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有限責任監査法人トーマツ JA支援室

水みず

谷たに

 成せい

吾ご

渉外担当者に成果を出

させる進捗管理の方法

できる支店長が実践している行動管理

第1回

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1.管理できない支店長が渉外担当者を孤独にする

 農協に伺って人事・人材について意見交換すると「共済ノルマを理由に若年職員が退職している」という悩みを聞くことが少なくありません。このような農協では、若年職員を定着させるために安易に共済ノルマの減額を検討していますが、仮に共済ノルマを減額しても、数年後には同じように「共済ノルマがつらい」という声に悩まされるだけです。 若年職員が辞める本質的な問題はノルマの額ではなく、支店長が渉外担当者を支援する姿勢です。若手職員が辞める支店の支店長は、渉外担当者にノルマを与えて「やってこい」「なぜできないんだ」と言うだけで、後は渉外担当者が自爆でもなんでもいいから目標達成すれば構わないと考えています。このような支店長は、自分の言動が渉外担当者を潰していることに気づかなければなりません。 支店長を頼ることもできない渉外担当者は、焦燥感と孤独感に苛まれて過大なストレスを抱えていきます。実際に、このような農協では多くの渉外担当者が「自分は孤独だ。いつも自分だけが大変な思いをしている」と思い込んで、仕事のやりがいを見失っています。

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 本来、渉外担当者は孤独な仕事ではありませんし、自分だけが大変などと被害者意識を持つことは間違っています。渉外担当者は組合員と接する農協の「顔」です。そのためには、職場内や他部署の職員と良好な人間関係をつくり、上司や先輩、同僚、後輩など、組合内の様々な職員から教えてもらったり、助けてもらったりして成長していくことが必要です。渉外担当者は「自分は一人ではないのだ」と安心させてほしいだけなのですが、それすらもできていない支店長が少なくありません。 支店長がノルマだけ与えて放置しているような支店で、優秀な渉外担当者が育つはずはありません。

2.実績にしか興味がない支店長が渉外担当者の  モチベーションを下げる

 教育研修の場で、支店長に対して「渉外担当者を気に掛けてください」「日ごろから声掛けしてください」とお願いすると「渉外担当者と十分にコミュニケーションがとれているので問題ない」と答える支店長は少なくありません。しかし、コミュニケーションの実態は「数字はどうだ?」「達成できそうか?」など推進実績の確認であり、渉外担当者を気にかけているのではなく、支店業績を気にかけているだけです。 支店長と渉外担当者のコミュニケーションが数字の確認だけになり、数字が良ければ褒められるし、数字が悪ければ罵倒される。そのような人間関係の中で“支店長のために”“支店のために”という発想が出てくるはずはありません。そこにあるのは、余計なことを引き受けない狡猾さと、他人を蹴落としてでも数字を上げたいという競争意識だけです。 最近の渉外担当者に「農協らしさ」がなくなったと言われるのも当然です。

3.できない支店長ほど渉外担当者のモチベーションを  言い訳にする

 渉外担当者のモチベーションが低いために成果が出ないというのは、支店長の言い訳にすぎません。支店長として渉外担当者に対して正しい行動を指示・命令し、やらせなければ成果が出るわけはありません。つ

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まり、成果が出ない原因はモチベーションが低いからではなく、行動させないからです。 このとき、支店長に対して「とにかく渉外担当者に行動させてください」と言うと、「モチベーションが低い渉外担当者にやらせても、やらされ感で行動するだけで成果は出ません」と、“やりがい”を与えていないにも関わらず渉外担当者のモチベーションを問題視します。 しかし、何年も渉外担当者として勤めた結果として、やる気を失っている渉外担当者に対して急に渉外活動の意義を説いても、霧が晴れるように渉外担当者の抱える悩みが解消するわけではありません。 ベテラン渉外担当者になればなるほど、意識が変わるのは人から指摘された時ではありません。ベテラン渉外担当者の意識が変わるのは、自らの行動に対して気づきがあった時です。つまり、意識が変われば行動が変わると信じて、根気よく渉外活動の意義を繰り返し伝えても渉外担当者の意識は簡単には変わりませんが、行動を強制し自らの行動から気づきを得れば意識は変わります。 渉外担当者は、モチベーションが低いから行動しないのではなく、行動しないからモチベーションが上がらないのです。渉外担当者の行動変革を実現する重要なポイントは、「意識が変わると行動が変わる」と考えるのではなく、「行動を変えるから意識が変わる」と考えることです。

4.渉外担当者の仕事は人に会うこと

 支店長として、まず渉外担当者に対して人に会うように指導しなければなりません。推進活動とは、人に会うことによってはじめて成立する活動です。渉外担当者が机の上で考えているだけで成果が出ることはありません。そのため、人に会っていないのであれば渉外担当者としての仕事をしていないと言っても過言ではありません。 それにも関わらず、渉外担当者から“忙しい”から訪問できないという話を聞くことが少なくありません。渉外担当者にとって成果につながる仕事は人に会うことだけなのですから、他の仕事が忙しくて人に会えないという渉外担当者は仕事の優先順位付けを間違っています。 このような渉外担当者の言い訳に対しては、支店長として渉外担当者

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の業務内容を棚卸して、何が忙しいのかを明確にすることが必要です。 言い訳の多い渉外担当者ほど、時間の使い方に無駄が多く、ただ同席しているだけの会議への出席をやめ、渉外担当者がやる必要のない店舗内業務を削減することで、訪問時間は十分に捻出できます。その結果、日中、仕事がなく支店内で手持無沙汰になっていれば、渉外担当者はこのままではまずいと不安になります。 ここで決して支店長は渉外担当者に時間があるからといって会議出席や店舗内業務のサポートなどの仕事(安心感)を与えてはいけません。渉外担当者は人に会わない限り仕事をしていないのだということを痛感させなければなりません。

5.「量」を増やすから「質」が落ちるわけではない

 渉外担当者の行動を変えるとき、渉外担当者に対して、とにかく訪問するように指導すると「渉外は量よりも質が大切」などと言う渉外担当者がいますが、訪問回数を増やしたくない言い訳をしているだけです。 このような渉外担当者は、量を増やすと一人ひとりと話す時間が短くなるので訪問の質が落ちると反論します。そして、量にばかり焦点を当てると訪問が「やっつけ仕事」になり、ただ量を稼ぐために行動するようになると主張します。 しかし、訪問が「やっつけ仕事」になるのは訪問回数を増やしたからではありません。その証拠に、成績上位の渉外担当者が多くの訪問を精力的に実践し、契約成約率を伸ばしている一方で、成績下位の渉外担当者ほど訪問回数が少なく、成約率が低いことがほとんどです。 つまり、訪問回数が多くなるから「やっつけ仕事」になるのではなく、渉外担当者が訪問の意義や目的を理解していないから訪問が「やっつけ仕事」になるのです。

6.行動(できること)を徹底的に管理する

 渉外担当者に行動量の増加を指示したうえで、できる支店長が管理しているのは、渉外担当者が獲得した実績ではなく、契約獲得に向けた行動です。できる支店長は日報等を活用して渉外担当者の日々の訪問件数

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(量)や訪問先とそこでの活動内容(質)を把握し、誰がどういうプロセスでどのように行動しているのかを理解しています。 また、できる支店長は渉外担当者に対して、訪問結果(いつ、だれと会い、どのような内容の話をしたか)をその日のうちに日報に記録することを徹底させ、上司部下のコミュニケーションツールとして日報を効果的に活用しています。 具体的には、できる支店長は、渉外担当者が「誰」を訪問しているのかを確認し、「既存の集金先への訪問だけで満足していないか」「話がしやすい組合員にばかり訪問していないか」など、渉外担当者が獲得可能性ではなく、行きやすさを重視して訪問計画を作成していないかを、日報を通じて確認しています。 特に、新規もしくは休眠利用者の開拓にどの程度の時間を使っているのかは、支店の目標達成に重要な影響を与えるために意識して確認しています。そのうえで、訪問頻度の問題はないかを確認し、疎遠になっている組合員に対して早急に訪問予定をいれるように指示を出します。 日報を書かせるというと「日報を書く時間が無駄です」「その時間を訪問に当てたほうが効率的です」と不満をいう渉外担当者がいますが、日報を無駄に感じるのは、書くほうも見るほうも形式的に運用しているだけだからです。日報は渉外担当者の目標達成を支援する仕組みでなければならず、支店長が日報をみることで渉外担当者が目標達成するために何をすべきかが理解できなければなりません。そのため、日報は単なる訪問先一覧表ではなく、誰と「どのような話をしたのか」が記録されていなければなりません。 できる支店長は、渉外担当者が組合員とどのような会話をしているのかを理解し、今後、どのような提案をするべきなのか、もしくは提案は意識せずに関係構築に努めるべきなのかなどアドバイスをしています。 「日報は時間の無駄だ」と言っている支店長ほど渉外担当者の行動が把握できておらず、渉外担当者が悩んでいても具体的なアドバイスができないうえに、渉外担当者の残業の理由や中身を正確に答えられない支店長も少なくありません。

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7.行動に注目すると課題がわかる

 渉外担当者の推進活動には然るべきプロセスがあり、成果の出ない渉外担当者は推進プロセスのどこかに問題があります。 実際に、全国の農協にお伺いして、成果が出ないと悩む渉外担当者の話を聞いていると、「事前準備」と「ヒアリング」にかける時間が圧倒的に不足しています。 事前準備をおろそかにして、獲得可能性を考慮せずに、訪問できる組合員のところに繰り返し訪問しているだけでは成果が出るはずはありません。 また、ヒアリングもせずに、渉外担当者が推進したい商品・仕組みをキャンペーンだからという理由で推進する渉外担当者に対して、組合員が「この渉外担当者は自分のことを考えてくれている」と感じることはありません。 できる支店長は、日報等を活用することで渉外担当者の推進プロセスを棚卸して、成果の出ない合理的な理由を見つけ指導しています。支店長が実績だけではなく推進プロセスを確実に積み上げていることを管理し、実績が悪くてもプロセスに問題なければ、渉外担当者の能力を評価するということを続けることで渉外担当者は間違いなく伸びます。

あるべき推進プロセス

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 反対に実績数字だけを管理すると、渉外担当者もストレスを感じるだけです。実績を徹底的に管理し、支店長が渉外担当者に対して「未達では本店・本部に報告できない。何とか推進実績をつくってこい」と怒鳴りつけても渉外担当者の行動は改善しません。

8.まとめ

 渉外担当者に目標達成させることは支店長の重要な役割です。渉外担当者の能力が低いことに不満を言っている支店長は、自分のマネジメント能力が低いことを周囲に宣伝していることにほかなりません。 渉外担当者のモチベーションが低いと悩む前に、渉外担当者が正しく行動するように指示し、期待通りに行動していることを管理することが必要です。「モチベーションが上がらないからがんばれない」という渉外担当者の勘違いした甘えを受け入れてはいけません。 そもそも支店長は、配下職員が納得しないと動かないなどと考える必要はありません。まず、どんなことでもやらせてみればいいのです。 仕事に対する“やりがい”は人から与えられるものではありません。 支店長に求められているのは、渉外担当者が渉外活動に対して正しい“やりがい”を感じて自律的に行動するまで厳しく管理することです。

掲載内容について掲載内容は筆者の個人的見解であり、筆者の所属組織とは無関係です。


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