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1 関連学説・研究 ダイバーシティ経営等に関する国内外の企業、教育機関、研究機関、関連国際機関等による 主な学説や研究を以下のとおり整理した。 #01)世界規模の人材獲得競争“War for Talent” #02)企業買収におけるアクハイアリング(Acqui-Hiring)の動向 #03)均質性によるグループシンキング(Group Thinking#04)ジェンダーギャップの国際比較 #05)企業が直面するビジネス上の脅威:“人材獲得の脅威 #06)日系企業の人材獲得力 #07)多様性・受容性に対する労働市場の視点 #08)取締役会の多様化による企業価値・業績に対する効果 #09)イノベーションに繋がるダイバーシティ #10)イノベーション創出に向けたダイバーシティ #11)イノベーション創出に向けた経営戦略としてのダイバーシティの意義 #12)イノベーション創出に向けたリーダーシップ #13)イノベーション創出に求められるリーダーシップ #14)企業のリーダーの多様性が与える影響 #15)ダイバーシティの取組による生産性 #16)チームパフォーマンスにおける文化の多様性の“有効性” #17)女性に対する無意識のバイアス #18)生物学的な性差と社会学的な性差 #19)重複した異質性: 多様性と類似性のバランスの取れた組織構造 参考資料

War for Talent” Acqui-Hiring Group Thinking #04 …...1 関連学説・研究 ダイバーシティ経営等に関する国内外の企業、教育機関、研究機関、関連国際機関等による

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関連学説・研究

ダイバーシティ経営等に関する国内外の企業、教育機関、研究機関、関連国際機関等による

主な学説や研究を以下のとおり整理した。

(#01)世界規模の人材獲得競争“War for Talent”

(#02)企業買収におけるアクハイアリング(Acqui-Hiring)の動向

(#03)均質性によるグループシンキング(Group Thinking)

(#04)ジェンダーギャップの国際比較

(#05)企業が直面するビジネス上の脅威:“人材獲得”の脅威

(#06)日系企業の人材獲得力

(#07)多様性・受容性に対する労働市場の視点

(#08)取締役会の多様化による企業価値・業績に対する効果

(#09)イノベーションに繋がるダイバーシティ

(#10)イノベーション創出に向けたダイバーシティ

(#11)イノベーション創出に向けた経営戦略としてのダイバーシティの意義

(#12)イノベーション創出に向けたリーダーシップ

(#13)イノベーション創出に求められるリーダーシップ

(#14)企業のリーダーの多様性が与える影響

(#15)ダイバーシティの取組による生産性

(#16)チームパフォーマンスにおける文化の多様性の“有効性”

(#17)女性に対する無意識のバイアス

(#18)生物学的な性差と社会学的な性差

(#19)重複した異質性: 多様性と類似性のバランスの取れた組織構造

参考資料

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(#01)世界規模の人材獲得競争“War for Talent”

世界各国において人口動態や経済構造の変化、ビジネスの高度化等の複雑化が進み、人材・

組織の流動性(モビリティー)が高まっている中、高度な能力、人材マネジメント能力、リ

ーダーシップスキルを備えた人材のニーズが高まり、企業にとって、人材の獲得、育成・開

発、インセンティブ、リテンションの経営戦略上の重要性が高まっている。このような環境

のもと、企業間の人材獲得競争の熾烈化が進んでいる。このような環境を Schon Beechler

氏は「タレント獲得に向けた戦争(タレント・ウォー:Talent War)」と評している。

(出所)「The global ”War for Talent”」Schon Beechler等 著(Journal of International Management Pages 273–285 2009年9月)

(#02)企業買収におけるアクハイアリング(Acqui-Hiring)の動向

・ スタートアップ企業が有するプロダクトではなく、人材を獲得することを主たる目的とした

買収は、人材の獲得(Hiring)と買収(Acquisition)を掛け合わせた用語として「アクハイ

アリング(Acqui-Hiring)」と呼ばれている。Facebookや Yahooをはじめ、世界的なイノベ

ーション企業として、名を馳せる企業によって採られている。Facebookの CEO である Mark

Zuckerbergは米国の大手アクセラレーターである Y Comibnatorによる Startup Schoolの

場において「当社は企業そのものを買収しているのではく、その優秀な人材を獲得するため

に買収をしている。“Facebook has not once bought a company for the company itself. We

buy companies to get excellent people.”」と述べたとされている。

・ Dr. John Sullivanは EREにおいて、アクハイリングを用いることで享受できる主な利点と

して、以下を挙げている。

イノベーターを獲得できること“You get Innovators”

先進的な取組を行ってきたスタートアップにおいてイノベーションを先導してきた

人材、型にはまらない考え方を持った人材(Outside-the-box thinker)を獲得する

ことができる。このような人材を獲得することにより、買収企業にとってイノベー

ションの創出に資することを期待できる。

起業家精神を持った経営人材を獲得できること“You get the CEO

スタートアップの経営を牽引し、その成長を実現させてきたトラックレコードを有

し、業家精神を兼ね備えた経営人材(Entrepreneurial leaders)を獲得することが

できる。一方、このような経営人材にとっても、買収されることによって、買収企

業のブランドやリソースをリバレッジすること、さらなる事業機会へのアクセスを

得ることができ、Win-Win の関係を構築することができる。

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チーム全体を獲得できること“You get an intact team”

従来型の採用と異なり、個人の採用ではなく、既に協働してきた経験と実績を有す

るチーム全体を採用するため、新たにチームビルディングや協力体制を構築する必

要がない。等

(出所)「Acqui-Hiring: A Powerful Recruiting Strategy That You’ve Never Heard Of」Dr. John Sullivan著(ERE 2012年12月)

(#03)均質性によるグループシンキング(Group Thinking)

・ 「グループシンキング(集団浅慮:Group Thinking、Group Think」は、集団の意思決定にお

いて、構成員に対する無言の圧力が生じ、結果として、集団にとって、不合理あるいは危険

に繋がる意思決定が容認されることを意味する。グループシンシンキングを提唱したイェー

ル大学の実験心理学者である Irving L. Janisは以下のようにグループシンキングを定義し

ている。

団結した排他的な内集団に置かれ、ある意思決定において集団内の合意の形成が、代替的 な選択肢を検討すること以上に優先される思考形式

"A mode of thinking that people engage in when they are deeply involved in a cohesive in-group, when the members' strivings for unanimity override their motivation to realistically appraise alternative courses of action.”- Irving L. Janis

・ Irving L. Janisは、似通ったバックグラウンドを持つ構成員が多い等、均質性の高い集団

ほど、また、意思決定プロセスが体系化されていない集団ほど、このグループシンキングに

苛まれやすいと指摘している。また、グループシンキングに陥っている集団にみられる兆候)

(Symptoms)として、以下の傾向があると述べている。

耐性の錯覚 “Illusions of Invulnerability”

過度な楽観主義が生まれ、集団の耐性を超えるリスクに集団を晒してしまう。

集合的な合理化・正当化 ”Rationalization”

組織の考えが合理化・正当化され、外部から指摘やコメントを受けても、軽視して

しまい、自らの考えを見直すことに繋がらない。

既得の道徳規範に対する信用”Unquestioned Belief”

集団の構成員が、集団の行動原因の正当性を信用しているため、その意思決定に基

づく道徳倫理上の結果を看過してしまう。

外部集団に対する固定観念“Stereotyping”

外部集団に対する固定観念や偏見を持ち、外部集団を必要以上に軽視してしまう。

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反対者に対する直接的圧力“Direct Pressure”

集団の構成員に対して同調圧力が作用し、構成員が集団の考え方に対して反意を示

すことができなくなってしまう。

疑問を唱えることへの自己抑制 ”Self-Censorship”

集団の合意事項に対する疑念や異なる考え方を発せられない。

同意の錯覚“Illusions of Unanimity”

多数派の意見や判断が全会一致のもの(反対者はおらず、全員が賛同しているもの)

であると錯覚してしまう。

同意事項に対する都合の悪い情報の拒絶 ”Mindguards”

集団の同意事項に対して矛盾や問題点がある情報を拒絶し、都合の良い情報ばかり

を受け入れてしまう。

(出所)「Victims of Groupthink: A Psychological Study of Foreign Policy Decisions & Fiascoes」Irving L. Janis著

(Houghton Mifflin Company 1972年)

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(#04)ジェンダーギャップの国際比較

・ 世界経済フォーラム(World Economic Forum)は、世界各国における男女平等の度合いを指

数化した「ジェンダーギャップ指数(Global Gender Gap Index)」をランキング形式で公開

している。主な評価項目として、「経済参加と機会(Economic participation and Opportunity)、

教育(Educational Attainment)」、「健康と生存率(Health & Survival)」、および「政

治への参加(Political Empowerment)」をもとに各国ごとにスコアリングされ、ジェンダー

ギャップ指数として算定されている。

・ このジェンダーギャップ指数に基づく国別ランキングによると、評価対象となっている計1

44か国のうち、日本の同指数の総合評価は111位に位置しており、先進国の中では最低

水準となっている。同じアジアのシンガポール(55位)や中国(99位)よりも評価が低

い結果となっている。(参照 表1)。

(表1)ジェンダーギャップ指数

1位 アイスランド 20位 英国

2位 フィンランド 45位 米国

3位 ノルウェー 55位 シンガポール

4位 スウェーデン 99位 中国

5位 ルワンダ 111位 日本 (出所)「The Global Gender Gap Report 2016」(World Economic Forum 2016年 10月)より検討会事務局作成

日本に対する評価を見ると、とりわけ、「経済参加と機会」が 118 位と低い水準となっており、

また、10年前の 2006年時点の 83位から大きく順位を落としている(参照 図1、図2)。

(図1)日本に対する評価結果概要

(出所)「The Global Gender Gap Report 2016」(World Economic Forum 2016年 10月)

(図2)日本に対する評価結果(経済参加と機会)

(出所)「The Global Gender Gap Report 2016」(World Economic Forum 2016年 10月)

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(#05)企業が直面するビジネス上の脅威:“人材獲得”の脅威

・ PwC による企業経営トップを対象にした年次調査において、「企業の成長見通しに対するビ

ジネス上の脅威に対して、どの程度懸念しているのか」という質問を行ったところ、『人材

の獲得』に対して、「非常に懸念している」または「多少懸念している」という回答をした

グローバル企業は全体の約 73%を占めた。また、日本企業においては、当該回答をした企業

は全体の約 93%を占めており、海外企業と比較して、人材の獲得について懸念を持っている

経営トップが多いという結果が得られた(参照 図3)。

(図3)国内外企業の経営トップが懸念するビジネス上の脅威

(出所)「PwC 第 18回世界 CEO意識調査 境界なき市場 競争への挑戦」(PwC 2015年 4月)より検討会事務局作成

・ ビジネス上の脅威として「人材の獲得」を「非常に懸念している」または「多少懸念してい

る」とした回答比率における過去 3年間の推移について、日本企業は 2013~2014 年は 40%台

と低い水準で推移していたにも拘らず、2015年は約 93%と倍以上に伸びている(参照 図4)。

日本企業にとって人材の獲得の脅威が増している、という結果が得られた。

(図4)「人材の獲得」を懸念するとした回答比率の推移

(出所)「PwC 第 18回世界 CEO意識調査 境界なき市場 競争への挑戦」(PwC 2015年 4月)より検討会事務局作成

73%61% 60% 59% 58%

54% 53% 51% 47%

93%

67% 63%

80% 79%

51% 50%

37%48%

0%

25%

50%

75%

グローバル 日本n=1,322人

58%63%

73%

48% 45%

93%

0%

25%

50%

75%

2013 2014 2015

グローバル 日本

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(#06)日系企業の人材獲得力

・ リクルートワークス研究所は、大卒以上で 20~30代の外国人の男女を対象とし、海外企業に

対する勤務意向(自国企業を除く)に関する調査を実施した。米国系企業および欧州系企業

はついて、それぞれ約 58%と約 59%が「進んで働きたい」と回答しており、高い水準になって

いる。また、「働きたくない」との回答はそれぞれ約 11%と約 10%と低い水準にとどまる、と

いう結果が得られた。

・ 他方で、日系企業で「進んで働きたい」と考えている外国人人材は約 31%と低い水準にとど

まる。また、日系企業で「働きたくない」と答えた人材は約 29%となっており、米国系企業

および欧州系企業と比べて高い水準となった。米国系企業および欧州系企業と比べて、日系

企業の外国人人材の獲得力が相対的に劣るという結果が得られた(参照 図5)。

(図5)海外における日系企業の人材獲得力 外資計企業勤務意向(自国企業を除く)

(注記)回答者:12か国の大学卒以上で現在働いている 20~39歳の男女(短大卒除く)

(出所)「Global Career Survey(世界 13カ国 20代 30代大卒者の入・転職実態調査)基本報告書」

外資系企業勤務意向(全体/国・年齢別)(リクルートワークス研究所 2013年 5月)より検討会事務局作成

(#07)多様性・受容性に対する労働市場の視点

・ PwC によるミレニアル世代(1980年~1995年生まれ)の人材を対象にした調査において、「多

様性・受容性の方針は就職先を決める上で重要か」という質問を行ったところ、女性回答者

の約 86%、男性回答者の約 74%が「重要である」と回答した(参照 図6)。男女ともに就職

先を選定する際に、企業の「多様性や受容性の方針」を重要視しており、特に女性はこの傾

向が顕著である、という結果が得られた。

(図6)ミレニアル世代に対する調査:多様性・受容性の方針は決める上で重要か?

(出所)「PwC ミレニアル世代の女性:新たな時代の人材」(PwC 2015年 9月)より検討会事務局作成

31%

58% 59%

16%20%

40%

30% 31%36%

42%

29%

11% 10%

48%

38%

0%

25%

50%

日系企業 米国系企業 欧州系企業 中国系企業 韓国系企業

グローバル働いてもよい 働きたくない進んで働きたいn=7,285人

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(#08)取締役会の多様化による企業価値・業績に対する効果

・ Credit Suisseはダイバーシティと企業価値の関連性に関する調査として、ダイバーシティ

の取組状況によって株価のパフォーマンス等においてどのような違いが見られるか、分析・

評価を行った。

・ 当該調査において、取締役会の構成と株価のパフォーマンスの関係を比べると、経営陣に女

性が1名以上いる企業の株価は、そうでない企業(取締役会が男性のみ)の株価と比べて、

高いパフォーマンスをあげているという結果が得られた(参照 図7)。

(図7)株価の推移:取締役会の構成別(時価総額 100億 USDの企業)

(出所)「The CS Gender 3000: Women in Senior Management」

Figure 9 Global Performance Companies Market cap > USD 10 billion (Credit Suisse 2014年 9月)

・ また、経営陣における女性比率と株価のパフォーマンスの関係を比べると、経営陣における女性比率

が高い企業ほど、高いパフォーマンスをあげているという結果が得られた(参照 図8)。

(図8)株価の推移:経営陣の女性比率別(時価総額 100億 USDの企業)

(出所)「The CS Gender 3000: Women in Senior Management」Figure 17 Performance of companies tiered

by female management participation (Credit Suisse 2014年 9月)

取締役が男性のみ女性取締役が1名以上

2009 2010 2011 2012 2013 20142006 2007 2008

2009 2010 2011 2012 2013 2014

50%以上33%以上、50%未満

25%以上、33%未満全ての企業

経営陣(Management)に占める女性比率

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・ 取締役会の構成と ROE(株主資本利益率:Return on Equity)の関係を比べると、女性取締

役が多いほど、ROEが高い傾向が見られるという結果が得られた(参照 図9)。

(図9)ROE(株主資本利益率)と取締役会における女性比率

(出所)「The CS Gender 3000: Women in Senior Management」Figure 3 Return on Equity(Credit Suisse 2014年 9月)

・ 同様に、取締役会の構成と PBR(株価純資産倍率:Price Book-value Ratio)の関係を比べると、

女性取締役が多いほど、PBRが高い傾向が見られるという結果が得られた。(参照 図10)。

(図10)PBR(株価純資産倍率)と取締役会における女性比率

(出所)「The CS Gender 3000: Women in Senior Management」Figure 4 Sector neutral ratios: price/book value

(Credit Suisse 2014年 9月)

取締役が男性のみ女性取締役が1名以上女性取締役が2名以上

2009 2010 2011 2012 20132005 2006 2007 2008 平均

取締役が男性のみ女性取締役が1名以上女性取締役が2名以上

2009 2010 2011 2012 20132005 2006 2007 2008 平均

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(#09)イノベーションに繋がるダイバーシティ

・ セントトーマス大学の Sujin K. Horwitzらが実施した研究において、専門知識・教育・在職

期間といった「タスク型ダイバーシティ(Task-related Diversity)」を持った組織と、年

齢・性別・人種/民族といった先天的特徴に関する「デモグラフィック型ダイバーシティ(Bio

demographic-related Diversity)」を持った組織のパフォーマンスを比較し、どのような違

いが得られるかについて調査が実施された。この際、組織パフォーマンスは「質(Quality)」

および「量(Quantity)」の両面で評価され、「質」に関しては、以下の3つの構成要素に

基づいて評価した。

意思決定力(Decision making)

創造性とイノベーション(Creativity and Innovation)

問題解決力(Problem solving)

・ その結果、タスク型ダイバーシティは、「質」および「量」の両面において、正の相関に優

位性(Significance)が確認された。他方、デモグラフィック型ダイバーシティについては、

パフォーマンスの質および量の両面において、このような相関は見られない、という結果が

得られた。

(出所) 「The Effects of Team Diversity on Team Outcomes: A Meta-Analytic Review of Team Demography」

Sujin K. Horwitz等 著(Journal of Management 2007年 11月)

(#10)イノベーション創出に向けたダイバーシティ

・ プリンストン大学の Scott Pageが実施した研究において、タスク型ダイバーシティ

(Cognitive Diversity)の特徴について調査が実施された。その特徴として、イノベーショ

ンや創造力が求められる複雑なタスク(複雑な経営課題、エンジニアリング領域の課題等)

において、専門知識や経験といったタスク型ダイバーシティの有無とパフォーマンスの高さ

の間に優位な相関関係があるという結果が得られた。他方で反復作業等の単純なタスクにお

いては高いパフォーマンスは見られないという結果が得られた。

・ タスク型ダイバーシティの存在が、イノベーション創出等の高いパフォーマンスに繋がる理

由として、以下の4つの要素が作用していること、また、これらの要素が連続的に絡み合っ

て作用することで組織として高いパフォーマンスが実現されることが示された。

多様な観点(Diverse Perspectives)

多様な解釈・捉え方(Diverse Interpretations)

多様な経験則(Diverse Heuristics)

多様な予測モデル(Diverse Predictive models)

(出所) 「The Difference: How the Power of Diversity Creates Better Groups, Firms, Schools, and Societies」

Scott Page著(Princeton University Press 2008年 8月)

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(#11)イノベーション創出に向けた経営戦略としてのダイバーシティの意義

・ Forbes による企業の経営陣(Executive)を対象にした調査において、「イノベーションの

創出に向けたダイバーシティの取組の意義について、どのような考えを持っているのか」と

いう質問を行った。結果として、ダイバーシティやインクルージョンの推進は、イノベーシ

ョン創出に資する多様な視点や考えを促すうえで重要である、という点について賛同する経

営陣が約 85%と大半を占めていた。また、イノベーション創出等を実現するための手段とし

て、ダイバーシティに注目している経営陣が約 78%と同じく大半を占める、という結果が得

られた(参照 図11)。

(図11)イノベーション創出に向けたダイバーシティに対する経営陣の視点

(出所)「Fostering Innovation Through a Diverse Workforce」Figure 1: A diverse and inclusive workforce is crucial to encouraging

different perspectives and ideas that drive innovation. , Figure 2: Over the next three years, how will your focus

change on leveraging diversity for your business goals (including innovation)? (Forbes Insights 2011年)

(#12)イノベーション創出に向けたリーダーシップ

・ ハーバード大学の Linda A. Hillらが実施した研究によると、イノベーションの創出を実現

してきた米国企業には組織上の共通要素があるという結果が得られた。創造的な摩擦

(Abrasion)、俊敏性(Agility)、および決断力(Resolution)の3つの要素である。

・ 「創造的な摩擦(Creative Abrasion)」はブレインストーミングとは異なり、他社に対する

批判も含め、組織内の議論や衝突を通じ、結果として革新的な考えを実現するものと整理し

ている。「創造的な俊敏性(Creative Agility)」は失敗を受け入れつつトライ&エラーを俊

敏に行う素養、また、「創造的な決断力(Creative Resolution)」は様々な選択肢を分断せ

ず統合的な決断を行う素養であると整理している。

・ また、創造的摩擦が生まれるため、組織のダイバーシティと衝突が鍵であること、とりわけ、

異なる知識・スキル・考え方・働き方等の知的多様性(Intellectual Diversity)に富んだ

個々人が衝突し合う環境が必要であると説いている。

(出所)「Collective Genius: The Art & Practice of Leading Innovation」Linda A. Hill等 著(Harvard Business Review Press 2014年6月)

「The Capabilities Your Organization Needs to Sustain Innovation」Linda A. Hill等 著(Harvard Business Review Press 2015年1月)

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(#13)イノベーション創出に求められるリーダーシップ

・ ノースウエスタン大学の Alice H. Eaglyらが実施した研究によれば、リーダーシップのあり

方は交換型(Transactional)、変革型(Transformational)、また自由放任主義(Laissez-faire)

に大別でき、交換型リーダーシップでは指示が適切でないと質の高いアウトプットは期待で

きない一方、変革型リーダーシップでは人材の創意工夫が促され、時として想定以上の成果

をもたらすことがあるとしている。そのため、多様な人材を混ぜることによりイノベーショ

ン創出を図る組織にとって、変革型リーダーシップの存在が有効である、と示している。

・ 交換型リーダーシップおよび変革型リーダーシップに求められる資質はそれぞれ異なるとし

ている(参照 表2)。さらに、Alice H. Eaglyらは過去に実施された関連する調査・研究

の結果から、それぞれの資質について、男性の方が得意か、または女性の方が得意かについ

て分析を行った。その結果、変革型リーダーシップを構成する要素の全てにおいて、女性の

方が得意である、という結果が得られた(参照 図12)。

(表2)リーダーシップ・スタイルを構成する資質

資質 概要

変革型

カリスマ性 人を惹きつける力がある。

心理面の影響 その人物に関わることにより、尊敬やプライドが高まる。

行動面の影響 その人物から組織のミッションの価値、目的、重要性が伝わる。

モチベーション 目標や将来の姿について前向きなビジョンと関心が伝わる。

知的な刺激 問題やタスクの解決において創意工夫を引き出す。

配慮・思いやり 部下の育成やメンタリングを重視し、部下の抱くニーズに対して注意深く

配慮する。

交換型

報酬 部下のパフォーマンスが満足できる水準に達した場合、報酬を与える。

例外による管理(能動的) 部下のパフォーマンスが期待を下回っていると判断したとき、それを是正

するための何らかの手段を講じる。

例外による管理(受動的) 問題が大きくなってから何らかの手段を講じる。

他 自由放任主義 あまり姿を見せず、重大な状況でも特段の関与をしない。 (出所)「Transformational, Transactional, and Laissez-Faire Leadership Styles: A Meta-Analysis Comparing Women and Men」

Alice H. Eagly等 著(Psychological Bulletin Vol. 129, No.4, 569–591 2003年 1月)より検討会事務局にて作成

(図12)性別による得意なリーダーシップ・スタイルの違い

(出所)「Transformational, Transactional, and Laissez-Faire Leadership Styles: A Meta-Analysis Comparing Women and Men」

Table 3 Study-Level Effect Sizes for Transformational, Transactional, and Laissez-Faire Leadership Styles

Alice H. Eagly等 著(Psychological Bulletin Vol. 129, No.4, 569–591 2003年 1月)より検討会事務局にて作成

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(#14)企業のリーダーの多様性が与える影響

・ Talent Innovationの創業者 CEOである Sylvia Ann Hewlett らは、企業のリーダーが持つ性

別・民族性・性的指向等の先天的多様性(Inherent diversity)と海外勤務経験といった後

天的多様性(Acquired diversity)に焦点を当てた研究を実施した。先天的および後天的な

多様性を3つ以上有するリーダーが率いる企業は、そうでない企業と比べ、イノベーション

創出、市場シェアや市場展開といった観点で、どのような違いがあるのかについて分析を行

ったところ、先天的および後天的な多様性を3つ以上有するリーダーが率いる企業は、そう

でない企業と比べて相対的に、イノベーションの創出が活発になり、より高確率で市場シェ

アの拡大や新たな市場への展開を実現していたという結果が得られた。先天的な多様性のみ

ならず、後天的な多様性が重要であることを示す結果となった。企業のリーダーが多様性を

有することによって、従業員がスピークアップできる風土(Speak up Culture)の醸成に繋

がり、最終的にイノベーションの創出に資する、ということを示す結果が得られた。

(出所)「How Diversity Can Drive Innovation」Sylvia Ann Hewlett等 著(Harvard Business Review 2013年 12月)

(#15)ダイバーシティの取組による生産性

・ リクルートワークス研究所は労働生産性(従業員一人当たりの付加価値額)に関する研究と

して、分母に労働時間の総量、分子にイノベーションを据えた式により労働生産性を定義づ

け、ダイバーシティ&インクルージョン等がどのように作用するか分析を行った。

・ この分析によって、ダイバーシティ&インクルージョンおよびプロフェッショナル人材育成

とイノベーション(分子)の創出の間に、統計学的に有意な関係があるという結果が得られ

た。また、働き方改革、およびアサインメント改革の取組が労働時間(分母)の削減に統計

学的に有意義であるとの結果が見られた。ダイバーシティ&インクルージョンおよびプロフ

ェッショナル人材育成がイノベーションの創出に繋がり、また、働き方改革とアサインメン

ト改革が労働時間の削減に繋がり、最終的に労働生産性が向上する、という結果が得られた

(参照 図13)。

(図13)労働生産性の持続的向上モデル

(出所)「調査結果 人事視点による持続的生産性向上モデル“生産性の持続的向上モデル”」(リクルートワークス研究所 2016年10月)

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(#16)チームパフォーマンスにおける文化の多様性の“有効性”

・ UCLA の Carol. Kovachはチームパフォーマンスにおいて文化の多様性が与える影響を分析す

るため、学生を文化の多様性を持つ(Cross Cultural)チームと、単一な文化のチームに分

け生産性を競う実験を実施した。その際、文化の多様性を持つチームは、単一な文化を持つ

チームと比べて、最も高い有効性(Effectiveness)を発揮することもあれば、反対に、最も

低い有効性にとどまってしまうという結果が得られた(参照 図14)。チームの生産性は

単に多様性の有無ではなく、その多様性が活かされる状況が適切にマネジメントされている

か否かに依存しているということを示す結果が得られた(参照 表3)。

(図14)文化の多様性とパフォーマンス

(出所)「International Dimensions of Organizational Behavior」Nancy J. Adler著(Thomson Learnings 2008年)

より検討会事務局にて作成

(表3)多様性が有効性を阻害する状況、向上する状況

多様性が有効性を阻害する状況 多様性が有効性を向上する状況 違いの無視 民族性をもとに人選 自民族中心主義 文化的支配 個人の目標 外部からのフィードバック無し

違いの認識 仕事に関連した能力をもとに人選 相互の尊重 等しい権限 上位の目標 外部からのフィードバックあり

(出所)「International Dimensions of Organizational Behavior」Nancy J. Adler著(Thomson Learnings 2008年)

より検討会事務局にて作成

(#17)女性に対する無意識のバイアス

・ イェール大学の Corinne A. Moss-Racusinらは、女性に対する無意識バイアスを分析するた

め、男女の性別によって、人材に対する評価がどのように変わるのか、について研究を実施

した。米国の複数の大学 127名の生物・化学・物理の教授に対して、名前だけを男性名・女

性名に変えて、それ以外は同一の内容の履歴書を送り、「能力・適正」・「採用可能性」・

「採用したいかどうか」を評価してもらったところ、男性名の履歴書の方が評価は高い、と

いう結果が得られた。また、提示された年収も男性名の方が高かった。

・ 性別以外はまったく同じ内容の履歴書であるにもかかわらず、このように評価の相違が見ら

れ、女性に対する無意識バイアスの存在が示唆される結果が得られた。

(出所)「Science faculty’s subtle gender biases favor male students」Corinne A. Moss-Racusin等 著

(Proceedings of the National Academy of Sciences 2012年 10月)

平均値 高い有効性低い有効性チームの有効性(Effectiveness)

文化的な多様性を含むチーム

単一文化のチーム

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(#18)生物学的な性差と社会学的な性差

・ カリフォルニア大学サンディエゴ校の Uri Gneezyらは性別と競争選択制(Competitive

Choices)の関係について研究を実施した。世界でも珍しい母系社会(Matrilineal society)

であるインドのカーシ族、また、父系社会(Patriarchal society)であるタンザニアのマサ

イ族に対して男性および女性が競争(Compete)を好むかどうかを比較した。競争を選んだカ

ーシ族の女性の割合は、マサイ族の男性よりも高い、という結果が得られた(参照 図15)。

一般的に認識されている「女性は競争を好まない」という通説は、生物学的な性差ではなく、

あくまで社会的に作られた性差ではないかと考察している。

(図15) 女性と男性の競争選択性

(出所)「Gender Differences in Competition: Evidence from a Matrilineal and a Patriarchal Society」

Table II Participant Choices Uri Gneezy等 著(Econometrica Vol. 77 2009年9月)より検討会事務局作成

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(#19)重複した異質性: 多様性と類似性のバランスの取れた組織構造

・ ノースウエスタン大学の Edward Bishop Smithらはダイバーシティによるベネフィットを持

続的に維持できる組織構造について研究を行った。

・ まず、多様な組織と称しても、その組織構成がただ単に個性(Heterogeneity )を寄せ集め

ただけの組織の場合、ダイバーシティによって得られる利点が劣化していくことを主張して

いる。その際、以下の3つの要素によって、徐々に利点は劣化していくとしている。

同質化(Homogenization)

多様な人材観で違いや個性が失われていく

脆弱化(Fragility)

人材の個性を競争力の源泉とする組織は特性の機能や能力を特性の人材に依存す

ることになるため、少しでも人材が抜けると、その穴を他者によって埋めることが

できず、徐々に強みを失っていく

分断化(Fragmentation)

マジョリティーとマイノリティーのグループが組成され、その間に溝が生じ、徐々

に壁が発生していく

・ これら要素による劣化を防ぐ組織構造を模索したところ、組織を多層化し、層を跨いで共通

性を有する人物を置いた「重複した異質性(Redundant Heterogeneity)」の組織構造(参照

図16)を採ることにより、上記の劣化要因を防ぐことができ、ダイバーシティによるベネ

フィットをより長期に渡り維持できる、という結果が得られた。このような組織構造では、

ある組織の上長(Primary)と部下(Secondary)が別の層にありつつも、特定の上長と部下

の間に均質性(Homogeneity)が見られ、バランスを保つことができることを示している。

(図16)重複した異質性(Redundant Heterogeneity)の組織構造

(出所)「Redundant Heterogeneity and Group Performance」Edward Bishop Smith等 著 Figure 1: Redundancy in an Organization

or Group with 2-level / Core-Periphery Structure(Organization Science 2014年)