上級管理会計⑦在庫管理・生産管理のための管理会計
在庫管理と生産管理の意義• 在庫管理生産・販売活動が有効かつ効果的に実行できるように,在庫の適正水準を計画,組織化し,統制すること。
☞棚卸資産として企業に滞留していても収益を生まない。 計画的な在庫管理が必要となる。
• 生産管理生産管理を計画,組織化し,その活動を統制していくこと。
☞生産活動の結果生じるアウトプットと原価との対比を 通じて,生産活動の能率や有効性を測定する。
• 経済的発注量分析在庫関連コスト:発注費と在庫管理費
• 発注費:仕入部門に集計される部門費1回あたりの発注数量が大きくなれば,発注回数は減少!発注費は減少する。
• 在庫管理費:倉庫に関連する諸費用1回あたりの発注数量が大きくなれば,1回に搬入される在庫数量は増加する。!在庫管理費は増大する。
伝統的在庫管理の手法
在庫管理を適正に行うための適正な発注量は?
• 経済的発注量(Economic Order Quantity:EOQ)A:年間必要在庫量 S:1回あたり在庫発注費i:在庫1円あたりの在庫管理費C:在庫1単位あたりの取得原価n:1回あたりの発注数量
伝統的在庫管理の手法
発注費 = A
nS 在庫管理費 = Ci
2n
• これを縦軸に在庫費用,横軸に発注1回あたりの発注数量をプロットすると,下記の図が描ける。
伝統的在庫管理の手法• 経済的発注量:発注費と在庫管理費の交点である。
伝統的在庫管理の手法
A
nS
Ci
2n=
Ci
2n2 = A S
n2 =Ci
2 A S
n "Ci
2 A S=n > 0なので
• 生産システムと組織構造の問題複数の組織で複数の製品を生産する組織において,どの組織が何を生産するかを考えるには以下のようなパターンがある。!組織は分けることができても,そこで生産する製品を複雑に 組み合わせると調整に時間がかかる。
生産管理の基本的な考え方• 分業特定の製品の製造に必要な作業をいくつかの工程に分け,それを複数の作業者で分担して,各作業者が同じ作業を繰り返し行うことで生産効率を向上させる。
生産管理の基本的な考え方
!ライン生産 分業した工程に対して上流工程から下流工程まで一定の速さで 仕掛品を流しながら,各工程で一斉に作業を行う。
• ライン生産を理解する基礎概念①リードタイム:製品の製造開始から生産完了までの工程に要する時間②サイクルタイム:工程において一巡の作業を完了する時間③タクトタイム:製品を算出する時間間隔
• 実際には工程によってサイクルタイムが異なるので,滞留時間や手持ち時間を減らす工夫が必要になる。!材料・仕掛品が動かない,人の手が止まっていては何も価値を 生み出さない。 ボトルネックの前工程が作業を進めているにもかかわらず, ボトルネック工程の作業が遅れているために仕掛品在庫が溜まる。
生産管理の基本的な考え方
☞ ボトルネックを作らないための同期化が必要になる。
• ドラム・バッファー・ロープという考え方隊列の行進を乱さないようにするための工夫!ボトルネック工程における処理計画と投入計画を同期化させることで, 工程全体の速さを統制し,余分な仕掛品在庫の発生を防ぐ。
ジャスト・イン・タイム生産
• 制約理論(TOC:the theory of constraints)とは?製造業における目的をキャッシュを生み出すことであるとし,キャッシュを生み出す際に生じている制約を排除することを目的とする。1980年代,ゴールドラットによって提唱された生産管理手法(『The Goal』)
• 制約理論における3つの概念①スループット:システムがキャッシュを生み出す速度②業務費用 :在庫をスループットに変換するのに要した キャッシュ③在庫 :システムに止まっている貨幣
制約理論とスループット会計• スループット最大化のための5つの法則
JIT生産と新しい原価計算
①システムの制約条件を認識すること工程1
110個/時工程2
120個/時工程3
80個/時工程4
150個/時生産量
80個/時
制約条件
②制約条件の活用法を決定すること
工程1
110個/時工程2
120個/時工程3
100個/時工程4
150個/時生産量
100個/時
制約条件
JIT生産と新しい原価計算③他の全ての部分をこの決定に従わせること工程1
100個/時工程2
100個/時工程3
100個/時工程4
100個/時生産量
100個/時
制約条件工程3と同期化させる
④制約条件部分について改善を加えること工程1
110個/時工程2
110個/時工程3
110個/時工程4
110個/時生産量
110個/時
工程3の能力up
⑤新たな制約条件を見つける
JIT生産と新しい原価計算
• 制約理論における3つの概念①スループット(throughput cotribution) システムがキャッシュを生み出す程度 スループット= 売上高 ! 直接材料費!直接原価計算に似ているが,スループット会計での 変動費は材料費のみと考える。②業務費用(operating cost) 在庫をスループットに変換するのに要したキャッシュ 利益 = スループット ! 業務費用③在庫
• スループット会計のミソ①スループットを増加させ,業務費用を削減し,在庫を減少 させることが,利益(ないしはキャッシュ)を最大化させる ことにつながる。②直接原価計算の発展形態としての位置づけ
JIT生産と新しい原価計算
売上高変動費貢献利益固定費営業利益
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売上高直接材料費スループット業務費用営業利益
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• ジャスト・イン・タイム方式生産を開始するときに,原材料(前工程完成品)が各生産現場に到着する生産システム
• 基本概念:必要な物を,必要な時に,必要な量だけ作る
ジャスト・イン・タイム生産
☞ 生産数量をできるだけ平準化するためにムダを排除
• 例:トヨタ自動車(配布資料参照)造り過ぎのムダ,手持ちのムダ,運搬のムダ,加工そのもののムダ,在庫のムダ,動作のムダ,不良を作るムダ
• プッシュ型か,プル型かプッシュ型生産システム:前工程で完成したら次工程へ送り出す。プル型生産システム(カンバン方式): 後工程が必要なモノを前工程に取りに行く。
• カンバン方式:プル型生産システムを効率化するための道具立て
ジャスト・イン・タイム生産
☞ 経営戦略と生産計画の整合性が重要
ジャスト・イン・タイム生産
• カンバン方式のポイントできるだけ短い期間の販売予測に基づいて生産量を決め,製品を納入する予定日に生産が完了する計画を立てる。
• カンバン方式の模式図
• ムダを減らすための活動としてのカイゼン(改善)活動2種類の改善 ①原価改善,②異常発生時の対応5S 整理・整頓・清掃・清潔・しつけ
• 総合原価計算月初仕掛品原価と当月の製造費用を,月末仕掛品と完成品に配分する。!しかし,在庫が少なくなると総合原価計算の重要性は低くなる。
• バックフラッシュ・コスティング材料の購入から完成品の販売までサイクルに関連する記帳のいくつか,あるいは全てを排除する原価計算システム
• バックフラッシュ・コスティングの意義と目的JIT生産方式の理想は 生産量=販売量 であり, 製造原価=売上原価製品原価を段階を経て計算しなくても,かかった原価をすべて売上原価勘定に振り替えるだけで原価計算が可能になるという考え方
JITに対応する新しい原価計算
• 例題解答①期末在庫が無い場合一般的な原価計算では製造工程に従って,原料の購入!消費!仕掛品!製品!売上原価を把握するが,JIT生産方式ではこの流れを把握する必要はない。バックフラッシュ・コスティングでは,原料の購入!売上原価としてしまう。
(仕訳)
!! 原料の購入 売上原価 1,000,000 / 買掛金 1,000,000
加工費の発生 売上原価 500,000 / 加工費 500,000
JITに対応する新しい原価計算
• 例題解答②期末在庫が残る場合バックフラッシュ・コスティングでは,当期の製造費用全額を売上原価勘定へチャージし,期末になって在庫分を売上原価勘定から原料,仕掛品,製品勘定へそれぞれ差し戻す。したがって,これらの勘定は期末有高のみを示すため,期末原料勘定,期末仕掛品勘定,期末製品勘定と同じだと考えて良い。なお,次期においては,これらの期末有高を売上原価勘定へ戻すことになる。(仕訳)原料の購入 売上原価 1,000,000 / 買掛金 1,000,000
加工費の発生 売上原価 496,250 / 加工費 496,250
期末在庫品の計上 原料 5,000 / 売上原価 18,750
仕掛品 6,250 / 製品 7,500 /
JITに対応する新しい原価計算