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  • 音楽Ⅰ

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    高校講座・学習メモ

    学習のねらい

    リズムパターンが音楽の「ノリ」をつくる

    小田和正作曲「ラブ・ストーリーは突然に」という曲では、ドラムスが「ズズチャツ・ズズチャツ」のようなリズムの型、すなわちリズムパターンを繰り返します。このリズムパターンは「エイトビート」と呼ばれ、ポップスやロックで最も一般的に使われるものです。エイトビートは、1小節を8拍に割っているだけでなく、アクセントの位置や、ふさわしい速度などがだいたい決まっています。

    一方「ノリ」とは、一つの音楽がもたらす独特の高揚感や盛り上がりを指す、特にポピュラー音楽の世界でよく使うことばです。聴き手が演奏者と一緒に音楽に参加しているという感覚、つまり一体感を誘うのが「ノリ」です。そして、この「ノリ」をつくり出す最も決定的な要素がリズムパターンなのです。実際、エイトビートを聴いているだけで、なんだか新しい音楽が湧いてくるような感じはしませんか。それこそ「ノリ」がなせるわざなのです。

    はっきりしたリズムパターンの繰り返しを伴う例は世界じゅうの伝統的な音楽にも見られます。その一例が西アジア、トルコの軍楽です。「ジェッディン・デデン」という曲では「ドゥンテ・ドゥンテ・ドゥンテケ・テテ」という4拍のリズムパターンが繰り返されます。こうしたリズムパターンをトルコではウスールと呼んでいます。このトルコの軍楽がヨーロッパにも知られると、「トルコ行進曲」という作品が続々と作曲されました。モーツァルトやベートーヴェンの作品は特に有名です。それらの曲を聴くと、軍楽特有の繰り返しのリズムパターンが使われていることがわかります。

    さて、西アジア音楽ではリズムパターンが重視されます。一説には、そうした西アジア音楽の考え方が、スペインやポルトガルを経由してラテンアメリカに渡ったといわれています。実際、代表的なラテン音楽のジャンルである、タンゴ、ルンバ、マンボ、チャチャチャ、サルサ、

    講師

    植 村 幸 生リズムはすべての音楽にとって大切な要素です。特に、一定のリズ

    ムの型(パターン)が繰り返されると、それがしばしば音楽を生み出す土台になります。そうしたリズムパターンは、世界じゅうの伝統音楽のみならず、ポップスや現代音楽にも頻繁にみられます。音楽の「ノリ」をつくり出すリズムパターンに注目して音楽を聴いてみたり、さらには自分たちでパターンをつくって演奏してみましょう。

    第23回

    リズムパターンで音楽をつくる〜世界の音楽(3)〜

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    高校講座・学習メモ

    音 楽Ⅰ � リズムパターンで音楽をつくる 〜世界の音楽(3)〜

    サンバ、ボサノヴァなどは、みなリズムパターンの名前といってもよいくらいです。そこでは、何種類かの打楽器が組み合わさって、ジャンル独自のパターンを刻み続け、その曲の「ノリ」をつくります。

    サンバ 〜リズムパターンの重ね合わせ〜

    ブラジルの代表的な音楽、サンバのリズムパターンを打楽器で合奏する基本的なやり方をみ

    これに変化をつけるために、ところどころで段落となる区切りのフレーズを加えることができます。さらに、曲の終わり方、始め方をあらかじめ約束しておけば、一曲が完成します。このように、一つのリズムパターンの中に「地」「段落」「始まり」「終わり」といった役割

    てみましょう。打楽器だけの合奏をバトゥカーダといいます。サンバは2拍子の音楽といえます。大型の太鼓、スルド

    がそのリズムのベースを演奏し、さらにその他の打楽器が加わることで、サンバ独特の「ノリ」が現れます。これで合奏の基本パターン、図柄でいえば「地」ができます。「地」のパターンは何回でも繰り返すことができますが、

    のあるフレーズを準備することで、まとまりのある音楽を打楽器だけでつくり出すことができます。

    ミニマル・ミュージック

    ヨーロッパでも、リズムパターン重視の音楽は、特に民衆の踊りの音楽として脈々と生き続けました。ワルツ、ポルカ、マズルカ、ジーグ、タランテラなどは、その名前とともにクラシック音楽にも取り入れられました。しかしクラシック音楽の歴史を見ると、特定の楽器がリズムパターンを延々と繰り返す音楽形式は影を潜めていきます。

    ところが第二次世界大戦後の現代音楽の世界には、単純なリズムパターンや短いメロディーを執

    しつ

    拗よう

    に繰り返す音楽が登場しました。それがミニマル・ミュージックです。「ミニマル」とは最小限の、という意味です。最小限の音の型を繰り返しながら徐々に変化させることで、そ

    写真上:スルドの演奏。同下:演奏協力 東京藝術大学サンバパーティーの皆さん。

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    高校講座・学習メモ

    音 楽Ⅰ � リズムパターンで音楽をつくる 〜世界の音楽(3)〜

    こに生じる音の模様を楽しむような音楽です。アジアやアフリカの音楽がこれに影響していることは明らかです。

    スティーブ・ライヒの作品「クラッピング・ミュージック」は、手拍子による、たった一つのリズムパターンを、複数のパートで合わせたりずらせたりして、不思議な変化をつくり出すミニマル・ミュージックです。

    *    *    * 最後に私からの提案です。こうしたリズムパターンの音楽を、皆さん自身の手でつくってみ

    てはどうでしょうか。まず何人かでグループをつくります。おのおのが楽器を手にします。どんな楽器でもかまい

    ません。「ノリ」をつくり出す繰り返しのパターンと、それと長さが等しい別のパターンをいろいろ考えます。それを皆さんで合奏してみるのです。

    サンバやミニマル・ミュージックなどを参考に、パターンとその組み合わせを工夫すれば、誰でも気軽に、音楽づくりの楽しさを分かち合うことができるでしょう。

     ワードファイルスティーブ・ライヒ [Steve Reich (1936 〜)]:

    アメリカ合衆国の作曲家。ミニマル・ミュージックの先駆者として知られる。代表作に「ピアノ・フェイズ」「ドラミング」「ザ・ケイヴ」など。

    バトゥカーダ:サンバの演奏で、メロディーを伴わず打楽器とホイッスルだけで演奏するやり方。ウスール  :トルコの伝統音楽で、打楽器によって示されるリズムパターン。2拍から 48

    拍に至るまで多くの種類がある。


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