鉱業・金属セクターの事業リスクトップ102019~2020
事業リスクのトップ10
ディスラプションの時代、操業許可の取得以外に求められることは?
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2018年のランキング
2018年度から上昇 2018年度と変わらず2018年度から下降 新たにランクイン
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労働者の未来
エネルギー・ミックス
コスト上昇
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ポートフォリオリターンの最大化
デジタルの有効性
ディスラプション
不正
新時代コモディティ
操業許可7
鉱業・金属セクターは、いまだかつて経験したことがないディスラプション(創造的破壊)に直面しています。
社会からの期待、デジタルトランスフォーメーション、ポートフォリオと資本投資の意思決定などの新たな変動要因に対処していく中、鉱業・金属企業の主要なリスクは、操業許可とディスラプションです。
操業許可の維持、生産性向上、資源ナショナリズムの進展といった課題に対応するために、企業は何をすべきなのでしょうか。企業は資本や連携を活用して変革を実現し、ディスラプションを乗り越えなくてはなりません。
鉱業・金属セクターの事業リスクトップ10 2019~20202
1 操業許可EYによる調査の結果、世界250社を超える回答企業のうち半数以上がリスクの第1位として「操業許可」を挙げました。その理由は以下の通りです。
• ステークホルダーの変化に適合する必要があるにもかかわらず、鉱業企業側の取組みが限られている状況であるため、CEOや取締役会が「操業許可」を主要リスクとして協議している
• グローバルなレベルでナショナリズムが進んでいる• デジタルトランスフォーメーションにより、操業許可をより確実なものとする必要がある
鉱業・金属セクターは、鉱物資源が持続可能かつ適法に取引されたものであるための取組みを進めています。その発言は正しいものの、行動が伴っていないのが現状であり、ステークホルダーもこれを見抜いています。
操業許可は社会問題や環境問題の枠を超えて進化しています。鉱山プロジェクトから得られる価値への期待は上がり続けています。しかし、失敗すれば資本調達に影響が及ぶだけにとどまらず、操業許可の完全な喪失につながりかねません。
鉱業・金属企業が競争力を維持してステークホルダーをつなぎとめるには、ビジネスモデルの変革に着手しなければなりません。操業許可を、安全性と並ぶ鉱山企業のDNAとする、新たなアプローチが求められます。
2 デジタルの有効性
「デジタルの有効性(デジタル化に成功していること)」は競争優位の源泉です。しかし、鉱業・金属企業の経営幹部を対象とする最近の世論調査の結果、37%もの経営層がデジタル化の展望に関する知識をほとんど、あるいはまったく持っていないことがわかりました。デジタル化は、生産性や利益率の改善を達成する上で不可欠です。デジタル変革の時代において、立ち止まっていることは許されないのです。
鉱業企業は個々の問題やボトルネックに対してはデジタル・ソリューションを採用するなど進展を見せています。しかしデジタル・ソリューションをバリューチェーン全体にわたって採用し、鉱山ビジネスをデジタル化させてこそ、真の変革が遂げられ、成功することができるのです。
こうした変革を実現するためには、CEO主導でデジタルに関する検討課題に対応しなければなりません。これには、明確なビジョンと人材重視に裏打ちされた戦略に加え、文化的変容に対応できる優れたマネジメント力が必要です。
3鉱業・金属セクターの事業リスクトップ 10 2019~ 2020
3 ポートフォリオリターンの最大化
コモディティ価格の上昇やキャッシュフローの増加に伴い、鉱業・金属企業はより高い投資リターンを確保するための適切な資本配分を検討しています。その際、バランスの取れたポートフォリオへのアプローチが重要となります。企業は新たな鉱山の開発や取得だけでなく、イノベーションや革新的なテクノロジーへの資本投入も検討すべきです。EYによる調査では「デジタルに投下している予算は5%以下である」との回答が全体の70%を超えました。この投資予算の水準を20%程度まで引き上げることができれば、大幅な業務変革がもたらされ、確かな競争優位を得られるでしょう。
コモディティ価格上昇で再燃する従来型のリスク
コモディティ価格の上昇や、業績改善の見通しに伴い、コスト増や不正、労働力不足などのリスクが再燃しています。鉱業・金属企業は、コスト増が事業損益に与える影響に懸念を示しています。加えて、操業の複雑化や鉱山運営の変化に対処するためのコストも増えています。操業許可に向けての投資、利用するテクノロジーの増加やスキルセットの変化などが理由として挙げられます。
EYの調査によれば、「不正・腐敗」が重大なリスクであることが浮き彫りになりました。これに対する教訓としては委託業者やサプライヤーなどサードパーティーに対する統制の強化が挙げられるでしょう。全体的には、とりわけ規制当局間の連携強化により、不正は以前よりも高精度に特定できるようになっています。また、ソーシャルメディアによって不正行為疑惑がかつてないスピードで可視化されるようになりました。不正リスクは必然的に、風評や操業許可にかかわるリスクをもたらします。
ディスラプションの時代
社会的変化や新たなテクノロジーの登場、ビジネスモデルの変革競争が、鉱業・金属セクター全体のディスラプションを促進しています。テクノロジー企業や自動車産業での「新時代コモディティ」における競争は、既存のビジネスモデルに対しディスラプションを迫っています。調査からは回答企業の31%以上が、テクノロジー企業にはディスラプションを生じさせる潜在力があると考えていることが分かりました。私たちも同感です。テクノロジー企業は、資本調達力があり、採掘作業を効率化させるイノベーションやテクノロジーに対し、すでに投資を始めています。
デジタルや新テクノロジーの資金調達に対する資本配分率(%)30%
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7%
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デジタル分野の取組みのための資金調達に対する資本配分(回答者の割合〈%〉)
出典:世界250社以上の鉱山・金属セクターからの参加者を対象としたEY調査
鉱業・金属セクターの事業リスクトップ10 2019~20204
5鉱業・金属セクターの事業リスクトップ 10 2019~ 2020
操業許可を狭義に捉えた戦略のままでは、ビジネスは行き詰ってしまいます。操業許可を単なる社会的、環境的な視点に限定したり、ビジネスの一部と位置付けたりしてしまうと、企業全体の操業に対する直接の脅威となるでしょう。ステークホルダーの環境も変化しつつあります。過去に例を見ないほど多くの危険に直面している状態です。いずれのステークホルダーの力も軽視してはなりません。
操業許可の問題は今や、広範囲に影響をもたらし得るものとして大きな意味合いを持っています。経営層の最重要課題に位置付けられるべき問題といえるでしょう。
操業許可の進化
ステークホルダーの期待が変革され、再定義されつつある今、操業許可は進化を続けています。そして、鉱業企業は積極的かつ戦略的にこうした問題に対処しなければなりません。以下にその例を挙げます。
• 地域の枠を越えた社会参加の拡大: 社会の期待が増加しています。ソーシャルメディアやインターネットにより、迅速に情報を伝えられるようになった今、ステークホルダーが個々の問題を重要視する事態となっています。
• マイノリティの意見の増加 : セクターが社会参加を推進することによって、地域コミュニティなどのグループの権利が注目されています。小規模グループ同士が結束し、より声を上げるようになりました。
• テクノロジーの発展 : 業務のオートメーショ
ン化など、急速に進展するテクノロジーやデジタル化により、ステークホルダーやコミュニティにまで影響が及んでいます。
• 所有権のシフト : 従来のモデルよりも国家主導型事業やコミュニティ所有の事業が好まれるようになったため、新たなビジネスモデルが模索されるでしょう。
• 共有価値に対する期待の高まり: ナショナリズムにより、鉱業から生まれる共有価値の成果を期待するようになるかもしれません。社会は資源へのアクセス許可の見返りとして、税金や雇用機会以上の内容を期待するでしょう。
• 巨大化する情報開示 :プロジェクトによりもたらされる好悪両方の影響を開示することが求められます。企業は、現地、地域、国、世界のコミュニティのために創出される納税などの価値をどう開示するかを検討しておく必要があります。投資家はこのような開示を重視します。
• 説明責任の枠組みに対するガバナンスの確立 : この枠組みによって、プロジェクトによりもたらされる財務上、環境上、社会的影響が評価されます。ステークホルダーによるエンゲージメントの品質や程度も同様に評価されます。
• 訴訟の増加 :とりわけ過去の損害に対する賠償請求の増加が見込まれます。その予測を立てることが企業や規制当局の重要課題となるでしょう。
操業許可のマネジメント方法
操業許可について、より総体的に対処しなければならない時がきました。操業許可に対する全体的なビジネスへのトップダウン型アプローチが必要です。安全性と同様に、操業許可は鉱山企業のDNAとなっていなければなりません。地域コミュニティ、政府、従業員、環境へのコミットメントや貢献は、鉱山の寿命を超えて継続します。
操業許可に関連する将来的なリスクを予測・回避するために企業が考慮すべき7つのポイントは以下の通りです。
1. グローバルに考え、グローバルに行動する
2. 問題を予測・回避するために操業許可の先行指標を特定する。約束事項、提供内容、評価方法について信頼できる情報を提示する
3. 貴社の活動に関する目的重視型の客観的かつ詳細な評価を実施する
4. 大多数の意見だけでなく、重要な意見にも耳を傾ける
5. 財務的収益だけではなく、より広範な「リターン」を適切に評価するためのツールを備える
6. 持続的な成果をもたらすような、社会発展につながる意思決定をする
7. セクターの連携やブランド戦略の改善を図る
操業許可01 (第7位から上昇)
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リオリターンの最大化
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新時代コモディティ
操業許可
労働者の未来
「私たちの業界は、地域社会、顧客、サプライヤー、政府それぞれとの協調関係を再定義する必要があります。そのためには、鉱業が必要かつ価値のある活動であると認められることが必須です。持続可能な経済のために、環境、人、社会を大切にした操業を確実に実行することが必要です」
ジャン・セバスチャン・ジャック1
リオ・ティント、チーフ・エグゼクティブ
1 “We won’t wake up tomorrow as Microsoft, but how will we pioneer the mining industry into the 21st Century?” リオ・ティント文書、2018年10月30日
見過ごされた操業許可というディスラプター
鉱業・金属セクターの事業リスクトップ10 2019~20206
生産性に焦点を置くことはあくまで出発点であり、競争優位性を確保するためにはそれだけでは十分といえません。
鉱業企業は、生産性改善を目的としたデジタル化によって前進しました。運輸、鉄道、トラック、掘削などのオートメーション、またメンテナンス費用の削減や設備稼働率の改善に向けた予測アナリティクスにおいては、大きく成功しています。従来、こうした取組みは個々の問題やボトルネックの解決に焦点が置かれてきました。これらにより価値は創出されてきたものの、変革を実現するほどのものではありませんでした。
EYは、デジタルトランスフォーメーションがバリューチェーン全体にわたり実践されて初めて持続的な生産性向上が実現されると考えます。革新的なマーケティングや供給体制によって利益を生み出す、より広範な取組みの導入は進んでいますが、真にエンド・ツー・エンドといえる変革的アプローチの採用はいまだ見られません。
勝利に向けた投資
この業界にとって、デジタル化はいまだ難題です。また多くの企業の場合、IT部署がデジタル戦略を管理しているのが現状です。CEOが主導しなければ、どのような変革も単なる技術的な取組みで終わってしまうでしょう。そこには包括的なビジネス、予算、正しい調達に対するビジョンが抜けています。
デジタル・ソリューションに投資することで、バリューチェーン全体にわたり生産性や利益率改善の新たな波が促進されます。鉱業企業が、すでに製造業で実現されているような設備のデジタル化に成功すれば、その企業はディスラプションを実現し、競争優位に立てるでしょう。
生産性と利益率の持続可能な改善を達成し、競争相手の一歩先を進み続けるための鍵を握るのがデジタル化です。デジタルがけん引役となる今日のビジネス変革の時代に、立ち止まってはいられません。
成功のための基礎を構築
EYは、増大し続ける複雑性と価値の波の重なりで構成される、エンド・ツー・エンド・プロ
デジタルの有効性02
グローバル鉱業企業、イノベーション・ディレクター
「オートメーションの加速化やデジタルトランスフォーメーションは、コストや生産性、株主の支持にプラスの影響をもたらすでしょう」
グラムを推奨します。EYのデジタルトランスフォーメーションに向けた「波」のアプローチに関する記事で述べた通り、この体系的な「波」のアプローチによって、様々なデジタル化の取組みを、社会に組み入れられるようになります。「第3の波」のディスラプションはマネジメントされるべき主要リスクです。このリスクへの対策については本書後半に記載しています。
採掘作業• ボトルネックや下流への影響に対する
エンド・ツー・エンド分析• インテリジェント・オートメーション、
高度な最適化鉱業バリューチェーンのプロセッシング• デジタル化された「ツイン」シミュレーション・モデルによって、プロセス分散を迅速に特定し、修正
メンテナンス• 資産状況を検知する予測的資産健全性システム• オートメーション化されたプランニング、スケジューリング
トレーディング• 金に連動するブロックチェーン• トレンドの予測モデリング
探鉱• ジオマッピング・ソフトウエアと
組み合せたAIによって、未知の鉱体を特定
第3の波
第2の波
第1の波
文化
出荷 サプライチェーン
トレーディング
ディスラプション
代替のビジネスモデル
パフォーマンス評価
掘削
積
荷、運搬
価値 ++ 価値
イ
ンフラ
戦略
コミュニケーシ
ョン テ
クノロジー データ
すでに開始済み
ナビゲーション/進展が伴う例
悪い例
将来
開始前
すぐに開始すべき
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ス、サポート
プロセッ
シング
「ビジョン確立から始め、企業の能力と
即応性を活用できるロードマップを開発する」
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コスト上昇
サイバー
ポートフォ
リオリターンの最大化
デジタルの有効性
ディスラプション
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新時代コモディティ
操業許可
労働者の未来
デジタル化の波は競争優位性をもたらしてくれるのか
7鉱業・金属セクターの事業リスクトップ 10 2019~ 2020
買収 : 買収による成長が好まれるものの優良な買収は限定的
このセクターでは現在のリスクとリターンに対する選好を考えると、既存のオペレーションに規模感や選択性をもたらす遊休化していたブラウンフィールド・プロジェクトへの資金投入が優先されています。そのあとになって初めてグリーンフィールドへの投資や買収が行われるのが一般的です。
低リスクの投資機会をもたらすグリーン
フィールド・プロジェクトは比較的少ないた
め、買収を検討する企業が増えています。しか
しながら、投資の初期段階において売り主の期
待に合致した評価額を見いだすことは困難な
ことが分かっており、1社や2社の先行企業による思い切った決断を伴う買収から始まるこ
とになります。
構築 : 大半を占めるブラウンフィールド・プロジェクト
市場は比較的バランスが取れているものの、プロジェクトパイプラインが大幅に減っていることから、少数のコモディティについては需給がひっ迫しています。また、他の残っているプロジェクトについては十分に投資がなされないものが多くあります。これにより、早期開発への投資が遅れ、供給にさらなるプレッシャーがかかっています。
リターン : 新たな道を模索
十分なキャッシュフローや、資産売却による大量のキャッシュ流入によって、多くの企業が自社株の買戻しを行っています。これは、経営者からみた自社株の過小評価を利用したものであり、資本コストを下げることにつながります。
資産売却プロセスの大部分はすでに完了しているため、自社株の買戻しを通じた資本レベルの低下が見込まれています。しかしながら、結果として資産量全体は落ち込み、投資よりも資本還元が優先されます。
変革 (投資): イノベーションが新たな創造的破壊要因に
従来、資本配分戦略は単に「買収」「開発」「リターン」にのみ焦点が当てられてきました。しかしながら、継続的なイノベーション、変革的なテクノロジーが利用可能となった今、企業はテクノロジーによって既存のオペレーションを変革するために投資を始めるべきではないでしょうか?
テクノロジーやデータアナリティクス、業務変革に投資すれば、競合他社よりも有利となるでしょう。EYの調査によれば、デジタル分野への投資には、大多数の企業が予算のわずか5%、あるいはそれ以下しかあてていませんが、この割合を最大20%まで上げてリスクを取った場合、オペレーションは果たしてどれだけ変革できるでしょうか? これにより、鉱業・金属企業の操業にディスラプションがもたらされる可能性が生まれます。同様に、このリスクを冒さなければ手が届かなかった経済的収益を既存の資源にもたらし、最終的には、買収や開発を通じてしか獲得できなかったポートフォリオの成長を形成できるかもしれません。
ディスラプションは避けて通れません。デジタルやイノベーションに注意深く資本配分できれば、革新的な、予測能力のある、そしてより高い利益を生み出せる鉱業・金属企業となるでしょう。
ポートフォリオリターンの最大化03企業戦略の核となるのは資本配分です。資本に関する意思決定が正しく行われて初めて、将来的な収益が長期にわたり競争力あるものとなるのです。ポートフォリオに真の変革を実現させ、トップクラスの投資家へのリターンを創出するために、鉱山・金属セクターは、資本配分のすべての要素に目を配る必要があります。変革的テクノロジーへの投資の必要性は高まり続けています。
「投資家へのリターン、強固な資本、バランスシートの管理、持続的成長に向けた妥当な資本配分のすべてにわたり、バランスを取ったアプローチが不可欠です」
グローバル鉱業企業、ファイナンス・ディレクター
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新時代コモディティ
操業許可
労働者の未来
あなたの戦略は未来に備えているか、それとも未来を創造しているか?
鉱業・金属セクターの事業リスクトップ10 2019~20208
サイバー04高まる脅威の中、企業はサイバーセキュリティの予算を拡大し、さらなるリソースを投じて防御力を強化し、セキュリティ・バイ・デザインを組み込もうとしています。デジタルトランスフォーメーションによって、企業は新技術や新たなビジネスモデルを受け入れざるを得なくなっています。サイバーセキュリティは成長の主要イネーブラーとなるのです。
鉱業・金属セクターの企業は、もともとデジタル的な性質を持っています。つまりコネクテッドな世界においては、デジタル化を取り巻く環境は広大であり、企業が所有・使用する資産にはすべて余計な侵入経路があります。同時に、企業にとってデジタル環境を理解し、安全に保つことが非常に困難です。
その結果、攻撃対象は物理的な資産、デジタルインフラ、業務プロセスからより広範囲な領域へと広がり、企業のみならずサプライヤーや顧客など関係者にまで影響を及ぼします。
例えばエンジニアリングの外注業者が機材にIoTを組み込むことによってネットワークの境界線が拡大し、曖昧になってきています。攻撃は意図的であるか否かにかかわらず、その影響は、長期的かつ広範囲にわたる業務停止、安全に関する事故、損害賠償請求やこれに関連する法務コスト、データ消去コスト、風評被害、経営分散、資産への物理的損害などを生じさせます。
の鉱業・金属セクター企業が、昨年一年間で重大なサイバーセキュリティ関連のインシデントを経験
54%
出典 :EYグローバル情報セキュリティ サーベイ(GISS)2018–19
(第3位から下降)
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リオリターンの最大化
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ディスラプション
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新時代コモディティ
操業許可
労働者の未来
プロテクション以上のサイバーセキュリティを設けていますか?
効果的なリスク管理原則/経営原理に基づく革新的なサイバーセキュリティ戦略
サイバーセキュリティによっていかに企業成長をサポートし、実現できるかに焦点を絞るべきです。業務プロセスにセキュリティを統合して、より安全な職場環境を構築しなくてはなりません。企業には効果的なリスク管理原則/経営原理に基づいた革新的なサイバーセキュリティ戦略が必要です。
鉱業・金属セクターの企業はこの業界が持つリスク、重要な資産、サイバーリスク・イベントが発生するシナリオを理解する必要があります。
効果的なサイバーセキュリティではまず、企業はベースとなるサイバー管理の成熟度評価が求められます。これは最大のサイバー脅威となるシナリオに対し、戦略的で長期的なサイバー投資の優先度を高めるための、リスク・ベースのアプローチです。これを詳細に確認し、サイバー管理のギャップを特定し解決するため、サイバーセキュリティ・フレームワークを適用することが重要です。
サイバーセキュリティの変革はどのようなものであれ、文化、ガバナンス、能力にまたがる以下の3大原則を促進することが必要です。
1. セキュリティの基本事項を熟知 : 「セキュリティの基本」を十分に成熟させ、システムの健全性やオンラインセキュリティを向上させるための慣行と手順を実践し、現行の情報セキュリティソリューション能力を最適化している。
2. 強力なガバナンス・プログラム、説明責任の文化を形成 : 成長や業績に対する適正な指標、セキュリティに精通した文化の育成、セキュリティ対策を社員の日々の業務責任の一部として確実に実践している。
3. 継続的改善に向けたコミットメントを構築 : 進化する脅威や傾向に基づく新たな要求事項を盛り込み、常にセキュリティ体制をアセスメントして不足を補う。またサイバー戦略の役割や責任は、役職にかかわらず全社員が負う。
9鉱業・金属セクターの事業リスクトップ 10 2019~ 2020
鉱業・金属セクターにおいて、コストに大きな影響を与えるのはインフレ圧力です。グローバルなインフレは過去のサイクルで起きたほど急速に高まるとは考えられません。しかし2016年に2.7%であったのが、2019年に3.5%へと高まることは確実です2。コモディティ価格が上昇すると、賃金や消耗品、エネルギー価格といった鉱業関連の投入コストが、全体のインフレ率よりも高まることがよくあります。
賃金アップによる影響は特に顕著です。オーストラリアの一部地域では、2018年1月~9月までの間の募集人員の給与額は35%上がりましたが、これでも最低水準には達していません3。さらに、南アフリカ共和国やチリにある鉱山労働組合による、鉱山労働者の賃金引上げの要求圧力が高まっています。鉱山・金属セクターの企業は、こうしたコストの引き上げによる事業への影響を懸念しています。
インフレに加え、鉱山の複雑化、テクノロジー利用の増加、労働力の変化、操業許可への投資増加など、鉱山操業の在り方の変化もコスト上昇を引き起こしています。
低コストの鉱山の多くが操業終了しつつある今、鉱業はますます複雑なものとなりつつあります。鉱山企業は低品質の鉱石のためにより深くまで掘削し、加工場までの長い距離を運び、水抜きするなど、物理的な制約事項によりコストをかけなくてはならなくなりました。
コスト上昇05
「キャッシュフローやコストに注力することで、かならず投資家へのより良いリターンにつながるでしょう」
グローバル産金企業、グローバル税務担当 Vice President
鉱山企業のコスト推移(%)
2 2018年11月9日時点でのOxford Economicsによる消費者物価指数3 サム・ジェイコブス、 “Soaring wages growth in key mining regions is a bright spot for the Australian economy right now”、Business Insider、2018年9月4日
BHP社、Rio Tinto社、Vale社およびAnglo American社の平均変化率(%) 出典: S&P Capital IQ および EY分析
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(22.05)
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コスト上昇
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リオリターンの最大化
デジタルの有効性
ディスラプション
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新時代コモディティ
操業許可
労働者の未来
コストを抑えつつ競争力を保つには
オートメーションやデータを活用することで、大規模な鉱山操業に非常に大きなベネフィットをもたらします。競争力を保ち続けるには、オートメーションと同様にデータアナリティクスにも投資する必要が出てくるでしょう。ただこれにより効率が上がったとしても、他の関連コストが生まれてきます。より複雑なテクノロジーの導入、データの信頼性向上により、求められる労働者のスキルも変化するからです。こうした労働力を募集し、定着させるには給与の増額が避けられません。
企業はコストにどう対応すべきか?• 持続可能なコスト削減プログラムに注力
• 一般管理費の検討
• 低コスト国からの調達
• 予備剝土作業、先行開発や備蓄品で関連資本が高いレベルで固定化していないかの見直し
• 契約採鉱の利用と売却ないしリースバックとの比較検討
• フロントオフィス、バックオフィスのオートメーション化
• サプライヤーとの契約見直し
• オフショアリングかアウトソーシング
• 非中核資産の売却
鉱業・金属セクターの事業リスクトップ10 2019~202010
採鉱や鉱物加工は大量のエネルギーを消費しており、ます世界の総エネルギー消費量の6.2%を占めると推定されています4。
エネルギーコストは企業のコスト全体の3分の1まで占めており、操業において厳しく管理すべき要素となっています。しかしコストは、エネルギー資源の適切なミックスを選択する上で、考慮すべき重要事項の1つであるものの、より広い戦略決定の中での単なる一側面にすぎません。コスト以外に重視すべき事項には以下が挙げられます。
• エネルギー資源選択による社会的・風評的影響
• 特に遠隔地におけるエネルギー資源の活用可能性
• 鉱山寿命を通じたエネルギーの入手可能性、および燃料価格変動への対抗措置の管理
採鉱作業は今日に至るまで、設備を稼働させるための化石燃料と加工のための電力に大きく依存してきました。遠隔地での作業においてはディーゼル発電への依存度がさらに高い状況です。例えば、オーストラリアの採鉱セクターではエネルギーの41%を燃料費が占めています。
エネルギーコストはすでに鉱山操業コストの重大な部分を占めています。現行水準を超えた深度まで採掘が可能となるにつれて、エネルギー需要はさらに大きく増え続けています。
こうしたリスクを最小限にとどめるために、企業はエネルギー資源、すなわち化石燃料、水力発電、および再生可能エネルギーのミックスを選択し始めています。
加えて、鉱山ではコストや温室効果ガスの削減が検討されるにつれて、バッテリー貯蔵技術がより信頼性が高くかつ廉価になってきているので、ディーゼル駆動設備を電動へ替えるための方法を探究していくでしょう。例えばカナダのボーデン鉱山のように、ディーゼルから鉱山電化の利用を拡大する傾向が見られています。これには、地中での排気や換気に係るコストが削減されるなど多くの利点があります。
労働者は地下で採光や換気のためにエネルギーを必要としているので、鉱山では信頼性ある安全なエネルギーを確保するためには、従来型資源と再生可能資源との統合が重要です。日光や風が得られない場合、従来資源やエネルギー貯蓄で不足を補わなければなりません。再生可能エネルギープロジェクトのいくつかがとん挫し、従来型解決方法が存続している理由はまさにここにあります。
エネルギー・ミックス06
「エネルギーセクターが直面している変化のペースは前例を見ないものです。エネルギーの将来に向けての正しい進路を選択するためには強力なリーダーシップ、そして何よりも明確なビジョンが必要です」
先進鉱山エネルギーシステム(Advanced Mine Energy Systems)でカナダ研究主席(Canada Research Chair)を務めるアリ G. マディセー博士は、究極の解決方法には採鉱操業における一連の独創的な超効率的エネルギーシステムの開発が必要であると指摘しています。これによって以下に述べる利点が生まれ、採鉱操業の一層のグリーン化、コスト削減、持続可能性の向上を図ることができます。
• コジェネレーションや廃熱回収システムによりエネルギーロスを防止
• 風力発電、太陽光発電、地熱発電のような現地で入手可能な再生可能エネルギーの活用
このような解決方法によって鉱業界はエネルギー資源の多様化、化石燃料消費量や炭素排出量の削減、およびコスト削減を実現できます。それが最終的には新世代の鉱山を生み、業界のグローバルな競争力や、長期的な持続可能性を高めます。企業もまた、将来の投資計画において選択肢が広がるため、さらなる開発や、再生可能関連コストの削減をも実現できるようになるでしょう。
4 KBRコンサルティング、“Fuelling the future of mining”、https://www.raconteur.net/sponsored/fuelling-future-mining、2018年10月27日に評価
(第9位から上昇)
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労働者の未来
エネルギー・ミックス
コスト上昇
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新時代コモディティ
操業許可
未来のエネルギー・ミックスへの処方箋
EYグローバル、エネルギー・リーダー
ブノワ・ラクロ
11鉱業・金属セクターの事業リスクトップ 10 2019~ 2020
鉱業・金属セクターにおいて、人材マネジメントはいまだコモディティ価格と連動しています。鉱山企業は価格が上昇傾向にあれば採用を増やし、減少傾向にあるときは余分なリソースを排除しようとします。その結果、コモディティ価格の低迷時に解雇された、貴重な知識や経験を持つ多くの労働者は他のセクターへ移り、二度と戻ることはありません。また、このセクターにおける人材・労働力供給を変容させる新たな傾向も見られます。
• 変わりゆくテクノロジー
ディスラプティブ・テクノロジーによって要求されるスキルに変化が生じているにもかかわらず、データサイエンス、アナリティクス、予測モデリング、メカトロニクスなどのスキルセットを備えた人材が確保されていません。この点において鉱業・金属企業は、他のセクターに比べ競争力が低い状態にあります。企業は採用の目的を十分にアピールできていないのです。それができれば、ブランドが確立され、ミレニアル世代の労働力を引きつけられるはずです。
新たに技能を習得する意思がある既存の労働者をうまく活用すれば、変化をマネジメントし、デジタルトランスフォーメーションを成功させられるでしょう。
• 変わりゆく社会と人口構成
スキルセットの変化に対応できる若い人材をどう採用するかが課題です。ソーシャルメディアから情報が得られる昨今の、意識の高
労働者の未来07
「デジタルテクノロジーの浸透に伴い、従業員のデジタルスキルや専門性、ビジネスのディスラプションの機会がますます注目されています。ある取締役会メンバーは、自身のセクターが鉱業なのかITなのか、もはや分からないと述べたほどです」
EYビジネスリスク調査2019-2020の匿名回答者
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リオリターンの最大化
デジタルの有効性
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新時代コモディティ
操業許可
労働者の未来
鉱業は、次世代の有能なリソースをどう獲得すべきか
い若者にとってこのセクターは注目されていません。鉱業では中等レベル以上の教育を受けた人材が減少しています。未来の労働力を構築しなくてはなりません。
一方、高齢の人材を維持することは、経営にとって継続的なリスクとなります。労働力の高齢化がこのセクターに及ぼす影響や、定着率、後継者育成についての検討は、これまで不十分でした。
• グローバル人材市場
労働力の大部分が現地調達されているものの、グローバル化により、指導者や技術系の人材確保は複雑になっています。グローバル化によって世界から広範に人材確保できるようになった代わりに、人材獲得競争がグローバルレベルで激化しているのです。
将来の労働力の構築
鉱業・金属企業は、新たな操業の在り方に対応できる優秀な人材を引きつけられる、戦略的な人事戦略を持たなければなりません。将来的に不要となるスキルセットを持つ既存人材に新たな技能教育を実践する必要があります。また既存人材が持つ重要なスキルの維持も同様に重要です。
今、このセクターに必要なのは、コモディティ価格のボラティリティやデジタルトランスフォーメーションの中で目標に向けて前進できる、俊敏で強く、かつ低コストの労働力です。企業は短期・中期・長期的な視点から必要事項を検討し、投資することが必要です。
将来の労働力を構築する上での留意事項は以下の通りです。
• 将来のことを今考える。優秀な人材を確保し、育成するために必要となる戦略的な人事戦略を構築する。同時に、今から5~10年後に不要となるスキルセットを持つ既存人材に新たな技能を習得させる
• ブランドや目的を確立する
• 短期・中期・長期的に調達メカニズムを検討する
• 従来のリソース・育成戦略を変更する。例えばプランニングであれば製造やアナリティクス経験のある人材など、業界外から有能な人材を調達する方が容易になる場合がある
• 労働力の需給バランスを維持し、高齢の従業員を維持しつつ優秀な人材を確保できるメカニズムを備えた、フレキシブルなリソース確保のモデルを活用する
鉱業・金属セクターの事業リスクトップ10 2019~202012
多くの企業は、ディスラプション(創造的破壊)がセクターのすべての面において生じるであろうと捉えています。しかし、バリューチェーンの一部ではすでに始まっているのです。
• 業務 : 業務の自動化はRPA(ロボティクス・プロセス・オートメーション)を通じバックオフィスに、自動運転車を通じオペレーションに、それぞれ業務上のディスラプションをもたらしています。次のターゲットは業務のスケジューリングや計画策定となるでしょう。
• 顧客 : コモディティのいくつかでは、すでに生じています。例えばモルガンスタンレーは、「ジェムクオリティのダイヤモンドの15%は2020年には合成ダイヤモンドに取って代わる」と予測しています5。
• 資産 : オートメーション化や電動化によって資産にディスラプションが生じるといわれています。鉱山の電動化はコスト削減、エネルギー効率化、操業許可のスチュワードシップを促進できるとして経営層の検討課題となっています。オートメーション化や電動化が一般的になるにつれ、「デジタル鉱山」が開発されるようになり、新たな資産の波を引き起こしています。
• 経済社会 : 採掘に関する法令や政治体制の変更など、規制上の変更やマクロ経済の変化を通じて経済的なディスラプションが生じます。
セクター全体にディスラプションを生じさせるのは何か
セクター全体に生じるディスラプションは必然です。しかし何がディスラプションをもたら
すのでしょうか。鉱業セクターにUberに相当するような企業が出現することはまず無いと思われますが、セクター内外の変化に対する大手企業の反応は鈍いです。非効率的であれば市場におけるリーダーシップは失われ、新たな参入者にとって魅力的な環境となるでしょう。
伝統を超えた未来の鉱山企業
経営幹部を対象として実施したディスラプションの要因についての調査結果は、私たちの見解とほぼ一致するものでした。
テクノロジー企業は、材料を確保する手段として金属・鉱業企業への直接・間接投資を考えています。例えば、世界のコバルトやリチウムの供給量には限りがあるため、従来対象としてい
ディスラプション08
ポール・ミッチェル EYグローバル、マイニング&メタルアドバイザリー・リーダー
「私たちは今、予想もしないところからやってくる、絶え間ないディスラプションの時代にいます。これを脅威と見るのではなく、イノベーション、進化、成長のための素晴らしい機会と捉えるべきです」
なかった金属・鉱業セクターにまで投資対象を拡大することで、携帯電話の生産を継続しようとしています。
国家は国内産業に対する供給を確保し、雇用を保護するため、主要なステークホルダーとなるための財源を有しています。またサウジアラビアやノルウェーのように、政府系ファンドがセクターに投資している国もあります。
かつてオーストラリアのJV投資などの投資グループは、主要なコモディティを強化するため、操業に関心を持っていました。投資グループは再度、このセクターにおける優位なプレーヤーになると予測されます。投資家は再び機会を探っているのです。
5 スー・ラニン、 “De Beers to launch synthetic diamond jewellery in United States to shake up gemstone market” ABC News、 2018年7月4日
鉱業セクターにおける主要なディスラプター
鉱業・金属企業はこのリスクにどう対処できるのか
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新時代コモディティ
操業許可
労働者の未来
資本についての考え方の変更 従来的な資本の検討課題である「買収、開発、リターン」という構造を変える
デジタルやイノベーションへの投資強化
デジタルとイノベーションを活用して生産性や利益率の改善を促進させる
ディスラプションのプロセスを加速
ベンチャーとの連携など新たな機会を模索する
操業許可の拡大 ステークホルダーとしての政府との関係性を強化し、規制上の変更に参画し備える
31%鉱業企業23%
主権国家23%
投資家20%
テクノロジー・プロバイダー
出展 : 鉱業・金属セクターにおける336名の経営幹部を対象としたEYグローバル調査
ディスラプションは阻むべきものか、変革の機会か
13鉱業・金属セクターの事業リスクトップ 10 2019~ 2020
不正や腐敗のリスクが多くの鉱業・金属企業で顕在化しています。不正や腐敗の件数が増えたからではなく、より高精度に不正や腐敗を特定できるようになったことがその理由です。さらに、ソーシャルメディアはグローバルレベルで、また過去に例を見ないスピードで、根拠の有無にかかわらず不正行為疑惑を可視化しました。それ故、不正リスクには必然的に風評や操業許可に関するリスクが伴います。
不正 09
の回答者が、国内事業において賄賂や腐敗が横行していると述べています。そのうち契約を得るために金銭授受を正当化できると答えた回答者はわずか13%でした
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不正
新時代コモディティ
操業許可
労働者の未来
不正は曝露されて初めて問題視されるべきか
テクノロジー利用の拡大
鉱業・金属企業はデジタルテクノロジーを活用し、ビジネスの手法を変えようとしています。それに伴い、企業の不正や腐敗などに対する曝露も拡大しています。グローバルにコネクティビティが強化されるということは、企業データにアクセスできる世界のあらゆる人物が、データセキュリティの脆弱性を悪用できるということです。企業の重要なデジタル資産や有形資産が直面している盗難、損害、不正利用といったリスクは過去に例を見ないほど高まっています。
アクティビティが増加するにつれて高まる不正や腐敗のリスク
コモディティ価格やキャッシュフローの上昇に伴い、遊休化していたブラウンフィールドにおける鉱山プロジェクト向けの探査プログラムが再び見られるようになりました。前回のブームでは、積極的なマネジメントができておらず、契約のモニタリングが不十分であったことが課題でした。企業は投資計画を遂行し、操業を維持するため、毎年何十億もの資金を契約に費やしてきました。これには、複数の請負事業者がかかわり、管理はサードパーティー任せの場合も多く見られます。投資計画に伴う支出のうち、契約上の違反がある、または配分に誤りがあるものは1%から2%で、そのうち操業における経常支出から識別できるものは平均して8%です。
企業における対策の現状
不正や腐敗は企業の風評や社会的な操業許可、さらには株主価値にも重大な影響を及ぼします。EYの第15回不正行為グローバルサーベイ(EY Global Fraud Survey 2018)でインタビューを受けた経営幹部の大多数が、汚職行為防止にかかわるポリシー、手順、マネジメントを重視しており、多くの企業はコンプライアンスにおいて成熟しています。ビッグデータを使った予測能力向上により、アナリティクスはもはや検知ツールではなくなりました。リアルタイムにアセスメントを実施し、効果的な監視で不正を特定し、防止し、マネジメントすることが可能です。大手企業では、講義形式やウェブでの一斉研修に替えて、個人に合わせたリスク研修をリアルタイムに実施できるAIテクノロジーが採用されています。
鉱山・金属企業は厳しい競争圧力や規制強化の中、多様で分散した従業員やサードパーティーをどう統制するかという難題に直面しています。現代の変化のスピードの中で、経営やコンプライアンス活動の過程で新たな不正やコンプライアンス上のリスクを特定しなければいけません。前出の調査(EY Global Fraud Survey 2018)の結果からは、企業が不正を防止しようとする姿勢や高いモラルを保持することでペナルティ回避だけではなく、ビジネス上のパフォーマンス向上が可能であると分かりました。誤った行いが減れば、正しい行いのための機会が増えるということです。
第15回不正行為グローバルサーベイ
鉱業・金属セクターの事業リスクトップ10 2019~202014
これまでは都市化や、建物・道路・鉄道などにおけるインフラ需要の高まりが、従来コモディティ需要の主要な推進役となっていました。しかし近年では、経済の「グリーン化」がより一層進められ、下流セクターの技術的ディスラプションや継続的変革がコモディティ需要に変化をもたらしています。
例えば、電気自動車(EV)の台頭がコバルト、リチウムといったレアメタルや銅などに対する需要を拡大する一方、企業がより一層の持続可能性を追求し、リサイクルを重視するようになったことで、コモディティの中には需要低下が見込まれているものも存在します。その一例として、2025年までにコバルト需要の20%がバッテリーのリサイクル(再利用)によって充足されると予想されています6。また、こうした循環型経済への移行に伴い、とりわけ中国の鉄鋼メーカーにおいてアーク炉の利用が拡大しています。これによって鉄鉱石需要に影響が及び、結果としてスクラップ鉄の需要が高まることも大いに予想されます。
こうした変化が鉱業企業のポートフォリオに与える影響を理解し、新時代コモディティと従来コモディティのバランスを維持することは、急速に変化する環境下において容易なことではありません。
次世代の需要の波をめぐる競争
今後、新時代コモディティが、成長し続ける多様なハイテク技術やグリーン・テクノロジー(例えばバッテリー、スマートフォン、モバイルPC、高度なセキュリティシステムなど)の生産において欠かせないものとなるにつれ、新時代コモディティをめぐる競争の激化は避けられないでしょう。さらに言えば、新規プロジェクト獲得に努めているのは、鉱山・金属企業だけではありません。
例えばEU、韓国、日本、米国などの国や地域では、特定の鉱物を自国の将来的発展に 「必要不可欠」なものとして指定しています。中国の国
新時代コモディティ10
グローバル・バンキング & フィナンシャルサービス会社、M&Aエグゼクティブ・ディレクター
「電気自動車(EV)は代替金属の成長や銅需要を下支えするでしょう」
有企業も例外ではなく、リチウムやコバルト鉱山、下流プロセスの購入やそれらへの投資を通じて、すでにリチウムイオン・バッテリーにおけるサプライチェーンの大部分を掌握しています。さらにテクノロジーや自動車を含む下流セクターにおいても、今後どのようにして供給(手段)を確保していくかが模索されています。
計画し、視野を広げる
今後、多くのセクターと連携し、バリューチェーンにおける価値を捕捉できる企業が、鉱業・金属セクターにおいて最終的な勝利を収めるでしょう。自身のポートフォリオを超えて価値を捕捉しようと考える鉱業企業は、より専門的な鉱業における展望を特定するためにベンチャーキャピタルを活用したり、あるいは専門家で構成された内部チームを設置したりしています。例えばリオティント・ベンチャーは、将来の金属需要に影響を及ぼし得る主要な新テクノロジーに基づき、新たな機会の検討・評価を行っています。
ポートフォリオの最適化は不可欠です。鉱業企業がポートフォリオ全体の価値を強化すべく投資、ダイベストメント、合理化について意思決定をするには、自身の多様なポートフォリオ間の相互作用を理解しなくてはなりません。投資先や資本配分に関する意思決定も、十分な時間的余裕をもって行う必要があります。従って、鉱業企業が変化に迅速に対応するためには、各々のビジネスモデルに一定の柔軟性を保ち、コモディティの新旧を問わず、資産の成長性に基づく定期的なポートフォリオの見直しを行うことが必要となるでしょう。
6 “Future of Mobility and Battery Service”、EY分析、2018年9月
(第4位から下降)
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EY | Assurance | Tax | Transactions | Advisory
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EYは、バリューチェーン全体を網羅するアプローチにより、デジタルを活用した生産性の急速な向上、ポートフォリオのバランス改善、そしてエネルギーの新時代に向けた明確なロードマップの策定を通じて、クライアントを支援します。