寒地土木研究所月報 №801 2020年2月 � 37
1.はじめに
写真-1は1993年釧路沖地震によって十勝川の統内築堤が被災した状況である1)。崩壊の要因は佐々木2)�
による被災後の調査や被災メカニズムに関する当研究所の遠心力模型実験3)から、地下水位以下の泥炭内に飽和した盛土が液状化したと推測された。釧路沖地震では河川堤防だけでなく、道路盛土でも被災していたことが報告されている3)。一方、最近の北海道では2018年に北海道胆振東部地震が発生し、今後も高い確率で大規模地震の発生が予想されている。その一つが千島海溝沿いの地震活動であり、十勝沖から択捉島沖で今後30年以内にM8.8程度以上の地震が発生する確率は最大40%と報告されている4)。このため、上記の事象に対する予防保全の一環として、地下水位以下に沈埋した盛土に対する液状化の有無を短時間でかつ経済的に判定可能であれば、長大な延長を管理する河川や道路管理者の予防保全策として寄与すると考えられる。本稿は、泥炭に沈埋した地下水位以下にある盛土の液状化の有無を簡易に判定する調査法の妥当性について、泥炭性軟弱地盤上に構築された北海道内の一般国道盛土3箇所を対象に、従来の液状化調査手法と比較および検証した結果である。
2.PDCとは
Piezo�Drive�Cone(ピエゾドライブコーン、以下、PDCという)は、小型動的コーン貫入試験(以下、ミニラムという)に間隙水圧を計測できる装置を兼ね備えた原位置試験で、地盤の液状化強度を簡易に把握できる調査法5)、 6)である(図-1)。PDCは圧力センサーが内蔵された先端コーンをハンマーの打撃で地盤内に貫入させる際、1打撃ごとに先端ロッドの貫入量dを測定していることから、式1)を用いてPDCの1打撃当たりの貫入量とミニラムの20cm貫入に要する打撃回数(Ndm値)の関係を求められる6)。
dNdm
20 1)
ここに、Ndm:ミニラムの20cm貫入に要する打撃回数(回)、d:PDCによる1打撃当たりの貫入量(cm)とする。ミニラムの20cm貫入に要する打撃回数から標準貫入試験(以下、SPTという)のN値に相当する地盤の動的貫入抵抗Nd値(以下、Nd_pdcという)を式2)、式3)より評価することが可能である7)。
砂質土の場合 dmNdN 21
2)
粘性土の場合 rdmd MNN 16.021
3)
ここに、Nd:ミニラムによって得られる換算N値,Ndm:ミニラムの20cm貫入に要する打撃回数、Mr:回転トルク(N・m)とする。また、貫入時に計測された間隙水圧の応答(累積間隙水圧比=uR/σv’、uR:残留間隙水圧、σv’:有効上載圧)から細粒分含有率Fcを深度方向に連続して推定することが可能である(図-2)。澤田ら8)はこれらの関係を経験的に導き出しており、式4)の近似式が成り立つとしている(図-3)。
'/18 vRucF 4)
技術資料
泥炭に沈埋した盛土に対する簡易な液状化調査法の適用性に関する検討
橋本 聖 畠山 乃 林 宏親 青木 卓也
写真-1 �1993年釧路沖地震における河川堤防
(十勝川統内築堤)の被災状況1)
38 寒地土木研究所月報 №801 2020年2月
(a)試験装置全体概要図 (b)先端コーンの写真と構造図
図-1 PDC 試験装置の概要図 6) 図-1 PDC試験装置の概要図6)
i
打撃回数
0
i+1 i+2 i+3
R(i)R(i+1) R(i+2)
R(i+3)
図-2 残留間隙水圧uRの概念図6)
0 2 4 6 8 100
20
40
60
80
100
累積間隙水圧比 (uR / 'v )
室内試験から求めた細粒分含有率
FC la
b
F C =18・
(u R /
' v
)
G S Fs ML MH CL CH Pt
地盤材料の工学的分類
粘土
シルト
砂
礫
礫
砂シルト
粘
土
(%)
図-3 累積間隙水圧比(uR/σv’)と細粒分含有率Fcの関係6)
START
単位体積重量
(γt)の仮定
N値
全上載圧 (σ )有効上載圧 (σ' v )
地下水位(GWL)
累積間隙水圧( uR )
累積間隙水圧比( uR /σ' v )
液状化強度(R)
貫入抵抗
Nd 値
土質分類細粒分含有率
(Fc )
深度
仮定したγt と
評価されるγt
が概ね一致
END
単位体積重量
(γt ) の評価No
Yes
PDC計測データ
: 計測される値
: 評価する値
: 計算する値
凡例
図-4 PDCによる液状化判定手順6)
寒地土木研究所月報 №801 2020年2月 � 39
PDCの液状化判定手順を図-4に示す。本稿の液状化判定法は『道路橋示方書・同解説V耐震設計編9)』(以降,道示とする)に準拠したFL法であることから、液状化判定には単位体積重量γt、N値、Fcおよび地下水位GWLと塑性指数Ipが必要である。このうち、PDCではN値(=Nd_pdc)、FcおよびGWLを得ることが可能である。γtはPDCでは評価できないため仮定値を設けて計算を行い、必要に応じてγtを修正して再計算を実施する。Ipは液状化対象層の設定に必要であるが、PDCではIpを評価できないため、PDCによる液状化対象層の決定は、便宜上、Fcが50%未満の土層をすべて液状化判定の対象層とみなしている。以上より、条件付きではあるがPDCで得られるN
値(=Nd_pdc)とFcにより、道示をはじめとする各種構造物の設計指針などに示された液状化判定が可能となる。
3.調査概要
3.1 調査目的
本研究では、地下水位以下にめり込んだ盛土を対象に以下の3つの方法で液状化判定を行い、PDCがこのような盛土状態の液状化判定に活用できるか検討した。調査箇所は泥炭性軟弱地盤上に構築された一般国道の既設盛土3箇所で実施した。① �物理試験やサウンディングで得たパラメータ(Fc、N値、σv’)を用いて道示で整理(以下、道示の簡便法)
② �繰返し三軸強度比(RL)を用いて、道示で整理(以下、道示の詳細法)
③ �PDCで得たパラメータ(Fc,Nd_pdc値)を用いて道示で整理
3.2 一般国道275号の調査概要
図-5は一般国道275号(以降、R275とする)月形町KP=41.62km付近の盛土および土層横断を示している。また、表-1はR275と後述する美原の不飽和部と飽和部の盛土の物性値である。R275の土層構成は既往の調査資料より、盛土横断方向L側は堅固なDc~Dg(砂質シルト~礫質)が厚く堆積し、R側では表層がAc1(シルト)でその下はAp(泥炭)であり、Apは盛土法尻から離れるに従って厚く堆積している。R側盛土は低盛土のために繰返し作用する交通荷重で盛土が沈下し、それに伴って頻繁に舗装面にクラッ
クが発生して定期的にオーバーレイが実施されていた。舗装は盛土より荷重が重いために繰返し実施されたオーバーレイで、相当量の盛土が地下水位以下の泥炭にめり込んでいると思われる。調査はまず、盛土の性状や盛土厚を把握するため、PDCの調査孔近傍にてハンドオーガーによる簡易ボーリングを実施した。その後、盛土法肩からSPT、PDC(PDC-1)を行った。調査深度は盛土法肩では5mである。調査はBk1(盛土)下のAp(泥炭)層厚が明らかになるまで実施した。サンプリングは盛土法肩からGL-1.00~1.90m(不飽和部)、GL-2.65~3.80m(飽和部)の位置でトリプルチューブサンプラーを用いて乱さない試料を採取し、表-1に記載した物理試験と力学試験を実施した。�
3.3 一般国道337号美原道路の調査概要
図-6は一般国道337号当別町美原道路(以下、美原
不飽和部 飽和部 不飽和部 飽和部
(調査深度)m (1.00~1.90m) (2.65~3.50m) (6.00~7.00m) (8.50~9.50m)
湿潤密度ρ t(g/cm3) 2.059 2.054 1.861 1.987乾燥密度ρ d(g/cm3) 1.735 1.719 1.511 1.596土粒子の密度ρ s(g/cm3) 2.713 2.747 2.702 2.692自然含水比w n(%) 16.9 17.7 14.3 21.3間隙比e 0.567 0.602 0.788 0.688礫分(%) 35.6 33.8 0.1 0砂分(%) 40 41.5 66.8 64.7シルト分(%) 14.7 16.7 25.5 28.7粘土分(%) 9.7 8 7.6 6.6最大粒径mm 37.5 19 4.75 2均等係数U c 194.5 184.4 15.1 12.8D20(mm) 0.0389 0.0385 0.0258 0.0284細粒分含有率F c (%) 24.4 24.7 33.1 35.3液性限界w L(%) 36.6 50.3 30.1 31.2塑性限界w p(%) 19.4 24.3 19.1 21塑性指数I p 17.2 26 11 10.2地盤材料の分類名
粘性土質礫質砂 粘性土質礫質砂 粘性土質砂 粘性土質砂
分類記号 (SCsG) (SCsG) (SCs) (SCs)試験方法 A-a A-a A-a A-a最大乾燥密度ρdmax(g/cm3) 1.921 2.03 1.671 1.678最適含水比w opt(%) 12.7 11.3 17.3 17.1液状化強度比R L20 - 0.380 - 0.361
調査箇所R275 美原
表-1 R275および美原の盛土物性値
図-5 一般国道275号の調査箇所土層横断図
40 寒地土木研究所月報 №801 2020年2月
という)KP=51,600付近の盛土および土層横断を示している。既往の調査結果より、調査箇所の軟弱地盤は表層部が未分解のAp1(泥炭)でその下にAc2(シルト)、Ap2(泥炭)、Ac3(シルト)が続いている。盛土の施工は平成19年12月下旬に所定の盛土高さまで構築され、盛土開始から2年後の盛土中央部の沈下量は4.49mに達していたことが確認された。美原ではR275と同様に盛土の性状や盛土厚を把握するため、先行的に土質ボーリング(φ=66mm)を実施し、その後、盛土法肩よりSPT、PDCを行った。調査深度は盛土法肩では12mである。盛土内水位は盛土の深い位置にあるため、先端コーン内の間隙水圧計の破損を避けるべく、盛土法肩からGL-7.00mまで間隙水圧計を内蔵しない先端コーンで計測し、それ以下ではPDCの先端コーンに付け替えて盛土下のAc2(シルト)まで貫入した。ボーリングは盛土法肩からGL-6.00~7.00m(不飽和部)、GL-8.50~9.50m(飽和部)の位置でトリプルチューブサンプラーを用いて乱さない試料を採取し、表
-1に記載した物理試験と力学試験を実施した。
3.4 深川留萌自動車道の調査概要
図-7は深川留萌自動車道(以下、深川留萌道という)KP=8,600付近の盛土および土層横断を示している。調査箇所の軟弱地盤は表層部ではAp(泥炭)、その下にAg(砂礫)で構成される。盛土は不均一な礫混じり火山灰質砂(SV-G)、その下のサンドマットは粘性土混じり礫質砂(SG-Cs)が厚さ0.8mにて施工された。必要盛土厚はHt=9.5mで盛土中央部の沈下量は2.5mと推定された。深川留萌道ではR275や美原の調査と同様に盛土の性状や盛土厚を把握するため、先行的に土質ボーリング(φ=66mm)およびSPTを実施した。その後、盛土法肩よりPDCを行った。調査深度は盛土法肩では17mである。盛土内水位は盛土の深い位置にあるため、盛土法肩からGL-7.00m(PDC-1)、GL-9.50m(PDC-2)まではボーリングで削孔し、それ以下はPDCを用いて盛土下のAg(砂礫)まで貫入した。乱さない試料の採取は図-7に記載のボーリング位置のGL-4.00~5.00m(不飽和部)、GL-7.00~7.90m(飽和部)でトリプルチューブサンプラーを用いて行い、表-2に記載されている物理試験と力学試験を実施した。
図-6 美原道路の調査箇所土層横断図
図-7 深川留萌自動車道の調査箇所土層横断図
不飽和部 飽和部
(調査深度)m (4.00~5.00m) (7.00~7.90m)湿潤密度ρ t(g/cm3) 1.719 1.818乾燥密度ρ d(g/cm3) 1.225 1.357土粒子の密度ρ s(g/cm3) 2.643 2.568自然含水比w n(%) 40.4 34.3間隙比e 1.159 0.903礫分(%) 16.9 12.3砂分(%) 39.6 51.4シルト分(%) 26.5 19.9粘土分(%) 17 16最大粒径mm 19 19均等係数U c - -D20(mm) 0.00721 0.0852細粒分含有率F c (%) 43.5 36.3液性限界w L(%) 69.8 56塑性限界w p(%) 35.4 25.1塑性指数I p 34.4 30.9地盤材料の分類名 火山灰質礫質砂 礫混じり火山灰質砂
分類記号 (SVG) (SV-G)試験方法 A-c A-c最大乾燥密度ρdmax(g/cm3) 1.324 1.497最適含水比w opt(%) 31.9 23.4液状化強度比R L20 - 0.361
調査箇所深川留萌道
表-2 深川留萌自動車の盛土物性値
寒地土木研究所月報 №801 2020年2月 � 41
4.調査結果および考察
4.1 N値とNd値の比較
図-8は各調査箇所の盛土法肩で得られたN_sptとNd_pdcの深度分布である。土層区分はプレボーリングに基づいて評価した。凡例のWL_pdcはPDC試験後の試験孔による地下水位、WL_borはボーリング孔の地下水位で手動計測の結果である。
図-8をみると、N_sptとNd_pdcの相関は概ね調和的であるが一部、盛土と泥炭の境界付近(美原_GL.-10.25m)や泥炭の一部(深川_GL.-9.5m前後)ではNd_pdcはN_spt
と比較して相対的に低い値であった(図-8�b)、c))。SPTとPDCで得られた先端抵抗の差異は、単なる泥炭に含有する繊維分や含水比の多少かは不明確であり、これらの評価は今後の課題である。
4.2 粒度試験とPDCによる細粒分含有率の比較
図-9は盛土法肩で実施したSPTのレイモンドサンプラーで採取した試料による土の粒度試験とPDCで得られた細粒分含有率Fcの深度分布である。PDCで得た細粒分含有率はFc_pdc、土の粒度試験で得た細粒分含有率はFc_JISとする。図では土の粒度試験を実施した深度の位置を●(赤丸)で示す。R275と美原では盛土内における土の粒度試験は1箇所、深川留萌道の盛土では6箇所(評価対象は3箇所)実施した。PDCで得たFc_pdcの深度分布に着目すると、R275(図
-9�a))では盛土内GL.-2.36~-3.77mの範囲でFc_pdc=0~50%程度の幅広い値が確認された。また、美原(図
-9�b))をみると、同じく盛土内GL.-8.45~-9.42m�ではFc_pdc=23~45%、GL.-9.45~-10.21mはFc_pdc=5~12%が確認された。深川留萌道(図-9� c))では盛土内
b) c)a) Br-1,PDC-1(R275法肩)
3
4
5
深度(m) 2
0
1
0 10 20 30 40 50
貫入抵抗Nd_pdc,N_spt
Nd_pdcN_sptWL_pdcWL_bor
Bk1
Bk2
Ap
Nd_pdcN_sptWL_pdcWL_bor
Br-2,PDC-3(美原法肩)
8
10
12
1
3
5
7
9
11
0
深度
(m)
2
4
6
0 10 20 30 40 50貫入抵抗Nd_pdc,N_spt
Nd_pdc
N_spt
WL_bor
Bk
Ap1
Ac2
Nd_pdcN_sptWL_bor
深度(m)
1
3
5
7
9
11
13
14
6
深川H30B-1,PDC-1
8
10
12
4
0
2
0 10 20 30 40 50
貫入抵抗Nd_pdc,N_spt
Nd_pdcN_sptWL_pdc-1WL_pdc-2WL_bor
Bk
サンド
Ap
Nd_pdcN_sptWL_pdc-1WL_pdc-2WL_bor
図-8 SPTとPDCによるN値(Nd_pdc値)の深度分布比較
a) b) c)Br-2,PDC-3(美原法肩)
0
深度(m)
1
2
4
5
6
8
9
7
3
10
11
12
0 20 40 60 80 100細粒分含有率Fc(%)
Fc_pdc
Fc_JIS
WL_bor
Bk
Ap1
Ac2
Fc_pdc
Fc_JIS
WL_bor
Br-1,PDC-1(R275法肩)
0
深度(m)
3
1
4
2
5
0 20 40 60 80 100
細粒分含有率Fc(%)
Fc_pdcFc_JISWL_pdcWL_bor
Bk1
Bk2
Ap
Fc_pdcFc_JISWL_pdcWL_bor
2
8
4
0
深川H30B-1,PDC-1
6
深度
(m)
3
5
7
9
11
10
12
13
14
1
0 20 40 60 80 100
細粒分含有率Fc(%)
Fc_pdcFc_JISWL_pdc-1WL_pdc-2WL_bor
Bk
サンド
Ap
Fc_pdcFc_JISWL_pdc-1WL_pdc-2WL_bor
図-9��SPTとPDCによる細粒分含有率F cの深度分布比較
42 寒地土木研究所月報 №801 2020年2月
GL.-7.01~-7.91mの範囲にFc_pdc=10~100%の幅広い値が確認された。粒度試験で得られるFc_JISはいわゆる点の評価であるが、PDCで得られるFc_PDCは一打撃ごとの評価が可能であるため、盛土の深度方向のFc_PDCを連続的に捉えている。
4.3 液状化の判定
本調査の液状化判定は道示に従って実施した。表-
3は道示の簡便法と詳細法、PDCによる液状化判定に必要な地盤定数の算出方法を示している。道示の簡便法による動的せん断強度比Rと液状化に対する抵抗率FLは表-3に記載の物理試験値、単位体積重量は土の湿潤密度試験より算出した。道示の詳細法によるRとFLは、地盤工学会基準「土
の繰返し非排水三軸試験(JGS�0541)」で求めた繰返し応力振幅比RL20より道示に従って算出した。また、PDCによるRは2.の4)式で導出したFcと直接得たNd_pdc、土の湿潤密度試験で得たγtより道示にて算出した。液状化判定に用いる地盤面の設計水平震度は調査箇所が空知地方、石狩地方であるため、地域区分はいずれもB2である。各地震動レベルの地域別補正係数は文献9)に従って、cz=0.85、cⅠz=1.0、cⅡz=0.85とした。地盤種別は既往の地盤調査で得られたN値から、道示の推定による簡易法(慣用法)9)により、R275はⅠ種地盤、美原、深川留萌道はⅢ種地盤とした。表-4は各地震動レベルにおける設計水平震度を示す。
図-10は各調査箇所における調査深度と液状化強度R、液状化抵抗率FLの関係を示す。凡例のL1はレベル1地震動,L2-1はレベル2地震動(タイプⅠ)、L2-2はレベル2地震動(タイプⅡ)を表しており、RおよびFLの後に表記している『○○_pdc』はPDCによる評価、『○○_spt』は道示の簡便法、『○○_JGS』は道示の詳細法による検討結果である。得られたFLのうちFL≧2.0のデータは便宜上、FL=2.0で表記した。図-10のR(F L) _pdcとR(F L) _sptをみると、美原のGL.-10.25m付近の結果(図-10�d)~f))を除いて概ね同じである。一方、美原のGL.-10.25m付近のR_pdcとR_sptの違いは顕著であり、この差がFL_pdcとFL_sptの結果として表れている。特にL1地震動レベルをみると、FL_pdcは液状化する、液状化しないと相反する結果であった。この要因として、図-9� b)に示すとおり、美原のGL.-10.25m付近におけるSPTによるN_spt(≒8)とPDCによるNd_pdc(≒2)の差がFLの差に表れたと推察される。美原のGL.-10.25m付近は盛土と泥炭の境界部にあたるが、基礎地盤が泥炭または軟弱な粘性土の場合、盛土は圧密沈下で下凸状に基礎地盤にめり込むことで盛土底部は水平方向に伸張するため、この部分は密度や拘束圧の低下が生じるとの指摘がある10)、 11)。このような盛土底部の緩みに対して、SPTとPDCの貫入抵抗に違いが生じたとすれば、今後、検証していく必要がある。次に、R(FL)_pdcやR(FL)_sptと道示の詳細法による
簡便法 詳細法
N値 標準貫入試験 N d=10/d -0.16M r
細粒分含有率F c 土の粒度試験 F c=18・u R/σv'
平均粒径D50, 有効径D10 土の粒度試験 -
塑性指数I p 土の液性限界・塑性限界試験 -
単位体積重量γ t 土の湿潤密度試験 または 一般値 土質区分により仮定
必要
な地
盤定
数
道路橋示方書PDC
土の繰返し非排水三軸試験
表-3��液状化判定に必要な地盤定数の算出方法
タイプI タイプⅡ
Ⅰ種地盤 0.10 0.50 0.68 R275Ⅲ種地盤 0.15 0.40 0.51 美原
Ⅲ種地盤 0.15 0.40 0.51 深川留萌道
L2L1 備考
表-4��液状化判定に用いる地盤面の設計水平震度(kh)
寒地土木研究所月報 №801 2020年2月 � 43
R(FL)_JGSを比較すると、R(FL)_pdcやR(FL)_sptは相対的に小さいことがわかる。一般的に、道示の液状化強度式は地震動レベルによって生じた液状化の有無を地盤や土質条件に応じて整理したものであり、実務で使用する関係上、液状化強度を安全側に評価する傾向にある12)、 13)。このような知見を踏まえると、R_pdcやR_sptは実態の液状化特性をより精度良く評価しているとはいえ、道示で算出されたR_JGSより相対的に小さくなることは明白である。
5.まとめ
泥炭に沈埋した地下水位以下にある盛土の液状化の有無を簡易に判定する調査法(PDC)の妥当性について、泥炭性軟弱地盤上に構築された北海道内の一般国道盛土3箇所を対象に、従来の液状化調査手法と比較および検証した。得られた知見を以下に示す。
1) �飽和地盤におけるSPTとPDCで得られた先端抵抗(N_spt=Nd_pdc)および、PDCと土の粒度試験で得られた細粒分含有率Fcは概ね同じ数値を示し、双方で得られるFLは地震動レベルに拘わらず同様であった。
2) �したがって、今回扱った土質の範囲では、PDCは泥炭に沈埋した地下水位以下にある盛土の液状化判定に有効であると思われる。
3) �しかしながら、高盛土底部と泥炭の境界では計測されたN値とNd_pdcが異なり、その結果がL1地震動レベルにおいて異なる液状化判定に繋がった。
4) �この理由は、盛土底部のゆるみの影響や異なる物性の層境におけるSPTとPDCの貫入特性によるものと考えられる。今後は緩みが生じている盛土底部と軟弱地盤の境界部におけるPDCの貫入特性や液状化強度との関連を把握するとともに、PDC単独でこの境界部を判断できる指標を提案したいと考えている。
9
7
8
深度(m)
5
1
2
6
3
4
深川H30B-1,PDC-1 L2-2
00.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0
液状化強度 R
L2-2 R_pdc
L2-2 R_spt
L2-2 R_JGS
0.0 0.5 1.0 1.5 2.0
液状化抵抗率 FL
L2-2 FL_pdcL2-2 FL_spt
L2-2 FL_JGS
Bk
サンド
FL_pdcFL_spt
R_pdcR_sptR_JGS
FL_pdcFL_sptFL_JGS
深度(m)
6
8
9
4
2
0
深川H30B-1,PDC-1 L1
1
3
5
7
0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0
液状化強度 R
L1 R_pdc
L1 R_spt
L1 R_JGS
0.0 0.5 1.0 1.5 2.0
液状化抵抗率 FL
L1 FL_pdc
L1 FL_spt
L1 FL_JGS
Bk
サンド
R_pdcR_sptR_JGS
FL_pdcFL_sptFL_JGS
深度(m)
Br-1,PDC-1(R275法肩) L2-2
3
2
1
0
4
0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0
液状化強度 R
L2-2 R_pdcL2-2 R_sptL2-2 R_JGS
0.0 0.5 1.0 1.5 2.0
液状化抵抗率 FL
L2-2 FL_pdcL2-2 FL_sptL2-2 FL_JGS
Bk1Bk2
R_pdcR_sptR_JGS
FL_pdcFL_sptFL_JGS
深度(m)
7
8
9
0
5
6
4
1
2
3
深川H30B-1,PDC-1 L2-1
0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0
液状化強度 R
L2-1 R_pdc
L2-1 R_spt
L2-1 R_JGS
0.0 0.5 1.0 1.5 2.0
液状化抵抗率 FL
L2-1 FL_pdc
L2-1 FL_spt
L2-1 FL_JGS
Bk
サンド
R_pdcR_sptR_JGS
FL_pdcFL_sptFL_JGS
Br-2,PDC-3(美原法肩) L2-2
5
1
2
0
深度(m)
3
4
6
7
8
10
9
0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0
液状化強度 R
L2-2 R_pdc
L2-2 R_spt
L2-2 R_JGS
0.0 0.5 1.0 1.5 2.0
液状化抵抗率 FL
L2-2 FL_pdc
L2-2 FL_spt
L2-2 FL_JGS
Bk
FL_pdc
FL_spt
FL_JGS
R_pdc
R_spt
R_JGS
Br-2,PDC-3(美原法肩) L2-1
5
0
深度(m)
1
4
2
3
6
7
8
10
9
0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0
液状化強度 R
L2-1 R_pdc
L2-1 R_spt
L2-1 FL_JGS
0.0 0.5 1.0 1.5 2.0
液状化抵抗率 FL
L2-1 FL_pdc
L2-1 FL_spt
L2-1 FL_JGS
Bk
FL_pdc
FL_spt
FL_JGS
R_pdc
R_spt
R_JGS
Br-2,PDC-3(美原法肩) L1
6
3
7
8
9
10
4
5
深度(m)
1
2
00.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0
液状化強度 R
L1 R_pdc
L1 R_spt
L1 R_JGS
0.0 0.5 1.0 1.5 2.0
液状化抵抗率 FL
L1 FL_pdc
L1 FL_spt
L1 FL_JGS
Bk
R_pdc
R_spt
R_JGS
FL_pdc
FL_spt
FL_JGS深
度(m)
Br-1,PDC-1(R275法肩) L2-1
3
2
0
1
4
0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0
液状化強度 R
L2-1 R_pdcL2-1 R_sptL2-1 R_JGS
0.0 0.5 1.0 1.5 2.0
液状化抵抗率 FL
L2-1 FL_pdcL2-1 FL_sptL2-1 FL_JGS
Bk1Bk2
R_pdcR_spt
R_JGS
FL_pdcFL_spt
FL_JGS
深度(m)
Br-1,PDC-1(R275法肩) L1
4
3
1
2
00.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0
液状化強度 R
L1 R_pdcL1 R_sptL1 R_JGS
0.0 0.5 1.0 1.5 2.0
液状化抵抗率 FL
L1 FL_pdcL1 FL_sptL1 FL_JGS
Bk1Bk2
FL_pdcFL_sptFL_JGS
R_pdcR_sptR_JGS
a) b) c)
d) e) f)
g) i)h)
図-10��各調査箇所における調査深度と液状化強度R,液状化抵抗率FLの関係
44 寒地土木研究所月報 №801 2020年2月
橋本� 聖 HASHIMOTO�Hijiri
寒地土木研究所寒地基礎技術研究グループ寒地地盤チーム主任研究員博士(工学)技術士(建設)
林 宏親 HAYASHI�Hirochika
寒地土木研究所寒地基礎技術研究グループ寒地地盤チーム総括主任研究員博士(工学)技術士(建設・総合技術監理)APECエンジニア(Civil)
畠山 乃 HATAKEYAMA�Osamu
寒地土木研究所寒地基礎技術研究グループ寒地地盤チーム上席研究員
青木 卓也 AOKI�Takuya
寒地土木研究所寒地基礎技術研究グループ寒地地盤チーム主任研究員博士(工学)技術士(建設)
謝辞:本稿は研究開発プログラム「インフラ施設の地震レジリアンス強化のための耐震技術の開発に関する研究」の成果の一部である。また、現場調査を実施するにあたり、国土交通省北海道開発局札幌開発建設部札幌道路事務所、深川道路事務所の各担当者には、現地調査を実施する上で過分なる協力を頂いた。記して厚くお礼を申し上げます。
参考文献
1)� 北海道開発局開発土木研究所:1993年釧路沖地震被害調査報告,�開発土木研究所報告,�第100号,�pp.13-32,�1993.
2)� 佐々木康:堤防の地震災害と災害軽減工学,JICE�REPORT,Vol.9,p.89,2006.
3)� 林宏親,西本聡,橋本聖:泥炭地盤における盛土の耐震性に関する検討,�寒地土木研究所月報,第657号,�pp.15-23,�2008.
4)� 政府地震調査研究推進本部HP:http://www.jishin.go.jp/evaluation/long_term_evaluation/subduction_fault/#chishima_t,�2018.4.1確認.
5)� Sawada.S:Estimation�of� liquefaction�potential�using�dynamic�penetration�with�pore�pressure�transducer,� International�Conference�on�Cyclic�Behavior�of�Soil� and�Liquefaction�Phenomena,�
Bochum,pp.305-312,2004.6)� PDCコンソーシアムオフィシャルサイト:技術資料,�https://www.pdc-cons.jp/pdc/summary.html,�2018.4.1確認
7)�(公社)地盤工学会:地盤調査の方法と解説-二分冊の1-,第13章�規格・基準以外の方法,pp.460-464,2013.
8)� 澤田俊一,塚本良道,石原研而:間隙水圧測定を伴う動的貫入試験法�その6�液状化強度,第50回地盤工学シンポジウムpp.1-6,2005.
9)�(公社)日本道路協会:道路橋示方書・同解説�V耐震設計編,2017.
10)� Sasaki,Y.� Oshiki,H.� and� Nishikawa,J.:River�Dike�Failures�during�the�1993�Kushiro-oki�Earthquake,Proceedings of IS-Tokyo,2009.
11)�Okamura,M.� and�Tamamura,S.:Seismic�Stability�of�Embankment�on�Soft�Soil�Deposit,�International Journal of Physical Modeling in Geotechnics,�11(2),pp.50-57,2011.
12)�松尾修:道路橋示方書における地盤の液状化判定法の現状と今後の課題,土木学会論文集,No.757/Ⅲ-66,pp.1-20,2004.
13)�松崎裕太:繰返し三軸試験結果と道路橋示方書(簡易法)による液状化強度比の比較,全地連「技術フォーラム2016」熊本,2016.