1
高周波線路の 表皮効果抑制・低損失化技術
~負の透磁率利用~
長野工業高等専門学校
電子制御工学科
講師 中山 英俊
2
従来技術とその問題点
表皮効果が線路の損失を高める原因となる。 表皮効果を抑制するために、リッツ線や伝送線路のスリットを設けて抑制する従来技術がある。 これらは、表皮効果による渦電流経路を抑制するが、根本的な誘導起電力は抑制できない。 表皮効果は、磁束変化で生じる誘導起電力が原因であり、根本的原因である磁束を抑制することが、最も効果的である。
3
先行技術とその問題点
先行技術は、負の透磁率を利用することにより、磁束そのものを抑制することができる。 しかしながら、正/負の透磁率材料の厚さtを、透磁率の大きさ|μ|のみで決定しているため、 (隣接する層の「t×|μ|」を互いに等しくする技術) 磁束の抑制効果が不十分である。 数十層の多層分割では効果が得られるが、 製造の容易さ、低コストの面で問題がある。
4
新技術の特徴/他の技術との比較 • 従来技術の問題解決:根本的原因となる磁束
の抑制を、負の透磁率利用により実現する。 • 先行技術の問題解決:磁束抑制が不十分な
点を改善し、隣接する層の磁束を完全に相殺できるため、効果が高い。
• 先行技術では考慮していない線路内部の 磁束密度分布を考慮し、抵抗率の違いも反映して設計するため、効果が高い。
• 少積層数でも高効果。製造コスト低減に優位。
5
中心からの距離r[m]
印可電界E電流密度J
磁界H
透磁率μ
磁束密度B
誘導起電力e
合成電界E’電流密度J’
E’=E+eJ’=σE’
J=σE
e=dφ/dt
B=μH
中心からの距離r[m]
印可電界E電流密度J
磁界H
透磁率μ
磁束密度B
誘導起電力e
合成電界E’電流密度J’
E’=E+eJ’=σE’
J=σE
e=dφ/dt
B=μH
中心からの距離r[m]
印可電界E電流密度J
磁界H
透磁率μ
磁束密度B
誘導起電力e
合成電界E’電流密度J’
E’=E+eJ’=σE’
J=σE
e=dφ/dt
B=μH
φ=BS φ=BS φ=BS
発明の概要:負の透磁率による表皮効果の抑制
(a)通常の表皮効果 (b)先行技術の抑制方法 (c)本発明の抑制方法
(a)通常は、発生する磁束を打ち消すように、 誘導起電力が生じ、表皮効果が発生する。
断面構造図 ■正の透磁率材料 ■負の透磁率材料
(b)負の透磁率材料を用いて、積層すると、 正と負の透磁率により、 隣接する磁束が正と負の磁束となり、 局所的に磁束が相殺され、 誘導起電力が減少し、表皮効果が抑制される。
ただし、磁束密度に位置分布があるため、 膜厚を均一にすると、 磁束密度×面積=磁束が隣接する層で、 ゼロにならない。
(c)磁束密度分布に応じて、積層厚さを変え、 隣接する層同士の磁束を同じにすることで、 磁束の相殺効果を高める。 これにより、誘導起電力が抑制され、 表皮効果がより小さくなる。
6
発明の実施の形態 (線路断面形状) 断面構造図
■正の透磁率材料 ■負の透磁率材料
7
同軸線路における 表皮効果抑制の確認
7
この断面に表示
同軸線路モデル ・直径10μmの中心線路 ・外径23μmが絶縁層 ・最外層がGND導体
8
表皮効果抑制の一例 (周波数3GHz の電流密度分布)
(A)従来モデル ・赤より内側が中心線路
・外側の青い部分が絶縁層
電流密度[A/m2]をコンター図で表示(全て同スケール)
(C2)本発明の 2層モデル
(C4)本発明の 4層モデル
(C12)本発明の 12層モデル
(A)では、表皮効果により、表面に電流が偏る。 (C2)では、若干改善される。 (C12)では、大幅に表皮効果が抑制される。
9
高周波用磁性材料の 透磁率の周波数特性
0.1 1 10-500
0
500
1000
:Hk = 8 kA/m
:Hk = 28 kA/m
:µr'
:µr''
µr''
µr'
複素
比透
磁率
µ r =
µr'
- j µ r''
周波数 f (GHz)
Hk 大
μrA μrB
frB frA
A B
A
B
高周波領域で透磁率が負の値を示す。 高周波磁界に対して磁気モーメントの応答が遅れるため、
見かけ上、負の透磁率特性を示す。
10
想定される用途 • 線路の抵抗を低減する低損失技術であり、
グリーンイノベーションの要素技術となる • 高周波電子部品(インダクタ、キャパシタ、フィルタ、
整合器、アンテナ…)に適用し、情報通信機器(携帯電話・スマホ、モバイル端末、大型通信施設…)等への広範な応用が期待できる。
• 本原理を応用した磁界センサや応力センサの可能性があり、チューナブルなデバイス・フィルタも実現可能性がある。
11
インダクタなど
チップ素子
本発明の適用例
半導体チップ基板 半導体形成層(Tr.など)
引き出し配線 引き出し配線 接続線路
本発明の伝送線路
図 半導体チップ上の配線への適用例
プリント配線基板 接続線路 伝送線路フィルタ
本発明の伝送線路
図 高周波回路基板への適用例
本発明の伝送線路を用いた 高周波部品
本発明の伝送線路及び伝送線路を利用した高周波部品、 或いは、それらを搭載した基板・モジュールなどを組み合わせることにより、 様々な高周波装置(携帯電話・PCなど)が製造される。
12
実用化に向けた課題 • 現在、円形断面の同心円状線路については、
本技術の優位性が明らかであるが、他の 断面形状の効果が検討不十分である。
• 薄膜積層による矩形断面線路について、その最適設計技術を更に検証する必要がある。
• 現在、矩形断面線路を試作中であり、実験データで本技術の効果を実証する予定である。
• 線路単体だけでなく、具体的なデバイスへの適用が実用化に向けた課題である。
13
企業への期待
• 本発明のライセンスをベースに実用化を期待。まずは、矩形断面薄膜積層線路で実現。
• 高周波回路・デバイス・機器を開発する企業との共同研究を希望。磁性薄膜製膜プロセスを導入することにより、実現可能。
• グリーンイノベーション分野での展開を検討中で、新たな低損失技術を検討中の企業には、本技術の導入が有効と思われる。
14
本技術に関する知的財産権 • 発明の名称: 伝送線路及び配線基板、並びに、これらを用いた高周波装置 • 出願番号 :特願2012-083350、PCT/JP2013/59755 • 出願人 :独立行政法人国立高等専門学校機構 • 発明者 :中山英俊、佐藤敏郎、曽根原誠、吉原拓実
15
研究略歴
• 専門分野:高周波磁気応用 • 関係する研究テーマ:
– 高周波磁性薄膜を利用した伝送線路デバイスの研究開発(2000年-現在) – 左手系マイクロ波デバイスの研究(2008年-現在)
• 2008年3月-2008年9月 米国UCLAにて在外研究員 • 2008年10月-2009年3月 JSTシーズ発掘試験事業に採択 • 2010年10月-2011年3月 JST・A-STEP・FSステージ探索タイプ事業に採択 • 2011年7月-2012年3月 JST・知財ハイウェイ事業に採択 • 2012年7月-2013年3月 JST・知財ハイウェイ事業に採択 • 2012年10月-2013年9月 JST・復興促進プログラム(A-STEP) 事業に採択