航空レーザ計測の斜面防災への適用 -地形図の精度向上と微地形判読-
(独 )北海道開発土木研究所 地質研究室 ○橋本 祥司
伊東 佳彦 網走開発建設部 道路第1課 児玉 浩文
はじめに 斜面の安定性を評価するためには,正確な地形情報の取得が重要であるが,従来の方法
では,樹木等の影響により正確な情報取得が困難であったり,判読の際に人為的な差があ
るなど,精度の向上,客観性の確保が課題となっていた。しかし,近年飛躍的に進歩した
航空レーザ計測を用いることにより,植生の影響のない高精度地形データが取得できるよ
うになってきた。 本研究では,従来の航測図と航空レーザ計測データから作成した等高線図の比較および
微地形判読を行い,航空レーザ計測の有効性について検討した。
1.航空レーザ計測の概要 航空レーザ測量は,航空機から地上に向
けてレーザを照射し,地上から帰ってくる
反射波の時間で距離を計測する手法であ
り,樹木等の影響が除去された地表面の情
報を得ることができる。航空機の空間位置
は,地上の GPS 基準局と航空機搭載の
GPS および IMU(ジャイロ)より正確に
算出され,1パルス毎に地表面でのレーザ
反射点の X,Y,Z 座標を計測することができ
る(図-1)。 航空レーザ測量では,まず建物・樹木・
車両などの地物を含んだデータである数
値 表 層 モ デ ル DSM ( Digital Surface Model)が取得される。その後フィルタリ
ング処理により地物の影響が除去され,デ
ー タ が 格 子 状 に 並 ん だ 数 値 標 高 モ デ ル
DEM(Digital Elevation Model)が得ら
れる。この DEM から等高線図などの地形
図が作成される(図-2)。
Shoji Hashimoto,Yoshihiko Ito,Kodama Hirofumi
図-1 航空レーザ測量概念図
2.調査地の概要 調査地は北見市の北西の一般国道 333 号沿いで約 18k ㎡の範囲で計測が行われた(図
-3)。この地域はオホーツク海に注ぐ常呂川水系仁頃川とサロマ湖に注ぐ佐呂間別川に
挟まれた標高 300~800m 程度の山地に位置し,国道 333 号はこの山地を横断し,サロマ
トンネルより北見(南東)側では仁頃川支流のルクシニコロ川に沿って建設されている。 調査地域は比較的急峻な山地区間の佐呂間(北西)側と,低山~丘陵地の北見側に区分
される。この特徴は分布する地質と密接に関連し,前者は玄武岩熔岩・チャート・石灰岩
などの硬質な岩石 (仁頃層群),後者は礫岩・砂岩・泥岩などの堆積岩類(佐呂間層群)
の分布域に対応している 1) 。 計測は,落葉により樹木の影響が最小限になる時期を考慮し,平成 14 年 10 月中旬に
網走開発建設部が行い,解析については北海道開発土木研究所が行った。
図-2 航空レーザ計測で得られる成果物
図-3 調査位置図
3.DEM のメッシュ精度の検討 縮尺 1/50,000 および縮尺 1/5,000 の斜面勾配区分図をサンプルとして,DEM 精度の検
討を行った。検討に用いたデータは,航空レーザ測量データから作成した 1m,2m,5m,
10m グリッドの DEM,北海道地図の 10m グリッドの DEM,および国土地理院の 50mグリッドの DEM である(図-4)。
国土地理院の 50mDEM については,縮尺 1/5,000 程度になると 1 画素のサイズが大き
くなり使用は無理である。縮尺 1/50,000 でも 1 画素のサイズがはっきり認識できるため
使用することは困難である。大規模な構造(リニアメント等)の判読にしか利用できない
と考えられる。 北海道地図の 10mDEM は,日本全国整備されており容易に入手可能であるが,図ー4 の緩傾斜部分(青色の箇所)を見て分かるように,精度の面では同グリッドサイズの航空
レーザ測量 DEM より劣っていると考えられる。この原因として,国土地理院の 50mDEM と同様に 1/25,000 地形図から作成しているため,等高線が密に描かれている山間部は良
いが,低地部では等高線間隔が大きくなり精度が低下していると考えられる。 航空レーザ測量による細密 DEM は,グリッドサイズに応じて精度高く地形を表現して
いる。ただし,グリッドサイズが小さいとノイズが影響して細かい模様が生じる場合もあ
る。縮尺により表現される地形が異なるため,目的に応じたグリッドサイズを設定する必
要がある。たとえば,道路防災点検に使用する際(縮尺 1/50,000 程度)には,5mおよび
10mグリッドで概略をつかみ,個別斜面(縮尺 1/5,000 程度)に対しては 1mか 2mグリ
ッドのものを使用することが適当であると考えられる。
図-4 メッシュサイズの比較(傾斜量)
4.航空レーザ計測による地形判読 判読に用いた航空レーザ計測による地形図(以下 LP 図)は,グリッド間隔 2m の DEM
から作成されたコンター間隔 2m,縮尺 1/5,000 の等高線図である。 4-1 航測図との比較 LP 図と,従来の航測図化による地形図を比較し,航測レーザ計測により判読および抽
出できる地形について検討を行った(図-5)。 (a) 沖積錐
図-5a 左側の航測図では沖積錐は不明瞭であるが,右側の LP 図では,きれいな扇
状を示す沖積錐が認められる。LP 図で最も北寄りの扇状地性堆積物を持つ沢では,そ
の上流に不安定土砂と考えられる土砂が認められるが,航測図では地形そのものが表
されておらず,豪雨時等の土砂流出を見逃す可能性も考えられる(図の青線部分)。 (b) 崩壊地形
航測図・LP 図(図-5b)とも同じようなところに地すべりブロックを描くことが
できるが,LP 図の方がより地形にあったブロックを描けることができる。特に左下の
○で囲んだ部分では,LP 図だけで複数のブロック区分も可能と考えられる。 (c) 二重山稜
航測図では,○で囲んだ部分に二重山稜は見られないが,LP 図ではこれが確認でき
る(図-5 c)。二重山稜は,断層や地すべりなどの地質構造や地形的な特異性を示す
ことがあり,平面図上にこれが見出せるだけで,防災上の注意点として捉えることが
出来る。ここでは,この二重山稜の東側に規模の大きな地すべりが存在している。二
重山稜については,GIS ソフトで陰影図(図-6)や斜面方位区分図を作成すること
により,容易に判読可能になると思われる。 これらの他に,遷急線,段丘堆積物,現河床堆積物の判読が LP 図から可能であった。 ここで示した比較図は,地形図のみを使った地形判読であることから,地すべりや崩壊,
遷急線などが現地の状況と異なることが考えられる。しかし,地形図レベルでの判読でも
航測図と LP 図とで表現されている地形に大きな差異があることが明らかになった。 4-2 空中写真との比較
航空レーザ計測による地形判読結果と,空中写真による地形判読結果を比較し,両者の
違いについて検討した。 空中写真判読の特徴として,立体像に過高感がある (60%オーバーラップさせることに
より垂直方向に 2.5 倍誇張される )こと,色調の変化などから異常地形が読み取れること,
樹木の下の地形情報は得られないことが挙げられる。空中写真と LP 図の例を図-7に示
す。検討の結果,LP 図は地形面の情報は正確であると考えられ,遷急線などの地形が変
化する箇所の抽出にはかなり有効であるが,空中写真から判読可能であった切土や盛土な
どの対策を行った地すべり地形は,等高線図からでは判読が困難であることが分かった
(図-8)。 このようなことから,地形判読を行うには LP 図だけでなく,空中写真を併用するのが
望ましいと考えられる。
a. 沖積錐
b. 崩壊地形
c. 二重山稜
図 - 5 航 空 レ ー ザ 計 測 に よ る 地 形 図 と 航 測 図 の 比 較 左 : 航 測 図 , 右 : L P 図
航測図
航測図
航測図
LP 図
LP 図
LP 図
図-6 陰影図による二重山稜の抽出
図-7 空中写真と LP 図の比較
LP 図 空中写真
航測図化や空中写真判読で樹木の多い山間部を対象とする場合,樹冠で見えない地盤を
類推しながら作業するため,そこに表現される地形に限界が出てしまう。また一方で,航
空レーザ測量についても,完全に樹木に覆われた場所では地盤高が計測されず,地形を類
推せざるを得ない場合もあり,また,原因不明の異常値により等高線が乱れることもある。 従って,航測図や LP 図の作図方法を念頭に,地形判読の目的や図面スケール等を勘案
し,航測図や空中写真を用いるか,LP 図を使うか適切に判断していくことが求められる。
しかしながら,道路防災点検等を含め,概査段階の図面として航空レーザ計測による平面
図は精度向上の面において非常に有用であると考えられる。
5.まとめ 航空レーザ計測により作成される DEM のメッシュ精度については,縮尺 1/50,000 程
度であれば,5m あるいは 10m グリッド DEM,縮尺 1/5,000 より大きな縮尺の場合は 1mあるいは 2m グリッドの DEM が適当であると考えられる。航空レーザ計測地形図は地盤
面にほぼ忠実な地形が表現されており,沖積錐,崩壊地形,二重山稜など防災上重要な地
形が,従来の航測図より精度よく判読できることから,同じ縮尺の航測図よりも格段に高
い精度の地形図であると言える。しかし,航空写真判読によって得られる視覚的な情報(地
被状況や色調)も斜面の情報としては重要であり,道路防災点検等を行う場合,これらを
組み合わせて判定を行う必要がある。
参考文献 1.一般国道 333 号北見土砂崩落調査委員会:一般国道 333 号北見土砂崩落調査報告書,
2002
図-8 空中写真と LP 図による地形判読結果の比較