地域学研究(S“悠加Re壇ib”ISbj"zcB),Vb1.41,No.3,2011,785-797.
ベルリン都市圏の中心地再編にみる
新たな縮退型都市圏計画の一考察
高見淳史率,植田拓磨**,藤井正*率*
谷口 守拳***
NewCenterSystemintheBerlinMetropolitanAreaundertheAgeofUrbanShrinkage
Kiyoshi'IXKAMI,'ElkumaUEDA,'IhdashiFuUIIandMamoruTANIGucHI
Abstract
Pbpulationdensificationandretreatfmmsuburbsarebecomingpopulartacticstoadapttoshrinkingmetmpoli‐tanreglons・Nevertheless,strategiesdedicatedtothereOrganizationofsubcentershavebeenneglected,consti‐tutmgapolicyblindspot・Inreali噸localgovemmentstrytoestablishandmaintainaplaceasapartialcenter
withinanarEahomtheviewpointofactivation、Howevenahighpmbabilityexiststhatsuchaschemecanengen‐derinefficientactivitiesthmughoutthearEainthefUture・TherefOre,ifareductioninthenumberofcentrala正as
isintendedfbrthefUture,thenanimportantissueishowshouldsuchplacesbe“carefilllyselected,'andwhatkindofcentralplacesshould“beselected”fromtheviewpointofthelocalgovemment・Nevertheless,almostnourbanareahasexpenencei、“carefilllyselecting',centralplaces・
ThisstudyspecificallyexaminedtheBerlinmetmpolitanregion,whichhasrEducedthenumberofsubcenters・
PBrticularlXHennigsdorfistheonlymunicipalitythathasbeenpermittedasanewsubcenterinthisplan・On-the-spotinvestigationrevealedthatlocalunitswithinwalkingdistanceftomthetownstationhavemanagedwell、Resultsclarifiedthatrestrictionofautomobiletrafficandsmarthousingrefbrmarelmportantpolicygoalsfbranewsubcenter;
JELClassification:R14,R52
Keywords:ShrinkingCity;UrbanLayout,CompactCitXUrbanCenteI;Berlin
1 .はじめに
1.1研究背景と目的
わが国では今後人口減少の局面を迎え,また低炭素化の要請や増加する高齢者への対応など,都市圏
の圏域構造に大きな関連を持つ様々 な社会経済状況の変化が生じている。今後の圏域構造をこれらの諸
課題に対応できるよう速やかに改善を重ねていく必要がある。都市圏をこれ以上野放図に拡大しないと
いうことは,その考え方のベースとなろう([9][15][12][10])。また,縮退を進めるにしても,単に
どこからも同じように疎にしていけばよいというものではなく,集約化,すなわち選択と集中という方向は既に明確な政策目標となっている([11])。
一方,現実の都市空間の中では,むしろ都市構造自体の断片化が進んでいることが指摘されている
事東京大学大学院工学系研究科*掌阪神高速道路株式会社
掌**鳥取大学地域学部・地域学研究科掌***筑波大学大学院システム情報系2010年9月22日受付2011年4月29日受理◎日本地域学会(JSRSAI)2011
785
786 高見・植田・藤井・谷口
([8])。わが国の都市でも,過去と同じ人口密度水準が確保きれていても,むしろ居住者の自動車依存は過去より高まっていることが数値として実証されている([22])。単に密度をコントロールするだけの都市コンパクト化政策の効果には限界があり,サブ圏域の構成にまで着目したアプローチが必要となっている([24][3][1])。
なお,将来的に都市圏構造を改善していくために,近年では居住者の移転とそれに伴う行動変容までをダイナミックに視野に入れた研究も進められるようになり([14][18][20]),居住者の政策受容可能性まで含めた吟味も行われている([2])。
以上の整理から,都市圏の縮退という課題を前にして,居住者の視点から都市圏構造を捉えようとする試みはここ数年の間に検討が進められるようになったといえる。その反面,サブ圏域の核となる中心地を都市圏全体の中でどう設定・配置するのか,といった地域構造に関する本質的な課題に対しては,未だに十分なアプローチがなされていないのが現実である。換言すると,縮退時代を前にして,都市圏域の広がりや密度を管理することの重要性は認知されつつあるといえる。その一方で,中心地および中心地の数と機能を管理することの重要性はまだ十分に認識されていない。現実にはどの自治体も自らの活性化の観点から自らの地域の中に圏域の部分中心となるような中心地を計画,整備を進めようとするが,これからはこのような行為は圏域全体として非効率につながり,持続可能性を低下させると考えられる。冒頭に述べた社会経済状況の変化を割り引いて考えても,「交通改善は,高次中心地の発展に寄与する」([23])という指摘にあるとおり,中心地の数自体が自然と集約の方向に向かう流れもさらに存在する([21])。中心地の数が減少する方向に向かうのであれば,如何にそれらを「厳選」するか,また自治体側から見ればどのような中心地を目指せば「選ばれるのか」ということが次の大きな課題となる。
実際のところ,中心地を「厳選」する体験を行った都市圏はまだほとんど存在しない。本研究ではこのような状況の中で,2009年に中心地としての指定地数を152から54に減らしたベルリン都市圏に着目する。そして,その中でただ一つ,以前には中心地に指定されていなかったのに,今回新たに指定がなされた都市Hennigsdorf(ヘニヒスドルフ)を特に取り上げる。多くの中心地が削除される中で,時代に逆行する形で新たに中心地として指定されたこの都市は,縮退時代における競争力を備えた数少ない中心地ということができる。その詳細,地区構成を検討することは今後の都市圏計画を立案していく上で大きな意味があるといえる。以上を踏まえ本研究では,特にヘニヒスドルフが備える空間構成要素に着目し,中心地に選ばれるための必要条件を類推する。
以下。2.では,対象とするベルリン都市圏(州レベル)計画の全体像とその変遷について,中心地の指定に関する話題を中心に説明する。そして,3.で新たな中心地として選ばれたヘニヒスドルフの概況を,4.で現地調査を通じて明らかとしたことを整理する。
2.州レベルの計画における中心地システム
2.1ベルリン・プランデンブルク地域の概況
ベルリン(市でもあり単独で連邦州でもある)とそれを取り囲むプランデンブルク州はしばしば一体の地域と見なされる。プランデンブルク州はまた内周部と外周部(以下ベルリンの近郊部と遠郊部ともよぶ)とに大きく分けられ,ベルリンから近郊部までの区域は一般に中心都市・ベルリンの影響の強い都市圏と捉えられる。
地域の近年の人口動向は.遠郊の農村部や地域外からベルリンおよび近郊部への人口移動とともに,安価な持ち家を求めてベルリンから市外へと転居する動きもあり.ベルリンと近郊部で社会増,遠郊部
で社会減となっている(表1)。この傾向は今後も続き,2006~30年の間にプランデンブルク州内周部
の人口は4%増え,外周部では25%減ると予測されている。地域の高齢化率は約20%,出生率は約8.5%・
(いずれも2008年)で,わが国の一都三県とほぼ同程度の水準にある。
このような少子高齢化と遠郊部での人口減少という局面にあって,地域の構造をどう再編していくか
は大きな課題となっている。
787
表1.ベルリンとプランデンブルク州の人口推移
データ出所:GL([5])
ベルリン都市圏の中心地再編にみる新たな縮退型都市圏計画の一考察
2.2「中心地」と計画制度
ドイツの空間計画において,「中心地」とは後背圏へサービスする多様な機能やサービスを集積させ
た場所のことであり,複数の階層から成るその体系や配置を指して「中心地システム」とよぶ。ここで
言う機能・サービスは公共と民間の別を問わず,行政,教育,保健,文化,商業などに加えて地域交通
ノードの機能をも含む。元々,全国全地域での同等の生活条件の確立をねらいとした計画概念である。
中心地は州レベルの計画において,自治体を単位として指定される。すなわち,実際に機能やサービ
スを集積させる詳細な区域が州レベルで画定されるわけではない。自治体の定めるF-Planは州計画を
含む上位の計画に適合することが要求され,B-PlanはF-Planから展開されるという計画枠組みを通じ,
中心地に関する州の方針が自治体の計画や現実の都市空間へ反映される。また,中心地に指定された自
治体に対して,それを支援するための補助金が州から交付される。
2.3中心地システムの見直し’
ベルリンとプランデンブルク州は1996年から共同計画事務所(GL)を設置し,州レベル相当の広域
的な計画を一体で策定している。現行の中心地システムは,GLにより2007年に草案が策定され,
2009年に正式版が発行された,ベルリン・ブランデンブルク地域開発計画(LEPB-B,図1)([4])に
示されている。
LEPB-B以前は,プランデンブルク州開発計画(LEP1,1995年)([13])で,同州内の区域を対象に.
中心地システムの見直しに関する現地調査.および面接調査は,2009年3月19日~20日にベルリン都市圏において高見淳史が担当した。面接調査としては3月20日にプランデンブルク州インフラストラク
チャー・地域計画省(MIR)において.D唾WblfgangDinkelberg(GL),M唾LutzKriebel(MIR)に対し,ベルリン・プランデンプルク地域の広域計画について(中心地システムを含む)討議を行っている。また,
追加的な調査として,2009年6月3日~11日の間にM1;StefanKrappweis(GL)に対し,中心地システムの改訂についてメールを通じたヒアリング調査を実施している。
ベルリンプランデンブルク州
内周部外周部地域全体
人口
[千人]
年年年
卯伽妬
'30年予測
('06年比)
3,434
3,382
3,404
3,367
(-1.1%)
785
938
1,014
1,049
(+3.5%)
1,804
1,664
1,534
1,145
(-25.4%)
6,023
5,984
5,951
5,561
(-6.6%)
'02~'06年の人口増減
自然増減[千人]
社会増減[千人]
-16.4
31.7 64.4
-36.5
-67.9
-58.4
28.3
包昌
788
。、禰啄
尚 見 ・ 植 田 ・ 藤 井 ・ 谷 口
上位・'二|」位・下位・小中'し、地の41輪隅と謎4里C9o上。△ク”lvノー 1..′し、参山'Jノニい~。ー ~、′-。ー -ー ,‘~,‐
の中心地システムが遠郊部での人口減少・社会的インフラ(特に幼稚園や学校など)の利用減少と近郊部での人口増加という傾向にそぐわなくなっていること.将来の補助財源の不足により中心地のサービス水準を維持するのが困難なこと,自治体合併によって中心地自治体の空間的範囲が拡大するとともに財政基盤が強化されたことを背餓に,見直しが行われるに至った([7])。LEPB-Bでは,地域の中心地システムは上位・中位の2階層(別途,ベルリンが厳上位に位置づけ
られる)を基本とするものに改められ,下位中心地と小中心地は近郊部を含めて体系から外された。中心地の配置は,存立可能性の観点から中位中心地の後背圏人口3万人以上,アクセシビリティの観点から後背圏から自動車で30分(妓長でも45分)以内で到達可能という基準のもと,各自治体における機能・サービスの立地状況も勘案して定められた。結果として,中心地の数は54ケ所にまで大幅に削減され.下位中心地や小中心地の多かった遠郊部では中心地の分布が大幅に疎になっている。そのような
中位・下位・小中心地の4階鰯を基本とする152ケ所の中心地が定められていた。しかし,従来
一
蕊1M,艶唇.
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邑匡撫鯉鱒蔚鰯ロ都市鮒出所:GL([4])より著者加筆修正
凶1.LEPB-B計画図(全域・拡大,2009年)
兎
ベルリン都市圏の中心地再編にみる新たな縮退型都市圏計画の一考察
LEPI(1996年) LEPBB(2009年)
図2.LEPI及びLEPB-B中心地システム図(拡大)
出所:GL資料より著者加筆修正
789
中心地削減の流れの中で,どの階層の中心地でもなかったヘニヒスドルフが,LEPB-Bでは唯一新た
に中位中心地として指定されている(図2)。
中心地から外れた自治体では中心地に対する補助金が交付されなくなり,サービスの提供を継続する
か否かは部門別計画や自治体の判断に委ねられる。一方で,合併で基盤が強化された自治体や自治体連
合のもとで住民の基礎的なサービスは守られるとも,GLは説明している。
LEPB-Bで定められた中心地システムは下位の計画に対する広域的な枠組みともなる。例えば,中
心地向きの品目を扱う大規模小売施設は,中心地やその中に指定された都市核に集約され,他での立地
は制限される。住宅開発の場合,中心地内やベルリンから放射状に延びる鉄道沿線の区域で無制限に認
めることができるが,他の区域では開発の上限が設けられている。
ただ,住民生活に関わりの深い都市機能の見直しであることや,中心地に指定されるか否かで開発可
能量の差が大きいことから,自治体サイドの反対意見は強かったと言われる([25])。GLの担当者は,
自治体の参加を得て策定され決定された計画であるため,全員が完全に賛成してはいないにせよ総体と
して同意されている.との認識を示した。
以上のように,LEPB-Bにおける中心地システムの見直しは,近年GLが策定した広域計画に見られ
る「強いところをより強く(Stiirkenstiirken)」という方針に沿った改変であると言える。裏返せば,
同等の生活条件の確立という当初の理念からは離れたと見ることができる。
3.新たに選ばれた中心地:ヘニヒスドルフの概況
以下で取り上げる新たに中心地として選定されたヘニヒスドルフは,先章の図で表示したとおり,ベ
ルリン都心より北西におよそ15kmの位置(旧東ドイツエリア)にある。ちなみに集合住宅の減築が
広範に実施されたAhrensfelde(アーレンスフェルデ)もベルリン都心からは北東方向であるが.ベル
リン都心から同じ距離帯にある([19])。
ヘニヒスドルフの現人口はおよそ26,000人である。1997年から2002年にかけて南部・Nieder
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図3.コンパクトな構造を持ったヘニヒスドルフ市街地出所:Google([6])より2010/04/15取得
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図4.ヘニヒスドルフ市の土地利用計画図出所:StadtHennigsdorf([17])より著者加蕊修正
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791
Neuendorf地区の新規住宅開発やStolpe-Siid地区の編入(1998年)に伴う増加が見られたが,この期
間を除けば東西統一以降漸減で推移している([16])。2000年以降の変化の内訳は概して自然減とわず
かな社会増であり,社会増が現在の水準のまま続くと仮定すると2020年までに約1割の人口が減ると
予測されている。ただし.総体として人口の増加しているブランデンブルク州内周部にあって,隣接す
る都市を含めれば「後背圏人口3万人以上」という中心地の要件を満足する水準にある。また,中心地
として指定される以前から,ヘニヒスドルフでは商業系・教育系・保健系の施設が一定程度集積してい
たことも,中心地として選ばれた背崇にあると考えられる。
現在の市街地構造(図3),および土地利用計画(図4)を見ると,一般市街地,工業用地がそれぞれ
縦に細長く伸び,その周りをグリーンベルトが取り囲む形に市街地が形成されていることがわかる。ベ
ルリンの市街地からは河川によって切り離され,単に住宅機能だけに特化した地域ではないことが読み
取れるc
ベルリン都市圏の中心地再編にみる新たな縮退型都市圏計画の一考察
図6.①朝の通勤時間帯における
ヘニヒスドルフ駅(Sバーン)
(2009年9月9日谷口守搬影.7言50)
図'5. ヘニヒスドルフ駅周辺地区
※以下図6から図14は図中①から⑨地点の写真出所:Google([6])より2010/04/15取得後,著者加筆修正
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792 高見・植田・藤井・谷ロ
4.ヘニヒスドルフ都心部の構成に見る中心地創造の発想
本章では実際にヘニヒスドルフ駅周辺(図5)の都市施設や空間整備内容の確認を通じ,縮退時代に新たに中心地として選ばれるための空間構成要素として何が必要条件となっているかをヒアリングの結果2もあわせて考察,類推する。
ヘニヒスドルフ駅はSバーンの終点として機能している。この駅から同一ホームでドイツ国鉄の郊
外路線に乗り継げるようになっている。図6は朝の通勤時間帯におけるヘニヒスドルフ駅の様子で,先述したとおり駅の近隣に雇用地としての工業団地も存在することから,ベルリンの都心側からのリバース・コミユートも多く見られる。駅前では図7に示すとおり十分な容量を持つ路線バスとシームレスな連結がなされている。
また,この駅前より西方向へ図8に示す商店街が伸びている。商店街は歩行者専用空間となっており,自動車に対しては商店街外部(両端)の路上駐車帯が提供されている(図9)。商店街の裏側は中庭を隔てて中層住宅地が連担しており,商店街の周囲全体を含めて自動車交通を抑制する構造になっている(図10)。この商店街自体の全長は500mも無い短いものだが,商店街の西端には図11に示す広場と中規模のショッピングセンターが併設されている。
一方,駅の東側には図12に示す市役所が駅のすぐ横に立地しており,エリア全体が歩行者,自転車の専用空間となっている(図13)。また,西口側と同様東口側にも旧東ドイツ時代からの中層集合住宅が配置されているが,その多くは図14のようにエレベーター設置などのリフォームが施されている。実際に現地でこれら集合住宅の入居状況を確認したところ,駅の東西とも空室がほぼ見当たらない状況であった。これは高層住宅地がより高密度に準備された都心から同じ距離帯の他地域([19])とは状況が大きく異なっているといえる。
以上のことを再整理すると,必要条件として類推される最も重要な事柄は,ヘニヒスドルフは鉄道駅
図7.②ヘニヒスドルフ駅駅前広場(西口商店街側)(2009年9月9日谷口守撮影,8:20)
2ヘニヒスドルフの現地調査,および面接調査は2009年9月8日~9日にベルリン都市圏において谷口守が担当した。面接調査としては9月8日にBerlinCongressCenterにおいて,M工JensKrause(ボストランド都市システムコンサルタント代表),D里IreneWiese-vonOfen(IFHP:国際住宅都市計画連合,ドイツ代表理事)に対し,縮退型都市圏計画とヘニヒスドルフ選定の考え方についてヒアリングを行った。また.これにあわせてヘニヒスドルフの現地調査を9月9日に実施している。
ベルリン都市圏の中心地再編にみる新たな縮退型都市圏計画の一考察 793
図12.⑦駅前(東口)にある市役所(2009年9月9日谷口守撮影,8:00)
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ーー一一一一一一=一△△
図8.③駅西口前歩行者専用商店街(2009年9月9日谷口守撮影,8:20)
図9.④商店街外の路上駐車帯
(2009年9月9日谷口守撮影,8:25)
F零=‐
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図11.⑥駅西口歩行者商店街の終点
(幹線道路との交点)駅からおよそ500m先,中規模商業施設含む商業集稚(2009年9月9日谷口守撮影,8:40)
碑』鑑劃岩‘
14
図10.⑤駅西口商店街と住宅団地への入り口(2009年9月9日谷口守撮影.8:30)
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高見・植田・藤井・谷1コ
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を明確な中心とし,駅から歩いていける中央部・駅周辺地区で多くの用務が足せるような都市及び施設
の基本構造を満足していることにある。また自動車利用を全体として抑制し,良好な歩行者空間を実
現するとともに,リフォームを通じて低廉で良質な中層集合住宅が提供されていることも重要なポイン
トと思われる。
このような空間の実現は先述したような通常のドイツのF-Plan,B-Planに基づくもので,何か特別
の大規模な空間整備をこのために行ったという性格のものでもない。これらのことに共通するのは.公
共交通を地域で継続的に支えやすい都市構造を準備し,利便性の高い地区の都市資産をリサイクルしな
がら無駄なく活用しようという「身の丈」にあった考え方に依拠している点であることがわかる。
人口減少型の都市圏計画においては,過去に多くの都市圏で遂行されてきたような,郊外大型ショッ
ピングセンターが中心となる自動車依存型郊外核や,大きな投資を伴う新都心建設を続けることは,そ
の財政・環境・社会といった側面で持続可能性を損なうことになると考えられる。このことがむしろ鉄
道駅を中心として小規模ながら多様な機能を備えたヘニヒスドルフが新たに中心地として指定されたこ
との最大の理由であると類推される。
図13.③駅東口一帯市役所周辺は完全に歩行者,自図14.⑨駅東口周辺の中層集合住宅,改築でエレベー転車空間ターが 後 付 け さ れ て い る(2009年9月9日谷口守搬影,7:55)(2009年9月9日谷口守撮影,8:10)
5.おわりに
本稿で取り上げたヘニヒスドルフはあくまで一つの事例にしかすぎず,この事例だけから将来の中心
地の方向性を結論づけようとすることは性急に過ぎよう。ただ,中心地を削減しようとする数少ない都
市圏計画事例の中でも,新たに指定された中心地はこのひとつの事例しかない。その意味で縮退時代に
おける研究対象としての価値は明らかに有しているといえる。
本稿で述べたとおり,ヘニヒスドルフでは新たな中心地の指定が当然必要となるような何か大きな都
市再生プロジェクトが実施されているわけでは全くない。しかし,人口減少に伴って縮退が求められる
時代の交通まちづくりの一つの可能性を明確に提示しているということが可能である。特にわが国の都
市圏計画に対し,次の2点において重要な示唆が得られたということができよう。
1)現在のわが国の都市間計画は,地方分権が至上命題とされる中で市町村が計画策定のI:1.1心的な担
い手となっている。それ自体は好ましいこともある反面,都市圏計画を考える上で中心地を削減しなけ
ればならない局面において,市町村間での合意形成が今まで以上に難しいものになる可能性が高い。ど
の市町村も自地域の!.'」に(場合によっては複数の)『'1心地を欲するからである。ベルリン都市圏の事例
[4]
[5]
[6]
[7]
795
が示すように,圏域での計画組織がしっかりとし,市町村間の調整を担えることがまず必要である。
2)わが国ではちょうど交通基本法の策定が話題になっているが,移動権や交通権といった権利が認
められるようになったとしても,それはどのような場所においても保証される性格のものとして考える
ことには無理がある。移動権や交通権を求める側は,それらの権利が地域の中で達成されやすいような
居住地を選び,圏域構造を選択する義務があるともいえる。鉄道駅のまわりに最低限の機能を配したヘ
ニヒスドルフの都市構造は,その意味でも一つの解であるということができよう。
謝辞
本研究の実施においては,ベルリン在住のIFHP理事,JensKrause氏,GLのWblfgangDinkelberg博士とStefanKrappweis氏の協力を得た。また,2章部分の調査においては東京大学グローバルCOEプ
ログラム「都市空間の持続再生学の展開」より,3,4章部分の調査においては科学研究費補助金(「都
市圏の構造変化メカニズムと多核的都市整備に関する学際的研究」,藤井正代表,課題番号21320157)より助成を得た。記して謝意を表する。
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[9]
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[11]
I11fqdd,11■■■■■■。!■■■■一ら■■■■906卜5h60DIIpI6Ij0000l44rll0l4Plll6Il06r■日808Ⅱ10■0
[12]
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2010/04/15)
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高見・植田・藤井・谷口
ベルリン都市圏の中心地再編にみる新たな縮退型都市圏計画の一考察
NewCenterSystemintheBerlinMetropolitan
AreaundertheAgeofUrbanShrinkage
KiyoshiTAKAMI*,'ElkumaUEDA**,EldashiFUJII***andMamoruTANIGucHI****
797
Abstract
Pbpulationdensificationandretreatfromsuburbsarebecomingpopulartacticstoadapttoshrinkingmetmpolitanreglons・Nevertheless,strategiesdedicatedtothesubcentershavebeenneglected,con‐stitutingapolicyblindspot・Inreality;localgovemmentstrytoestablishandmaintainaplaceasapar‐tialcenterwithinanareahOmtheviewpointofactivation・However;ahighpmbabilityexiststhatsuchaschemecanengenderinefficientactivitiesthroughouttheaxeainthefuture・TherefbrE,ifreductioninthenumberofcentralareasisintendedfOrthefUture,thenanimportantissueishowsuchplacesshouldbe“careMlyselected',andwhatkindofcentralplacesshould“beselected''1komtheviewpointofthelocalgovernment・Nevertheless,almostnourbanareahasexperiencein“carefUllyselecting''centralplaces、IntheBerlinmetmpolitanreglon,apmjectwasundertakentoconsiderablyreducethenumberofcentralareasinthemetmpolitanarea・
ThisstudyspecificallyexaminedtheBerlinmetmpolitanregion,whichhasreduceditsnumberofsubcenters・Particularly;Hennigsdorfistheonlymunicipalitythathasbeenpermittedasanewsubcen‐terunderthisplan・Detailsareaslistedbelow
l)InHennigsdorfmolarge-scaleurbanrenewalpmjectthatrequlresassignmentofanewcentralplacehasbeenundertakeno
2)Rmdamentalstructuresofcitiesandfacilitiesaresatisfiedwhenrailroadstationsconstituteadefi‐nitecentralplace・Manybusinessescanbelocatedwithinwalkingdistanceinthecentralandneighborhoodareasofthestation、
3)Useofautomobilesiscompletelysuppressed,favorablespacesfbrwalkersaretherebyobtainedandlow-cost,high-quality;medium-risehousingcomplexesarepmvidedthmughrenovations・Consequently;HennigsdorfplEsentsnoparticularlystrongprincipleexceptthat“cityplanningisnot
innuencedbyautomobiletraffic',、ThiscasedemonstratesthatrEalisticconsiderationofdailylifecir‐cumstancesisanecessaryconditionfbrenvisioningthecentralareaofafUturecity
JELClassification:R14,R52
Keywords:ShrinkingCity;UrbanLayout,CompactCity卜UrbanCentel;Berlin
*
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本*卒
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DepartmentofUrbanEngineering,theUniversityofTbkyoHanshinExpresswayCompanyLimited
随cultyofRegionalSciences,GmduateSchoolofRegionalSciences,'IbttoriUniversity随cultyofEngineering,InfOrmationandSystems,恥ukubaUniversity