4
バリ島プダワ村の伝統的家屋における生活の変容 Transformation of Lifestyle in Traditional House of Pedawa Village in Bali 奥山研究室 16M50004 阿部光葉 (ABE , Mitsuha) Rangki” という形式である ( 図 3)。これを原形としてい るものを伝統的家屋として定義し、調査対象とした 2) 2-2. 居住単位と住戸配置 伝統的家屋には敷地内に現 代的家屋や東屋などの小屋が併設されたものが多く、そ の内訳を調査すると、24 軒中 17 軒は敷地内に現代的 家屋 3) を持つことが分かった(表1)。そこで伝統的家 屋と現代的家屋の住戸配置を分類した結果、敷地内に伝 統的家屋のみを有するもの (A 伝統的家屋単独型 )、伝 統的家屋と現代住居が庇で連結したもの (B 伝統的家屋・ 現代的家屋連結型 )、敷地内の空地に現代的家屋を有す るもの (C 伝統的家屋・現代住居併存型 ) がみられた(図 4)。敷地形状によって並列的に2軒が並ぶ場合と比べ、 直列的に並ぶ場合は両者は庇で連結され雨の日も行き来 できる例が多い。また居住者の世帯構成も調査した結果、 夫婦またはその子供を含む夫婦家族が最も多く、次に後 継の子世帯を含む直系家族、単身世帯の順に多くみられ た(表2)。また、定期的な手入れはあるものの現在は 空家となっているものが2軒、主に展示利用を目的とし た原形を復元した別宅が1軒であった。 3 伝統的家屋の材料からみる生活の変容 3-1. 伝統的家屋の材料 現存する伝統的家屋の多くは 大幅な改修を行なっており、建設当時の材料と新しい建 築材料が混在する状況である。建設当時の状態を原形と して図5に示した 4) 。これを基準に現在の各部位の材料 1. 研究の背景と目的 インドネシアは世界第 4 位の人口を抱える一方で都 市人口の割合は低く、多くの人は郊外や農村に住まい、 土着の文化や生業が形成されてきた。しかし現在は至る 所で近代化と観光地化の波が押し寄せる状況にある。そ の一つであるプダワ村は山奥の集落でありながらバリ島 という国際的観光地に位置するため、伝統的家屋を保存・ 復元し、その活用を模索する動きがみられると同時に、 近代化に伴う現代的家屋との併用や、自然材料と産業材 料の併用による伝統的家屋の多様な変容がみられる事例 である。このような産業化や観光地化などによる影響が 混在する現状を考察することは、これからのインドネシ アにおける持続可能な伝統的家屋と生活を考える上で重 要である。そこで本稿はプダワ村の伝統的家屋と家財の 材料と配置を調査・分析することで 1) 、伝統的家屋にお ける生活の変容を明らかにすることを目的とする。 2. 伝統的家屋の概要 2-1. 伝統的家屋の分布と平面構成  27 軒の伝統的家 屋のうち 18 軒は村の住宅密集地に残存し ( 図 2)、その 他は農地近くに点在する。各世帯は前面テラスを持つ宝 形屋根の母屋と婚姻祠、米倉などを敷地内に持つ。木造 の骨組みを竹材の屋根と壁が覆う盛土された土間住居 であり、住居内部の対角には大小2つの寝台が配置さ れ、もう一方の対角には釜戸と水瓶が置かれる“Bandung 伝統的家屋 現代的家屋 Kaja(山) Kangin(東) DILUAN(上手) TEBEN(下手) Kelod(海) <B-2 並列連結型 > (2) <C-2 並列並存型 > (7) <B-1 直列連結型 > (5) <C-1 直列並存型 > (3) 現代的家屋 伝統的住居 伝統的住居 Kaja山 Kangin DILUAN上手 TEBEN下手 Kelod海 夫婦家族 (9) 直系家族 (6) 複合家族 (2) 空家 (2) 別宅 (1) 単身 (4) 伝統的家屋のみ (4) 伝統的家屋 + 現代的家屋 (5) 伝統的家屋 + 小屋 + 現代家屋 (12) 伝統的家屋 + 小屋 (3) 表 2. 居住単位の分類 表 1. 敷地内の家屋の内訳 図 2. 村中心部における伝統的家屋 18 軒の配置 図 1. 伝統的家屋と米倉 図 4. 住戸配置の分類 A 伝統的家屋 単独型 (7) B 伝統的家屋 ・ 現代的家屋連結型 (7) C 伝統的家屋 ・ 現代的家屋併存型 (10) 25 53 195 143 51 260 442 457 157 25 25 185 115 寝台大 +0.5 寝台小 +0.5 テラス -0.6 ±0.0 水瓶 釜戸 おひつ 婚姻祠 図 3. 伝統的家屋の平面構成

Transformation of Lifestyle in Traditional House of …Transformation of Lifestyle in Traditional House of Pedawa Village in Bali 奥山研究室 16M50004 阿部光葉(ABE , Mitsuha)

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バリ島プダワ村の伝統的家屋における生活の変容Transformation of Lifestyle in Traditional House of Pedawa Village in Bali

奥山研究室 16M50004 阿部光葉 (ABE , Mitsuha)

Rangki” という形式である ( 図 3)。これを原形としているものを伝統的家屋として定義し、調査対象とした 2)。2-2. 居住単位と住戸配置  伝統的家屋には敷地内に現代的家屋や東屋などの小屋が併設されたものが多く、その内訳を調査すると、24 軒中 17 軒は敷地内に現代的家屋 3) を持つことが分かった(表1)。そこで伝統的家屋と現代的家屋の住戸配置を分類した結果、敷地内に伝統的家屋のみを有するもの (A 伝統的家屋単独型 )、伝統的家屋と現代住居が庇で連結したもの (B 伝統的家屋・現代的家屋連結型 )、敷地内の空地に現代的家屋を有するもの (C 伝統的家屋・現代住居併存型 ) がみられた(図4)。敷地形状によって並列的に2軒が並ぶ場合と比べ、直列的に並ぶ場合は両者は庇で連結され雨の日も行き来できる例が多い。また居住者の世帯構成も調査した結果、夫婦またはその子供を含む夫婦家族が最も多く、次に後継の子世帯を含む直系家族、単身世帯の順に多くみられた(表2)。また、定期的な手入れはあるものの現在は空家となっているものが2軒、主に展示利用を目的とした原形を復元した別宅が1軒であった。3 伝統的家屋の材料からみる生活の変容3-1. 伝統的家屋の材料  現存する伝統的家屋の多くは大幅な改修を行なっており、建設当時の材料と新しい建築材料が混在する状況である。建設当時の状態を原形として図5に示した 4)。これを基準に現在の各部位の材料

1. 研究の背景と目的   インドネシアは世界第 4 位の人口を抱える一方で都市人口の割合は低く、多くの人は郊外や農村に住まい、土着の文化や生業が形成されてきた。しかし現在は至る所で近代化と観光地化の波が押し寄せる状況にある。その一つであるプダワ村は山奥の集落でありながらバリ島という国際的観光地に位置するため、伝統的家屋を保存・復元し、その活用を模索する動きがみられると同時に、近代化に伴う現代的家屋との併用や、自然材料と産業材料の併用による伝統的家屋の多様な変容がみられる事例である。このような産業化や観光地化などによる影響が混在する現状を考察することは、これからのインドネシアにおける持続可能な伝統的家屋と生活を考える上で重要である。そこで本稿はプダワ村の伝統的家屋と家財の材料と配置を調査・分析することで 1)、伝統的家屋における生活の変容を明らかにすることを目的とする。2. 伝統的家屋の概要2-1. 伝統的家屋の分布と平面構成  27 軒の伝統的家屋のうち 18 軒は村の住宅密集地に残存し ( 図 2)、その他は農地近くに点在する。各世帯は前面テラスを持つ宝形屋根の母屋と婚姻祠、米倉などを敷地内に持つ。木造の骨組みを竹材の屋根と壁が覆う盛土された土間住居であり、住居内部の対角には大小2つの寝台が配置され、もう一方の対角には釜戸と水瓶が置かれる “Bandung

伝統的家屋

現代的家屋

Kaja(山)

Kangin(東)

DILUAN(上手)

TEBEN(下手)

Kelod(海)

<B-2並列連結型 >(2)

<C-2並列並存型 >(7)

<B-1直列連結型 >(5)

<C-1直列並存型 >(3)

現代的家屋

伝統的住居

伝統的住居

Kaja山

Kangin

DILUAN上手

TEBEN下手Kelod海

夫婦家族 (9)

直系家族 (6)

複合家族 (2)

空家 (2)

別宅 (1)

単身 (4)伝統的家屋のみ (4)

伝統的家屋 +現代的家屋 (5)

伝統的家屋 +小屋 +現代家屋 (12)

伝統的家屋 +小屋 (3)

表 2. 居住単位の分類表 1. 敷地内の家屋の内訳

図2.村中心部における伝統的家屋18軒の配置

図 1. 伝統的家屋と米倉

図 4. 住戸配置の分類

A伝統的家屋単独型 (7)

B伝統的家屋 ・

現代的家屋連結型(7)

C伝統的家屋 ・

現代的家屋併存型(10)

2553

195143

51260

442

457157

25 25185115

寝台大+0.5

寝台小+0.5

テラス-0.6

±0.0水瓶

釜戸

おひつ

婚姻祠

図 3. 伝統的家屋の平面構成

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の内訳を調査し、原形と同じ材料(O)、木材など他の自然材料(N)、セメントなどの入手しやすい産業材料

(SI)、柄タイルなどの装飾性の強い産業材料(DI)に分類した。次に家屋の材料の変容を訪問者の目に触れる入り口立面の外観、居住性がある程度求められる内観に二分して検討したところ、外観に関しては壁材として竹を継続して使用する例が多い一方で、屋根材は大半が産業材料に置き換わっており、総じて SI の割合が大きい。これは屋根が外観に及ぼす影響が小さく、雨による竹の腐食が著しいからであると考えられる。内観に関しては床材や束石材が多様であり、竹の網代の仕切りにビニールシートを貼るなどの例もみられたが、全体として Oの割合が大きい。これは当時の自然材料が現代においても一定の居住性を満たしていることと捉えられる。

3-2. 内観と外観の変容  前説で検討した内観と外観の材料の変容について各家屋ごとに検討した結果、当初の自然材料が全面的に使用される〈不変型〉、部分的に置き換わっている〈限定変容型〉、全ての部材に産業材料などが使用される〈全体変容型〉の4つの型で捉えた ( 図6)。屋根材については大半が産業材料を使用していたためその他の部材の変容の組み合わせから判断している。内観は〈不変型〉の割合が多いのに対し、外観は現代的家屋の背後に隠れてしまう〈現代的家屋型〉など様々な変容のあり方がみられた。このことから、人の目や雨風に触れやすい外観は、各家庭が可能な範囲内で耐久性の高いものに変更する傾向があると考えられる。3-3. 伝統的家屋の材料選択の傾向  現在使用されている材料のうち O 以外を変容と捉え、各部材の変容を屋

内観の材料

外観の材料

竹2 R6 I19

R 19チ2 I 5

立ち上がり (土)

外壁 (竹)

前壁 (竹)

テラス壁 (竹)

テラス屋根(竹)

テラス床(土)

舗装 (土)

屋根(竹)

竹21 木産2 C2 産3

竹19 木1自産3B1C1S2

竹10 自産2木2無6 B1C2 S3

土6 S15B2 T3土+S1

土7 S6C3産自5自産1 産2T2B1

土4 芝1 自5 自+産5 S12

柱 ( 木 )木 27

床 ( 土 )

建築的要素 ( 建設当初の自然材料 )

土 13 B2 S7 T5

天井 ( 竹 )竹 19 木 3 無 5

束石 ( 川石 )自然石 9 花崗岩 6 S3 P4

仕切り ( 竹 )竹 17 竹+シ8 木2

I : トタン /B : レンガ /S : セメント /T : タイル

C : コンクリブロック /P : 焼き物 / シ : シート /R : 瓦

自産 : 前面が自然材料、 側面が産業材料

産自 : 前面が産業材料、 側面が自然材料

図 8. 居住単位ごとの各日常行為と各場所の関係

図 5. 伝統住居の各部位の材料

内観の材料

一部変容型 (4)

過半変容型 (5)

床変容型 (6)

壁産業型 (5)

屋根のみ産業材料

屋根と床が変容

屋根と壁類が変容

一部のみ変容

ほぼ全体が変容

外観の材料

不変型 (3)屋根のみ産業材料

不変型 (7)

全体変容型 (3)

過半変容型 (5)前壁以外が変容

産業材料で伝統形式の意匠

現代家屋背後型 (6)

現代的家屋の背後に位置し、 外観なし

全体変容型 (3)産業材料で

異形式の意匠

変容なし

原型 (1)

竹1

図 10. 生活タイプと近年建てられた伝統的家屋の位置付け

現代的家屋

現代的家屋

現代的家屋

現代的家屋

凡例

O (Original Material) : 原形の材料N (Natural Material): 他の自然材料SI (Simple Indutrial Material): 安価産業材料DI (Decorative Indutrial Material): 装飾的産業材料

O N SI DIO N SI DI

〈限定変容型〉(

9)

〈限定変容型〉( )

〈現代家屋型〉(

6)

〈不変型〉(

3)

〈不変型〉(

8)

〈全体変容型〉(

6)

〈全体変容型〉(

5)

凡例

no.10,18

no.10,18

no.15 no.22

no.15 no.22

no.19,21

SI

SI

SI

SI

SI

SI

DI

DI

SI

SI

DI

DI

DI

DI

SISI

SI

SI

SI

SI

SI SI

SISI

SI

SI

SI

SI

DI

N

N

N

N

no.2

仕切り

テラス屋根

屋根

テラス床

テラス壁

立ち上がり

前壁

外観

屋根

変容部位

内観

: N (Natural Material)

: SI (Simple Indutrial Material)

: DI (Decorative Indutrial Material)

no.6,11,12 no.5.6.18

N

N

N

N

no.1

no.2

no.7no.8no.9

no.3

no.16

no.4

no.17

no.20

no.21

no.24

no.19

no.23

no.5no.6

no.15

no.10no.11no.12

no.13

no.18no.14

no.22

H4

H3

H1

H2H8

H6

H5H7

図 7. フローチャートを利用した外観と内観の材料の変容図 6. 外観と内容の変容のあり方

【内外不変型】

【現代的家屋背後型】

【外観全体変容型】

【内外全体容型】

【外観変容型】

【内観変容型】

【内外限定変容型】

【内観全体

変容型】

11

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根、外観、内観の順でフローチャートに示し、家屋全体の変容について検討した ( 図 7)。その結果、ほぼ変容なし (H1)、内観のみ変容 (H2)、外観のみ変容 (H3・H4)、内外ともに部分的な変容 (H5)、外観より内観が著しく変容(H6)、内観より外観が著しく変容 (H7)、内外ともにほぼ全ての材料が変容 (H8) の 8 タイプで捉えた。4. 家財の材料と配置からみる生活の変容4-1. 伝統的家屋における日常行為  聞き取り調査を基に、伝統的家屋と現代的家屋、および米倉などを含めた敷地内のどこでどのような日常行為が行われているかといった生活の現状を図 8 に示した。まず敷地内に現代的家屋を持たず、睡眠・食事・調理・休息・接待の全てを行うⅠ《原形》が 3 軒みられた。全ての行為を伝統的家屋で行うものの現代的家屋も併用するⅡは 8 軒と最も多く、次に多くみられたのはⅣ《調理・食事》のみを伝統的家屋で行う台所のような使われ方である。またⅤ《睡眠》のみに供される伝統的家屋の寝室としての使用や、寝食を行わないⅥもみられた。このような伝統的家屋の用途の単一化と現代的家屋の併用は、生活環境の改善を目的とした敷地内の分棟化といえる。4-2. 主要家財の変容  ここでは伝統的家屋で重要とされる家財の材料と配置の現状、代替などがどのように起こっているかを検討する。建設当時の家財の配置は図 3のようであり、儀礼に関するものを神聖な上手に配置し、釜戸にはブラフマ神、水瓶にはヴィシュヌ神が宿るとされていた。つまり家財の配置や材料の変容はこのような村のコスモロジーの捉え方の変化も意味するといえる。そこで日常行為に必須の各家財の変容度合いを原形を最上段としてフローチャートに示した ( 図 9)。神棚などの

〔儀式〕に関するものは比較的変容がみられないが、寝台は大半が物置や祭壇となっていた。〔調理〕を用途とする家財は釜戸が消滅しない一方で、ガスコンロやバケツの併用が見られる。このように家庭によって変容する家財とその基準が異なるので、材料や配置などが変わると変容段階1、それらの両方の変容や、その上に家電製品への代替がみられるなどした場合は変容段階2、消滅してしまうものは変容段階3とし、合計点が4点以下の場合を変容型 G1、4~9 点を G2、10 点以上を G3 として、各家屋の家財の変容度合いを 3 つに分類した。5. 伝統的家屋における生活の変容5-1. 家屋の材料と日常行為の関係  3 章で分析した家屋の変容フローにおける生活タイプの分布を図 10 に示

した。伝統的家屋の材料とそれにおける生活の関係を比較分析すると、Ⅲ、Ⅳ、Ⅴと伝統家屋における行為が限定されるにつれて、家屋の材料も変容度が高い。また伝統的家屋における生活タイプごとの、材料の変容、家財の変容型、住戸配置、居住単位を図 11 に示した。Ⅰと同様に全ての日常行為を伝統的家屋で行うものの、複数世帯によって現代的家屋を併用するⅡはⅠに比べて外観の変容度が高い。これは伝統的家屋と現代的家屋の連結による一体化や、世帯別の家屋の住み分けによって、両者を同じ一つの住居として捉えるためと考えられる。5-2. 家屋の材料と家財の関係  家財と家屋の変容の関係性を考察する。ⅠやⅡなど伝統的家屋の利用度が高いものは G1 の割合が多い一方で、ⅤやⅥのように伝統的家屋を寝室や別宅として利用している場合は家財は大きく変容し、釜戸など重要な家財が壊される場合もみられる。また用途が限定された場合でもⅣとⅤではその資料数と家財の変容度が大きく異なる。意味付けされた〔調理〕の家財は変容せずにその行為も継続されるが、〔睡眠〕に供される家屋は不必要な家財が変容し、伝統的家屋のもつ従来の意味が薄れる傾向にある。6. 近年の伝統的家屋の位置付け6-1. 近年建てられた伝統的家屋における生活   27 軒中の 3 軒は近年建てられた新しい伝統的家屋であり、主人の意向などが反映された独自性の強いものである。それらと改築・修繕を重ねた 24 軒の差異と共通点を考察する。Ⅱは居住単位に夫婦家族がみられず、複数世帯による世帯別の伝統的家屋と現代的家屋の住み分けであり、Ⅲ〜Ⅴは用途別の使い分けである。これに対し、新しい伝統的家屋は居住単位も様々で、用途によって家屋を使い分ける後者のタイプである。図 11 より他の 24軒に比べて外観より内観に変容がみられ、家財も家屋もある程度の変容に留まっている。以上より、新設された伝統的家屋は材料や外観の復元に積極的であり、その用途に関係なく家財や家屋の形式を保持することが分かった。これは形式的であっても象徴の場として当初の材料や家財を維持することがない利用が限定された古い伝統的家屋と対照的な傾向である。6-2. 近年建てられた伝統的家屋の位置付け   3 章で検討した家屋の材料の変容に新たに建てられた 3 軒を位置付けると図 10 のようになり、他の 24 軒には少ない材料選択の Nl や DI が多くみられる。例えば、No.25は竹瓦の代わりに割竹や茅萱を屋根材とし、レンガを土

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間に敷き詰め、No.26 と No.27 は網代竹の仕切りを木の板材に変更し、石や木目がプリントされたタイルを多用している。これより、居住性を担保しながらも当初の伝統的な様相を維持しようとする考えが見て取れる。7. 結   以上、バリ島プダワ村の伝統的家屋とそれにおける生活の変容について調査分析した。自然材料による 1 棟型の伝統的家屋は衛生面と経済面が求められて用途が限定される中、生活の調和を表す家財の配置や役割が保持される場合と希薄化する場合があった。前者の場合、現代的家屋と同様に扱われることで家屋の材料が変容するものと、寝食分離するものの火と従来の材料の

使用を継続するものがある。後者は主要家財が利用されずに実用化が優先された私的寝室となるものである。新設された伝統的家屋は用途に関係なく家財や外観の復元に積極的なことから、新たな形式の重視がみられる。以上、3つの伝統的家屋と生活の変容の型を見出した。注 1)調査地はインドネシア中部に位置するバリ島北部のブレレン州、人口 4584 名の農村プ   ダワ村である。本稿は 2018 年 8 月と 11 月に行なった現存する 27 軒の伝統的家屋と   主要家財の調査と利用状況の聞き取り調査に基づき、空間構成については 2017 年 7 月   に行なった実測調査を用いる。注 2) 現存する伝統的家屋は築 50 〜 110 年前後のものが大半であり、3 軒のみが築 10 年以   下の比較的新しいものであった。2 章から5章に関しては、新しいものを除いた改築な   どの 変容がみられる 24 軒を対象とする。注 3) ここで現代的家屋とはコンクリート造の一般的な家屋を言う。注 4) 細部まで建設当時の状態に復元した図 1 の Wayan Skurate 氏が所有する住居と聞き取   り調査を参考とした。

図 8. 居住単位ごとの各日常行為と各場所の関係

図 11. 生活タイプごとの家屋の材料と家財の変容

伝 : 伝統的家屋 / 現 : 現代的家屋 / 米 : 米倉 / 東 : 東屋 / 庫 : 祭具庫 / 複合 : 複合家族

直系 : 直系家族 / 夫婦 : 夫婦家族 /●: 現代的家屋なし /○現代的家屋なし

凡例

《全行為》

稀に睡眠

稀に休息

稀に接待

食事休息接待

休息 ・ 接待

睡眠

調理

調理

食事

単身

《調理

・食事

・睡眠》

主人

伝統住居

《原形》

単身 伝統住居

伝統住居

睡眠

伝統住居

現代住居

調理食事睡眠

調理食事

・ 睡眠・ 調理・ 食事

休息接待

・ 休息・ 接待

伝統住居

現代住居

東屋

休息接待

睡眠

睡眠

米倉

台所

〔調理〕〔儀式〕 〔睡眠〕〔食事〕

竹材神棚(9)

材料

原形

G1

G2

G3

変容水準

用途

段階1

(

1点)

段階2

(

2点)

段階3

(

3点)

配置 材料 配置 材料 配置 配置 合計点

2〜4点

材料 代替代替

代替

木材神棚(14)

竹材婚姻祠(13)

竹材祠配置変移 (3)

消滅 (6)

消滅 (1) 消滅 (3) 消滅 (3)消滅 (4)

異種祠 (2)

土釜戸(0)

水かめ(5)

おひつ(7)

大小寝台(4)

片方物置化

(12)

両方物置化

(6)

片方消滅(2)

おひつ +外炊飯器 (1)

おひつ +内炊飯器 (5)

おひつ配置変移+ 内炊飯器 (2)

内炊飯器 (3)

両方外 (3)

水かめ配置変移

(1)

水かめ配置変移+ バケツ (2)

バケツ配置変移 (4)

水かめ +バケツ (6)

バケツ (2)

土釜戸 +内コンロ

(2)

産業材料釜戸 (10)

産業材料釜戸+ 外コンロ (1)

産業材料釜戸+ 内コンロ (7)

図 9. 家財の変容フローチャート

no.9no.13

no.4no.18

(2)

no.7no.24

no.2no.5no.10no.11no.20no.23

二世帯no.14

主人世帯

日常行為

凡例

(8)(3)

《睡眠》

《調理

・食事》

《その他》

第二住居   空家

主人世帯

no.21

no.6no.8no.15

no.12no.17

no.16no.19

no.1

no.3no.22

単身

主人

二世帯

(6)

(2)(3)

(7)

5〜9点

(9)

点(8)

10

12

図 10. 生活タイプと近年建てられた伝統的家屋の位置付け

食事

接待

睡眠

休息

睡眠

伝統住居東屋

現代住居

米倉

調理

タイルの立ち上がりと床

タイルの床タイルの床

木の仕切り

異形式の外観

仕切り

テラス屋根

屋根

テラス床

立ち上がり

外観

屋根

内観

N

no.25 no.26,27

no.25 no.26,27

屋根

限定

限定

全体

現家

全体

 年以上の伝統家屋(

  )

 年

未満(

  )

家財

変容型

現住

有無

分類

外観 内観

変容なし

住戸配置

内訳居住単位

《原形》

生活タイプ伝統家屋

変容型

no

4

18

14

2

10

7

20

5

11

24

23

9

13

12

6

8

21

17

15

16

19

1

3

22

G1

G1

G3

G1

G1

G1

G1

G2

G2

G2

G3

G2

G2

G1

G2

G2

G2

G2

G3

G3

G3

G3

G3

G3

伝米

伝現東

伝現

伝現庫

伝現

伝現台

伝現東

伝現

伝現台米

伝現米東

伝現台米

伝現東

伝現東

伝現

伝現

伝現米東

伝現米

伝現台東

伝台米

伝米

夫婦

夫婦

単身

直系

直系

単身

直系

複合

直系

単身

複合

夫婦

夫婦

直系

夫婦

夫婦

単身

直系

夫婦

夫婦

夫婦

別宅

空家

空家

伝現米

伝現台

伝現台東

直系

単身

別宅

C-1

C-2

C-2

A

A

A

C-1

C-1

B-1

B-1

C-2

C-2

B-1

C-2

B-1

C-2

C-2

B-2

B-1

C-1

B-2

C-2

C-2

A

A

A

A

《調理 ・ 食事・ 睡眠》  (2)

《全行為》

(8)

(3)

《睡眠》

(2)

《その他》

《睡眠》

《調理 ・ 食事》

《調理 ・ 食事》

(6)

《その他》

(3)

25

26

27

H5

H6

H6

ⅠⅡ

Ⅳ Ⅴ Ⅵ

G2

G2

G2

H2

H7

H6

H1

H5

H4

H7

H3

H5

H8

H8

H4

H5

H5

H3

H4

H7

H7

H7

H7

H7

H1

H1

H8

24

50

3

10

Ⅴ《睡眠》

Ⅰ《原形》

Ⅱ《全

行為

Ⅲ《調 ・ 食 ・ 睡》

Ⅳ《調

理・ 食

事》

Ⅵ《そ

の他

レンガの立ち上がり

レンガの床

DI

DI

DI

SI

SI

変容部位

H4H3

H1

H2

H8

H6

H5 H7

N

N

no.25

no.26no.27

no.23

no.27

no.25