140
Title 溶融塩電解法による塩化水素からの塩素の回收に関する 研究( Dissertation_全文 ) Author(s) 伊藤, 靖彦 Citation 京都大学 Issue Date 1969-01-23 URL https://doi.org/10.14989/doctor.k865 Right Type Thesis or Dissertation Textversion author Kyoto University

Title 溶融塩電解法による塩化水素からの塩素の回收に関する ...repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bitstream/2433/...NiCl2→Ni+CI3 (電解反応) Ni+2HCl→Nic12+H2

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Title 溶融塩電解法による塩化水素からの塩素の回收に関する研究( Dissertation_全文 )

Author(s) 伊藤, 靖彦

Citation 京都大学

Issue Date 1969-01-23

URL https://doi.org/10.14989/doctor.k865

Right

Type Thesis or Dissertation

Textversion author

Kyoto University

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溶融塩電解法による塩化水素からの

塩素の回収に関する研究

伊  藤  靖  彦

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溶融塩電解法による塩化水素からの

塩素の回収に関する研究

目 次

緒 論 2

第1編

 第1章

第2章

 第5章

 第4章

第5章

第6章

第’7章

 第8章

第9章

塩化水素の塩化物溶融塩中での直接電解法・

 緒   言___._..._._..._,___ ...、.、__

 熱、力学的考察…・一・___.____

羅.・の可能性一..、_..__.

 電解浴の検討_._.__._.__._.___._...,

 陰極および陽極の挙動一・・一一…一・・一・…一・・…

 陰極での二,三の   ・._._..._.._.__

触 媒 の

工業化への試み

総   括一・一一

   9

   9

   10

・・…- @ 1.2

_... @26

-一…・ @58   50

   65

 ...、, ア2

- 83

第2編

 箪1貴

 第2章

 第3章

 第4章

 第5章

 第6章

 第ア章

 第8童

液体金属陰極法による塩化水素の間接電解法・

 緒   言一・・一一一・・・…一・一一一・・……一

 熱力学的考察一・一…・一・・…一一・・…・…・一・一

 本方法の可能性一・一・  一一・一・…

 各稲液体金属陰極の検討 ・一

 工業化への試み・…

 反応塔を用いる電解法の検討

 本方法と他方法との比較・一・・…

総     括・一………・一・・……・・

 87

 87

 89

 92

.101

.111

122

150

152

第3編.総括ならびに結i論 ・154

謝 辞・ ’…’層’… P58

一1一

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             緒       論

塩素を用いる繊化学工業の急融発展につれて・副生す噸の量も物の セをたどりつつある。

          RH + CI2 → RCI十HCl

 なる置換塩素化反応で副生される塩厳の量は莫大なものになり,アメリカではすでに,

     表1.塩猷生産量の推移

               アメリカ(単位 100%換算ショートt)

年 次 合   成 副   生 ルブラン法 合  計副生塩酸阯L率㈲

1955 ,呑0.0-51 517092 161,106 838249 61.7

56 181,559 575,519 142470 906,548 65557 182375 595,750 138,956 91ZO81 65058 162,282 556,704 10λ036 826,022 6Z559 165,751 690,155 100,008 955914 72260 154,0ア5 ア6Z908 92295 工014276 76.0

61 11aO59 ア05,855 8ZO 73 9手0、967 アZ5

62 144,053 802233 105,850 1,052,116 ア6.2

日本(単位 100%換算t)

合 成副   生 A 計

副生塩酸年 次

液 ガ  ス* 小 計口

占有率曲

1955 74,392 20,138 94,550 3,507 98D5ア 5.6

56 95,597 32,035 125,632 4508 150,140 5.5

57 98515 61,227 159540 4,ア64 164,504 2958 95.90.7 5ス220 151,127 5258 156,585 5.4

59 110,81ア 9Z686 208,505 Z551 216,054 55

60 154158 141,125 275283 12,456 28Z719 4.5

61 14刀65 1ア巳105 525268 18,625 545,895 54

62 162318 1ア8208 540526 22,ア15 565241 6.3

63 166,ア74 20ス079 5ア5,855 44β46 418,699

64 182858 265,388 455,246 45,080 500,526 90

*ガス生産量は塩酸ガス用塩素ガス÷1(原単位)とみなした。

               -2一

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表1に示すように,全塩酸生産量の76%にも達している。

 わが国では現在のところ,9%と少いが,今俵急激な増加が予想される。すなわち,大

櫓の塩酸を副生する工業的反応が表2.に示すように多岐にわたうているのに対し,現在な

いし将来において大量の塩餓を使用する工業的反応は表5」二示すようにかぎられた範囲に

表2.大量の塩酸を副生する工業的反応

号 製品t当り塩酸

反            応 製  品  名 (100%)

理論副生

量 kg

メタンゐ塩素化

CH4+Cl2→CH3C1+HC l 塩化メチル 723CH 4十2C I 2→CH 2 C 12+2HC 1 塩化メチレン 859CH4+3C l 2→CHC h+5HC l クロロホルム 891

C正【4+4C 12-→レCC藍4 +4HC l 四塩化炭素 948プロピレソの塩素化

C3H5+C12→C3H5Cl+HCl 塩化アリル 4ア7

2C3H6+12Cl2→5C2 Cl4+12HC1 パークロルエチレン 880ベンタンの塩素化

C5H:2+Cl2→C5HllC1+HC監 塩化アミル 335

C5H墓2十9Cl2→C5C16十12HCl ヘキサクロルシクロ 1604ペンダジエン

ジクロルエタソの分艀

C2H4Cl2→C2H3Cl+HCI 塩化ビニル 584

テトラクロルエタンの分解

C2H2C14→C 2 HC 13+HC l トリクロルエチレソ 278ペンゼンの塩素化

C6H6+C貰2→C6H石CI+HC 1 モノクロルベソゼン 524

C6H6+2C】2→C5H4CI2+2HCI ジクロルベソゼン 49ア

トルエンの塩素化

C6H5 CH3+Cl2→C 6 H 5 CH 2 C l+HC l 塩化ペンジル 289フエノールの塩素化

C6H50H+5C12一ンC6C150H+5HCl PCP尽ンタクロロフェノづり 585

酢酸の塩素化

CH 3 COCH+C12

→㎝2C1㎜H十HCl モノクロル酢酸 586

TDIの製造C6H3 CH 3(NH 2)2+2(pC l 2 TDI

→C6H3 CH 3(NCO)2+4HC] (トルエン

ジイソシアネート) 8き9

・- T-・

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衷ム 大量の塩酸を使用する工業的反応

製品t当りの塩酸

反             応 製  品 名 (100%)

理論使用

量 kg

アセチレソへの附加

C2H2+HC1→C2H3 Cl 塩化ビニル 584

シビニルアセチレンへの附加

C4 H4+HC 1→C4 H 5 C 1 クロロプレン 412

メタノールへの附加

CH30H+HCl→CH3Cl+HzO 塩化メチル 25

エチレγへの附加

C2H4+HC 1→C2H5 C 1 塩化エチル 566

とどまっており,今陵このま玉表2.に示すような大量の塩酸を副生する工業的反応が発展

していった場合,表3に示すような大量に塩酸を使用する工業的反応によほどの発展がな

いかぎり,副生塩酸の需給のバランスは大きくくずれてくる。

 このことは,経済的な観点から重要な問題であるのは勿論のこと,多量の副生塩酸を廃

棄することは公害の面からも許されない。

 従って・副生塩酸をいかに有効に利用,消費していくかという問題を,塩素工婁発展の

ために,真剣に検討しなければならない。

 このような要望に対処して最近開発されつLある副生塩酸の用途としては次のようなも

のが挙げられる。

 {11塩酸から塩素の回収

 副生塩酸の利用法のうちで,塩素を回収する方法にっいての開発研究が.現在もっとも

多くなされている。

 現在,世界的に塩素とカセイソーダの需要不均衡の現象があらわれており,これを是正

するためにも,有機合成化学において多丑に副生する塩酸から塩素を回収する方法が各国

で種々工業化されっ、ある。

                                  {1〕 その主な方法に,塩化水素と酸素の反応を利用して塩素を得るDeacon法 ,電気分

解により塩素を得る電解法などがある。

一4一

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 ② 塩素化に塩酸の利用

 有機化合物の塩素化に際して,塩素を直接用いないで塩酸を利用する方法である。現在

っぎの二方法が注目されている。

 その一っはオキシ塩素化,他の一っは,塩齪の直接付加の方法である。

凶金属の洗浄への利用

金屈のスケールを除去するのに塩酸が用いられる。

94}鉱石処理への利用

 低品位の鉄鉱石から塩酸により鉄を抽出し高品位の鉄粉を製造する新しい方法が開発さ

れている。また,マンガンの原鉱から金属マンガンを回収するたあに副生塩酸を利用する

方注がある。この方法では,塩酸によって抽出された塩化マンガン溶液を電解してマンガ

ソを製造している。

 ◎肥料への応用

塩酸によリリソ酸を製造する方法がIsra1匝lining Industries(1・M・1)

で開発され,わが国でも工業化されている。

 以上種々の塩酸の利用法を挙げたが,これらのうち,Deacon法,電解法等により副

生塩酸から塩索を回収して使用する方法や,塩酸を直接オキシ塩素化に使用する方法は・

経済的,技術的に問題が多く,ようやく工業化の途についたばかりであり,現在ではほと

んどすべての副生塩酸はそのままの形で種々の用途に使用されている・

 そこで.著者は,上述のような塩酸の利用法のうち,電解法によって副生塩酸から塩素

を回収する方法に着目し,現在までに考室されている種々の方法を検討し,さらにすすん

で,これらの電解法の種々の顛点を解決する,全く新しい型式の電解法の開発に成功した。

 まず,現在までに考案され,開発されっLある,電解法によって副生塩酸から塩素を回

収する主な方法にっいて概観してみよう。                                     {2} アメリカ.アラバマ州のMonsanto Chem. Co・でのde Nora式竃解榴 ・                         13}あるいは西ドイツ,Hbchst社の,いわゆるUhde槽 などに代表される塩酸の直接電

解法が良く知られている。また,槽電圧の低下をはかるために,電瓢化学反応と化学反応

とを組合せた間接庵解法が考えられている。これらの方法には,

一5一

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       2CuC I 2→2CuC 1+CI2 (電解反応)

       2C・Cl・2㏄1・%O・-2C・C1・                         ωなる一一連の反応により塩素を回収するWastovaco法 .

       NiCl2→Ni+CI3 (電解反応)

       Ni+2HCl→Nic12+H2                  151なる一連の反応によるSchroeder法

       HgC l 2→Hg+C12 (電解反応)

       H…HCl・%・・-H・C1・+且・・

なる≒連の反応によるHbchst法(6}などがある。

+H20

 さらには,もっとも新しい方法として,Wastovaco法と同様の反応型式ではあるが

粛2段の反応を,電解槽中に酸素を吹き込むことによって第1段の反応と同一電解槽中で

                            {η行なわせる方法が。山川,日根,吉沢らにより聞発されている。                              この方法は薩化電解法

とよばれ,現在多くの閾心がよせられている。

 これら従来の方注は,いずれも電解液として塩化水素の水溶液を用いており,理請的,

実際的な面において数多くの難点を含んでいる。すなわち,副反応としての,水酸イオン

の放庵による陽掻の腐食,陽極生成ガスが湿気をおびているための装置材料の腐食,陽搦

生成ガス精製の必要性,電極反応速度が小さく,過電圧が大きくなり,また,限界電流密

度も比較的小さい,等々,水溶液を用いた系においては宿命的に避け得ない数多くの難点

を含んでいる脅

 これらの難点を解決する手段として,著者は庵解浴に溶融塩を用い2水溶液系よりも高

温度な領域で電解を行なう,新しい型式の塩化水素宣解法を考輿し.研究,開発を行った。

 一般に,無機溶融塩に対する塩化水素の溶解匿はきわめて小さく、ほとんど溶解しない

といわれている。そこで,燃料電池の型式を応用して,ガス拡散型多孔性電極を用い,陰

極に直接塩化水素ガスを供給しながら電解を行なう方法を考案した・この方法にっいて,

第1編にくわしく論ずることとする。また.一方では,金属と塩化水素ガスの反応性を利

用してMe十2HC 1=MeC l 2+H2(Me:金属)なる反応式に従って生成したMeC 12

を電解することにより塩素を得,金属は循環使用するという万法を考案した。この方法に

ついては第2編に詳論する。

 従来の分類に従えぱ,前者は直接電解注の一種,後者は間接電解注の一稀といえよう。

 これらの方法によって陰極から水素,陽撞から塩素を得る方法は,水浴液系での場合に

くらべて,高温のために反応速度がいちじるしく大きくなることは勿論のこと,さらに,

陽極反応として副反応が存在しないたあ,生成塩索は乾燥してきわめて純粋な状態で得ら

一6一

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れるので,陽極,装置材料の腐食が非常に少なく,ガス精製の必要がない。など,多くの

利点をも有している。

  さらに,溶融塩中で塩化水素ガスをガス状で直接電解する方注では,水溶液系での場合

に比して分解電圧が小さいという,また,金属との反応を経る間接電解法の場合には,理

論分解電圧は若干高くなるが隔膜の必要がないという.それぞれ大きな特長を有している。

 それぞれの方法について基礎研究を行なった結果,いずれの方法についても工業化への

可能性を見出したので,工業化への錦一段階として,ペンチスケールの小規模電解槽を製

作,運転し,その作動特性にっいてくわしく検討した。それらの結果も各畿において記載

した。それぞれの結呆は,工場規模での開発研究に対する重要な基礎葺料となるものと信

ずる。

 (文  獄)

{U H.Deaco皿, U.S Patent 855ア0(1868)

{2】Oronizo de Nora, Impianti Elettrochimichi, Milano

  Italy  (1956)

131Catalogue, Uhde HCl Cell」distributed at the Ache㎜

  (1964)

{41 F.S・Low, U.S.Patent 2468.ア66 (1949)     ・

{51D.W.Schroeder, Ind。Eng.Chem, Progress Des量gn Develor

  pment,ユ,141(1962)

{61W.Teske u. H.HdIemann, Z・Eleckrochem・,坐787(1962)

{η 山川宏二,日根文男,吉沢四郎  ソーダと塩素17.89~99(1%6)

他に一般的な参考文献として.

 岡屋多津郎 ソーダと塩素 15 No・8~No・12(1964)

              ユ」乏 No,1~No・11 (1965)

              ユヱ No.1~No. 9({g66)

              ユaN・・1  (1967)

一7一

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月洲 淳

大角 泰章

吉沢四郎

ソ_ダと塩素15函。.9)599~4馨2(1962)

ソーダと塩素 12 55~ 70 (196D

      15 274~286  (1962)

      ユー三生597~415 (1963)

 ソーダ工業技術研究会資料(昭和40年 9月)

幽8一

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第1編 塩化水素の塩化物溶融塩中での

    直接電解法

第1章 緒 言

 電解浴に溶融塩を用い,水溶液系よりも高温度な領域で塩化水素を電解して,陰極から

水素,陽桓iから塩素を碍るという,新しい型式の塩化水素電解法を考案し,系統的な極討

を加えた結果.電流効率,電圧収支,電解装置の寿命などの種々のデータから9本方法が

既存の他方法と比較して非常に有利であることを確認した。

 さらに,本方注の工業化への第一段階として,ベンチスケールの小規模電解槽を製作,

運転し,その作動特性についてくわしく検肘し,次なる段階への基礎蟄料を得た。

 以下,第2章から第9章にわたって述べていきたい。

一9一

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第2章熱力学的考察

      2HCI(9) = H2(9) +CI2(9)         〔1】

なる反応式で示される,塩化水詣の水素と塩素への分解反応は9自由エネルギーの増大を

ともなうため,この分解反応を進行させるためには,なんらかの形で外部よリエネルギー

を供給しなければならない。この反応は,

  陽極反応 2C1 →C12+2e                  図

  陰極反応 2HCI+2e-→H2 +2C正一            {ヨ

なる両極反応を経由する電気化学反応,すなわち電解反応によっても進行させることがで

きる。

 自由エネルギーの変化量(4F)と理論分解電圧(E)との間には

        一」F=2Fr・E  (Fr こファラデー定数)

なる囲係式が成立する。

 種々の環境での熱力学的数値をもちいて塩化水素の理論分解電圧を計鼻すれば,表2司

のようになる。

表2-1塩化水素の理論分解電圧

 25

100

250

500

750

1,00D

    理論分解電圧(volts)

HCI㎏)一%H・㎏)・1.ちCl・㎏)

一10顧

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塩酸の理鵠分解電圧(25°C)

塩酸濃度

 (N)

0.1

1。0

5.0

HC1(・q)=ろH・@+・づC1・㎏)

 参考のために,塩酸水溶液の理諭分解電圧もあわせて示すが,この場合は,水和エネル

ーの分だけ大きな値をとっておう,この点から考えても,水溶液を用いた既存の他方法に

比べて,溶融塩を電解浴として用いた本方法の有利なことがわかる。

一11一

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第3章 本方法の可能性

 一般に,無機溶融塩に対する塩化水素の溶解歴はきわめて小さく,ほとんど溶解しない

といわれている。このような系で気体が電極反応を受けやすくするためには,気体嘲r澗体

(電極)一液体が接する,いわゆる三相界面の領域を増大させることが必要である。

 このような観点から,著者は,気体を用いた燃料電池の型式を応用して,多孔性の電摘

中に一方の側から塩化水講ガスを供給して,他方の側を電解浴に浸漬して陰翻とする,図

5-1に示すような,いわゆるガス拡散型電極を用いることにした。

電  極 !触蝶または活性点’

/酬

塩化水素ガス

図3-1

揚 勿

三相界面の襯念図

解 浴

表3-1 塩化水素、塩化リチウムおよび塩化カ

リウムの理論分解電圧  (volts)

澱(°C) HCI(気体) LiCI KCl25 0.98 一 一

100 0.99 } 一250 1.00 『 靹450 1.02 5.68 5.81

500 1.05 5.65 3.ア6

600 1.04 5.5ア 3.66800 1.06 5.46 3.』4

1,000 1.08 5.55 3.16

一12一

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 電解浴として用いる溶融塩には,熟的に安足であること,分解電圧が塩化水素のそれに

比して大きいこと・電導度が高く,粘度が低いこと,融点が比較的低く電解操作の容易な

こと・電解槽の腐食性が小さいこと,陽極反応として塩素発生反応以外の副反応が存在し

ないこと,などの諸点が要求される。

 これらの諸点を満足するものとして,塩化リチゥムー塩化カリウム混合溶融塩を用いる

ことにした。

 参考のために種々の温度における塩化水素,塩化リチウムおよび塩化カリウムの理論分

解電圧を表5-1に示す。

第1筋 塩化水素ガスの被還元性

 溶融塩化物中での塩化水素の被遣元性にっいては.白金微小電極を用いたポーラログラ

フ的研究にkり,二,三の報告がなされており中㈲白金上での被還元性がみとめられて

いるが,これらの場合には還元電流そのものの値がきわめて小さく,また,高価な白金を

用いるため,実際面への適用にっいては結論を下すことはできない。

 モこで著者は,電極として,ガス拡散型多孔性炭素電極を用い,このkうな系で実際に

塩化水素が被還元性を持つかどうか,また,工業的規模での反応として利用できるかどう

かについて,電解電流一電圧曲線を中心として検討を加えた。  ’

 勧 実 験 方 法

 図5-2に示すkうな実験用電解槽を組立て,アルゴン瓢流中で炉の温度を所定の温度

に上昇させて陵.浴に電極を浸漬した。電極に塩化水素を導入優,所定の電流で電解を行い,

電圧の定常値を記録した。電流値を次箪に増加させて電流一電圧関係を求めた。なお,導

管および電解浴のオーム損にkる電圧掴失を,シンクロスコープを用い,過渡現象を観測

することにより求めて補正を加え,正味の電解電圧を求めた。電解浴には,塩化リチウム

(58mo 1%)一塩化カリウム(42mo 1%)混合浴(組成は共融混合物に近く,融点

約552°C)を使用し,炉の温度は450°Cに保った。

 陰極には図5-5のUに多孔性炭素(日本カーボソ製ロ過板用多孔性炭素P・140,

孔の平均径60μ,気孔率50%)を炭素質導管の先端にとりつけたもの,お比び比較のた

一13・一・

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 C12   H2

 田Cl)

j

図3-2 実験用電解槽

一14め

a多子し性炭素陰極

b黒鉛陽極

c電解浴d パイレフクス製ホルダー

e磁製排気管fパイレックス製キャヲプ

聡聯雛容器

i パイレブクス製ルツボ

j電気炉

k熱電対1自動温度調筋器

m熟電対冷接点

V電位差計

A1直流電流計

B蓄電池

R抵抗A2交流電流計

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 蕊

ヨト

121

{11多孔性炭素極  ② 炭素質継手  【51炭素質導管  {41黒 鉛

51磁製絶緑保護管

図3-5  電極見取図  (単位:mm)

めに平滑自金板を用い,陽極には図5-3(右)に示す㌃うな黒鉛を使用した・

 塩化水素は,炭誰質導管を通って多孔性電極中を拡散させ,電解浴の方へ吹き出させる

方式にヒリ供給した。また,平滑白金板電極を用いた場合は,電解浴に直接塩化水素を吹

込む方式を採・た.靴隷の供給速度は,1・・m メi。脚・保痛 また,陽極で発生する塩素と,陰極で発生する水素の混合を防ぐために・図中に示した

ようなパィレ,クスガラズ製ホ〃ダーを使用し心電気炉にはのぞき窓を設けて・電解中

一15一

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の電解槽の状態を克明に観察できるようにした。

㈲ 結果おkび考察

4.0

( 50

s)

出 2.0

1.0

0

2

一●

OX

   4      6

陰極電流密度  (A/am2)

多孔性炭素電種委塩化水素通気)

多孔性炭素電極(アルゴン通気)

平滑白金板電極(塩化水素通気)

8

図3-4 種々の条件下での,電流密度と端子電圧との関係

10

 図5-4から明らかなヒうに,多孔性炭素電極を用いた場合にも還元反応がかなりの高

電流密度領域で起つていることがわかる。また,この図から,ガス拡散型多孔性炭素電甑

を用いた場合には,平滑自金板電極を用いた場合にくらぺて格段に反応速度が大きく,従

って工業的に塩化水素の陰極還元を行なう場合にはガス拡散型電極を用いることの是非必

要であることがわかる。電解浴は20時間の連続運転においても.損失その他の変化はほ

とんどみられなかウた。

一16ゆ

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第2節  電  流  効  率

 陽極,陰撞での璽極反応生成物を,陽衝側では,その特臭お夏びガスクロマトグラフィ

・一 iカラム:Hexadecane-Celite.キャリアガス:He,流速;3σm1/min,

ヵラム温度:室温)から,塩素と判定,また,陰極側では,点火試験お実びガスクロマト

グラフィー(カラム:且exadecane-Celite,キャリアガス:N2, 流速;20m1

塩。・カラム温既室温)から隷舗j乱・これ輌極反応生成物の生成電流効率を

求めた。

 計算の基準としては

   陽極麟・C「-1ろCl・+ゼ     {1・

   騒反応:HC1・・一一%H・+C「    ②

なる反応式を採用した。

lal陽極発生ガスの分析

極発

生ガ

0.1MNaOH

1

       水

図5-5 塩素捕集装置

一1アー

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 陽極から発生する塩素はアスビレータで(電解槽中の液面に注意しながら)図5-5に

示した此うな装置を用いて弱く吸引し,互の水を入れたビソを通過させておき,測定時に

はコ〃を切替えて.1の0.1M-NaOH水溶液を入れたビンで一定時間吸収させる・こ

こでは塩素ガスは

       C13+20H→C1+C10 +H20

なる反応で,Cl一とClO一になって溶解するが,C10一をCrに分解するために,こ

の吸収液に30%過酸化水素水を一定量加えて,50分間煮沸した。

 全反応としては従って,

       C互2+20H 十H202→2H20+2C1 +02↑

となる。

 次に,この溶液は冷却i麦,フェノールフタレンを指示薬として,希硝酸を用いて中和し,

さらに,0.1N-AgNO3でクロム酸カリウムを指示薬として滴定し,溶液中のCl の

量を定量した。

 {b)陰極発生ガスの分析

 陰極からは電解生成物の水累と未反応の塩化水素が得られるが,この混合ガスを約1・O

M-NaOH水溶液に吸収させ,未反応塩化水素を除いた気体の体積を測定し,この値に

1.OM-NaOH水溶液の平衡蒸気圧などの補正を加えて,水素発生量とした。

{c}結果おLび考察

陽極および陰極での電流効率を図5-6および図5一アに示す。

 図から明らかなよう」二.比較的低い電流密度では,陽極で塩素が,陰極で水素が,それ

ぞれ柏0%に近い電流効率で発生していることがわかる。

 また,高電流密慶になっても,塩素および水素発生の電流効率には大きな低下はみとあ

られなかった。

 若干みられる低下の原因としては,生成した塩素および水素の電解槽内での再結合反応

も考えられるが,装置上の不備によるガス漏れとも考えられる。

 癖実,装置の改良の結果,最近ではさらに高い効率が得られるようになってきている。

一18一

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 100

§

霞50

040       80      120      160

     電流密慶〔A∠dm2)

 図3-6 塩素発生電流効率と鷺流密度の関係

200

100

§

 50

04〔〕      80      120     160

     電流密度(ム/d㎡り

  図5-7 水素発生電流効率と躍流密度の関係

200

一19』

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第2節 塩化水素の変換率

 現段階においては9電極の構造などの都合もあって,塩化水素の供給速度と電解竃流の

間の関係を1:1に保つことはきわあて困難である。過剰の塩化水素ガスを供給しながら

電解を行なわざるを得ないロ

 塩化水素ガスの供給速度と実際に電解によって消費された塩化水素ガスの比から塩化水

素の変換率を求めると表5-2のようになる。

表5-2 塩化水素の変換率の算出

電流密麗iろ/dln2)

供給BC 1丑

Pレ価n)水素発生丑

変 換 率

@(%)

10

P00

Q00

100

P00

P00

a65叫舌mi。

u80m晦in

撃yOO  〃

 1.5

P1.6

Q4』

 塩化水素ガスの供給速度は電解電流密度の大小によらず一定とせざるを得なかった。炭

素質導管のち密なものが得られず,一般の燃料竜池で用いられているような平均孔径の小

さし㌧効率のよい電極を用いることができなかつたためである。

 従って,大電流密匿になるほど変換率は当然向上しているとはいえ,24%程度の値し

か得られていない。

 まだまだ、ガスの吹込み方式や炭素質導管,電極構造などを改良することによつて変換

率をさらに向上させていく努力は必要であろう。

第4節  電  圧  収  支

 工業電解操作の中で,電堺工程に焦点をしぼって考えた場合,もっとも重要なものは電

解槽の性能であろう。このような観点から本研究で用いた実験用電解槽を検討してみると,

その槽電圧はかなり高いものとなる。ここで,槽電圧を低下させるための考察をすすある

にあたり,まず電圧収支を求めることが先決問題であると思われる。槽電圧は大別して.

一2n一

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理論分解電圧,過電圧,オーム損などから成立っていると考えられるが,ここでは主とし

てオーム損の内訳を詳細に測定し,オーム損に起因する電圧が全体の摺電圧に対してどの

ような割合を占あるかを検討した。

4-1 実 験 方 法

9

f

h\∠

C一一 二 :

一 =

一  一 一

一■ 一 一 一陣

\b a

d

a陰 極

b陽 極

c堪解浴(Lici-RCl)d ノミイレ,クス製ルツボ

e パイレフクス製ホルダー

f陰衝り一ド

彗陽極り一ピ

h パイレ7クス製ホルダ」

図3-8 電解槽下部断面図

電解槽は,図5-8に示すような構造のものを使用し,電解の方法は従来の通りである。

電解槽各部の電気抵抗の測定には,柳本電気伝導測足装置MY-7型を使用した。

4-2 結果享δよび考察

表5-5 電解槽各部の抵抗

No。 電解槽構成部分 測定抵抗値(o㎞)

陽極+り一ド部分A極+り一ド部分z極ホルダ ーA極ホルダーd解浴本休 その他

0.10

ソ90O.68

Q.22kL10

全  抵  抗 4.0〔〕

一21一

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 竃解槽各部の抵抗の測定結果を表5-3に示す。表から明らかなように,陽極および陰

極をそれぞれ隔離しているホルダー部分の抵抗が大きい。また,電極り一ド部分の抵抗も

かなり大きい。これらの抵抗にく島べて,電解浴本体その他の抵抗はきわめて小さいこと

がわかる。

6.0

50

40

(3、0

出2.0

1.0

o

10 20   30     40     50

陰極冠流密度(1擁dm2)

60

〔n 理論分解電圧   樹

伽 両極での過電圧  {4}

          (5)

          {61

          {η

        図3-9

難灘乱}一

電解槽作動時における電EE収支

亀一Q2一

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 陰極での主反応が塩化水素の直接還元反応であるような電流密度の領域で,上記抵抗測

定結果にもとづき,電圧収支を模式的に示したのが図3-9である。オーム損の占める割

合が非常に大きいが・今後本方法を中規模実験にまで発展させた場合,陰極り一ド部分の

抵抗は陽極り一ド部分の抵抗とほぼ同程度にすることが可能であり,また,ホルダーの代

りに晦膜(あるいはスカート)を用いたり,極間距離をせばめることによって,槽電圧は

かなり砥下させ得るものと思われる。

第5節 本方法と他方法との比較

 以上に述べてきた方法による実験結果と既存の他方注との比較を,参考のために表5-

4および図5・-10に示した。

 今後,規模を大きくした場合の実験結果をまたねばならないが,契験室規模の段階では

端子電圧の点から考えてかなり有望であることがわかる。

 高電流密匿で電解槽を運転する場合にとくに有望であり,本方法の特微が顕…岩に発揮で

きることがわかる。

 すでに京都大学で山川,日根,吉沢らにより検討されている酸化餓解法13⊃と本方法とを

比較してみよう。醸化電解法では40~50へ/dm2程度までのデータしか公表されてい

表3-4 本方法と他方注との比較

方    法 電流密度(脚m2) 端子電圧(V)

本   方   法

10.0

S0.0

W0』

Q口α0

t44狽V0P.84

Q50酸 化電解 法

i京 大 法)

10』

S0』

a85P』6

de Nora槽 2{ユ0 1.80

Schrbeder法 3.0 t7

Wastovaco法 44.口 1.8

 但しβchroeder法およびWastovaco法は,全槽電圧の値である。

一25一

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4.0

乙o

5)  20出

  1.0

0

40    80      120      160

陰極電流密展(A/d皿2)

  XDeNora槽  ● 酸化篭解法(京大法)

  ○本  法 (いずれもオーム損を補正した値)

図3-10 本方法と他方法との比較

20D

ないが,この程匿の低い電流密慶では,端子電圧の面で酸化電解法の方が有望のようであ

るo

 しかし,この場合には,陰極に酸素を吹き込んで減極剤として電極反応に関与させる方

式をとっており,総反応は

       4HC 1+02==2CI2+2H20                13}

となる。従って,本方法では陰極で水素が得られるが,酸化電解法では陰極から水素を得

ることができない。

 また,本方法では2001~/dm2程度の高電流密度でも低い過電圧で電解を継続するこ

幽24一

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とができるが,酸化電解法では,100萌lm2程度の電流ですでに限界電流に達するこ

とが予想でき,これ以上の高電流密度での電解は不可能と思われる。

 第2綿で明らかにするが,液体金属陰極を用いた間接電解法と比較すれば,端子電圧の

面からのみ見れば,さらに大きな電流密度での電解においては間接法の方が有利となって

くる。

第6節  結 論

 {1)塩化水素からの塩素の回収方法として,電解浴に塩化リチウムー塩化カリウム混合

溶融塩を用い,塩化水素ガスの直接電解により,塩素と水素を得る,新しい方法の可能性

を示した。

2)本方法による,塩素および水素の発生に対する電流効皐は,2001ゾa㎡において

も80%以上であり,この値も,装置の改良により,まだまだ向上させ得るものと思われる。

 凶 供給塩化水素の,電解による水素および塩素への変換動率を算出し,200A/d㎡

で24.0%なる値を碍た。

 ㈲ 電解浴は,20時間の連続作動畿においても,損失その他の変化はほとんどみられ一

ず,半永久的に使用し裾る可能性を得た。

 個 実験用電解槽での,作動時の電圧収支を求め,スケールアップベの可能性を見出し

た。

 ㈲ 既存の他方法と比較し,本方法の右利さを確認した。

 c文   献)

{11R.G・Verdieck,レF.Yntema, J.phys・Chemり坐544(1942)

{2}H・A・固ti….J・El・・t…h・m.s・e,1坐516(1957)

{3}第1章引用文献{7}参照

一25一

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第4章電解浴の検討*

 第5章において、塩化水素を電解して塩素を回収する際に,電解浴として溶融塩を用い

る新しい方法,…・・…・塩化水素ガスの直接亀解…… の可能性を示し,分解電圧・電流

効率などを検討して,本方法が工業的方法としてきわめて有望であるとの結論を示した。

この場合,勉解浴としては,塩化リチウムー塩化カリウム混合溶融塩のみに限定して検討

を加えた。この浴は,前章に記したような種々の長所を有するものであるが,必ずしも本

法における最適の電解浴と断言することはできない。広い視野から本法に採用すべき電解

浴を検討することは決して無駄ではないと思われる。すなわち,塩化水素を多量に溶存さ

せ得る浴がないかどうか,電極反応に対してすぐれた融媒的作用を示す浴がないかどうか,

電解作動温度はもっと低くならないかどうか,副反応の,装置や操作におよぼす悪影響は

どうカ㍉もっと低廉な浴はないか,などなど,検討すべき因子がまだまだ多く残っている。

 本章においては,これらの諸因子に留意しながら,種々の溶融塩について,その電解浴

としての可能性を検討した結果について述ぺる。この際.各極無機溶融塩の他にD塩化水

素を浴中に多量に溶存せしめ綿るものとして,有機溶媒を用いた場合についての二,三の

検酎結果もあわせて述べる。

第1節 有機溶媒を用いた場合の検討

 一般に,無機溶融塩に対する塩化水素の溶解度はきわあて小さく,ほとんど溶解しない

といわれており,この意味で,前童におけるガス拡散型電極を用いた直接爾解法の重要性

がみとめられるのであるが,溶解度の大きな浴を用いれば,必ずしもガス拡散型電極を用

いる必要はないであろう。電解操作もきわめて容易になるであろう。

 このような観点から,電解浴として有機化合物の塩酸塩を用いる方法に蒲目した。すな

わち,塩酸塩の形で浴中に塩化水素を分散せしめるのである。

寧吉沢四郎,竹原善一郎,伊藤靖彦,岡 駒吉・電気化学 55 792(1967)

                  -26一

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本章では・メタノ軸〃一塩酸アニリンー塩化水累系,ジメチルホノレムアミドー塩酸アニ

リソー塩化水素系,塩酸ピリジンー塩化永素系の検討を行なうた結果について述べる。

 1-1 実  験  方  法

 {11試     薬

 メタノール,塩酸アニリン,ジメチルホルムアミド(以下DMFと略す),ピリジソ,ベ

ソゼンは,いずれも市販の特級試薬または一級試薬を用いた。

 塩酸ピリジンはビリジンのベンゼン溶液に塩化水素ガスを吹き込んで合成し,この粗生

物(文献m.P 1445・clll)頓空デシケー舛で24時間轍し,織れる緻ビリ

ジンの白色結晶に塩化水素ガスを吹き込むと,発熱反応で淡黄色の液体が生成する・この

物質は50°Cなる融点を持ち,1モルのピリジンに対して2モルの塩化水素を付加してい

         11)るといわれている。

② 装 置

 

e

/d

a黒鉛陽極(50cm2)

b炭素極(陰極),先端部は

 多孔性炭素

c塩化水素ガヌ導入口

d陰極発生ガス取出ロ

e陽極発生ガス取出口

f温 度 計

9電解槽(ガラス)

h陰極ホルダー(ガラス)

i電 解 浴

図4・1 電解槽断面図

一27一

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 図4-1に示した電解槽を油浴中に浸して,所定の温度に保ウた。塩化水素ガスは市販

の塩化水素ボンペより,流量計を通して,bの炭素質導管入口より導入し,多孔性炭素電

極中を拡散させ,浴中に吹き出させる方式を採った。

 1-2 結果および考察

 メタノールー塩酸アニリソ義HC1系,DMF一塩酸アニリンーHCI系,(塩酸ピリジ

ン+HCI)-HCl系の三っの非水系の他に,比較のために1規定塩酸水溶液を同一の亀

解装置で電解し,得られた電解電流と電解電圧の関係を一括して図4-2に示す。

40

5D

s)  20田

  1.0

0

            5B

      陰極電流密度(A/dm2)

a 1規定塩酸水溶液(50°C)

b (塩酸ピリジン+HC 1)-HC 1系(100°C)

cメタノールー塩酸ア昌リンーHCI系(30°C)

dLMF一塩酸アニリンーHC1系(80°C)

 図4。2 種々の溶媒を用いての.㎎流一鍵圧特性

10.0

一28一

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 図4-2から明らかなように,水溶液系に比して,有機溶媒系では・電解時の分極が非

常に大きい。これは主として竃解液の抵抗にもとつくものである。

 電解生成物については,電解中に陰極,陽極ともに気休の発生が観察され,特に陰極で

は電流の増加と共にさかんな気体の発生がみられた。陰極から発生する気体は水素である

と思われるが,陽極から発生する気休については,lalの場合を除き,lhi,〔d,価では塩素

であることを確認できなかつた。電解を,それぞれ最大毎流で1~3時間行なったときで

さえ,塩素を検出することはできなかった。

従・て,陽極ではcf-%Cl・+・『の反応・・起・ず.あ…は起。て・・ても,有

機物の溶媒が塩素と反応してしまうのではないかと思われる。このことは,電解前に無色

であった電解液が,終了後にはかなり着色していることなどからも推測される。なお,電

解終了礎の浴の分析は行なわなかった。

 上記の系のうち,特に塩酸ピリジンー塩化水素系にっいては,比電導度が測足されてお

り,fOO℃でのこの系の雌鞭は0,12。hm-1。ガ1である.この値1ま織溶融

塩砒電鞭にく・べれば約1 mで・・あ・赫瀦系砒這畷とほ胴じ敬であ・

ことからかなりの結果が期待されたのであるが,先に示したように,好詰果は得られなか

った。四級アンモニウム塩は→没に求核置換反応を受けやすいといわれており{21,満足す

べき結果の得られなかった一因であろうと思われる。

 これらの系の他に,低級脂肪族アミンの塩酸塩なども考えられるが,いずれにしても,

溶媒自身が電極反応を受けるおそれのあることや,亀導度がきわあて小さいことなどの点

を考えると,有磯物の系は塩化7k素電解の電解浴としては不適当であるといえるだろう。

第2節 無機溶融塩を用いた場合の検討

 塩化リチウムー塩化カリウム系にかわる電解浴として,浴成分の解媒能,浴の安定性,

電解操作を容易にするための低温浴の探索などの点を中心に,種々検討を加えた。

 具休的には,HCl-ZnCl:系,NaC1-Kq-ZnCl2系,AICl3-NaCl系,

CaC l 2-NaC1系,およびCuC12-KCl系にっいて,主として電流己電圧特性と,

陰極での塩化水素の還元反応を確認する意味で,水素の検出の二点につき検討を加えたb

 実験装置は前章のものとほぼ同様であり,陰極には日本カーボン製多孔性炭素(P150.

一29一

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孔の平均径塘μ,興孔峯50%)づを陽極にはダヲプアイ}{日本謝一ボγ襲濃融慶瑠摺

グラファイ})を鋳需した。

£”奪 Al£も禰製aO蚕系

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6B

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    50       ゴBO       15{〕      2{鴻

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   覇盛韮c1呂一短ac垂系僕灘値}

   b  伺   上   財一ム損補正㈲

   C L毘1一颪コ系   く君一ム螺概殖)

慰4-5 A孟c暑雲一葱aα系{260鋸c)での電流・一電班特性

 電解伶動磁を抵くLて罪操作を客易にする北あには.【氏温で溶融する堪が必暴である璋

まず。融点の低い逓鵜魏 届伽翻鰐一}q菰コ照7m口且嚇混霊蓑藩鵬紅ついて検

討し蔦特籔試薬を上記の徹で混倉した径加駈下江溶融し}溶1謹後は常圧鵬もどして塾

夢の鑑匿を200鵠に保って.電解を行なう惣

 園4一韮の曲擦轟齢よび¢の此鞍3二尋,朋らかなように睦ζの茅ではL鵜三一猛ぐ韮系に珪L

一蕊葺鞘

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て,低い電解電流値で,すでに端子電圧はかなり高い値を示すことがわかる。

 この差異は、主とLて温度の相違によるものであろう。陰極からの電解生成物として水

素を検出し,塩化水素の還元反応を確認した。従って塩化水素の竃解はこの浴を使用して

も可能であるとみなすことができるが,電極反応の詳細にっいては現在のところ不明であ

る。

 この電解浴は,陽極黒鉛をはげしく腐食し,また,浴の蒸気圧が高いため,高温で用い

る場合,浴の減少がいちじるし・いことなどの難点をもっており,実際面への適用には大き

な問阻点があると思われる。

 2-2 KC I-ZnC l£系

 電解操作を長期にわたって継続するには,熱的に安定な塩でなければならない。熱的に

安定で,しかも低融点を持つ塩として,HC l(46mo 1%)-ZnC 12 (54皿01%)

の混合溶融塩をえらび,検討を加えた。この粗成の塩の融点は228°Cである。

  3.0

峯2・罫

因  1.0

0

   20      40      60       80      100

     陰極電流密慶(脚m2)

図4-4 KCI・-ZnCl1系の亀流一電圧特性(450°C)

一51一

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 図4-4に,450°cで電解を行なった場合の電流。電圧特性を示す。LiCレ・KCl

系での電流一電圧特性とほとんど髄がなく、塩化水素の直接電解反応が主反応であろう

と思われる,

20

  1.6(

田  「.2

o

 300        5ア5        450

   温   度   (°C)

a,陰極窺流密度 20A/dm2

b.陰極電流密度1004〆〈dm2

  図4-5 端子電圧の,温度による変化

(K〔)1(46mo 1%)-ZnCI2(54mo l恥)系)

 また,図4-5に,一定電流で電解時の,端子電圧の温度による変化を示したが,いずれ

の場合にも陰極生成物として水素.曹陽極生成物として塩素を確認した。

 なお,500。C,375°Cでの電解の際,陰極部に亜鉛の析出がみとめられ・また端子

電圧の電流値に対する依存性がきわめて小さいところから,亜鉛の電解析出反応と,それ

にっつく亜鉛と塩化水素との化学的反応による水素の発生というような一連の反応が主反

応となっているものと思われる。

一52一

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 450°Cでは,塩化水累の直接陰極遺元反応がかなりの速度で進行しているように思わ

れる。

 いずれにせよ・大電流領域では,直接電解反応自休の分極が大きくなり間接的な塩化水

素の還元反応が主反応となろう。

 2-3 NaCI-KC 1噌ZnC】2系

 2-2と同様な観点から、浴組成としてNaC 1(20mo I%)-KC l(20mo l%)-

ZnC l 2 (60mo 1%)なる混合溶融塩を用いて検討を行なった。

 この塩の融点は2030Cである。

 図4-6に,450°Cでの電流一電圧特性を示す。この場合もやはり,Lic1-1{C1

系での電流一電圧特性とほとんど相違がなく,塩化水素の直接電解反応が主反応であろう。

 図4-7に,一定電流で電解時の,端子電圧の温度による変化を示す。

 2-2と全く同様に,450°Cでは,陰極生成物として水素を,陽極生成物として塩素を

確認したが,250°C,550°Cでは,亜鉛の電解析出反応を経た間接的塩化水素遣元反

応の傾向が強い。

5.o

固 2」〕

1

5田 1.0

0

     20       40      60      80

         陰極電流密度(!ゾam2)

図4-6 NaCl-KC1-ZnCI2系の電流一雷圧特性(450℃)

一35一

100

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(ゆ

。下

      250

         温

   a・陰極電流密度

   b・陰極爾流密匿

  1

 350      450

度  (℃)

20yヒm2     ・8叫∠dm2

      図4一フ 端子電圧の,温度による変化

(NaC1(20mo 1%)-KCl(20mo童%)-ZnC 12(60mol%))

 2-4 CaC l 2-NaCI系

 LiC1韻Kq系にくらべて低廉な電解浴として,CaCl2(46moI%)-NaC1(54

mO 1%)なる組成の浴を選び,験討した。

 炉の温度を60D°Cに保ち,アルゴン通気下,および塩化水素通気下につき,電解を行

なつた。

 褐られた電流一電圧特性を図4-8に示す。参考のために,前章でのLid-KC1系

(500°C)での電流一電圧特性を併せて示した。図4-8において,アルゴン通気下,

すなわち塩化水素を吹き込まない場合㈲と,塩素水素を吹き込んだ場合〔b}を比較すると,

後者の方が端子電圧の低いことがわかる。このことから,塩化水素が電極反応に関与して

いることがわかる。

 アルゴソ通気下では,低い電解亀流値で(0.1~04A)すでに金属の析出によるものと

一5遮一

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思われる浴の黒慶現象が観察された。

40

3.o

)20

輯 1.o

0

  40       80      120     160

      陰極電流密度(ル石d血2)

a.アルゴン通気下

b.塩化水素通気下

c・Lic1-KCl系,塩化水素通気下(450°C)

  G・ずれもオーム損補正値)

図4-8 CaCl2-NaC i系(600°C)での電流一電圧特性

200

 塩化水素を吹き込んだ場合の電流一電圧特性は,図4-8{N,{dから明らかなように,低

電流密度領域ではLiCI-KCユ系でのものとほぼ同様である。陰極部からは,低い電解電

流値の領域で(0、6~aBA以下〕水素を検出した。これより高い電解電流頗域では水素は

ほとんど検出できず,陰極付近で浴の黒変が観察され,更に電流を増加させると,ついに

は浴全体が黒色に変じた。しかしこの場合,堀流を切断後,塩化水素を多量に,しかも長

時間通気することにより,浴はほとんどもとの無色の状態にもどることが観察された。

 析出した金属が塩化水素と純化学的に反応して,もとの塩化物にもどり,その際水素ガス

一55一

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を発生するものと思われるが,第6章で述べるように,リチウムと塩化水素の反応はかな

り速いのに反しこの場合には反応速度がリチウムと塩化水素の反応などとくらべるときわ

めて遅く,そのために大電流領域においての多量の水素発生がみとめられなかったのであ

ろう。

 2-5CuC12-KC I系

 種々の原子価をとり得る重金属を含んだ浴は,電極反応に対して触媒的性質を示す可能

性があり,検討の対象となり循る。一例として,CuC 1: (40mo I%)-KC l(60

mo 1%)の組成の電解浴を検討した。

 塩化水素を通気しながら電解を行ない,測定された電解電流と電解電圧の関係を表4q1

に示す。表から明らかなように,抵抗成分にもとつくオーム損を補正すれば,端子電圧が

ほとんど0.となる。

表4-1 CuC 12層KC 1系(500°C)

    での,電解電流と電圧の関係、

端子電圧 (V.)陰極電流密屋

Hm2)測 定 値 オーム損

竦ウ 値10Q0S0W0

0.01

O.60

Q00T70

0.0

O.0

O.O

従・て,演1」定電流服鯛では陰極ではC誰・♂-C。+なる反応が,騎では

C・+-C誰・晩る反応がきわめて低・、過電圧で起。ているのではないかと思わ

れる。

 他の重金属塩化物浴の場合にも,CuC l 2 -KC i系と同様な結果が予測でき得るで

あろう。

一56一

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第5節  結 論

 第5章で示した,塩化水素を電解して塩素と水素を得る方法における,Lic1-KC1系

以外の電解浴の可能性を検討し,以下の結論を得た。

 憎 有機溶媒は不適当である。

 ② 種々の原子価をとり得るような重金属の塩化物を多歴に含む電解浴は不適当と思わ

れる。

 β)AICI3-NaCl系では,一応電解は可能であるが,浴の蒸気圧が高く,躍極の腐

食もはげしくて,取扱い操作が困難である。

 ㈱ CaC l 2-NaC l系,KC 1-ZnC12系,NaC 1-KC 1-Z且C12系は.いず

れも電解浴として用いることが可能で,取扱い操作も比較的容易である。

 6}CaC I 2-NaC l系,KC I-ZnC 12系,NaCI-KC I-ZnC12系での塩化

水素ガスの直接電解反応は,400°C以上の温度領域を必要とするようである。

 〔6〕KC1-ZnC12系,NaCl-KCl-ZnC I 2系の場合9500°C程屋以下の電

解では,Zロの析出と,それにっつくZnとHCIの化学反応という.間接的な塩化水素の

電解還元が起っているように思われる。

 (文  献)

ωM・G・Goffman&G.W.Harrington, J・phys.Chem,6ア1877

  (1963)

12}R・E・Lyle, C&EN・、 Jan.10,72(1966)

一57一

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第5章 陰極澄よび陽極の挙動*

 前章までに,溶融塩を用いた塩化永素の直接電解の可能性を示し,種々の電解浴につい

て検討を加えてきた。

 本章においては.塩化リチウムー塩化カリウム系電解浴を用いた場合について,電解時

の陰橦および陽極の挙動を,平衡電位の測定.カレントインタラブタやシンクロスコープ

を用いた電極反応過渥現象の観察などから検討L,両極での反応型式の推測ゴ両極での過

電圧の分離測定を行なった結果について報告する。

第1節  実  験  方  法

 図5一てのような装置を用いて実験を行なつた。鴛解浴には,塩化リチウム(58mo 1

%)一塩化カリウム(42moI%)混合溶融塩を用い,炉の温度は450°Cに保った。

塩化水素極(陰極)および塩素照合電極に用いるガス拡散型電極には量日本カーボン製

多孔性炭素(P・150,前出)あるいはこれを黒鉛化したものを用いた。

 なお,平衡電位(または浸澗電位)の測定は精密蔽ポテンシ靴メータで行ない,電極

反応の過渡現象は.カレントインタラプタ(木村電子試作1号)およびシンクロスコー

プ儲崎通信箴DS 5015}を併置した装置で追跡し,写真撮影により記録した。

*吉沢四郎.竹原善一郎・伊藤靖彦・岡和吉, 電気化学 36 156(1968)

・-T8一

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n

§

h

j

e

9

f

0

n

図5-1 装置断面図

k

1

m

A

一59一

a.黒鉛陽極b.照合電極c.陰  極

d,電解浴e.パイレプクス・ルツボ

f.黒鉛導管9・パイレフクス・ホルダー

h.塩素排出口i・パイレプクス・キャップ

j・ パイしノソクニス.容器

k.熱電対保護管

1・熱電対冷接点

m・自動温度調節器

n・電舞炉O.耐無レンガ

P・磁製絶緑管

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            第2節・結果および考察

 2-1 塩素極の平衡竃位

 黒鉛棒を用いて陽極反応により塩素ガスを得る際の電位決定反応を確認する目的で,多

孔性黒鉛質電撞に塩素ガスを種々の分圧で通気し,その際示す電極電位を塩素照合電極

(多孔性炭素質電極)を基準にして測定した。塩素分圧を変化せしめる場合の希釈ガスに

は3アルゴン,窒素,塩化水素を用いたが,いずれのガスを用いたときも電極電位の測定

値は同一であった。

 図5-2に塩素分圧と平衡電位の関係を示す。

    0

丹唱0.02

ぐ匝

 一〇工図

一〇.06

     騨1・0                      幽α5                       〔LO

                1・gPCh(気圧)

            図5--2 塩素極電位と塩素分圧の関係

麟分圧職少ととも蝿伽筋向i・移行し,その関係は塩無舗耀靴した

      告Cl・+・㌔C1一     ㈲

なる反応に対するネルソストの関係式

一40一

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・≒讐げCl,

をほぼ溝足してる.

 ここで,Eは塩素照合電極を基準にして測定した電極電位,R:気体定数,T:絶対温

度,Fr:ファラデー足数,PCl2は塩素分圧である。

 従って,黒鉛上では、ω式で示された反応によって決定される平衡電位が存在する。

 2-2 塩化水素極の平衡電位

塩化リチウムー塩化力助ム混舗融塩系’・おいて,白金板上mで,あるい}よ炭素上に

触媒として白金を添加した電極上{2〕で

      HC1・・一=去H・+C「     謝

なる平衡の成立していることは,すでに二,三の研究肴によって報告されている。

 しかしながら.炭素のみからなる電極上においてもこの平衡が成立するかどうかは,今

までに報告された例をみない。

 塩化水素ガスと水素ガスとを適当な分圧比に殺足し,比較的安定な電位を示したときの

測定値を塩素照合電極を基準にして求めたのが図5-5である。

 今,働式に示した反応に対して平衡が成立するものとすれば,塩素極を基準にして測定

した陰極電位は,ネルンストの式

               RT  暗Cl

        E=EO+-In-               2F  積,

を満足し・陰極電位と109」ρ2HC 1/多  の間に直線関係が成立して・しかもモの直

線の勾配は,450°Cにおいて 75m¥/decade となるはずである。しかるに,測定

定結果は.このような関係を満足しない。

 しかし。電極電位が塩化水素ガスと水素ガスの分臣の関係にかなりの応答性を示してい

ることから,塩化水素が陰極遺元反応を受けて水素ガスの発生する場合,電極1E位を決定

しているのは,【2}式に示した

       HCI+・一一去H・÷C亘一

なる反応ではあるが,この反応の可逆性がとぼしく,従って静止電位と分圧の間にネルン

ストの関係が成立たないものと考えられる。

一41一

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この傾向は,水素分圧の小さい顔域において特にいちじるしい。

・- kOO

9藝

遭一・05

一LlO

一ao 一ao             -LO

   -IogPH諺/つP2HC1

(実線;実測値,鎖線;理論値)

且o

図5-5 塩化水素極電位と塩化水素分圧

 水素ガスから塩化水素ガスへの陽極反応が白金触媒の存在しない場合には進行しにくい

ため,種々の不純物の妨害を受けやすいことが最も大きな原因であろうと思われる。

 上記推論をさらに確めるため,同じ電極に水素ガスのみを通気し,腫々の電流密度で陽

分極させて,その際の電極電位を塩素照合電掩を基準にして測定し,電極電位と電流密廣

の関係を求めた。その結果を図5卿4に示す。

 また,参考のために,この電種に塩化水素ガスのみを通気しながら,同様な方法で求め

た塩化水素還元反応時の電極電位と電流密度の関係の一朝を併せて示した。

 炭素上では水素の陽極反応のきわめて起りにくいことがわかる。白金上では水素の陽極

反応もきわあて容易に進行し,従ウてネルンストの関係式が満足されるのであろうと思わ

一42一

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れる。

0

9ぜ

ぐロ ー1.0

一20

10     20     50

    電流密度(A/dm2)

 a・H2極の陽分極特性

 b.HCl極の陰分極特性

c点線は白金触媒添加時)

40

図5-4 水素極および塩化水素極の分極特性

 2-5陽極の挙動 実験用塩化水素電解槽の電圧収支については第5章,第4節ですでに述べた。しかし,

その際の過電圧の実測値は両極での過電圧の和で示しD個々の極での過電圧についてはく

わしく述ぺることをしなかった。Lかし,今陵の本電解槽の聞発において,個々の電極で

の過亀圧を分離測定して,過電圧の成因を究明し,過電圧低減の方策を立てることが必要

である。このような観点から,まず陽極の挙動について検肘を加えた。

 カレントインクラプタを用いて一定電流値で電解を継続しつつ,周期的に微少時間,こ

の電流を切断し,このときの陽極の示す電位変化をシソクロスコープで観測し,写真撮影

一一S5一

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   桟軸 25μseg命iv   縦軸 50m卯iv    400mA,電極面積約1.5 cm2

図5-5 塩素極開路直僕の電極電位の時間的変化

   横軸 1secゾ宅iv   縦軸 50mv41iv    400mへg電極面積約1.5 cm2

図5-6 塩素極閉路直畿の竃極電位の時間的変化

山44一

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によf)雪己脅した。

得られた写男の一例を図5-5に示す。また.図5-6には.インタラプタを用いずに

電解電流通電直後の電鐘電位の ・砂のオーダーでの変化をvyクロスコープで戦利 ,記魚

した写真の一例を示す0

回5-5から.唱極の接触芭坑や浴酋抗などによる電圧損失 (以下オーム損という)杏

分離測定することができる。すなわち ,電流切断竜後の非常に雇い変化がこれに相当する。

また,電子授受過程の遅れによる過電圧というものはほとんど存在していないようT・あ

る。すなわち,電子凝受反応が起ると考えられる10--6秒のオーダーでは顎蛙変化′;:きわ

めて小さい。

吸着過程をも含めた物質移動の遅れによる過電圧は存在するようで ,閉路直後の過荘現

象において,秒のオ-ダーの比較的ゆるやかが 昆位変化が若干観軌できる。 (tg]5-占)

(A

.卦輔増血

寛解琶

壁控

0.2 0.4

電 流 (A)(碍樋両村 約 1.5cm壬)

a.オーム規を含む b.オーム損を除 (

凶 5-7 塩票樋の唱統一電位特性

-45-

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nU

(A)再

y

IjE

02 0.4

電 流 (A)

(喝趨面梓 約1.5cm2)

図5-8 塩 素壇 で の オーム嶺

0.d

種々の電解電妃において降壇の示す電位を囲5-7に示す。また ,電流切断直後の非常

に速い電位変化がオーム掛 こよるものであることのうらづけとして ,種々の電流での確解

の際の .電流値と非常に速い電位変化部分との関係を図5-8に示した。電流と電位変化

の間に直線細係が成立し.この部分の変化がオーム抱によるものであることをうらづけて

いる。この直線の勾配より計拝した全也抗成分として0.4オームなる値が得られた。

図5-7曲膚bかF'明らかなように,塩素発生反応に対する過電圧は比故的小さい.従

って現段階においては,限瞳の過電圧はさほど大きな問悟とはならないように思われる。

2-4 陰 極 の 挙 動

防腐での場合と全く同様な方法で判定を行なった.塩化水素ガスの喝極への供給適齢 ま

100mi/minに設定した。

得られた写真の一例を図5-9.5-18に示すが )陰瞳では陽極の場か こ比べてかな

り大きな過電圧がみとめられ ■これも主として陽極での墳合と同様に.吸着過程なども含

めた物質移動過程の遅れに超Elするものであろう。

また.種々の電解電流において陰極の示す電位を図5111に.その際のオーム規を図5-12

-4古-

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       横軸  25μse(レ/aiv

       縦軸05脚iv       400mA,電極面積約1.5c皿2

図5-9 塩化水素極開路直俵の,電極電位の時間的変化

       横軸1secソ砲iv       縦軸 a5Vゾ伺iv       400mA.電極面積約1.5c皿2

図5-10 塩化水素極閉路直暖の.電極電位の時間的変化

一47一

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0

  一1.o

4ロ ー20匪蘇醤

鯉 一5.0

一4.0

  02        〔L4        0.6

電流 (A)  (電極面積約1.5cm2)a.オーム損を含む   b.オーム損を除く

 図5-i1 塩化水素極の電流一電位特性

1.5

1.o

  0ε

0

  02        且4        α6

電流(A) (電極面梗約1.5cm2) 図5-12 塩化水素極のオーム損

一48F

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に示すが,結局,電解時にあらわれる過電圧の大部分は陰極反応の遅れにもとつくもので

あることがわかる。

 従って,今礎電解槽電圧の低下を目標に研究をすすめていくに際しては,オーム損の減

少を樽かること~は別個に,陰極における過電圧の究明を重点的に行なうべきである。

            第3節  結       論

 塩化リチゥムー塩化カリゥム混合溶融塩を用いた塩化水素直接電解法においてD両極で

の挙動を個々に分離して検討し,以下の結果を得た。

 {11陽極での電位決足反応は

      2C1- ==Cl2 + 2e一

であり,この反応は可逆的で、電極電位と塩素分圧との間ではネルンストの関係が満足さ

れる。

 ② 陰極での電位決足反応は

      HCI・♂=去H・+Cl一

であるが,この反応は可逆性にとぼしく,塩化水素と水素の間の分圧の闘係の変化に際し

て,陰極電位はネルyストの式に従った応答を示・さない。

 ㈲ 陽翻での塩素発生反応の過電圧は非常に小さく,現段階においては大きな問題には

ならない。

 ゆ 陰極での塩化水素還元反応の過電圧は比較的大きく,主として吸萢過程をも含めた

物質移動過程の遅れに起因するものであり,その究明が必要である。

 (文   献)

田 H.A.Laitinen and J・A.Plambeck, J・Am・Chem・Socり

  里,1202(1965)

個 吉沢四郎.竹原善一郎・中西洋一 . 電気化学 55 225(196刀

一49一

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                    ゆ第6章 陰極での二・三の現象

 前章までの一違の研究において,陰極反応をいますこし詳細に検肘すべきであるとの結

論に達した。

 本章では,陰極での反応を重点的に研究して,陰極反応における主反応と副反応の果す

役割,電極性能の経時変化,最大許容電解電流〔Imax〕なる表示・あるいは陰極体捜当

りの電流〔体積電流密度(晒m8)〕なる概念などにっいて現象論的に述べる。

第1節  実  験  方  法

 実験装置および電解の方法は従来の通りである。陰極のみの挙動を検討するには、もち

ろん照合電極を用いるのが望ましいのであるが,第5章でも明らかにしたように,塩累発

生極(陽極)における過電圧が非常に小さく,また定常状態での測定値の再現性もきわめ

て良好であるので,本章で述ぺる実験では,測定値としてすべて端子冠圧の値を採用した。

 測定値の間に見られる差違は,第5章の結果からも明らかなように陰極の特性の差達に

もとつくものである。

第2節 結果および考察

 2・-1 電掻性能の経時変化

 電流一電圧特性を詳細かつ綿密に親察してみると.測定電流密慶領域を200A/缶㎡

にまで拡張した場合,繰返し実験により竃流一竃圧特性が次第に悪くなり,ついにはある

定常値に達することがわかる。

 この変化の一例を,5mm厚の多孔性炭素電極を用いた場合について,図6-1に示す。

* 吉沢四郎,竹原浄一郎g伊藤靖彦,岡和吉, 電気化学 56 315(1968)

一50一

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5,0

5 20)

軽  1.O

0

            50               100

       電流密度(彰am2)

a・第1回目の測定値

b・20叫/a皿2で分極した優の電極を用いて得られる測定値

図6畠1 電極性能の劣化

 曲練〔b},は定常値に達したときの特性を示す。

 しかしながらこの場合,1001凶m2以上には電流密度:をあげないでおくと,躁り返し

の回数によらずに,高性能を保持したまま,きわめて良い再現性を示す。

 この状況を図6-2に示す。

 図6-2で実怨で示した曲線は,矢印の方向に電流を増大させていった場合の測定結果

である。電流密匿が100脚m2に達したところで4時間電解し,その後電流を矢印の

方向に次第に識少させていき,点敵で示した曲練を得た。なお,この測定における全所要

時間は8時間であった。

 このような磧域での電圧の経時変化はほとんどみとめられず,また,電極の消耗も肉眼

ではほとんど観察されない程度であり,長時間にわたる連號運転の可能性も充分期待され

一51一

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5.0

(  2{〕5)

解  、

輯  1・0

0

           50               100

     電流密慶(A/idm2)

図6-2 電解電流100A/dm2以下での測定値の再現性

るものと思われる。

 いったん電流密慶を上げすぎると(たとえば200A/dm2)。図6-1にみられるように

不可逆的な性能劣化がみられる。

 このような現象の生じる原因としては

lIl リチウムの析出反応による電極の劣化

艇}電極の電解浴による濡れ

但1炭素衷面の状怨の変化

などが考えられ,これらが複雑に関連しあっているものと思われる。

 mなる現象は。ポーラログラフィーの残余電流の一原因として考えられているような,

リチウムのPre-depositiouが起り,これにより炭素が化学的に侵蝕され,同時に

多孔性炭素の構造が変化するために生ずると考えられる。

一52一

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 このことは,性能の劣化した電極を,実験後詳細に観察してみると,多孔性炭素がかな

りもろくなっていることからもわかる。

 佃なる現象は一般のガス拡散型電極の場合と同様に電極の電解浴による濡れ現象によウ

て電極内での気体一液体一固体三相界面の形成が妨げられ葺その結果電極反応有効面積が

識少するたあに生ずると考えられる。

 ㎝】にっいては,繰り返し実験により特性の悪くなつた電極を実験終了酸,水洗,乾燥し

数日間放置した陵に使用すると特性の回復がみとめられたことより推測される。この状況

の一例を図6-5に示す。しかしながら,炭素表面の状態の変化の原因等については現在

のところ明らかではない。

3.0

≦ 20)

鰻  1・0

o

             50

        電流密度(卵m2)

a・200A/dm2で分極した匿の電橿を水洗,乾燥後再使用し

  たとき。

b.200A/dm2で分極した暖の電極を使用したとき。

   図6-5種々の竃極条件での,電流一電圧特性

100

一55一

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2-2 最大杵答電辞電流 〔hax〕

ェ兼的見地からすれば.端子電圧の底下への努力は宿命的な許宙であり,その意味から

すれば,ほとんど射 ヒ水素ガスの直蕃電解還元反応のみが起っていると考えられる・囲占

_1の曲虐aでの南畝 こおいて電解を行なうのが最も望まし(.この領域の拡弓削ここそ研

究の主力をそそ{べきであろう.しかしながら,墳鮭的な日掛 まそこにあるにせよ,ある

軽度性能の劣化した電極での陰癌反応を詳鰍 こ検討しておくことが必要と思われる。この

ことは,将来の研究に対する指針を与えると同時にl本法での可能性の限界を明確にする

という点でも,きわめて有意義であると考えられる4

さて.電解電流借を増大させてい.'た場合,ある喝流値以上になると多量のリチウムの

析出が与とめられ ,電解浴の顕著な黒変がみられる。

この境か,析出したリチウムが陰極垂内に粒子として懸濁し.あるいは金属霧として帯

解するために,陰摘室内の確解掛 ま電子伝導性を持つようにな(),その結果みかけの珪抗

がかなり載少するが .電解電流を切断してから敷分間塩化水-Xガスを供給しっづけると,

再び抵抗値は増大してもとの値にもどる。

10 80

電 流 笥 度 (4/dm Z )

図占14 電托密度とオーム境坑の館侠

ー54-

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すなわち,

Li・耽1=参H,+Lic1 11}

なる反応により,リチウムが消置されるものと考えられる。参考のために、電解電流切断

直匿の抵抗を各電流密度につき測定した結果を図6-4に示す。40卵㎡程度以上の

電流密度になると抵抗成分の減少がみとめられる。

 リチウム析出は竃極性能劣化の最大原因であり,また,電解槽の摘傷や電流劫率の低下

にもつながるので,極力避けなければならない。しかしながら.これが浴中に均一に溶解

もしくは分散している程度では,浴の電子伝導性については影響を示すが,電極の破損や

電解槽の損働はかなり長時間(約10時間)の電解においてもほとんどみとめられず,長

時間の電解にも十分耐え得ることがわかった。

 ところが,電解浴が短時間(5~10分)のうちに顕藩に黒変するような電流値にまで

電流を増大すると,電極の破損がみとめられるようになった。従って,この電流値をこえ

た電解操業は行なえない。この覧流値をもって最大許容電解竃流〔Ihla x〕なるものを定

義する。

 いま,ガス状塩化水素が電極表面を洗い,浴中にも吹き出しているような状態を保つと,

このImaxはかなり大きくすることができる。困このことからも,副反応の結果析出した

リチウムが,ガス状塩化水素と純化学的に反応して,塩化リチゥムと水素になるq)式で示

した反応の起っていることが推定される。

 Imax}は当然のことながら供給塩化水素ガスの単位時間当りの流量に関係し,流量の増

加とともにいちじるしいのびを示すが,ある程度以上の流駐では,もはや流皿によらず一

定値を保つようになり,それ以上ののびを示さない。この状況を図6-5に示す。

 電解を行なう際,Ifna xの80%坦下の電流密度で行なえば,連続20時間の通電におい

ても何ら電極の掴傷はみとめられなかった。

 一方・Imax近傍の電流で電解を行なりた場合には,電極が一部崩壊するが,この崩壊

する個所は,必ず尖った部分である。この部分ではエプジ効果によって電流密度が局所的

に高くなっているために,電圧の局所的な増大が起り,リチウムの析出が促進されている

爾 この場合,電流一電圧特性そのものは流量によってほとんど変化しない.

一一 T5一

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ものと考えられる。析出したリチウムが炭素電極を侵蝕するのである。従って,均一な電

托分布を縛るように電極の形状を工夫すれば .Imaxはかなり大きくすることができると

噸持される。 また.電極内部への塩化水素ガスの分散性をJ:くすれば .Imaxは増大する

であろうと思われる。

・‖U'-

(

V〕

x.:E

f

500

HCl 流 通 〔ml/min)〔陸島見かけ表面括 1,5cm2)

囲6-5 HCl流速とIrruxの餌係

2-5 休店電流蜜Bfについて

図 6-1の曲廟bで示したような ,電極性能の劣化したような状態では●,リチウムの析

出とそれに引きつづいて起るリチウムと塩化水菜ガスの純化学的反応による水累の発生反

応が主反応となっているものと考えられる。

このような条件のもとでは,一般のガス電瞳反応の場合のような三相界面の形成はそれ

ほど必要不可欠な条件とはならず ,多孔性悶癌の内部で均一に反応が局 リ侍ると近似的に

考えるととができる。すなわち,塩化水式ガスの供給が均一に行なわれている場合には.

- 5占-

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  ム ー7φ

 No.1

No.2

N

1 」一

弓TNo.5

恥.4 酌評 m.6

  図6-6 糎々の陰極構造 (単位ヨmm)

一5アー

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電流一電圧特性は陰糎に用いる多孔性炭素電極のみかけの体積に大きく左右されるものと

考えられる。このような推定のもとに以下の実験を行なった。

 実験に用いた多孔性炭素竃極の形伏を図6-6に示す。図6-1の曲線bに相当するよう

な状態で,電極No.1,No.2,No.5についてそれぞれ求めた電流一電圧特性を図6-

71a)に,また,No.3・No・4,NO.5についてそれぞれ求めた電流一電圧特性を図6-

7㈲に示す。

 図6一ア伺および向から,電極No・5がもっとも良い特性を示すようにみえるが・ここ

で,電極の単位体積当り蝿流という新い・単位〔筋㎝3〕を導入してプロブトしてみ

ると,すべての電極についての電流一電圧特性はほぼ同一となる。

 図6-8{a},lb】にこれを示す。

 この場合,体檀としては,浴中に露出する部分だけをとづた・実験綻了後の観察の結果

3.0

 ・2」

聾1・0

0

            50

      電流密慶(為/dm2)

 O No.1,   △ No・2g   ● No・5

図6輔7㈲ 租々の陰極を用いたときの,電流一電圧特性

100

幽58一

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5.0

 ・20>

,)

  1.0

0

            50

      電流密度(1ゾd㎡)

 ● No.5,   0 No・4,   △ No・5

図6-7㈲ 種々の陰極を用いたときの,電流一電圧特性

100

から,露出していない部分には電解浴の浸透はまったくみとめられず,従って,電極反応

には関与していなかったもりと考えられる。

 電流一電圧特駐は,電極の外形の差異にもとつく電流分布の変化にはあまり影響されず

むしろその見かけの体摺にっよく影響されるようである。ただし,このような現象は・電

極内の各部に塩化水素ガスが+分に供給されている場合にかぎられる・従ってその休租は

大きくすればするほどよいというわけではな馬

 もう少し唯密‘ヒ検肘するために,㎞4と嵐6なる組合わせで,亀流一電圧特性の比較を

行なった。この場合,外面的な形状は全く同じであるので,形状要素および表面積要素は

同一で,ただ体梱要素のみに差異がある。

 得られた電流一電圧特性を図6-9に示す。

一59一

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5.o

(の

)   20団

1.o

o

5.0

5)   20

1.0

   25         5D

   体積電流密度(A/1cm3)

ONo.1,  △No噸2,  ●No・5

図6-81al体極電流密度と端子電圧の関係

Z5

   2,5         5n

   体積電流密匿(鳶/cma)

●No・5,  0No.4g  △No.5

図6-8㈲ 体積電流密腱と鑑子電圧の関係

      一60一

75

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        50             100    電流密度(A/dm皐)   O No・4     ● No・6

図6-9 種々の電極を用いた場合の電流一電圧特性

5.0

s)  2.0

1.0

  2.5         50

  体積電流密匿(!〆c血3) .

O No・4      ● No.6

図6-10 体積電流密度と端子電圧の関係

     一61一

Z5

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a

図6-11 陰撞の構造{2】

a

b

c

多孔性炭素電極

炭 素 継 手’

炭 素 導 管

x==192,5・一一鼎10ロ1m

10

£

§

囲  5

o

ノ 2     4     6     8        x (mm)

   図6-12 体積電流密度と陰極厚さの関係

一62一

10

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 馳maの単位でプロ7トしな鉛したものを図6-10に示す。やはり,ほぼ同一の電

流一電圧特性を示している。

 ただし,図6-1の曲線aに代裏されるような高性能を示す領域では,このように単純

な・一般則は成立しない。すなわち,塩化水素ガスの直接還元反応が主反応となっていると

思われるような㎎圧領域では,一般のガス電極反応と同様に、三相界面の形成が大きく影

響するようである。

 図6-1iのような各種電極を用いて,陰極電位を一1.8V(塩素照合電極墓準)に設定

して,図6-1の曲線aのような状態の領域で電解を行なった場合に流れる電流は,電極

のみかけの体積に比例しない。つまり,単位体積当りの電流値がすべての鴛極について等

しくならない。この状況を図6-12に示す。

 このような場合には,三相帯を形成する領域の範囲というものが大きな因子となってく

るものと思われるが,定量的な取扱いはきわめて困難である。

第3笛  結 諸

 塩化リチウムー塩化カリゥム混合溶触塩を用いた塩化水素直接電解法において、陰極の

問題に重点を置いて検討し,以下の結果を得た。

 ㈲ 1001凶m2以下の電流密度での電解では,塩化水素ガスの直接還元反応が主反応

となり得るが,この場合には気体・一・液体一固体の三相界面の形庫を十分心がけねばならな

い⇔

② いったんリチウムの析出がはじまると,電楓性能は劣化する。この場合は主として

リチウムの析出とそれにつづくリチウムと塩化水素の純化学的反応による水紮の発生とい

う経路で反応が進行するようになる。

㈱ リチウムの析出が顕著にみられるようになる電流値,すなわち最大許容電解電流

〔Imax】の大小は,供給塩化水素ガスの流量に依存する。

一65一

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14 リチウムの析出をともなった反応の鳩合,壇流一電圧特性は陰極の見かけの体積に

依存し、体積電流密度なる概念を導入することができる。

一64一

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第7章 触媒 の 効果*

 溶融塩を電解浴として塩化水素ガスを直接電解し,陰極から水累,陽極から塩素を得る

方注に関する前章までの一連の研究において,陰極反応過電圧の高いことが,槽電圧の増

大や副反応の誘起につながる,最大の難点であるとの結論を得た。

 本章においては,陰極過電圧を減少せしめることを自的として,電極上に,あるいは電

解浴中に触媒を金属のかたちで,あるいは塩のかたちで添加し,それらの過電圧におよぼ

す効果。あるいは電流効率にあたえる影響にっいて検討した結果を述べる。

第1節  実  験  方  法

 実験に用いる装置は,前童までに述べてきたものを目的に応じて使い分けた。

 電解浴には,塩化リチウム(58mo l%)一塩化カリウム(42mo 1%)混合溶融塩を

用いた。

 陽極には黒鉛を用い,陰極および照合電極には,日本カーボソ製多孔性炭素(p150,前

出)を炭素質導管の先端にとりつけたものを用い,電解浴の温度は450°Cに保って実験

を行なった。

 電解の方法は従来の通りであり,電極り一ドおよび電解浴などのオーム掴による電圧降

下は,シンクロスコープを用い,開路時の電位の過渡現象を観測することにより求め・測

定鴛位に補正を加えた。

表7-1 各種触媒添加条件

触 媒 含浸用塩 熱処理温度 熱処理時聞

Ag AgNO3 500°C 2hrNi Ni(NO3)2 400 2

Co CoαD3)2・6H呈0 500 2

Pd PdCl2・2H20 650 5

Pt H2PtCl6・6H20 650 5

*吉沢四臥竹原 一馬 彦,  ロ 電気化学 5  52 (196

   -65一

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 陰極用多孔性炭素撞に種々の触雄金属を添加する方法は,炭化水素一塩素燃料電池の炭

化水素極に触媒を添加する場ざ薯全く同じ方怯によった。

 添加条件を表7-1に示す。含浸用塩の濃度は,蒸留水10ml中に,H2Ptc16・

6H20を19溶かLたものを基準にして,すべての金属の場合これと同じモル濃度に統一

したが,含浸液が未吸収のまま多量に残存したので,定量的な誰議はここでは避けたい。

第2節 結果および考察

 2-1 電解浴に各種塩化物を瑚添加した場合。

 塩酸の水溶液電解の場合に,留解液に1D~10DP.p.m程度のパラジウムィオンを添

加すると,槽電圧がいちじるしく低下するという報告姻がある。溶融塩系を用いた本方怯

の場合にも同様な効果を期待して,主として塩化パラジウム(PdC l 2)の微量添加の効

呆についてくわしく検討した。

2-1-1

  0

電流一電位特性

 一1,01(

δ

 -20>

一5.D

   20             60            100

        陰極電流密度(ろ/1m呂)○ 未添加時  ● PdC I 2添加時(いずれもオーム損補正値)

      図アー1 陰極の分極特性(450℃)

一66一

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 LO2呈

二α1

1。

  10             50            50

       陽極竃流密度(ろ/a㎡)

○未添加時  ● PdC 12 (いずれもオーム掘補正値)

      図7-2 陽極の分極特性(450℃)

 竃解浴に対して0.04重量パーセントの塩化パラジウムを添加した場合に得られた陰極.

および陽極の電流一電位特性を,未添加の場合と比較した結果について図7-1および

図フー2に示す。

 図から明らかなように.パラジウムィオンを浴に添加することにより,陽極の量流一

電位特性はまったく変化しないが,陰極の電流一電位特性がいちじるしく向上した。

 なお,塩化パラジウムの添加量を巳01鴨から0.1%にまで種々変えて実験したカ㍉ほと

んど0.04%添加時と同様の挙動を示し,濃度による特性の変化はみとめられなかった。

 塩化パラジウムの他に,塩化ニフケル,塩化第一鉄などの微趾添加の影響もしらべてみ

たが,なんら触媒効果を示さず,未添加の場合の電流一電位特性と一致した。

2-1-2電流効率2-1-1で述ぺたように,パラジウムィォンを添加することにより,陰極過電圧を大

一67一

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きく抵下させ得ることがわかったので,ここでは,陰極での水素発生の電流効率を未添加

の場合と添加した場合について求め,電流効率におよぼす浜加物の影響をしらべた。

 褐られた結果を図アー5に示す。

100

  80

60

20

2D            60

     陰極電流密慶(A/{dm2)     ○未添加時  ● PdC 12添加時

   図7-3 7k素発生の電流効率(450°C)

100

 図から明らかなように,未添加の場合には測定電流密度の範囲でほとんど100%の電

流効事を示すのに対し,添加1、た場合には,竃流密度の小さいところで電流効率の低下が

みられる。

 電流密匿の小さいところでは.塩化水素の還元反応と並行して,パラジウムの析出反応

がかなりの割合で進行しているものと思われる。一方,電流密度の比較的大きいところで

は,その電流一電位特性および電流効塞におよぼす影響は無視し得るようになることがわ

一68一

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かる。

 2-2 電極への触媒添加

 前述したように,浴中にパラジウムイオンを添加した場合,その一部が陰極で金属とし

て電析し,これが触媒能を発撹するという推定にもとづき,ここでは,電極に前もって直

接触媒を添加しておく方法をとって,その触蝶能の有無を検肘した。

 添加すぺき金属としては,予備実験による材質試験結果および水溶液系において1氏い水

素過電圧を示す金属あるいは高温型燃料電池の水素撞用触媒として働く金属を選択の目安

として,パラジウムと自金をえらんだ。

 また,これらよりも若干水素過電圧の高い,銀についても検討し,それらの触媒能を比

0

呈一1.。

週一20

一5.0

20            60

      陰極電流密度(A!<dm2>

● Pd添加多孔性炭素電極   X Ag添加多孔性炭素電極

○ 多孔性炭素電極  (オーム損補正値)

   図7-4 Pd,Agの陰分極特性におよぼす影響

1〔}0

一69一

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0

(L_1.o

5)  -2」〕

一3.0

   20            60            100

         陰極電流密度(A/am2)

● Pt添加多孔性炭素電極  ○ 多孔性炭素電極(オーム損補正値)

      図7-5 Ptの陰分極特性におよぼす影響

較した。

 未添加電極との比較を行なった結果について、図ア隔4および図7-5に示す。

 なお,陽極の電流一電位特性,および電流効率などについては,2-1-1と全く同一の

結果が得られたので,ここでは省略する。

 図7-4から,パラジウム添加の場合には特性の向上がみられるが,図7-5の白金添

加の場合には,低電流密度においてはわずかに触媒能がみとめられるが・高電流密度にな

ると未添加の場合とほとんど同一吻特性を示すようになり、従ってパラジウムほどの触媒

能は示さないことがわかる。

 嬢の場合には,白金の場合よりもさらに触媒能にとぼしい。

 パラジウムの場合,2-1-1の結集と比較すると、その効果が若干小さいが,これは多

孔性炭素極への添加量の相違,あるいは付着状態の微妙な相違によるものと考えられ,浴

一ア〔ト

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に添加した場合の方が.電析により.はるかに多量のパラジウムが電極上に効果的に添加

されることによるものであろう。

 従って,鴛流効率の損失の少ないこと,添加の際に効率よく電極上に固着させ得ること

などの点から考えて,添加条件さえ適当にきめれば,あらかじめ電極に添加しておいて使

用した方が有利であると思われる。

第3節  結

 以上,パラジウムまたは白金を,電解浴または電極に添加すれば,これらが陰極でのガ

ス状塩化水素の直接還元反応に対して融媒的作用を示し,その結果,陰極過躍圧をいちじ

るしく減少させることができ,とくにこの効果はパラジウムにおいて顕著であることを示

した。

本実験では.いずれの場合にも100脚m2での5~4時間の連続運転において、触媒

能の抵下がまったくみとめられなかった。

 本格的な寿命試験の結果をまたねばならないが,これらの金属触媒が陰極で作用するこ

とから,原理的には,多少塩化永素により化学的侵食をうけて浴へ塩化物の形で溶解して

も,ふたたび電極上に電解析出し,溶解と析出をくり返すことになり,また,金属の形の

まま浴に溶解したとしても,浴中に分散した塩化水素と反応して塩化物になり,上述の場

合と同様の結果となるので,結局,これらの触媒能はかなり長期にわたって持続すること

が期待される。

  (文   献)

lll吉沢四郎・竹原善一郎・伊藤靖彦・小山嘉一  電気化学 55 784(f 967}

{2} 旭ガラス英国特詐 1、004,207(1965)

一71一

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第8章工業化への試ず

 前章までの一連の基礎研究の結果.塩化物溶融塩を電解浴としてガス状塩化水素を直接

電解する方注に対して工童化への見通しを得たので,スケールア7プへの第一段階として

20A容量のペンチスケール電解槽を試作L,その1乍動特性にっいてくわしく検討した。

初期の電解槽は.運転時の槽内の状態を詳細に観察できるようにっ硬質ガラスで作製した。

安全運転の見通しがついて崖,さらに第1節に述ぺるような電解槽へと進んだ。

 冠流効率にっいては,ほぼ満足すべき結果が得られたが,槽電圧にはまだまだ低減の余

地があり,また,原料塩化水素の水素への変換率も低いなど,検討すべき点が多く残され

ている。しかし,一応長1明にわたる運転の可能性も確認し,所期のデータを求めることが

できたので,これらの結果について述べる。

第1節 実験装置および方法

 本実験に用いた電解槽を図8-1に示す。陽極には黒鉛を,陰極には多孔性炭素(日本

カーボン製P・150孔の平均径85μ.気孔率50%)をそれぞれ用いた。陰極多孔性炭

素と炭素質導管の接続には,カーボンセメントを用いた。これらの電極の見取図を図8-

2に示す。

 電解浴には、塩化リチウム(58mol%)一塩化カリウム(42mo1%)混合溶融塩

(4・54kg)を用いた・なお,試薬はいずれも市販の一級試薬を用いた。

 原料塩化水素は.図8-5に示すように,市販の塩化水素ボンペから流趾計を通し,ガ

ス溜めのところで6本に分けて、各陰極に一定量の塩化水素を供給するような方式で供給

した。

 上記混合塩を溶融轄融には7時間を要した)後っ6本の陰極に塩化水素を吹き込みつ

* 電気化学投稿中

一72一

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HCl

↑ Cl2

q

毒 ↓

H2(HC 1)

o

nP

m    一1一

/kj

一 昌

1

0

一’ e’

・y’曾 J 7

  ,` . . 一    ・・

@ ∫

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= = = C±_ 一

二 = 一二

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’置9

/aF

1.’

.十 ・

  ・ 、

図8-1 20A竃解槽(直接法)

一73一

a・電解浴(Lic1-KCDb。陰極(多子L嵌1素)

c・陽極(黒鉛)

d・スカート(N・C燃焼管)

e・保護管

f・霜気炉9,槽体G陶器)

h量陰極り一ド

   (炭素質導管)

i.冷知用銅管

j.陽極り一ド(黒鉛)

k.テフロン・パ7キング

1・フタ(ネテンレヌSUS27)

m・陰極リード

   (ステソレス管)

n昌1邊}極り一ド

   (ステン以棒)

o。石綿パ,キソグ

P.熱電対保議管

q・シリコソ・弘栓

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」L

(a) (b)

 (a)陽 極  (b)陰 極

図8-2 電極見取図(単位3mm)

一74一

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d

b a

C

a・塩化水素ボンベ  c.ガス流量調整ビン

b・流丑計    d.圧力計

 図8-5 塩化水素ガス供給フローシート

つ,浴に電極を浸{賢し,塩化水素を1時間浴中に吹き込んだ隆に,さらに塩化水素を吹き

込みつつ,遺解を開始した。

 直流電源にはセレン整流器を使用し,槽電圧は真空管式自記電位差計を用いて測定した。

オーム損はシンクロスコープを用いて,電流切断法によってもとめた。

 混度制御には.電気炉(発熱体にはカンタル憩使用)を用いて,電解椿の外側から加熱

する方式をとり,熱躍対は電解浴中に浸し,自動温度調節器を用いて所定の温慶に設定し

た。

 陽極で発生する塩素および陰極で発生する水素の定童法は,いずれも第3章第2筋で述

べた方法に準じて行なった。

第2節 結果および考察

 2-1 櫓電圧と電解電流との関係

 極間距離を4るcmと5B cmとした二っの場合について,それぞれ電流亀電圧特性を測

定した結果を図8-4に示す。なお,ζこに示す結果は,題解電流20Aで,10時間の

一75-一

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(〉

50

5n

40

3.0

2.0

   陽極電流密度(ノレ4dm2)

20     40     60 80

 5      10     15     20

      電  流  (A)

○;極間距離侶cm 畜 ●;擾間距離5B cm

-一一一 G極間距離2,0Cln(推定)

 図8-4 極間距離と電流一電圧特性(500°C)

連続電解を行なった後に求めたものである。

 図から明らかなように,極間距離をせばめることにより檜亀圧はかなり低下する。

 ここで,橿間距離5・8cmというのは,便宜的に定あたにすぎず,これが最大限近づけ得

る極間距離というわけではない。

 まだまだこれをせばめられる余地は残ウているように思われる。

 硬質ガラス製電解槽を用いて電解操作中の電解槽内部の状況を観察した結果によると,

この極間距離は2.OCmにまで短縮しても十分に安全に操樂し得るものと思われた。極間距

離を2君cmにすれば図8-4申仁破練で示したように,かなり特性は向上するように思わ

れるが・隔膜を使用することにより,さらに極間距離の短桁,従って電流軸電圧特性の向

一ア6一

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上が可能となる。隔膜の使用に関する詳細な検討は今畿の課題である。

 またgここでは,スカートとして耐食性を持たせるため日本化学陶業製N.C燃焼管を

用いたが,これは肉薄にできないため,浴のオーム損が大きくなる。

 この難点を解決する一つの試みとして.機械的,熱的強齪をも有する肉薄のステンレス

スチール(SUS 27)製のスカートを使用してみたが,ステン【ノススチールが塩化水素と

反応して,多量の水素を発生しつつ浴中に溶解し,さらにはこれが目的とする塩化水素の

電解反応に妨害作用を示し,期待したような結果を得ることはできなかった。

2-2  電  圧  収  支

5.0

4.0

(〉

)3£〕

2D

1.0

0   5       10      15       20

        電  流  (A)d】理論分解電圧  ② 両極での過電圧  個 全オーム損

  図8-5 電圧収支(500°C,極間距離ムBcm)

一77}・

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 2-1の結果より,電解浴温度500°C,極間距離58cmとした場合にっき,本電解

碑の電圧収支を求めた。この結果を図8-5に示す。

 図から明らかなように,オーム損が全電解電圧のおよモ65%を占めており,オーム損

を如何に小さくするかということが.本電解槽の大きな課題である。

2-3 電解浴温度と槽電圧との関係

塩化水素の400°Cにおける理論分解電圧はおよそ1.01Vであり,温度の上昇につれ

(〉

ム0

5n

4.0

出5.0

2」〕

1.0

o

 400     500     600

  電解浴温度(°C)

図8層6 電解浴温度と糟電圧との関係

       (極間距雌45㎝)

L-一 り

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          てて徐々に増大していつな,600℃ではおよそ1.04Vとなる。一方,実測槽電圧は電解

浴温度の増大につれて急逮に減少してし、く。

 これには温度上昇にともなう電解浴の竜導慶の増加が大きく影響しているものと思われ

る。

 温度の上昇にともなう理論分解電圧および槽電圧の変化を図8-6および図8-7に示

す。

   60

5」〕

(4.O

s)

鰐5.0

2.0

    5      10     15     20

        電  流  (A)   {al 4000C   皿ゴ 5000C   {cl 6000C

図8-7 電解浴温展による電流一電圧特性の変化(極間距離45cm)

 この結果により,電力消喪の面からのみ考えれば,竃解温度は高い方が望ましいわけで

あるが皇操作の容易さおよび材質の問題などを考慮すれば,やはり400~500°Cの範

囲で電解を行なうのが好ましいようである。

2-4  電  流  効  峯

電解浴温度500°C,極間距離5.8cmとした場合にっき、両極での電流効率を求めた。

一79一

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結果を図8-8に示す。

100

(  80“

40

20

 5       10       15       20

      電  流  (A)

● 水素発生の電流効峯  O 塩素発生の電流効率

 図8輔8 電流効峯(500°C,極間距離3.8㎝)

陰極で発生する水素,陽極で発生する塩素の電流効峯はいずれも,ほぼ90%以上であ

った。電解電流の増加にともない電流勅率は若干減少するが,これはおそらく陽極で発生

した塩素が浴中に溶解し,これと陰極で発生する水素との再結合反応によるものであろう。

 2-5塩化水素変換率 陰極に供給する原料塩化水素の供給伍と水素発生の実測電流効率にもとづき,塩化水素

の水素への変換率を求めた。この結果を表8-1に示す。

 表から明らかなように9変換率はきわめて低い。とくに,電解電流の小さいときにはそ

の傾向炉いちじるしい。本実験で用いた塩化水素導入管に、作成加工の都合から,敏密質

・- W0一

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衰8-1 塩化水素変換蕃

電 流 (A ) 変 換 塞 (%)

10 5.6

15 8.2

なものが得られず.導入管の先端に多孔性炭窯電極をとl)つけたガス拡散型電編を使用す

る場合,導管中でのガス漏れは陰瞳の材首として,耐食性を考慮して黒鉛を使用する以上

避け絹ないものであり,また,各専管のガス漏れのBf合いもそれぞれ異なっており,6本

の陰瞳に均等にガスを配分しようとすれば.どうしても過剰の塩化水窯を供給しなけれは

ならなかった。従って,電解電流値と塩化水窯供給丘との関係を1:1に保って電解を行

なうことが困難であった. これが変換峯の低い第14 理由であろうと思われる。

また.本実験の場合 ,電極の配超の関係から,それぞれの多孔性炭素陰拓lこおいて.電

極全面が有効に利用されず .̂電流が ,陽掛 こ面した部分に集中するので .基礎研究でのデ

ータから考えて十分流し得ると思われる電流値 7-ち.電流簸中部分で分極が大きくなって

リチウムの析出が起ってしまうO

従って.電極の見かけ面板から考えて十分安全に流し得ると思われる電托値でも.リチ

ウムの析出による電極の倒壊がはじまるので ,唱極の見かけ面掛 こ応じた電解槽容埼とし

得なかった。

VlI,.ti●

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-I-」:_さヽ 睦肺 癌.0陰極)

図8-9 本電解槽をさらにスケール7ァブした

際の .電瞳配旺馳 図

-81-

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 これが変換率の〔医い第二の理由であろうと思われる。

本電解槽をさらにスケールアププした場合には,図8-9に示すような電極配置が適当

と思われ,この配置により,多孔性炭素陰極の有効面積を増大させることができる。

 従ってそれぞれの陰極について,より大きな電流を流すことができるようになり,それ

にともなって変換皐もかなり向上させることができるであろう。

第3節  結 論

 塩化リチクム。塩化カリウム混合溶融塩を電解浴とLて用い,ガス状塩化水素を直接電

解することにより,陽極から塩素,陰極から水素を得る方怯の工韮化への第一段階として

20A容量のベンチスケーノ蝿解槽を試作し,その作動特性についてくわしく検討して以

下の結果を得たo

 ㈲ 本電解槽は・20Aでの一昼夜連続運転を含めた,一週間の長期実験においても,

なんらの不都合な故障,損傷も生じなかoた。

 2】500°C,極間距離58cロ1に設定して電解を行なった場合,20Aの電解電流で槽

電圧は49Vであった。この場合,オーム損が全槽電圧のおよそ65%を占めていた。

 凶槽電圧は温度の上昇とともに大輻に低下し,これは主として温度上昇にともなう電

解浴の電導度の増加によるものと思われる。

 ㈲電解浴温匿500°C,極間距離58cmに設定して電解を行なった場合,阻撞から

麟・聴から隷が・20A以下のし・ずれの電流値・・お・・τも,約90%以上の融効率

で発生していることを確認した。

㊨塩化旗の水素への変換率は,2。Aで呪解時においても11.0%と低く,今幽

躁題として残る。

蝉82画

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第 9章 総 揺

著者は ,電解浴に宿敵塩を用い ,水溶液宗よl)も高温犀な領域で塩化水素を電解して.

陰瞳から水架 .陽極から塩素を得るという.新しい塾式の塩化水菜問解法を考案し,基礎

研究からべ t/チスケールITTの研究まで ,系統的にその可能性を検討し,それらの結果につ

いて一第 1車から第8葦にわたって詳掛 こ論じてきた。

第2輩から第 7童まT・の研究結果は .すべて滞8章で述べたベンチスケ-JL,7:・の実額の

基礎蟹料となるもので,第8茸で述べた結論が ,本絹の結論のすべてTtあるともいえる。

しかしながら,第2黄から第 7蔀までに述べてきた種々の基礎的なデータは.今後の本

方法のエ糞的規模への発展過程においても.たびたびふt)かえってみなければならないL.

また.必ず役立つものと倍ずる。

ここで ,本編を通 じて得られた主な結論をえちびだして列挙し,不編の結びにかえたい。

(11塩化水菜からの塩菜の回収法として ,電解浴に塩化 9チクムー塩化カリ.クム屯倉括

敏也を用いて.塩化水素ガスの直接電解によl),限瞳から塩業 ,陰極から水素を滞る新し

い方法の可能性を示した。

臣)本方法による,塩素および水菜の発生lこ対する環流効率は.20O脚 において

ち,80%以上の値が得られ .この値も,装置の改良によJ),まだまだ向上させ得るものと

思われる。

6) 供給塩化水嚢の .奄解による水窯および壇案への変換率を算出し,28ロ4/dnfで

24.0%なる値を得たo

剛 電解浴は.20時間の連珠作動陵においても,規失その他の変化はほとんどみとめ

られず .半永久的に使用し得る可能性を得た。

- 85-

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 151実験用電解槽での,作動時の竃圧収支を求め,スケールアヲブへの可能性を見出し

た。

 18 既存の他方法と比較し,本方法の有利さを確認した。

 {刀 陽極での電位決定反応は,

       2C1  == Cl2  + 2e

であり,この反応は可逆的で,電揮電位と塩素分圧との間ではネルンスト式で示される関

係が満足される。

 旧 陰極での電位決定反応は

       HC1+・一去H,+C「

であるが,この反応は炭素電極上では可逆性にとぼしく,塩化水素と水素の間の分圧の関

係を変化させた場合,陰極電位はネルソスト式に従った応答を示さない。

 {9】陽極での塩素発生反応の過電圧は非常に小さく,現段階においては大きな問題には

ならない。

(10)陰極での塩化水素還元反応の過電庄は比較的大きく,これは主として,吸着過程を

も含めた物質移動過程の遅れに起因するものである。

(11)陰極電流密度て00!ゾidm2以下での電解では.塩化水素ガスの直接還元反応が陰極

主反応となり得るが,この場合には,気体一液体一固体の三相界面の形成を十分心がけね

ぼならない。

(12)いったん陰極炭素上にリチゥムの析出がはじまると.電極性能は劣化する。この場

合は主としてリチウムの析出とそれにつづくリチウムと塩化水素の純化学的反応による水

素の発生という経路で反応が進行するようになる”

一84一

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(13)陰極部でリチウムの析出が顕著にみとめられるようになる竃流値,すなわち,最大

許容電解電流〔Ima x〕の大小は,供給塩化水素ガスの流量に依存する。

(14)リチウムの析出をともなった反応の場合,電流一電圧特性は,電解浴へ露出した部

分の陰翻の見かけの体穰に依存する。従って体檀電流密展なる概念を導入することにより,

竃流一電圧特性を説明することができる。

(15)パラジウムまたは白金を,電解浴中に塩化物の形で添加あるいは陰極炭素上に金属

め形で添加すれば,陰極過電圧をいちじるしく減少させることができる。

(16)20A容量のベンチスケール電解槽を試作し,その作動特性についてくわしく検討し

た結果,工業的規模への発展の可能性を見出した。

(1フ)CaC b-NaC1系,KC l-ZnCi2系,NaC 1-KC 1-ZnC12系は・いずれ

も,LiCl-KC1系にかわる電解浴として用いることが可能で,取扱い操作も比較的容

易である。これらの浴は,LiCi-KCl系にくらぺて安価な点は有利であるが・電導慶・

浴の安定性,副反応の起りやすいことなどの点で劣るようである。    ,

一85一

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一86齢

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第2編  液体金属陰極法による塩化水素

        の間接電解法

第 1章 緒 言

 第1編において.塩化物灘塩を電解浴として用い,多孔性電極を用いて塩化水素ガスを

直接電鰐し・塩素および水素を回収する方法を提宴し,種々検討を加えた結果,この方法が,

塩化水乗から塩素を回収する方法としての工業的価値を有するとの結論を得た。

 本編においては,電解操作を高温で行なうこと,および電解浴として塩化物溶融塩を用い

るという基本的な原理は同じであるが,窺化水素を陰極に用いる金属によつて還元し,水素

と塩化物を得,生成する金属塩化物を電解によって塩素と金属に分解し,この金属を回収し

てもとに戻す操作を一っの電解槽中で同時に行なう一種の間接電解法を考案,検討した結果

について述ぺる。

 今,金属として液体亜鉛を使用した場合にっいて本方法を説明してみよう。

塩化水素ガスが液体亜鉛中に吹き込まれると,

Zn十2Hq:=ZnCI2十H2

なる反応式に従つて,塩化亜鉛と水素ガスが生成する。

水素ガスは系外に去りけ塩化亜鉛は電解浴中に溶解する。この塩化亜鉛は,液体亜鉛を陰

極,黒鉛を陽極として電解することにより,’

ZnCl2=二Zn十Cl2

なる反応式に従つて,亜鉛と塩素とに分解する。塩素はガスとして系外に去り.亜鉛はもと

の液体亜鉛上に回収される。

結局,一迎の操作によP,陰極から水素,陽極から塩素が得られることになる.

溶融塩化物を電解浴として電解を行なう場合の多くの利点にっいては,すでに緒論におい

ても述べたが,さらに,本編で述ぺるような間接電解法を採つた場合,生成する塩素と水素

一87一

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を分離するための隔膜が不必要なこと,濡れによる性能劣化や機械的なもろさなど取り扱

い操作上若干面倒な問麺のあるガス電極を用いなくてもすむこと・などの工学的な利藍が

加味されてジきわめて有利な電解操作が予測できる。

 還元剤としての金属は,ガス状塩化水素と劫事よく接触すること,電解反応により再析

出した金属がもとの状態と全く同じ状態で得られること,両極間距離を常に一定に保つこ

とができること,リード部分との接続が容易に行えることなどの諸条件を満足する必要が

あり,この点から液体金属の状態で用いるのが適当であると思われる。

一88一

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第2章 熱力学的考察

第 1 節  金属と塩化水素との反応

    Me十2HC】=MeC12十H2            (1)

    (Me;2価金属)

なる反応にともなう自由エネルギー・増加母を4Fとすれば,4Fの正負によoて(1)式

における左辺から右辺への自然反応の可否が判別できる。

 500℃における(1)式なる反応の標準自由エネルギー変化量(4F°)は表2-1

に示す通りである。表には,いずれも実験温度範囲内では液体で,しかもその塩化物の蒸

気圧がそれほど高くない,亜鉛,カ.ドミウム,鉛,スズの4種の金属にっいて示してある。

表2-1 標準自由エネルギー変化景

Sn

Pb

Cd

Zn

一4F°(kca】/mo1)

 駐ア

11.2

1Z5

26.2

反応式Me十2HCI=MeCl2十H2(500℃)

      (Me;種々の2価金属)

また,図2-1に各糎塩化物の蒸気圧データを謬考のために示した。

 表2-1より明らかなように,これら4穂の金属はいずれも本方法における液体金属陰

極として作動し得るものと思われる。

一89一

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窃1°

旦18

出10-2

亘0-4

4.0

図2-1

ユ5

{1⊃ SnCI2

3.o

 一一一→レ温度ぐo)

100      200    3 0 1001500

2n、 1.5 10 0.5

   一1000/T(ヤー1)

② ZnC12 〔3} PbCI2 14} CdCl2 〔51 LiCl{6}Kq

各樋塩化物の蒸気圧(電気化学ゼ・ミナーテキスト(電気化学協会関西支部編)

          (11).P.78(1967))

第 2 節  金属塩化物の分解電圧

   MeCl2=Me十C12                (2)

    (Me;2価金属)

なる反応は自由エネルギーの増加をともなうため.金属塩化物から電解によつて塩素と金

属とを回収するためには,外部亀甑より竃気的エネルギーを供給してやらねばならない。

 表2-2に、第1節で採り上げた4種の金属にっいて,{2}式なる反応に対する標準自由

エネルギー変化量および理論分解電圧を示す。

 これら金属塩化物の理論分解電圧は塩化水素の理諭分解電圧に比べて,若干大きな値を

一90一

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とるようになるo

表2-2  樋々の塩化物の 一、イF°とE°

塩化物       .|4F°(kca l) E°6り

ZnC12 ア59 1.61

CdC12「647 1.41

PbCl2 5Z1 1.24

SnC12 58.5 1.27

HC1 4Z4 1.05

一4F「宿は次式に従ウて計算

  Me十C12=MeC12(500℃)

    (Me ;2価金属)

一91一

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第3章 本方法の可能性

 第2章で述ぺた熱力学的考察から、本方法の可能性が予測されたので,実験によつてこ

れを確認するために,陰極として液体亜鉛を用いた場合を例にとつて以下に述べる実験を

行なつた。

第 1 筋  実験装置および方法

 本実験に使用した電解槽を図5-11a)に,塩化水素と金属との反応性をしらべるための

装置を図3-1(b}に示す。

 従来の直接電解法との大きな相違点は,陰極に液体壷鉛を使用して,この液体亜鉛中に

塩化水素ガスを吹き込み,陰極リードは液体亜鉛よりとるという点である。

 塩化水素の吹き込みには,従来から陰極として使用してきたカーボン管の先端に多孔性

炭素(日本カーボン製,PI40,孔の平均径60μ,気孔率50%)をとりっけたものを

使用した。

 電解浴には・塩化リチウム(58mo 1%)一一塩化カリウム(42mo 1%)混合溶融

塩を用い,陽極.には黒鉛棒を使用した。

 電解および測定の方法は従来の通りである。塩化水素は市販のボンベより供給し,電気

炉の温度を500℃に保,て実験を行なつた。

 照合電極(第1編第5章参照)は,必要に応じて電解槽中に挿入できるようにした。

亀 冠気化学会(昭1和45年4月,富山)にて発表

 電気化学投稿中

一92一

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CI2

 HCI C12

f↓ノ1・    H2(HClピア、

 e

п@C

F

z/

図5-1伽電解槽断面図

唱95一

a

b

C

d

e

f

g

h

i

液体亜鉛陰極

黒鉛陽極

LiC1-KCI混合塩

パイレ,クス・ガヲス製

ホルダー

バイL!ゴクス ・,ガラス製容器

照合電極

シリコンコ「ム栓

炭素質導管

黒鉛リード(陰極1)

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      HC1

     、

H2(HC1)

図3-1{b}場化水素と金属との

     反 応装 置

a

b

C

d

e

液体亜鉛

多孔性炭素

Lic1-]KCh毘合塩

炭素質導管

ノぐイ1!ヲクス・ガヲス製

ホルダー

第 2 節  結果および考察

 2-1 溶融亜鉛と塩化水素との反応

 図5-1もb装置を用いて,溶融亜鉛中に塩化水素を吹き込み,発生する気体を,水酸

化ナトリウム水溶液中に通し、未反応塩化水素を除去した後に捕集し,第1編第3章で述

べた方法に準じて,水素の生成を確認した。またgガスビュレ,トを用いて水素発生量を

求めた。       ’  、

得られた水素発生匿と供給塩化水素量との関係を図5-2に示す。

 亜鉛と塩化水素との反応は

Zn十 2HCl:=ZnC12十H2 (1)

一94一

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40

30

㍉  20日

溜 10潤

     0              100             200            300            」嘱00

              HCI 流  速 (m4/hlin)

 図5-2  塩化水素流速と水素発生速度との関係(亜鉛使用)

なる反応式に従うと考えられ,U拭を基準にして塩化水素の水素への変換率を計算すると,

表5-1に示すような結果を得る。

       表5-1 塩化水素の,水素への変換率

Hq流 速in琢ノ血in)

Hl 発生速度 認/tnin) 変 換(艦) 皐

55』 ス7 46.7

65.0 15.5 4〔P

125.0 18.7 2駐9

1e5.0 2萱.8 23.6

240.0 25.0 2a8

5250 50.ア 18.8

一95一

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 塩化水素供給量を増すほど水素発生量は増加するカ㍉変換率は逆に減少する。変換率の

向上をはかるには,ガスの吹き込み方式を中心に,さらに検討を加えねばなら.ないであ

ろう。本実験の場合にはガガスの吹き込みによりて電解液の撹拝をも意図しており,また,

炭素質ガス導入管の壁が密にできにくく,管内を若干高圧に保つて,ガス流速を最適条件

に維持するということが困難でもあるので,変換率として小さな値しか得ることができな

かつた。

 2-2 陰極および陽極の挙動

 図5-,(a)の装置を用いて定電流電解を行なつた場合の,陰極および陽極の電流一電位

特性を図5-3および図5-4に示す。

 実験した電流箱囲では,陽極における過電圧はほとんど観察されなかつた。

 陰極の電位は,-1.8V(塩素極基準)付近のほぼ一定な値を示し,電流密度による変

化はほとんどみとめられなかつた。

 500℃における,純塩化亜鉛の分解電圧は,熱力学的計算や起電力測定の結果から,

1.6Vであるといわれておりドー方,本実験で得られた分解電圧の値は1.8Vである。従

つて、生成した塩化亜鉛が電極のごく近傍で,純塩化亜鉛に近いかたちで電解されるので

0

 Lo\

』-1.o

Q占

)印ao

(o実測値

図5-5

Lo       ao        ao

     竃  流 (A)

  ■オーム損補正後の値)

陰極における 電流一電位特性

      一96一

4.0

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はなく・いつたん電解浴中に均一にもしくはそれに近い状態で溶解して,しかる後に電解

されるものと思われる。

30

 I  aoδ

』Qお LO>

〉)

   0

o LO

(0実測値

   ZO        ユ0

電  流 (A)

●オーム掴補正後の値)

図5-4  陽極における 篭施一箪位特性

4n

 2-5 電圧収支

 本電解法の大きな特畏は,隔膜が不必要なことであり,原理的には水銀法食塩電解での

場合と同程度にまで極間距離をせばめることができる。

 しかしながら,本実験においては,陽極黒鉛の構造に特別なんらの考慮もはらつていな

いので・陽極生成塩素ガスの陰極金属面への接触,あるいは水素ガスとの混合を防ぐため

に,若干極間距離を大きめにとらざるを得ず,4A(陽極電流密度240ん/dm2)で

の電解操作で安全を確保するためには,4mmの距離を必要とした。この極聞距離での総

抵抗は.0。2オームとなり,このうち浴の抵抗成分が本実験装置でのオーム損の原因のか

なりの部分を占めている。

一97一

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 陽極黒鉛に孔をうがつたり,みぞを切ウたりして樽造を改良することにより,極間距離

をせまくすることがでぎ,浴抵抗はさらに低下させ得るであろう。

 以上の測定結果をもとにして,本実験電解槽作動時における電圧収支を模式的に示すと

図5-5のようになる。

 ヒ

3.o

LO

o

α/て二P

a

b

c

60             120           180

   陽極電流密度(A/dm2)

理論分解電圧十両極の過電圧

電解浴によるオーム損

電擾り一ド部分その他によるオーム損

図5-5 電解槽作動時の電圧収支

」!4⑪

 2-4 電流劾率

 電解時における水素発生量は,塩化水素の供給量をr定に保った場合,電流値には無関

係に一定で・2-1で示したと同様な結果が得られる。従って,この場合にはガス状塩化

水素の直接陰極還元反応は起oていないものと思われる。

従つてここでは,陽極での塩素発生の電流効率を測定した結果にっいて述ぺる。塩素の

定量は従来の方法で行なoた。

 得られた結果を図5-6に示す。

・- X8一

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100

0     30        60         90

       陽極電流密度(A/dm2)

図5-6  毬々の電流密度における塩素発生の電流効率

120

 電流効率は陽極電流密度の増大とともに向上し,陽極電流密度120A/dm2で90

%なる値が得られた。この場合、極間距離は1Dmmに設定した。

 陽極での電流効率の低下は書生成塩素が浴中に溶解して陰極亜鉛と反応し,塩化亜鉛を

生成することによるとも考えられ,今後の研究の課題である。

第 5 節  結 論

・{1)塩化水素を電解して水素と塩素を得る方法の一つとして,砥解浴に溶融塩化物を用

い、陰極に液体金属を使用して,塩化水素ガスをこの陰極中に吹き込んで塩化物および水

素を生成せしめgこの塩化物をただちに同じ陰極上で電解して,陽極から塩素を得ると同

                  一99一

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時に・傘属を陰極上に回収するという新しい方法を開発した。この方法は以下に要約する

実験結果から考えて,工業的規模への発展の可能性を有するとの結論を得た。

 12}溶ぬ亜鉛と塩化水素の反応性を検討し,水粟発生量からこの反応の速度を求めて9

ほぼ満足すべき結果を得た・

 13}陰極,および隅糧の亀流一電位特性をもとめ、いずれの種においてもそれほど大き

な分極のないことをたしかめた。

 14}本実験に用いた電解糟作動時の竃圧収支をもとめ,スケールア7プへの可能性を見

出した。

 〔51陽極における塩素発生の電流効率をもとめ,陽極電流密度{20A/dm2で90

%なる値を得た。

一旬o一

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第 4章                   車各種液体金属陰極の検討

 第5章において,液体金属陰極法による塩化水素からの塩素の回収法を,亜鉛を陰極に

して電解する場合について詳細に検討し.槽電圧あるいは電流効率などの面からみて,本

方法が工業的規模への発展の可能性を有することを示した。

 液体金属亜鉛は比鮫的安価であり,また,反応生成物の塩化亜鉛は冨解浴として用いた

塩化物浴によく溶解して安定に浴申に存在し得るなど,樋々の長所を有するものであるが,

必ずしも最適のものであると断言することはできない。

 第2童第2節の表2・-2からも明らかなように,塩化亜鉛の分解電圧よりも低い分解電

圧をもつ塩化物をつくり得る金属で,500℃程度の温度で液体であり,しかも容易に塩

化水素と反応し得る金属がいくっかある。

 本方法に採用し得る金属趣としては,融点がある程度低く,かっ生成塩化物の融点も低

いものが望ましい。しかし,生成塩化物は生成と同時に電解浴塩化物と混合溶融塩を形成

する場合もあり,塩化物の融点は若干高くても差支えないものと思われる。

 以上のような観点から,亜鉛以外に,カドミウム,鉛,スズをえらび,これらを陰極と

して用いた場合の可1渇生,特性にっいて検討を加えた。           ’

第 1 節  実験方 法

 実験装置および電留,測定の方法は,第5章第1節で述べた通りである。

 電解浴には,塩化リチウム(58mo I%)一塩化カリウム(42mo 1嘱)混合溶融

塩を用い,金属はいずれも純度999%のものを使用した。塩化水素,塩素は市販のボγ

べより供給し,電気炉の温度を500℃に保つて実験を行なった。

倉 電気化学会(昭和45年4月,冨山)にて発表

 電気化学投稿中

                 一101一

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館 .2 麺  擬磐よ琴考察

 2庸{ 露ドミウム極の挙動                    ・

 簸電灘時の◎絵極の電流一一電位特性を,種魂の流遼で塩北水素ガ男を供給iした場合

・艦つ’いて求’め血。据i4一哩にその結’黒を承す“

ご 弩

ξ囎

ビ i

騨却

略寿鋲

』-Q-~~G

\塗こ一一.

握尋一1

葦』 2.o

電  瀧 {A)

題  65蕪4/由油

b 120無ぞ海三罷

注o

C 佃5縄乏/鵬油

δ 盆憩顕4/捻拍

ξ.o

毬々の塊北水累流速における叩脚慰灘i騨電位犠

                 {勃慰農密ム硬用)

図ムら明あか舷う概轡肱素の流逮分増穴につれて雑賜’上する。

筑逸砒較的小劉蕩合縄は,2段階の電流一鰹蠣係力碍られ、2鵬・の反癒砂秘

でいるζとがわかる。第歪段の反応は勇ド黄ウムの析出翼慰馨落2段の繊はリチウムの

駈出反応と愚われる。しかしながら,流速の大きい撃図幽の曲線面}場合量孟第重投目の撰

・紳{碧2ぬ

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応の限界電流が延び,2段階の反応を電流一電位特性からだけでは区別筍きなくなる。

 カドミウムと塩化水素との反応は,

    Cd-←2HCI=CdCl2十H2                (5)

なる反応式に従うものと思われ,水素の発生速度は塩化カドミウムの生成速度と等しくな

るので,水素の発生速度を測定することによつて塩化カドミウムの生成速度を知ることが

できる。

 塩化水素を種々の流速で供給した場合の水素発生速度の変化を図4-2に,また,電位

一2.OV(塩緊極基準)で得られた電流値を水素発生速度に対してプロ7トしたものを,

図4-5に示す。

1UO

3ミ

ε

潮 50

o

図4-2

 100            200            300

   HCI流速(m6/tnin)

塩化水素流速と,水素発生速度との関係

           (カドミウム使用)

400

司05一

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○ZO

(  LOく

o      5.o

水素発生速度(m4/min)

図4-5  電位一2.O V.

      と電流との関係

(塩累極基準)での,水素発生速度

工ao

 定母的な考察を加えるにはいたらないが,得られた電流値は水素発生速度,従脅て塩化

方Fミウム生成速度の増大にともなつて増加しており,{3拭なる反応を促進させること,

たとえば塩化水素流速を上デること冒気液の接触面積・接触時間を増すことなどによつて・さ

らに電流値を増大せしあ得るものと思われる。

 2.-2 鉛極の挙動

 塩化水素の供給速度と電流一電位特性との関係は,ほぼカドミウム極での場合と類似し

ているo

 塩化水素の供給速度と水素発生速度の関係を図4-4に示すが,亜鉛やカドミウムの場

合に比べて水素発生速慶はきわめて小さい.

塩化水素流速20Gm4/mi11で得られる電流一電位特性を図4-5に示すが9亜鉛

やカドミウムでの場合に比して,きわめて小さい露流喧ですでに第2段の反応(リチウム

の析出反応)に移行する。これは,図4-4からも明らかなように,鉛と塩化水累との反

応速度,すなわち塩化鉛の生成速慶が,亜鉛やカドミウムでの場合に比して小さいことに

一104一

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1吐0

ε蕊o

0 100 200 300 40㊥

HCI流速(m4/mln)

図4-4  塩化水素流速と水素発生速度との関係(鉛使用)’

起因するものと思われる。

 第1段目の反応(鉛の析出反応)の電位は一1.6V(塩素極基準)と比較的貴な値をと

り,塩素極と組み合わせた第1段目の反応に対する覧解電圧は,亜鉛やカドミウムでの場

合よりも低くなる。鉛陰極を用いる場合には電解電力消費の点できわめて有望なように思

われる。

r105一

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o

犀(

δ

\弓o』06『

週一伽

・-≠

o 血5 LO L5

電 流 (A)

図4-5  陰種における電流一電位特性 (鉛使用)

 2-5 スズ極の挙動

 塩化水素の供給速度と電流一電位特性との関係は,他の場合と同様であつた。

 塩化水素の供給速度と水素発生速度との闘係を図4-6に,塩化水素供給速度100

m4ノ1ninで得られた電流一電位特性を図4-7に示す。

 この場合も,第1段の反応(スズの析出反応)の電位は.-1.6V(塩素極碁準)と貴

な値をとり,鉛の場合と同様,電解電力の面ではきわめて有望である。

 しかし,塩化第一スズは他の塩化物にくらぺて蒸気圧が大きく,畏期にわたる電解の場

合,昇華による損失のおそれがあり,電解浴に溶解することにより蒸気圧は若干下がると

は思われるが,工業的見地からすれば,スズはそれほど有望といえないようである。

卿106一

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1血o

ε丘゜

o

        HCi流 速(m葛/miB)

図4-6 塩化水素流速と水素発生速慶の関係(スズ使用)

o

ヘーi.⑰

3

』,

.軸噤g

幽aOo            n5               LO

               電流  (A)

図4一ア 陰極における電流一竃位特性  (スズ使用)

               -107一

L5

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2-4 塩化水素と金属との反応速度

一一閧フ流速で塩化水素を各種液体金属中に吹き込んだ塒合の水素発生速度を,

    Me十2HC1→MeC12十H2            (1)

      (Me;2価金属)

なる反応の標準自由エネ〃ギ・一変化量に対してプロツトした結果を図4-8に示す。

 反応速度の問題については,速度論的考察を加えて論ずるのが順当であるが,便宜的に,

標準自由エネ〃ギー変化量を反応の駆動力と考えて両者の関係を検酎することにより,あ

る程度の知見を得ることができる。                  ,

 図4-8に示したように,だいたいの傾向としては,標準自由エネルギーの変化量

   む一4F の値の増加とともに,水素発生速度は増加している。

40

30

  10             △

β     Sn      Cd

         o

           ●Pb   o

          IO              20

               -4F°(kca 1/m・1)

    図4-8 Me十2HCI一噸Meq2十H2            (Me;2価金属)

なる反応における,標準目由エネ〃ギー変化とH2発生速度との関係

 (500℃㌧HC1流遠 400m8/血1in)

一て08一

Zn

30

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 スズと鉛の場合は若干モの順序がずれているが,スズは塩化水素と反応して塩化第ニス

ズになる可能性もあり,このことが原因になっているとも考えられる。

 しかし,液体金属の種々の物性の気被接触面積へおよぼす影響,あるいは生成塩化物の

電解浴への溶解性など,未知の要因がまだまだ多く,明確な結論を下すにはいたらない。

 2-5 金属選択の基準

 すでに述べてきたように,分解電圧の高いものほど第1段目の反応で多くの竃流が得ら

れ,分解電圧の低いものほどD第1段目の反応で得られる電流は小さい。

 しかし,気液の分散性を良くし,反応面積の増大がはかれるなら,得られる電流値を増

大させることも可能である。

 従って,電解槽の規模によって,選ぶべき金属樋は当然変つてくるものと思われる。

 すなわち,電流密度を若干犠牲にしても十分採算のとれるような生産規模ならば電解電

圧の低いスズ,鉛などを選べばよく,同一床面積にっいて大電流を得なければならないよ

うな場合には,電解竃圧の面を若干譲歩して,亜鉛,カドミウムなどを選ぶことが賢明で

あろう。

 2-6 塩素発生極にっいて

 塩素の発生する陽極における挙動は,いずれの陰極を用いたときでも,すでに報告して

きた塩化水素直接電解法でのものと全く同じで,オーム損以外の分極現象はほとんど観察

さ九なかつた。

第 5 節  結 論

蔽体金属陰極法による壌化水素からの塩素の回収法にっいて,陰極に用いる液体金属種

を中心に検討し,以下の結果を得た。

11)亜鉛と同様,カドミウム,鉛,スズも,本方法における陰極として使用し得る。

〔2}これら陰極を使用して,それぞれの電流一竃位特性をもとめると.

Me十2HC1-MeC12十H2 (Me;2価金属)

(1)

一109一

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なる反応により生成する塩化物の電解反応を示す第1段の領域と,金属リチウムの液体金

属上への析出反応を示す第2段の領域の,2段階が窺測される。

 {31本方法における場合には,第1段の領域を増大させることが必要であり,{11式で示

される反応を促進しなけれぱならない。

 14111試で示される反応の反応速度は,標準自由エネルギー変化量に大きく依存し,変

化量が大きいほど反応速度の増大する傾向がみられる。

151電解槽の目的,規模に応じて適当な液体金属をえらぶことができる。すなわち,電

流密度を若干犠牲にしても十分採算のとれるような生産規模ならば,電解電圧の低くてす

むスズ,鉛などを選ぺばよく、同一床面穂にっいて大電流を得なければならないような場

合にはg電解電圧の面を若干譲歩して,11試の反応速度が大きい亜鉛,カドミウムなどを

週ぶことが賢明であろうと思われる。

司10一

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第 5 章 工 業 イヒへ の 試 み

前輩までa)-超の基拒研究の結果 ,塩化水素を電解して水素と塩束を得る方法の一一つと

して ,電解浴に溶融塩化物を用い ,韓掛 こ乾体金属を使用して .塩化水素ガスをこの陰樋

中に吹き込んで塩化物および水菜を生成せしめ ,この塩化物をただちに同じ除鹿上で電解

して .陽柘から壇某を掠ると同時に ,金属を陰抜上に回収するという新 しい方法に対して

=業化への見適しを得たので ,スケーJVアブナへの第 1段階として ,50A容風のベンチ

スケーJV電解槽を試作し ,その働 特性について(わし(検討した。

電流効率 .槽電圧 ,原料塩化水菜の水菜への変換率などに阻するデ-タは ,ほぼ満足す

べき結果を示し,また .畏卿 こわたる遊転の可能性も曙翌できたので ,これらの結果につ

いて述べる。

第 1 肝 巽験芸恐および方法

1-1 電解装低

木実験に用いた電解芸歴を図5-1に示す。

電解脚 こは陶器 (信楽焼 .上部外径220mm申 ,内径185mm¢,高さ440mm'

下部外径19ロmm申.内径160mm¢)を用い .フタはステンVススチール 〔SUS

-27)製のものを用いた。槽体上部と7夕との間には ,テフロンJiヶキングを設けてガ

ス漏れを防いだ。

電解浴には ,塩化 ・)チウム (58mol 魯)-射 ヒカ))サム (42moIヰ・)混合紬

塩2.2kg (いずれも市販の一級試薬)を用いた。

陰極 として用いる亜鉛には ,市販の純度9見9%の粒状亜鉛5kgを用いた。

騒掛 こは .日本カーボン製の崩鉛を使用した.この電極の見取図を図5I2(a)に示す。

陶瞳の同園には ,6本の塩化水索吹き込み管 (日本カーポy製床束質専管の先端に多孔

性庚索Pll・0(孔の平均径15コJL,気孔率5〔偶)を取付けたもの)を配思した。

この塩化水菜吹き込み管の見取図を図5-20))に示す'

-111-

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qr

s

HC1 ↓

ρHCI

↓瑞(HCD↑

i

}.「ト’・’

、サ、,L2}

1

k

j

i

・≒;喜

50A電解槽 (聞接法)

h

9

f

d

C

a

図5-1

一112一

a

b

C

d

e

f

9

h

i

3

k

l

mn

O

P

q

r

S

HC1吹出し口(多孔性炭素)

液体金属陰極

(溶融亜鉛)

電解浴(LiCI-KCI)

陽 極(黒鉛)

電気炉

スカート

(N.C燃焼管)

陽極リード保護管

(N.C管)

槽体(陶器)

石綿バヲキング

冷却用銅管

炭素管

艮易極リーPド(黒鉛)

テフロン・パツキング

フタ(ステンレススチー

ル,SUS-27製)

ステンレス管

腸極リード棒

 (ステンレ’ス棒)

勲 霞 対

陰極リード棒

(ステンレス)

シリコンゴム栓

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ロ薯

1・l

ili

l’1

iii

i・1

(a)

£

1 ’

0寸寸

4.5φ

一⊥0q

巳 医   一

一1・φトTヨて6φトー

(b}

9鴎

図5-2  腸緻a)およびHCl吹込み管{b)見取図 (単位mm)

 また,亜鉛と塩化水素との反応により生成する水素と,陽極で発生する塩素との結合反

応を防止するたあに,陽極の周囲をスカート(日本化学陶業製NC爆焼管9外径70mmφ,

内径60mmφ)で囲oた。

 加熱にはカンタル炉を用い,Pt-Pt・Rh熟電対を浴中に挿入して温度を測定した。ま

た,温度の制御には自動温度調節器(手野製作所製,E560型)を用いた。

一115P

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直流電源には,セレン整流器を用いた。

 1-2 電解操作

上記粗成の塩および亜鉛を舗せしあた後,浴に電極を浸演し,塩化水素吹き込み管よ

り一定量の塩化水素を溶融亜鉛中に吹き・込みながら電解を行なつた。

 塩化水素の供給方式としては・回分式と連続式のいずれの方式をも採用し得るが,回分

式では極間距離を一定に保って電解を繕続することは困難であるので,本実験ではすべて

連続式で行なoた。

 塩化水素を連続的に供給しながら,電解槽を運転する場合,

Zn十2HC厘=ZnCら十H2

なる化学反応による塩化亜鉛の生成速度と,

    ZnCI2 = Zn 十C】2

(1)

(2)

なる電解反応による塩化亜鉛の消失速度のバヲンスをとることにより,極間距離を一定に

保って電解を継続することができる。

 {1試の反応により生成する塩化亜鉛の生成速度は,水素発生速度を測定することにより

求めることができる。従Oてg原理的には,この水素発生速度を電流単位に換算して得ら

れた電流値で電解を行なうことにより,生成と消聾のバランスをとることができる。

 しかしながら実際には・塩化水素のbubbling,陽極での塩素発生によるfrothing,

さらには蒸気圧等のため,塩化亜鉛は若干損失するので,水素発生速度より求めた計算値

よりもいくぶん小さい電流値で電解を行なわなければならない。本実験では,厳密な物質

収支をもとめるまでにはいたらなかつたが,以上のような点を十分考慮にいれて実験を行

なつた。

第2節結果および考察

 2-1 水素発生速度と塩化水素変痩率

 塩化水素の供給速度と水素発生速度および塩化水素変換率の関係は,表5-1のようで

あウたo

                 -114一

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蓑5-1 塩 化 水 素 変 換 率

HCl供給速度 HZ発生速度 換 許 電 流 値 変 換 率

(me/min) (me/min) (A) (%)

750 4ロ0 55 5i5

なお ,この場合の填化水菜の供給速度としては ,吹き込み管壁からのガス漏れ分を補正

した値をとった。また ,塩化水素変換率の罪出にあたっては ,lH式を計罪の基雅として用

いた。

換昇電舵の価から,本実験に用いた電解何の容寵は ,5D~60Aとなるo

変換率の向上をはかるためには .ガスの吹き込み方式等を中心にさらに検討する必要が

ある。

2-2 問流-fE圧特性

2-211 唾[雄巨雛に よる変化

電貯電流5ロAまでの範囲について ,福間距離を種 変々えてrT'Lji流一喝圧特性を測定した

結果を図5-5に示す(,

瞳間拒醇をせばめることにより.浴抵抗の減少にもとづ く槽電圧の低下がみられるO

極間距軌 土まだまだ短範の可能性があるが .前章までにもたびTL=Ll+述べてきた通 り.鞘

段階では陽極黒鉛の構造になんらの考慮をはらわず ,平滑な円柱状で用いており,生成塩

素ガス気泡の除嶺金属面への其蝕などの危険性があるので ,原理的には水銀法食塩電解の

場合 と同程度にまで極間距離をせばめることができるにもかかわらず ,安全持業を行なう

意味で .叔小唄5mmにとどめた。

2-2-2 温度による変化

電解渇度は ,装置材料の腐食や操作の難易 ,あるいは加熱用電力や電解叩力n:ど,種々

の要束を考慮して最適条件を設定すべきものであり.系統的な研究が必要になってくる。

本葉駿では ,上記の観点に I亜鉛 OT'P419℃)と電解浴 rrr.p552℃)の軌点 .

蒸気圧 ,およD・亜鉛と敬化水菜との反応速度などの考慮を加味して ,奄解浴e)温度を ・

500℃と56ロ℃ とした場合につき検討した。

-115-

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 〉

 陽極電流密度(A/dm2)40          80.       120 160 200

0

図5-5

10       20

     電

a 18皿mb 15mmc 10mm

    30

流 (A)

 d  7mm e  5mm

糧間距離と電流一電圧特性との関係(560℃)

50

 単味の塩化亜鉛の理論分解電圧は,500℃で1.60V,560℃でで.57Vである。

 それぞれの場合にっき亀流一電庫特性を求めた結果を図5-4に示す。

 なお,この場合は9極間距離を18皿mとした場合の結菓である。温度上昇にともなう

槽電圧の低下は,主として浴抵抗の減少忙もとつくものであろう。

一116一

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 〉)

100

&o

丘o

   生o

o

図5-4

10 20

電  流(A)

30

a;500て} b;560て}

40

電解浴温度と電流一電圧特性との関係(極間距離18mm)

50

 2-3 電流効率

  2-3-1 極間距離による変化

極間距離と電流効率との関係は,電解電力の節誠という問題を考えるときにも.きわめ

て重要な因子として常に念頭におくことが必要である。すなわち.電解電力消費の面から

は,できるだけ極間距離を小さくとるオが好ましいわけであるが,反面,竃流効率が極間

距離をせばめることにより低下することは当然予測されるところでありr実瞭に極間距離

を設定する場合には,両者のかねあいが問題になつてくる.

本実験では,棚鰍を6㎜,10mm,18mmとした胎にりいて,囎鞘

一117一

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50A(陽極電流密度200A/dm2)での,陽極での塩素発生の電流効率を求めた。

結集を図5-5に示す。

§

極 間 距 離(mm)

図5-5  極間距離と電流効率との関係

     縄解浴温度500℃,陽桓i電流密度200A/dm2)

 塩素の定量法は従来の逓りである。

極間醜1舳m以上では・麗90%以上の電繭率であるが,6mm・嘔と急激、.

減少して,80鴫程度となる。

  2-5-2 電流密渡にJiる変化

電流密度による電流効率の変化を,極間距離を18mmとした鵬にっいて求めた。

結果を図5-6に示す。

 電流密度の増加にっれて,次第に電流効率は向上していく。

電流効率低下の最大の原因は,やはり亜鉛と塩素との再結合反応によるものと思われる。

これは・浴に溶解した壌素の陰極金属亜鉛面への拡散,あるいは陰極金属亜鉛の浴中への

一118,

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 §

亘oo

且o

10

 電 解 電流(A)

20       30 40

60

50

/o

一へ

20

o {0 呂O        l20      160

陽極電流密度(A/dm2)

200

図5-6  電流密度と電流効率との関係

      (電解浴温慶500℃,極問距離18mm)

拡散によって支配されるものと思われ,この拡散速度は電流鍍によらず一定であるので,

電流密度の小さい領域で,この影響が顕著にあらわれている。

 2-・4 電圧収支

本電解槽作動時における電圧収支を模式的に示すと,図5-7のようになる。

 極間距離は5mmに設定し,オーム損の測定はr電解電流切断法により行なった。

 オーム損による電圧掴失がかなり大きく,今後に残された課題である.

 本実験では,オーム損の内訳を詳細に測定するまでにいたらなかoたが,竃極り一ドの

取り方や接触抵抗の低減など,さらに工夫を加える必要がある。

一119一

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 〉)

ao

丘0

出 40

ZO

0  40       80       1~0

     陽極電流密度(A/dm2う

{1)理論分解電圧十両極での過電圧

(21オー山損

図5-7 電解槽作動時における電圧収支

(電解浴温度560℃,

正60

極間距離5mm)

200

第 5 節  結    論

 塩化水素を電解して水素と塩素を得る方法の一っとして,電解浴に溶融塩化物を用い,

陰極に液体金属を使用して,塩化水素ガスをこの陰極中に吹き込んで塩化物および水素を

生成せしめ,この塩化物をただちに同じ陰極を用いて電解することにより,陽極から塩累

を得ると同時に・金属を陰極上に回収するという新しい方法の工藁化への第1段階として,

50A容量のベンチスケール電解楕を試作L,モの作動特性にっいてくわしく検討して,

以下の結果を得た。

 (il本電解槽は・50Aでの一遣夜連続運転をも含めたヂ→國間の長期実験においても,

なんらの不都合な故障,損傷も生じなかった。

 (21本装置での最大水素発生速度催450m石/1ninで,これは堀解電流60Aに相

当している。

一120一

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塩化水薬の水素への変換率は50も亀鑑である/

(3)電流一屯圧砕陸は瞳間拒転の塩縮とともに向上し,瞳間距離5mm,560℃での

電解に際 して .電解電流 5DAで挿電圧は6.5Vを示した。

14)電流一電圧特性は温度の上昇とともに向上し.これは主として浴珪抗の減少による

ものであろうと思われる。

(51電流効率は垣間臣鞭に依存し,趨間距離1Dmm以上では .ほぼ90%以上の櫨が

手尋られるが ,6_Tnmでは80馬程度となるB

(6)電流効率は電流密産に依存し,電乾密度が増すほど効率は向上する。

電解浴温度500℃ .榛間距離18mmでの電解に際して ,電解電流5DA (陽転電流

密度20DA/dm2 )で電流効率として90屯なる値が得られた。

I71本電解槽作動時の電圧収支をもとめ ,オーム垣低減の必要性を再確認した。

-121・-

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第 6 章 反応等を用いる電解法の検討

液体金属陰届法により塩化水素から塩素と水素を回収する方法について ,前審までに葡

述々べてきた。

本車においては .この方法のスケーJL,7,7'への予備段階 として ,両塩で発生する塩素

と水菜の再結合防止 .電解振作の能率向上 を 目的 として .塩化水素と液体金属を反応さ

せて金属塩化物と水敢 l胡 部分を ,電解義政とは別個に設値して ,両部分の間を ,迎適

管によって接続する方式の装圧を考案 し,液体金属として亜鉛を用い ,包々検討を加えた

妨合の結果について述べる。

弟 1 筋 実静基層および方法

表実験に併用した菱腔を図6-1に示すB木丑厨は ,原理的には第 5葺および弟4費で

述べた装匿となんらかねるところはない.,しかし .本真正の輯合 .電解部と反応部 とが別

々になっていて ,これらが2つの遵油管によって蓮結されてお り.披体金属と電解俗の界

面を回に示してあるように2つの遵通菅の中間に位債するように保って電解を行なうので .

発生する水菜と塩某の再結合を完全に防 ぐことができ ,また ,ガスの吹き込みによる陰瞳

金属面 (電解部)のゆれを極力防 ぐことができるOまた ,スケ ーJVT プ7̀の鄭皆で .電解

部は電解託 ,反応熱 ま反応部 と,それぞれ別個に検討し ,それぞれの免適条件を見出せば ,

装碇全体としての最適条件がただちにもとまるという利点も有る。

さて ,このような共催を用いて継続して電解を行なうためには ,亜鉛イオ./の電飾 中

における拡散速腔が電瞳反応速度にくらぺて速け九は ,反応部で生成する塩化亜鉛の生成

速度にみあうだけの喝充で電解を行なえばよい。すなわち ,このことによって塩化亜鉛の

生成速度と喝解による満費速度のJ{7I/スをとることができる.

生成速度と哨女達皮の′tヲンスがとれれは ,陰極液体金属の全丑も一定に保てることに

なり.陰瞳金属面の上下の変動がなく.撞間臣難が一定に保てるので ,長時間の-定条件

下の逓耗電解が可能となる。

-122-

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C!2

HC1 ↓

d

9

H2(HC1)

a

b

C

d

e

f

9

電 解 浴

(ZnC12-KC董浴)

陽 極(黒鉛)

陰 極

 (液体亜鉛)

陰極リード

 (ステンレス・スチール)

陰極リードの保護管

HC 1吹き込み管(磁製)

容 器

 (ノくイ1ノフクスガラス)

(陽楕みかけ面積約1cm2,陰極みかけ面積約2cm2)

図6-1 実験装置

司23一

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 本実験においては,勢5章.第4章および第5章で用いた塩化リチウムー塩化カリウム

混合溶融塩を用いずに、塩化亜鉛(54mo 1る)一塩化カリウム(46mo 1%)混合

溶融塩を用いたが,これにはそれほど深い意味はなく,蒸気圧の且鮫的大きい塩化亜鉛が

電解浴中に高濃度に存在する楊合の,電解時の塩化亜鉛の損失がどの程度であるかを観察

することを意図したためというだけである。

陽極には黒鉛を使用した。電解および測定の方法は従来の通りである。

第 2 節  結果および考察

 2-1 極間距離と椿電圧との関係

 極贋距寵を4mm,5mm,2mmとした場合にっいて、電流と槽電圧の関係を求めた

結果を図6-2に示す。                         、

 〉

4.o

ユ0

恥o

o

図6」・2

50             100            150

     陽極曜流密度(へ/dm2)

a‘2mm, b35mm, c;4mm 槽電圧と極間距離との関係

       一124一

200

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 この図から,極間距離を小さくしていくにっれて槽電圧の低下することがわかる。

 なお,この実験で2mmの極間距籠の場合には,高電流密度になると,陽極で発生する

塩素ガスの気抱が液体金属陰極面に接触するような現象がみられた。

 電流効率を求めることはしなかったが9なんら細工をほどこさない平滑な黒鉛樟を使用

した場合には,操藁の安全性などを考慮すると,塩素ガスの金属面への接触が全くみられ

ないような,4mm程度の極間距離は必要であると思われる。

2-2 竃圧収支

2-1の結果から,極間距離4mmの場合にっいて電圧収支を求めた。

得られた結果を図6-5に示す。

  3、0

9)

  10

LO

o

  陰亟電流密度(A/dm2)

25         50         75 100

   ω

   {31

図6-5

}ゆ

}13】

50       100       150       200

     陽極電流密度(A/dm2)

分解電圧          {21両極での過電圧

導体(リード)中のオーム拙 ㈲電解浴中のオーム損

電解槽作動時における電圧収支(500℃)

一125一

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 全槽電圧のうちgオーム損の占める割合はかなり大きく,なかでも電解浴のオーム掴が

かなり大きい・電解浴の亀導度の向上という問題も,今後の大きな課題である。

 2-5 塩化水素の水素への変換率

本実験では,変換率の向上という問題はさておいて.塩化亜鉛の生成速度そのものを把

握すれば十分であると考え,塩化水素の吹き込みに,従来のような多孔性炭素を用いる

ことはせず・磁製管をモのまま使用した。従って結果は従来の変換率にくらべてはるかに

低かったカ㌧滲考のために表6-1に示しておく。低い結果しか得られなかつたのは,気

液の接触面積の相違が大きな原因になつたものと考えられる。

表6-1 塩化水素変換率

供給HCI量im〃tnin)

生成H2量i皿〃盲nin)

変 換(%)串

go

P80

皇5

P1.0

2〔L6

P2.2

 2-4 電解の継続

 本実験装置では,原料供給方式として,回分式,連続式のいずれの方式をも採用するこ

とカできるカ㍉ここでは特に連続式の場合にっいて検尉した。

表6-1の結果から・塩化水素供給量を90m!/m量n程度に保つた場合,水素発生

鉦は郎m〃mi・であり,この値から塩化亜鉛の生成速度を換算して,塩化亜鉛につ

いての物質収支のっり合う電解電流を算出すると約1,2Aとなる。従つて,理論的には,

塩化水素供給丑を90m4/min醸に保つた坦合には,1.2Aで電解を結続すれば,

長期にわたる電解操作が可能である。

 しかし,本実験に用いた塩化亜鉛(54mo1%)一塩化カリウム(46mo 1%)混

合溶融塩では蒸気圧の比較的高い塩化亜鉛が電解醒中に高濃度に存在し,蒸発による損失

のおそれがあること・飛沫同伴によoて浴自体が若干減少するおそれもあることなどの点

を考慮して・1・1Aでの遮続電解を行な,た。

 約5時間電解を継続Lて,竃解槽内の状態を観察したが.液体金属亜鉛と裕解浴の界面

一126一

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の位置はほぼ一定であり.さらに長期にわたる同「条件下での連続電解が可能であるもの

と思われる。

第 5 節  電解型式の検討

 第5章で述べた50A容量の間接電解槽は,第1編第8章で述べた20A容且の直接電

解槽を基本にして作製したものであり,陰極金属面の,塩化水素のbubblingによる

揺れが完全には防止できなかったこと,リード部分の接触抵抗を除くことがでぎなかつた

こと,などの種々の不都合を生じたことはいなめない。

 今後,本方法の工榮化への段階としては,原料塩化水素の水素への変換率の向上、電解

槽容量の増大,陰極面の揺れの防止,ならびに操業の安全性を考慮すればg本章で検討し

たような,反応部と電解部とを別々にした型式の電解棺を作製するのが好ましいようであ

るo

 以上のような観点から置液体金属陰極法により塩化水素から塩素と水素を回収するため

の電解槽モデルとしてヂー応図6-4に示すような章・のが考えられる。

 反応部では塩化水素ガスと液体金属との接触時間を延長して,塩化水素の水素への変換

率を増すために,たて長にする。

 電解部では幅を広くとOて,電解を効率よく行なわしb,かっ陰極面の揺れも極力防止

できるようになつているo

反応部で生成した金属塩化物はg連通管を通って電解部に達し,ここで電解されること

になる。

 しかしながら,このような型式の電解櫓の作製には,構成材料の面でまだまだ問題点が

多く残されており,今後の躁題である。

一127一

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H2←

HCI一

Cl2

C

b

a

液体金属陰橦(亜鉛、カドミウム……}・・

 陽 極(黒

c 電 解 浴

図6-4 電解槽モデル

第 3 筋  結  論

 塩化水素と液体金属を反応させて金属塩化物と水素とにする部分を,電解装置とは別個

に設置して・両部分の間を連通管によoて接続する方式の装置を考案し,液体金属として

亜鉛を・電解浴としては,塩化亜鉛(54mo 1%)一塩化カリウム(46mo l%)混合

溶融塩を用いて検討し,以下の結果を得た。

 ω本装置で安全に電解するためには,4mmの極間距離を必要とする。

 ②本電解槽作動時の電圧収支を,極聞距離4mmの場合にっいて求あると,陽極電流

密度200へ/dm2での電解で槽電圧は5.5Vで,このうち45%はオー山損に起因す

るものであり,特に竃解浴部分に起因するオ幅ム損が大きい。

一128一

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(31表装硬を用いて ,5時間以上の同一条件下の連続電解が可能であった。さらfE長期

の連続電解も十分に可能である。

L4)禾方法の工業化の良階において皇ましいと患われる電柵 モチ JL,を提案した。

今後に残された許題としては .塩化水素と金属との反応部分を ,変換率の向上と金昇塩

化物生成速度の増大という両面から重点的に検討していくこと,さらに槽電圧の低下をは

かるぺ く陽極黒鉛の構造と電解浴組成について検討していくことなどがあり,多くの研究

の余地がある。

-129-

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第 7章 本方法と他方法との比較

 第1編第5章第5節において,塩化水素ガスの直接電解により塩素と水累を得る方法と,

既存の他方法との比岐を8電解電流密度と端子電圧との関係を申心にすでに諭じた。

 本章では.これらの方法にさらに本編で詳細に検肘してきた液体金属陰極法を加えて,

総括的な比鮫を行なう。

 図アー1に・de Nora槽・酸化電解法,塩化水素ガス直接電解法,液体金属陰極法

の四っの方法における,電解電流密度と端子電圧との関係を示す。

高電流密度で電解槽を運転する場合に,溶融塩を電解浴として用いる,著者の提案『した

4.o

ユ0

9)

出 ao

LO

0

      40      罰      120      160

           陰極亀流密度(4/dm・)

  X deNora槽   O 塩化水素ガス直接電解法  ● 酸化電解法     △ 液体金属陰極法      ・

     (いずれもオーム担を補正し虎値)

図7-1 種々の方法における,電解電流一端子電圧特性の比較

             司30輌

200

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二っの方法,塩化水素ガス直接電解法および液体金属陰極法の特徴が顕著に発揮できるこ

とがわかるo

 低竃流密度領域では,端子電圧の面で酸化電解法の方が有望のようである。

 しかし,この場合には・陰極に酸素を吹き込んで誌極剤として電極反応に関与させる方

式をとつており,総反応は,

4HC1十〇2ニ2q2十2H20 (1)

となる。従って.著者の捉案した二方法では陰極でzk素ボ得られるが,酸化電解法で1ま陰極

から水素を得ることがでぎない。また,酸化電解法では,100へ/dm2程度の璽流で

すでに限界電流に連することが予想でき,これ以上の高電流密度での電解は不可能と思わ

れる。

 壌化水素ガス直接霞解法と液体金属陰極法のうち,いずれがすぐれ.いずれが劣るかと

いうことは,いちがいには判断しにくい。

 それぞれの特色をよく把握して,適宜両者の選択をすることが望ましい。

 理論分解電圧は直接電解法の場合の方が低くてすみ,40A/dm2程度の低電流密度

での電解では,端子電圧は液体金属陰極法にくらべて小さい。しかし,100A/dm2

というような大きい電流密度になると分極が大きくなつて,液体金属陰極法の場合の端子

電圧よりも大きくなり,不利となる。また,直接電解法の場合,水素と塩素の再結合を防

ぐための隔膜が不可欠であり,大電流密度での電解ではこれによるオーム損が問題となつ

てくる。

 液体金属陰極法では,本桐にすでに述べたごとくg隔膜の必要がなく,従つてオーム損

による電圧損失が直接電解法の場合にくらべていちじるしく小さくなる。

 結局、小電流密度での電解では直接電解法が有利,大電流密度での電解では液体金属陰

極法が有利ということになろう。

また,直接電解法では若干取扱いの面倒なガス拡散型電極を用いなければならず,液体

金屈陰極法ではその必要がないというような工学的な因子も当然考慮には入れるぺきであ

ろう魯

一151一

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第 8章 総 括

 著者は,塩化水素から電解法にようて塩素を回収する方法として,第1編で述べた,多

孔性電極を用いた塩化水素ガスの直接電解法とは原理をことにした,液体金属を陰極とし

て用いる電解法を考案し,碁礎研究からペンチ暑ケr卿)研究まで,系統的にその可能性

を検討した結果にっいて,詳細に論じてきた。

 本幅を通じて得られた主な結諭をえらびだして,ここに列挙し,本編の結びにかえたい。

 今後・本方法の工業的規笹への発展過程において,必ず参考になるものと信ずる。

 α}塩化水素を電解して水素と塩素を得る方法の一っとして,電解浴に溶融塩化物を用

い・陰極に液体金属を使用して,壌化水素ガスをこの陰極中に吹き込んで塩化物および水

素を生成せしめ・この塩化物をただちに同じ陰樋上で電解して,陽極から塩素を得ると同

時に,金属を陰極上に回収するという新しい方法を提案した●

 〔21本方法を,液体金属として亜鉛を用いた場合にっいて詳細に検討し重溶融亜鉛と塩

化水素との反応性,陰極および陽極の電流一電位特性,電解槽作動時の竃圧収支,陽極に

おける塩素発生の電流劫率などのデータから判断して,工業的規模への発展の可能性を有

するとの結論を得た。

 {3〕亜鉛と同様,カドミウム,鉛,スズも,本方法における験極として使用し得る。

 〔41これら,種々の液体金属陰極を使用して,それぞれの電流一電位特性をもとめると,

Me十2HC1→MeC1詔十H2(Me;2価金属)

(1)

なる反応により生成する塩化物の電解反応を示す第1殿の領域と,金属リチウムの液体金

属上への析出反応を示す第2段の領域の,2段階が観測され,本方法における場合には,

第1段の領域を増大させることが必要である。

 すなわち冒ω式で示される反応を促進しなければならない。

 15U1試で示される反応の反応速度は,当該反応の標準自由エネ〃ギー変化量に大きく

依存しg変化量が大きいほど反応速度の増大する傾向がみられる。

161電解櫓の目的・規模に応じて適当な液体金属をえらぶことができる.すなわち,電

司52r一

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洗密度を若干也軽にLLでも十分採事のとれるような生産規模ならば ,電解電圧の低 くてす

むスズ .鉛などを選べばよ(,同一床面棟について大電酷を得なければならないような壊

合には ,屯軒電圧の面を若干譲歩して.亜叙 ,カ ドミウムなどを選ぶことが賢明であろう

と思われる。

(7)本方法の工業化への第一段階として,5DA容丑のベンチスケ ール電解槽を試作 し.

その作動特性についてくわしく検討~した.

最大水菜発生速度は45One/mi nで ,これは屯解電流 dDAに相当している.

電流一電圧特性は ,瞳間距無の短縮 ,温度の上昇とともに向上し,轟聞距軽5mm,

560℃での電解に際して .屯解電流5OAて ,槽電圧は6.5Vを示した。

電流効軍は ,唾間臣巨錐の短縮 .電流密度の減少とともに減少し ,電解浴濁度58D℃ 一

垣間距離18mm,電解電流50A 僻 庵電流密度20DA/dm2)での喝解に際して

9ロ%なる塩が得られた●

本電解槽は ,50Aでの「昆夜連続運転をも含めた .一丁潤間の長期実巌においても .な

んらの不都合な故障 .損傷も生 じなかった.

(81塩化水講と液体金属を反応させて金属塩化物と水素とにする部分を .電解某匿とは

別個に設置して ,両部分の間を避適菅によって接続する方式の茸匿を考案 ,試作して ,長

時間の連続電解に成功 した.また .本方法の今後の進展の方向を缶哩するものとして ,皮

応部と電解部とを別々にした型式の唱解槽モデルを提案した,

(9)第 1絢で述べた直接法や既存の他方法との比較をして ,それぞれの長短について韓

じた。

ー155-

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第 3編 総括ならびに結論

 有機塩素化工業における副生塩化水素の需給のアンバランスの解消策として,副生塩化

水素から塩素を回収することによりこれを循環使用しなければならないという,工業的要

請が生じ.これに対処するために塩化水素の電解法を研究することが本研究の目的であウ

たo

 従来,塩化水素の電解は,塩酸水溶液の竃解にかぎられており,このような場合にっい

ては,すでに世界各国で,もはや改良の余地がないとさえ思えるぐらいに研究,開発しつ

くされてきた。

 著者は.近年新しい電解質として注目されつつある溶融塩に着目し、これを電解浴とし

て,水溶液系よりも高温度な領域で電解を行なう,第1編で述べた直接電解法,第2編で

述べた間接電解法,という2っのそれモれ原理をことにする新しい型式の推化水素電解法

を考案し,研究を行なつた結果,これら2方法がいずれも,工業化への可能性を有すると

の結論を得た。

 本論文は,これち2方法に関する研究結果についてのものである。

第1編においては,塩化水素からの塩素の回収法として,電解浴に塩化物溶融塩を用い

て,塩化水素ガスの直接電解により,陽極から塩累、陰極から水素を得る新しい方法を提

案し,さらに,下記のような結果を述べた。

 11}本方法による,塩素および水素の発生に対する電流効率は,200A/dm2にお

いても,80%以上の値が得ら.れ,この値も,装置の改良により,まだまだ向上させ得る

ものと思われる。

 {21供給塩化水素の,電解による水素および塩素への変換率を算出し●200A/dm2

で,24.0%なる値を得たo

 {3〕電解浴に,20時間の連続作動後においても,損失その他の変化はほとんどみとめ

られず,半永久的に使用し徳る可能性を得た.

 {4〕実験用電解槽での●作動時の電圧収支を求め,スケールア,プへの可能性を見出し

た。

一154庸

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15}既存の他方法と比較し,本方法の有利さを確認した。

㈲ 陽極での電位決定反応は.

2C1-= C12 十2e

であり,この反応は可逆的で,竜極電位と塩素分圧との間ではネルンスト式で示される闘

係が満足される。

 {7)陰極での竃位決定反応は

HC】十e==1/2 H2十C「

であるが,この反応は炭素躍極上では可逆性にとぼしく,塩化水素と水素の間の分圧の関

系を変化させた場合,・陰極電位はネルンスト式に従oた応答を示さない。

 {81陽極での塩素発生反応の過電圧は非常に小さくg現段階においては大きな問題には

 ならない。

 酬陰嫡での塩化水素還元反応の過電圧は比較的大きぐ.これは主として、吸著過程を

も含めた物質移動過程の遅れに起因するものである。

 α①陰極電流密度100へ/dm2坦下での電解では,塩化水素ガスの直接遺元反応が

陰極主反応となり裕るが,この場合には,気体邑液体一固体の三相界面の形成を十分心が

けねばならない。

 αn いったん陰極炭素上にリチウムの析出がはじまると,電極性能は劣化する.この堤

合は主としてリチウムの析出とそれにっつくリチウムと塩化水素の純化学的反応による水素

の発生という経路で反応が進行するようになる。

 働 陰極部でリチウムの析出が顕著にみとめられるようになる電流値,すなわち●最大

許容電解電流〔1皿」の大小は,供給塩化水素ガスの流量に依存する。

 ㈲ リチウムの析出をともなった反応の場合,電流一電圧特性は,電解浴へ露出した部

分の陰極の見かけの体積に依存する。従って,体積電流密度なる概念を導入することによ

 り電流一電圧特性を説明することができる。

 ㈹ パヲジウムまたは白金を,電解浴中に塩化物の形で添加あるいは陰極炭素上に金属

の形で添加すればψ陰極過電圧をいちじるしく減少させることができる。

  ㈲ 20A容量のベンチスケール電解槽を試作し,モの作動特性についてくわしく検討

 した結果.工業的規模への発展の可能性を見出した。

一155一

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u位 CaC)2-NaCl系 ,ECl-ZnCl2系 ,NaC1-KCl-ZnC12系は ル ずれ

ち .LiCl-ECI系にかわる電解浴 として用いることが可能で .取扱い操作も比較的容

易であるoこれらの掛 ま .LiCl-KCl系に くらぺて安価な点は有利であるが ,電導度 ,

浴の安定性 ,副反応の起 りやすいことなどの点で劣るようである。

第2絹においては .境化水菜を電解して水素 と塩素を得る方法の一つ として .電解浴に

溶融塩化物を用い,陰極に液体金属を使用して ,塩化水素ガスをこの陰極中に吹きこんで

塩化物および水菜を生成せしめ ,この塩化物をただちに同じ陰極上で電解して ,腸瞳から

塩素を得ると同時に ,金属を壌塩上に回収するという新しい方法を提案 し,さらに ,下記

のような結果を述べた。

uT)本方法を ,液体金属 として亜鉛を用いた歩合について詳細に検討し ,溶融亜鉛 と塩

化水菜との反応 ,陰極およこ偶 瞳の電流一電位特性 ,電解槽作動時の電圧収支 ,陽転にお

ける塩某発生の電流効率などのデータから判断して .工業的規模への発展の可能性を有す

るとの結論を得た。

旭 亜鉛と同坪 ,カドミサ▲,鉛 ,スズも ,本方法における陰極として使用し得る。

u9 これら,稜々の液体金属陰極を使用して ,それぞれの屯統一奄位特性をもとめると.

Me+ 2HCl- MeCl,+H2

(Me;2価金属)

なる反応により生成する塩化物の電解反応を示す第1段の髄域 と.金属サチサムの液体金

属上への析出反応を示す第2段の領域の ,2段階が観測され ,本方法における場合には ,

第1段の領域を増大させることが必要である。

すなわち .上式で示される反応を促進しなければならないO

倒 上左で示される反応の反応速度は ,当該反応の操車自由エネJI/ギー変化免に大きく

依存し 、変化貴が大きいほど反応速度の増大する傾向がみられる。

ClJ喝解緒の日的 ,規模に応じて適当な液体金属をえらぶことができる。すなわち ,電

流密度を若干牡牡にしても十分採集のとれるJ:うな生産規範ならば ,取解電圧の低 くてす

むスズ ,銘などを連ぺばよく.同一床面疎について大喝流を得なければならないような場

合には ,電解電圧a)面を若干譲歩して ,亜鉛 .カドミウムなどを選ぶことが賢明であろう

と思われる。

田 本方法の工業化への窮一段階 として ,5DA容丑のベンチスケ-JV電解槽を試作し ,

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モの作動特性についてくわしく検詞した。

 最大水素発生速度は450m4戸ninで,これは電解電流60Aに相当している。

 電流一電圧特性ぱ,極間距離の短縮,温度の上昇とともに向上し,極間距離5mm,

560℃での電解に際して,電解電流50Aで,槽電圧は6.5Vを示した。

 亀流効率は,極間距鉾の短縮,電流密度の減少とともに減少い電解浴温度500℃,

極聞距離18mm,電解電流50A(陽極電流密度200A/dm2)での電解に際して

90鴫なる値が得られた。

 本電解槽ば,50Aでの一昼夜連続運転をも含あた,→温間の長期実験においても,な

んらの不都合な故障、損傷も生じなかった。

 ㈱ 塩化水累と液体金属を反応させて金属塩化物と水素とにする部分をg電解装置とは

別個に設置して,両部分の問を迎通管によoて接続する方式の装置を考案,試作して,長

時聞の連続電解に成功した。また,本方法の今後の進展の方向を指唆するものとして,反

応部と電解部とを別々にした型式の電解槽毛デμを提案した。

⑳第1編で述べた直接法や既存の他方法との比較をしてそれぞれの畏短について論じ

た。

ρ

一157一

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謝 辞

 本研究は著者が昭和40年4月京都大学大学院工学研究科博士課程に進学以来、指導教

授である吉沢四郎先生のあたたかい御指導と御鞭捷のもとに遂行されたものである。

 また,その聞.京都大学助教授竹原善一郎先生の御懇切なる御指導をいただいた。

 ここに記して深甚の謝意を表する次第である。

 本研究の実験遂行には,関東電化工業株式会社の高瀬理三郎専務をはじめとする関係各

位,とくに,種々御協力いただいた,岡和吉氏(当時吉沢研究室派遣)の好意あふれる御

援助をいただいた。ここに付記して心よりの謝意を表する次第である。

 最後に、工業化学教室吉沢研究室の皆々様に数々の御便宜をあたえていただいたことに

対して雇謝を捧げる。

司58一