無線アドホックネットワークにおける ループフリーな動的メトリック変更による 通信の高信頼化
吉廣卓哉 和歌山大学システム工学部 [email protected]‐u.ac.jp
ICTイノベーションフォーラム2012 1
発表概要
• 無線アドホックネットワークにおける 一時的なループ削減手法の提案と評価 – 対象:プロアクティブ型経路制御スキーム – 2つの提案手法
• LLD (Loopfree Link Dura?on) • LMR (Loopfree Metric Range)
– 理論的結果 – シミュレーション評価 – 実機評価 (LMRのみ)
ICTイノベーションフォーラム2012 2
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研究の背景
• WMN(Wireless Mesh Network) – 固定基地局を無線で網状に接続したネットワーク – 次世代の無線インフラ技術として注目されている
AP(Access Point)
Gateway
インターネット
MANETにおけるプロアクティブ型経路制御
• 最短経路に沿ったパケット転送 • プロアクティブ型の経路制御プロトコル
– 各ノードが隣接ノードを広告し、ネットワークトポロジを把握 – 各ノードがネットワークトポロジ上で最短経路計算
情報交換 1.トポロジを把握 2.最短路を計算
d
1 1
1
d 1
1
1
7
動的なメトリック変更による経路制御
• 動的メトリック (ex. ETX, ETT) – 品質の良い経路を選択するために、無線リンクの品質を数値化 – 通常、最短路計算によりメトリックの和が最小の経路を選択 – 動的にリンク品質が変わる状況で、常に良い経路を選択できる
無線網(メトリックなし) 無線網(動的メトリック変更あり)
(metric: 10)
10
5
10
50 (ノイズを検出し Metric上げる)
品質が不安定・・・ 安定した!
8
経路ループ問題 • メトリックの伝播遅延により、一部ノードで古いメトリック値が使われる • 各ノードが持つ経路表が一貫性を欠くことで、経路ループが生じる。
• ループは輻輳や通信切断を起こし、通信の信頼性を著しく損なう • 安定通信を実現するためには、ループを防止することが重要
A B
C
1 1
1 A B
C
1 A B
C
3 3
1
(a)Initial State (b)Intermediate State (c)Final State
1→3 1→3
looping
ループ削減のための既存研究
• ループパケットの検出と破棄 [Speakman et al ‘09] – 最大で数十%程度のスループットの向上 (欠点) – ループは防げるが、ループパケットは宛先に到達しない – 3ホップ以上のループを防ぐためには大きなオーバーヘッド
9
本質的な解決として、やはりループを防ぎたい
研究課題の目的
低いオーバーヘッドでループを防止/削減したい
ICTイノベーションフォーラム2012 10
無線メッシュ網において通信の信頼性を確保
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提案手法1: LLD • メトリック変更手法LLD (Loop-free Link Duration)
– 安定な接続を続けるほど低くなるメトリックを用いた最短経路を計算 – 経路ループ問題が起きないことを保証
• リンク l の経過時間 t におけるメトリックの推移式
0
200
400
600
800
1000
0 2000 4000 6000 8000 10000 12000 14000時間[min]
コスト
長時間接続するほどリンクは安定
c に収束 c
吸吟呁吚吆
a+cが初期値 a:全リンクで共通 b:全リンクで共通 (0<b<1) c:各リンク毎に固有
cabl tt +=)(!
t=1 メトリック=1024
t=1 メトリック=1024
t=1 メトリック=1024
t=1 メトリック=1024
t=2 メトリック=512
t=2 メトリック=512
t=2 メトリック=512
t=2 メトリック=512
t=3 メトリック=256
t=3 メトリック=256
t=3 メトリック=256
t=3 メトリック=256
t=4 メトリック=128
t=4 メトリック=128
t=4 メトリック=128
t=4 メトリック=128
切断
t=5 メトリック=64
t=5 メトリック=64
t=5 メトリック=64
t=6 メトリック=32
t=6 メトリック=32
t=6 メトリック=32
復帰
t=0 メトリック=2024
t=7 メトリック=16
t=7 メトリック=16
t=7 メトリック=16
t=1 メトリック=1024
t=2 メトリック=512
t=8 メトリック=8
t=8 メトリック=8
t=8 メトリック=8
切断 復帰
t=9 メトリック=4
t=9 メトリック=4
t=9 メトリック=4
t=0 メトリック=2024
t=10 メトリック=2
t=10 メトリック=2
t=10 メトリック=2
t=1 メトリック=1024
t=11 メトリック=1
t=11 メトリック=1
t=11 メトリック=1
t=2 メトリック=512
S G
LLDの経路
従来の経路
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LLDの経路制御プロトコル • 全リンクの時間に対するメトリックの変化割合を一定にする必要がある
– リンクの生成時刻を広告 – 一定時間tを経過する度にメトリックを更新し、経路表を再計算する
• 同期メッセージ – 一定時間ごとに同期メッセージをブロードキャスト – 同期メッセージを受け取ったノードはメトリック及び、経路表を再計算する – メトリックを定期的に広告する必要がなく、オーバーヘッドが低い
①同期時間にノードが気付く
②気付いたノードが 同期メッセージをブロードキャスト
③時間の同期がなされ、tが更新され、 メトリックの再計算が行われる
!
!
!
!
!
!!
!
LLD: 理論解析
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0
200
400
600
800
1000
0 2000 4000 6000 8000 10000 12000 14000時間[min]
コスト
長時間接続するほどリンクは安定
c に収束 c
吊吐吟
a+cが初期値 a:全リンクで共通 b:全リンクで共通 (0<b<1) c:各リンク毎に固有
cabl tt +=)(!
LLDのメトリック推移式
リンク切断が起こらず、同期が崩れないと仮定する。このとき、ループが発生しないことを保証できる同期間隔tの上限が存在することを示した。また、上限値を計算するアルゴリズムを示した。
証明した理論的結果
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シミュレーション実験
• Qualnet ver 4.5 を用いたシミュレーション評価を実施
• LLDは安定経路を優先利用し品質を向上させる – 安定な経路を含むネットワークでの性能を評価する – 固定ノードの間の経路は安定に接続する
• 固定ノードと移動ノードが混在するシナリオを作成
固定ノード
移動するノード
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シミュレーションシナリオ
1200m
1200
m 200m
• シミュレーションフィールド 1200m×1200m • 固定ノード:25個 • 移動するノード:25個
• リンクの通信帯域 2Mbps • ノードの通信距離 250m
• 固定ノード間の距離 200m
• 移動ノード間にランダムに通信発生 • UDPによる通信 • パケット送信レート 10kbps • a=1000,b=0.9,c=1
250m
l シミュレーションシナリオ 2Mbps
10kbps
固定ノード
移動するノード
• シミュレーション時間60分 • 時間同期間隔1分 • 試行回数4回の平均で評価
• 移動モデル: RWPモデル, 5km/h
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シミュレーション結果: パケット到達率
• 通信本数を変化させてパケット到達率を比較した
• LLDは既存の方式HOPよりも高い到達率が発揮できた • 通信本数が増えると電波の干渉が増えるためリンク切れが 多発し、LLDとHOPの到達率の差が低くなった
0
10
20
30
40
50
60
70
80
1 2 4 6 8 10 12
通信本数(本)
パケット到達率(%)
LLD HOP ※ HOP: メトリック無し
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提案手法2:LMR • LMR (Loop-free Metric Range)
– 一つ前の値に対する最新メトリック値の範囲を伸張係数 r > 1 で制限 – メトリックの変動を緩やかにすることで、ループを防止/削減 – 既存のメトリック法に適用できるので、応用範囲が広い
単位時間あたりの メトリックの変動を抑制
r –t’ mt ≦ mt+t’ ≦ r t’ mt
新しいメトリック
時刻 t の古いメトリック
Link
met
ric
time
r
r
r
r
: base metric : LMR metric
理論的結果 (LMR)
20
定理: リンク切断と制御メッセージの損失が生じないと仮定する。あるループを考えたとき、そのループが生じないことを保証できる伸張係数 r の上限は次の式で与えられる r ≦ K1/w where K=
w= ホップ数を基にしたネットワークの直径
Σ dist(nk →d) Σ metrics in the loop
Kの最小値が、いかなるループも 生じないrの値を与える
実用的な r の値 • ネットワークの直径w=10, メトリックの最小値Mmin=1, 最大値Mmax=5 とした場合、 ループフリーを保証できるrの値は r =1.002 実用するには小さすぎる
• しかし、理論的結果によると、rが比較的大きくても、rが小さいほどループが生じる可能性は低減する。
• rの値によるループ削減効果を測るためシミュレーション実験を実施
21
22
シミュレーションシナリオ • Qualnet 4.5を用いたシミュレーション • フィールド 1500×1500
– 固定ノード25個を格子状に配置 – 各ノード間300m
• リンク帯域2Mbps • 各対角線に通信を発生
– CBR通信:20kbps~80kbps – FTP通信 – 1パケットサイズ512byte – 5分間の通信
• 方式 – ETX、ETX+LMR 1.01~1.50
• 反復回数30回 • 実験結果には平均の値を使用
1 2 3 4 5
11 12 13 14 15
6 7 8 9 10
16 17 18 19 20
21 22 23 24 25
通信A:25→1 通信B:21→5
通信C:5→21 通信D:1→25
A B
DC
23
シミュレーション結果1:通信レート変動 • ループパケット数と総スループットの関係
伸長係数1.01 ループパケット数と総スループット
0
200
400
600
800
1000
20kbps 30kbps 40kbps 50kbps 60kbps 70kbps 80kbps
ビットレート
ループパケット数
0
50
100
150
200
250
300
総スループット
(kbps)
ETX_ループパケット数
LMR_ループパケット数ETX_総スループット
LMR_総スループット
LMRはループ発生を格段に抑制し、 その結果スループットも向上
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シミュレーション結果2:伸長係数変動
• ループパケット数と総スループットの関係
CBR通信40kbps ループパケット数と総スループット
0
10
20
30
40
50
60
70
LMR_1.01
LMR_1.02
LMR_1.05
LMR_1.10
LMR_1.20
LMR_1.30
LMR_1.40
ETX
ループパケット数
156
156.5
157
157.5
158
158.5
159
159.5
総スループット(kbps)
ループパケット数
総スループット
伸長係数rを低くすることによりループを抑制し、総スループットを向上
伸長係数r=1.01の場合ループパケット数はETXの
約1/15に
• PC:Dinabook SS RX2 SG120E/2W • OS: ubuntu 11.04 • NIC: NEC WL300NU-‐AG
– インフラストラクチャモードとアドホックモードが使用可能 – IEEE802.11aの5Ghz帯が使用可能
• ルーティングデーモン:olsrd 0.6.1 – リンク状態型経路制御OLSRを利用するためのデーモン – 0.6.1はubuntu11.04のソフトセンターに登録されているバージョン
– 改造してLMRを追加実装 25
実機端末の実装
• olsrdはOLSRに基づいた経路制御デーモン – OLSR(Op?mized Link State Rou?ng)[3]はリンク状態型経路制御プロトコルである
– 動的メトリックとしてETXが実装されている
• ETXによるメトリック変動を抑制するようにLMRを実装した
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olsrdの改造
• 和歌山大学システム工学部A棟5階に端末6台を設置 • 使用帯域:IEEE802.11aの48チャンネル(5.2Ghz帯)
– 2.4Ghz帯は電波干渉に弱く、学内でも広く使われている • 送信レート:6Mbps • 経路制御にはOLSRを使用
– Helloパケットの連続損失10回を切断とするように設定を変更
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ネットワークの構築
506研究室 505研究室
ゼミ室
システム工学部A棟 5F
教員室
a
b
• 発生させるトラフィック – 送信端末、受信端末:端末aからb、 bからaの双方向 – パケットジェネレータ: iperf 2.0.5 – 通信の種類:500kbps CBR通信 – プロトコル:UDP – パケットサイズ: 78バイト
• 比較手法(21回ずつ実施) – hop数による経路制御 – ETX – ETX+LMR(r=1.03, 1.05, 1.10, 1.20)
• 各通信の間には、5分間の待機時間を設定 28
実験シナリオ
a
b
500Kbps 双方向通信
実験結果:ループパケット数
• LMRの伸張係数rが適度な値のとき、ループパケット数が最も少なくなった
ICTイノベーションフォーラム2012 29
0
200
400
600
800
1000
1200
1400
1600
1800
2000
Hop r1.03 r1.05 r1.1 r1.2 r1.3 r1.4 ETX
ループパケット数
実験結果:スループット
• LMRのスループットが最も良い値を示した
ICTイノベーションフォーラム2012 30
0
20
40
60
80
100
120
140
160
Hop r1.03 r1.05 r1.1 r1.2 r1.3 r1.4 ETX
スループット[Kbp
s]
考察と今後の課題 • LLD, LMRともにループ削減効果が認められる。 • しかし、通信負荷が上がると輻輳が発生し、これがリンク切断を引き起こす。
• リンク切断により経路が変更されるときにループが生じる。このループは提案手法では扱えない。
• 高負荷でもリンク切断を防げる輻輳制御手法との併用が必要
ICTイノベーションフォーラム2012 33
通信負荷
ループ発生確率
リンク切断発生確率
高
高
高
低
低
低
まとめ
• 成果 – 無線メッシュネットワークにおけるループ削減手法LLD及びLMRを提案した
– ループ防止性能に関する理論的根拠を与えた – シミュレーション実験及び実機実験の結果、ループ削減性能を確認した
• 今後の課題 – 高負荷時にもリンク切断を発生させない輻輳制御手法を開発し、併用すること
ICTイノベーションフォーラム2012 34