国際犯罪に対する普遍管轄権の行使条件を巡る最近の展開
竹
内
真
理
目
次
はじめに
一
普遍管轄権の行使条件を巡る当初の混乱
二
司法・執行管轄権の行使条件を巡る最近の展開
―被疑者の所在を巡って
―
㈠
被疑者の所在を巡る国家実行と国際法上の評価
㈡
国内法規定の解釈適用過程における国際法の関与の可能性
おわりに
は
じ
め
に
ジェノサイドや人道に対する罪など、国際社会の共同体法益を侵害するような国際犯罪に対しては、領域、又は
被疑者や被害者の国籍のいずれの面においても犯罪とは直接の関連をもたない国であっても刑事管轄権を行使する
ことができる(このように、犯罪とは関連を持たない国による刑事管轄権を総称して普遍管轄権という)という見
解は、国際法の学説上、定着した見解となっている
(1)。
国家実行についても、同様の傾向を認めることができる。かつては普遍管轄権の有効性(validity
)自体が争わ
れ、時として裁判にいたることもあった。しかしながら、諸国家はもはや普遍管轄権そのものを否定してはいない。
『岡山大学法学会雑誌』第64巻第3・4号(2015年3月)467
七七
とりわけジェノサイドや人道に対する罪のような組織的かつ大規模な犯罪は、国家機関の関与を通じて行われる場
合がほとんどであり、したがって、犯罪行為地や被疑者の国籍国においては有効な訴追・処罰が期待できない場合
が多い
(2)。こうしたことから、国際犯罪に対する普遍管轄権の行使は、重大な犯罪の不処罰を放置しないための手段
として、その意義を認められるようになっている
(3)。
実際にも、多くの国がジェノサイド、人道に対する罪、戦争犯
罪、拷問など、国際犯罪として広く認められる犯罪について、国内法において普遍管轄権を設定するに至っている
(4)。
このような学説・実行の趨勢を反映して、普遍管轄権を巡る議論の中心は、普遍管轄権の根拠から、具体的事案
におけるその行使条件へと移ってきた。実際に、普遍管轄権行使の有効性が認められる一方で、その濫用や政治目
的での行使が懸念され、適正な行使を確保するための原理が模索されてきている
(5)。
もっとも、議論の進展は必ずし
もはかばかしいものとはいえない。その背景には、管轄権行使を「思慮深い(sensibl (
6)
e
)」ものとするために考慮
すべきであるとされる被疑者の所在(手続きの開始時に被疑者が自国領域内に所在すること)、補完性原則(領域国
や被疑者の国籍国が訴追の意思と能力を欠く場合に限って他国が権限を行使しうる)、及び免除規則といった各種考
慮事項
(7)について、その国際法上の位置づけや内容を巡って見解の一致が見られないことに加えて、実際にこれらの
考慮事項を巡る国家実行が多種多様であるといった事情が存在する。このような中で、上記考慮事項と国家実行と
を適切に関連付けることのできる評価枠組みを欠いたまま、議論が空転してしまっているように思われるのである。
以上の状況を踏まえて、本稿では、各種考慮事項に関する議論のうち、被疑者の所在を巡るものを取り上げて、
国家実行の現状とそれを巡る学説上の評価の問題点について整理し分析する。そのような作業を通じて、管轄権の
行使条件に関する評価枠組みの構築に向けての手がかりを得たいと考えている。以下ではまず、被疑者の所在とい
う要素についての議論の端緒を開くこととなった、不在型普遍管轄権を巡る議論及びその問題点について概観する。
その上で、被疑者の所在を巡る最近の国家実行を分析し整理することを試みる。
岡 法(64―3・4) 468
七八
一
普遍管轄権の行使条件を巡る当初の混乱
普遍管轄権の行使にあたって被疑者の所在が要件となるかどうかという論点は、コンゴ・ベルギー間の逮捕状事
件(8)を
きっかけとして提起されたものである。同事件においては、ベルギーがコンゴの現職の外務大臣に対して逮捕
状を発付し、国際的に回覧したことが問題となった。被疑者がベルギーの領域内に所在しない状況で逮捕状の発付・
回覧が行われたことから、このような管轄権行使が不在型普遍管轄権(universal jurisdiction in absentia
)という新
たな類型の管轄権主張であると捉えられ、その国際法上の合法性が問題とされたのである。
一方で、不在型普遍管轄権の合法性に否定的な立場の論者らは、この類型の管轄権を許容するような規則がいま
だ発達していないことを指摘する
(9)。
これに関して、許容規則の典型例として挙げられるのが、いわゆる「引渡し又
は訴追の義務(obligation aut dedere aut judicare
)」を設定するような条約である。これら条約は、一般に、まず、
締約国に対して、条約犯罪と領域や国籍の面で直接に関連をもつ場合に加えて、被疑者が所在するという以外に犯
罪とは関連をもたない場合であっても、裁判権を設定するよう義務づける(航空機不法奪取防止条約四条一、二
項)。さらに、被疑者が現実に領域内に所在する締約国は、上記関連国に引渡しを行わない場合には自国で訴追に向
けた手続きをとることを求められる(同条約七条)。後者の義務が、一般に「引渡し又は訴追の義務」と呼ばれるも
のである。このフォーミュラにおいては、被疑者の所在以外には犯罪と直接の関連を有しない国家であっても管轄
権行使の義務を負うのであり、この点が普遍管轄権行使の義務を締約国に課したものと捉えられている。この点、
義務の履行に当っては、被疑者の所在が前提とされているため、この立場に立つ論者らは、これらの条約において
は、不在型普遍管轄権は明示に排除されていると見るのである)
10(
。
国際犯罪に対する普遍管轄権の行使条件を巡る最近の展開469
七九
これに対して、不在型普遍管轄権に肯定的な立場に立つ論者らは、この種の管轄権行使は、少なくとも既存の規
則によって禁止されていないという。この立場においても、「引渡し又は訴追の義務」を設定する条約が、被疑者の
所在を義務の発生要件としていることに異論はない。すなわち、逮捕状事件におけるヒギンズ、コイマンス、バー
ゲンソール裁判官らの共同個別意見が認めるように、「(自国で)裁判に付さないことにした者を(他国に)引渡す
義務というのは、その者が領域内に所在して初めて生じる)
11(
」からである。しかしながら、このような義務は、必ず
しも不在型普遍管轄権を排除するものではない。同個別意見によれば、これらの条約の目的は国際犯罪の実行行為
者に対して広範な管轄権の行使を確保することにあり、したがって自発的な普遍管轄権の行使を排除するように解
釈されてはならないのである。敷衍すれば、このような不在型管轄権の行使は、管轄権を行使しようとする国家が
被疑者の所在を確保するために行う「公然の協力行為)
12(
」であり、それを違法とするような国際法の規則は存在しな
いのである)
13(
。
この見解は、一見して、禁止が存在しない場合に国家の行動の自由を広く推定するという、常設国際司法裁判所
におけるローチュス号事件の著名な説示と親和的であるように見える。もっともこれら論者の多くは、ローチュス
号事件の説示に反映された厳格な意思主義は今日ではもはや妥当しないということを前提としており)
14(
、禁止の不存
在というよりはむしろ国際犯罪の不処罰を防ぐという条約の
―あるいはより広く国際社会全体の
―共通目的
に照らして、このような行動の自由が解釈的に導かれるという理解に立っている点には注意が必要である。言い換
えれば、引渡し又は訴追の義務の制度は、義務の下限を定めたものに過ぎないのであり、そのような義務の範囲を
越える管轄権行使であっても、条約目的を達成するための国際的協力に資するものである限りにおいては許容され
るというのである。
以上のような見解の対立は、管轄権行使の評価を、許容規則が存在するかという実証主義的な観点から捉えるの
岡 法(64―3・4) 470
八〇
か、それとも共通目的を基軸としたある種の階層秩序の中に位置づけるのかという根本的な立場の違いを反映する
ものであって、それ自体重要な論点を提起するものであるといえよう。もっとも、不在型普遍管轄権に関する限り、
この論点に立ち入る必要はない。そもそも不在型普遍管轄権という概念自体が、規律管轄権(prescriptive
jurisdiction)と司法・執行管轄権(adjudicative/enforcement jurisdiction
)とを混同するものであって、誤謬の上
に成り立つものだからである)
15(
。ここで、規律管轄権とは、国内法の適用範囲を決定する国家の権限を指し、司法・
執行管轄権とは、具体的事案において国内法を適用しまたはその内容を実現する国家の権限
―ここには、裁判に
おいて法を適用して事案を処理することと、法の適用を前提に、強制捜査や逮捕などの強制措置または任意の事情
聴取や立入検査などの非強制的措置を講じることとが含まれる
―を指す)
16(
。そして国家がある事項に対して管轄権
を行使しうるかという問題は、主として、規律管轄権の有無に関わるものである。これを踏まえるならば、一方で、
規律管轄権の有無という観点からすれば、普遍管轄権というのは、その定義上、領域の面でも国籍の面でも管轄権
行使国との関わりを持たない行為に対して規律を及ぼすことなのであるから、被疑者の所在はそもそも想定されて
いない。他方で、不在型普遍管轄権を構成するとされる行為(被疑者が領域内に所在しない状況での逮捕状の発付、
その国際的な回覧など)は、司法・執行管轄権に分類されるべきものであり、したがってこれらは、犯罪行為の時
点で規律が及んでいることを前提に、その内容を実現する手続きであって、不在型の管轄権という独自の類型とし
て措定されるべきものではないのである。
なお、このような混同は、不在型普遍管轄権を巡る議論にとどまるものではない。実際に、「引渡し又は訴追の義
務」を義務的普遍管轄権(m
andatory universal jurisdiction
)と理解し、海賊に対してみとめられているような任意
的普遍管轄権(perm
issive universal jurisdiction
)と対比させて論じる見解が有力に唱えられている)
17(
。しかしなが
ら、「引渡し又は訴追の義務」は、具体的な事案において、被疑者が所在する国家に対して、引渡か自国での訴追か
国際犯罪に対する普遍管轄権の行使条件を巡る最近の展開471
八一
のいずれかの手続きを選択することを義務づけるものである。つまりこれは、規律の根拠が別途与えられているこ
とを前提とした、司法・執行レベルでの義務であって、それだけを取り出して(規律管轄権としての)普遍管轄権
と同一視すべきではないのである。
「引渡し又は訴追の義務」を普遍管轄権と同一視する論者は、領域内への所在という点以外に犯罪との関連がな
いことを以って、これを「普遍」管轄権であると形容する。しかしながら、このような理解に立つならば、犯罪行
為時ではなく、被疑者が入国した時点で規律の根拠が発生するということを認めるのに等しい。これは遡及処罰を
禁じる罪刑法定主義の観点からは認められないであろう。この点、「引渡し又は訴追の義務」方式を採用する条約
は、ほぼ一様に、「引渡し又は訴追の義務」の前提として、すべての締約国に対して条約犯罪を国内法化し、かつ被
疑者が所在という以外に関連を持たない場合であっても法を適用できるように裁判権を設定しておく義務を課して
いる。これによって、犯罪行為時に締約国による規律が及んでいる状況が作り出されるのであり、普遍管轄権設定
の義務は、むしろこちらの規定によって課されているとみるべきである。
以上のように、逮捕状事件を契機として生じた不在型普遍管轄権を巡る議論は、そもそも規律管轄権と司法・執
行管轄権との混同に基づくものであり、その下で、普遍管轄権の行使条件を巡る有益な検討がなされたとは言いが
たい状況にあった。もっとも、こうした混乱は収束に向かいつつあり、今日では指導的な地位を占める一般国際法
の教科書)
18(
や国際刑事法の教科書)
19(
において、あるいは学説)
20(
において、不在型普遍管轄権という概念自体の誤謬が指摘
されるに至っている。
しかしながら、このことによって、普遍管轄権との関連で被疑者の所在という要素を検討する意義が、まったく
失われてしまったわけではない。規律管轄権と司法・執行管轄権とを区別した上でなお、司法・執行管轄権の行使
にあたって被疑者の所在が求められるかを問うことは、可能だからである。実際に、今日では、ジェノサイド、人
岡 法(64―3・4) 472
八二
道に対する罪、戦争犯罪に対して、国内法で普遍管轄権を設定する国が増加しつつあるが、同時にこれらの国の多
くは、訴追や裁判の開始にあたって、すなわち手続きのいずれかの段階で、被疑者の所在を必要とする旨の規定を
設ける傾向にある。あるいは、明文で被疑者の所在が要件とされていない場合であっても、規定の解釈により又は
その運用上、被疑者の所在が必要とされている場合もある。このことは、司法・執行管轄権の行使において、被疑
者の所在はどの時点で何のために必要とされるのかという、新たな論点を提起し始めているのである。そこで以下
では、このような国家実行及び学説の動向を概観し、国際法学の立場からどのようにこれらの現象を評価すべきか
について、考察することとしたい。
二
司法・執行管轄権の行使条件を巡る最近の展開
―被疑者の所在を巡って
―
㈠
被疑者の所在を巡る国家実行と国際法上の評価
被疑者の所在という要素に関して、国内法規定は区々である。一方で、明文で、被疑者の所在を不要とする国内
法規定を設ける例がある。たとえば、ニュージーランドの二〇〇〇年の国際犯罪及び国際刑事裁判所法)
21(
は、ジェノ
サイド、人道に対する罪、及び戦争犯罪に対して普遍管轄権を設定しているが、同法八条一項⒞ⅲは、これら犯罪
については、「実行行為時または起訴時に被疑者が領域内に所在しているかどうかに拘わらず(regardless
of
whether or not the person accused w
as in New Zealand at the tim
e that the act constituting the offence occurred
or at the time a decision w
as made to charge the person w
ith an offence
)」手続きを開始することができる旨を規
定している。
他方で、多くの国内法規定やそれを巡る実行においては、被疑者の所在が要件とされている。このような傾向は、
国際犯罪に対する普遍管轄権の行使条件を巡る最近の展開473
八三
「引渡し又は訴追の義務」を設定する条約を実施するための国内法において、特に認められるものである。たとえ
ば、フランス刑事訴訟法六八九条の一は、六八九条の二から一〇に列挙する条約)
22(
上の犯罪をフランス領域外で行っ
た者に対して、フランスの裁判所が訴追し裁判を行うための要件として、その者が領域内に所在すること(se trouver
en France)を定めている。なお、この領域内の所在という文言は、ブラザヴィル海岸失踪事件)
23(
の破棄院判決)
24(
によっ
て厳格に解釈されており、それによれば、単なる住所や住居の保有では所在を認めるのには不十分であり、被疑者
自身が現実に領域内に滞在していることが求められる。
このような「引渡し又は訴追の義務」を課す条約の実施法においては、明文で被疑者の所在が要件とされていな
い場合であっても、裁判所による規定の解釈上、又は規定の運用上、所在が要件であることが導かれる場合もある。
たとえば、オランダの拷問禁止条約実施法は、被疑者の所在について何ら規定していないが、最高裁判所は、
Wijingaarde et al. v. Bouterse
事件において同法を解釈するに当たって、一九七〇年のヘーグ条約や一九七一年の
モントリオール条約を実施するための国内法が、国内裁判所の権限行使を被疑者の領域内の所在という要件に服せ
しめていることを参照し、これと同一の要件が、拷問禁止条約の実施法にも適用されると判示した)
25(
。また、デンマー
ク刑法八条五項は、条約により国外犯を処罰すべきこととされている罪を犯した者に対し、同規定を通じて既存の
刑法規定を適用することを可能にする包括規定であり、これにより、デンマークが締約国となっている拷問禁止条
約上の拷問行為やジュネーヴ諸条約の重大な違反に対して、普遍管轄権を行使することを可能にしてい)
26(
る)27(
。法令に
は司法・執行管轄権の行使条件について明文規定はないものの、人権NGOが捜査当局に対して行ったインタ
ビューでは、八条五項の実際の運用においては、捜査の開始にあたって被疑者が領域内に所在していることが要件
とされ、また捜査の遂行にあたっても被疑者の継続的な所在が要件とされていることが確認されている)
28(
。
普遍管轄権に基づく手続きにあたって被疑者の所在を要件とする傾向は、国際刑事裁判所規程を実施する国内法
岡 法(64―3・4) 474
八四
においても認めることができる。ところで、国際刑事裁判所規程は、締約国に対して、裁判所の管轄犯罪について
普遍管轄権を設定する義務を課しているわけではない。しかしながら、裁判所規程の批准に際して、少なくない数
の国が、裁判所の管轄犯罪であるジェノサイド、人道に対する罪、及び戦争犯罪を国内法化し、それらに対して属
地管轄権、属人管轄権に加えて普遍管轄権を設定している)
29(
。他方で、このような国内実施法の多くは、普遍管轄権
に基づく手続きを、被疑者の所在という要件に服せしめてもいる。たとえば、カナダの二〇〇〇年の人道に対する
罪及び戦争犯罪処罰法)
30(
は、人道に対する罪、ジェノサイド、及び戦争犯罪に対して裁判権を設定する一方で、八条
⒝では、これらの犯罪を普遍管轄権に基づいて訴追するための要件として、犯罪行為後のある時点で被疑者がカナ
ダに滞在していることを定めている(after the tim
e the offence is alleged to have been committed, the person is
present in Canada
)。この規定からは、犯罪行為後のどの時点で被疑者の所在が求められるかは必ずしも明確では
ないが、学説上は、この規定は、捜査又は訴追手続きの開始時に被疑者が領域内に所在していることを求めるもの
ではない一方、少なくとも犯罪行為後のいずれかの時点で被疑者がカナダに自発的に入域していることを求めるも
のであると解されている(ただし、欠席裁判は認められない)
31(
)。
また、南アフリカの二〇〇二年の国際刑事裁判所
規程実施法)
32(
四条三項⒞も、「南アフリカ裁判所の管轄権を確保するため([i]n order to secure the jurisdiction of a
South African court
)」の要件として、被疑者が、犯罪を行った後に共和国の領域内に所在していること(that person,
after the commission of the crim
e, is present in the territory of the Republic
)を挙げている。オランダにおいて
は、国際刑事裁判所規程の批准に際して、二〇〇三年に国際犯罪法)
33(
を制定し、ジェノサイド、人道に対する罪、戦
争犯罪に対して普遍管轄権を行使できるようにしているが、同法二条一項⒜は、同法を外国で外国人が行った犯罪
に適用する場合には、被疑者が領域内に所在することを必要とする旨定めている。
国際刑事裁判所規程の実施法で設定した普遍管轄権に関連して、最も詳細な行使条件を定めているのは、ドイツ
国際犯罪に対する普遍管轄権の行使条件を巡る最近の展開475
八五
である。ドイツでは、国際刑事裁判所規程を批准するにあたって二〇〇二年に制定した国際犯罪法典
(Völkerstrafgesetzbuch [V
StGB
)34(]
)
において、ジェノサイド、人道に対する罪、及び戦争犯罪に普遍管轄権を設
定しているが、その際に刑事訴訟法典(Strafprozeßordnung [StPO
]
)に一五三条f項を新たに追加して、管轄権
の行使条件を定めた。この規定によれば、被疑者が領域内に所在しているか又は所在が予期される場合には、公訴
の提起は義務的であるが、被疑者が所在していないか又は所在の見込みがない場合には、公訴の提起は任意であり、
その判断は検察官の裁量に委ねられることとなる。後者の場合には、公訴提起のみならず、公訴提起につながりう
る捜査もまた、開始されない可能性が高くなる。実際に、検察当局は、これまでに、被疑者がドイツ領域内に居住
していないか又は訪問する可能性がないことや)
35(
、被疑者が既にドイツから出国してしまっており再びドイツを訪れ
る可能性がほとんどないこと)
36(
を理由として、刑事訴訟法典一五三条f項の裁量を行使して、捜査の不開始を決定し
てきている。
以上、国家実行の一部を概観するだけでも、被疑者の所在の要件性を巡って、それらの内容は非常に多岐に渡っ
ていることが分かる。被疑者の所在を要件とするか否か自体について国家実行が分岐しているばかりでなく、実際
に所在を要件とする場合であっても、手続きのどの時点で被疑者の所在を必要とするか
―すなわち、捜査や訴追
の開始時に所在している必要があるのか、それとも裁判開始時でよいのか
―について国家実行の一致は見られな
いのである。なお、裁判の開始時に被疑者が法廷に出廷しなければならないとする点で、少なくとも国家実行は一
致を見せており、さらに、国家実行のガイドラインとなるべく策定された文書(普遍管轄権に関するプリンストン
原則)
37(
やアフリカ連合の下で作成された国際犯罪に対する普遍管轄権行使に関するモデル国内法)
38(
)にも、同様の傾向
を見て取ることができる。ただし、これらは、公正な裁判に対する権利の観点から、被告人に意見を陳述する機会
を与えるという人権上の要請に基づくものであって、管轄権の問題とは区別されるべきであることが指摘されてい
岡 法(64―3・4) 476
八六
る)39(
。
さて、以上のように国家実行は混沌とした状況にある。これをどのように評価すべきだろうか。一方で、これら
国内法規定やそれに付随する実行全てを等しく慣習法形成能力をもつ「慣行(practice
)」ととらえるのならば)
40(
、こ
の点に関する慣習国際法規則の内容は不明確であるとの結論を導かざるをえないであろう。
他方で、これら実行の重み付けに関しては、管轄権の法構造を考慮する必要があろう。この点、司法・執行管轄
権に関して明白かつ争いなく確立しているのは、国家は他国の領域内で司法・執行管轄権を行使することを禁止さ
れているというものである)
41(
。これは、国家が自国領域内での公権力の行使を独占していることの帰結であるともい
えるが、その裏返しとして、司法・執行管轄権の行使は、規律の根拠が確立していることを前提に、それが自国領
域内で行われている限り、少なくとも一般的な禁止に服するわけではない。他方で、免除規則により裁判権の行使
が制約を受けることからも伺われるように、自国領域内での司法・
執行管轄権行使であっても、個別の規則の制約
に服す可能性はある。したがって本稿の関心との関係で問われるべきは、司法・執行管轄権の行使にあたって被疑
者の所在を要件とする実行上の傾向は、このような個別の制約原理に基づくものなのか、ということであろう。
この点につき、第一に、自国領域内での司法・執行管轄権の行使を制約する原理を、他国の主権に求める見解が
ある。たとえば、ラフォンテーヌ(Fannie Lafontaine)は、被疑者の所在を国家との関連(link
)ととらえた上で、
このような関連は、他国の国内管轄事項への干渉とならないために必要とされるのだと説く)
42(
。この見解は、一般に
国家は、自国の管轄下にある個人(領域内にいる個人と自国民の双方を含む)に対して主権を主張しうるが、ひと
たびそのような自国の管轄を離れて他国の管轄下に自発的に入った者に対しては、もはやそのような主張を行いえ
ないという理解に立つものである)
43(
。もっともラフォンテーヌ自身は、この理解に立ったとしても、被疑者が不在の
状態で捜査を行うことは、内政干渉を構成しないと見ている。このような捜査は自国での訴追を目指したものとい
国際犯罪に対する普遍管轄権の行使条件を巡る最近の展開477
八七
うよりはむしろ、将来訴追を行う可能性のある国家に対して証拠保全などの面での支援を行うものであり、他国の
利益と対峙するものであるというよりはむしろ、協力的な措置とみるべきだからである。したがって内政干渉が問
題となり得るのは、訴追などの、手続きのより後の段階であるという。
確かに、域外行為に対する管轄権行使の合法性を内政不干渉原則に照らして判断しようとする見解は少なくない)
44(
。
しかしながら、このような形で内政不干渉原則を適用することは、規律管轄権と司法・執行管轄権とを混同するも
のであるといわねばならない。一般に、内政干渉の問題は、規律管轄権の行使が相手国の秩序に影響を与えるかと
いう観点から問われるべきものである。ラフォンテーヌの見解は、被疑者が自国領域内に所在する国家のみが、司
法・執行管轄権を実効的に行使することができるという事実を述べているのに過ぎない。管轄権の行使が違法な内
政干渉を構成するか否かは、司法・執行管轄権行使を通して実現される規律管轄権の内容により判断されるべきも
のである。反対に、規律管轄権の内容が違法な内政干渉を構成しないのであれば、自国領域内での司法・執行管轄
権の行使が、被疑者の所在地国や国籍国の主権を侵害するという事態は想定しえないであろう。
第二に、被疑者の所在が求められる根拠を、罪刑法定主義の要請に求めようとする見解がある。罪刑法定主義の
背景原理の一つである自由主義の原理によれば、法の禁止に服すべき個人は、何が禁止される行為であるかについ
ての予見可能性を確保されていなければならない。それによって、個人は自らの行為がもたらす結果を予見した上
で、それに基づき自らの行為を選択することが可能になるのである)
45(
。これを踏まえて、この見解に立つ論者は、一
方で、法の内容に関する予見可能性は、問題となる行為が行為時に国際犯罪として確立していること
―すなわち
個人を直接に拘束する規範によって禁止されていること
―により充足されるという)
46(
。他方で、罪刑法定主義の下
ではさらに、刑罰の内容に関する予見可能性
―すなわちどの程度の刑罰に服することになるのか
―も求めら
れる。刑罰の軽重も、行為の選択に影響するからである。もっとも、個人は自らの所在する国と国籍国以外の国の
岡 法(64―3・4) 478
八八
秩序に服しているとは考えられないから、一般に、それら以外の国における刑罰の内容を予見できるとはいえない。
この点を克服するために、被疑者の自発的な所在が求められるのだとされる)
47(
。すなわち、自発的な所在は、被疑者
が自ら管轄権行使国の秩序に服していることを擬制するものであり、これによって刑罰の内容に関する予見可能性
の要請が充足されることになる。
この説は、罪刑法定主義の観点から国外犯処罰の妥当性に新たな光を当てようとするものであるといえ、それ自
体として注目すべき見解であるといえよう。もっともここでの問題は、被疑者の所在以外の手段でも刑罰の予見可
能性を確保することは可能であり、したがって、被疑者の所在は刑罰の予見可能性の必要条件ではないという点に
ある。この説の主導者であるガエタ(Paola Gaeta
)自身が認めるように、刑罰の予見可能性は、犯罪行為地国の刑
罰の内容を参照し適用することで、別途充足されうる)
48(
。実際に受動的属人主義の例においては、加害者は被害者の
国籍国の刑罰内容を一般に予見できるとはいえないことから、各国の国内法においては、犯罪行為地国の刑罰を適
用するとか、犯罪行為地国と自国の刑罰の内容を比較し、軽い方の刑罰を適用するといった手当てが行われてきて
いる)
49(
。これにより、引渡しなど、被疑者の自発的な所在によらない手段によって身柄を確保する場合であっても、
罪刑法定主義の要請に反することなく法を適用することができるのである。そうだとすれば、被疑者の自発的な所
在は、罪刑法定主義の要請を充足するための一つの要素であるとはいいうるであろうが、司法・執行管轄権の行使
にあたっての必要条件であるとまではいえないということになる。
以上のように、被疑者の所在の要請を、既存の原理や原則に根拠付けて説明することは困難である。したがって、
ニュージーランドの国際犯罪及び国際刑事裁判所法に定めるように、被疑者が所在しない状況での公訴の提起は、
国際法上禁止されているわけではない。他方で、たとえばデンマークの実行のように、捜査の開始時といった手続
きの初期の段階において被疑者の所在を要求することもまた、国際法の観点からは問題とはならない。これらの実
国際犯罪に対する普遍管轄権の行使条件を巡る最近の展開479
八九
行は、「引渡し又は訴追の義務」を設定する条約を実施するものであり、「引渡し又は訴追の義務」は、被疑者の所
在を契機として捜査及びそれに続く措置をとることを課すものであって、締約国は条約が定める義務以上のことを
行う必要はないからである。
このように、司法・執行管轄権の行使のいずれかの段階における被疑者の所在は、国際法が定める要件ではない。
欠席裁判の禁止を除いて、国際法はこの点について直接に禁止も許容もしていないのである。すなわち、手続きの
開始にあたって被疑者の所在を要件とするか否か、又は手続きのどの段階において被疑者の所在を要件とするかは、
国家が自由に選択しうるものであって、国家実行が多岐に渡るという事実は、そうした国家の選好の結果を反映し
ているのに過ぎない。そして、被疑者の所在について規定した国内法は、主として当該国家の憲法秩序に照らして
解釈適用されることになる。
もっともそのような国内法の解釈適用過程において、国際法が参照される可能性は依然として残っている。とり
わけ、被疑者の所在との関連では、関連する国内法が捜査の開始に関して明文規定をおいていないか、又はその判
断を行政機関の裁量に委ねていることが多い。こうしたことから、国内裁判所による規定の解釈適用又は行政機関
の判断に対する司法審査という形で、被疑者の不在を理由とした捜査の不開始の妥当性が問われるケースが出始め
ている。特に最近の南アフリカ憲法裁判所の判決は、国際法に大きく依拠して判断を下している点で、注目に値す
る。そこで以下では、同判決を手がかりとしながら、国内法規定の解釈適用過程における国際法の関与の可能性に
ついて考察することとしたい。
㈡
国内法規定の解釈適用過程における国際法の関与の可能性
国内法規定の解釈適用過程における国際法の関与の可能性を検討する上で参考になるのは二〇一四年一〇月三〇
岡 法(64―3・4) 480
九〇
日の南アフリカ憲法裁判所判決)
50(
である。本件は、ジンバブウェ警察がジンバブウェにおいて行った拷問行為(政府
与党の野党に対する組織的な弾圧の一部とされる)について、人権団体が南アフリカ当局に捜査開始請求を行った
のに対し、当局が捜査の不開始を決定し、人権団体がこれを不服として申立てを行ったものである。本件で特徴的
なのは、憲法裁判所が、国際刑事裁判所規程の補完性原則及び拷問の絶対的禁止から、普遍管轄権行使の義務を導
いていることであり)
51(
、さらにそのような国際法上の義務を履行するのは自国の法執行機関であるとして、域外で行
われた拷問行為を捜査する義務を、警察機関に対して憲法が課す捜査義務でもあるとしていることである)
52(
。このよ
うに拷問行為の捜査が国際法上も国内法上も義務であると解されることによって、警察当局には、捜査開始の決定
に際しての裁量が否定されることになる)
53(
。
もっともこのような普遍管轄権行使の義務の履行は無制限に求められるものではなく、内在的・外在的な制限に
服する。この点につき憲法裁判所は、一方で、内在的な制限としては、国際刑事裁判所規程実施法四条三項⒞で、
「裁判所の管轄権を確保する」ための要件とされている被疑者の所在を挙げる。この規定は裁判所の管轄権の限界
を示したものであるが、域外で行われた国際犯罪の捜査の義務については沈黙している)
54(
。この点、国際法学におけ
る議論では、少なくとも捜査についていえば被疑者の所在は必要ではないという見解が有力である。これは憲法が、
被疑者は「裁判を受ける際に所在していなければならない(to be present w
hen being tried
)」と定めていることと
も合致する。以上により裁判所は、域外で行われた国際犯罪に対する普遍管轄権の行使は、憲法及び国際法に反す
ることなく、被疑者不在のままで行うことができる)
55(
と結論する。
憲法裁判所はさらに、普遍管轄権の義務に対する外在的な制限として、補完性原則(the principle of subsidiarit
)56(y
)
と権限行使の現実性(practicabilit
)57(y
)
の二つを挙げている。ここで、被疑者が領域内に所在する可能性は、犯罪行
為地への地理的近接性及び被疑者の逮捕の可能性、証拠収集の展望などと並んで、権限行使の現実性を判断するた
国際犯罪に対する普遍管轄権の行使条件を巡る最近の展開481
九一
めの要素となっている。もっともこれら全ての関連要素は、警察当局による捜査の不開始の判断の合理性を司法審
査するために挙げられているものであり、警察当局が捜査の開始にあたって裁量の範囲内で考慮する要素ではない
ことに注意が必要である。実際に裁判所は、警察当局による捜査不開始の決定の理由の詳細に立ち入って検討を行
い、いずれも正当化事由とはならないと結論している。
以上のように、南アフリカ憲法裁判所の判決は、拷問行為に対する普遍管轄権の行使を国際法上の義務と位置づ
けることによって、捜査の開始の決定に関する行政機関の裁量を制約し、その判断に対する詳細な司法審査を可能
としている。その結果、憲法裁判所は警察機関による捜査不開始の決定を退け、職権で捜査開始を命じている。
この南アフリカ憲法裁判所判決は、国内法の解釈適用過程に対する国際法の直接的な関与の可能性を示すもので
あり、注目すべきアプローチであるといえよう。もっとも、このようなアプローチの一般化可能性には、慎重でな
ければならない。このアプローチが前提とする普遍管轄権行使の義務は、国際刑事裁判所規程に定める補完性原則
と拷問禁止の強行規範性から導かれている。しかしながら、第一に、そもそも国際刑事裁判所規程の締約国が負う
こととなる義務は、①国際刑事裁判所への協力(逮捕、引渡し、証拠の提供等)について国内法で担保すること、
②国際刑事裁判所における裁判の運営を害する犯罪(偽証、証拠隠滅等)に関し、自国の国内法でも同犯罪を処罰
できるようにすること、③分担金を支払うことである)
58(
。この点で、補完性原則は、締約国が訴追・処罰を行なう限
りにおいて裁判所が介入しないことを定めたものであって、裁判所の管轄犯罪を訴追・処罰する義務を締約国に課
すものとはいえない)
59(
。また、拷問が強行規範であることはもはや争いなく認められているが、その一方で学説・判
例は、拷問の強行規範性から、普遍管轄権の義務ではなく権利(entitlem
ent
)を演繹する傾向にある)
60(
。むろん、国
際刑事裁判所規程の補完性原則と拷問禁止の強行規範性は、いずれも、国家が拷問に対する普遍管轄権の行使を義
務であると解釈することを妨げるものではない。しかしながら、いずれにせよ、このような解釈は一般的であると
岡 法(64―3・4) 482
九二
はいえないであろう。
実際に、多くの国では、被疑者が不在の場合の捜査開始の決定を行政機関の裁量に委ねており、南アフリカ憲法
裁判所のようなアプローチが取られる可能性は極めて低い。その典型例ともいえるドイツの刑事訴訟法典一五三条
f項は、被疑者が所在していないか又は所在の見込みがない場合には、公訴の提起は任意であると定めており、し
たがって、被疑者が不在の状況で捜査の不開始が決定された場合には、司法審査が及ぶ範囲は限定的なものとなら
ざるをえない。たとえば、イラクのアブグレイブ刑務所における被拘禁者らの非人道的取り扱いについて、ラムズ
フェルド元米国防長官らに対して告訴が提起された事件の第二段階で、検察官は、被疑者らがドイツ領域内に居住
していないか又は訪問する可能性がないことを理由として、捜査の開始を却下した)
61(
。これに対して行われた不服申
立手続きにおいて、シュトゥットガルト高等裁判所の決定)
62(
は、申立人らが主張したようなラムズフェルドのドイツ
訪問の可能性自体は否定しえない一方で、それはさらなる具体的な証拠によって示されねばならないと述べて、被
疑者の所在の可能性に関する厳格な立証責任を申立人の側に課している。また、本件が検察官の裁量の行使に関す
るものであることから、司法審査が及ぶのは、法の解釈適用に誤りがないことに加えて、検察官が慎重な検討を行っ
ていること、全ての論点を適切に検討していること、及び恣意的に権限を踰越していないことの確認にとどまり、
それ以上の司法審査を行うことができないとしている。
以上のように、捜査開始の決定を行政機関の裁量に委ねている制度においては、被疑者が不在の状況下での捜査
の不開始の決定に関して、行政機関の裁量が制約される余地はほとんどないといってよく、したがって司法審査の
範囲は極めて限られたものとなる。
とはいえ注目すべき展開も見られる。ドイツでは、二〇〇九年に、ジェノサイド、人道に対する罪、戦争犯罪を
専権的に扱うための特別部門が連邦検察局内に設置され、それに伴い、これら犯罪の公訴提起に関する検察官の裁
国際犯罪に対する普遍管轄権の行使条件を巡る最近の展開483
九三
量が狭められることとなった。すなわち被疑者が所在しない場合であっても、検察官が公訴提起に関する裁量を行
使することができるのは、さらに被害者及び証人が所在しておらず、かつ被疑者がドイツを訪れる可能性が全くな
い場合に限定されることとなっている)
63(
。これにより、被疑者が所在していない場合でも、被害者が所在していれば
公訴提起に関する裁量が制約されることとなり、また被疑者の将来的な所在の見込みに関する立証基準が緩和され
ることとなる。これは、一見して、国際法とは無関係な要素による裁量の制約であるように見えるかもしれない。
しかしながら、ヨーロッパ人権裁判所においては、重大性を持つ人権の侵害の事案において、効果的な捜査が行わ
れなかった場合に、条約の二条(生命に対する権利)及び一三条(効果的な救済)の双方の違反を認定する判例が
蓄積しており)
64(
、これは効果的な救済を受ける権利の一つとしての、被害者の「捜査に対する権利」を認めるもので
あると評価されている)
65(
。詳細な検討は稿を改めねばならないが、このような推移は、国際人権法分野における被害
者の「捜査に対する権利」の生成発展を通じて、捜査の不開始に関する行政機関の裁量が制約されつつあるプロセ
スを示しているとも言え、その意味で、間接的なものではあるが、国内法規定の解釈適用過程における国際法の関
与の可能性を示すものであるといえよう。
お
わ
り
に
今日では、ジェノサイド、人道に対する罪、戦争犯罪のようないわゆる国際犯罪に対して、多くの国が国内法に
おいて普遍管轄権を設定するに至っている。それに伴い、普遍管轄権を巡る議論は、規律管轄権の根拠が確立して
いるかという問題から、具体的事案における司法・執行管轄権の行使がどのような条件に服するのかという問題へ
と移ってきている。
岡 法(64―3・4) 484
九四
もっとも、本稿の検討によって明らかになったように、管轄権国の領域内で行使される限りにおいて、普遍管轄
権に基づく司法・執行管轄権の行使が国際法上の禁止に触れる可能性は
―免除規則に触れる場合を除き
―ほ
とんどない。一部の国の普遍管轄権行使が国際的な摩擦を引き起こしたのは、その多くが現職の政府高官に対する
ものであったからであり)
66(
、そこで問題とされていたのは、もっぱら免除侵害であった)
67(
。他方で、このような国際的
な摩擦の結果として、国家は普遍管轄権の行使に慎重になりつつあり、必ずしも国際法によって要請されているわ
けではない制約を国内法規定において定めたり、手続き開始の判断を行政機関に委ねたりする傾向にある。
以上を踏まえるならば、今後の議論の焦点は、普遍管轄権の行使条件について定めた国内法規定を、具体的場面
においていかに解釈適用していくのか、その際に国内機関相互の権限配分をどのように考えるのか、という国内平
面での実施過程に移っていくと思われる。この点で、第一に、本稿でも試論を試みたように、国際法学においては、
国内法規定の解釈適用や国内機関相互の権限配分のあり方に国際法規則がいかに関わりうるのかという点が、今後
の課題となるだろう。さらに第二に、国内法規定の解釈適用を外在的に制約しうる「内政不干渉原則」や「補完性
原則」といった、一見して国際法上の原則と考えられる原則や考慮についても、これらをどのように国内法の解釈
適用過程に取り込んでいくのかということが課題となると考えられる。これらを踏まえるならば、第三に、今後国
際法と国内法の協働といった視点がより一層重要になると考えられるが、この点、国際法学の側では、管轄権の権
原や配分の問題は国際法によって扱われるとの考え方が支配的である)
68(
のに対し、国内法学の側では、管轄権の権原
は国家主権であり、国家は他の国の主権を侵害しない限り自由に管轄権を行使しうるとする考え方が一般的である)
59(
。
いわば、両者は「同床異夢」の状態にあるといえよう。こうした概念のずれを修正していく作業も、今後は必要に
なってくるだろう。これらを今後の課題として、本稿の結びとしたい。
国際犯罪に対する普遍管轄権の行使条件を巡る最近の展開485
九五
(1) T
he American Law
Institute, Restatem
ent (Third) of the Foreign R
elations Law of the U
nited States (1987),402,
comments c-g,
404, comments a-b,
423 ; Princeton Project on Universal Jurisdiction, T
he Princeton Principles on Universal Jurisdiction (2001), Principle 1 (2), and Principle 2 (1) ; Institut de droit international, Resolution on U
niversal crim
inal jurisdiction with regard to the crim
e of genocide, crimes against hum
anity and war crim
es (2005), Article 3 (a) ;
Council of the European Union, T
he AU-EU Expert Report on the Principle of U
niversal Jurisdiction, 8672/1/09 REV 1
(2009), para. 9 ; R. Cryer, Prosecuting International Crimes (Cam
bridge University Press, 2005), at 93 ; M
. Langer, スUniversal Jurisdiction as Janus-Faced : T
he Dual N
ature of the German International Crim
inal Codeセ, 11 Journal of International Crim
inal Justice (2013) 737-762, at 738.
(2) P.
Gaeta, スInternational
Criminalization
of Prohibited
Conductセ, A. Cassese
(ed.), The Oxford
Companion
to International Crim
inal Justice (Oxford U
niversity Press, 2009) 63-74, at 63.
(3)
実際に、国連総会の第六委員会で「普遍管轄権の射程と適用」の議題の下で二〇〇九年から続けられてきている審議におい
ての国家発言を見ると、普遍管轄権を不処罰の不許容のための「手段」や「メカニズム」といった概念で捉えるものが多い。
Czech Republic (U.N
. Doc.A
/C.6/65/SR.11,paras.16-17), N
etherlands (U.N
. Doc.A/C.6/66/SR.13, paras. 46-47) ;
Democratic Republic of the Congo, (U
.N. Doc. A
/C.6/65/SR. 11, paras. 29-31).
(4) A
mnesty International, U
niversal Jurisdiction : A Prelim
inary Survey of Legislation Around the W
orld
―2012 Update
(2012), Index Number : 53/019/2012.
(5) Report of the Secretary-General on the scope and application of the principle of universal jurisdiction, U
.N. Doc.
A/65/181 (29 July 2010), para. 9.
(6) A
. Cassese, スIs the Bell Tolling for U
niversality? A Plea for a Sensitive N
otion of Universal Jurisdictionセ, 1 Journal of
International Criminal Justice (2003) 589-595, at 589.
(7) Ibid., at 591-594.
(8) Arrest W
arrant of 11 April 2000 (D
emocratic R
epublic of the Congo v. Belgium), Judgm
ent, 14 February 2002, ICJ Reports 2002, 3.
(9) L. Reydam
s, Universal Jurisdiction (2003), at 224 ; S. Y
ee, スUniversal Jurisdiction : Concept, Logic and Realityセ, 10
Chinese Journal of International Law (2011) 503-530, at 529-530.
(10) A
rrest Warrant of 11 A
pril 2000 (Democratic R
epublic of the Congo v Belgium), O
pinion individuelle de M. Guillaum
e,
岡 法(64―3・4) 486
九六
président, ICJ Reports 2002, at 39-40 (para. 9).
(11) A
rrest Warrant of 11 A
pril 2000 (Democratic R
epublic of the Congo v Belgium), Joint Separate O
pinion of Judges Higgins, K
ooijmans and Buergenthal, ibid., at 80 (para. 57).
(12) Ibid., at 80 (para. 58).
(13)
ワインハルト・アドホック裁判官の個別意見は、同様に、不在型の普遍管轄権は禁止されていないとの前提に立ちつつ、さ
らにジュネーヴ諸条約に含まれる重大な違反の処罰規定に特に注意を喚起し、この規定の構造は訴追を主たる義務とし、引渡
しをあくまで訴追に付随するものとしているのであって(prim
o prosequi, secondo dedere
)、もはや文言上も被疑者の所在は
要件とはされていないという。A
rrest Warrant of 11 A
pril 2000 (Democratic R
epublic of the Congo v Belgium), D
issenting Opinion of van den W
yngaert, ibid., at 170 (para. 54).
(14) A
rrest Warrant of 11 A
pril 2000 (Democratic R
epublic of the Congo v Belgium), Joint Separate O
pinion of Judges Higgins, K
ooijmans and Buergenthal, ibid., at 80 (para. 57).
(15) R. O
セKeefe, スU
niversal Jurisdiction : Clarifying the Basic Concept,セ 2 Journal of International Court of Justice (2004) 735-760.
(16) Cf. P. Gaeta, スT
he Need Reasonably to Expand N
ational Criminal Jurisdiction over International Crim
esセ, in Antonio
Cassese (ed.), Realising U
topia (Oxford U
niversity Press, 2012) 596-606, at 601.
(17)
山本草二『国際刑事法』(三省堂、一九九一年)一六二頁。
(18) J. Craw
ford, Brownlieセs Principles of Public International Law
(8th edn, Oxford U
niversity Press, 2012), at 469.
(19) R. Cryer et al., A
n Introduction to International Criminal Law
and Procedure (3rd edn, Cambridge U
niversity Press, 2014), at 58.
(20) F. Lafontaine, スU
niversal Jurisdiction
―the Realistic Utopiaセ, 10 Journal of International Crim
inal Justice (2012) 1277-1302, at 1280, note 20.
(21) New Zealand, International Crim
es and International Criminal Court A
ct 2000, Public Act 2000 N
o 26.
(22)
これらの条約は、拷問禁止条約、航空機不法奪取防止条約など、いずれも普遍管轄権の設定を義務づけるとともに、「引渡
し又は訴追の義務」を課すようなものである。
(23)
本件は、コンゴ民主主義共和国からコンゴ共和国への帰還の途中で、難民が大量に失踪した事件(disparus du Beach
)をコ
ンゴ共和国の高官らの関与によるものだとして、国際的な人権NGO(Fédération Internationales des ligues des droits de
国際犯罪に対する普遍管轄権の行使条件を巡る最近の展開487
九七
lセhomme : FID
H
)がフランス司法当局に告訴を提起したものである。国内手続の進展については、以下を参照。FID
H : Affaires
des ススdisparus de Beachセセ : Récaptulatif des procedures (décem
bre 2001-novembre 2007), available at http://w
ww.fidh.org/.
(24) A
rrêt, la Cour
de cassation,
chambre
criminelle,
9 avril
2008, available
at http://w
ww.fidh.org/IM
G/pdf/ArretCCBeach9avril08_exp.pdf.
(25) W
ijingaarde et al. v. Bouterse, Decision on A
ppeal in cassation in the interest of the law, Suprem
e Court of the Netherlands, 18 Septem
ber 2001, 4 Yearbook of International H
umanitarian Law
(2001), at 721-722 (paras. 8.3-8.4).
(26) H
uman Rights W
atch, Universal Jurisdiction in E
urope : The State of the A
rt, Vol. 18, N
o. 5 (D) (2006), at 46.
(27)
なお、日本の刑法四条の二は、デンマーク刑法八条五項と同種の規定ぶりを採用している。日本の刑法四条の二の概要につ
いて、曽根威彦「国外犯規定の改正について」『法学教室』七九号(一九八七年)一二九―一三二頁
;M. Takeuchi,
スImplem
entation of Conventions Requiring State Parties to Establish Jurisdiction Over Extraterritorial Crim
es
―Enactment
of Article 4-2 of the Japanese Penal Code,セ 56 Japanese Y
earbook of International Law (2014) 338-356.
同種の規定ぶりを採
用する他の国内法規定には、オーストリア刑法六四条一項六号、イタリア刑法七条五号、ブラジル刑法七条二項a号がある。
(28) H
uman Rights W
atch, Universal Jurisdiction in E
urope : The State of the A
rt, Vol. 18, N
o. 5 (D) (2006), at 46-47.
(29) A
mnesty International, supra note 4.
なお、日本は、国際刑事裁判所規程の批准に当たって、裁判所の管轄犯罪の処罰に関しては新規立法を行っていないが、そ
の理由は次のように説明されている。「国際刑事裁判所規程においては、集団殺害犯罪などの対象犯罪を各締約国が犯罪化す
ることは義務付けられていないが、ほとんどの対象犯罪が、現行国内法において、殺人罪、傷害罪、逮捕監禁罪等として処罰
が可能である。なお、対象犯罪の一部について、我が国が処罰できない可能性は理論上はあり得るが、国際刑事裁判所が実際
に管轄権を行使するのは十分な重大性を有する事案のみであるため、そうした可能性は実際には想定できない」。第一六六回
国会衆議院本会議録第一五号一一―一二頁(平成一九年三月二〇日)。
(30) Canada, T
he Crimes A
gainst Humanity and W
ar Crimes A
ct, S.C. 2000, c. 24.
(31) Lafontaine, supra note 20, at 1285.
(32) South A
frica, Implem
entation of the Rome Statute of the International Crim
inal Court, Act 27 of 2002.
(33)
国際犯罪法の概要について、M
. Boot-Mattihijssen and R. van Elst, スK
ey Provisions of the International Crimes A
ct 2003セ, 35 N
etherlands Yearbook of International Law
(2004) 279-286.
(34) V
ölkerstrafgesetzbuch (VStGB). 2002, Bundesgesetzblatt (BGBl) T
eil I, at 2254.
同法の概要について、S. W
irth,
岡 法(64―3・4) 488
九八
スGermanyセs N
ew International Crim
es Code : Bringing a Case to Courtセ, 1 Journal of International Criminal Justice (2003)
151-168, at 152-160.(35) W
. Kaleck, スFrom
Pinochet to Rumsfeld : U
niversal Jurisdiction in Europe 1998-2008セ, 30 Michigan Journal of
International Law (2008-2009) 927-980, at 953.
(36) S. Zappalà, スT
he German Federal Prosecutorセs D
ecision not to Prosecute a Former U
zbek Ministerセ, 4 Journal of
International Criminal Justice (2006) 602-622, at 604.
(37)
プリンストン原則は、一条二項で、裁判所による権限行使の条件として、被疑者の法廷への出席を定めているが、同時に一
条三項では、普遍管轄権を行使しようとする国が、普遍管轄権を引渡請求の根拠とすることができる旨を規定している。両者
を併せ読むならば、欠席裁判は認められないが、裁判の前提としての被疑者の身柄確保のための一連の手続き(捜査、逮捕状
の発付、引渡請求など)は、被疑者が不在の状況下でも行いうると解されよう。The Princeton Principle on U
niversal Jurisdiction (2001), at 28.
(38)
モデル国内法は、裁判所の権限行使を、裁判開始時に被疑者が領域内に所在することという要件に服せしめており、欠席裁
判を明示に排除している。A
frican Union M
odel National Law
on Universal Jurisdiction over International Crim
es, adopted in the M
eetings of Government Experts and M
inisters of Justice/Attorneys General on Legal M
atters, 7 to 15 May 2012,
EXP/M
IN/Legal/V
I.
(39) R. Cryer et al, A
n Introduction to International Criminal Law
and Procedure (3rd edn, Cambridge U
niversity Press, 2014), at 58. See also, C. K
reß, スUniversal Jurisdiction over International Crim
es and the Institut de Droit Internationalセ,
4 Journal of International Criminal Justice (2006) 561-585, at 579.
(40)
国連国際法委員会における「慣習法の同定」の審議の特別報告者であるウッド(M
ichael Wood
)は、二〇一四年の第六六会
期に提出した第二報告書において、慣行の間には基本的に序列がないという立場をとっており、同会期において起草委員会で
採択された結論草案も、基本的にこの立場を踏襲している(なお、同会期においては全ての草案の審議を終えることができな
かったため、全体会合での採択は次会期に先送りされている)。M
. Wood, スSecond report on identification of custom
ary international law
セ, U.N
. Doc. A
/CN.4/672 (2014), D
raft Conclusion 8 (para. 51).
(41)
他国領域内での司法・
執行管轄権の行使の禁止は、常設司法裁判所のローチュス号事件判決において確立した原則として提
示されたものであるが、激しい見解の対立を呼んだ規律管轄権を巡る説示とは異なって、今日に至るまで受け入れられ続けて
きている。T
he Case of the S. S. スLotusセ (France v. Turkey), Judgm
ent, 7 September 1927, 1927 PCIJ Series A
, No. 10,
国際犯罪に対する普遍管轄権の行使条件を巡る最近の展開489
九九
at 18. See also, Crawford, supra note 18, at 477.
(42) Lafontaine, supra note 20, at 1284.
(43) Ibid., at 1286.
(44) D
.W. Bow
ett, スJurisdiction : Changing Patterns of Authority over A
ctivities and Resources,セ 53 British Yearbook of
International Law (1982) 1-26, at 16-18 ; D
.J. Gerber, スBeyond Balancing : International Law Restraints on the Reach of
National Law
s,セ 10 Yale Journal of International Law
(1984-1985) 185-221, at 212.
(45) A
. Cassese and P. Gaeta (rev.), Casseseセs International Criminal Law
(Oxford U
niversity Press, 2013), at 28.
(46) P. Gaeta, スT
he Need Reasonably to Expand N
ational Criminal Jurisdiction over International Crim
esセ, in A. Cassese
(ed.), Realising U
topia (Oxford U
niversity Press, 2012) 596-606, at 602.
(47) Ibid.
(48) Ibid., at 602-603.
(49) M
. Takeuchi, スPassive Personality Principle in the Japanese Penal Code,セ 54 Japanese Y
earbook of International Law
(2012) 418-433, at 432.
(50) N
ational Commissioner of the South A
frican Police Service v Southern African H
uman R
ights Litigation Centre and Another
[2014] ZACC
30, 30 October
2014, available
at : http://41.208.61.234/uhtbin/cgisirsi/20141030161730/
SIRSI/0/520/J-CCT02-14.
なお、本件の第一審である高等裁判所(H
igh Court
)、及び第二審である最高控訴裁判所(Suprem
e Court of A
ppeal
)のいずれも、不開始の決定に対する司法審査が可能であるとした上で、それぞれ理由付けは異なるものの、
捜査の不開始の決定を退ける判断を下している。
(51) Ibid., paras. 30-40.
(52) Ibid., para. 50.
ここで関連する憲法規定として挙げられているのは憲法二〇五条三項であり、それによれば警察機関の任
務は、犯罪の防止、撲滅、捜査、公の秩序維持、国民及びその財産の保護、安全の確保、法の維持及び執行であるとされてい
る。
(53) Ibid., 55.
憲法一七九条二項の下で与えられる権限の行使であれば、手続を開始するにあたって警察機関の裁量が認められ
る一方、憲法二〇五条三項には権限という文言がないことが指摘されている。
(54) Ibid., para. 43.
(55) Ibid., para. 48.
岡 法(64―3・4) 490
一〇〇
(56) Ibid., paras. 61-62.
ただし、裁判所の提示する補完性原則の内容として挙げられているのは、①対象と管轄権の淵源との間
の実質的かつ真の関連、②不干渉原則、③管轄権国の側の訴追の意思と能力の欠如の三つであり、やや混乱が見られる。いず
れにせよ、補完性原則については、稿を改めて論じることとしたい。
(57) Ibid., paras. 63-64.
(58)
中内康夫「我が国の国際刑事裁判所(ICC
)加盟と今後の課題」『立法と調査』二六六号(二〇〇七年)二七頁。
(59) S. N
ouwen, Com
plementarity in the Line of Fire (Cam
bridge University Press, 2013), at 36-40.
(60) Prosecutor v. Furundžija, IT
-95-17/1-T, Trial Cham
ber, Judgment, 10 D
ecember 1998, para. 153.
(61) K
aleck, supra note 35, at 953.
(62) Center for Constitutional Rights et al. v. Donald Rum
sfeld et al., Higher Regional Court of Stuttgart, Case N
o. 5 Ws
21/09, Decision of 21 A
pril 2009, available at http://ccrjustice.org/files/Stuttgart%20Appeals%
20Court%20Decision%
20Rum
sfeld%20Case%
20-%20EN
.pdf.
(63) H
uman Rights W
atch, The Legal Fram
ework for U
niversal Jurisdiction in Germany (2014), at 7.
(64) K
aya v. Turkey, A
pp. Nos. 158/1996/777/978, ECtH
R, Judgment of 19 Febrary 1998, para. 107 ; Case of Beitiyeva and
X v. Russia, A
pp. Nos. 57853/00 and 37392/03, ECtH
R, Judgment of 21 June 2007, para. 156.
(65) A
. Seibert-Fohr, Prosecuting Serious Human R
ights Violations (O
xford University Press, 2009), at 124-126.
もっとも
この捜査に対する権利は、訴追を求める権利と混同されてはならない。訴追を求める権利は少なくともヨーロッパ人権裁判所
の判例においては否定されてきている。
(66) S. Sm
is and K. Van der Borght, スIntroductory N
ote to the Act Concerning the Punishm
ent of Grave Breaches of International H
umanitarian Law
(10 Febrary 1999)セ, 38 International Legal Material (1999), at 920.
(67) R. O
セKeefe, スD
omestic Courts as A
gents of Developm
ent of the International Law of Jurisdictionセ, 26 Leiden Journal of
International Law (2013) 541-558, at 555.
(68) V. Low
e and C. Staker, スJurisdictionセ, in M. Evans (ed.), International Law
(3rd edn, Oxford U
niversity Press, 2010), at 313 ; B. Sim
ma and A
. Müller, スExercise and lim
its of jurisdictionセ, in Crawford and K
oskenniemi (ed.), T
he Cambridge
Companion
to International
Law (Cam
bridge University
Press 2011),
at 134
;
その例外として、J.
dセAsprem
ont, スMultilateral V
ersus Unilateral Exercises of U
niversal Criminal Jurisdictionセ, 43 Israel Law
Review
(2010) 301-329, at 301.
(69)
興味深いことにこれは、国内法学者が国際法学者の間での管轄権理解と捉えているものでもある。G. Binder, スA
uthority to
国際犯罪に対する普遍管轄権の行使条件を巡る最近の展開491
一〇一
Proscribe and Punish International Crimesセ, 63 U
niversity of Toronto Law
Journal (2013) 278-309, at 289.岡 法(64―3・4) 492
一〇二