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I Scientific Highlights 055

 宇宙背景放射の観測から決定される背景放射最終散乱時でのバリオン -光子数比ηを用いて標準ビッグバン元素合成(BBN)模型により予言される 7Liの始原組成は、古いハロー星で観測される値よりも有意に大きい [1,2]。最近、このLi問題への新たな解決案として、BBN終了時から最終散乱時までの時期に起こる背景放射の冷却が提案された。暗黒物質の候補の1つであるアクシオンはその時期にBose-Einetein凝縮(BEC)し、背景放射とのエネルギー交換により放射を冷却する可能性がある [3]。このような冷却が存在するならば、BBN時期のバリオン -光子数比(η = 4.6×10−10 [3])は、WMAPで測定された値(η = 6.2×10−10 [4])よりも小さい。このアクシオンによる放射の冷却模型では、7Liの始原組成が観測と一致するものの、2つの問題がある。重水素の始原組成が大きいことと、ニュートリノの有効種数が大きいことである。 BBN時期以降にエキゾチックな長寿命粒子Xが存在し、これが放射性崩壊を起こすとき、崩壊に伴う電磁学的エネルギー注入により、非熱的な高エネルギー光子が生成される。長寿命粒子は、素粒子の標準模型を超える理論で登場する。崩壊で生成された非熱的光子は、背景の軽元素を光分解する。この効果を特徴づけるのは次の2つの変数である。1つは ζX = (n0

X / n0γ )Eγ0である。ここで、(n0

X / n0γ)は粒子

Xが崩壊する前の、Xと背景放射の数比、そしてEγ0は崩壊で生成される光子のエネルギーである。もう1つの変数はXの寿命、τXである。 我々はアクシオンとエキゾチックな放射性崩壊粒子の混合模型でBBNの計算を行った。この模型では、アクシオンが背景放射を冷却し、崩壊粒子が生み出す非熱的光子の核反応で、元々のアクシオンBEC模型の問題点であった大き過ぎる重水素組成を減らす。計算結果を原子核の始原組成の観測的制限と比較した。 更に、原始太陽雲の組成の観測値 (D+3He)/H = (3.6±0.5) ×10−5 [5]を用いて、Dと 3Heの始原組成の和に対する制限を考慮した。星での重水素燃焼 2H(p, γ)3Heにより重水素組成はBBNの後に変化するものの、標準的な宇宙論の範囲内で、(D+3He)/Hは星での核反応では大きく変化しない [6]。この制限から、元々のアクシオンBEC模型が棄却されることを示した。 計算の結果、Dと 7Liを含む全ての軽元素の組成が観測的制限を満たす変数領域が存在することが分かった。その

変数領域では、非熱的光子による反応 2H(γ, n)1Hにより重水素の始原組成が減少し、元々のアクシオンBEC模型の第1の問題が解決する。崩壊粒子は存在するが、背景放射の冷却がない、WMAPのηの値を用いた従来の模型では、7Li問題は解決できない [7]ため、混合模型で初めて全ての観測と一致する解が得られたことになる。 図1は、混合模型でのBBN計算の結果 [8]を示す。T9 ~> 0.06 にある実線と破線の間の小さな違いは、ηの初期値の違いによるものである。0.06 ~> T9 ~> 7×10−3 で、重水素の光分解 2H(γ, n)1Hの効果がD組成の減少とn組成の増加として確認できる。そして、7Be(γ, 3He)4He、7Be(γ, p)6Li、 7Be(γ, 2pn)4Heによる 7Be組成の減少が起こる。6Li組成が、2つ目の 7Be光分解反応により増加する。最後に、T9 ~< 7×10−3で、4H の光分解により、3Hとnの組成が増加する。この時、崩壊粒子Xの存在度は、崩壊前の3 %に満たないほど小さくなっている。

アクシオンと長寿命暗黒素粒子の混合模型によるビッグバン元素合成の解決策日下部元彦 BALANTEKIN, A. B.

(東京大学) (University of Wisconsin, Madison /国立天文台)

梶野敏貴 PEHLIVAN, Y. (国立天文台/東京大学) (Mimar Sinan Fine Arts University /国立天文台)

Hと 4Heの質量割合 (Xp とYp),および他の原子核種のHに対する数比を,温度T9 ≡ T/(109 K)の関数として示す.実線は混合模型で変数を (τX, ζX)=(106 s, 2×10−10 GeV) としたときの組成を示す.この変数での全ての核種の始原組成は観測と一致する.破線は標準BBN模型の理論値 [8]から転載 .

図 1.

参考文献[1] Spite, F., Spite, M.: 1982, A&A, 115, 357.[2] Aoki, W., et al.: 2009, ApJ, 698, 1803.[3] Erken, O., et al.: 2012, Phys. Rev. Lett., 108, 061304.[4] Larson, D., et al.: 2011, ApJS, 192, 16.[5] Geiss, J, Gloeckler, G.: 1998, Space Sci. Rev., 84, 239.[6] Steigman, G., Tosi, M.: 1995, ApJ, 453, 173.[7] Kusakabe, M., et al.: 2006, Phys. Rev. D, 74, 023526.[8] Kusakabe, M., et al.: 2013, Phys. Lett. B, 718, 704.

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