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第7回 東京都輸血療法研究会
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第7回 東京都輸血療法研究会
輸血を行った後に肺における反応が起こる疾患、
Pulmonary transfusion reaction といって、輸血の
反応が肺に起こってくるものとして1から6まで挙
げられます。アレルギー/アナフィラキシー反応も肺
に病原を起こして呼吸困難を呈しますし、T R A L I、
循環負荷である T A C O というものがあります。
初めて聞かれる方もいらっしゃるかと思います
が、こういうことについてお話ししていきたいと思
います。
さらに輸血関連呼吸困難という定義もあります。
細菌感染症、溶血性の輸血輸血反応があります。
あまりなじみのない輸血関連呼吸困難というのが
ありまして、Transfusion Associated Dyspnea、T
ADと略します。TADは輸血を行って、その後に
発症する呼吸困難ですが、T R A L I や T A C O とい
うアレルギー反応以外のものということで、どちら
かというとその他ということになりますので、これ
は除外しましょう。
それでほかの5項目について鑑別しますと、輸血
副作用報告項目というものがありまして 16 項目あ
ります。この 16 項目の症状の中で、呼吸困難を呈
する疾患として急性と遅延型の溶血性反応がありま
す。こういうものが呼吸困難を呈するというものが
ありますが、それぞれの病態ごとに他の症状が違っています。今回は、その中でも非常に重症な死亡例
も出る T R A L I と T A C O について判別していきたいと思います。
まず T R A L I とは何ぞやということです。輸血
関 連 急 性 肺 障 害、Transfusion Related Acute
Lung Injury の略で T R A L I といいます。
これは輸血後6時間以内に新たに起こる両側の肺
浸潤を伴う急性の呼吸不全であり、心不全による肺
水腫を除くということで、非心原性の肺水腫といえ
ます。
スライド 3
スライド 4
スライド 5
先ほどから輸血の副作用の中でいろいろ出てい
ますが、私に与えられたテーマが輸血後に呼吸不
全、呼吸器障害を来す疾患であり合併症であります
T R A L I と T A C O についてということでお送りし
ていきたいと思います。
先ほど血液センターから報告がありましたけれ
ども、非溶血性の輸血副作用の年次別の結果です。
T R A L I、輸血関連急性肺障害と呼吸困難を合わせ
ると結構な数が例年発生していることがわかると思
います。
われわれは臨床的に輸血を行うわけですけれど
も、輸血を行うまでは非常にクリアだった肺が輸血
をした後に急速に真っ白けの肺になって呼吸困難を
呈する、いったい何が起こっているのだろうという
ことで、いろいろ病態を鑑別する必要があります。
スライド 1
スライド 2
3.輸血関連急性肺障害(TRALI)および 輸血関連循環負荷(TACO)について
虎の門病院 輸血部 牧野 茂義
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第7回 東京都輸血療法研究会
T R A L I はどういう機序で起こってきて、なぜあ
んなに肺が真っ白けになるのでしょう。肺の毛細血
管内皮障害が起こって、血管の中から水分、タンパ
ク成分の透過性が非常に亢進して肺に水がたまって
くる病態が T R A L I ですが、その発症の理由とし
て、免疫学的機序と非免疫学的機序が考えられてい
ます。
白血球抗体、抗HLA抗体や抗顆粒球抗体等、こ
ういう抗白血球抗体が関係している免疫学的機序
と、それ以外のものが関係している機序が考えられ
ています。
最初に免疫学的機序としては、血液製剤の中に含まれて
いる抗体が患者さんの白血球の抗原と反応して、そこで活
性化されて肺の毛細血管内皮細胞に集まって、いろいろな
ものを分泌し、内皮細胞を障害して、血液の中から血管の
外、つまり肺の中に水分が染みだしているということで呼
吸困難が起こるわけです。
それから、プライミングまたは2段階発症説というもの
があります。もともと患者さんの疾患、病態で好中球がプ
ライミングされた状態になっていて、そこに血液製剤の中
に含まれる例えば生理活性物質がこのプライミングされた
好球中を活性化して、そこで分泌されるものが内皮障害を
起こして肺の中に水がたまってくると呼吸困難が起こって
くるという2つの説がいわれています。
まだ、はっきりと決定的なことはいえませんが、そうい
う機序で起こっている T R A L I という輸血の合併症があり
ます。
スライド 8 ー 1
スライド 8 ー 2、8 ー 3
これが T R A L I の定義で、2004 年にカナダでこ
の T R A L I の診断基準が限定されたのですが、急性
に起こってくる肺の障害であり、低酸素症を呈して、
心臓そのもの、左心房の圧は上昇しない、つまり循
環負荷ではない、心臓が悪いわけではないというこ
とです。また、T R A L I を起こす前には肺障害が存
在しない人が輸血を行った後に出現してくる肺障害
であるということ、そういう反応が輸血後6時間以
内に発症してくるということ、急性の肺障害を起こ
す危険因子がないということで、T R A L I の定義を
されています。危険因子があるもの、つまりもとも
と肺炎があるとか、敗血症があるとかというものは possible T R A L I ということで分けています。
では実際、本邦において T R A L I がどれくらい起
こっているのか。2004 年からの数を見てみますと、
40 から 60 ぐらいありまして、T R A L I と possible
T R A L I の累計で見ると、50 から 60 症例が発症
しています。
この中で亡くなられた方は4例(2004 年)、1 例
(2005 年)、5 例(2006 年)にわたって報告されて
います。つまり、T R A L I は亡くなる可能性のある
合併症だということです。欧米から報告されている
輸血による死亡例の第1位が T R A L I で、非常に大
きな問題となっています。
T R A L I が血液製剤でどれくらい発症するかとい
うと、複数の製剤は省いているので、単剤ではっきりしているものだけを表しています。赤血球製剤で
あれば 10 万件に 0.5 くらい、血小板であれば 10 万件に 0.8 ちょっとということで、頻度としては非常に
少ないわけですけれども、明らかにこういう形で起こってきているわけです。
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さらに詳しく見ると、新たに低酸素血症、呼吸困
難が出現した場合、胸の写真を撮ってみると、肺
うっ血を伴う陰影、浸潤影が出てきており、輸血
後6時間以内にこういうことが起こってきた時に、
T A C O と T R A L I、どちらかを判別するためには
肺胞洗浄液を採取し、その中に含まれる蛋白質が多
いのか少ないのかで判断します。例えば T R A L I の
場合は血管内皮障害ですから、洗浄液の中に蛋白
質も出てきますので、その比を見ると非常に高い
わけです。こういうものがイエスだということは、
T R A L I の1つの所見でありますし、肺の動脈の圧
が高いものは心臓が悪いということで、T A C O のほうに入ります。
それから BNP は心臓のダメージを反映してい
るので、それが低い場合は T R A L I、高い場合は
T A C O を疑うということです。また、利尿剤に非
常に反応するというのが T A C O の1つの特徴で、
ボリュームが多いわけですから、利尿剤でおしっこ
を出してやれば肺水腫、呼吸困難はよくなってくる
可能性が高いわけです。
しかしながら、T R A L I の場合はむしろ血管内が
脱水気味なので、利尿剤を使うと、かえって悪くな
る可能性があるので、この点は注意が必要です。
心臓は大きくなってくるのが T A C O で、大きく
ならないのが T R A L I という違いがあります。
この BNP が診断に役立つということがあります。
T A C O と T R A L I で BNP の輸血前後の動きは結
構 T A C O のほうは大きく上昇している症例が多い
のですが、T R A L I の場合も若干上昇している症例
もありますし、結構増えているのもありますので、
BNP だけで診断するのは非常に難しいわけです。
前後、つまり増加率で見てみると若干差がありま
して、この差が 1.5 以上上昇しているものが心臓が
悪いということで、鑑別の時には役立ちそうです。
スライド 13
スライド 12
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それに対して T A C O というものがあります。輸血
関連の循環負荷、Transfusion Associated Circulatory
Overload を 略 し て T A C O と い い ま す。 こ の
T A C O とは何ぞやというと循環負荷ということで
す。つまりもともとあまり心臓がよくない、もしく
は高齢者、子どもなど、あまり余裕がない人に輸血
を急速に行うと、循環負荷が起こって心不全になっ
て肺水腫を起こしてくるという、それが病態です。
症状的には急性の呼吸困難、頻脈、循環負荷なの
で血圧は上昇して、肺水腫を起こしてくる。非常に
水バランスが悪いということで、診断に BNP とい
う脳性ナトリウム利尿ポリペプチドが行われますが、心機能障害が起こるとこれが上昇するということ
で、診断の1つのバロメーターとして用いられています。
T A C O のように心原性の肺水腫で循環負荷に伴う肺水腫と、
T R A L I のように免疫の機序が関係するような非心原性の肺水腫
では、肺の中の肺胞に水がたまってきますけれども、その理由が
若干違っています。
T A C O の場合は、血管の中にボリュームが増えるということ
で、肺胞に染みだしてきます。しかし、非心原性の肺水腫の場合は、
免疫学的機序、生理活性物質まで血管内皮障害が起こって、血管
の中のものが肺のほうに出てきます。その場合、血管の中そのも
のは非常に水分が少ない状態なので、血圧が低下することがあり
ます。逆に T A C O の場合は循環負荷がありますので、血圧は高いという違いがあります。
症状別に見てみましょう。T R A L I と T A C O の
鑑別でいうと、発症の時期は若干 T A C O のほうが
早いということです。呼吸困難があって、T R A L I
のほうは免疫反応という部分が関与しているので、
熱を出すことが多い。T A C O の場合は心臓なので、
発熱はそんなに多くありません。血圧は、T R A L I
のほうは血管内は脱水の方向にいくので、下がるこ
とがある。T A C O の場合は血圧はもちろん上がっ
てくる。こういう違いが臨床的にはありますが、必
ずしもクリアに分かれる症例ばかりではなくて、
T R A L I で血圧が上がる症例もあれば、T A C O で
血圧が下がる症例はあまりありませんが、非常にクリアにはいかない症例があります。
スライド 9 ー 1
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T R A L I を起こす危険因子というものがあります
が、患者さんの状況としては重症な敗血症があると
起こしやすいのではないかと思います。また、輸血
する血液製剤の危険因子を考察したところ、抗HL
A抗体や顆粒球抗体を含む血液製剤が入るとどうも
起こってきそうだということです。そういう血漿を
多く含むものがあるので、これが1つ問題だろうと
思います。
またクラスⅡの抗HLA抗体は、女性のドナーか
ら採血した血漿製剤がやはり抗体陽性が多いという
ことがいわれています。特に妊娠回数に伴って抗体
陽性率が高くなるということがあるので、この辺りが1つ対策になってくるわけです。
実際 T R A L I を起こした血液製剤で、男性から採ったものか、女性から採ったものかを見てみますと、
血小板採血は男性のほうが圧倒的に多いわけですけれども、T R A L I を起こしてくる製剤は女性が多いわ
けです。ですから、抗HLA抗体が女性が多いということで、こういうことが起こっているのかもしれ
ません。
予防策としては、抗白血球抗体が輸血されるのを
回避するのが1つの方向だろうと思われます。効果
的なものとして、凍結血漿には男性の血漿を使用す
るということですが、血液を注文する時に男性の血
液をくださいと注文するのはなかなか難しいわけで
す。しかし、1つの方法としては、5単位製剤や1
単位製剤は結構女性から採ることが多いということ
があるので、2単位製剤を使いましょう。
それから先ほどの報告でもありましたけれども、
アレルギー反応が多いというのがありまして、血漿
が多いのが問題ではないかということで、血漿を減
らした製剤を用いることが T R A L I の予防にもなるのではないかということです。洗浄血小板、洗浄赤
血球製剤を用いるのも、予防策になるのではないかということです。
それから、1度 T R A L I を起こした可能性のあるドナーは排除することが、再発防止の中の1つの方
法であり、これは実際可能だと思います。
また、血液製剤の中の抗HLA抗体を検査して、それが陽性の者は省いていくのも1つの方法だろう
と思います。しかし、そういうものを省いていくと、血小板製剤の供給が難しくなるので完全にはでき
ませんが、実験レベルではこういうことで調べていって、それに抗体や患者さんと抗体をミックスした
時の反応というところまでやって、完全にそれをパスしたものだけを使えば、T R A L I が起こらないのか
もしれません。
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これら1つ1つの項目を考察して、T R A L I と
T A C O の判別をしていくことが大切だろうと思い
ます。
T R A L I と T A C O はきれいに分かれるわけでは
なくて、病態的に非常に重なっているものもありま
すし、ほかのアレルギー疾患も若干重なっているこ
ともあって、クリアにいかないところもあります。
しかしながら、先ほどの検査項目を考慮しながら
やっていくと、ある程度ははっきりしてきます。タ
コなのか、イカなのか、T R A L I なのかヒラリーな
のかわからないものもありますが、この辺りをはっ
きりさせていく必要があるだろうと思います。
こういう形で診断をはっきりさせる目的は、当然
治療が若干違ってくるからです。まず T A C O の場
合は心臓が悪いのに水が多いわけですから、輸血は
中止し、ほかの補液、点滴などもやめる、もしくは
減速することが大切なことです。
それから利尿剤により水をひいて、肺水腫を完全
制御ということが非常に大切です。
しかしながら、呼吸困難や低酸素血症があるので、
酸素投与や、必要に応じて人工呼吸器の管理が非常
に大切です。当然心臓が悪いわけですから、そちら
のほうの治療は継続していくということが、TACO
の治療になっています。
T R A L I に関しては、酸素投与がまず第一に大切です。ひどい場合は人工呼吸器の管理があります。実
際報告例を見てみますと、結構重症例が T R A L I の場合は多くて、人工呼吸器の管理をするケースが非
常に多いわけですけれども、その見極めは早々に判断して人工呼吸器を早期につけて管理することが大
切だろうと思います。
あと免疫反応というものがありますので、ステロイドが効くのではないかなということで使われるこ
とが多いということです。好中球エラスターゼ阻害剤などが有効ではないかということで使用されるこ
とが多いようですが、有効なものは積極的に使っていっていいだろうと思います。
なかなか特効薬がないというのが T R A L I の現状です。利尿剤は先述したように、血圧が下がってい
るケースが結構多いので、使用に関しては非常に注意する必要があります。
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座長( 橋): どうもありがとうございます。以上で3人の先生方のご発表が終わりました。少し時間
が押していますが、当初の予定どおり 20 分程度の討論を行いたいと思います。
座長(田中): ではディスカッションの司会は、東京医科大学八王子医療センターの田中が務めます。
3人の先生からご発表をいただきまして、フロアの方もいろいろ考えていただいたと思います。
まず、最初にフロアからどうしても確認したい、質問したいという方がいらっしゃいましたらお
願いしたいのですが、いかがでしょうか。
中島: 東京都赤十字血液センターの中島です。石田先生におうかがいします。
輸血の非溶血性副作用の中で、臨床症状からアレルギー反応だろうと思われるものが非常に多
くあります。確かにアナフィラキシーショック様であったり、皮膚の蕁麻疹様の反応であったり、
アレルギーを思わせる症状が多いので、私たちは血漿タンパク質がその原因なのではないかと考
え、タンパクに対する抗体を検査して、タンパク欠損のチェックをしていますが、欠損が見つか
ることはめったにありません。
抗体陽性がたまにはありますけれども、多くはやはり原因不明です。今日先生がお話になりま
した血小板輸血で副作用が生じた例においては、血漿を減量した血小板、あるいは、洗浄した血
小板ですと、それは効果的に輸血副作用を予防できるということでした。
アレルギー反応という観点からいたしますと、もし血漿が原因であるとすると、3分の1も血
漿成分が残っていれば、まず予防はできないと思いますし、洗浄しても5%ぐらいの血漿の残存
があるわけですので、完全なアレルギー反応の予防は困難なわけです。そうしますと、血漿減量
や洗浄による副作用の予防効果はどういう理由なのでしょうか。
あるいは、副作用がアレルギー反応以外の何かほかの機序で起こっているのか。その辺で何か
お考えがございましたら、お教えいただければと思います。
石田: 正直なところお答えできるデータやシステムを持ち合わせておりませんが、多くの血小板輸血
患者はかなり免疫抑制状態にあって、実際の抗体検査が偽陰性になる可能性、免疫抑制剤を投与
する例が多く抗体量が少ない可能性があり、抗体が陽性にならないからといって、抗体がアレル
ギーに関与しているとは断定できないのではないかと考えています。
それから、恐らく単に抗体があるからといって、それだけでアレルギー反応が起こるというも
のではないと思いますが、その辺りについてはお答えできるものを持ち合わせていません。
discussionディスカッション
生理活性物質やそのほかの因子もあって、なかなか T R A L I を完全に予防するのは難しいかと思いま
す。これからの非常に大きなテーマだろうと思います。
われわれ病院サイドで何か予防策はないかと思い
ましたが、T R A L I に関してはこれという方法がな
いものですから、先ほど言いましたように洗浄の血
小板製剤や赤血球を使うということ、1度 T R A L I
を起こした患者さんに関しては、そういう方法も1
つあるとは思います。
しかしながら、それは完全ではありません。大切
なことは使わなければいいので、エビデンスに基づ
いて適正使用をして、また血液製剤をなるべく使わ
ないように心がけるということです。
それから、T R A L I や輸血関連の肺障害を起こし
た患者さんに対して、その原因をはっきりさせる。つまり、報告していって、原因をはっきりさせていっ
て、症例の蓄積をし、それを予防策につなげていくことが大切だろうと思います。
それに対して T A C O の場合は、点滴のスピードが早い、循環負荷が大きな理由ですので、点滴をする
時にはスピードをゆっくりめに入れていくことが大切だろうと思います。特に3歳以下や 60 歳以上の場
合は注意が必要です。
また、輸血の前後で利尿剤ほか、そういうものを使って肺水腫が起こらないように予防していくこと
が病院のベッドサイドでできることですので、こういうことを必ずやっていくということです。
なかなか今まで T A C O という輸血の副作用に注目されていないということがあるので、症例の蓄積が
大切だろうと思います。
呼吸困難を呈するものにはいろいろなありますが、その中に T R A L I と T A C O があります。症状が
違うとか、発症率が違うとか、病態が違うとかということで鑑別ができていくわけですけれども、まだ
まだわからないところが非常に多いので、われわれ臨床家としては症例があればそれを報告して改善し
ていき、それを治療や予防につなげていくことが大切であるということと、適正輸血を行って無駄なも
のを入れないことが大切だろうと思います。以上です。
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石田: まず輸血の安全に関してですが、各病棟で不適合輸血の予防策をどの程度認識しているかにつ
いて、定期的に見回りながら、スタッフに尋ねてみるということをわれわれの施設では行ってい
ます。認識が低い部署があれば、その部署に対していろいろと輸血に関する啓蒙活動を行ってい
くということを繰り返していくことが、実際的だと考えています。
座長( 田中): アレルギー反応についても、血漿減量と洗浄という2つの方法で経過をお示しになりま
したが、一般の病院ですと、なかなか自施設で減量操作や洗浄操作をやるのが難しいところが多
いと思います。そこでこのような病院において、中等度以上のアレルギー反応が出た場合、やは
り洗浄血小板を準備するために日赤に技術協力をお願いするのがいいのか、一般病院へのアドバ
イスがあればお願いします。
石田: 各施設で実際に減量製剤や洗浄血小板を作成することが非常に難しいということは、そのとお
りだと思います。血小板濃度を高めた少ない用量の血小板製剤を作ることが実際に可能なのかど
うか、という点が、今後の目標の1つになるのかなと思います。
洗浄に関しては、重症例では洗浄血小板が不可欠だと思います。実際、減量だけで副作用が完
全に予防できるとはまったく考えておりません。しかし、減量製剤を普遍化することは、やはり
今後の血小板製剤の目標の1つだろうなと思います。
座長( 田中): ありがとうございました。では、次に虎の門病院の牧野先生におうかがいします。先生
のご演題では T R A L I と T A C O の鑑別をいろいろお示しいただきました。特 に 発熱の有無と血
圧の高低を提示されましたが、それ以外の鑑別点についてポイントがあれば教えていただきたい
と思います。
牧野: 鑑別診断のところで、症状以外の検査データのところで示しましたけれども、胸部のレントゲ
ン写真を撮った時に心臓の拡大、肺血管の拡大、肺水腫が起こってきている状態が中心性の陰影
であるか、末梢性なのか、胸水が貯留しているかどうか、そういうものも鑑別の決め手になります。
さらに、BNP の値も1つ参考になるのではないかと思います。
実際、TACO というのは今までなじみのない言葉ではありますが、臨床的には非常によく遭遇
している合併症ではないかと思います。若干貧血で、もともと心臓に余裕のない高齢者に対して、
赤血球輸血で輸血を少し早めに入れてしまうと、かなり酸素濃度が下がったり、呼吸が窮迫したり、
頻呼吸になるなど、臨床的症状を呈する症例は結構あるのではないでしょうか。
ただ報告しないだけで結構あるのではないかと思うので、そういう場合は原因である輸血速度
を確認したり、肺の検査データで循環負荷を表すデータが明らかにそろえば TACO だと思います。
座長( 田中): ありがとうございます。T R A L I の予防で、今できる防止策として、血漿暴露を低減し
てなるべく血漿を少なくした製剤をというご提案がありました。そうすると、1回 T R A L I を起
こされた既往がある患者さんの次からの輸血は、原則として洗浄したほうがいいというお考えで
よろしいのでしょうか。
しかしながら、減量して副作用がないと申し上げましたけれども、実際にその時にアレルギー
症状がどうなったかということに関して、アレルギー反応の程度、つまりどの程度重症のものか
を客観的に判断する方法がありません。また患者さんが訴えなければ副作用として上がってきま
せん。50%減量したことによって、輸血が継続された患者さんに不都合がないという点については、
実際のベッドサイド上での減量のメリットはあるのではないかと思います。
座長( 田中): ほかにフロアからご質問はありますか。ないようですので、この会のテーマであります
輸血副作用の発生時の対応とその防止というテーマについて、皆さんに質問させていただきたい
と思います。
まず東京都赤十字血液センターの宇都木先生、副作用が出た場合、検体を提出すれば副作用の
精密検査をしていただけるということで、大変ありがたい制度だと思っていますが、実際に検査
をされる立場で、検体の採取時期や条件等について何か留意点があれば、お願いしたいと思います。
宇都木 : 輸血前の検体は、院内に残っている検体をご提出いただければよろしいです。輸血後の検体
としては可能であれば副作用発生直後とか、発生して間もない検体を提出していただければよろ
しいかと思います。
先ほどご提示したトリプターゼの検査に関しては、副作用が発生した直後か、発生の翌日の検
体でないと検査ができない項目ですので、トリプターゼを検査するには、やはり副作用が発生し
てから間もない検体をご提出いただければと思います。
座長( 田中): もう1つ、今回呼吸困難ということで先生がおっしゃっていた症例の中で、心原性肺水
腫が疑われた症例がかなりあったと思います。こちらは細かい説明がなかったのですが、心原性
の肺水腫が疑われた症例の特徴について、例えば原疾患の種類や量、輸血速度などで特徴的なこ
とがあれば教えていただきたいと思います。
宇都木 : 牧野先生からもご指摘があったと思いますが、やはり輸血後の血圧が輸血前に比べると高かっ
たという症例が多かったと思います。また先生が先ほど示されたように、輸血後の BNP の値が輸
血前よりも 1.5 倍以上の値を示していた症例がたくさんあったということです。
座長( 田中): わかりました。ありがとうございます。では、続いて立川病院の石田先生におうかがい
したいと思います。不適合輸血とアレルギー性副作用の話をしていただきました。まず不適合輸
血のところで先生がお話しされた、個々の医療従事者の輸血の安全性に関する認識を高める必要
があるということが印象的だったのですが、これはなかなか病院で継続的にやるというのは大変
なことだと思います。先生の施設で具体的に行っている対策や取り組みがあれば、ご紹介いただ
ければと思います。
60
第7回 東京都輸血療法研究会
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第7回 東京都輸血療法研究会
時間をオーバーしましたけれども、最後までお付き合いいただきありがとうございます。また、演者
の方々もありがとうございました。
東京都には輸血をする病院が 500 から 600 ありまして、大規模病院は輸血の専門医等いらっしゃいま
すが、多くはそういう方がいらっしゃらない病院で輸血が行われて、地域の医療を支えています。その
中には輸血に携わる臨床検査技師さん、薬剤師さん、看護師さん、ドクターが頑張っておられるわけです。
そういう方たちは輸血学会に行きたくても行けないし、なかなか学術集会にも出られないという現状が
あります。
片や東京は輸血の専門家がたくさんいるところでありますので、そういった情報をこの場において提
供できればと思います。ただ、限られた時間ですので、なかなか満足のいかないところもあるかと思い
ます。今後、例えば冷式抗体が出て悩んでいる場合は内川先生のところへ電話すれば、冷式抗体で何か
問題があったら私が全部責任をとると内川先生が言ってくれるでしょう。副試験をやりたくないという
病院があったら、慶應大学の上村先生に相談すれば、上村先生は恐らく副試験を省略して何か問題があっ
たら私が責任をとるときっと言ってくれるでしょう。ぜひ今日話された先生方に今後とも連絡をとって、
悩みがあったら解決していただきたいと思います。
このシンポジウムのテーマである T R A L I と T A C O についても、ひょっとしたら初めてお聞きにな
る方もおられると思います。ただ、やはり名前を知っているか知らないかによって、ずいぶん対処が違っ
てきます。T R A L I ということを知っていれば、呼吸不全が起こってもそれなりに冷静に対応できるであ
ろうと思います。
そういうことで満足いかない面があれば、これから各演者に遠慮なく連絡をとっていただけたらと思
います。
本日の参加者総数は 571 人ということです。これまで 500 人を超えたことはあまりないのですが、さ
らに 571 人という最高数の参加者を得られたということであります。この会が、東京都の小規模病院で
本当に輸血で頑張られている方のためになるよう、ますます努力していきたいと思います。今後ともど
うぞよろしくお願いいたします。
本日はどうもありがとうございました。
6 閉会の挨拶
東京都輸血療法研究会 世話人代表 比留間 潔
牧野: それも1つだろうというふうに思います。メカニズムがまだはっきりわかっていない部分もあ
りますけれども、抗白血球抗体、抗HLA抗体が重要な役割を果たしているのではないかという
ことが、今いわれています。そういうものを除去したもの、つまり洗浄血液はその予防に役立つ
のではないかと思います。
そのほかの方法として、なかなかどれという方法がないものですから、それをお勧めしたいと
思います。
座長(田中): ありがとうございました。
座長( 橋): 今日のお話は輸血後肝炎などの感染性副作用のように、非常に対策が進んで問題が小さ
くなってきたことと違って、かなり複雑な要因が組み合わさって、医療機関の中での努力が必要
な問題を中心に議論しています。
私が感じたのは、宇都木先生の最後のまとめで、保存前白血球除去導入前後の副作用報告件数
のお話が出ましたけれども、これはベッドサイドモニターを多用していたからあまり差が出ない
というよりは、保存前白血球除去を行うメリットが、短期的に非常に大きな副作用が減るという
形ではむしろ出ないのでないかということです。
また、日本赤十字社に報告があるケースは、リスクマネジメント的にいうと、incidence では
なくて、かなり occurrence とか相当重篤なものが中心になっています。牧野先生が言われたよ
うに、多分これは輸血に関係している副作用だろうという判断をすると、軽いものについては病
院内でなかなか報告しないということが多いからだろうと思います。
日本赤十字社の活動としては、重篤なケースについて原因検索で、血漿タンパク抗体などをしっ
かりやっていただく。それが今後とも必要だろうと思いますが、ほかの2人の先生が言われてい
るように、医療機関の中で何とか ABO 型不適合輸血とか T R A L I とか、まだまだ解決しきれて
いない問題について、副作用に関してできればと感じました。
石田先生が言われた藤井先生のレポートで、事務的な取り違えなどの問題がなかなか解決して
いないというお話がありましたが、全体としてはある程度減っていると思います。特に血液型の
検査を2回やって確定しなさい、もし血液型が確定しきれない場合、あるいは同型血が準備でき
ない場合はO型の血液を使いましょうという、柴田洋一先生が中心にやられた 2000 年前後の活動
が、それなりに効果を発揮しているのではないかと思うのですが、事務的な取り違えをどうやっ
て防ぐかという辺りは、石田先生にご質問したような、どうやってその手順を徹底して、輸血の
扱いについて意識を上げるかということが、大きなことではないかと私自身は思います。
T R A L I 自体は一筋縄ではいかないし、検査の限界や経産婦の献血者の方をどういうふうに
扱うかなど大きな視点も必要ですが、これも、非常にサブクリニカル(subclinical)なレベルの
T R A L I がどのくらい起こっているか等、診断基準や実際の症例の積み上げが非常に重要かなと思
います。
今回の企画は比留間先生が考えられたもので、非常にタイムリーなものだと思いますが、まだ
まだ簡単に解決しないテーマだと思いますので、今後も皆さんよろしくご検討くださるようお願
いいたします。どうもありがとうございました。