 4 (86) 0237 9 23 41 29 6 22 21 21 12 13 31 (228) 9

DAP 96 0 2 20 18 7 15 11 6 13 (92) 4104 1 2 20 18 7 15 11 8 14 (96) 8

PKR 47 0 4 1 1 9 5 2 14 3 0 1 (40) 7170 5 11 4 6 15 19 14 21 13 7 12 (127) 43

Berjasa 0 0 0 0 (0)5 2 2 1 (5)

SAPP 0 041 41

KITA 0 0 0 0 0 (0) 011 5 1 3 1 (10) 1

STAR 1 149 49

PSM 0 0 0 (0)2 1 1 (2)

PCM 0 0 (0)3 3 (3)

MUPP 0 0 (0) 04 1 (1) 3

無所属 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 (0) 0191 5 18 6 5 18 22 11 38 10 2 7 (142) 49

合計

プルリス

ペナン

クダ

クランタン

トレンガヌ

ペラ

パハン

スランゴール

半島部計

ジョホール

マラッカ

Ｎ．スンビラン

サバ