認知症の予防と対応〜頭と⾝体を使いましょう〜
千葉科学⼤学市⺠公開講座平成26年10⽉26⽇(⽇)千葉科学⼤学 看護学部 安藤智⼦
主な内容認知症の種類と原因認知症の危険因⼦と保護因⼦⽇常⽣活を振り返ってみましょう健康寿命を延ばすためのライフプラン認知症と告知されたら家族が認知症になったとき
認知症の種類と原因
原 因 種 類変性 アルツハイマー病、レビー⼩体型認知症
前頭側頭型認知症など虚⾎・出⾎動脈硬化
脳⾎管性認知症
外傷 慢性硬膜下⾎腫など
感染 髄膜炎、脳炎、梅毒、エイズなど
腫瘍 脳腫瘍、癌性髄膜炎など
髄液循環異常 正常圧⽔頭症など
内分泌異常 甲状腺機能低下症、下垂体機能低下症など
栄養障害等 アルコール中毒、ビタミンB12⽋乏、葉酸⽋乏、脱⽔、電解質異常など
アルツハイマー型認知症の進み⽅と特徴
40歳ごろから、脳にβアミロイドが沈着し始める。多量に沈着してくると、神経細胞にタウタンパクが異常にたまり、神経のネットワークが崩壊することで、症状が出てくる。
緩やかに発症し、徐々に進⾏する。記憶障害が強い。全般的に障害がある。Βアミロイド沈着の最⼤の要因は、加齢。遺伝因⼦、⽣活習慣も影響する
加齢と脳βタンパクの異常蓄積アルツハイマー型認知症の関係
100
94
84
67
46
30
20
0
6
16
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49
60
60
0
0
0
1
5
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0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%
30歳代
40歳代
50歳代
60歳代
70歳代
80歳代
90歳代
Βタンパクの異常な蓄積なし
Βタンパクの異常な蓄積あり
アルツハイマー型認知症
出典:読めば納得!認知症の予防 脳を守るライフスタイルの秘訣
脳⾎管性認知症の進み⽅と特徴
1回または複数回の脳梗塞、脳出⾎により起こる。突然、発症するタイプ、階段状に進⾏するタイプ、徐々に進⾏するタイプあり。
症状の変動が⼤きい。できることとできないことの差が⼤きい。
⾼⾎圧、糖尿病、⾎清脂質異常、加齢などによる動脈硬化が要因となる。
正常な物忘れと軽度認知障害と認知症
⽼化による物忘れ 強い物忘れ 病的な物忘れ
正常 軽度認知障害(MCI) 認知症
⾷べた内容、電話の相⼿を忘れる、しまい忘れがあるが思い出す。
物忘れの⾃覚あり重要な⽤事を忘れる
仕事や家事の能率が低下する⾷事、着替、⼊浴、排泄など⾝の回りのことは⾃⽴
性格の変化、⾏動異常はない
出来事を丸ごと忘れる忘れた⾃覚がない
買い物や薬の管理が難しくなる判断⼒、実⾏⼒が低下する等
1年に10%が移⾏
5~45%正常に戻る
認知症の診断(鑑別診断)受診理由:「物忘れがひどい」「怒りっぽくなった」「意欲がなくなった」「迷⼦になった」等
問診:いつごろから、どんな困りごとがあるか検査:質問紙による検査
脳の検査(必要に応じて)
MRI画像CT画像SPECT画像(脳の⾎流をみる)
PET検査βアミロイド(⾚⾊)の沈着を⾒る
正 常 MCI- MCI+ アルツハイマー
質問紙検査の例⻑⾕川式簡易知能評価スケール(HDS-R) 20点/30点以下
1 お歳は、おいくつですか? 2歳までの誤差は正解
2 今⽇は、何年の何⽉何⽇ですか?何曜⽇ですか? 年、⽉、⽇、曜⽇で各1点
3 私たちが今いるところは、どこですか? ⾃発的2点、選択肢で1点
4 これから⾔う3つの⾔葉を⾔ってみてください。後でまた聞きますのでよく覚えておいてください。 桜・猫・電⾞、梅・⽝・⾃動⾞
1つにつき1点
5 100から7を順番に引いてください。100-7は?それからまた7を引くと?
93で1点。86で1点
6 私がこれから⾔う数字を逆から⾔ってください。6-8-2 3-5-2-9
2-8-6で1点9-2-5-3で1点
7 先ほど覚えてもらった⾔葉を、もう⼀度⾔ってみてください。 1つにつき2点、ヒントありで1点
8 これから、5つの品物を⾒せます。それを隠しますので、何があったか⾔ってください。
1つにつき1点
9 知っている野菜の名前をできるだけ多く⾔ってください。 6個で1点〜10個5点
認知症の症状脳の細胞が死ぬ
性格素質
環境⼼理状態
中核症状記憶障害 ⾒当識障害
理解・判断⼒の障害 実⾏機能障害
その他
⾏動・⼼理症状不安・焦燥 うつ状態 幻覚・妄想徘徊 興奮・暴⼒ 不潔⾏為 せん妄
出典:認知症サポーター養成講座テキスト
認知症の治療治療の原則「薬物治療を開始する前に、適切なケアやリハビリテーションによる介⼊を考慮しなくてはならない」医療⽬標:①⽣活機能の1⽇でも⻑い維持
②周辺症状(⾏動・⼼理症状)の緩和③家族の介護負担の軽減
適切なケア:認知症の⼈の視点でケアを⾏う→ パーソンセンタードケア
⾮薬物療法:脳活性化リハビリテーション(運動療法・回想療法・⾳楽療法・ペットセラピー・園芸療法・タクティールセラピー等)
薬物療法:4種類の薬剤を進⾏度や副作⽤等にあわせて、主治医が選択
出典:認知症の予防と⽣活指導
認知症の防御因⼦と促進因⼦
かれ防御因⼦
促進因⼦年齢
⾼等教育
服薬管理
⾷事と運動
活動的なライフスタイル認知的活動・社会参加・会話など
職業的暴露
社会経済的要因
⽣活習慣病・うつ病
加齢・難聴・視⼒低下
頭部損傷遺伝⼦的因⼦
ライフスタイル
出典:⻑寿医療研究センターHP,認知症の予防と⽣活指導より⼀部改変
あなたの⽇常⽣活を振り返ってみましょう
健康⽣活チェック表を記⼊しましょう。(5分間)
⽣活習慣病(⾼⾎圧・糖尿病⾼脂⾎症・メタボ)の治療4原則:⾷事・運動・休養・薬物療法薬の回数、量を守る複数の医療機関で、同じような薬をもらわない。
→お薬⼿帳を活⽤する調⼦が悪いときは、受診し、医師に相談する⾃分の健康カルテを作る:体重、⾎圧(降圧剤を飲んでいる場合)、⾎糖値(インスリン注射をしている場合)、外⾷、睡眠時間、排便回数、⼼配事、旅⾏などのイベントもあわせて記録しておく
認知症予防の⾷事のポイント「○○が△△に効く」に惑わされないように
⾷事バランスガイド
ポリフェノール(Βタンパクの重合阻害作⽤)
ビタミン・葉酸(抗酸化・動脈硬化予防
作⽤等)
DHA.EPA(動脈硬化・⾎栓予防作⽤)
認知症予防に効果的な成分
ポリフェノールの分類⼤分類 中分類 名称 多く含まれる⾷品フラボノイド系
イソフラボン ゲニスチン ⼤⾖フラボノール ルチン そば・たまねぎ
ケルセチン トマト・りんご果⽪・ブドウミリセチン クランベリー・ブドウ・⾚ワインケンフェロール ブロッコリー・⼤根
フラバノン タキフォリン 柑橘果物・ピーナッツアントシアニン シアニジン ブドウ・イチゴ
デルフィニジン なすフラバノール エピガロカテキン 緑茶
エピカテキン カカオフラボン アピゲニン パセリ・セロリ
クリプシン 果物の果⽪出典:読めば納得!認知症の予防 脳を守るライフスタイルの秘訣
⼤分類 中分類 名称 多く含まれる⾷品ノンフラボノイド系
クロロゲン クロロゲン コーヒーの渋みエラグ エグラ ユーカリ、ラズベリーリグナン セサミン ゴマクルクミン クルクミン 秋ウコンクマリン クマリン パセリ、⼈参、桃
ビタミン類の分類と多く含まれる⾷品
抗酸化ビタミン
ビタミンE
ビタミンC
ビタミンA(βカロチン)
ビタミンB6・B12・葉酸
ビタミンD
油、⿂卵、種実類に多く含まれる とりすぎに注意!
野菜・果物に多く含まれる 1⽇数回摂取が効果的
Vit.A:レバー類・うなぎ、βカロチン:緑⻩⾊野菜
Vit.B:レバー類・⾙類・⻘⿂・海藻、葉酸:⻘菜
鰯・鮭・きくらげ・きのこ類 とりすぎに注意!
サプリメントではなく、⾷品から摂取しましょう
認知症リスクに関連する脂質リスク 分 類 必須 油脂の名称 多く含む⾷品
低下 n-3系多価不飽和脂肪酸
● DHA ⿂
● EPA ⿂
● リノレン酸 シソ油・エゴマ油
⼀価不飽和脂肪酸 オレイン酸 オリーブ油
上昇 n-6系多価不飽和脂肪酸
● リノール酸 コーン油・ベニバナ油・ヒマワリ油
● アラキドン酸* ⽜⾁・豚⾁
飽和脂肪酸 ステアリン酸 豚脂・⽜脂・パーム油・やし油
コレステロール コレステロール
獣⾁・乳脂肪
トランス脂肪酸 (総称) マーガリン・ショートニング
出典:読めば納得!認知症の予防 脳を守るライフスタイルの秘訣
地中海⾷ピラミッド
⾚⾝の⾁
菓⼦・アイス卵・鶏⾁・⿂
チーズ・ヨーグルトオリーブオイル
フルーツ ⾖やナッツ 野菜パン、パスタ、ライスなど穀類
イモ
⽉1回〜数回摂取
週1回〜数回摂取
毎⽇摂取
⾚ワイン1⽇1杯程度
出典:読めば納得!認知症予防 脳を守るライフスタイルの秘訣
ブドウジュースも可
運動を続ける
運動の効果:脳の⾎流量(酸素)が増える→記憶⼒が向上する。意欲が向上する
運動の種類:有酸素運動が効果的脈拍が1分間に110〜120くらいになる程度
運動の頻度:週3回以上 1回30分以上運動の⽅法:ウオーキング(やや早めの散歩)
⽔泳、ダンス、体操、筋トレ等
運動と頭の体操を同時に⾏うと効果的コグニサイズ=認知(コグニション)+運動(エクササイズ)
練習1:⾜踏みしながら4の倍数で⼿をたたく練習2:⾜踏みしながら3の倍数で⼿をたたく練習3:隣同⼠で、⾜踏みしながら「しりとり」をする。最初の⾔葉は、「元気!」
ウオーキング中の頭の体操は?
出典:国⽴⻑寿医療研究センター 認知症予防に向けたコグニサイズ
「もくもく」「ワクワク」で脳を活性化
「もくもく」=「黙々」無⼼で何かに取り組んでいる精神状態
☆セロトニンが分泌され、情緒が安定する。「わくわく」=楽しみな⾏為をしようとする時、
出来事がある時に⽣まれる感情☆ドーパミンが分泌、快感が⽣じ、やる気が出る
出典:Dr.渡辺正樹のもくもくワクワクで認知症を予防する
「もくもく」やっていること
「わくわく」すること
健康寿命を延ばすためのライフプラン
1年後の⽬標5年後の⽬標 ⼜は80歳・85歳時の⽬標取り組むこと・続けること
誰と、いつ、何を続けるための⼯夫「⽣活の達⼈講座」の紹介
認知症と告知されたら認知症は、本⼈に告知されることが多くなっています。認知症は、直接の死因にはなりません。認知症は、⻑期間の経過をたどります。認知症になっても、すぐにわからなくなるわけではありません。
認知症になっても、できることがたくさんあります。できなくなったことをサポートしてもらう⽅法は、たくさんあります。
穏やかで、愛される認知症の⽅がたくさんいます。
認知症とうまく付き合う⽅法
エンディングノートを活⽤し、医療・介護・財産等について希望(意思)を書いておく。
「⾃分らしさ」を尊重してもらえるように、⾃分のことを書いておく。⽣活暦・習慣・好み・特技など
「⽼い」を受け⼊れる。「病気」を理解する。周囲の⼈に理解してもらう「制度・サービス」を学ぶ。家族・友⼈・ご近所とのつながりを保つ。
家族が認知症かなと気になった時認知症といわれた時
ご家族が経験するステップ
対応のポイント①気になることを記録して「かかりつけ医」に相談する②ご本⼈の失敗、勘違い、思い込みを叱ったり、否定するとさらに悪化します③ご本⼈ができることを⾒守り、⽀持する。役割がある、居場所がある④家族みんなで「病気」を理解し、統⼀した態度で接する。⑤ご近所や友⼈などに協⼒を依頼する。⑥福祉・介護サービスを上⼿に利⽤する。
⼾惑い・否定 混乱・怒り・拒絶 割り切り 受容
認知症の⽅とのコミュニケーション後ろから声をかけない(正⾯から近づく)やさしく⽬を合わせる(視線をつかむ)不安そうにしていたら、やさしく⾝体にタッチ(⼿を握る、さする)ゆっくり、おだやかに。相⼿のペースに合わせる。最初から⽤件をきりださない(あいさつ→お話してもいいですか?)相⼿からの返事を待つ質問、指⽰はひとつずつケア(相⼿に⾏う⾏為)を⾔葉にする⾔葉と⾏為のメッセージを⼀致させる(視覚・聴覚・触覚)絵(マーク)や⽂字・写真を利⽤する
トイレ・薬・電話番号(短縮ボタン)
認知症の⽅へのサービス⾼齢者福祉サービス(⾃治体により異なります)
認知症予防教室認知症サポーター養成講座認知症介護教室認知症⾼齢者を介護する家族の交流会徘徊等⾼齢者家族⽀援事業(GPS探索システム契約の補助)物忘れ相談認知症⾼齢者⾒守りSOSネットワーク成年後⾒制度利⽤⽀援事業・⽇常⽣活⾃⽴⽀援事業
障害福祉サービス(障害者⼿帳取得が必要)介護保険サービス(要介護認定が必要)訪問介護・訪問看護・通所介護・通所リハビリテー
ション・短期⼊所・福祉⽤具貸与・住宅改修・⼩規模多機能型居宅介護・認知症対応型共同⽣活介護 他⽣活⽀援機器探し物発⾒器・アラーム薬⼊れ・スケジュールボー
ド・カラー便座・⾃動⽔栓器・ドア壁画・ガスコンロ⾃動消⽕機能付・アザラシ型コミュニケーションロボット 他
これからの認知症対策(オレンジプラン)期間:平成25年〜29年
「認知症初期集中⽀援チーム」の配置認知症カフェの普及認知症ケアパスの作成・普及認知症サポーターの育成 600万⼈若年性認知症⽀援ガイドブックの作成
参考書籍・認知症情報サイト認知症の予防・認知症チェックリスト・ケアなど
読めば納得!認知症予防 脳を守るライフスタイルの秘訣:⼭⼝ 晴保協同医書出版社 2014
Dr.渡辺正樹のもくもくワクワクで認知症を予防する:渡辺正樹.筒井書房2014
認知症の予防と⽣活指導:遠藤英俊.医薬ジャーナル社 2013 認知症のケアとお薬のガイドブック:諏訪さゆり.株式会社ワールドプランニング 2011
ユマニチュード⼊⾨:本⽥美和⼦、イヴ・ジネスト、ロゼット・マレスコッティ.医学書院 2014 認知症介護情報ネットワーク http://dcnet.gr.jp/ 厚⽣労働省 みんなのメンタルヘルス
http://wwwmhlw.go.jp/kokoro/speciallity/detail_recog.html 国⽴⻑寿医療センター 認知症情報サイト
http://monowasure.org/ninchi/ 国⽴障害者リハビリテーションセンター 認知症のある⼈の⽣活⽀援DBHP
http://www.rehab.go.jp/ri/kaihatsu/lifeSupport/top_ja.php
認知症の相談窓⼝市町村の地域包括⽀援センターちば認知症コールセンター 043-238-7731
(⽉・⽕・⽊・⼟)10:00~16:00認知症の⼈と家族の会全国 ホームページ www.alzheimaer.or.jp千葉 043-204-8228茨城 029-879-0808
介護⽀え合い電話相談(社会福祉法⼈浴⾵会)0120-070-608 (⽉~⾦) 10:00~15:00
認知症の防御因⼦と促進因⼦
かれ防御因⼦
促進因⼦年齢
⾼等教育
服薬管理
⾷事と運動
活動的なライフスタイル認知的活動・社会参加・会話など
職業的暴露
社会経済的要因
⽣活習慣病・うつ病
加齢・難聴・視⼒低下
頭部損傷遺伝⼦的因⼦
ライフスタイル
出典:⻑寿医療研究センターHP,認知症の予防と⽣活指導より⼀部改変
⼈とのつながり
孤 独
認知症になっても安⼼な、やさしいまち