専攻科実験レポート
粉体の粒度分布と比表面積の測定
担当 清野
提出日 平成 23 年 4月 20日
1- ME 菅埜諒介
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1. 目的
粉体は多数の固体粒子の集合体であり、実験室や化学工業において使用される固体試
料・原料はほとんどが粉体である。粉体の大きさは溶解や見かけの反応速度などの物理、
化学的特性に大きな影響を与えるため、その評価は重要である。また、比表面積は粉体
の単位質量あたりの表面積であり、粉体粒子の表面の状態によって粒子径が同一でも表
面積が異なる場合が多い。粉体の化学的、物理的特性は主に表面積の増加に起因するた
め、比表面積はより的確な特性といえる。
本実験では粒度分布をレーザー回折・散乱法で、比表面積を流通式ガス吸着法で測定
し、測定法に習熟すると共に基本原理を理解して誤差の尐ない測定ができることを目的
とする。
2. 粒度分布測定
2-1 測定原理
粒子に光が照射されると粒子は光を様々な方向に散乱する。粒子の形が球の場合、光
の散乱パターンは粒子径と粒子の屈折率の関数である Mie の理論式で表される。また、
散乱光の強度は粒子の個数に比例するので、散乱パターンと強度(散乱光強度分布)を
測定すれば粒子の大きさと個数を求めることができる。空間に浮遊する1個の球形粒子
に入射した光はいろいろな方向に散乱される。散乱角θはその面において粒子の中心か
ら測った散乱方向であり、粒子がないとき進む方向を0とする。θ=0の方向の散乱を前
方散乱、θ=180 方向、すなわち光源のある方向への散乱を後方散乱という。そのパタ
ーンはフラウンホーファー回折とミー共鳴理論によって説明されている。粒子径が光の
波長に比べて十分小さいとき散乱強度は粒子径の6乗に比例し、このような散乱をレイ
リー散乱という。粒子径が波長の1 / 2 程度になると散乱強度は尐しの粒子径変化に対
しても極大極小をとりながら複雑に変化する。これをミー共鳴という。さらに大きい粒
子では散乱強度は粒子径の2乗に比例し、光の回折が支配的になる。これらの理論は非
常に複雑であり、計算も容易ではない。ちなみに、本測定に使用するレーザー光の波長
は690nm(赤色)である。
2-2 実験装置
島津製作所製、レーザー回折式粒度分布測定装置、SALD-3100型
2-3 試料
二酸化チタン試薬
2-4.薬品
ヘキサメタリン酸ナトリウム(分散剤)
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2-4 実験方法
(1) 本体のキーを回し、電源を入れる。
(2) サンプラーの操作パネル上の各スイッチを全てOFFした後、サンプラーの電源を
ONにする。
(3) プリンター、ディスプレイ、コンピュータの順に電源を入れる。
(4) winglのアイコンをダブルクリックして起動し、診断調整ボタンをクリックして光強
度のモニター画面とする。
(5) フローセルのバルブ、コック類が閉まっていることを確認し、分散槽にイオン交換
水を入れる。
(6) フローセルのポンプ速度調整つまみを3~4の位置にしてポンプをONにする。数秒
待ってポンプ速度を必要な速度まで徐々に上げてゆく。
(7) モニター画面でレーザーの照射位置が正しくセンサを指している事を確認する。照
準が狂っていたら修正する。
(8) 次いて光強度が正常範囲(最大値 < 400、平均値 < 100)であることを確認する。
正常でなければ液を交換して洗浄を繰り返す。(セルが汚れている場合もある)
(9) 粉体試料の分散液を作成する。下記実験の部参照のこと。
(10) サンプラーの攪拌機をONにして試料を攪拌しながらピペットで適当量サンプリ
ングし、分散槽に投入する。
(11) 規定時間超音波スイッチをONにする。分散性のよい試料は必要ない場合もある。
(12) パソコン画面から測定を行う。光強度が測定され、粒度分布が計算される。
(13) データを保存してから粒度分布をプリンターで印刷する。
(14) 測定が終了したら排水・洗浄を行う。このとき画面を診断調整画面とし、ポンプを
一旦OFFにしてからドレン・バルブ・ハンドルを回して排水側にし、ポンプをON
にして分散槽内の媒液が完全に出るのを待つ。
(15) イオン交換水を入れて分散槽を満たす。ポンプスイッチをONにしてフローセル配
管内を洗浄する。
(16) (14)、(15)の操作を繰り返し、洗浄する。診断調整画面の光強度が100程度まで低
下すれば洗浄完了とする。最後に分散槽を純水で満たしておく。
(17) コンピュータ、SALD3100本体、分散槽、プリンター、ディスプレイの電源をOFF
にする。
2-5 試料分散剤液の作成方法
200ml ビーカーにイオン交換水を 100ml 入れ、ヘキサメタリン酸ナトリウムを溶解
する。これに試料粉体を 0.5~1g 入れてマグネチックステーラーで 10 分間激しく撹拌
する。ヘキサメタリン酸ナトリウムの量は実験時に指示する。
2-6 実験結果
測定結果の分布の印刷結果を示す。
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2-7.整理
(1) 測定結果である光強度分布と粒度分布(分布式なし)の印刷結果を示し、積算
分布
各実験結果のデータを表1にして示す。
表1 測定結果
試料 メディアン径 モード径 平均径 標準偏差
分散剤なし 18.931 51.192 11.706 0.665
分散剤あり超音波 0.921 0.975 0.887 0.100
分散剤なしのデータは粒子径にばらつきが見られ、粒子どうしが固着していることが
分かる。よって、モード径やメディアン径の値も大きく変わっている。標準偏差も大き
い。粒度分布ではピークが2つあり、積算分布では良好なS字曲線が得られなかった。
分散剤ありのデータより、粒度分布ではピークの粒子径が、メディアン径、モード径、
平均径それぞれの値と近似した数値を得ることができた。積算分布曲線はきれいなS字
曲線をしている。標準偏差が小さいことから一様な粒子径だったと予想される。
また、超音波を当てることによって、さらに良好な粒子径が得られることが実験から
確認できた。
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(2)メディアン径、モード径、平均径、標準偏差の意味を説明する。
メディアン径、モード径、平均径の図を図1に示す。
図1 メディアン径、モード径、平均径の算出方法(日機装株式会社より)
粉体の大きさを、必ず分布で表さなければならないとすると不便であり、このため一
つの指標をもって粒度を表すことがあり、メディアン径、モード径、平均径のような指
標がよく使われる。
・モード径・・・ 出現比率がもっとも大きい粒子径チャンネル。または分布の極大値。
・メディアン径・ 俗に d50ともいい、粉体をある粒子径から 2つに分けたとき、大き
い側と小さい側が等量となる径のことです。この他に、d10、d90な
どもよく使われる。
・平均径 ・・・・ 粒度分布の平均径のこと。
・標準偏差・・・ 統計値や確率変数の散らばり具合(ばらつき)を表す数値のこと。
ばらつきがない場合、標準偏差や分散は0となる。
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3. 比表面積測定
3-1 測定原理
粉体試料の表面積は試料表面上に気体分子を単分子吸着させ、その吸着量を測定する
ことによって決定できる。数種の気体分子は吸着時に占める面積が求められているので、
吸着量から求まる分子数に占有面積をかければ表面積が求められることになる。このと
き重要なことは、表面積決定には単分子吸着に限定されることである。吸着平衡に到達
したとき、吸着速度と脱着速度は等しいことから次のLangmuir吸着等温式が成立する。
(1)
ここで :平衡吸着量、p:吸着時の圧力、V:吸着量、α:吸着・脱着速度定数の比
これを表面積算出用に変形すれば、(Vを測定して を知りたい)
(2)
p/Vを縦軸にとり、p を横軸にとってLangmuirプロットを行えばこの直線の勾配の逆
数が となる。
このLangmuir吸着理論をBrunauer、Emmett、Tellerが多分子層吸着に拡張した。
分子は吸着座の上に積み重なって吸着すると考え、平衡圧を p、飽和蒸気圧を とすれ
ば相対圧x = p / と表され、
(3)
ここで cは第1層の吸着の強さを表す。この式がBET式あるいはBET無限吸着式と呼
ばれる式である。
表面積算出用に利用しやすいように変形して、
(4)
縦軸にx / V(1-x)、横軸にxをとるBETプロットを行えば、この直線の切片と勾配か
ら と cの値を算出できる。また、切片と勾配の和の逆数が となる。
以上述べたBET法による比表面積測定のためには、尐なくとも3~4点以上の吸着量
測定が必要とされ、かなりの時間がかかる。測定値がそれほど正確でなくてもよい場合
には1点だけの測定結果から表面積を知ることができ、一定時間内に多くの表面積測定
を行うことができる。この方法は BET プロットにおいて相対圧が 0.3 付近の測定点と
原点とを直線で結び、切片を無視してその勾配の逆数を とする方法である。
すなわち、(4)式においてCが非常に大きい場合は切片が0 、勾配が1 / となること
から、
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勾配 (5)
従って、
= V (1-x) (6)
本実験に使用する装置はBET1点法で比表面積を決定するものであり、吸着、脱着時
に増減する ガスの濃度変化を TCD(熱伝導度検出器)で検出し、これを時間的に数
値積分して吸着、脱着量に換算している。
3-2.実験装置
Micromeritics社製 自動比表面積測定装置、フローソーブⅢ2305型
3-3.使用薬品等
窒素-ヘリウム混合ガス、液体窒素
3-2.試料
二酸化チタン試薬
3-5 実験方法
(1) 装置の立ち上げ
TEST位置、DEGAS位置に試料ホルダ、トラップにU字管を付け、窒素を含んだヘ
リウムガスをボンベからラインに流す。二次圧力は 0.11MPa とする。液体窒素をトラ
ップ用ジュワービンに入れ、フタをする。PATH を SHORT に合わせ、10 分待つ。電
源スイッチを入れ、30分放置する。
(2) 試料の採取
・空のセル、ゴム栓、台を組み合わせて秤量する。
・試料を約0.3g量り取り、専用ロートを使ってセルに入れる。
・再びセル、ゴム栓、台を組み併せて秤量する。
(3) 試料の脱ガス
・試料の入ったセルをセルホルダ金具に取り付け、DEGAS位置に入れる。
・このセルにマントルヒータを取り付け、TEMP SET スイッチで温度を設定する。通
常200~250℃
・設定温度で 15分間加熱したら TEMP SET スイッチを 0 にし、マントルヒータを外
して放冷する。
(4) 測定
・ディスプレイのレンジを×1とし、脱ガスが終了した試料をDEGASからTEST位置
にすばやく移す。
・測定用ジュワービンに液体窒素を入れる。
・始め、セル取付けの際に混入した空気によって不要なピークが現れる。この変化が終
わるまで待ち、積算値を消去する。
・測定用ジュワービンを持ち上げて試料セルを液体窒素に浸し、ジュワートレイを上げ
てロックする。
・窒素ガスが試料表面に吸着するため、キャリアーガス中の窒素濃度が現象する。この
変化が TCD に検出され、その結果 DET に瞬間の熱伝導度、SURFACE AREA に
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表面積が表示される。
・LEDの点滅間隔が15~20秒以下になるか、またはDETの表示値が0.02以下になっ
たとき吸着は完了する。SURFACE AREAボタンを押して吸着時の表面積値を表示
させ、記録する。
・CLEAR DISPLAYボタンを押し、表示値を消す。
・液体窒素の入ったジュワービンを取外し、室温の水道水が入ったビーカーにセルを浸
して温度を室温に戻し、放置する。
・試料に吸着した窒素分子が着脱し、これに伴う窒素濃度の増加が TCD で検出されて
表面積値となる。
・吸着、脱着時の表面積のうち、通常は脱着時の値を表面積とする。
(5) 試料質量の秤量
比表面積を求めるには脱ガス後の試料質量を測定する必要がある。そこで、TEST 位
置の試料セルを外してゴム栓をし、台に乗せて秤量する。表面積値を試料重量で割ると
比表面積が得られる。
3-6.実験結果
測定データを示す。
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3-7.整理
比表面積平均径[μm]を求める。
ここで
:粒子の密度[ kg / ]
:比表面積[ ]
=4.17×
=9.6×
= 6 / ( 4.17× ×9.6× ) = 1.50×
よって、比表面積平均径:1.50× [ m ]
なお、本装置の校正は、窒素ガス 1mL を流したときに得られる表面積値で行う。校正
値は次式で求める。
ここで、
P:大気圧[mmHg]
t:気温[℃]
:窒素分子の吸着断面積[ 分子]
:キャリアーガス中の窒素のモデル率[-]である。本実験の場合、
=16.2 × [ ]、 = 0.308である。
これよりS [ ]を求める
S = 2.71
実験結果の値「2.78」と近い値になった。
3-8.課題
1. もし、粉体が同一直径の多数の粒子からなっているとすれば、比表面積Sw[m2/g]
と粒子径 D[m]の間にどのような関係が成立するか。ただし、粉体の密度をρ
[kg/m3]とする。(N個の球の合計表面積と質量をもとめればよい)
直径Dの球の表面積Sと体積VはS=πD2、V=πD3/6
それぞれ代入して
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2. 本装置が検出できる表面はどのようなものか。
今回測定した方法は BET 法といい、粉体の表面に大きさが分かっている分子を吸着
させて表面積を測定する方法である。1点でのデータを得ることを特にBET一点法とい
う。サンプルの例として無孔性のフィルム、繊維などが可能。吸着する分子は窒素ガス
が一般的。
図2 等温線図(ベックマン・コールターHPより)
しかし、測定できないサンプルもある。
等温線図とは、圧力を変化させ、そのときの吸着量を測定し、横軸に相対圧、縦軸に
吸着量をプロットしたものを指す。このグラフの形がⅡ型のものが、BET型と呼ばれ、
多分子層を形成する物理吸着の等温線である。細孔が存在しないか、またはマクロ細孔
(直径50nm以上)の存在を示している。このような形でなければ良好な測定結果が得
られない。
しかし、Ⅲ型のものはBET一点法では測定が行えない。Ⅱ型と同様に多分子層吸着
に適用される物理吸着の等温線である。細孔が存在しないか、マクロ細孔の存在を示し
ているからである。