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- 1 - 1.2kg 1.4kg 140 1 3,000 1 2,780 1 3,000 23.3 2,975 3,000 2060 8,000 4,000 1.2

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講 演 皆さんこんにちは。安佐市民病院神経内科の山下です。本日はこのような多くの方を前に,「そうだったのか!認知症」という池上彰みたいにクリアカットに面白い話ができるかどうか自信はありませんが,今現在,認知症について,もの忘れ外来を中心にいろんな取組をしておりますので,その一環をお話しさせていただければと思います。 認知症というのはなかなか難しい病気でありまして,このバックの青空のようにすっきりというふうにはなかなかいかない部分も多いんですけれども,そういった中でも少しずつ明るい光も見えてきているところもありますし,また,地域,先ほどもお話がありましたけれども,あるいは御家族ももちろんですけれども,みんなで力を合わせて認知症の患者さんをケアしていくといった方向に進んでおりますので,そういったことも紹介させていただければと思います。 それでは講演を始めさせていただきます。今日の内容としましては,そもそも「認知症とは」といった話と,「認知症の治療法」は,そして,「認知症のチーム医療,介護」,そして「認知症ケアの心」という四つのテーマでお話をさせていただければと思います。後半になるにしたがって,話はだんだん重要な部分になってまいりますので,最初のほうは聞き流していただければと思うんですけれども,最初の導入部分から話を始めさせていただきますと,そもそも「認知症とは」ということですけれども,これは人の脳であります。大体 1.2kg から 1.4kg というふうに今言われていますけれども,脳の構造はこのように前頭葉,側頭葉,頭頂葉,後頭葉という部分が大脳と,全部合わせて大脳ですけれども,それと小脳といわれている部分,そして脳幹と,こういった部分から成り立つんですけど,今日の認知症というのは,この大脳の病気であります。もっと詳しく言いますと,この大脳の表面にあります大脳皮質といった部分に 140 億もの神経細胞がずらっとこのような形であるわけなんですけど,そういう神経細胞が徐々に変性して脱落していく,そういった病気。要するに認知症とは大脳の病気であるということであります。 高齢化社会を迎えて認知症の患者さん,どんどん増えてきているわけなんですけれども,今の高齢化の現状を紹介しますと,今現在,日本の人口は 1億 3,000万じゃなくて,

1億 2,780万,1億 3,000万を切っておりますけれども,高齢化率と申しますと,ここにありますように 23.3%と,2,975 万人,おおよそ 3,000 万人の方が高齢者というような状況でありまして,今後の推移というのを見てまいりますと,これから 2060年に向けて,日本の人口は約 8,000 万人にまで徐々に減っていきます。子どもの人口も徐々に減っていきますけれども,高齢者の人口は横ばいで約 4,000 万人といったようなことでありまして,御存知の方もいらっしゃるかと思いますけれども,現役世代 1.2 人で一人の高齢者を支える時代が将来やってくるという,大変難しい局面に日本も差し掛かってくるのではないのかと思います。

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高齢者に多い認知症なんですけれども,どれくらいの割合で認知症を有しているかといったような統計がちょっと古いものなんですけれども,大体 65 歳から 69 歳までは1.5%,ほとんどいらっしゃらない。それがだんだんだんだん年齢を重ねるごとに増えていって,もう 80歳から 84歳までは約 15%,それで 85歳以上になりますと約 30%の方が認知症を発症されているといったようなことになります。それで厚労省のほうも一体日本にどれくらいの認知症の患者さんがいらっしゃるのかという統計を取って,将来推計といったことで,数を試算したものが 2003年のデータなんですけれども,大体このような形で今現在 2012年ぐらいで約 200万人くらいだろうと。今後ずっと増えていって,恐らく 2040 年くらいになると約 400 万人くらいだろうというふうに試算していた。これが 2003年の計算なんですけれども,実はこれが大きく間違っているというのがつい先日ですけど,緊急的に報告があったんですけれども,厚労省老健局から実はそんなものじゃないと。今既にもう日本にいる認知症の患者さんは 305 万人,今後もどんどん増え続けて,この先はデータが出てないですけれども,恐らく 600 万人とかそういった大台に乗るんじゃないかということであります。300 万人,今認知症の患者さんがいらっしゃるということは,広島県の人口よりもはるかに多いと。更に増え続けて 600 万ということになると,中国五県の人口にほぼ匹敵するような,そういった数の認知症患者さんが将来いらっしゃるということで,これはもう大変なことになってまいります。 そういう認知症の問題なんですけれども,まず認知症について定義をまずここで言いますと,「いったん正常に発達した知的機能が持続的に低下し,複数の認知障害があるため,社会生活に支障をきたすようになった状態」と,こういったふうに定義されています。その中でも,認知障害の中で記憶障害が中心となる症状で早期に出現することが多いと。いわゆるもの忘れから発症することが多いということであります。 もの忘れには二通りありまして,いわゆるもの忘れですね。そして認知症のもの忘れ,これは大きく異なります。ど忘れとかというのもありますし,それとどういうふうに認知症のもの忘れというのを区別するかということになりますと,例えば,昨日の夜御飯,何食べたっけといったようなときに,いろいろ考えたときに,そういえばスーパーで肉を買って,カレーを作ったわ,というヒントを出したら徐々に記憶が戻ってきて,大体のことや,やった内容というのを思い出せるというようなのが,もの忘れ,加齢によるもの忘れ。要するにど忘れに近いような状況なんですけど,認知症のもの忘れに関しましたら,このある一定期間の記憶がスポッと抜け落ちてしまって,要するにスーパーに行ったことも覚えていないし,肉を買ったことも覚えていない。晩御飯に何を食べたかっていうのも覚えていない。全くその部分の記憶がスポッと抜け落ちてしまって,それはどんな努力をしても思い出せないといったようなことが,認知症のもの忘れに当たります。 あともう一つ重要なのは,うつとの鑑別ということなんですけれども,うつ病と認知症,これ区別するのが難しい場合があるんですけども,最近おられた患者さんで,十年間飼っていた犬が亡くなって,それを契機にもの忘れがひどくなったと,どうも元気が

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ないとか,認知症になったんじゃないかといったようなことで来られた方がいらっしゃったんですけど,そういう場合ですね,本人がもの忘れを自覚して強調する,こういったのが大体うつの特徴でありまして,逆に認知症の患者さんというのは自覚がない。要するに自分がもの忘れがあるといったことをむしろ否定にかかると。「私はもの忘れなんかない」といったようなことが大体認知症のもの忘れの特徴でありますし,あと答え方ですけれども,最初からうまく質問に答えようとしないといったことがうつの特徴ですし,認知症の場合は,むしろ「その時はああいうふうになったからしたのよ」と,ありもしないようなことを言ったりして,作話と言ったりするんですけれども,つじつま合わせが上手といったような特徴とか,あと記憶に関しましては,昔の記憶と最近の記憶,全然差がなく忘れているというのがうつですけれども,認知症の場合は最近の記憶が中心にわからなくなっているといったような特徴がありますので,これを目安に鑑別していきますけれども,そういう認知症,様々な原因でこの認知症は発症します。 いわゆる多くの恐らく 100 くらいの病気の集まりが認知症というようにいわれております。その中でも数の多いものとしてはアルツハイマー型認知症,そして脳血管性認知症,レビー小体型認知症,前頭側頭型認知症,これはあとで説明しますけれども,それ以外にもいろんな病気で,例えば慢性硬膜下血腫とか脳梗塞はもちろんですけれども,脳の病気,様々な疾患がありますけれども,例えば脳腫瘍とかいろんな感染症,神経変性疾患,パーキンソン病でも認知症を呈することがあるんですけれども,そういう脳の病気の中で,認知症状は出てきます。 その認知症の発見の目安ということで,本日,後ほど堀さんからお話があると思いますけれども,認知症の人と家族の会という団体が非常にすばらしい発見の目安を紹介してくれています。例えば,もの忘れがひどい,判断理解力が衰える,時間,場所がわからない,人柄が変わる,不安が強い,意欲がなくなると,こういったことが発見の目安というふうになります。個々の事例はそこに書いてあるとおりなんですけれども,そういったところでどうも様子が違うというところが発見の目安になりまして,ではその認知症の症状といったことになりますと,中核症状と周辺症状,この大きく分けて二つに分けられます。 この中核症状といわれている症状は,いわゆるもの忘れを中心とする記憶の障害,あと理解力とか,あるいは判断力とかそういう認知能力が低下したりだとか,あと人格が変わったりとか,こういう症状なんですが,これはですね,最初お見せしたように脳の神経細胞が減っていくことに伴ってみられる能力の喪失,要するに認知機能の喪失といったようなことに起因する症状であります。もちろん病気の進行とともに悪化していきますし,程度の差はあれ,すべての患者さんにみられる症状です。 一方,周辺症状,これは全く中核症状とは異なる症状なんですけれども,これは御存知のとおり,BPSD といわれたりすることもあるんですけれども,精神症状あるいは行動障害といったことがみられます。これは神経細胞の数とは全く関係がなく,これは初期からみられる人もあれば,みられない人もいるといったような症状なんですけれども,

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具体的に言いますと,先ほどの中核症状は記憶障害,会話に障害が出る,場所,時間,人物がわからなくなるとか,日常生活に支障を来す,例えば,着替えができないとか,誕生日がわからないとか,食事をしたことを忘れる,話がかみ合わないと,こういう症状でありますけれども,周辺症状といいますと,例えば,介護者に抵抗する,夜寝られない,急に怒りだす,徘徊する,そういったようないわゆる精神症状のことを周辺症状,略語で BPSDと,英語ですけれども,呼びます。 この二つの大きな症状に分かれるんですけれども,さて認知症,100 ほど原因となる疾患があると言いましたけれども,数を数えた研究がいくつかありまして,これは東北大学の先生が統計を取ったデータによりますと,約 63%の人がアルツハイマー型認知症であると。脳血管性認知症は 19%,その他のタイプが 19%というデータがありますし,また,レビー小体型認知症を発見された小阪先生のデータによりますと,アルツハイマー型認知症は半分で,その次にレビー小体型認知症,脳血管性認知症,そういう認知症が次いでいるといったデータが出ていますけれども,共通するのはアルツハイマー型認知症が最も多いと,半分以上がアルツハイマー型認知症であるということであります。 それでは一つずつ認知症について御説明していこうと思うんですけれども,一番有名なアルツハイマー型認知症なんですけれども,これはですね,記憶障害や様々な認知機能障害のために,日常生活に支障を来す,緩除に発症して進行する。局所神経症候がみられない。要するに手足の麻痺とか震えたりだとか,痺れるとか,そういう症状が全く無くて,いわゆるもの忘れとか認知機能が低下して段取りとか,どうも行動がおかしいと,そういったようなことだけが発症する,症状としてみられるタイプがアルツハイマー型認知症で,初期の段階では体はすこぶる元気,ということです。ですから,例えば,徘徊とか BPSDで,広島市は山が近い所が多いんですけれども,安佐南区,安佐北区とか山の近くに住んでらっしゃる患者さんは,患者さんが山の中に走って入っていって,大探しするといったようなこともありますし,どこかへ出かけていなくなるとか,要するに目を離しておいたら非常に危ないといったような状況につながるのかもしれません。そして,アルツハイマー型認知症という表現以外に,アルツハイマー病,あるいはアルツハイマー型老年認知症と,いろんな呼び方がありますけれども,現在では,これ三つとも同じ病気だといったことになっておりますし,一般にアルツハイマー病と呼ぶこともあります。 これが実際のアルツハイマー型認知症の患者さんの脳の検査所見なんですけれども,上が MRIで,下が実際の病理解剖,亡くなられた後に病理解剖した脳の断面なんですけれども,これでおわかりのとおり,脳のこの溝,要するに脳溝というところが結構浮き立っていますけれども,これは脳が縮んで,そして溝が深くなっていると,いわゆる脳萎縮が起きているといったようなことを表す所見でありまして,正常なものでは,脳の溝,こういった脳溝はほとんどみえないか,いっぱいいっぱい脳が,俗にいいますとしっかり詰まっているといったような像が正常なんですけれども,アルツハイマー型認知症では脳の萎縮がみられていると。実際,亡くなられた患者さんの脳を見ても,それは

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もうはっきりわかると。要するに脳質が開いてみたりとか,あるいは脳の溝が深くなっているといったようなことがありまして,要するに大脳皮質の神経細胞が脱落しているといったようなことがわかります。 その原因ということについては,世界中でいろんな研究が行われていますけれども,今その主力なターゲットといいますか,その原因としましてアミロイドβ蛋白の蓄積と,いわゆる老人斑といわれるものが,脳の大脳皮質の神経の組織をみると,こういうのがたくさんたまっていると。これが神経の脱落変性の原因となっているといわれていまして,これを何とか防ごうという治療が行われており,治療法の開発が精力的に全世界で行われております。また,神経原繊維変化といったこともありますし,当然ですけれども,神経細胞の数が減っていっているといったような所見が得られます。 先ほど体はすこぶる元気と言いましたけれども,それは最初の段階でありまして,これは縦軸に認知機能で横軸に時間経過をプロットしていますけれども,要するに時間が経つにつれ,認知機能はだんだんと低下していくと。発症初期は抑うつとかもの忘れとか不安とか,こういったような症状で,例えば,テストをするとなかなか良い点が取れると。それがだんだん病気が進行するにつれて,記銘力障害,記憶障害,時間の感覚とかもわからなくなってきて,だんだんと難しいことができなくなってまいりまして,末期と書いてありますけれども,10年くらいを一つの目安としまして,人格変化,無動無言,失外套症候群と徐々に徐々に進行していって,最終的には寝たきりに近いような状態になる,こういった経過をとります。 ただ,高齢者に多い認知症と,アルツハイマー型認知症ですけれども,高齢者に多い疾患としてもう一つ脳卒中があります。そういうアルツハイマー型認知症の患者さんが,途中で脳梗塞を起こしたりなんかすると,ドンッと認知症が進んで,そういう人がまた再発すると,またドンッと。要するにこの高齢者の両方合併しやすいアルツハイマー型認知症,そして脳卒中ですけれども,それが両方重なることによって,より認知機能が低下しやすいといったようなこともありますので,これを何とか防いでいかないといけないということでありますけれども,この脳血管性認知症,後で説明しますけれども,これは脳卒中が原因ということなんですけれども,最近の研究でこのアルツハイマー型認知症の原因としましては,高血圧,糖尿病,高脂血症といういわゆるメタボの要因ですけれども,こういったものが発症に関係していて進行にも影響していると。要するに高血圧,糖尿病,高脂血症とかがあると,脳卒中になりやすいばかりでなく,アルツハイマー型認知症にもなりやすいといったようなことが出てまいりますので,これは生活習慣病を何とか食い止めなくてはいけないということであります。 次に,今申しました脳血管性認知症のお話ですけれども,これが頭の CT の輪切りですけれども,こちらが顔,こちらが後ろ頭ですけれども,ここに黒く見えているところ,これが脳梗塞の痕ですけれども,この患者さんは右にも左にも脳梗塞がいっぱい多発しているといったようなことで,要するにこの黒くなっている部分は,大脳の神経が死んでしまっているといったことなんで,かなり認知機能も低下してくるだろうということ

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がわかりますけれども,こういう脳卒中を脳出血,脳梗塞,クモ膜下出血,こういった疾患が原因で起きてくる認知症もありまして,これを脳血管性認知症と一括りにしていっているわけなんですけれども,これの治療としては,先ほど言いましたように高血圧,糖尿病,こういった危険因子といわれるものですけれども,これをコントロールしていく以外にはないと。再発防止が最大の治療であるということになっているんですけれども,実際認知症を発症したときに,どういう治療があるのかということを後でも述べますけれども,これなかなかいい治療法がないのが現状であります。ですから再発を起こさないというようにするというのが一番の予防策ということなんですけれども,具体的な治療法というものがリハビリテーションとかそういったものが中心となっていくだけで,薬物治療はちょっと難しいんじゃないかというようなことであります。 次に,レビー小体型認知症なんですけれども,この方は 74 歳の女性です。70 歳の時にうつ状態となり,抗うつ薬の投与を開始。72歳の時に旅行中に「壁に水が流れている」など幻視が出現。要するにありもしないような変な物が見えるわけですね。73歳のときに「鞄の中に犬がいる」「絨毯の中に虫がたくさんいる」「人の顔にクモの巣がかかっている」など幻視がかなりひどくなっていて,74歳の時にうつ症状が増悪して,この頃に初めて動作が緩慢になったりとか,振戦,攻緻といった要するにパーキンソン病に似たような症状が出て,その後でもの忘れが出現すると。こういったちょっと特殊な,要するにもの忘れが最後に出てくるような,その前に幻視とか変な物が見えるといったようなことで発症するタイプの認知症です。 このレビー小体というのが何かと言いますと,この大脳皮質の神経細胞の組織なんですけれども,神経細胞の中に,このヘンテコなレビー小体という塊がですね,どんどんできてくるんですね。これによって神経細胞が変性していくといったようなことが原因といわれています。最近こういった幻視で発症する患者さん,NHKで紹介されたりして,結構多いんじゃないかということになっていますし,男性は女性の2倍多いという統計もあります。要するにパーキンソン病に似たような患者さんで,そして要するに手が震えたりだとか,動作が鈍いとか,こけやすいとか,そういった中で認知症が発症してきた場合にレビー小体型認知症というタイプも考えなくちゃならないということであります。 あともう一つ,最後の前頭側頭型認知症,昔はピック病といわれていましたけれども,このタイプの認知症は,この方は 66 歳の女性ですけれども,63 歳頃,次第に生活パターンが単純化され,落ち着きが無くなり,もの忘れや放尿がみられるようになった。これは普通,滅多にしないような行動ですけれども,こういうことがみられるようになって,65 歳頃には,同じコースを毎日散歩するというような常同的な散歩が始まったが,道に迷うことなく家に帰ることは可能であった。所構わずタバコを吸い,自分の膝の上や畳の上に平気で灰を落とすようになった。要するにだらしなくなってきたと。要するに放尿とかこういうだらしない行動,そして散歩の途中に他人の畑のトマトを盗み食いするようになり,近所から苦情が出るようになったと。こういった特殊なタイプの認知

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症が前頭側頭型認知症でありまして,その名前のとおりですね,前頭葉と側頭葉が中心にやせてくるような,これは脳の断面で,これが目玉で前のほうが前頭葉ですけれども,こういった所が中心に萎縮してくると,こういうタイプの認知症です。これは性格変化といったようなことが重要になるんですけれども,例えば,新聞に学校の校長先生が痴漢で逮捕とか記事が出たり,あるいは警察署の署長さんが万引きで逮捕とかそういう記事が出ることがありますけれども,そういう方々が常習犯で何遍もそういうことをしているというなら別ですけれども,ずっと真面目一筋で来て,急に 60歳過ぎた頃からそういう普通しないようなことをして,警察に捕まるといったようなことがあった場合に,ひょっとしたらこういう認知症が発症してこういう行動に出ていると,要するに病気のせいだといったようなこともあるんじゃないかということになります。 二番目ですけれども,「認知症の治療法」はと。これが最近テレビ等で注目されてコマーシャルを見られた方も多いんじゃないかと思いますけれども,これはちびまる子ちゃんを題材にしたエーザイの「認知症は高齢者なら誰でもかかりうる病気です」,要するに啓発活動のポスターですけれども,こちらは樹木希林が出た「認知症の新しい治療が始まっています」要するにもの忘れ外来とありますけれども,認知症は早く発見すれば,治療があるといったようなことを訴えるようなコマーシャルが流れておりますけれども,じゃあその認知症の治療は,ということなんですけど,これは単に薬物治療だけが認知症の治療というわけではありませんで,非薬物療法,後で述べますけれども,いろんな薬を使わない,後であります笑いヨガももちろん非薬物療法ですけれども,デイケアとかそういったようなこと,あと適切なケア,これも一つ大きな認知症の治療になります。こういった三つの方法を積み重ねることによって,理想的な治療が実現できるのではないのかということになります。 最初に薬物治療から御説明しますと,1999年にアリセプト,一般名ドネペジルですけど,これが発売になりまして,この 12年間はもうこの薬しか認知症の治療薬,アルツハイマー型認知症の治療薬は無かったわけなんですけれども,去年ですね,3つ新しい薬が出てまいりました。リバスチグミン,これはイクセロンパッチ,リバスタッチ,要するに貼り薬の認知症の治療薬ですけれども,あとガランタミン,レミニール,これ飲む薬ですけど,あとメマンチン,メマリーという薬ですが,こういう4種類の認知症の治療薬が最近使えるようになってまいりましたが,実はこの3つはですね,一般名でいいますとアリセプト,イクセロンパッチ,リバスタッチ,貼り薬とレミニール,これは一つの同じ薬ということで,どれか一つを使うしかないと。例えば,パッチを貼りながらアリセプトを飲むということは間違いということになります。あとメマンチンというのは後で述べますけど,これは特殊な,また別の薬になるんですけど,今その4つが出てきております。それぞれ軽症の人から高度までアリセプトは使えますし,イクセロンパッチ,リバスタッチは軽度から中等度,レミニールも軽度から中等度ですけれども,その進行具合によって,どの薬が使い分けをすると,使えるということもありますし,メ

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マリーは中等度から高度ということになっています。 実際,軽度,中等度,高度というのは大体どういう症状が目安になるかと,アルツハイマー型認知症の重症度なんですけれども,軽度といいますと,最近の出来事をしばしば忘れると,記憶に頼る内容の会話は困難と,こういった症状が現れたときは軽度ですし,中等度になりますと,日にちやら時間やら場所がわからなくなって,注意力も低下してきて,複雑なことができなくなって,ここまでくると中等度。そして高度に至りますと,日常生活で全面介助が必要となってきます。新しい出来事は全く記憶できないといったような状況が高度というふうになりますけれども,まずはいわゆる初期のアルツハイマー型認知症,いわゆるもの忘れ外来を受診された方には,どういう治療を行うかということなんですけれども,薬物療法で使う薬は,アリセプト,レミニール,リバスチグミン,この3つのうちのいずれか一つということになります。それぞれ増やし方は例えば,リバスチグミンのこのパッチ製剤ですと1か月ごとに増やしていきますけれども,レミニールという薬でしたら 1 か月でもう維持量にまで達すると。アリセプトは一週間かそこいらで 5 mg の普通の容量に増やせるということなんですけれども,このいずれか一つを使うということになります。更に中等度まで病状が進行してまいりますと,どういう治療をお医者さんがするかといいますと,先ほどのアリセプト,レミニール,イクセロンパッチ,リバスタッチ,この一つというのは同じなんですけれども,これにメマリーという薬,これも新しい薬ですけど,一週間ごとに増やして,量を増やしていったりする薬ですけれども,こういう薬を併用して治療を行っていくということが行われております。 高度のアルツハイマー型認知症になりますと,この二つの薬は一応高度では使わないということになっておりまして,アリセプトとメマリー,この組み合わせあるいはどちらか一方みたいなことになってまいりますけれども,こういう使い分けと,あるいは導入の方法というのがございます。そして気になるのは,お薬の値段ということも気になるかと思いますが,これはアリセプトと全部値段がこの 427 円というのが大体同じ値段で設定されているので,どれを使ったから高い安いといったことにあまりならないようになっています。 アリセプト,レミニール,イクセロンパッチは併用できない,同じ作用機序だからと申しましたけれども,いったいどういう作用をするかということなんですけれども,アセチルコリンエステラーゼを阻害するといった共通の薬理作用があります。要するに神経伝達物質でありますアセチルコリン,これの分解を阻害する,要するにここは神経の終末,ここが一個の神経,こちらが一個の神経なんですけど,神経と神経の間,シナプスといいますけど,ここのアセチルコリンの量を増やしてやろうと,ただそういう薬であります。そのアセチルコリンに注目したい理由といいますと,このアセチルコリンはこちらの脳全体を活性化すると。これはそれぞれ投射経路が書いてありますけれども,脳の活性化に必須の神経伝達物質ということになりまして,実際ドネペジル,アリセプトですけれども,どういう変化が出たかといいますと,もの忘れが減ったとか,食事を

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準備するようになったとか,意欲が出たとか,自分から草刈りをするようになった,電話機を取るようになった,あいさつをするようになった。要するに脳の活性化がアセチルコリンの濃度を高めることによって得られるということであります。 同じ作用機序のレミニールも同じでありまして,これは治験の時の薬の認可を受ける時のデータなんですけれども,横軸が時間経過,下にいくほど認知機能が低下といったものなんですけれども,何も飲まないと認知機能は時間とともにどんどん低下していくところが,レミニール,ガランタミンを飲むことによって少し時間を先延ばしできると,一年半進行を遅らせますと書いてありますけど,アリセプトにしてもイクセロンパッチにしましても共通の作用が見られます。 リバスタッチ,これは貼り薬の認知症の薬と,新聞で御覧になった方もいらっしゃると思うんですけれども,これが最近よく出回って,要するに飲んだか飲まないかという服薬の管理が,認知症の患者さんは難しくなってまいります。私の患者さんでアリセプトを朝飲んで,10 分経って「あれっ,今朝アリセプト飲んでないわ」,またもう一粒飲んで,10分後に今朝飲んでないから飲んで,続けて6錠朝飲まれた方がいらっしゃるんですけれども,その人は救急車で運び込まれるというような,嘔吐と気分不良ということになりますので,服薬管理というのが実は認知症の患者さん非常に難しい。大きなポイントになるんですけれども,この貼り薬でしたら,飲んだか飲まないか,ここに日付を書く欄があるんですけど,飲んだか飲まんかというのは問題なく,貼ったか貼らんかというだけなんで,外からは確認できると。例えば昨日の日付のものが貼ってあって,今日のが貼ってなかったら,今日の薬はまだというふうに外見上にわかるということで,最近使われ始めてきております。 その貼り薬にしてもアリセプトにしてもレミニールにしても,要するに横軸が時間の流れで,縦が症状の悪化ですけど,何もしないとこういうカーブで悪化していくところが,少し時間を遅らせると。量を増やしたり,あるいは工夫をすると,もう少し上乗せできると。こういう効果を期待して,出している薬物治療の原理というのは,これなんですけれども,そういう薬物治療がありますけれども,その副作用といったことも,一つ問題になってまいります。先ほど嘔吐があったと言いましたけど,これは6錠も飲めば皆さん嘔吐されますけれども,1錠でも気分不良とかでとても飲めないといったような場合があります。こういった時に,どうするかという時にプロトンポンプインヒビター,胃薬ですね,あるいはナウゼリンといわれているような吐き気止めですね,こういったものと一緒に飲むとか,あるいはいっそ貼り薬のイクセロンパッチ,あるいはリバスタッチに替えると。貼り薬でしたら,飲み薬に比べて多分,吐き気の副作用は多分出にくいんじゃないかと思うんですけれども,そういうものに切り替えるといった対策も必要になる場合もあります。ただし貼り薬の一つ副作用としたら,かぶれるという場合もありますので,例えば貼ってみて,貼った所がどんどん赤くなって,痒がったり痛がったりするようなことになれば,ちょっと貼り薬もやっぱり続けるのは難しいといったことになりますので,その場合はまた別の治療法を考えるということになります。

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続きまして,メマンチン,4番目の薬ですけど,これはメマリーという商品名ですけれども,これはアセチルコリンではなくて,グルタミン酸の神経伝達をブロックするような,ちょっと先ほどとは違うんですけど,そういう薬であります。先ほどと同じようにこれが神経,この下も神経ですけど,神経と神経の間のシナプスのグルタミン酸の,要するに受容体といいまして,それがくっつくことによってシグナルが伝達されるんですけれど,ここの所をブロックすることによって余分な脳のノイズといいますか,それを遮断するといったことが作用機序でありまして,これは実はグルタミン酸というのが神経細胞死に影響してまして,要するに神経が死ぬる原因となったりすることが報告されたりしていますけれども,そういう余分なグルタミン酸が影響するのをストップすることによって,神経を守るという働きもありますし,先ほど言いましたノイズを減らすということでシナプス伝達をスムーズに行うといったような作用があるとされています。実際,メマンチンの場合は,中等度から高度の患者さんに使うことになりますし,あとアリセプトと,あるいはレミニールでもイクセロンパッチ,リバスタッチでもいいんですけど,その薬と併用ができます。これはですね,同じように横軸が時間で,下にいくほど認知機能が低下といったものなんですけど,アリセプトだけ飲んでいる場合はこういうふうな低下の仕方,それをアリセプトとメマリー両方を飲むことによって,少し上向きに,要するに認知機能を改善して,これも結局のところは下がっていって,時間を遅らせるという効果になると思うんですけれど,そういう効果が海外のデータですけどありますし,そういう組み合わせで治療を行うこともあります。 先ほども言いましたけど,アルツハイマー型認知症の薬は,今言ったとおりなんですけど,他のタイプの認知症の治療と,例えば脳血管性認知症,先ほど脳梗塞がたくさんできて認知機能が低下していると言いましたけど,こういう脳血管性認知症の治療に処方可能な薬物はあるかと。これは「認知症疾患治療ガイドライン 2010」というのが 2010年に出まして,要するに一番正しい,一番いい認知症の治療法は一体どれかといったようなことを書いてある本なんですけど,それを見ますと,ドネペジル,アリセプトですけど,貼り薬,レミニール,メマリー全部ですけど,一応多少は効果があるだろうと。ただし科学的根拠は不十分であるというただし書きが書いてありますけど,要するにこういった薬は脳血管性認知症では,本来使ってはいけないということになっているんですけど,使うことによって多少効果が期待できるかもしれないと。ただし,本邦未承認と書いてありますけど,実際この病気で使うことは,良くないことなんですけど,実際問題使われているケースもありまして,実際,それによって少し,例えば明るくなったとかですね,しないことを,今までやめていたことをするようになったといったような効果もみられることもありますので,先生によっては,そういう脳血管性認知症,脳梗塞を2回も3回も繰り返されて認知症になっている患者さんに使われるケースもあります。 一方,レビー小体型認知症ですね,幻視が見えるタイプの認知症ですけど,これに対する薬物療法はあるかということなんですけれども,これも国は使うことを認めていな

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いんですけれども,アリセプトとかイクセロンパッチ,リバスタッチ,こういう貼り薬が保険適用外なんですけど使用を考慮してもよいということが「認知症疾患治療ガイドライン」に書いてありまして,こういった薬を使うこともあります。ただしこのレビー小体型認知症というのは,薬に対する反応というのが非常に敏感というか過敏なので,普通の用量で使うとすぐに幻覚とか悪くなったりしますので,用量は非常に慎重に調整しなくちゃいけないといったようなこともあります。 次に,認知症の中核症状の改善に続きまして,周辺症状といわれている BPSDですけれども,これに対する治療法と。これはどういった周辺症状が多いかと,妄想,攻撃的,睡眠障害,幻視,徘徊,抑うつ,いろいろ書いてありますけど,こういった症状ですね。これに対して,どういうふうに対処していくかというのが一つ問題になりますけれども,この BPSDに対する治療原則というのがありまして,まず治療が必要な BPSDかどうかを検討すると。そこまで治療しなくてもいいよといった場合には,積極的な治療を行わないという選択肢もありますし,あと,例えば風邪をひいたりとか,あるいは飲んでいる薬が原因になっていることによって,その先ほどの幻覚とか暴力とか起きてくる場合もありますので,そういう他の原因がないかということをチェックする必要があります。 あと,環境調整,非薬物療法で対応が可能か,こういった薬を使わないでも,治る症状なのかといったようなことを検討したりとか,それでもいろいろ検討しても,良くならないといった時には薬物療法といったことになりますけれども,先ほど薬の飲み忘れでBPSD が起きると言いましたけど,どんな薬で起きるか,ということを調べてまいりますと,抗パーキンソン病薬,ベンゾジアゼピン系薬剤,要するに睡眠薬ですね,抗不安薬,安定剤といわれたような薬ですけど,こういった薬もそういう周辺症状 BPSDの原因になったりするので,注意が必要と。あと,うつ病の薬とか頻尿の薬,あとガスターとか H2 ブロッカーですね。こういった薬で起きることもありますんで,そういった薬との兼ね合いですね,例えば薬を替えることによって,BPSD が消失したといったようなことがあれば,やっぱりその薬が原因だったということになりますので,そういう他の薬の調整ということも必要になりますし,あと,高齢者で 10も 15も薬を飲んでらっしゃる方時々いらっしゃいますけど,やっぱりたくさんお薬は飲まないほうがいいんじゃないかと。要するに飲み合わせの問題もありますし,体もちょっと弱っている面もありますし,そこまでたくさん薬を飲まなくてもいいんじゃないかといったような検討も必要になってきます。 あと,先ほど言いましたメマリー,グルタミン酸の受容体のブロッカーですけれども,これが実は BPSDに効果があるというデータが出ていまして,患者さん,先ほどノイズが減ると言いましたけど,要するに頭のもやもやが取れて,例えば興奮,攻撃性とか,非刺激性とか,食行動の変化とか,こういったことでいい効果が得られてきまして,アリセプト,メマリー,これは中核症状の薬ですけれども,実は周辺症状にも利くといったようなこともあります。あと,それでもダメな場合ということになりますと,ここに書いてあるいろんな薬がありますけど,要するに統合失調症ですね,に使う薬とか,不

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眠のときの薬,安定剤とか,あと,抑肝散,これはよく使われている薬で比較的副作用も少ない薬なんですけど,こういった薬とか。あと,向精神薬といわれているようないろんな薬がありますけど,こういった薬,要するに精神科の先生が出されるような薬で対応しなくちゃいけないといったようなこともみられてきます。 それが薬物治療の今の状況なんですけど,実はアルツハイマー型認知症,新薬が全世界でしのぎを削って開発されていますけど,今一体どういうことになっているかといいますと,その原因といわれていますアミロイドβ蛋白からなるこの老人斑,これを消してしまおうという治療,これを中心に行われています。例えばこれをアミロイドβ蛋白が溜まるのなら,それを作る酵素を阻害して,要するに作らせないようにしようという薬でありますとか,ワクチンをうって,これを処理しようといったような治療方法があります。このワクチンは結構いいところまでいったんですけれども,サルで,アルツハイマーのモデルのサルを使ったら,この老人斑が消えたんですけど,人間で実際使ってみたら,脳炎を起こしてとても使いものにならなかったという残念な結果だったんですけど,今現在はですね,この抗体薬,アミロイドβ蛋白に対する抗体,これを直接攻撃するそういう抗体,風邪をひいた時にウイルスや菌に対して抗体ができますけど,それを予防接種みたいな形でワクチン接種して,というのがこっちの治療なんですけど,もう実際,抗体を注射してこいつを直接壊してしまおうという治験が行われていまして,治験レベル3と書いてあるのは,人間の実際の患者さんに使っているようなそういったレベルで,これはもう全部海外のデータなんですけど,こういう治験が行われております。治験というのは新薬開発のためのテストですけれども,結構進んでいるものもありますので,ひょっとしたらこれはアルツハイマー型認知症の根本治療にもつながる治療なので,こういった薬が出てくる可能性があります。 先ほどのアリセプトとかレミニールとかイクセロンパッチ,リバスタッチというのはアセチルコリンの濃度を高めて,活性を促進することによって症状を改善するという,根本治療ではなくて,ただ補充的な底上げ効果を狙った治療なんですけど,それとは違う新しい治療というのが出始めてきております。ただ,すぐできるかどうかはまた別なんですけど。 あと薬物治療のことを話してきましたけど,非薬物療法ですね,デイケア,音楽療法,絵画療法,回想法,芸術療法,ペット療法,ガーデン療法,もういろんな治療があります。笑いヨガも恐らくこの中に入ってくると思うんですけれど,こういった治療を組み合わせ,適切なケアをすることによって,認知症のケアを実現していかなくちゃいけないということなんですけど,期待される効果としては,いろんなそういう非薬物療法によって,二次的な知的機能の改善,介護負担の軽減というのを目指すことにつながるのではないかというふうに期待されています。 三番目の「認知症のチーム医療,介護」というところにお話が入ってまいりますけど,実際,薬物治療,非薬物治療,そしてケアといったようなことを総合的にやっていかな

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くちゃいけないわけなんですけど,それぞれの見方がありまして,ケアマネさんがその中心を担うわけなんですけど,ケア的な視点,そして医学的な視点,その両方をですね,うまい具合に患者さん御家族と連携してやっていくためには,やはりチーム医療というのが必要になりますし,チーム介護も必要となってまいります。 要するに医療職,介護職,あるいは行政職,皆さんが力を合わせなくちゃいけない,ということなんですけども,この医療だけとってみますと,いろんな科の医師がおりますけど,例えば精神科医,脳外科医,神経内科医,私は神経内科医ですけど,得手不得手というのがどの先生にもあるんですけど,神経内科の場合は精神症状,BPSD への対応が苦手と。精神科医の先生はむしろそれが得意ということなんですけど,我々は診断が得意と。得意分野は利用しようということなんですけど,これが実際,これから安佐医師会,安佐市民病院で行っているチーム医療,介護について移るわけなんですけれども。 これ広島市の人口を示してあります。安佐南区はもうほとんど呉市と一緒といっていいくらいの 23万人の人口がおりまして,安佐北区は3番目で 15万人住んでらっしゃいます。高齢化率だけをとりますと,安佐北区が一番なんですね。これ去年の古いデータなんで 22.7 ですけど,今 23.いくつですけど,それにしても一番高いと。そういった中で,実際,高齢者の数を見てまいりますと,ここの時点でも安佐南区,安佐北区は一位,二位を独占する状況で,認知症の患者数を,ということになりますと,やっぱり恐らく安佐北区,安佐南区に 3,000 人ずつ,合わせて 6,000 人の患者さんがいらっしゃるんじゃないかということになります。 脳卒中も恐らく同じだけ,一位,二位は安佐南区,安佐北区じゃないかと思うんですけれども,そういったところで,何とかそれをみんなで力を合わせてやっていかなくちゃいけないということで「脳の健康パスポート」,これ6月にスタートしました。これロゴマークなんですけど,四葉のクローバーで,この意味は後で説明します。今までにも170 人の方がこの「脳の健康パスポート」を手にされていますけど,先ほど言いましたけど,初期の段階の診断については神経内科が得意だろうと。あとの BPSDは精神科の先生が得意だろうと。ただし,中心人物はかかりつけの先生,御開業の先生が認知症の患者さんを診ていく,こういった仕組みが認知症の地域連携パスの根幹になります。これ先ほどの繰り返しになりますけど,中核症状,周辺症状はそれぞれ神経内科,精神科の得意とする分野なんで,棲み分けというわけじゃないですが,力を合わせていきましょうということになります。 実際,これ広島県のホームページからとったものなんですけど,オレンジドクター,手元の資料にもございますけど,認知症相談医という方が,先生方がたくさんいらっしゃいます。これは安佐北区,安佐南区だけの数なんですけど,そういった先生方に,安佐市民病院もの忘れ外来についてと,脳の健康パスポートを活用した認知症ケアという案内をしまして,御紹介いただいております。これはどういう仕組みかといいますと,まず最初に御開業の先生から紹介いただくと,もの忘れ外来,高血圧で治療をされてい

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た患者さんで,半年前からもの忘れが目立つようになり,御家族が希望されているのでよろしくお願いしますと。こういった簡単な紹介状で来られます。また,ケアマネさんから紹介受けることもありますけれども,要するにもしもかかりつけの先生があれば,そこから直接紹介いただいて,なければ近くのオレンジドクターの先生を経由して紹介いただくといったような仕組みになっています。 紹介いただきまして,ここが安佐市民病院もの忘れ外来ですけれども,どういう検査を行うかといいますと,問診とか,いろんな検査を行いますけれども,看護師さんと医師と,皆さんで力を合わせてやっているんですけれども,これは長谷川式簡易知能スケール,非常に有名な認知症をピックアップする検査方法なんですけど,「お年はいくつですか」とか,年月日を聞いたりとか,「今いる所はどこですか」とか,「『桜,猫,電車』覚えてください。後で聞きます。」とか,あと,計算させたりとか,よく御存知だと思うんですけど,こういう検査方法でスクリーニングを行いますけれども,他にも血液検査が実は重要でありまして,認知症かと思っていたら,単に脱水だったとかですね。お酒ばっかり飲んでいてビタミン不足になっていたとか,あるいは心不全があったとか,いろんな他の原因でこれは認知症でないというふうになる場合になることもあるんですけど,こういう検査を行っていきます。 あとは画像検査,これも非常に重要なんですけれども,頭の MRIの検査,あと脳血流のスペクト検査,要するに脳のどこの部分がサボっているか,要するに働いてないかという検査なんですけど,こういったことを行うことによって,早期の発見につながると。あと PETはまだ保険未収載なので,認知症の治療,検査に使うことができないんですけど,将来的には,先ほどのアミロイドβ蛋白がどれだけ溜まっているかということの確認に使われたりするんじゃないか,というふうに思います。一連の検査が終わったら,ついに脳の健康パスポートをお渡しするわけなんですけれども,これが沖田先生といううちのもの忘れ外来の先生ですけど,詳しくこのパスポートの使い方とか,診断とか,御家族皆さんによく説明して,御開業の先生のところに戻って,例えば認知症だけという患者さんは,恐らく高齢者なのでいらっしゃらなくて,例えば高血圧があって治療を受けてたりとか,あるいは糖尿病の治療を受けてたりとか,いろんな治療を受けている中で,プラスアルファで認知症の治療も,ということになりますので,御開業の先生にそのままアリセプトなり,レミニールなり,あるいはメマリーなり,そういった薬を処方いただくということになります。 これ実際に見本をお示ししますけれども,これ A4 の紙を半分に折った非常に簡単なものなんですけど,要するにお薬手帳より少し大きくしたような大きさになります。これは今年,平清盛の大河ドラマなので,こういうふうに書いてみただけなんですけど,パッと開いたときに何がわかるかといいますと,御本人,御家族,長男さんとか,娘さんとかこういった重要な方々の,介護者の連絡先をすぐ書いていただくと。ここにですね,どうしても中心は御開業の先生,かかりつけの先生なので,かかりつけの先生に名前を書いていただく。我々は,もの忘れ外来はたったここだけですよね,ここに私の名

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前を書くと。あとですね,いろんな検査とか受ける時によその病院にいったり,あるときは BPSDの診療を受けたりとかですね。こういったときには,行った先の医療機関の先生に書いてもらうと。 あと,こちらのページはここにやっぱり中心人物の,二人目の中心人物でありますケアマネさんにここに名前を書いていただきます。デイサービスとかデイケアとか,あるいはショートステイとか,そういったどこを利用しているかと。あと,訪問看護ステーションを利用されている場合があると,地域包括支援センター,安佐北区に6か所,安佐南区に6か所,合わせて 12か所あるんですけど,どの地域包括支援センターの範囲に住んでらっしゃるかということで事業者にも書いていただくと。要するにこの脳の健康パスポートをパッと開いただけで,患者さんを取り巻くすべての医療職,介護職あるいは受けているサービスとか,あと,包括支援センターも全部一目瞭然になるといったことで,非常にわかりやすいと好評をいただいております。 次に,家族の方が書くページがこの3ページですけど,どういうふうに関わってほしいとか希望があれば書いていただきます。あと,この黄緑のページからは御開業の先生,かかりつけの先生が書く欄なんですけど,どういう治療を行っているとか,あるいはどういう病気をしたことがあるといったようなこととか,あと次のページ,5ページ,6ページは介護保険意見書のそのままの自立度のことを書くところなんですけど,これは介護保険意見書を皆さん書いていただいていると思うんですけど,それを写すだけで済むというので,あまり手間がかからずに済むようになっています。 あと,ここがもの忘れ外来でやった検査結果を書く欄なんですけど,一応最初に来ていただいた後,次は三年後に来ていただくということになっています。その間はですね,地域の脳外科の先生でありますとかで診ていただくと。もし検査をするときは記入いただくということと,あと9ページ目はですね,今の診断名というのを書くことになっていますけど,ここがミソなんですけれども,一番最初にもの忘れ外来へ来られた時というのは,いよいよ初期の段階で,MCIといわれます,認知症とはいえない段階の方も結構いらっしゃるんですけど,そういった方に診断をつけるのは,実は結構難しかったりするんですけど,今,四大認知症の話をしましたけど,その確立がどの程度かというのを書くことになっていまして,三年後に来られたときにもう一度検査をして,確定の診断をつけていくということになります。 これは中国新聞9月 12日に紹介されたんですけど,これ御開業の先生,二宮先生という先生なんですけど,実際にこの「脳の健康パスポート」を使って,医療職,ケアマネさん,介護職,地域包括支援センター,その橋渡しといいますか,連携をこのパスポートが担っているといったような状況を取り上げて報告いただきました。これは医学系の新聞なんですけど,これにも取り上げていただきまして,これ5万冊印刷されて全国に配布されたらしいんですけど,要するにこういうパスポート,これは新しい取組なんですけど,これを使ってやっていこうということが評価されてといいますか,紹介されました。

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広島県のほうでもこのパスポート,安佐南区,安佐北区だけで「脳の健康パスポート」をやっていますけど,全県的に広げていくという取組の中で,大竹とか,あと呉とか,あと三原とか,そういったところでも,同じようなパスポートのようなものを使って,医療職,介護職,その他の連携をとっていこうという活動がこれからスタートするんじゃないかと思います。 そのパスポートの意味を考えた場合に,医療職から見たらどういう意味があるかといいますと,これは最近出たアルツハイマー型の認知症がどのように発症していくかといったようなことを示した図なんですけど,横軸が時間軸で,ここに書いてありますけど,アミロイドβ蛋白が,症状がまだ出てない時に実はじわりじわりと溜まってきているわけなんですね。脳の活動も落ちてきていたりとかして,タウ蛋白も蓄積して,あるとこを超えたら,先ほど言いました MCIですね,認知症の一歩手前といった段階に入ります。全部いろんな症状が出てくる時というのは,こういう脳の中での変化がですね,随分進んだときに出てくるということになりますけども,「脳の健康パスポート」というのはこの MCI,要するに認知症のいよいよ初期のところで,早期発見,早期治療を行おうという,そういうツールになるんじゃないかと思います。介護者,あるいは家族からみたこのパスポート,「こんなパスポートなんかもらって嬉しくないよ」と言う方もいらっしゃいますけど,一体どういう意味があるかといいますと,これはですね,もう初期の段階でもの忘れ外来を受診されます。そういった中で,「恐らく認知症ではないでしょう」と言うとほっとされるわけなんですけども,「恐らく認知症がいよいよ一番初期ぐらいに発症しているんじゃないか」という残念なことを伝えなくちゃならない場合もあるんですけど,そういった場合ですね,皆さんびっくりされますけど,例えば地震が起きたときに,あと4秒で地震が来ますといったようなことがわかれば,これは緊急地震速報で,今現在行われてますけど,いろんな備えができたりとか,あるいは時間をかけて,4秒で認知症というのはないので,4年後にはどういうふうになるといったような一つの目安ですね,やっぱり認知症がいよいよ発症したんだということが早期にわかればですね,いろんなことができるということになるんじゃないかと思いますし,開業医の先生にその結果を持って,「脳の健康パスポート」を持って戻っていただいて,あとは先ほど言いました「認知症疾患治療ガイドライン」というのがありますので,これに従って正しい治療を御開業の先生で続けていただくと。 これは鳥取大学の神経内科の教授さんなんですが,このガイドラインを作られた方で,一緒に写真を撮らせてもらったんですけど,要するに神経学会だけじゃなしに,精神学会,要するにいろんな科の先生との集まりですけど,そのすべての先生方の力を合わせてできたガイドラインなんで,これに従って治療を進めていけばいいんじゃないかということになります。 あと地域の医療機関との連携ということになりますけど,かかりつけの先生を中心に,地域の MRIが撮れたりとか,認知機能の検査ができる病院,医療機関,あと精神科の先生,心療内科の先生を中心に BPSDの診療の得意な先生に,連携して患者さんがもしそ

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ういった症状で困ったときに診ていただくという連携もできておりますし,そういう医療機関をその連携をもってですね,今「脳の健康パスポート」を 170 人ぐらいに出していますけど,皆さんその認知症のケアを続けていらっしゃいます。そういった輪をですね,いろいろ続けることによって,かかりつけ医さんを中心に,安佐市民病院のもの忘れ外来でパスポートをもらって地域に戻って,周りの医療機関とも連携しながら,そして介護サービスとも連携しながら,認知症の患者さんのケアをやっていくというような,そういう仕組みになっております。 最後に,「認知症のケアの心」について,ちょっと時間も押していますけど,述べさせていただきたいと思います。これは御存知のように「ビューティフルレイン」,この前終わりましたけど,若年性アルツハイマー病,これは大変な病気でありまして,後で堀さんからお話があると思いますけど,この病気,特に4,50代の働き盛りに起きてくる病気で,経済的に困窮し,家庭への影響が大きく深刻な状態になるということでありますけれども,広島県も広島市も若年性アルツハイマー病についてパンフレットを作ったりして,取組を始めておりますし,あともう一つですね,これたけし軍団のダンカンが書いた小説「パブロフの人」というのがあるんですけど,これもまた非常に,私読んだんですけど,衝撃を受けまして,この小説書くために介護士の資格までとったと書いてありましたけれども,一億総介護時代,認知症の介護の大変さ,先ほど言いましたけど,現役世代 1.2 人で1人の高齢者を支える時代が到来ということなんですけど,この前,といいましても 2006年ですけど,認知症の母殺害に執行猶予がついた判決が出たと。要するに認知症の両親を介護して,10年以上介護してどうもこうもできなくなって,この絵にありますけど,昔家族旅行に行った所に両親を連れて行って,という話なんですけど,あまり言うとスジがわかったら怒られますので,この辺にしておきますけど,これを読んで非常に衝撃を受けましたけど,そのぐらい大変な状況にこれから日本は向かうんじゃないかという問題を投げかけた小説でありますけれども,一方でですね,認知症の患者さんを理解するということが,今非常に重要じゃないかというふうに見直されてきております。 認知症の人の心理,体験している世界というのは,わからないことの連続,不安と混乱,思い出せない,考えても考えてもわからない,こういう気持ちでいらっしゃいますし,家事や仕事の失敗,自尊心も無茶苦茶になってしまって,現実との世界にだんだんズレが出てきて,イライラが出てきたりとか,あるいは自分が壊れていく恐怖感,こういったことを思われていると。ただし,懸命に自分らしくありたいと願っている姿でもあるということです。 本人から見た今の認知症について,ちょっと考えてみたらどういうことになるかと思いますと,人生の途中で,恐らく別の世界に迷い込んだような,村上春樹の小説で「1Q84」というのがありましたけど,生まれてここまでは普通に,現実の世界で過ごされてきて,ここで急になんか別の世界に入った,恐らくこういう印象を認知症の患者さんは持たれ

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ているんじゃないかと思います。要するに日にちや時間の感覚があやふや,空間が歪んでいる,普通に道を通って家に帰れるはずなのに,どこか家にたどり着かないとかですね,あと計算が合わないとか,要するに時空が違ってしまっていると。あと,7秒くらいで記憶が消えたり,あと,物がよく無くなる,もの盗られ妄想というのがありますけど,犯罪社会の中を住んでいるような,そういう感じを多分描いてらっしゃるんじゃないかと思いますし,あと妙な生き物が住んでいる,変な物が見えたりとかしますし,「となりのトトロ」の世界と書きましたけど,見えない物が見えている,そして会話が通じにくい。要するに何を言われてもそれが理解できないとか,まるで外国人に話しかけられているような,そういったような感じとか,あと非常に住みにくい世界と,先ほどの自分の姿が壊れていくと言いましたけれども,ただし,1Q84以前は元の世界,要するにここら辺の 1965 年,45 年,ここら辺のことについては記憶もしっかりしていますし,残っているということなんで,ここから急に別の世界に入ったと,こういうふうな印象をもたれているんじゃないかと想像します。 そういった中で,今ケアの最前線,どういうふうなことになっているかといいますと,従来の問題対処型ケアから,患者本人のケア,要するにパーソンセンタードケアというふうに移ってきております。認知症になると何もかもわからなくなり,どうしようもないといったようなことから,認知症でも感情や心身の力がわずかに残っており,治療やケアの効果が期待できるんじゃないかと,こういう取組に変わってきていますし,認知症は本人より周囲が大変だということも,最近は,中心は患者本人,本人を理解することが基本,先ほどから述べてまいりましたけれども,どういうふうに理解していくかということに力を注ぐべきであろうと。あと,病気や症状ばかり注目するんじゃなくて,人に注目すべきであると。あと,家族や一部が抱え込んで負担が増大と書いてありますけど,やっぱりチームで動いていかんともうどうしようもないと。そういった,「脳の健康パスポート」もその一環ですけど,対応策を練っていかなくちゃいけないということになりますし,あと御家族,これは御本人ももちろん辛いんですけど,御家族がどういうふうに受け止められるかというステップ1,2,3,4と書きましたけれども,最初はやっぱり「まさか」と現実を受け入れがたく,もう戸惑い,否定ですよね。「あれだけしっかりしていたお父さんが,もうこういうふうになって」と非常にショックを受けて,ステップ2,反抗期。混乱,怒り,拒絶,どうしていいか分からず,精神的にも疲労困憊,絶望感で最も辛い時期。要するに「どうしていいかわからない」という時期から,ステップ3,修復期。仕方がないと割り切るようになるが,状態が悪化すると逆戻り,十分な支援体制をというところを過ぎて,ステップ4の受容期。認知症の理解が深まり,あるがままを受け入れるようになると。こういう4段階のステップを踏んで,ステップ4までいけば,患者の御家族もそのケアについて,より良い方向が見出せるんじゃないかと思います。 そして,これは本からとったんですけれども,認知症の人に対する5つのキーワード,敬意を持って接すると,受容,言葉や行動も含めて,その人を受容するという取組。そ

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して,笑顔。笑顔を忘れずにコミュニケーション。笑顔は笑いヨガの,後でお話があると思いますけど,非常に大事になってくるんじゃないかと思いますし,あとスキンシップ,なじみの環境。要するにこういう環境づくりと,対応の仕方というところに留意するべきではないかと思いますし,認知症の患者さんが,心理的に何を求めているかというのを本からとったんですけど,認知症のパーソンセンタードケアという本に書いてあったんですけど,慰め,安定性,その人らしさ,物語性,携わること,役割意識,帰属意識,仲間に入りたい,愛着,絆,こういったことを患者さんは望んでらっしゃると。 これは一体何かといいますと,還暦のお祝いに赤いちゃんちゃんこを着てお祝いしますけど,あれはどういうことかといいますと,還暦で干支が元に戻って,赤ちゃんの状態に戻るという,ほとんどそれに近いような状態で,要するに認知症の患者さんというのは,赤ちゃんとまではいきませんけど,幼児に戻ったような状況で,その幼児が求めているものは,この5つの要素ですよね,そのものであるということで,そういう5つの心理的な要因というのを大切にするべきであろうというのが述べられておりました。 あと認知症介護の 10 カ条,これは時間がないので割愛しますけど,ここに1から 10のいいことが書いてありますし,これは認知症予防財団が出したものなんですけど,あと BPSDの対策,もの盗られ妄想,これはここに絵が描いてありますけど,日本の社会はなぜか長男のお嫁さんが介護をすると,御主人の両親をですね。ですから,結婚して嫁ぐときに,例えば長男さんだったら,お嫁さんを会わせる時に,この両親を将来看るんだなと。逆に娘さんだったら,よその家の,例えば男性の御両親ですよね,を将来看るんだなといったような,そういうふうな感じになっているのが現状というふうにいわれていますけど,そういった中で,お嫁さんがですね,もの盗られ妄想の犯人にさせられて非常に困っている姿が描いてありますけど,こういった対策をどういうふうにするかということで,「そんなことはないわよ」とか怒ったりしがちですけど,それじゃいけないということが書いてあります。まず本人の訴えを聞いて否定しない。一緒に探す,普段からしまう場所を確認し,それとなく本人が見つけられるようにするとか,犯人役の家族では難しい,協力者を得る,頻繁に起こるとか負担は大きいが協力者を得て,本人を突き放さないように,毎日少しずつでも関わる。要するに言っても仕方がないので,そういう中でバリデーションという言い方もあるんですけれど,非薬物療法の中の一つなんですけれども,そういうふうに相手に合わせてですね,認知症の患者さんに合わせて,否定せずにうまく対処しましょうと。 これは徘徊についてもそうなんですけれども,最近では GPSがついたようなものもありますので,何とか居場所を確認できたりとかするんですけど,あと暴力,暴言,これがまた大変なことなんですけど,やっぱりこれもですね,穏やかな口調,ゆっくり待つ姿勢が重要,アイコンタクトと同じ目線での関わり,入浴やら排泄介助は,不愉快さや羞恥心への配慮、ゆっくりしたペースでの関わりを持つ,本人の嫌がることを無理強いしたりせずに意向や希望を確認すると,これもいってみれば合わせるようにすべきだろうと。こっちも同じくらい強く怒って暴言を吐いたら,本当喧嘩になっても仕方ありま

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せんので,こういう対応がいいんだろうということをいわれております。 あと,これは家族の接し方 10カ条と,これは繰り返しになりますけど,馴染みの関係,心の受容,心のゆとり,説得より納得,意欲の活性化,人の尊重,その他いろいろ書いてありますけど,こういったことを心がけて。あと行政のほうも,いろんな取組をされておりますし,今認知症疾患医療センターが2か所だったのが7か所に増えるということなんですけれども,あと地域の包括支援センターと御開業の先生と本人と我々のようなところとか,要するに連携を深めてやっていこうというところと。あとオレンジリング,これを手にされている方もいらっしゃいますけど,今現在 343 万人の方がキャラバンメイト・サポーターに登録されております。こういったみんなで認知症を支えていこうというキャンペーンとか,どんどんこれからも進んでいくんじゃないかと思いますし,やはりケアマネジメントということの最後は死と。看取りということになってくるんですけれども,自分らしい暮らしからグレイゾーン,中核症状出現期,症状多発期,症状複合期,こういったところをですね,包括的,継続的に見ていく仕組みが必要になってくるということと,あとこの4つの「脳の健康パスポート」にも印刷されているクローバーの葉っぱの一個一個はですね,医療,行政,民間,介護を示しております。その4つの力を合わせて患者さんをみていくと。予防の 10カ条と,先ほどメタボがアルツハイマーにも悪いということが書いてありますけど,これは予防につながることが書いてあります。そういう防御因子,危険促進因子,それぞれありますので,そういったことを考えてですね,何とか認知症を防げるような,高齢になったら防ぎようもない部分もあるんですけど,何とか健康にお歳をとりたいといったところなんですが。 これ最後のスライドですけど,長谷川式スケール,先ほど説明させていただきましたけど,これはその考案者であります長谷川和夫先生。「認知症ケアの心」という本の中で書かれていますけど,「認知症ケアとは,まさに絆を失い絆のズレに苦しむ人を支えるためぬくもりのある豊かな絆を再構築することである。」と正にこのとおりだと思うんですけれども,この言葉を最後のスライドにして,私の講演を終わらせていただきたいと思います。御清聴どうもありがとうございました。

質 疑 (質問者) 今いろいろと山下先生のほうからですね,認知症のいろんな病気の内容とか,治療のですね,一般的に多用されるアリセプトであるとか,いろんなことはお教えいただいたんですけども,今回のお話の中でですね,そういったふうになった後,どういうふうにすればいいかということは非常によく理解できたんですけども,一般的に若年性認知症にならないため,要は予防の部分というのを一番,我々50歳くらいですので関心があると思います。これについてですね,現段階で山下先生がお持ちの情報があれば,ちょっと

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情報提供ということでお聞きできればと。 (山下先生) どうもありがとうございます。非常に重要なポイントだと思います。実際,私自身も非常に興味がありましてですね,どうすればいいかというのをいろいろと調べたりしているんですけど,なかなかやっぱり,日頃から頭を使うというのも一つ大事だというふうにいわれておりますし,あと食べ物とかですね,いろんな,これ食べたらいいとかいうのもありますけれども,エビデンス的にはなかなかこれがいいというのはないみたいです。 あと,やっぱり運動ももちろん,要するに健康な体づくりというところに共通してくるんじゃないかと思うんですけど,一つはっきりしているのはですね,一日お酒を二合以上飲んだら脳は萎縮するということになっています。一合までならギリギリセーフで,全く下戸で飲めん人は脳がやっぱり全然萎縮してないらしいんで,下戸の人はひょっとしたらアルツハイマーとかなりにくいのかもしれません。 ちょっと変な答え方しかできなくて申し訳ないんですけど,やっぱり日頃から健康づくりと,やっぱりいきいきと,後で笑いヨガもありますけど,笑いなんかもいいんじゃないかと思います。