第3回
内部資源・能力の分析
戦略立案の出発点
経営戦略の概念
定義
➤ 「環境要因と自社資源との関係の中で、組織のあるべき姿・進むべき
方向性を明らかにし、それを実現するためのシナリオ(道筋)を設計
すること」
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戦略
あるべき姿
進むべき方向性
現状
シナリオ
成長戦略、
競争戦略…
自社資源
外部環境
経営資源とは何か?
経営における4大資源
➤ ヒト
➤ モノ
➤ カネ
➤ 情報
一般に…
➤ 小規模企業よりも、大規模企業のほうが、資源の量が多く、質も優れ
ていると考えられる
▸ 小規模企業が誇るべき資源は何か?
➤ 同じ大規模企業同士ではどうか?
▸ 成長(売上)や利益を高めるために、どのような資源に着目すればいい
か?
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自社の「強み」とは何か?
ある中小企業の経営者いわく・・・ ➤ 「先生、今日はようこそお越しいただきました。これから私の会社を紹介させていただきます
が、まずは新しく作った工場にご案内いたしましょう。そこには、わが社が誇る“強み”があります。それは、新工場の設立と同時に導入したスイス製の高精度な工作機械です!」
➤ この中小企業の経営者が言うスイス製の工作機械は、本当にこの会社の“強み”だろうか?
➤ それが“強み”であるためには、どのような条件が必要だろうか?
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自社の成長と競争力を支える経営資源とは?
考えられる条件
➤ 企業の製品・事業展開を成功的に進めていく上での鍵となる要素である
➤ 他社が同じまたは類似のものを持っていない
➤ 他社が簡単に入手もしくは模倣できない
➤ 同等の役割を果たすような代わりになるものがない
➤ 一定期間長持ちする(すぐに消滅・消耗しない)
・・・・・
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VRIO分析(BARNEY, 1997)
VRIO
➤ 価値(Value)
▸ その資源は企業の製品・事業展開の上で重要な役割を果たす価値あるも
のか?
➤ 希少性(Rareness)
▸ その資源は他社があまり有していないという意味での希少性はあるか?
➤ 模倣困難性(Imitability)
▸ その資源は他社が容易に模倣できるか?
➤ 組織(Organization)
▸ その資源の可能性を強化・育成し、活用していくような組織・システムが用
意されているか?
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VRIOフレームワーク
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価値
(Value) 希少性
(Rareness) 模倣困難性 (Inimitability)
組織 (Organization)
競争優位
No -- -- -- 劣位
Yes No -- -- 同等
Yes Yes No -- 一時的優位
Yes Yes Yes Yes 持続的優位
戦略的経営資源の特徴(COLLIS&MONTGOMERY, 1995)
模倣困難性
耐久性
専有可能性
代用困難性
競争上の優位性
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経営資源の魅力度
戦略的経営資源の特徴
模倣困難性(Inimitability)
➤ 天然的・物理的独自性(価値のある不動産、鉱石の採掘権、特許)(+)
➤ 経路依存性(歴史的蓄積)(+)
➤ 因果関係の曖昧さ(資源と成果との関係の認識困難性)(+)
➤ 経済的阻害要因(市場規模の制約)(+)
耐久性(Durability)
➤ 資源に関連する環境変化の程度(技術変化、顧客ニーズの変化の早さ)(-)
➤ 関連する製品・事業のステージ(流動期、成熟期) (-)
専有可能性(Appropriability)
➤ 特定の個人への依存度 (-)
➤ 組織成員の流動性 (-)
➤ 組織的な共有の程度 (-)
代用困難性(Sustitutability)
➤ 代用資源の存在(アプローチの多様性) (-)
➤ 代用資源のコスト・パフォーマンスの向上 (-)
競争上の優位性(Competitive Superiority)
➤ 製品・事業展開の上での戦略的価値(+)
➤ 他社資源に対する相対優位性(+) 9
企業の内部資源・能力
経営資源(resources) ➤ ヒト
▸ 経営者、技術者、工場労働者、セールスマン・・・
➤ モノ
▸ 土地、ビル、工場、機械・設備、原材料、コンピュータ・・・
➤ カネ
▸ 手持ち資金、有価証券、資金調達能力・・・
➤ 情報
▸ 技術(特許、ノウハウ)、顧客基盤・顧客の信用、ブランド力、
経営・管理能力(組織能力)、企業文化・組織風土・・・
▸ 組織能力(organizational capabilities)
• 経営資源を組み合わせ、事業を遂行していく能力
• 「コア・コンピタンス」(顧客に特定の利益を与える一連のスキルや技術、 Prahalad and Hamel, 1990)
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多くの場合、企業の“強み”の源泉は
「情報的資源」に
所在する
情報的資源の特徴
特徴
1. 見えない(“見えざる資源”)
2. 使用による減耗がない
3. 同時多重利用が可能
▸ 資源の多重利用による多様な展開可能性の基礎となる
→ シナジーを通じた多角化などの戦略展開(成長戦略の基礎)
4. 市場での調達が困難
5. 形成に時間がかかる
▸ いったん形成されると他社が模倣困難な資源として、自社と他社 を区別する「差別化メカニズム」(isolating mechanism: 隔離メカニズムとも言う)として機能する
→ 資源を梃子にした持続的競争優位の形成(競争戦略の基礎)
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外見(洋服)よりも、中身(人格)!
絵具や筆よりも、絵を描くセンス!
自社資源・能力の多義性
「隠れた」自社の強みの発見
➤ 同じ情報的資源でも…
▸ 技術能力
▸ 顧客との関係性
▸ 管理ノウハウ
e.g. ユニクロの食品販売事業SKIP(2002~2004)
生産→物流→販売までの一貫在庫管理ノウハウ
自社資源・能力の読み替え
➤ 技術・製品の価値や役割を見直すことで、
技術・製品の潜在的な強みや新しい価値を
見出すことが可能となる
e.g. インクジェット(IJ)技術の事業化
印字品質、静寂性→小型化→カラー化
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資源の再解釈:IJ技術の強みの発見
「お化け煙突」の論理 ➤東京電力千住火力発電所(1925~1964)
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①
②
③
④
ドットインパクト
レーザービーム
熱転写
インクジェット
印字品位
スピード
静寂性 小型化
カラー化
皆さんの強みとは?
いま皆さんは3年生だとしましょう。今年の終わりには いよいよ就職活動が始まります。
そこでアピールする「自分の強み」は何ですか?
➤ 社会人として仕事をしていくうえで鍵となる能力
➤ 他人があまり持っていない
➤ 他人がまねできない、すぐに形成できない
➤ 自分の弱みの読み替え
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外部環境と自社資源・能力の包括的分析
SWOT分析
➤ 外部環境の機会(Opportunity)と 脅威(Threat)の把握
➤ 自社の強み(Strength)と 弱み(Weakness)の把握
3C分析(4C分析) ➤ 競合企業(Competitor)
➤ 顧客(Customer)
➤ 企業(Company)
+協力企業(Collaborator/Cooperator)
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企業 (Company)
競合 (Competitor)
顧客 (Customer)
戦略 あるべき姿
シナリオ設計
資源・能力は何か?
競合は誰か? 顧客は誰か?
資源・能力分析 外部環境分析
弱み 強み
機会
脅威
外部環境分析
資源・能力分析
SWOT分析
機会
(Opportunity) 脅威
(Threat)
(Stren
gth
)強
み
(Weakn
ess
)
弱み
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SWOT分析の活用
1. 外部環境のもたらす「機会」と「脅威」、自社の「強み」と「弱み」を網羅的にリストアップする
2. 環境の「機会」の裏側に「脅威」がないか、 「脅威」の裏側に「機会」がないかを検討する ▸ 少子高齢化 → 子供1人当たりの支出額の増加
3. 自社の「強み」は「弱み」にならないか、 「弱み」は「強み」にならないかを検討する ▸ 小売店ネットワークの充実 → インターネット販売へ
の対応
4. 「強み」×「機会」に着目して、今後の戦略展開の可能性を検討する
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戦略思考とは、
機会と脅威、強みと弱みの相互翻訳能
力である
SWOT分析
機会
(Opportunity) 脅威
(Threat)
(Stren
gth
)
強み
(Weakn
ess
)
弱み
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新製品・サービス
新事業開発の計画
業務改善・経営基盤
改革の計画
大学の戦略を立案する
学習院大学の戦略…
➤ 大学を取り巻く経営環境の分析
▸ 機会?
▸ 脅威?
➤ 学習院大学の資源・能力の分析
▸ 強み?
▸ 弱み?
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どんな戦略が描けるか?
全社戦略?
事業戦略?
機能分野別戦略?
3C分析
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企業 (Company)
競合 (Competitor)
顧客 (Customer)
戦略 ・あるべき姿
・シナリオ設計
資源・能力は何か?
競合は誰か? 顧客は誰か?
自社資源・能力
外部環境要因
3C分析を通じた戦略立案
学習院大学の戦略…
➤ ライバルはどこか?
▸ 競合
▸ 代用品
▸ 代替品
➤ 顧客は誰か?
▸ 使用者
▸ 購入者
▸ 意思決定者(影響者)
➤ 大学としての強み・弱みは?
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どんな戦略が描けるか?
全社戦略?
事業戦略?
機能分野別戦略?
3C分析
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企業 (Company)
競合 (Competitor)
顧客 (Customer)
戦略 ・あるべき姿
・シナリオ設計
資源・能力は何か?
競合は誰か? 顧客は誰か?
自社資源・能力
外部環境要因 3Cを広く、大きくとらえること
によって、
新しい戦略展開の方向性が
見出されることがある
戦略思考とは、常識にとらわれず、広く、大きく考えることである
演習
SWOT分析あるいは3C分析のいずれかに基づいて、
学習院大学のこれからの戦略展開の方向性
について、提案してください。