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図1 5000 系 K-TIMS システム構成ブロック図

論文番号 513

5000 系新造車向け 車両情報管理装置(K-TIMS)の紹介

三菱電機株式会社 池嶋 知明 岡田 洋治

京王電鉄株式会社 若松 茂則 岡原 裕喜 大川 晶

1 概要

京王電鉄株式会社では、安全・安定輸送の実現、省エネ

の推進と座席指定列車運用のため、16 年ぶりの新型車両で

ある 5000 系を開発した。

新型車両 5000 系の諸元一覧を表1に示す。

表 1 新型車両 5000 系の諸元

(※)情報 VS:情報 Vehicle Switch の略

TVS : Train Vision System の略

5000 系の開発コンセプトとして、①お客さまサービスの

向上、②安全性の向上、③さらなる省エネの推進があり、

これらを実現するため、車両情報制御システムに列車情報

管理装置(K-TIMS)を導入した。

本論文ではこの新型車両 5000 系の K-TIMS(Keio-Train

Information Management System)の機能について述べる。

2 K-TIMS のネットワークについて

列車情報管理装置(K-TIMS)のネットワーク(機器のモニ

タリング・制御方法)は、以下のコンセプトとした。

① 各機器の制御・モニタリング機能のネットワークは実

績を優先する。

② 乗客サービス向け機器用のネットワークは、機能拡張

が可能となる大容量伝送可能な方式とする。

上記 2 点のコンセプトを実現させる為、K-TIMS 装置間の

基幹伝送、K-TIMS⇔各制御・モニタリング機器間の支線伝

送、K-TIMS⇔サービス機器間の情報系伝送の各種情報伝送

方式を以下の伝送方式とすることにした。

・基幹伝送:アークネット伝送(ARCNET)

・支線伝送: RS485 伝送

・情報系伝送:ETHERNET 伝送(*1)

編成構成 10両編成(6M4T)

最高速度 110km/h

車体 全ステンレス鋼製

制御装置 VVVFインバータ制御、回生ブレーキ、蓄電池システム

主電動機 全閉内扇型三相誘導電動機

補助電源装置 二重系静止型インバータ装置(待機二重系)

空気源装置 レシプロ式(オイルフリー)、除湿装置付

列車情報管理装置 K-TIMS

戸閉装置 マイコン制御型電気式

照明装置 LED式

冷房装置 集中式、ラインデリア併用マイコン制御

放送装置 自動音量調節機能付き高音質ステレオタイプ

座席 妻部3人掛け片持式座席、中間部 L/C 座席

側面LED表示器

前面LED表示器

TVS端末

LCD(広告)

LCD(行先)

情報系

VS

TVS中央

側面LED表示器

前面LED表示器

TVS端末

LCD(広告)

LCD(行先)

情報系

VS

側面LED表示器

TVS端末

LCD(広告)

LCD(行先)

情報系

VS

側面LED表示器

TVS端末

LCD(広告)

LCD(行先)

情報系

VS

WiMAX

I/Fサーバ

車両I/Fユニット

対象機器

対象機器

対象機器

対象機器I/Fサーバ

RS485

対象機器

対象機器

K-TIMS中央装置

K-TIMS端末装置

対象機器

対象機器

RS485 RS485 RS485 RS485 RS485

1系

2系

1系

2系

1系

2系

1系

2系

1系

2系

K-T

IMS表

示器

K-T

IMS表

示器

メー

タ表

示器

メー

タ表

示器

1系

2系

車両I/Fユニット 車両I/Fユニット車両I/Fユニット

運転台I/Fユニット 運転台I/Fユニット

ARCNET

メー

タ表

示器

メー

タ表

示器

表示制御器 表示制御器 表示制御器 表示制御器

K-TIMS端末装置

K-TIMS端末装置

K-TIMS端末装置

K-TIMS中央装置

ETHERNETETHERNET

ETHERNET

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3 K-TIMS システム構成

図1に K-TIMS のシステム構成ブロック図を示す。

基幹伝送用装置として、1・10号車に K-TIMS 中央装置

(図 2)・端末装置、2~9号車に K-TIMS 端末装置を搭載す

る。各装置は二重系構成を構築し、ラダー型のアークネッ

ト伝送で接続し、冗長性を確保する。情報系用の装置とし

ては、各号車1台ずつ情報系 VS(Vehicle Switch)装置を搭

載。接点入力用として各号車に I/F ユニットを搭載し、

DI/DO も可能とした。

両運転台には、K-TIMS 表示器(図 3)を3台ずつ搭載し、

その内2台をメータ表示器として動作させることにより冗

長性を確保した。

図2:K-TIMS 中央装置 図3:K-TIMS 表示器

4 K-TIMS の機能

5000 系向け K-TIMS の機能概要を以下に示す。

(1)制御機能

・制御指令伝送(力行・ブレーキ指令)

・編成力行・ブレーキ力制御

・バッテリー切制御

・戸閉制御(開閉、再開閉、限定開扉)

・コンプレッサ制御

・車上蓄電システム制御

(2)モニタリング機能

・機器状態表示

・乗務員支援機能(警報表示)

・運転状況記録機能

・各種記録機能

(3)サービス機能

・案内機器制御機能(TVS、自動放送、行先表示)

・空調制御(入切制御、弱冷車制御)

・コンセント制御

・座席回転制御

・GPS 時刻補正機能

・BGM 放送制御

・室内灯調光制御

・座席指定種別特別制御

(4)検修機能

・故障記録、検索機能

・車上試験機能

5 K-TIMS 特有の機能

5000 系は、通常列車としてだけではなく、座席指定列車

としても運用を可能とすることに加え、車上蓄電システム

がある為、以下の機能を搭載する。

(1) LED 調光制御

(2) 座席回転制御

(3) 限定開扉制御

(4) BGM 設定制御

(5) 座席指定特殊制御

(6) 車上蓄電システム制御

5.1 LED 調光制御

5000 系の LED 室内灯は調光機能を持っており、K-TIMS

からの指令により、調光が可能となっている。現行の運用

では、座席指定種別時と通常種別時の 2 パターンで運用を

実施しており、各パターンの調光設定は K-TIMS 画面(室内

灯調光設定画面(図4)にて設定し、パターン切換は、室

内灯調光画面(図5)で実施可能となる。

図4 室内灯調光設定画面

図5 室内灯調光画面

なお、室内灯調光機能は、京王線内のみ有効な機能とな

り、乗入する都営新宿線内では、通常種別パターンに自動

で切換え、誤設定出来ない様にする為、表2に示す制限を

実施した。

表2 調光設定可能機能一覧

走行路線 京王線 交通局殿線

列車種別 座席指定 その他 -

設定可能調光パターン

・座席指定・通常

・座席指定・通常

(設定不可)

自動設定 無し 無し 有り(通常パターンに自動設定)

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5.2 座席回転制御

5000 系の座席シートは、ロングシートタイプとクロスシ

ートタイプの切換が可能(L/C 座席)となっており、K-TIMS

の座席状態設定画面(図6)からの指令でシートタイプ変更

が可能となっている。

クロスシートタイプは、京王線内の座席指定種別時のみ

使用する運用となっており、他の運用では使用不可となる

が、安全性を考慮し、K-TIMS からの自動変更は実施せず、

ドア閉状態時のみ乗務員の手動操作で変更可能とした。

図6 座席状態設定画面

5.3 限定開扉制御

座席指定種別時には、特定駅停車の際、一部のドアのみ

開扉しての運用(限定開扉運用)を実施する必要がある。

各運用における停車駅情報は K-TIMS 内の案内制御用デー

タで制御していることから、各停車駅の限定開扉パターン

も案内データに紐付けて定義可能とした。案内制御データ

の設定画面例を図7に示す。

図7 案内制御データ設定画面例

限定開扉制御は、各ドアの戸閉装置内設定情報と K-TIMS

から戸閉装置に送信する限定開扉パターン情報が一致して

いる場合に、当該ドアは開扉禁止とすることで実現してい

る。

表3 戸閉装置側の限定開扉時動作

「K-TIMS限定開扉パターン」と「戸閉装置内設定情報」

一致 不一致

ドア開指令受信 ドア閉のまま ドア開

上記の通り、戸閉装置内の設定により開扉させるドアを

決定しているが、検修作業時に、戸閉装置の設定が正常に

出来ていることを確認する場合、1編成当たり 80 カ所(8

扉×10両)の確認が必要となり、作業効率が悪い為、

K-TIMS にて全部位の設定状態を確認できる機能を持つこ

ととした。

確認方法としては、K-TIMS より全号車・全ドアの戸閉装

置に対して限定開扉パターンを順次送信し、ドアの開扉状

態を限定開扉パターン確認試験画面(図8)で確認するこ

とにより、戸閉装置の設定内容を容易に確認可能とした。

図8 限定開扉パターン確認試験画面

5.4 BGM 設定制御

座席指定種別にて運用時には、K-TIMS からの指令により

BGM 放送を鳴動させる機能を搭載している。BGM 音源は自動

放送装置内に搭載されており、乗務員にて BGM 設定画面(図

9)から、BGM コード・音量が設定可能となる。

なお、本機能も、京王線内限定機能となることから、京

王線内走行時のみ設定可能とした。

図9 BGM 設定画面

5.5 座席指定特殊制御

5000 系では座席指定運用特有の機能が多数必要となる。

5.1 章~5.4 章の機能以外にも、座席指定時のみ K-TIMS に

て自動制御を実施している機能があり、表4に纏めた。

表4 座席指定運用時特殊機能一覧

機能 制御概要

弱冷車制御 座席指定運用時は、弱冷車無しとし、空調温度設定を自動で変更(通常運用時は、3号車が弱冷車)

コンセント制御

列車種別により、自動で入切制御・座席指定運用時:入・通常運用時 :切

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5.6 車上蓄電システム制御

(1)通常走行機能

5000 系には、さらなる省エネルギー性向上の為に、車上

蓄電システムが搭載されている。K-TIMS は、VVVF 装置と蓄

電システム間の必要なデータを制御する。(図 12)

図 12 車上蓄電システム制御用データの流れ

車上蓄電システムは通常走行時に活用できる省エネ性能

にも優れたシステムとなっており、車上蓄電の残量や充

電・放電状態、放電量や消費電力量等を視覚的に認識可能

とするために、メータ表示器(図 13)と K-TIMS 表示器(図

14)に、車上蓄電システムの状態表示を行った。

図 13 バッテリーモニタ画面(メータ表示器)

図 14 エネルギーモニタ画面(K-TIMS 表示器)

(2)緊急走行機能

バッテリーのみの電力で走行する緊急走行時や復旧は、

パンタグラフや VVVF 装置の状態確認や準備作業が必要と

なる。そのため、乗務員が誤操作しない為に、K-TIMS 画面

にて必要な手順を表示(図 15、図 16、17 参照)すると共

に、VVVF 装置・車上蓄電システムと連動しながら、状態表

示を実施することとした。

図 15 緊急走行モード準備画面例

図 16 緊急走行モード走行中画面例

図 17 緊急走行モード復帰画面例

6 まとめ

以上に述べたように K-TIMS により 5000 系車両特有の機

能の制御・運用・検修の自動化が可能になった。K-TIMS は

フィールドでの試験、検証を実施し、2017 年 9 月に通常運

用として営業投入開始、2018 年 2 月から座席指定種別運用

に投入することが出来た。

最後に、本システムの開発に際し、御指導・御協力頂き

ました関係各位に厚く御礼申し上げます。

【参考文献】

[1]京王電鉄「新型車両 5000 系について」

https://www.keio.co.jp/zasekishitei/special/abo

ut/index.html (2018/6)

*1:「イーサネット」、「ETHERNET」は、富士ゼロックス(株)

の登録商標

K-TIMS中央装置

K-TIMS端末装置

K-TIMS表示器

VVVF装置車上蓄電システム

K-TIMS端末装置

機器間情報

K-TIMS⇔機器間情報