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  • 人や物の位置を特定するための技術が急速に進歩しています。GPSや基地局位置情報、RFID、無線LANなど、位置特定の

    方法も多岐にわたります。NECネッツエスアイの無線LAN位置情報システムはIEEE802.11bの電波を利用し、電波を受信し

    た時間の差から対象の位置を特定する方法と、電波の受信強度から対象がエリア内に存在するかどうかを検知する方法の2

    通りの位置特定によって、お客様の課題解決をお手伝いします。今回はNECネッツエスアイの無線LAN位置情報について、

    その仕組みと導入事例を中心にご紹介します。

    はじめに

    人や物の位置を知りたいというニーズは昔からありました。通信が発達する前は、夜空の星の位置から船の現在位置を知り、広い海原でも迷わずに目的地にたどり着くことができました。

    GPS(Global Positioning System)の登場で特別な知識がなくても位置情報を利用できるようになり、船や飛行機の航路確認はもちろん、カーナビや登山用ナビにも利用されています。

    近年では携帯電話やPHSの基地局から位置特定を行う方式やRFID(Radio Frequency Identification)を利用する方式、そして無線LANの電波を利用した方式など様々な位置情報システムが登場し、屋内・屋外を問わず、どこにいても位置情報を活用できる技術的な基礎が整いつつあります。

    2007年度からは携帯電話からの緊急通報の際に位置情報も同時に送信することが義務化されるなど、位置情報は重要さを増すとともに、活用用途も大きく広がりを見せています。

    位置情報システムの種類

    現在、位置情報システムとして利用されている技術は、 図1のように大きく4つに分けられます。(1)GPS方式地球の周りに計24個配置されたGPS衛星のうち4つの衛星を利用して対象の地球上での場所を測定します。GPS衛星の電波の届かない屋内では利用できませんが、屋外であれば地球上のどこにいても使えることから、現在最も広く利用されています。(2)基地局位置情報方式携帯電話やPHSの基地局の識別情報と携帯端末自身が受信した基地局からの電波の強さをもとに、基地局から半径何mの範囲に対象端末があるかを測定します。(3)RFID方式RFIDタグを認識したリーダの場所で位置を特定する方式で

    図1 位置情報に使用される主な技術

    す。位置特定を行いたい箇所に設置したリーダがRFIDタグの情報を読み取ることでタグの位置が測定されます。リーダのカバーエリアは数十cm~数mと狭く、主に屋内での位置検知に利用されます。(4)無線LAN方式無線LANの電波到達時間や電波強度から無線LANクライアントの位置を測定する方式です。屋内・屋外を問わず利用でき、GPS方式や基地局位置情報方式より精度が高く、RFID方式よりカバーエリアが広いのが特長です。

    無線LAN位置情報システムの概要

    無線LAN方式の位置情報システムは、公衆無線LANや企業、個人などで一般的に利用されているIEEE802.11bの電波を利用して端末の場所を特定するもので、国内では2003年に登場しました。

    NECネッツエスアイが提案する無線LAN位置情報システムは以下の機器で構成されます。

    さらにニーズが増す位置情報について、無線LANを活用したシステム提供で課題解決

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    NECネッツエスアイの無線LAN位置情報システム導入事例

  • 写真1 (左) 無線LANタグ、(右) ボタン付き無線LANタグ

    写真2 ロケーションレシーバ

    1) 無線LANタグ( 写真1 )(もしくはIEEE802.11b準拠機器):位置を特定したい対象に持たせます。2) ロケーションレシーバ(位置特定専用アンテナ。以下、LRと略す)( 写真2 ):タグからの電波を受信してサーバへデータを転送します。3) 位置検索エンジン:LRから受け取った情報をもとに計算を行い、タグの位置を特定します。4) 位置情報プラットフォーム:NECネッツエスアイが独自に開発したもので、このプラットフォームを用いることで位置情報を活用した様々なシステムを容易に開発できます。(1)位置特定の方式位置の特定方法としては、高精度な位置特定が可能なTDOA

    (Time Difference Of Arrival:到達時間差)方式と、簡易的に位置特定を行うRSSI(Received Signal Strength Indicator:電波受信強度)方式の2つの方式があります。1) TDOA方式この方式は、 図2 のようにタグ(もしくはIEEE802.11b準拠機器)から送出された電波を4台 *1 のLRで受信し、それぞれのLRに到達した時間の差から、位置検索エンジンにおいて機器とLRの距離を計測することで、高い精度で位置特定を行うことができます。対象の追跡やナビゲーションなど様々な用途に適用できます。2) RSSI方式この方式は 図3 のように、基地局位置情報方式と同様の仕組みで、無線LANタグから発せられる電波の強度をもとに対象の存在を検知します。LRのカバーエリア(約60m *2 )内に端末があるかないかを特定します。TDOA方式では利用困難な狭いエリアの位置検知として適用でき、1台のLRだけで利用できます。(2)位置情報プラットフォーム通常、位置情報を活用したシステムの開発を行うためには位置情報エンジンにおいて複雑な設定、操作を行う必要があり、技術スキルを持った開発者が必要となります。NECネッツエスアイの位置情報プラットフォームは、それ

    図2 TDOA方式のイメージ

    *1 位置特定は3台のLRでも可能ですが、電波の遮断などの影響を考慮し、4台以上のLR設置を推奨しています。*2 屋内で設置した場合の目安であり、環境により値は変わる場合があります。

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  • 図3 RSSI方式のイメージ

    図4 位置情報プラットフォームのイメージ

    らの複雑な設定を軽減するとともに、位置情報を活用したサービスの拡張が容易に行えることを目的に開発しました。位置情報プラットフォームの機能は、 図4 のイメージにあるとおり大きく2つに分かれています。1つは位置情報エンジンで特定したタグの位置を随時取得してデータベースへ格納する機能、もう1つはデータベースに格納した位置情報をアプリケーションの要求に基づき提供する機能です。これらの機能により、位置情報と他の業種別アプリケーションなどとの連携が可能となります。また、他の位置情報を活用した高度なシステムと容易に連携できるよう機能を拡張する予定です。(3)システム導入に当たっての注意無線LAN位置情報システムを導入するに当たっては、いくつか注意する点があります。

    1) 現地の電波環境無線LAN位置情報システムで使用するIEEE802.11bは、利用に際して免許が不要な2.4GHz帯域の電波のため、他のシステムとの電波干渉やノイズによる影響が発生する恐れがあります。そのため、システムの導入前には現地の電波環境の測定を行い、アンテナ設置位置の調整や無線LANのチャンネル設定を適切に行うことが必要です。2) 端末の消費電力無線LAN端末は携帯電話やPHSと比べて消費電力が大きいため、位置情報取得のリアルタイム性を追求するあまり常時電波を発信するように設定しておくと、短期間でバッテリーを消費してしまいます。そのため、無線LAN位置情報システムを導入する目的からどの程度のリアルタイム性が必要かを判断し、最適な設定を行うことが重要です。

    無線LAN位置情報システムの展開

    (1)アミューズメント施設への導入事例NECネッツエスアイでは、㈱ナムコ様が2006年6月にオープンした子供向け時間課金施設「ナムコあそベース」向けに、無線LAN位置情報システムをご提供しました。「ナムコあそベース」は、「親の子育てからのリフレッシュ」をコンセプトに、子供の遊びだけでなく、マッサージチェア、インターネット、雑誌などの大人向きアイテムが充実しております。大人向けゾーンを施設の中央に、その周りに子供向けゾーンを配置することで、安心・安全の向上を図りました。さらに、子どもが施設内のどこにいるのかをいつでも簡単に確認できるように、NECネッツエスアイの無線LAN位置情報を活用したシステムを共同で開発・導入し、より一層安心・安全の向上を図っております。「ナムコあそベース」では、 図5 のイメージのように施設内に設置されたタッチパネル式のモニタから、子どもが身に付けた無線LANタグの番号を入力するだけで、現在遊んでいる場所をモニタで確認することができるので、保護者は自分の時間を有効活用しながらも、子どものいる場所を把握できるという安心感があります。子どもたちに身に付けるタグは35gと軽量な上、図5のイメージのようにリストバンド式になっているので、違和感なく身に付けることができます。

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  • 図5 「ナムコあそベース」システム概要

    また、子どもの位置を探知するサービスとしてだけではなく、来場者の動線管理や来場者分析などのマーケティングツールとして活用したり、位置情報システムの機能を応用し、子どもたちが楽しめるゲーム性の高いコンテンツを開発したりすることにも活用できます。(2)無線LAN位置情報システムの利用例無線LAN位置情報システムは、人や物にタグを取り付けることで、以下のような利用例にも幅広く適用できます。1) 工場や倉庫での物品管理管理番号と関連付けたタグを物品に取り付けることで、物品が敷地内を移動した場合でもPDAなどの端末に管理番号を入力すれば、手元の端末で物品の位置や個数などを表示・確認ができます。2) 小売店での販売促進買い物カートに無線LANタグを取り付けることで、カート手元の案内パネルから、自分の現在地から目的の商品の売り場までのナビゲーションを行ったり、売り場ごとのリアルタイムな広告を配信したりできます。また、顧客の動線分析をすることで販売促進対策につなげられます。3) 児童の登下校管理通学路にLRを設置し、タグを身に付けた児童がLRのカバーエリア内に入ると、学校の位置管理端末や保護者の携帯電話などに児童の通過情報が通知されます。ボタン付きタグを押下した際にアラーム情報を発信するように設定し

    ておけば、緊急時にも保護者などに対して迅速な情報提供が可能です。

    おわりに

    位置情報はさらにニーズを増し、屋内・屋外の様々な場所で活用されるようになると予測されます。GPSやRFIDなど様々なシステムが相互に連携しながら、利用場所や通信技術の違いを意識することなく、誰もが簡単に位置情報を利用できる環境がますます求められるでしょう。今後NECネッツエスアイは、無線LAN位置情報システムをGPSや基地局位置情報、RFIDなどと連携しながら、こうした必要性にお応えできることをめざし開発を行っていきます。

    また、インターネット経由で簡単に位置情報サービスを利用できるようASP化に向けたプラットフォームの拡張を進めるとともに、無線LANタグに振動センサーや温度センサーの機能を装備することで、位置特定を基盤とした新たな価値を持つ位置情報システムを創造していきたいと考えています。

    関連のWebサイトは、以下の「NECネッツエスアイ、無線LAN位置情報システム紹介ページ」URLをご参照くださいますようお願いいたします。

    http://www.nesic.co.jp/solution/bbnw/wps.html

    執筆者プロフィール

    石渡 祥嗣NECネッツエスアイネットワーク事業本部サービスソリューション事業部サービス開発部

    堀籠 敬樹NECネッツエスアイネットワーク事業本部事業企画室商品企画部主任

    小林 佑輔NECネッツエスアイネットワーク事業本部事業企画室商品企画部

    さらにニーズが増す位置情報について、無線LANを活用したシステム提供で課題解決

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    NECネッツエスアイの無線LAN位置情報システム導入事例


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