19
25 YIA-01 野生型トランスサイレチン心アミロ イドーシスの診断および臨床的特徴 と予後予測因子の検討 山田 敏寛、高潮 征爾、西 雅人、辻田 賢一 熊本大学医学部 循環器内科学分野 【背景】野生型トランスサイレチン心アミロイドーシス (ATTRwt-CA)はタファミジスの出現により注目されて いるが本邦におけるまとまった観察研究はない。この研究 は本邦におけるATTRwt-CAの診断経緯、臨床的特徴と予 後を明らかにすることを目的とする。 【方法および結果】ATTRwt-CAと 診 断 さ れ た 連 続102例 (78.8±6.5歳)を後ろ向きに観察した。男性が90例(88%)で、 初発症状としては心不全(63%)が最も多く、初発症状か ら診断までの期間は中央値12.5か月であった。手根管症候 群(CTS)の既往は48%(38/79例)と高く、CTSが初発 症状の症例ではATTRwt-CAの診断まで96か月を要してい た。病理学的にアミロイド沈着を証明した例は80例(78%) であった。経過中(平均観察期間は734日)に20例(20%) が死亡(うち心臓死が17例)し、心不全再入院は27例(26%) であった。5年生存率は51%で海外データと同様であった。 多変量解析による全死亡の危険因子として年齢とBNPが、 心不全イベントの危険因子としてBNP、血清Na値が挙げ られた。 【結論】本邦におけるATTRwt-CAの臨床的特徴や自然経過 を明らかにした。生命予後は海外からの報告と変わらず、 CTS合併の男性が多いことが注目すべき点である。 YIA-02 ピロリン酸心筋シンチグラフィ陽性 に関連する因子および検査を実施す べき患者像についての検討 丸目 恭平 1 、高潮 征爾 2 、小牧 聡一 1 、日下 裕章 1 戸井田 玲子 1 、黒木 一公 1 、辻田 賢一 2 、山本 展誉 1 1 宮崎県立延岡病院 循環器内科、 2 熊本大学大学院生命科学研究部 循環器内科学 【背景】ピロリン酸心筋シンチグラフィ( 99m Tc-PYP RI)は トランスサイレチン型心アミロイドーシス(ATTR-CA)の 診断に有用である。本研究では 99m Tc-PYP RIを行うべき患 者像を明らかにする。 【方法 ・結果】 99m Tc-PYP RIを施行された70歳以上の連続181 症例(陽性例70名、39%)を対象に検討した結果、高感度 心臓トロポニンT高値(0.0308 ng/mL以上)、QRS幅延長 (120msec以 上 )、 左 室 後 壁 の 肥 厚(13.6 ㎜ 以 上 ) が 99m Tc- PYP RIが陽性であることに強く関与していた。それぞれの 指標を有する場合1点とし、その合計点数で分類した結果、 99m Tc-PYP RI陽性的中率は0点、1点、2点、3点群でそれぞ れ、13 %、21 %、 63%、96%であっ た(P<0.001)。 【結論】上 記3指 標 を基にスクリーニ ン グ し、 点 数 が 高い症例に 99m Tc- PYP RIを 施 行 す る こ と でATTR- CAの診断率の向 上が期待される。 YIA-03 電子顕微鏡標本でのミトコンドリア 大小不同は拡張型心筋症の予後予測 因子となる 柴田 敦 1 、菅野 康夫 2 、大郷 恵子 3 、池田 善彦 3 神崎 秀明 4 、植田 初江 3 、泉家 康宏 1 、安斉 俊久 5 葭山 稔 1 1 大阪市立大学大学院医学研究科 循環器内科学、 2 けいゆう病院 循環器内科、 3 国立循環器病研究センター  病理部、 4 国立循環器病研究センター 心臓血管内科、 5 北海道大学大学院医学研究院 循環器病態内科学 【背景】ミトコンドリアは心筋においてエネルギー産生の他、 細胞死や代謝の調節など重要な役割を担っており、ミトコン ドリアの質を保つことは心機能を維持するうえで重要であ る。しかしながら、拡張型心筋症(DCM)におけるミトコ ンドリアの形態異常については十分に分かっていない。 【方法】対象は2005年~ 2010年に右室心筋生検が施行され、 DCMと診断された連続240名とした。無作為に抽出した電子 顕微鏡標本に含まれる全てのミトコンドリアの短径を測定 し、標準偏差と短径の平均値から変動係数(CV:CV=(短 径標準偏差/短径平均値)×100(%))を求め、ミトコンド リア大小不同の指標とした。 【結果】ミトコンドリア大小不同と左室拡張末期径に正の相 関を認め(r=0.181, P=0.005)、心係数と負の相関を認めた(r= -0.137, P=0.026)。カプランマイヤー解析では高CV群と低 CV群の比較で、高CV群に有意に全死亡または左室補助循環 装置移植が多く認められた(log-rank P<0.001)。多変量解析 では、ミトコンドリア大小不同が独立した予後予測因子であ ることが示された(HR=17.5, P=0.002)。 【結語】ミトコンドリア大小不同はDCMにおける独立した予 後予測因子である。 YIA-04 マウスにおけるTLR9阻害薬による無 菌性炎症性心筋症の発症・進展抑制 上田 宏達、種池 学、坂田 泰史 大阪大学 循環器内科学 ミトコンドリアは内側にミトコンドリアDNA(mtDNA) を有し、これにはトル様受容体9(TLR9)を刺激し炎症 を誘発する非メチル化CpG配列が多く含まれる。心筋細胞 において、オートファジーを介して分解されるmtDNAは、 その不十分な分解の結果、TLR9を介した炎症を惹起し、 心不全を誘導することが報告されている。 本研究では、圧負荷により誘導されるmtDNA蓄積を伴 う心不全に対するTLR9阻害剤(E6446)の効果を検討し た。E6446はマウス単離心筋細胞においてTLR9を介す る炎症反応を選択的に阻害し、マウス心においてTLR9 リガンド誘導性炎症性サイトカインmRNA産生を用量 依存性に抑制した。横行大動脈縮窄術(TAC)による 心不全モデルマウスにおいて術前からE6446を投与すると、 TAC4週後においてサイトカインmRNA産生や炎症細胞浸 潤および心不全発症を抑制した。さらに、圧負荷2週後に 心機能低下を示したマウスに対するE6446投与は心不全進 展を抑制した。従って圧負荷心不全モデルマウスにおいて TLR9阻害剤は炎症反応抑制を介した心保護的効果を有す ることが明らかとなった。

YIA-01野生型トランスサイレチン心アミロ YIA-02ピ …...CTS合併の男性が多いことが注目すべき点である。 YIA-02ピロリン酸心筋シンチグラフィ陽性

  • Upload
    others

  • View
    1

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: YIA-01野生型トランスサイレチン心アミロ YIA-02ピ …...CTS合併の男性が多いことが注目すべき点である。 YIA-02ピロリン酸心筋シンチグラフィ陽性

25

プログラム

シンポジウム

YIAセッション

一般演題(ポスター)

YIAセッション

YIA-01 野生型トランスサイレチン心アミロイドーシスの診断および臨床的特徴と予後予測因子の検討

山田 敏寛、高潮 征爾、西 雅人、辻田 賢一熊本大学医学部 循環器内科学分野

【背景】野生型トランスサイレチン心アミロイドーシス(ATTRwt-CA)はタファミジスの出現により注目されているが本邦におけるまとまった観察研究はない。この研究は本邦におけるATTRwt-CAの診断経緯、臨床的特徴と予後を明らかにすることを目的とする。

【方法および結果】ATTRwt-CAと 診 断 さ れ た 連 続102例(78.8±6.5歳)を後ろ向きに観察した。男性が90例(88%)で、初発症状としては心不全(63%)が最も多く、初発症状から診断までの期間は中央値12.5か月であった。手根管症候群(CTS)の既往は48%(38/79例)と高く、CTSが初発症状の症例ではATTRwt-CAの診断まで96か月を要していた。病理学的にアミロイド沈着を証明した例は80例(78%)であった。経過中(平均観察期間は734日)に20例(20%)が死亡(うち心臓死が17例)し、心不全再入院は27例(26%)であった。5年生存率は51%で海外データと同様であった。多変量解析による全死亡の危険因子として年齢とBNPが、心不全イベントの危険因子としてBNP、血清Na値が挙げられた。

【結論】本邦におけるATTRwt-CAの臨床的特徴や自然経過を明らかにした。生命予後は海外からの報告と変わらず、CTS合併の男性が多いことが注目すべき点である。

YIA-02 ピロリン酸心筋シンチグラフィ陽性に関連する因子および検査を実施すべき患者像についての検討

丸目 恭平1、高潮 征爾2、小牧 聡一1、日下 裕章1、戸井田 玲子1、黒木 一公1、辻田 賢一2、山本 展誉1

1宮崎県立延岡病院 循環器内科、2熊本大学大学院生命科学研究部 循環器内科学

【背景】ピロリン酸心筋シンチグラフィ(99mTc-PYP RI)はトランスサイレチン型心アミロイドーシス(ATTR-CA)の診断に有用である。本研究では99mTc-PYP RIを行うべき患者像を明らかにする。

【方法 ・結果】99mTc-PYP RIを施行された70歳以上の連続181症例(陽性例70名、39%)を対象に検討した結果、高感度心臓トロポニンT高値(0.0308 ng/mL以上)、QRS幅延長

(120msec以上)、左室後壁の肥厚(13.6㎜以上)が99mTc-PYP RIが陽性であることに強く関与していた。それぞれの指標を有する場合1点とし、その合計点数で分類した結果、99mTc-PYP RI陽性的中率は0点、1点、2点、3点群でそれぞれ、13 %、21 %、63%、96%であった(P<0.001)。

【結論】上 記3指 標を基にスクリーニン グ し、 点 数 が高い症例に99mTc-PYP RIを 施 行 する こ と でATTR-CAの診断率の向上が期待される。

YIA-03 電子顕微鏡標本でのミトコンドリア大小不同は拡張型心筋症の予後予測因子となる

柴田 敦1、菅野 康夫2、大郷 恵子3、池田 善彦3、神崎 秀明4、植田 初江3、泉家 康宏1、安斉 俊久5、葭山 稔1

1大阪市立大学大学院医学研究科 循環器内科学、2けいゆう病院 循環器内科、3国立循環器病研究センター 病理部、4国立循環器病研究センター 心臓血管内科、5北海道大学大学院医学研究院 循環器病態内科学

【背景】ミトコンドリアは心筋においてエネルギー産生の他、細胞死や代謝の調節など重要な役割を担っており、ミトコンドリアの質を保つことは心機能を維持するうえで重要である。しかしながら、拡張型心筋症(DCM)におけるミトコンドリアの形態異常については十分に分かっていない。

【方法】対象は2005年~ 2010年に右室心筋生検が施行され、DCMと診断された連続240名とした。無作為に抽出した電子顕微鏡標本に含まれる全てのミトコンドリアの短径を測定し、標準偏差と短径の平均値から変動係数(CV:CV=(短径標準偏差/短径平均値)×100(%))を求め、ミトコンドリア大小不同の指標とした。

【結果】ミトコンドリア大小不同と左室拡張末期径に正の相関を認め(r=0.181, P=0.005)、心係数と負の相関を認めた(r=-0.137, P=0.026)。カプランマイヤー解析では高CV群と低CV群の比較で、高CV群に有意に全死亡または左室補助循環装置移植が多く認められた(log-rank P<0.001)。多変量解析では、ミトコンドリア大小不同が独立した予後予測因子であることが示された(HR=17.5, P=0.002)。

【結語】ミトコンドリア大小不同はDCMにおける独立した予後予測因子である。

YIA-04 マウスにおけるTLR9阻害薬による無菌性炎症性心筋症の発症・進展抑制

上田 宏達、種池 学、坂田 泰史大阪大学 循環器内科学

ミトコンドリアは内側にミトコンドリアDNA(mtDNA)を有し、これにはトル様受容体9(TLR9)を刺激し炎症を誘発する非メチル化CpG配列が多く含まれる。心筋細胞において、オートファジーを介して分解されるmtDNAは、その不十分な分解の結果、TLR9を介した炎症を惹起し、心不全を誘導することが報告されている。本研究では、圧負荷により誘導されるmtDNA蓄積を伴う心不全に対するTLR9阻害剤(E6446)の効果を検討した。E6446はマウス単離心筋細胞においてTLR9を介する炎症反応を選択的に阻害し、マウス心においてTLR9リガンド誘導性炎症性サイトカインmRNA産生を用量依存性に抑制した。横行大動脈縮窄術(TAC)による心不全モデルマウスにおいて術前からE6446を投与すると、TAC4週後においてサイトカインmRNA産生や炎症細胞浸潤および心不全発症を抑制した。さらに、圧負荷2週後に心機能低下を示したマウスに対するE6446投与は心不全進展を抑制した。従って圧負荷心不全モデルマウスにおいてTLR9阻害剤は炎症反応抑制を介した心保護的効果を有することが明らかとなった。

Page 2: YIA-01野生型トランスサイレチン心アミロ YIA-02ピ …...CTS合併の男性が多いことが注目すべき点である。 YIA-02ピロリン酸心筋シンチグラフィ陽性

26

プログラム

シンポジウム

YIAセッション

一般演題(ポスター)

YIAセッション

YIA-05 演題取り下げ YIA-06 デュシェンヌ型筋ジストロフィー心筋症(DMD)の発症におけるYAPシグナルの関与

安武 秀記1、李 鐘國2、日高 京子3、坂田 泰史1

1大阪大学 循環器内科学講座、2大阪大学 先進心血管再生医学共同研究講座、3北九州市立大学 基盤教育センター

【目的】DMDはジストロフィン欠損により心筋障害を伴うX染色体連鎖疾患である。本研究において、DMD心筋症の発症機構を解明するため疾患特異的iPSを樹立し、増殖・再生に関わる転写因子であるYAPとの関連を調べた。

【方法】拡張型心筋症と診断されたDMD患者(exon48-54 「out-of-frame欠失」)からiPSを樹立(DMD群)、さらに「in-frame欠失」にゲノム編集し(ed-DMD群)、分化心筋におけるYAP機能を調べ、健常人由来iPS 心筋(対照群)と比較した。

【結果】ジストロフィンはDMD群において欠損し、ed-DMD群において部分的に修復された。YAPの核内局在(N/C比)を調べたところ、DMD群は、対照群およびed-DMD群に比べ、有意に低いN/C比を示した(n=4, p<0.05)。また、YAP標的遺伝子(CTGF、Cyr61)の発現は、DMD群で有意に低下していた(n=4, p<0.05)。一方、ジストロフィンがアンカリングするアクチンの重合反応を、Gアクチン/Fアクチン比として調べたところ、DMD群はFアクチンの有意な低下を示し(n=4, p<0.05)、YAP活性に関わるストレスファイバー機能の減弱を示した。

【結論】DMD心筋症においてはストレスファイバー異常がYAPを不活化し、病態の発症に関与している可能性が示唆された。

Page 3: YIA-01野生型トランスサイレチン心アミロ YIA-02ピ …...CTS合併の男性が多いことが注目すべき点である。 YIA-02ピロリン酸心筋シンチグラフィ陽性

27

プログラム

シンポジウム

YIAセッション

一般演題(ポスター)

一般演題(ポスター)

P-1-01 Cases of a c.475G>T, p.E159* lamin A/C mutation with dilated cardiomyopathy and sudden cardiac death

横川 哲朗1、市村 祥平1、金城 貴士1、義久 精臣1、國井 浩行1、中里 和彦1、石田 隆史1、鈴木 理2、大野 聖子3、相庭 武司4、大谷 弘5、竹石 恭知1

1福島県立医科大学 循環器内科、Department of Cardiovascular Medicine, Fukushima Medical University、2福島県立医科大学 病理病態診断学講座、Department of Diagnostic Pathology, Fukushima Medical University、3国立循環器病研究センター  分子生物学部、Department of Bioscience and Genetics, National Cerebral and Cardiovascular Center、4国立循環器病研究センター 心臓血管内科、Department of Cardiovascular Medicine, National Cerebral and Cardiovascular Center、5公立岩瀬 病院 循環器内科、Department of Cardiovascular Medicine, Iwase General Hospital

【Background】Patients with mutations in the lamin A/C (LMNA) are characterized by dilated cardiomyopathy (DCM) and ventricular tachyarrhythmias (VT). Gender-related difference has been observed among the same LMNA mutation carriers.

【Cases】A proband (female) was implanted with a pacemaker in her 50's. Twenty years later, she had VT. Since she had a serious family history; her mother and elder sister died suddenly at 50's and 60's-year old, her nephew and son were diagnosed as DCM, a genetic screening identified a nonsense mutation

(c.475G>T, p.E159*) in LMNA gene. Although the proband's left ventricular ejection fraction was relatively preserved, her son and nephew's left ventricular ejection fraction were reduced.

【Conclusions】In this family, malignant VT occurred in both male and female. However, reduced left ventricular ejection fraction happened younger in male compared with in female subjects, suggesting the gender differences in cardiomyopathy with LMNA mutation.

P-1-02 新規のαトロポミオシン遺伝子異常を特定しえた家族性肥大型心筋症の一家系

芝 翔1、縄田 純也3、久岡 美奈子2、大野 誠1、小田 哲郎1、小林 茂樹1、矢野 雅文1

1山口大学大学院医学系研究科 器官病態内科学講座、2医療法人社団阿知須同仁病院、3独立行政法人地域医療推進機構徳山中央病院

当科初診時62歳の女性。動悸を主訴に近医を受診し、心エコーでの心室中隔壁肥厚を指摘されていた。その後、約2年の経過で心機能の経時的な低下(LVEF 60%→50%)を認め、心筋症の精査目的に当科入院となった。家族歴として孫(当時14歳)の突然死があり、αトロポミオシンに遺伝子異常が同定され、肥大型心筋症と診断されていた。突然死した孫の母親にあたる、本患者の娘にも同一の遺伝子異常が同定されていた。心エコーでは心室中隔の肥大を認め、娘、孫と非常に類似した所見であった。心筋生検を行ったところ、心筋細胞の肥大と細胞周囲の線維化を認めた。濃厚な家族歴、心室中隔肥大、心筋生検の所見などから家族性肥大型心筋症と診断した。肥大型心筋症は約半数に家族性の集積が報告されている。本例は3世代にわたって特徴的な心室中隔肥大が観察され、さらに未報告のαトロポミオシン遺伝子異常を特定しえた一家系であり、報告する。

P-1-03 拡張型心筋症患者由来ヒトiPS心筋組織を用いた機能評価

三浦 康一郎1,2、松浦 勝久1,2、山崎 祐1、佐々木 大輔1、古谷 喜幸3、羽山 恵美子3、伊藤 正道4、森田 啓行4、豊田 雅士5、梅澤 明弘5、中西 敏雄3、萩原 誠久2、小室 一成4、清水 達也1

1東京女子医科大学大学院先端生命医科学研究所、2東京女子医科大学循環器内科、3東京女子医科大学循環器小児・成人先天性疾患科、4東京大学医学部循環器内科、5国立成育医療研究センター

拡張型心筋症(以下DCM)は、左室の収縮不全と心不全を引き起こす遺伝性の疾患である。様々な原因遺伝子の中でもラミンの遺伝子変異によるDCMは予後が悪いが、正確な分子機序は未解明である。本研究の目的は、当施設で独自に開発した心筋の張力測定システムを用いてラミンの遺伝子変異の患者由来iPS心筋組織の張力を測定し機能評価を行うことである。ラミンの変異

(LMNA p.Q353R, LMNA p.R225X)が確認されたDCM患者由来のiPS細胞を心筋に分化誘導し、予めα-MHC制御下にレンチウイルスベクターを用いて導入したピューロマイシン耐性遺伝子を利用し心筋細胞に純化した。心筋細胞を温度応答性培養皿で培養し、低温にしてフィブリンゲルへ転写しシート状心筋組織として回収した。心筋組織の張力を測定し、健常心筋由来組織と比較した。各群間で拍動数に差はなかったが、ラミン異常心筋は健常心筋より張力が低く、収縮・拡張速度が遅かった。これらの結果は、本モデルのDCM組織モデルとしての有用性を示唆している。今後、変異遺伝子の編集を行った疾患心筋の機能解析により新しい治療法や病態解明が期待される。

P-1-04 日本人不整脈原性右室心筋症患者における特異的なデスモゾーム変異キャリアの特徴

大野 聖子1,2、園田 圭子1、堀江 稔2

1国立循環器病研究センター 分子生物学部、2滋賀医科大学 アジア疫学研究センター

【背景】不整脈原性右室心筋症 (ARVC) の主な原因はデスモゾーム関連遺伝子の変異であり、欧米ではPKP2変異が多いものの、日本ではDSG2変異が多く、その中でもc. 874C>T, p.R292Cとc.1481A>C, p.D494A変 異 の 頻 度が突出している。またPKP2変異においてもc.1725_1728 dupCATG、p.R577fs*5の頻度が高く、これらの変異を重複して保持している場合も多い。

【目的】日本人ARVC患者に頻度の高い3つの変異について、変異頻度や重複変異について解析を行う。

【方法と結果】対象はARVC発端者とその家族、95家系で、DSG2-R292Cを22家系、DSG2-D494Aを33家系、PKP2-R577 fs*5を9家 系 に 同 定 し た。R292CとD494Aの 重 複 変 異 保持者は10名であり、いずれも有症状であった。R292CとD494A、どちらかの変異をそれぞれのアレルに保持している患者17人について調べたところ、どちらか一方のアレルに変異を保持している患者と比較し、失神および心室不整脈の頻度が高かった。またPKP2-R577fs*5とDSG2-D494Aとの重複変異保持者は1人であり、13歳で突然死を来した。

【結語】日本人に頻度の高い3つの変異が重複することで重症化することが予測され、早期の遺伝子診断が予後予測に有用である可能性がある。

Page 4: YIA-01野生型トランスサイレチン心アミロ YIA-02ピ …...CTS合併の男性が多いことが注目すべき点である。 YIA-02ピロリン酸心筋シンチグラフィ陽性

28

プログラム

シンポジウム

YIAセッション

一般演題(ポスター)

一般演題(ポスター)

P-1-05 当院における心筋症の遺伝子診療木村 和広1、古庄 知己2、元木 博彦1、桑原 宏一郎1

1信州大学 循環器内科、2信州大学 遺伝医学教室

心筋症の診療における遺伝子検査は、診断ツールとしてだけでなく、予後予測に有用な可能性があり、血縁者の早期発見・早期介入に役立ち、将来は治療に結びつくことが期待され、今後重要性が高まっていくと予想される。現在、心筋症の遺伝子検査は研究レベルで行われていることがほとんどと思われるが、当院では遺伝子診療部と連携のもと、診療レベルで遺伝子検査を行なっている。自費診療となるため、費用の関係で検査を希望されないケースも少なくないが、これまで39例が遺伝カウンセリングを受け、37例の遺伝子検査を施行した。次世代シークエンサーを用い、直近では48遺伝子について解析を行なっている。臨床診断としては、HCM型26例、DCM型9例、ARVC型4例であった。HCM型14例(63.6%、 結 果 未 着2例 )、DCM型4例(50%、検査未着1例)、ARVC型2例(50%)で遺伝子変異が検出された。これらの中には病的意義が不明のものも複数含まれていた。拡張相HCMで心臓移植登録に至った3例は、すべてMYBPC3に変異を認めた。遺伝子検査結果の詳細と、血縁者の遺伝カウンセリングなど当院の取り組みについて報告する。

P-1-06 非虚血性心筋症患者における血中トロポニン値と心筋症関連遺伝子変異との関連性の検討

宮脇 大、大谷 朋仁、宮下 洋平、木岡 秀隆、朝野 仁裕、坂田 泰史大阪大学大学院医学系研究科 循環器内科学

【背景】心筋症における微量のトロポニン(Tn)値の上昇は、予後不良因子として報告されているが、Tn値を上昇させる因子は不明な点が多い。そこで、Tn値上昇とTnを含むサルコメア関連遺伝子変異との関連性について検討した。

【方法】当院におけるゲノム情報を有する非虚血性心筋症症例113例を対象に、TNNC1、TNNI3、TNNT2における既報告の心筋症原因遺伝子変異をTn遺伝子変異、Tn遺伝子変 異 とACTC1、ACTN2、ANKRD1、CSRP3、MYBPC3、MYH6、MYH7、MYPN、TCAP、TPM1、MYL2、MYL3、TTNにおける既報告の心筋症原因遺伝子変異をサルコメア関連遺伝子変異と定義し、TnT値の関連性について検討した。

【結果】サルコメア関連遺伝子変異を24症例(内Tn遺伝子変異10症例)で認め、TnT値はlogBNPと正の相関を認めた

(p<0.01, r2=0.27)。Tn遺伝子変異を認めた群は認めなかった群に比して、TnT値およびTnT/logBNPに差を認めず

(中央値0.030 vs. 0.023 ng/mL, p=0.41, 0.0090 vs. 0.011 ng/mL, p=0.43)、サルコメア関連遺伝子変異の有無でも同様で あった。

【結論】非虚血性心筋症患者における微量TnT値の上昇と、Tn遺伝子を含めたサルコメア関連遺伝子変異との関連性は認められなかった。

P-1-07 Urinary N-terminal fragment of titin predicts mortality in patients with dilated cardiomyopathy

三阪 智史1,2、義久 精臣1,2、君島 勇輔1、喜古 崇豊1、菅野 優紀1、佐藤 崇匡1、及川 雅啓1、小林 淳1、八巻 尚洋1、國井 浩行1、中里 和彦1、石田 隆史1、竹石 恭知1

1福島県立医科大学 循環器内科学講座、2福島県立医科大学 心臓病先進治療学講座

【Backgrounds】Titin is cleaved by calpain-3 in damaged muscle, and a novel ELISA method of the urinary N-terminal fragment of titin (U-TN) was recently established. However, the clinical impact of U-TN on dilated cardiomyopathy (DCM) has not been elucidated.

【Methods and Results】We measured U-TN in 102 DCM patients using the ELISA and U-TN was normalized by urinary creatinine (U-TN/Cr; pmol/mg/dl). The patients were divided into 3 groups based on the U-TN/Cr: first

(U-TN/Cr <3.35), second (3.35 ≤ U-TN/Cr <7.26), and third (7.26 ≤ U-TN/Cr) tertiles, and followed up over a mean period of 1,167 days. In the Kaplan-Meier analysis, cardiac and all-cause mortality progressively increased from the first to the second and third groups (p<0.05, respectively). In the Cox proportional hazard analyses, U-TN/Cr was a predictor of cardiac and all-cause mortality in DCM patients (p<0.05).

【Conclusion】U-TN can identify high-risk patients with DCM.

P-2-01 急性冠症候群の心電図診断に苦慮した閉塞性肥大型心筋症の1例

横本 祐希、大木元 明義、渡部 勇太、河野 珠美、大島 清孝、濱田 希臣市立宇和島病院 循環器内科

【症例】95歳男性。以前から閉塞性肥大型心筋症と診断されていた。20XX年X月、夜間突然の呼吸困難を主訴に救急搬送された。心電図ではaVR誘導のST上昇とその他の広範囲な誘導でST低下を認めた。血液検査では心筋逸脱酵素の上昇を認め、心エコー図検査では著明な左室心筋肥大とびまん性に壁運動が低下していた。高度の肺うっ血を呈しており、非侵襲的陽圧呼吸管理が必要であった。各種検査結果から左冠動脈主幹部の急性心筋梗塞とそれに伴ううっ血性心不全と診断し、緊急で冠動脈造影検査を施行した。左冠動脈には血行再建の必要な病変はなかったが、右冠動脈seg.3に高度狭窄を認めたため、冠動脈ステント留置術を行なった。

【考察】心電図所見からは左冠動脈主幹部病変と予測していたが、実際の病変部位は異なっていた。肥大型心筋症では左室腔が狭小化し、1回拍出量が低下している。急性心筋梗塞が誘因で頻脈となったことで、拡張障害が増悪し、十分な左室充満が得られないことで1回拍出量がさらに低下し、広範な心筋虚血を呈したと考えた。

【結語】閉塞性肥大型心筋症患者における虚血性心疾患の心電図診断には病態生理を考慮に入れた慎重な判読が必要であると思われた。

Page 5: YIA-01野生型トランスサイレチン心アミロ YIA-02ピ …...CTS合併の男性が多いことが注目すべき点である。 YIA-02ピロリン酸心筋シンチグラフィ陽性

29

プログラム

シンポジウム

YIAセッション

一般演題(ポスター)

一般演題(ポスター)

P-2-02 経皮的中隔心筋焼灼術術後亜急性期に突然死をきたした1例

翁 徳仁、松島 慶央、佐々木 基起、新山 寛、加藤 宏司、甲斐 久史久留米大学医療センター 循環器内科

症例は、61歳女性。20年来、近医にて高血圧症、2型糖尿病、関節リウマチで治療中。10年前、労作時の息切れと胸痛を自覚しK大学病院にて精査。左前下行枝seg 6-7にAHA75-90%の有意狭窄病変、左室中部に安静時圧格差58mmHgを認め、狭心症と心室中部閉塞性肥大型心筋症(HOCM)と診断。seg 6-7にPCI施行するも症状は改善せず。ビソプロロール5mgとシベンゾリン150mgを導入し症状軽快。X年初めより、徐々に労作時呼吸困難・倦怠感が増悪。X年Y-2月、歩行中に突然、意識消失。心肺停止状態で某救急病院に搬送され蘇生に成功。Y-1月、K大学病院転院後ICD植込み術および経皮的中隔心筋焼灼術(PTSMA)施行。心内圧格差は、術前安静時13mmHg・ニトロ後64mmHgが術後安静時3mmHg・ニトロ後16mmHgと軽快。さらに右冠動脈seg3新規病変90%にPCI施行。心リハ目的で当院転院。リハ中は軽度の息切れはあるも不整脈はみられず。Y月、熱発・胃腸炎症状を発症した翌日、突然、VFをきたし意識消失。直ちにCPR開始。ICD計4回作動するも除細動できず心停止し他界。ICD埋め込み、PTSMA、PCIを施行したにも関わらず、心臓突然死を予防し得なかった症例に考察を加えて報告する。

P-2-03 閉塞性肥大型心筋症に対する左室心筋切除術の左室拡張能への効果

古堅 あずさ1、道井 洋吏2

1札幌心臓血管クリニック 循環器内科、2札幌心臓血管クリニック 心臓血管外科

閉塞性肥大型心筋症(HOCM)に対する外科的心筋切除術は、良好に症状と圧較差を改善することが明らかにされているが、その機序については明らかではない。今回我々は、左室心筋切除術施行例における左室拡張能の変化について検討した。

【方法】2012年5月から2018年12月に、当院でpure HOCMに対する心筋切除術を施行した連続28例(平均年齢66.7±12.1歳、女性46%)を対象とし、切除術施行前の左室形態、異常肉柱の有無、収縮期前方運動(SAM)、僧帽弁逆流(MR)、圧較差変化、左室拡張能変化(E/A、Dct、e'、左房容積)、左室心筋ストレイン変化を検討した。

【結果】経胸壁心エコーおよび経食道心エコーにて心筋肥厚部位•至適切除方向および範囲•異常肉柱の描出を行い、流出路心筋切除術と乳頭筋周りの異常肉柱を含めた広範左室心筋切除術施行を全例で完遂し、いずれの症例も術後SAMは消失し、左室流出路最大圧較差は10mmHg以下となりMR改善、左房容積縮小を認めた。

【結語】全例で広範左室心筋切除術により、良好に圧較差軽減獲得が可能であった。左室拡張能の改善は一定ではなかったが有意に左房容積縮小効果を認め、自覚症状改善との関連性が示唆された。

P-2-04 閉塞性肥大型心筋症における左室心筋切除術の有効性

道井 洋吏、古堅 あずさ札幌心臓血管クリニック 心臓血管外科

閉塞性肥大型心筋症に対する治療として経皮的中隔心筋焼灼術を含め内科的治療が広く行われているが、外科的心筋切除術は有効性が明らかでありながら日本では実施症例は少ないのが現状である。心筋切除術におけるポイントと心エコー所見をふまえた機能的変化と有効性について検討 した。

【方法】当 院 に お い て 有 症 状 か つ 左 室 内 最 大 圧 較 差(LVOTPG)50mmHg以上を呈し、2012年5月から2018年12月に左室心筋切除を施行した症例28例を対象とし左室形態、僧帽弁逆流、圧較差変化を検討した。

【結果】流出路狭窄、SAM、MRの解除は全て経大動脈弁的広範左室心筋切除で制御可能であった。中隔から乳頭筋基部あたりまで伸びる強大な異常筋束Apico-basal muscle bundleを多く認め、左室内腔を狭小化している肥厚心筋は左室中部辺りでは肥大化した肉柱様の構造が密集していることも多く確認しながら暫時切除が必要であった。全例において周術期死亡、重篤な合併症を認めなかった。全症例でLVOTPGは10mmHg以下に制御され、6ヶ月以上経過した術後中長期にも安定して維持された。

【結語】我々の方法による広範左室心筋切除術はSAM、MR、左室流出路狭窄を安全かつ良好に制御することが可能であった。

P-2-05 心筋肥大からみた左室形成術の意義新宮 康栄、若狭 哲、加藤 伸康、大岡 智学北海道大学 循環器・呼吸器外科

【背景】左室形成術の大規模臨床試験以降、左室形成術は減少傾向。左室容量を減少させ左室壁応力を低下させることで心機能回復を得る、という理論的背景が治療効果に直結しない理由は不明。

【目的】ラットの前壁心筋梗塞モデルにおいて、左室形成後の心筋肥大の変化を検討。

【方法】10週齢の雄SDラットを4週の間隔を空け2回の手術を施行:[初回/2回目]:[心筋梗塞/sham]群、[心筋梗塞/左室形成]群。左室形成ではマットレスおよび連続縫合で前壁梗塞部を排除。2回目手術の4週間後に心機能評価ののち犠牲死。心筋肥大を病理組織およびRT-PCR(MHC、Atrogin-1、Murf1)にて評価。

【結果】左室径は左室形成直後には有意に縮小したが、4週後には再拡大しsham群と同等。左室壁応力は左室形成直後に著明に低下したが、4週後には有意に上昇。左室心筋肥大は4週後に低下したが、αMHC、βMHCに変化なし。心筋萎縮の際に低下するとされるAtrogin-1、Murf1は左室形成後に低下。

【結語】左室形成術後の心筋肥大抑制には、左室壁応力低下による心筋萎縮が関係している可能性がある。

Page 6: YIA-01野生型トランスサイレチン心アミロ YIA-02ピ …...CTS合併の男性が多いことが注目すべき点である。 YIA-02ピロリン酸心筋シンチグラフィ陽性

30

プログラム

シンポジウム

YIAセッション

一般演題(ポスター)

一般演題(ポスター)

P-2-06 当院における閉塞性肥大型心筋症に対する経皮的中隔心筋焼灼術の経験について

畑 玲央、川瀬 裕一、多田 毅、門田 一繁倉敷中央病院 循環器内科

【方法】2007年から2017年までに薬剤抵抗性閉塞性肥大型心筋症 (HOCM) の診断にて経皮的中隔心筋焼灼術

(PTSMA)を施行した連続28例を対象とした。治療効果として心エコーによる治療前後の左室流出路圧較差

(LVPG)、転帰として再治療、ペースメーカ植え込み、致死的不整脈を評価項目とした。

【結果】平均年齢が67.7±16.1歳、平均エタノール使用量が1.40±1.06ml、 術 後 最 大CK-MBが73 [53-91] IU/Lで あ った。全症例とも左室大動脈圧較差の改善を得て終了し、平均LVPGは治療前後で有意な改善が認められた(87.4±41.9mmHg vs. 47.6±37.2mmHg、p<0.01)。転帰は再治療が2例 (7.1%)、ペースメーカ植え込みは3例 (10.7%)、致死的不整脈が1例

(3.6%) であった。【結語】H O C M に対するPTSMAは治療効果と転帰の面で許容可能な結果であった。

P-2-07 4D flow MRIを用いた閉塞性肥大型心筋症に対する血流解析

松田 淳也1、高野 仁司2、井守 洋一2、関根 鉄郎3、三軒 豪仁1、時田 祐吉2、汲田 伸一郎3、清水 渉2

1日本医科大学付属病院 心臓血管集中治療科、2日本医科大学付属病院 循環器内科、3日本医科大学付属病院 放射線科

【背景】4D flow MRIは乱流に伴う圧損失をturbulent kinetic energy(TKE)値として定量化が可能で、閉塞性肥大型心筋症(HOCM)の流出路狭窄に伴う心駆出効率評価への応用が期待されている。

【方法】当院で4D flow MRIを撮像した肥大型心筋症(HCM)患者30名(68±15歳、男12名、HOCM18名、非閉塞性HCM12名)のTKE値と各臨床指標の関連を検討した。

【結果】TKE値はHOCM群で有意に高く(14.2±4.7mJ vs. 9.0±4.6mJ、p<0.001)、左室流出路圧較差(LVOT-PG)と相関した (r=0.488, p=0.046)。重回帰分析からNYHA心機能分類はMR重 症 度(0 ~3) とTKE値 を 用 い予 測 可 能 で あ っ た

(NYHA=0.064×TKE値+0.717×MR重症度+1.169, p=0.015)。 アルコール中隔焼灼術はLVOT-PG改 善 とと も に(103±23→27±16mmHg)TKE 値も減少させた(18.4±3.1→13.0±4.1mJ)。

【結論】TKE値は左室流出路狭窄を反映し、自覚症状の予測に有用である。

P-3-01 自己骨格筋芽細胞シート移植術後に良好な経過を辿った拡張型心筋症の一例

小山 雅之1,2、西川 諒1、永野 伸卓1、神津 英至1、寺島 慶明2、村中 敦子1、矢野 俊之1、高橋 亨2、澤 芳樹3、三浦 哲嗣1

1札幌医科大学 循環器・腎臓・代謝内分泌内科、2帯広厚生病院 循環器内科、3大阪大学 心臓血管外科

症例は65歳男性。X-4年に血圧高値のため近医を初診した。経胸壁心エコー(TTE)でLVDd 62 mmと左室内腔が拡大し、左室駆出率(LVEF)が36.1%に低下していたため内服治療が開始となった。X-2年に起座呼吸を主訴に当科を受診し、BNP 600 pg/mlに上昇しており、精査・加療を目的に入院となった。TTEでは、LVEF 29.0%、LVDd 72mmであり、12誘導心電図では洞調律でQRS幅は0.16 secであった。MIBGシンチグラフィーではLate H/M 1.17と低値で、心臓MRIではmid-wall LGE陽性であった。心内膜心筋生検を含む心臓カテーテル検査の結果も併せて、拡張型心筋症と診断した。心臓再同期療法下で最大限の内服治療を行っていたが、外来ではBNP 400-600 pg/ml、収縮期血圧80-90 mmHg台で経過し、その後の2年間で心不全増悪のために4回入院した。X年6月 大阪大学附属病院にて左大腿部内側広筋より骨格筋の採取を行い、7月に筋芽細胞シート移植術を施行した。施行前と半年後の比較では、LVDd 72 →65 mmに縮小、LVEF 18.6 → 34.0 %に改善し、BNP値も正常化した。その後1年以上経過しているが心機能を維持できている。

P-3-02 尋常性乾癬・高血圧症を合併し、拡張型心筋症の形態を示した心不全の1例

有村 忠聴1、二見 真紀人1、杉原 英和1、加藤 誠也2、三浦 伸一郎1

1福岡大学病院 心臓・血管内科学、2済生会福岡総合病院 病理診断科

症例は42歳男性。中学生の時に生検で尋常性乾癬と診断された。また、2年前に当院皮膚科でも重症尋常性乾癬と診断されている。32歳時に高血圧症と診断され、内服加療を開始されたが、1年前の41歳時から内服を自己中断していた。1週間前より夜間発作性呼吸困難が出現し当科を受診。急性心不全の診断で緊急入院とした。心臓超音波検査では、LVEF:25.4%、LVDd:60.7mmと拡張型心筋症の形態を呈していた。左室拡大・左室収縮能低下の精査として、詳細な病歴の聴取と診察、尿・血液検査、胸腹部造影CT、ガドリニウム造影心臓MRI、冠動脈造影、心内膜心筋生検、眼科受診などを行った。その結果、尋常性乾癬、高血圧症、心室性期外収縮、血清アミロイドA高値、葉酸低値、完全右脚ブロックを認めた。これまでの報告で、乾癬においては、全身の炎症が惹起され、肥満・2型糖尿病・高血圧症・脂質異常症のリスクが上昇することが示唆されている。心不全・高血圧症の発症率が高いことも報告されているが、はっきりした機序は不明である。今回、尋常性乾癬・高血圧症を合併し拡張型心筋症の形態を示した心不全を発症した症例を経験したので報告する。

Page 7: YIA-01野生型トランスサイレチン心アミロ YIA-02ピ …...CTS合併の男性が多いことが注目すべき点である。 YIA-02ピロリン酸心筋シンチグラフィ陽性

31

プログラム

シンポジウム

YIAセッション

一般演題(ポスター)

一般演題(ポスター)

P-3-03 低酸素血症を来した不整脈原性右室心筋症の一例

筒井 好知、大谷 規彰、武居 講、坂本 一郎、藤野 剛雄、橋本 亨、日浅 謙一、林谷 俊児、肥後 太基、筒井 裕之九州大学病院 循環器内科

45歳、男性。1999年に不整脈原性右室心筋症と診断、2002年より左室機能も低下した。2012年より安静時のSpO2低下があり、卵円孔開存(PFO)が認められた。DOB 1.8γ下での心臓カテーテル検査では、CI 1.5L/min/m2と低心拍出状態であり、全心周期に渡り右房圧が肺動脈楔入圧と比べ高値であった。バルーンによるPFO閉鎖試験では、SaO2 が75%から98%まで改善した。低酸素血症の原因が、右心機能の低下による慢性的な右房圧の上昇によりもたらされた右左シャントによるものであることが裏付けられた。PFO閉鎖試験で右心系の圧上昇や心拍出量の低下は来さなかったことより、PFO閉鎖による低酸素血症の改善は見込めると判断した。経皮的PFO閉鎖術を施行し、閉鎖後に血行動態の悪化がないことを確認した。安静時SpO2は75%から93%まで上昇し、運動耐容能の改善を認めた。

P-3-05 拡張型心筋症における心筋caspase-8発現低下の臨床的意義の検討

藤田 雄吾、矢野 俊之、神山 直之、西川 諒、藤戸 健史、永野 伸卓、小山 雅之、望月 敦史、神津 英至、村中 敦子、永原 大五、丹野 雅也、三木 隆幸、三浦 哲嗣札幌医科大学 循環器・腎臓・代謝内分泌内科学講座

【背景】拡張型心筋症では、プログラム細胞死の一種であるネクロプトーシスを負に調節するcaspase-8の発現低下が報告されている。

【方法】拡張型心筋症57 例(56±15 歳、男性 70 %)の心筋生検標本を対象とした。抗caspase-8抗体による免疫染色を行い、画像解析を用いて定量化した。Caspase-8発現量の中央値を用いて、発現量高値群(H-casp8)と低値群(L-casp8)に分類した。

【結果】Caspase-8は、心筋細胞の細胞質と介在版に発現していた。H-casp8と比較して、L-casp8では年齢、性別、家族歴の有無および内服薬の種類に差はなかったが、左室収縮末期容積係数(LVESVI)が有意に低値であった。Caspase-8発現量は、左室駆出率(LVEF、r=0.262)および平均左室壁厚(MWT、r=0.365)と正に、左室拡張末期容積係数(LVEDVI、r=-0.330)、LVESVI(r=-0.391)および僧帽弁口血流速波形拡張早期波高・心房収縮期波高比(E/A、r=-0.343)と負に相関した。重回帰分析では、MWT、E/AおよびLVEDVIもしくはLVESVIが独立してcaspase-8発現量と関連していた。

【結語】拡張型心筋症における心筋caspase-8発現低下は、左室リモデリングの進展と関連している可能性が示唆された。

P-3-06 拡張型心筋症の予後予測におけるアミノ酸分析の有用性

木村 祐樹、奥村 貴裕、風間 信吾、柴田 直紀、大石 英生、桒山 輔、荒尾 嘉人、加藤 宏雄、山口 尚悟、近藤 徹、平岩 宏章、森本 竜太、室原 豊明名古屋大学大学院医学系研究科 循環器内科学

【背景】心不全患者ではアミノ酸代謝の変化により、分枝鎖アミノ酸(BCAA)やフィッシャー比が低下し、心機能低下と関連することが報告されている。しかしながら、拡張型心筋症においてアミノ酸分画の異常が予後に与える影響は明らかでない。

【方法】2012年から2018年にアミノ酸分析を行った拡張型心筋症患者42例を対象とした。BCAAの総アミノ酸に対する比率(BCAA/total AA)の中央値(0.15)により2群に分け、予後に関して比較検討を行った。複合心イベントは心臓死、不整脈・心不全入院と定義した。

【結果】年齢は51.0±12.3歳、男性67%、BCAA/total AA<0.15 群でBody Mass Index、脂質異常症の有病率が有意に低値であった。両群間で肝腎機能や脳性ナトリウム利尿ペプチド値、心機能や血行動態には有意差は認めなかった。平均フォローアップ期間3.3年において、複合心イベントはBCAA/total AA<0.15群において有意に高率であった

(P=0.01)。多変量解析では、ヘモグロビン値(P=0.028)、BCAA/total AA<0.15(P=0.014)が独立した心イベントの規定因子であった。

【結語】アミノ酸分析によるBCAA/total AA比は、拡張型心筋症における心イベントのリスク評価に有用である。

P-3-04 心電図左室肥大は拡張型心筋症の良好な長期予後と独立して関連する

松島 将士1、加来 秀隆2、円山 信之2、井手 友美2、肥後 太基2、眞茅 みゆき3、筒井 裕之2

1九州大学病院 循環器内科、2九州大学大学院医学研究院 循環器内科学、3北里大学看護学部

【背景】心電図の左室肥大(LVH)所見は拡張型心筋症(DCM)患者に認められるが、予後におけるその意義は明らかとなっていない。本研究はQRS電位が心不全増悪にて入院したDCM患者の死亡および再入院を含む長期予後に与える影響を評価した。

【方法と結果】JCARE-CARD研 究 に 登 録 さ れ た261例 のDCM症例を解析した。心電図LVHはSokolow-Lyon基準により判定し、81例(31.0%)に心電図LVHを認めた。平均追跡期間1.8年において、心電図LVHが有る群の全死亡率

(9.0% vs 20.3%, P=0.029)および全死亡と心不全増悪による再入院の複合イベント発症率(26.9% vs 45.9%, P=0.007)は無い群に比べて有意に低かった。多変量解析により心電図LVHは複合エンドポイントの独立した負の予測因子であった(hazard ratio 0.358, 95% confidence interval 0.157-0.857, P=0.049)。

【結語】心電図左室肥大は拡張型心筋症の良好な長期予後と独立して関連する。

Page 8: YIA-01野生型トランスサイレチン心アミロ YIA-02ピ …...CTS合併の男性が多いことが注目すべき点である。 YIA-02ピロリン酸心筋シンチグラフィ陽性

32

プログラム

シンポジウム

YIAセッション

一般演題(ポスター)

一般演題(ポスター)

P-4-01 急性期Impellaを要した難治性心室細動を呈した肥大型心筋症の一例

伊藤 慎八、金縄 健治、藤岡 慎平、川口 朋宏、森永 崇、磯谷 彰宏、兵頭 真、安藤 献児一般財団法人平成紫川会 小倉記念病院

【症例】44歳男性【主訴】来院時心肺停止【現病歴】X年Y月に心不全症状があり前医受診。全周性の左室肥大があり、冠動脈造影は狭窄病変なく肥大型心筋症

(非閉塞性)の診断で内服加療。Y+4月頃にインフルエンザに罹患してから咳嗽が持続し、起座呼吸も呈していた。Y+5月Z日に職場で突然倒れ、心肺蘇生を施行。心原性心停止と判断され当院へ搬送。病院到着時は心室細動であり電気的除細動を含めたACLSにより蘇生。緊急カテーテルを行い、冠動脈病変がないことを確認した上で、Impella 2.5、留置用スワンガンツカテーテル挿入。アミオダロン点滴により洞調律を維持し、第6病日にImpella抜去。第10病日に抜管。以後安定しており持続点滴で加療していたが、第19病日に再度心不全増悪から心室細動を来した。第20病日も自然停止するが同様に心室細動あり。心不全は急性期ではあるものの、β遮断薬投与せざるを得ずオノアクト持続点滴からビソノテープへ移行した。以後、心室細動は認めず。その後も心不全加療を続けている。

【考察】難治性心室細動を来し、急性期はImpellaを要した重症の肥大型心筋症を経験した。Impellaの適応も合わせて考察する。

P-4-02 心室中隔欠損症を合併した肥大型心筋症を経時的に観察しえた一例

門脇 心平1、近江 晃樹1、枝村 峻佑1、禰津 俊介1、桐林 伸幸1、菊地 彰洋1、佐藤 陽子1、長谷川 薫2、菅原 重生1

1日本海総合病院 循環器内科、2東北医科薬科大学病院 循環器内科

症例は25歳男性。幼少時、心室中隔欠損症を指摘され、近医で定期フォローを受けていた。心室中隔欠損症に関しては、フォロー中に自然閉鎖となり、徐々に心肥大が進行している状態であった。201X年12月、健診で心電図異常を指摘され、A病院を受診した。その際の心臓超音波検査で、中隔壁は30㎜に肥厚し、その心筋内部に拡張期に流入する血流を認めた。冠動脈CTでは、左室基部中隔から中隔内に伸び造影される管状構造を認め、左室冠動脈瘻が疑われた。右室内腔との連続性はなく、心室中隔欠損は閉鎖していると思われた。心臓MRIでは、前壁中部から心尖部の中隔、心尖部下壁に遅延造影を認めており、肥大型心筋症と考えられた。A病院での継続加療を検討されていたが、転居に伴い201X年2月、当院に紹介された。当院受診時、動悸、発作性の胸苦感症状の訴えもあり、今後冠動脈造影含めたさらなる精査を検討している。心室中隔欠損症に合併した肥大型心筋症を経時的に観察しえた1例を経験したため、考察含め報告する。

P-4-03 20世紀中に診断された肥大型心筋症患者における長期予後の検討

杉浦 健太、久保 亨、中嶋 安曜、越智 友梨、高橋 有紗、宮川 和也、馬場 裕一、野口 達哉、弘田 隆省、山崎 直仁、北岡 裕章高知大学医学部 老年病・循環器内科学

【背景】肥大型心筋症(HCM)患者の予後に関して、10年を超す長期経過をみた報告はほとんど見られない。

【方法】当施設で2000年12月31日までにHCMと診断された連続102名のうち2017年12月31日までの予後追跡が可能であった93名(診断時年齢51.5±13.0歳)を対象とした。

【結果】平均フォローアップ期間は19.6±8.1年で、全死亡は47名(HCM関連死20名)であった。HCM関連イベント(HCM関連死+非致死性HCM関連イベント)は46名で認め、初診から最初の10年で約20%生じた。それまでにイベントが見られなくても、その後の10年毎に約20%ずつ初回イベントが発生していた(図参照)。

【結語】平均20年の経 過 で 約 半 数 がHCM関 連 イ ベ ント を 経 験 し て いた。最初の10年以降 に 初 回HCM関連イベントを生じた患者も少なくない た め、HCM患者は長期的なフォローアップが重要と考えられる。

P-4-04 房室ブロックの2年後に致死的心室性不整脈が出現した心ファブリー病の1例

入來 泰久、樋口 公嗣、市來 仁志、湯浅 敏典、大石 充鹿児島大学 心臓血管・高血圧内科学

症例は70歳の男性。62歳時、近医で心肥大、2型糖尿病を加療開始。70歳時、心不全症状出現し、2:1 房室ブロックを認め紹介受診。心エコーで後下壁基部の壁運動低下を認め、左室中隔壁肥厚は18 mm、後壁肥厚は15 mmと左室肥大を認めた。推定右室収縮期圧は53 mmHgと高値で心不全治療を開始した。冠動脈CTでは有意狭窄を認めなかったが、Tl心筋シンチでは下壁に集積低下を認めた。心臓電気生理検査にてHis-Ventricular blockの高度房室ブロックを認め、ペースメーカ移植を施行。血漿α-galactosidase A活性 0.39 nmol/hr/ml (8.4±2.4)と著明な低下を認め、α-galactosidase A遺伝子異常を確認し、心ファブリー病を診断した。72歳時、心室細動に対してAEDで蘇生され搬送された。アミオダロン内服開始。ペースメーカの心室リードの閾値が一過性に上昇していた。ペースメーカより植込型除細動器へup-gradeを行った。酵素補充療法は希望されず、心機能低下に対して薬物治療を行っている。房室ブロック時に心ファブリー病を診断し得たが、高齢で酵素補充療法を希望されず、2年後に致死的心室性不整脈が出現した。心ファブリー病の不整脈経過を考える上で貴重な症例と考え報告する。

Page 9: YIA-01野生型トランスサイレチン心アミロ YIA-02ピ …...CTS合併の男性が多いことが注目すべき点である。 YIA-02ピロリン酸心筋シンチグラフィ陽性

33

プログラム

シンポジウム

YIAセッション

一般演題(ポスター)

一般演題(ポスター)

P-4-05 左室流出路圧較差の変化を認めた症候性ヘテロ接合体ファブリー病の一例

小林 淳、及川 雅啓、義久 精臣、八巻 尚洋、國井 浩行、中里 和彦、竹石 恭知福島県立医科大学 循環器内科

症例は65歳女性、肥大型心筋症として加療されていが、進行する左室肥大にて、57歳時に紹介となった。αガラクトシガーゼ活性の低下と心筋生検、腎生検にて空胞変性、層状の封入体の蓄積が認められ、遺伝子解析にてファブリー病の診断となった。全周性の肥大所見に加え、左室流出路

(LVOT)にて4.2 m/sの最高流速と収縮期前方運動(SAM)が認められ、シベンゾリンの静注にて減弱し、シベンゾリン内服開始となった。58歳時より酵素補充療法(ERT)が開始となり、その時点でもLVOTに4.1 m/sの最高流速とSAMが認められた。ERT開始後には副作用や心不全の増悪は認めなかった。ERT1年後の心エコー図にてLVOTの流速(最高流速 1.8 m/s)が改善し、SAMの消失が確認された。その後経過中に入院を必要とする心不全の発症は認めないが、症候性脳梗塞発症し、クレアチニンキナーゼの微増が持続していた。流出路圧格差はその後も生じていないためシベンゾリンの内服を中止して加療を行っている。

【結語】ファブリー病は心筋の全周性肥大をきたす2次性心筋症であるが、流出路狭窄の合併はまれであり、今回我々は経過中に、LVOTの流速の変化が認められたファブリー病の一例を経験したので報告する。

P-4-06 心エコー・MRIで異常は指摘されなかったが、心筋生検で高度の空胞変性が認められたファブリー病の1例

岡村 昭彦1、中野 知哉1、山田 綾乃2、石原 里美1、尾上 健児1、添田 恒有1、江里口 雅裕2、鮫島 謙一2、渡邊 真言1、川上 利香1、畠山 金太3、坂口 泰弘1、鶴屋 和彦3、斎藤 能彦1

1奈良県立医科大学 循環器内科、2奈良県立医科大学 腎臓内科、3奈良県立医科大学 病理診断学

症例は41歳 男性。39歳時から健診で尿蛋白(2+)を指摘され、尿蛋白持続のため(0.61 g/gCr)精査目的で当院腎臓内科に紹介された。腎機能は正常であった(BUN/Cr 11/0.73 mg/dl)が、尿沈渣でマルベリー小体を指摘され、白血球α-galactosidase活性が2 nmol/mg・p/時(基準値20-80)と低値であり、Fabry病が疑われた。腎生検の結果、糸球体上皮細胞に微細空胞が認められ、Fabry病に矛盾しない所見であった。心電図に左室肥大所見はなく、心エコーでも左室肥大は認められなかった(IVS/PW 9/10 mm) 。心臓MRIではT1値は正常で、遅延造影も認められなかった。123I-MIBGシンチではH/M比、washout rateに異常はなかったが、下側壁に集積異常が認められた。遺伝子検査で心亜型タイプの変異(GLA; N215S)が認められ、心病変の検索目的で心筋生検が施行された。光学顕微鏡で高度の空胞変性が認められ、電顕で特徴的なゼブラボディが確認された。心エコーおよび心臓MRIで心肥大などの異常が認められない中にも、このような高度な空胞変性を呈する症例が認められることから、家族歴のないファブリー 病患者を同定する際に、集学的な診断が必要であることを実感した症例であり、ここに提示する。

P-5-02 心サルコイドーシスに伴う完全房室ブロックに対して、内服加療にて5日で洞調律に復帰した1例

藤岡 慎平、福永 真人、磯谷 彰宏、兵頭 真、安藤 献児小倉記念病院 循環器内科

特記すべき既往のない60歳女性、めまい症状を主訴に前医を受診し、完全房室ブロックの診断で当院へ紹介となった。基礎疾患のない完全房室ブロックに対して、心筋疾患の除外を行うため、心臓MRI検査を行うと、わずかに中隔壁に遅延造影を認めた。完全房室ブロックと遅延造影を認め、心サルコイドーシスの臨床主要項目2つを満たすこととなった。眼・皮膚・肺にサルコイドーシスを疑う所見はなく、弧発性心サルコイドーシスと診断した。完全房室ブロックに対して、ステロイド投与を行い、洞調律への復帰が認められなければ、恒久的ペースメーカー留置の方針とした。プレドニン30mg(0.5mg/kg)で治療を開始し、内服開始2日目には2:1高度房室ブロックへと改善し、5日目には洞調律へ復帰となった。内服加療にて1週間以内に洞調律へ復帰し、ペースメーカー留置を免れた報告は少なく、文献的考察とともに報告する。

P-5-01 健康診断の心電図異常から心サルコイドーシスが疑われたが対照的経過をとった2例

池原 典之、杉浦 真人、矢島 和裕、山田 智広、小崎 哲資名古屋市立西部医療センター 循環器内科

サルコイドーシスは知見が増えてきているとはいえ原因不明の疾患でありバリエーションも多く、診療において個々の症例ごとに判断が求められることが多い疾患である。PET / MRIなどの画像診断やsIL2Rなどのマーカーなど有用な手段により診断精度は向上したと思われる一方で、治療については一定の見解はあるが定まったものはない。心臓サルコイドーシスはクリティカルになることも多く治療開始の判断は重要である。今回、健診の心電図異常を契機に心臓サルコイドーシスが疑われた2症例にについて経過中に対照的な経過をたどったので報告する。

【症例1】57歳女性2017年11月(56歳)、健診での心室性期外収縮で当科初診となった。スクリーニングの心エコーで下壁の瘤化、ホルター心電図で多源性の心室性期外収縮、非持続性心室頻拍を認めた。

【症例2】62歳女性2017年12月(61歳)、健診での房室ブロックで紹介となった。ホルター心電図で終日房室伝道障害(2:1ブロック)、間欠的に完全房室ブロックを認めた。上記2症例は経過観察中対照的な経過をとり、一方は初見自然軽快もう一方はステロイド治療行うも不整脈のコントロールに難渋している。治療開始の決定を中心に考察した。

Page 10: YIA-01野生型トランスサイレチン心アミロ YIA-02ピ …...CTS合併の男性が多いことが注目すべき点である。 YIA-02ピロリン酸心筋シンチグラフィ陽性

34

プログラム

シンポジウム

YIAセッション

一般演題(ポスター)

一般演題(ポスター)

P-5-03 心臓サルコイドーシスに伴う重症心不全に対し、経皮的僧帽弁接合不全修復術が有効であった2例

安田 英俊、土井 信一郎、葛西 隆敏、船水 岳大、宮崎 彩記子、土肥 智貴、林 英守、岩田 洋、岡崎 真也順天堂大学医学附属病院 循環器内科学講座

心臓サルコイドーシスは、肉芽腫性炎症による心筋障害で高度な左室拡大とびまん性壁運動異常を呈することが知られている。今回、心臓サルコイドーシスの診断で左室収縮能低下と高度な機能性僧帽弁閉鎖不全症 (FMR) を伴い、ガイドラインで推奨される最適の薬物治療に加え心臓再同期療法を行っているものの、治療抵抗性の重症心不全患者に対し、経皮的僧帽弁接合不全修復術 (MitraClip) が有効であった2例を提示する。症例1:62歳女性。4年前に左室収縮能低下の精査から心臓サルコイドーシスの診断に至り心不全増悪による入退院を繰り返していた。再度急性心不全を発症後、点滴加療等を行うもFMRの残存に伴いNYHA Ⅳで経過しており、MitraClip治療を施行した。症例2:60歳女性。3年前に房室ブロックと左室収縮能低下、重度FMRを契機に精査の結果心臓サルコイドーシスの診断に至り、心不全増悪による入退院を繰り返したためMitraClip治療を施行した。心臓サルコイドーシスへの内科的治療抵抗性の高度FMR患者に対し、新規治療オプションとしてMitraClipの有効性が示唆された2例を経験したため報告する。

P-5-04 病勢の寛解・増悪と高感度トロポニン値・PET 所見の推移に相関を認めた心臓限局性サルコイドーシスの一例

中尾 仁彦1、篠岡 太郎1、関川 雅裕1、田尾 進1、秦野 雄1、梅本 朋幸1、李 哲民1、米津 太志1、高橋 良英1、合屋 雅彦1、田代 燦2、疋田 浩之2、高橋 淳2

1東京医科歯科大学医学部附属病院 循環器内科、2横須賀共済病院 循環器内科

51歳女性。動悸・胸部不快感を主訴に外来を受診、臨床上及び画像検査上の全身うっ血所見認め心電図では完全房室ブロックであった。心エコーでEFは33%で心室中隔基部の菲薄化を認め、冠動脈に有意狭窄は認めず、MRIのLGE所見とPET-CTのFDG集積を併せて心臓限局性サルコイドーシスと診断。CRT植え込み後、経口ステロイドを導入した。治療開始後心不全症状改善し、上昇していた高感度トロポニンIは正常範囲内まで低下、PETでのFDG集積も認めなくなった。治療10ヵ月目、心不全症状再度出現し一旦陰性化していた高感度トロポニンIの再上昇とFDGの再集積を認め、心エコーで心室中隔菲薄化の増悪とEFのさらなる低下傾向を認めた。治療抵抗例と判断しMTXの併用を開始して経過観察中である。病勢増悪と高感度トロポニン値及びPET所見が相関して変化し、急速に心室中隔の著明な菲薄化を伴う心機能低下を認めた示唆に富む症例であり、文献的考察及び当院での他症例のデータも交えて報告する。

P-5-05 18F-FDG-PETによる心室瘤を合併した心サルコイドーシスの画像的特徴と心室頻拍発生頻度に関する研究

南野 巧真、小林 茂樹、藤井 翔平、梶井 俊郎、河野 通暁、奥田 真一、矢野 雅文山口大学大学院医学系研究科 器官病態内科学

心室瘤は心サルコイドーシスにおける特徴的な所見の一つであると知られている。本研究では心室瘤を合併した心サルコイドーシスの18F-FDG-PETによる画像的特徴を検討するとともに心室瘤合併例、非合併例で持続性心室頻拍(VT)の発生率を前向きに検討した。54人の活動性心サルコイドーシス患者のうち17人で心エコー、左室造影もしくは心臓MRIで心室瘤を認めた。心臓MRIでは心室瘤の領域に遅延造影像を認め心室瘤部分の強い線維化が見られた。18F-FDG-PETでは心室瘤に一致してFDG集積を認めたが、集積強度は心室瘤の中心部ではむしろ減弱していた。心室瘤形成過程の18F-FDG-PETの推移を観察することができた症例では、心室瘤形成前に心臓局所に強いFDG集積を認め、同部位の瘤化・菲薄化が進行するとともに、心室瘤中心部のFDG集積の減弱が見られたが、心室瘤周辺部に強いFDG集積を認めた。本研究の患者群において、VTの発生を前向きに検討したところ、心室瘤合併例は、非合併例に比較してVT発生頻度が有意に大きかった。18F-FDG-PETによる心室瘤合併心サルコイドーシス患者の画像的特徴は、心サルコイドーシスの診断、VT予測に有用であり、早期治療介入の重要性が示唆された。

P-5-06 心臓サルコイドーシスにおける18F-FDG PETの意義の検討

石田 三和、藤吉 和博、石田 弘毅、猪又 孝元北里大学北里研究所病院 循環器内科

【背景】心臓サルコイドーシス(CA)において左室収縮不全は主徴候の一つであるが、免疫療法によるCAの炎症の変化とリバースリモデリング(LVRR)についての報告は殆どない。

【方法と結果】CA症例連続8例(男性1例、女性7例、平均63±13歳)を対象に、18F-FDG PETでの異常集積の残存が心機能に与える影響を検討した。維持用量のプレドニゾロン

(6.9±2.2mg)とβ遮断薬を含む至適薬物療法下で、18F-FDG PETが消失した群(A群、n=4)、減少したが集積が残存した群(B群、n=4)の2群に分けた。2群間でベースライン時の各臨床パラメータに有意な差はなかったが((左室拡張末期径32±10 vs.36±8 mm (NS)、18F-FDG PETでのmax SUV4.4±4.7 vs. 9.0±3.2 gm/ml (NS))、15±6ヶ月の追跡調査中にLVEFはB群よりもA群の方が有意に改善された。(LVEFの変化:+(21±11)vs –(4±8)%、P = 0.011)

【結論】18 FDG-PETでの異常集積の消失は、CA患者における免疫療法と心不全治療の併用療法に対するLVRRを予測することができる。

Page 11: YIA-01野生型トランスサイレチン心アミロ YIA-02ピ …...CTS合併の男性が多いことが注目すべき点である。 YIA-02ピロリン酸心筋シンチグラフィ陽性

35

プログラム

シンポジウム

YIAセッション

一般演題(ポスター)

一般演題(ポスター)

P-6-01 急速な左室収縮能低下を示した心アミロイドーシスの1例

堀 陽一、伊部 達郎、和田 浩、宇賀田 裕介、坂倉 建一、百村 伸一、藤田 英雄自治医科大学附属さいたま医療センター 循環器内科

【症例】60代男性。【主訴】呼吸困難。【現病歴】原発性アミロイドーシスに対する当院血液内科での化学療法施行の治療中に呼吸困難を呈し当科循環器内科入院。血液検査にてBNP 1286.8 pg/mLと高値。心エコー図では3ヵ月前のEF 44.5%から13.9%へと急速な左室収縮能の低下を認めた。心アミロイドーシスの進行に伴う低拍出量症候群に対して強心薬と利尿薬による治療にて一度は状態安定したが、併存する敗血症による頻回の下痢と発熱に対して抗菌薬併用するも離脱できず、第26病日に死亡確認となった。剖検では心、腎、肝、消化管、肺等全身臓器にアミロイドの沈着を認め、心臓では微小血管壁主体に高度のアミロイド沈着があり心筋は10 mm以下と菲薄化していた。

【考察】一般的に心アミロイドーシスでは心筋間質へのアミロイド沈着から心室壁の肥厚を呈し拡張障害を示すが、本症例は急速に左室収縮能の低下を示した心アミロイドーシスの一例であり、心室中隔間質への細かなアミロイド沈着は認めるものの、微小血管壁へのアミロイド沈着による心筋虚血からの左室収縮能低下が示唆される症例であった。臨床経過と剖検所見について、文献的考察を加え報告する。

P-6-02 難治性の右心不全の経過中にAL型心アミロイドーシスの診断に至った一例

森 信太郎1、森永 崇1、磯谷 彰宏1、白井 伸一1、安藤 献児1、大中 貴史2

1小倉記念病院 循環器内科、2小倉記念病院 血液内科

【症例】75歳、男性【主訴】陰嚢浮腫、下腿浮腫【現病歴】ADL自立。2年3か月前と1年3か月前に高血圧性心不全で入院歴があった。約1年前から陰嚢浮腫と下腿浮腫が出現して徐々に増悪傾向で、大量の利尿薬を導入してようやく改善に至り、冠動脈造影検査で左主幹部に90%狭窄を認め、心臓カテーテル治療を施行した。半年前に発作性心房細動を認め、再び陰嚢浮腫と下腿浮腫が増悪して更に大量の利尿薬導入を必要とした。心エコーでは左室駆出率60%以上と収縮能良好で明らかな心肥大や心拡大も認めなかった。その後、再び陰嚢浮腫と下腿浮腫が増悪して入院し、大量の利尿薬で浮腫は改善して体重は約20kg減量した。心筋RIでATTR心アミロイドーシスは否定的であったが、血液検査でフリーライトチェーンの異常を認め、骨髄穿刺で骨髄腫、心筋生検でAL型心アミロイドーシスと診断した。以後、血液内科で化学療法を開始した。

【考察】難治性の右心不全の経過中に、当初は認めていなかった心アミロイドーシスを疑う所見が出現し、最終的に多発性骨髄腫に伴うAL型心アミロイドーシスの診断に至った症例を経験したため、報告する。

P-6-03 頻脈に伴い一過性の収縮能低下を来した心アミロイドーシスの一例

正井 久美子、織原 良行、合田 亜希子、尾下 武、奥原 祥貴、朝倉 正紀、石原 正治兵庫医科大学 循環器内科

81歳男性。狭心症に対し冠動脈バイパス術の既往がある。バイパス術以後心不全を繰り返しており、心筋生検にてアミロイドの沈着を認め、心アミロイドーシスと診断された。3日前より感冒症状を認め、その後徐々に体重が増加、安静時の呼吸苦を認めたため救急搬送となった。来院時は全身倦怠感が著明であるが、意識は清明、血圧125/90mmHg、心拍数120回/分であり、心電図では心房細動であった。レントゲン上は心拡大及び両側胸水を認めており、心エコー図検査では、左室駆出率(LVEF) 16%、左室拡張末期径(LVDd) 42mm、左室流出路時間積分値

(LVOT-VTI) 5.4cmであった。心アミロイドーシスの進行に伴う低心拍出及びうっ血性心不全と診断し、強心薬及び利尿薬を開始した。徐々に強心薬の漸減を行うも倦怠感が出現し、減量に時間を要し、第53病日に強心薬中止となった。退院前は血圧106/63mmHg、心拍数71回/分であり、心エコー図検査では、LVEF 50%でLVDd 42mm、LVOT-VTI 11.9cmとEFの改善を認めた。今回のLVEF低下は、頻脈源性心筋症に伴う心不全が主病態であると考えられた。心アミロイドーシスに頻脈源性心筋症を合併し、治療後にLVEFの改善を認めた一例を経験した。

P-6-04 急速に心不全の進行を呈したAL型心アミロイドーシスの1例

寺崎 智志1、中野 知哉1、名古路 貴志1、石原 里美1、尾上 健児1、渡邉 真言1、川上 利香1、畠山 金太2、坂口 泰弘1、斎藤 能彦1

1奈良県立医科大学 循環科内科学、2奈良県立医科大学 病院病理学

症例は57歳女性。今まで検診で異常を指摘されたことはなかった。20XX年11月初旬から労作時呼吸困難、起座呼吸と下腿浮腫を自覚するようになった。11月24日に前医を受診し、胸部X線で心拡大と両側胸水貯留、心エコーで全周性左室肥大(IVS/PW 14/14 mm)と左室機能低下(LVEF 40%)を指摘され同院に入院した。冠動脈造影検査では両側冠動脈は正常、利尿剤投与により心不全の改善を認めたため退院したが、退院1週間後に再度心不全増悪で同院に再入院した。利尿剤調節されたが心不全コントロールに難渋しNYHA classⅢと症状改善乏しいため、精査加療目的に12月27日に当院に転院した。左室心内膜心筋生検の結果、心筋細胞間質にアミロイド沈着を認められ心アミロイドーシスと診断された。尿検査でBence-Jones蛋白が検出、骨髄穿刺結果と合わせ多発性骨髄腫と診断された。多発性骨髄腫に合併したAL型アミロイドーシスと診断されDEXA療法が開始された。来院時より低拍出症候群(心係数1.6 L/min/m2)を示し心不全は治療抵抗性であり、12月29日に多臓器不全のため死亡した。今回、心不全発症から約1か月で死亡に至っており、急速に進行した心アミロイドーシス症例を経験したので報告する。

Page 12: YIA-01野生型トランスサイレチン心アミロ YIA-02ピ …...CTS合併の男性が多いことが注目すべき点である。 YIA-02ピロリン酸心筋シンチグラフィ陽性

36

プログラム

シンポジウム

YIAセッション

一般演題(ポスター)

一般演題(ポスター)

P-6-05 著明な心肥大を呈したV122I変異によるトランスサイレチン型心アミロイドーシスの一例

及川 雅啓、根橋 健、菅野 優紀、天海 一明、山田 慎哉、中里 和彦、石田 隆史、竹石 恭知福島県立医科大学 循環器内科学講座

症例は50歳代男性。労作時息切れ、下腿浮腫の精査にて前医入院し、心エコーでの著明な心肥大、両室収縮不全を認め、心筋生検にてnon-AA心アミロイドーシスと診断された。家族歴がなく、ALアミロイドーシスを疑ったが、蛋白分画や骨髄生検で異常を認めず、心不全症状の悪化を来たしたため、精査目的に当院紹介となった。Tc-99mピロリン酸のびまん性心集積を認め、前医で行なった心筋生検組織を用いてトランスサイレチン染色を行なったところ陽性であり、TTR遺伝子変異(V122I, c.424G>A, ヘテロ接合型)を認めたことから変異型ATTRアミロイドーシスと診断しタファミジスの内服加療を開始した。手根管症候群、立位時の眩暈症状を認めるが、心症状が主である特徴的な臨床所見を示した。姉弟の心エコー所見は正常であり、両親にも心疾患の既往はなく孤発性の発症であった。心不全は徐々に進行し入院を繰り返すようになり、治療開始半年後に永眠された。本邦でのV122I 変異は非常に稀であり、アミロイドーシス確定診断の重要性を示す症例であり報告する。

P-6-06 トランスサイレチン型心アミロイドーシスにおけるH/CL比と心筋病理学的所見および心臓造影MRI所見の相関

高潮 征爾、西 雅人、山田 敏寛、丸目 恭平、辻田 賢一熊本大学病院 循環器内科

【背景】ピロリン酸心筋シンチグラフィ(99mTc-PYP RI)はトランスサイレチン型心アミロイドーシス(ATTR-CA)の診断に有用で、心臓への集積度が高いほど予後不良と報告されている。しかし心臓への集積度が心筋病理やMRI所見と相関するか十分な評価がされていない。

【方法】99mTc-PYP RIを実施し、心臓に集積が認められた症例のうちnative T1値およびextracellular volume (ECV)を測定した36名および心筋生検にてアミロイドの沈着率[(アミロイドの沈着面積/心筋の面積)×100]を定量評価した30名を対象とした。心臓へのピロリン酸集積はプラナー像でheart to contralateral ratio (H/CL比)にて評価した。

【結果】H/CL比およびアミロイド沈着率の平均は1.88±0.31、23.2±18.6%であり、H/CL比とアミロイド沈着率には有意な相関を認めた(r=0.479, p=0.007)。Native T1値とECVの平均は1407±59 ms、39.7±5.0%であり、native T1値(r=0.482, p=0.003)およびECV(r=0.499, p=0.002)はH/CL比と有意な相関を認めた。

【結語】H/CL比は心筋へのアミロイド沈着率、native T1値延長、ECV上昇と相関が見られた。ピロリン酸の心臓への集積は心筋の組織学的所見や病態の進行との関連が示唆された。

P-6-07 非侵襲的診断法により診断されたトランスサイレチン型心アミロイドーシスにおける組織生検の有用性

西 雅人、山田 敏寛、高潮 征爾、辻田 賢一熊本大学大学院生命科学研究部 循環器内科学

【背景】近年、トランスサイレチン型心アミロイドーシス(TTR-CA)におけるピロリン酸シンチグラフィを用いた非侵襲的診断法の有用性が確立されつつあるが、それにより診断されたTTR-CAにおける組織生検でのアミロイド沈着の陽性率については充分な解明がなされていない。

【目的】ピロリン酸シンチグラフィにより非侵襲的に診断されたTTR-CA症例における組織生検の感度を評価する。

【方法】自施設にて2002年6月から2019年1月までにピロリン酸シンチグラフィ陽性(visual score 2又は3)にてTTR-CAと診断した連続124症例について後ろ向きに解析を行った。

【結果】114例で一箇所以上の組織生検が行われ、アミロイド陽性率は皮下組織44%(43/97例)、消化管67%(52/78例)、心筋99%(78/79例)であった。皮下組織と消化管の両者の生検を行った70症例では81%(57/70例)でいずれかの組織にアミロイド沈着を認めた。

【結論】非侵襲的診断法は極めて高い感度で心へのアミロイドーシス沈着を検出する。また、心筋生検の代替として皮下組織生検と消化管生検を組み合わせることが有用である。

P-7-01 高度房室ブロック及び拡張型心筋症様の病態を呈したDuchenne型筋ジストロフィー保因者の一例

大橋 尚人、近江 晃樹、枝村 峻佑、門脇 心平、佐藤 陽子、禰津 俊介、菊地 彰洋、桐林 伸幸、菅原 重生日本海総合病院 循環器内科

症例は50歳台前半女性。心疾患を含め既往歴なし。家族歴として息子がDuchenne型筋ジストロフィー(DMD)と診断され治療中である。201x年11月に息切れと下腿浮腫が出現したため近医を受診し、うっ血性心不全が疑われ当院へ紹介となった。来院時の心電図では高度房室ブロックであり、胸部レントゲン検査で肺うっ血と胸水貯留を認め、心エコー検査にてEF 23%と全周性の壁運動低下を来していた。採血ではCK、アルドラーゼを含めた筋原性酵素とBNP 4359 pg/mlと高度上昇が確認された。うっ血性心不全として入院の上、酸素、利尿剤及びドブタミン投与にて治療開始した。入院時に冠動脈造影及び心筋生検を施行し冠動脈の有意な狭窄病変なく、心臓MRIでは後壁に遅延造影を認め、遺伝子検査にてExon60-67の欠失を認めDMDの保因者であることが確認された。DMD保因者は心筋障害を来すことが知られており、本症例もDMDによる二次性心筋症の可能性が示唆された。経過良好で症候改善を認め32病日にCRT-D植込み術を施行し、40病日に独歩退院した。今回、高度房室ブロック及び拡張型心筋症様の病態を呈したDuchenne型筋ジストロフィー保因者の一例を経験したため文献的考察を含めて報告する。

Page 13: YIA-01野生型トランスサイレチン心アミロ YIA-02ピ …...CTS合併の男性が多いことが注目すべき点である。 YIA-02ピロリン酸心筋シンチグラフィ陽性

37

プログラム

シンポジウム

YIAセッション

一般演題(ポスター)

一般演題(ポスター)

P-7-02 Acromegalic cardiomyopathyに対して包括的加療を行い, 心機能改善を得た一例

杉浦 純一、汪 洋、押田 裕喜、竹本 康宏、山本 雄太、松島 明彦、堀井 学市立奈良病院 循環器内科

【症例】58歳女性【主訴】呼吸苦【現病歴】高血圧症/2型糖尿病に関して近医で内服加療されていた。X年5月頃に呼吸苦を主訴に当科を受診され、うっ血性心不全と診断され、入院加療された。心エコーで著明な心拡大及び左室壁肥厚が認められ、心不全のetiologyとして拡張相肥大型心筋症が疑われた。心臓カテーテル検査では冠動脈に有意狭窄はなく、左室心内膜心筋生検の病理所見では拡張相肥大型心筋症は否定的であり、拡張型心筋症を疑う所見が得られた。手足の容積増大や眉弓部の膨隆などのAcromegalyを疑う所見が認められたため、IGF-1及びブドウ糖負荷時のGH変化を検査した結果、Acromegalyの診断に至った。心不全に対する心保護薬の導入、Acromegalyに対するサンドスタチン投与及び睡眠時無呼吸症候群に対するASVでの加療を開始した。その結果、心不全症状は消失し、NT-proBNPは陰性化し、心エコーでの心機能改善が認められた。一般的には収縮能が低下したAcromegalic cardiomyopathyに対するサンドスタチン投与は心機能改善に至らないことが多いと報告されているが、本症例では包括的加療を行う重要性及びそれによる心機能改善の可能性が示唆された。

P-7-03 大動脈弁閉鎖不全症術後に難治性心室頻拍の加療に苦慮した先端巨大症の一例

山下 健太郎1、久松 恵理子1、坂井 淳1、中村 俊宏1、松本 賢亮1、福沢 公二1、田中 秀和1、植田 初江2、平田 健一1

1神戸大学大学院医学研究科内科学講座 循環器内科、2国立循環器病センター 病理部

症例は59歳男性。52歳時に労作時呼吸困難および起坐呼吸が出現。心エコー図検査にて重度大動脈弁閉鎖不全を認め、自己弁温存大動脈基部置換術が施行された。その際の術前精査にて下垂体腺腫が認められ、先端巨大症と診断された。術後も左室の遠心性肥大および収縮能低下は残存したものの、その後ソマトスタチンアナログ製剤の投与により病勢はコントロールされた。左室径、壁厚、および左室収縮能は経時的に改善傾向を示したが、54歳時に動悸を自覚し救急外来を受診。心電図にて心室頻拍(VT)が確認され、同年カテーテルアブレーション術(RFCA)と植込型除細動器植え込み術が施行された。しかし、その後も抗頻拍ペーシング治療を必要とするVTを繰り返し認め、58歳時からはVT発作が頻回となった。計3回の追加RFCA、両側星状神経節切除術、および開胸下心外膜RFCAを行うもVTの抑制は困難であり、59歳時に心臓移植登録を行った。心筋生検では、細胞肥大、核形不整、細胞質変性が進行し、VT発生の素地になっていると考えられた。大動脈弁閉鎖不全術後、心機能の増悪を認めないにもかかわらず難治性VTに苦慮した先端巨大症の一例を報告する。

P-7-04 心電図の経時的変化が遅延したたこつぼ型心筋症の一例

織原 良行、朝倉 正紀、奥原 祥貴、正井 久美子、松本 祐樹、合田 亜希子、石原 正治兵庫医科大学 循環器内科・冠疾患科

症例は慢性腎不全に対し維持透析中の72歳女性。X日に1時間程度持続する呼吸苦、胸痛を認めていたが自然に症状消失したため経過観察をしていた。その3日後に透析時の心電図を施行したところST上昇を認めたため、急性冠症候群が疑われ当科紹介受診となった。当院受診時、意識清明、血圧108/80mmHg、心拍数89回/分であり、12誘導心電図ではⅡ、Ⅲ、aVF、V2-6でST上昇を認めた。心エコー図検査では心尖部に限局した壁運動低下を認めていた。同日緊急で施行した冠動脈造影検査では、左前下行枝近位部に中等度狭窄を認めるものの、壁運動低下部位と一致せず、たこつぼ型心筋症と診断した。その後、心電図において第5病日まではST上昇が持続した。第7病日にSTは基線に復帰するも陰性T波は認めなかった。第11病日の心電図でⅡ、Ⅲ、aVF、V2-6の新規の陰性T波が出現した。同日の心エコー図検査では、心尖部の壁運動低下は改善しており、明らかな左室壁運動低下は認めなかった。たこつぼ型心筋症では通常早期に陰性T波を認めるとされているが、本症例のように心電図変化が遅延する症例を経験したため報告する。

P-7-05 抗ミトコンドリア抗体陽性ミオパチーに合併した洞不全症候群の一例

石黒 まや1、長友 祐司2、関 ルイ子1、井上 完起1、井口 信雄1、吉川 勉1、磯部 光章1

1榊原記念病院 循環器内科、2防衛医科大学校 循環器内科

【症例】59歳 女性【現病歴】35歳時より血中CK高値を指摘されていたが特に症状は認められなかったため経過観察となっていた。X-1年、安静時胸痛を主訴に前医に救急搬送された。冠動脈造影で有意狭窄は認めず、冠攣縮性狭心症疑いの診断でCa拮抗薬が開始された。その後外来で動悸、心室性期外収縮多発を認めるようになり、精査目的に当院へ紹介となった。心エコー・心臓MRI等を施行されるも明らかな異常は認めず、外来経過観察となった。その後X年ふらつきを主訴に受診され、心拍数30回/分の補充調律とそれに伴う心不全の診断で入院となった。

【入院後経過】緊急で体外式ペースメーカーを留置し、心不全治療を行った。その後待機的に永久ペースメーカー植え込み術を行った。その後、持続性のCK高値からミオパチーを疑い神経内科へコンサルト、血液検査・筋生検等の結果から抗ミトコンドリア抗体陽性ミオパチーの診断に至った。内服ステロイドを開始され以後経過良好である。

【考察】抗ミトコンドリア抗体陽性ミオパチーでは本症例のように骨格筋症状よりも不整脈などの心症状で発症する症例があり、洞不全症候群の原因として比較的まれと考えられたため報告する。

Page 14: YIA-01野生型トランスサイレチン心アミロ YIA-02ピ …...CTS合併の男性が多いことが注目すべき点である。 YIA-02ピロリン酸心筋シンチグラフィ陽性

38

プログラム

シンポジウム

YIAセッション

一般演題(ポスター)

一般演題(ポスター)

P-7-06 禁酒により改善したアルコール性心筋症の二例

知識 俊樹1、長友 祐司1、鏡 和樹1、松尾 勇気1、佐藤 和輝1、人見 泰弘1、雪野 碧1、河合 茜1、弓田 悠介1、伊藤 桂1、大崎 歩1、安田 理紗子1、難波 貴之1、矢田 浩崇1、河村 朗夫2、足立 健1

1防衛医科大学校病院 循環器内科、2国際医療福祉大学 循環器内科

症例①は49歳男性。ビール3500ml/日×10年以上の飲酒歴がある。労作時息切れと下肢の浮腫を主訴に近医受診、心不全疑いで当院へ紹介入院となった。頻脈性心房細動(AF)とびまん性の左室壁運動低下(LVEF=20%)を認め、投薬治療とAFに対するアブレーションを行い第37病日に退院となった。退院時LVEFは正常化、正常冠動脈で、心臓MRIでは遅延造影を認めなかった。退院後から飲酒を再開し7か月後に心不全増悪、再入院加療を行った。その後は禁酒しLVEFは再び正常化した。症例②は71歳女性。ビール3000ml/日×12年の飲酒歴がある。呼吸困難感を主訴に当院へ救急搬送、心不全の診断で入院となった。びまん性の左室壁運動低下(LVEF=30%)を認め、急性期は気管内挿管、ドブタミン投与を含めたCCU管理を行い、投薬治療を継続して第20病日に退院となった。退院時LVEF=50%程まで改善、正常冠動脈で、心臓MRIでは遅延造影を認めなかった。アルコール性心筋症は、疾患特異的な検査所見がなく、また禁酒以外の特異的治療がない。今回我々は、主に病歴と他疾患の除外からアルコール性心筋症と診断し、禁酒により比較的速やかに改善した二例を経験したため、文献的考察を加え報告する。

P-7-07 産後11日目に心肺停止をきたした周産期心筋症の1例

小山 雅之1,2、西川 諒2、永野 伸卓2、土井 崇裕1,3、神津 英至2、寺島 慶明1、村中 敦子2、矢野 俊之2、高橋 亨1、三浦 哲嗣2

1帯広厚生病院 循環器内科、2札幌医科大学 循環器・腎臓・代謝内分泌内科、3手稲渓仁会病院 循環器内科

周産期心筋症(PPCM)は約15,000出産に1例が発症する稀少疾患であり、53%が初産婦とされる。発症危険因子として妊娠高血圧症候群(HDP)、多胎妊娠、切迫早産、子宮収縮抑制薬の使用、高年妊娠があげられている。症例は34歳、初産婦。妊娠18週から切迫徴候のためリトドリン塩酸塩の点滴静注を開始し、21週から内服に切り替えた。39週1日 妊娠高血圧腎症と診断し、翌日帝王切開術を施行した。産後1週間で退院したが、4日後に自宅にて心肺停止で発見され当院へ救急搬送となった。搬入時JCS 300、初期波形は心室細動であり、経皮的心肺補助法(PCPS)を確立し、6回の除細動で洞調律に復した。冠動脈造影では冠動脈に有意狭窄なく、左室造影では全周性に壁運動は低下していた。経胸壁心エコー(TTE)ではLVDd 54mm、LVEF 22%と左室内腔の拡大と左室駆出率の低下を認めた。抗プロラクチン療法を含む集学的治療を行い、第5病日にはPCPSを離脱可能となり、同日のTTEではLVEF 42%と左室駆出率の改善を得た。第25病日のTTEでは左室壁運動は正常化した(LVEF 60%)。本症例は高年妊娠かつ初産であることに加え、子宮収縮抑制薬およびHDPといった産科的リスク因子が複合して発症した可能性がある。

P-8-01 内因性グルカゴンは交感神経系の制御を介して心保護作用を示す

西村 和之、坂東 泰子、上原 敬尋、Yasheng Remina、尾崎 令奈、室原 豊明名古屋大学大学院医学系研究科 循環器内科学

【背景】グルカゴンは血糖の維持のみならず多面的な作用を持つ事が知られているが、心臓に対しても陽性変力作用や陽性変時作用を示すことが知られている。しかし、内因性のグルカゴンの心不全病態に対する役割については不明な点が多い。

【方法】我々はプレプログルカゴン遺伝子へのGFPタンパクのノックインによるグルカゴン・GLP-1欠損マウス(Gcg-null)の心機能・心臓リモデリングについて解析した。

【結果】Gcg-nullマウスは、高血圧、左室収縮能低下、心拡大を示した。また高血圧の原因として神経体液性因子の変化を検索するとGcg-nullでは血漿エピネフリンの上昇が認められた。これら所見はグルカゴン補充により全て正常化したが、GLP-1補充は無効であった。大動脈縮窄術(TAC)による心臓圧負荷モデルの解析では、心不全病態を誘発する事によりコントロールマウスでも血漿エピネフリンの上昇が認められたが、Gcg-nullにTACを施行すると血漿エピネフリンの異常な上昇が認められた。

【結語】グルカゴン欠乏状態はエピネフリン産生亢進を誘発し心不全を引き起こすものと考えられた。

P-8-02 リナグリプチンは1型糖尿病モデルマウスにおいて、ネクロプトーシス抑制を介して心筋障害を改善する

平井 太郎、高垣 雄太、金崎 啓造、古家 大祐金沢医科大学 糖尿病・内分泌内科学講座

【背景】糖尿病患者では心不全発症頻度が高く、心筋障害は重要な課題である。心筋障害において新たなプログラム細胞死ネクロプトーシスの寄与が報告されている。

【目的】1型糖尿病モデルマウス心臓に対するDPP 4阻害薬リナグリプチンの効果を確認し、ネクロプトーシスの寄与について検討する。

【方法】8週齢オスCD 1マウスにストレプトゾトシン(STZ)を投与し、1型糖尿病を誘導、リナグリプチン介入を4週間行った。

【結果】シリウスレッド染色ではControl群(C群)に比してSTZ群で増悪したperivascular fibrosisがリナグリプチン投与で有意に改善した。電子顕微鏡解析ではC群に比しSTZ群で心筋サルコメア構造破綻を認め、リナグリプチン投与により改善した。遺伝子網羅的解析ではネクロプトーシス誘導分子RipK3、MLKLの発現がC群に比べてSTZ群で増加、リナグリプチン投与にて抑制、蛋白発現も同様の傾向であった。免疫組織化学染色ではC群に比しSTZ群でDPP4が血管内皮・間質に強発現、RipK3は細胞質に強発現しており、それらはリナグリプチン投与で抑制された。

【結語】リナグリプチン投与は線維化・心筋構造破綻を改善、ネクロプトーシス抑制がその分子機序に寄与する。

Page 15: YIA-01野生型トランスサイレチン心アミロ YIA-02ピ …...CTS合併の男性が多いことが注目すべき点である。 YIA-02ピロリン酸心筋シンチグラフィ陽性

39

プログラム

シンポジウム

YIAセッション

一般演題(ポスター)

一般演題(ポスター)

P-8-03 糖尿病性心筋症における拡張機能障害は、キサンチンオキシダーゼ阻害により抑制される

井垣 勇祐、丹野 雅也、神津 英至、佐藤 達也、三浦 哲嗣札幌医科大学 循環器・腎臓・代謝内分泌内科学講座

【背景】我々は拡張機能障害を示す2型糖尿病ラットOLETFでは心筋AMPデアミナーゼ(AMPD)活性が上昇することを報告した。AMPDにより産生が亢進するIMPは、キサンチンオキシダーゼ(XO)によりヒポキサンチン(HX)からキサンチン(XA)、尿酸へと代謝される際にROSを産生する。

【方法および結果】OLETFと 対 照 ラ ッ トLETOに お い てフェニレフリン持続静注による200 mmHgの圧負荷前後で心筋メタボローム解析を行った。HXおよびXAはOLETFにおいて圧負荷後に有意に上昇した。またOLETFのXO活性はLETOよりも58%高かった。圧容積曲線解析では、圧負荷後のtauおよび左心-動脈カップリングEa/Eesは、OLETFでLETOより高値 (14.7 vs. 12.5 msec, p<0.05および2.3 vs 1.6, p<0.05)であった。XO阻害薬topiroxostatの投与(topi, 0.5 mg/kg/日, 14日間)はOLETFにおいて、tauとEa/Eesの上昇を有意に抑制した。

【結論】糖尿病心筋症における拡張機能障害はXO阻害により改善する。

P-8-04 高尿酸血症と左室収縮能および血漿B型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)との関連性の検討

大木 理次1、川井 真2、南井 孝介2、小川 和男2、井上 康憲2、森本 智2、田中 寿一2、名越 智古2、小川 崇之2、吉村 道博2

1東京慈恵会医科大学附属柏病院 循環器内科、2東京慈恵会医科大学附属病院 循環器内科

【背景】高尿酸血症と左室収縮能との関連が報告されているが、BNPとの関連性は明らかではなく、本研究にて検討した。

【方法】心疾患のため心臓カテーテル検査を行った3077例にて、尿酸値とBNPおよび左室収縮能(LVEF)との関連性を単回帰分析・多変量解析・共分散構造分析にて評価した。

【結果】尿酸値とLVEFは、単回帰分析および多変量解析にて有意の関連を示した。一方、尿酸値とBNPは単回帰分析のみで有意性を示し、重回帰分析では示さなかった。ここで、BNPとLVEFは強く交絡するため、共分散構造分析を実施した。性別と体格を階層別に解析した結果、痩せ傾向の高齢女性群では、尿酸値とBNPには有意の関連を認めたが、肥満傾向の男性群では認めなかった。一方、両群とも尿酸値とLVEFには有意の関連を認めた。

【結論】高尿酸血症は、症例の背景に関わらずLVEF低下と常に関連していた。肥満男性では尿酸値は高くなる傾向にあり、逆にBNPは抑制されるために高尿酸血症とBNPの関連性は認め難くなる。高尿酸血症の左室収縮能への影響を評価する際には、BNPのみでは過小評価してしまうので画像検査と組み合わせる方が望ましい。

P-8-05 心不全加療により良好な心機能改善を得,ミトコンドリア異常が消失した2症例

進藤 彰人、箸方 健宏、山﨑 允喬、西條 大悟、神馬 崇宏、持田 高太朗、生冨 公康、柳澤 智義、佐藤 高栄、松下 匡史郎、大西 哲、山﨑 正雄NTT東日本関東病院 循環器内科

症例1は49歳男性。特に既往症なく生来健康であった。労作時息切れ、全身浮腫の症状あり、急性心不全・腎不全の診断で入院し、経胸壁心臓超音波検査(TTE)で壁厚13mmの心肥大と左室駆出率(EF) 15%の瀰漫性壁運動低下を認めた。心筋病理で著明なミトコンドリア増生、大小不同、一部年輪様のクリスタ走行異常を認めた。至適薬物療法による心不全加療行い、1ヶ月後のTTEでEF50%と著明な心機能改善を認めた。1年後に再度心筋生検を施行するとミトコンドリア増生は軽く、クリスタの走行異常は明らかでなかった。症例2は62歳男性。肺癌に対する化学放射線療法施行から9年後、労作時息切れ、胸水貯留あり、急性心不全の診断で当科紹介。EF13%の瀰漫性壁運動低下を認め、心筋病理でミトコンドリア増生と一部年輪様のクリスタ走行異常を認めた。至適薬物療法による心不全加療行い、半年後のTTEでEF42%までの心機能改善得られ、9ヶ月後に再度心筋生検を施行するとミトコンドリア増生は目立たず、クリスタの走行異常は明らかでなかった。心不全加療で心機能が著明に改善し、病理所見でミトコンドリア異常が消失した2症例について、文献的考察も含め報告する。

P-8-06 心臓老化におけるウェルナータンパク質の役割

上原 敬尋、坂東 泰子、西村 和之、室原 豊明名古屋大学大学院医学系研究科 循環器内科

【背景・目的】ウェルナー症候群は早老症の一つである。我々はこのウェルナー症候群のマウスモデルを用いて、心臓の老化におけるウェルナータンパク質の役割を解明することを目的とした。

【方法】主に18週のウェルナータンパク質DNAヘリカーゼアミノ酸変異マウスモデルを用いて解析を行った。

【結果】ウェルナー症候群マウスはLVカテーテルの評価では拡張障害を呈していた。網羅的解析のために行ったDNAマイクロアレイでは、心筋肥大・線維化・アポトーシス関連遺伝子の亢進を認めた。またオートファジー関連遺伝子のうちATG13、LC3の亢進を認めた。組織の評価でもそれらに一致し、心筋細胞肥大、線維化の亢進、アポトーシスの亢進を認めた。また、WBでもLC3の亢進を認めた。しかし、オートファジーにおけるOFF-RATEの抑制薬であるクロロキン添加してもLC3の亢進の程度は変わらず、本モデルにおいてはオートファジーのOFF-RATEの障害を疑う所見であった。

【結論】ウェルナータンパク質は、心臓の老化においては、オートファジーのOFF-RATEを何らかの機序で制御し、心臓リモデリングに関与している可能性が示唆された。

Page 16: YIA-01野生型トランスサイレチン心アミロ YIA-02ピ …...CTS合併の男性が多いことが注目すべき点である。 YIA-02ピロリン酸心筋シンチグラフィ陽性

40

プログラム

シンポジウム

YIAセッション

一般演題(ポスター)

一般演題(ポスター)

P-8-07 p53-mTOR経路の制御不全は周産期心筋症を発症する

神津 英至1,2、小山 雅之1、矢野 俊之1、三浦 哲嗣1、Ardehali Hossein2

1札幌医科大学 循環器・腎臓・代謝内分泌内科学講座、 2Feinberg Cardiovascular Renal Research Institute, Northwestern University

【背景】mRNA結合蛋白ZFP36L2は、3'非翻訳領域(3'UTR)に結合することで標的mRNAを分解する。これまで血液細胞において細胞の増殖や分化を制御することが報告されているが、心筋細胞における役割は明らかでない。

【方法、結果】心筋細胞特異的ZFP36L2ノックアウト(L2KO)雌マウスは、仔マウスを出産後に心機能低下が低下し、30週齢までに94%が死亡した。網羅的遺伝子発現解析において、ZFP36L2は蛋白翻訳およびmTOR経路に関与していることが示唆され、実際に妊娠後期のL2KOマウス心において、mTORC1活性を表すRibosomal protein S6のリン酸化が有意に亢進していた。H9c2細胞において、ZFP36L2ノックダウンはmTORC1の負調節因子であるp53および、その標的遺伝子であるSestrin2、Redd1の発現をそれぞれ55%、39%、60%減少させた。ZFP36L2はp53のユビキチン化酵素であるMDM2の3'UTRに結合することにより、心筋細胞においてp53の蛋白安定化に寄与していた。L2KOマウスの出産後の左室駆出率は、妊娠中のラパマイシン投与にて有意に改善した(36% vs 45%)。

【結語】ZFP36L2はp53の発現調節を介してmTORC1活性を抑制し、妊娠に対する心筋の生理的ストレス応答を制御している。

P-9-01 抗セントロメア抗体陽性心機能低下患者に対してカルシウムブロッカーが奏効したと考えられた1例

金縄 健治、磯谷 彰宏、井上 勝美、藤岡 慎平、森 信太郎、伊藤 慎八、兵頭 真、白井 伸一、安藤 献児平成紫川会 小倉記念病院

症例は心房細動(Af)、高血圧を既往に持つ71歳女性。主訴は呼吸苦・食思不振にて来院し心不全の診断にて入院加療とした。エコーではdiffuse hypokinesis、EF35%であった。心電図はAf、V1-3にてST上昇、V5-6およびⅠ、aVLにてST低下を認め冠動脈造影検査を施行したが動脈硬化を認めなかった。心保護薬(βblockerおよびACE-I)を導入し退院して1か月後経過するが心機能・心電図には変化がなかった。その間も精査を進め抗核抗体1280倍、抗セントロメア抗体陽性であったため膠原病内科受診するも強皮症の確定診断には至なかった。しかし造影MRIによる心内膜下虚血の所見および心筋生検における細動脈に線維化を認めており心電図変化も加味してCardiac Raynaud's phenomenonを疑った。今までの心保護薬に加えてカルシウムブロッカーを投与開始したところ、その2か月後ST低下は正常化しエコーでもEF;57%まで改善を認めた。

【結語】強 皮 症 と 確 定 診 断 に は 至 ら な か っ た が、Microvascular障害を疑い投与したカルシウムブロッカーが奏効したと思われる一例を経験した。

P-9-02 心臓原発リンパ腫の1例須澤 仁、宇都宮 裕人、泉 可奈子、植田 裕介、原田 侑、板倉 希帆、木下 未来、日高 貴之、木原 康樹広島大学大学院医歯薬保健学研究科 循環器内科学

症例は77歳女性。1か月前からの労作時息切れ、胸部不快感を主訴に当院を紹介受診された。心電図で完全房室ブロックを認め、また経胸壁心エコー図検査で心房中隔の著明な肥厚と右房内に突出する可動性に富んだ腫瘤を認めたため、精査加療目的に当科入院となった。造影CT検査では下大静脈周囲、左房下面、心房中隔、大動脈周囲、大動脈弓部付近への広範囲な浸潤を認め、PET-CT検査では同部位での取り込み像を認めたが他臓器への集積は認めず、またMRIでは腫瘤の信号強度や造影効果は比較的均一であった。心臓に限局した腫瘍性病変と考えられ、第17病日に開胸下での腫瘍生検、恒久式ペースメーカー植え込み術を施行した。摘出した腫瘍の病理像は高悪性度B細胞リンパ腫と考えられた。第29病日よりR-CHOP療法を計3クール施行し、腫瘍の縮小を認めた。術後に肺塞栓症を生じたが、抗凝固療法のみで改善を得た。心臓原発リンパ腫は稀な疾患であるが、開胸生検により診断し、化学療法施行後に腫瘍縮小を明瞭に確認できた1例を経験したので報告する。

P-9-03 免疫チェックポイント阻害薬でたこつぼ型心筋症様の経過を呈した薬剤性心筋炎の一例

谷 良介、蓮井 雄介、和泉 高宏、那須 栄里子、飛梅 淳、石川 昇平、小西 久美、松永 圭司、三宅 祐一、石澤 真、辻 哲平、石川 かおり、村上 和司、野間 貴久、南野 哲男香川大学医学部附属病院 循環器・腎臓・脳卒中内科学

【症例】72歳男性【主訴】呼吸困難【経過】多発肺転移を伴う左腎細胞癌(cT3bN0M1)が指摘され、免疫チェックポイント阻害薬(Nivolumab:240mg、Ipilimumab:60mg)による治療が開始された。2コース目開始8日目に呼吸困難を自覚し、広範囲のST上昇、心筋逸脱酵素の上昇を認めた。冠動脈造影は有意狭窄病変なく、左室造影で心尖部に壁運動低下を認めた。ForresterⅣ群で強心薬とIABPを導入した。心筋生検はリンパ球主体で好酸球や組織球を交える高度の炎症細胞浸潤を認めた。薬剤性心筋炎と診断し、メチルプレドニゾロン500mg×3日間、その後プレドニゾロン60mg/日に変更して治療を開始した。循環動態不安定な状況が3日程続いたが、第35病日ForresterⅠ群まで改善した。心筋生検はほぼ正常に近い切片も見られたが、一部で高度の炎症細胞の残存が確認されたため、ステロイドは継続する方針とした。第39病日に退院した。

【考察・結果】免疫チェックポイント阻害薬は休薬しても効果が残存することが知られており、ステロイド減量や中止に関して明確な基準はない。本症例は、トロポニンが正常化しても心筋生検では心筋の炎症が残存していたためステロイドを継続し、再発なく経過している。

Page 17: YIA-01野生型トランスサイレチン心アミロ YIA-02ピ …...CTS合併の男性が多いことが注目すべき点である。 YIA-02ピロリン酸心筋シンチグラフィ陽性

41

プログラム

シンポジウム

YIAセッション

一般演題(ポスター)

一般演題(ポスター)

P-9-05 心臓MRI T1mappingを用いた化学療法による心筋障害の画像評価の有用性

照井 洋輔1、杉村 宏一郎1、大田 英揮2、多田 寛3、佐藤 遥1、後岡 広太郎1、建部 俊介1、宮田 敏1、坂田 泰彦1、石田 孝宣3、高瀬 圭2、下川 宏明1

1東北大学 循環器内科学、2東北大学 放射線診断学、3東北大学 乳腺内分泌外科学

アンスラサイクリン系抗癌剤は化学療法の重要薬剤だが、その重篤な心毒性が問題である。心機能評価において心臓MRIの臨床的有用性が報告されている。2017年8月より東北大学病院にて化学療法を受ける乳癌患者を対象に心臓MRIによる心機能評価を行う前向き研究を開始した。2019年2月までに110例が登録され、baselineと化学療法開始後6ヶ月で心臓MRIによる心機能評価を行った31例(全例女性、54.9±11.2歳)で検討を行った。化学療法前後でLVEFは有意に低下し(70.7±4.4 [SD] vs. 66.3±7.1%, P<0.001)、native T1値は有意に延長し(1288±35 vs. 1308±40 msec、P=0.006)、化学療法による心筋障害を反映したものと考えられた。心毒性(LVEF 10%以上の低下かつ53%未満と定義)はアンスラサイクリン系抗癌剤投与群の3例(10%)で認めた。同研究は全国24施設での多施設共同研究へ発展し、2019年3月までに205例が登録されている。本邦の乳癌患者における心毒性の実態を明らかにし、心毒性克服の一助となることが期待される。

P-9-06 尿毒症性心筋症発症におけるMonocyte Chemoattractant Protein-1を介した慢性炎症の関与

中野 知哉1,2、尾上 健児1、石原 里美1、中田 康紀1、中川 仁1、渡邊 真言1、川上 利香1、坂口 泰弘1、斎藤 能彦1

1奈良県立医科大学 循環器内科学、2大和高田市立病院 循環器内科

【目的】尿毒症性心筋症(UCM)は虚血性心疾患や弁膜症がないにもかかわらず末期腎不全患者に出現する原因不明の心筋症様病態である。慢性腎臓病患者ではplacental growth factorとsoluble fms-like tyrosine kinase-1 (sFlt-1)の発現不均衡が動脈硬化進展に寄与しており、sFlt-1 KOマウスの圧負荷心不全モデルでは心筋細胞で単球走化性因子であるMonocyte Chemoattractant Protein-1 (MCP-1)発現が亢進していると報告してきた。本研究ではUCM発症における慢性炎症の関与を臨床および組織学的に検討した。

【方法・結果】UCM群は低心機能精査目的に心内膜心筋生検を施行した透析患者40例、正常コントロール(NC)群は伝導障害等精査目的に心内膜心筋生検を施行し心筋症が否定された21例、低心機能対照群は臨床と組織学的に拡張型心筋症(DCM)と診断された196例とした。UCM群とDCM群ではNC群と比較して間質線維化の増加を認めたが、UCM群はDCM群に比較してCD68陽性細胞浸潤を有意に認めた。UCM群における血清MCP-1値および心筋細胞におけるMCP-1の発現は、他群に比較して有意に亢進していた。

【考察】UCMの発症機序には単球系を介した慢性炎症が関与していることが示唆された。

P-9-07 心不全患者においてインドキシル硫酸値は心血管イベントを予測する因子である

今津 美樹、福田 弘毅、伊藤 慎、北風 政史国立循環器病研究センター 臨床研究開発部

【背景】尿毒症毒素の一つであるインドキシル硫酸 (IS) は、腎機能障害と関連があり、心腎連関を介した心血管イベントに関与する可能性がある。

【目的】慢性心不全患者における心血管イベントの発生をISが予測し得るか、またISの影響を受けている要因を明らかとする。

【方法】2012年に当院に入院した165名の心不全患者の血漿IS値を測定し、5年後の心血管イベントを評価する。

【結果】カプランマイヤー解析法による血漿IS値の中央値 0.79µg/mL以上と未満の2群間での比較検討では、高IS群で有意に心血管イベント (心血管死亡および心不全による再入院) が多かった。一方、基礎心疾患別の検討では、肥大型心筋症患者において、ISが心血管イベントの強い予測因子であったが、拡張型心筋症患者などではその傾向はみられなかった。また、血漿IS値は左室径と左室収縮能との関連があったが、左室拡張能との関連は認められなかった。

【結論】血漿ISは慢性心不全における心血管イベントの予測因子であり、特に肥大型心筋症において、その傾向が顕著である。本研究により、ISが慢性心不全における心血管イベントのバイオマーカーとなる可能性が示された。

P-9-04 CHOP-likeレジメンを受けた悪性リンパ腫患者における心毒性のリスクおよび臨床的特徴

中山 貴文1、大島 佳子2、楠本 茂2、若見 和明1、後藤 利彦1、杉浦 知範1、瀬尾 由広1、飯田 真介2、大手 信之1

1名古屋市立大学大学院医学研究科 心臓・腎高血圧内科学、Department of Cardio-Renal Medicine and Hypertension, Nagoya City University Graduate School of Medical Sciences, Japan、2名古屋市立大学大学院 医学研究科 血液・腫瘍内科学、Department of Hematology and Oncology, Nagoya City University Graduate School of Medical Sciences

【背景】悪性リンパ腫に対するCHOP療法後のアンスラサイクリン心毒性はよく知られた合併症であるが、そのリスクは十分にわかっていない。

【対象・方法】2008年1月から2017年12月までに名古屋市立大学病院にてCHOP±R療法を受けた悪性リンパ腫443例のうち、治療前およびフォローアップ心エコーが実施された247例を対象とした。心毒性の定義は、10%以上のEF低下かつEFが50%未満となることとした。

【結果】対象患者は、男性135例、年齢中央値71歳、治療前EF中央値は69%(IQR:65-74)、ドキソルビシンの投与量中央値は300mg/m2であった。観察期間中央値37ヶ月の時点で、心毒性は54例(22%)に認め、関連する心不全および死亡は、それぞれ31例、6例で認めた。多変量解析により、年齢70歳以上(HR,2.2)および治療前EF70%未満(HR,2.5)が、独立した心毒性リスク因子として同定された。心毒性の改善(EF10%以上の改善且つEFが50%以上)は、54例中21例で確認された。

【結論】CHOP±Rレジメンを受けたリンパ腫患者において、EF低下、心不全、心毒性関連死はそれぞれ22%、13%、2%でみられた。治療前EF70%未満では安全と判断出来ない一方で、39%でEF改善もみられた。

Page 18: YIA-01野生型トランスサイレチン心アミロ YIA-02ピ …...CTS合併の男性が多いことが注目すべき点である。 YIA-02ピロリン酸心筋シンチグラフィ陽性

42

プログラム

シンポジウム

YIAセッション

一般演題(ポスター)

一般演題(ポスター)

P-10-01 心尖部肥大型から左室中部閉塞性肥大型心筋症に移行し、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症の関与が疑われた1例

石橋 洋平1、反町 秀美1、岩瀬 晴香1、船田 竜一1、高間 典明1、小板橋 紀通1、倉林 正彦1、板井 美紀2、原 健一郎2

1群馬大学医学部附属病院 循環器内科、2群馬大学医学部附属病院 呼吸器内科

症例は63歳、女性。X-7年経胸壁心エコーで心尖部肥大型心筋症(APH-HCM)を認めた。X-1年12月より気管支喘息を発症し、好酸球増多、胸水貯留のためX年8月好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)疑いで入院となった。好酸球数4330/μl、BNP1247pg/mlと高値を認めたが、トロポニンI、ANCAは陰性であった。心エコーでは左室中部閉塞性肥大型心筋症 (MVO-HCM) の所見であり、左室基部から中部の壁肥厚と心尖部瘤、左室内に4.9m/秒の加速血流を認め、推定圧較差は96mmHgであった。左室心内膜下心筋生検では、線維性に肥厚した心内膜下に多数の好酸球の集簇を認めた。心合併症を有するEGPAに対し、プレドニゾロン、シクロフォスファミド、メボリズマブの投与を行った。治療開始後、好酸球増多は著明に改善し、心エコーでは形態的な変化は乏しいが徐々に圧較差の減少を認めた。EGPAの心合併症は心内膜炎や弁膜症、不整脈、心筋症など多彩な表現を示すが、MVO-HCMは稀である。特に本症例はAPH-HCMからMVO-HCMへの移行に、EGPAが関連した可能性を否定しえない症例と考えられた。

P-10-02 急性期に再増悪した好酸球性心筋炎の一例松本 祐樹、朝倉 正紀、織原 良行、東 晃平、奥原 祥貴、柏瀬 一路、石原 正治兵庫医科大学 循環器内科講座

症例は63歳男性。前胸部違和感を主訴に当院救急外来を受診した。心電図上明らかな変化はなく、心エコー図検査で左室全周性壁運動低下、血液検査でトロポニンT(TrT)の上昇を認めたため、心筋炎疑いで入院となった。入院後、頻脈性心房細動を契機にショックとなり、カテコラミン及びPCPS導入が必要となった。冠動脈造影では有意狭窄病変を認めなかった。心筋生検より著明な好酸球の浸潤を認め、好酸球性心筋炎と診断し、ステロイドパルス療法を開始した。その後TrT上昇および左室壁運動が著明に改善し、PCPS及びカテコラミンから離脱できた。しかし、ステロイド漸減中にTrTの再上昇が出現し、両心室壁運動低下および新規の完全左脚ブロックを認めた。自覚症状の増悪はなかったが、好酸球性心筋炎再燃と診断し、再度ステロイドパルス療法を行った。その後はステロイドの漸減を緩徐にすることで、再燃することなく、壁運動改善を確認し、第268病日にステロイドを離脱することに成功した。第278病日に心筋生検を施行し病理学的改善も確認した。TrTの経時的測定による心筋炎の再増悪を観察した報告は少なく、文献的考察を含めて報告する。

P-10-03 肉芽腫性心筋炎による左室駆出率の保たれた心不全の一例

瀬川 貴嗣、中本 敬、山口 聡、世良 英子、塚本 泰正、溝手 勇、竹田 泰治、大谷 朋仁、彦惣 俊吾、坂田 泰史大阪大学大学院医学系研究科 循環器内科学

症 例 は66歳 男 性。2週 間 前 か ら 労 作 時 呼 吸 困 難 が 出現。徐々に増悪し改善認めないため、当科受診。血圧170/85mmHg、 心 拍 数60bpm、SpO2 93%( 酸 素3L/分 )であり起坐呼吸を認めた。胸部Xpにて肺うっ血、胸水貯留を認め、NT-proBNPは2820pg/mlと上昇あり、急性心不全と診断。トロポニンI (TnI) が0.487ng/mlと上昇を認めた。心臓超音波検査では左室拡張末期径54mm、左室駆出率59%、壁運動異常や有意な弁膜症は認めず、少量心嚢液の貯留を認めた。酸素投与、血管拡張薬、静注利尿薬にて心不全症状は改善するも、TnIは入院後、最大3.943ng/mlまで上昇。以後は血行動態に対する介入のみでTnIは漸減を認めた。TnI高値、心不全の原因精査のため冠動脈造影、心筋生検を施行したところ、冠動脈は有意狭窄を認めなかったが、心筋病理所見ではリンパ球主体の炎症細胞の浸潤 (一部に脱顆粒を伴う好酸球)、心筋壊死ならびに肉芽腫性病変を認め、病理学的には肉芽腫性心筋炎であった。TnI上昇を伴う急性発症の心不全で、免疫抑制なしで自然に改善傾向を認めた肉芽腫性心筋炎であり、文献的考察とともに報告する。

P-10-04 急性心不全加療後に心筋生検により慢性心筋炎と診断した一例

汪 洋1、杉浦 純一1、石原 里美2、中野 知哉2、押田 裕喜1、竹本 泰弘1、尾上 健児2、山本 雄太1、松島 明彦1、畠山 金太3、坂口 泰弘3、堀井 学1、斎藤 能彦2

1市立奈良病院 循環器内科、2奈良県立医科大学附属病院 循環器内科、3奈良県立医科大学附属病院 病理診断学

【症例】47歳男性【主訴】労作時呼吸苦【現病歴】生来健康であった。X-5年の健康診断で心拡大を指摘されていたが、症状なく経過し医療機関受診はしていなかった。X年2月から労作時の呼吸苦を自覚するようになったが、安静で軽快していた。呼吸苦が次第に増悪したため市立奈良病院を2019年2月11日に紹介受診し、急性心不全と診断され同日入院した。心エコーで左室壁の菲薄化と左室の著明な拡大が認められ、etiologyとして拡張型心筋症が疑われた。心不全加療後に施行された冠動脈造影検査では有意狭窄は認められず、左室心内膜心筋生検が施行された。経過中、利尿薬およびβ遮断薬、ACE阻害薬、抗アルドステロン拮抗薬の導入により症状は改善し、心拡大、胸水貯留、NTpro-BNPおよび心機能の改善が認められ(EF 9.2%から17.9%)同院を退院した。心筋生検の結果、間質に主にT細胞およびマクロファージからなる炎症細胞の集簇および心筋細胞の融解・壊死像が認められ、慢性心筋炎と診断された。急性心不全による入院を契機に慢性心筋炎の診断に至った症例を経験したので報告するとともに、その診断法、管理法および治療法について考察・議論した。

Page 19: YIA-01野生型トランスサイレチン心アミロ YIA-02ピ …...CTS合併の男性が多いことが注目すべき点である。 YIA-02ピロリン酸心筋シンチグラフィ陽性

43

プログラム

シンポジウム

YIAセッション

一般演題(ポスター)

一般演題(ポスター)

P-10-05 重症筋無力症に合併し、拡張型心筋症類似のエコー像を呈した再発性心筋炎の一例

加藤 宗、飯野 貴子、佐藤 和奏、佐藤 輝紀、関 勝仁、鈴木 智人、飯野 健二、渡邊 博之秋田大学医学部大学院医学系研究科 循環器内科学講座

66歳女性。眼瞼下垂と複視を主訴に受診、重症筋無力症(MG)疑いの他、横紋筋融解症、白血球減少症など多彩な病態を認めた。AchR抗体、MuSK抗体が陰性のdouble seronegative MGと診断され、他の病態も自己免疫の関与が考えられた。入院後、非持続性心室頻拍と心不全症状が出現し、心エコー図でびまん性左室収縮性低下、求心性壁肥厚、心膜液貯留を認め、心筋生検でリンパ球浸潤を認めたことから急性心筋炎と診断した。MG合併から自己免疫の関与を疑い免疫抑制療法を施行した結果、心機能は劇的に改善し、MG症状や白血球減少症も正常化した。しかし、4ヶ月後に再び白血球減少症とともに心不全が再燃、免疫抑制療法には抵抗性であり、拡張型心筋症類似のエコー像を呈した。強心薬やIABP使用下にも病状が悪化し永眠された。剖検では心筋全体にリンパ球浸潤を認め、心筋炎再発と診断された。組織学的に心筋炎像を呈したにも関わらず、心エコー図では拡張型心筋症類似の心形態を呈した稀有な症例と考える。また、本症例では多彩な病態を説明し得る抗横紋筋抗体陽性であることが判明した。自己免疫疾患が関与した心筋炎の解明の一助になるものと考え報告 する。

P-10-06 インターフェロン制御因子(IRF)5の自己免疫性心筋炎・心筋症進展における関与

蜂須賀 正樹1、西井 基継2、中山 雅裕1、佐治 龍2、酒井 和也2、野垣 文子2、内山 宗人2、竹内 一郎2

1横浜市立大学 医学部医学科、2横浜市立大学 医学部 救急医学教室

【背景】自己免疫応答におけるIRF5の役割が最近注目されているが、慢性心筋炎・心筋症との関連は不明である。

【目的】実験的自己免疫性心筋炎モデルにおけるIRF5の発現・活性を検討した。

【方法・結果】慢性持続炎症に加え、線維化と心拡大を伴う慢性期におけるIRF5の発現をSDS PAGEによって検討した結果、IRF5の発現が持続的に認められた。さらにIRF5の活性をNative PAGEで検討したところ、その活性型である二量体が慢性期に検出された。免疫蛍光染色でIRF5の局在を検討した結果、心筋組織に浸潤したCD3陽性T細胞においてIRF5の発現亢進と、核内へのIRF5の取り込みが認められたのと同時に、自己免疫応答において重要な転写因子であるRORγの発現も持続的に亢進していた。一方でIRF5の抑制因子として注目されているLynの発現が急性期に亢進するものの、慢性期においては低下した。

【結語】実験的自己免疫性心筋炎モデルの慢性期において、心筋組織に浸潤したT細胞におけるIRF5発現および活性が亢進していた。IRF5制御因子であるLynの慢性期における発現も低下していた。Lyn-IRF5情報伝達経路は自己免疫応答による慢性持続炎症の主要な制御機序の一つかもしれ ない。

P-10-07 コクサッキ・アデノウイルス受容体(CXADR)の実験的自己免疫性心筋炎モデルにおける発現

中山 雅裕1、西井 基継2、蜂須賀 正樹1、佐治 龍2、酒井 和也2、野垣 文子2、内山 宗人2、竹内 一郎2

1横浜市立大学 医学部医学科、2横浜市立大学 医学部 救急医学教室

【背景】心筋炎と関連が深いコクサッキ・アデノウィルスに対する受容体として知られているCXADRの心筋症との関連は不明である。CXADRは免疫細胞の接着分子と結合し、免疫細胞はCXADRを通して組織に浸潤すると報告されている。

【目的】実験的自己免疫性心筋炎モデルにおけるCXADRの発現推移を検討した。

【方法・結果】Balb/cマウスにミオシン免疫を行い慢性心筋炎・心筋症の機序解明に有用な実験的自己免疫性心筋炎モデルを作成した。ミオシン免疫後42日目より全周性の線維化を伴う心拡大とともに持続的な心筋組織炎症を認めた。さらに同時期にTh17の転写因子であるRORγの発現をSDS PAGEによって認めた。興味深いことに健常心筋組織には認められなかったものの、ミオシン免疫後21日目よりCXADRの発現が認められた。その後42日目においてもCXADRの発現が持続亢進していた。また免疫組織染色でCXADRの局在を検討した結果、心筋血管内皮と炎症細胞浸潤部位において発現が亢進していた。

【結語】CXADRは自己免疫応答を基盤とした炎症の持続とそれに伴う慢性心筋組織障害において重要な役割を担っているかもしれない。