グローバル化時代における安全保障のあり方 2012/10/17 報告者:貝塚、坪内、中村
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グローバル化時代における安全保障のあり方
構成 Ⅰ.はじめに Ⅱ.総論-安全保障とは何か- Ⅲ.各論 1.日本と中国 2.東南アジア Ⅳ.考察-グローバル社会における安全保障の現状- Ⅴ.おわりに Ⅵ.参考文献・ホームページ
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I.はじめに 全体テーマ「グローバル社会における国際秩序の再考」
沖縄の基地移設問題や近隣国との領土問題は、私たちにとって日本の安全保障について
考える大きな機会と なった。中でも、尖閣諸島をはじめアジア諸国と領有権をめぐり対立
している中国の存在は、日本の安全保障を考える上でとても重要である。もし、中国との
緊 張が高まり軍事衝突に発展することがあれば、国際社会の秩序を大きく揺るがすことに
なる。
本稿では、このような問題が起こる原因を安全保障の面から分析し、グローバル化時代
において現状の安全保障体制が抱える課題と、より平和的に国際秩序を形成するためには
何が重要であるかについて考察する。
Ⅱ.総論-安全保障とは何か- 1,定義 ・外部からの侵略に対して国家および国民の安全を保障すること(広辞苑) ・「安全保障」とは、国家・国民の安全を他国からの攻撃や侵略などの脅威から守ること
(クラウゼヴィッツ)
<伝統的な「安全保障」の定義> 「他国による軍事的脅威から国家・国民を守ること」
主体→国家・国民 脅威の対象→他国による攻撃・侵略
冷戦終結によって、大国間の戦争の可能性は低下した。一方で地域紛争、テロリズム、
環境破壊、飢餓、貧困など、国家の枠組みを越え、一人ひとりの人間の安全に直接的に関
わる問題への対応が必要となってきた。→「人間の安全保障」の考え方 伝統的な安全保障の視点に加え、国境を越えたグローバルな視点と一人ひとりの人間に
着目した視点を総合して考えるのが現代の安全保障である。
<今日的な「安全保障」の定義> 「ある集団や個人の安全を脅かすものに対し、
何らかの手段を講じることで、その秩序を維持すること。」 主体→国際社会、国家、市民社会など・個人
脅威の対象→ある集団や個人の安全を脅かすあらゆるもの
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<「人間の安全保障」の考え方> 現代の国際社会における様々な問題に対応するためには、伝統的な国家・国民主体の視
点に加え、国境を越えたグローバルな視点と一人ひとり人間に着目した視点が必要である。 そこで、1994 年に国連開発計画(UNDP)は「人間開発報告書」において「人間の安全保
障」という概念を提示した。人間の安全保障の特徴は、安全保障の対象を一人ひとりの人
間としている点にある。UNDP はその領域として、①経済、②食糧、③健康、④環境、⑤
物理的暴力、⑥共同体、⑦政治の7つを挙げている。 2.安全保障の手段 1. 軍事力
・軍事力を持つことで戦争を起こさせない「抑止」の効果 ・戦争が起きた場合の「対処(防衛)」の効果 ・直接的な軍事力の行使は圧倒的な強制力を持つ。
2. 外交 ・対立を協議や交渉によって平和的に解決しようとするもの ・強制外交
→軍事力の威嚇によって、外交を自国の有利な方向に進める外交政策 ・予防外交
→他国と軍事情報の公開や軍事行動の規制等を行うことで、国家間の信頼を深め、 軍事衝突を予防する。信頼醸成措置(CBM:Confidence Building Measures)
3. 経済的手段 ・経済制裁
→国際社会の安全を脅かす国に対し、輸出入の停止、在外資産の凍結、経済協力の
停止などの手段をとる ・輸出管理
→兵器や軍事転用可能な資材・技術がテロリストなどの手に渡らぬよう、自国の輸
出を厳重に規制する ・経済援助
→途上国に対して先進国や国際機関が資金・物資の援助を行うことで、テロを生み
出す原因の一つである貧困を解消する 4. ソフトパワー
・軍事力(ハードパワー)の対義語で、経済的手段とも異なる手段 ・文化や価値観などを発信し、他国からの支持・共感を得ることが、その国にとって
外交上有利に働くという理論 ・ハーバード大学教授のジョセフ・ナイによって提唱された概念
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3.安全保障の方法(安全保障の主な概念) 伝統的安全保障 <概要> ・ 根底にあるのはリアリズムの安全保障観 →国際社会は中央政府が不在で無秩序(アナーキー)である →「万人の万人による闘争」(トマス・ホッブス)という考え ・ よって、国家は自らで自国の安全を守らなければならない →様々なパワー関係において優位に立つことで他国との衝突を回避できる →パワーの究極である軍事力の強化 ・ しかし、一国の力では対抗できない可能性 →共通の敵国を想定する国々との同盟によって対抗(集団防衛) ・ 対立する国家間・同盟間のパワーに均衡が生じているとき、国際社会に秩序が生まれる <例>
北大西洋条約機構(NATO)、日米同盟 <問題点> ・ 「安全保障のジレンマ」を生むこと →自国の安全を高めるために軍事力の増強や同盟の締結を行うことで、それを脅威に
感じた他国も同様の措置をとるため、結果的にどちらの安全感も低下してしまう状況。 集団安全保障 <概要> ・ 仮想敵国(脅威になると想定される国)を含めた複数国による集団を形成 ・ 体制内で不当に武力を行使する国が現れた場合、他のすべての国が軍事制裁、経済制裁
などの強制措置を行うことで秩序を維持、回復する <例> ・ 国際連合、アフリカ連合 <問題点> ・ 実効性が低いこと →集団安全保障が有効に機能するには、以下の三条件が必要とされる 1. いかなる侵略国をも圧倒できる力を常に持つこと 2. 加盟国は、彼らが支持する安全保障について同じ考え方を共有すること 3. 加盟国が自国の利益よりも集団の安全を優先すること
(武田康裕編「安全保障のポイントがよくわかる本」を参考) →これらの条件が満たされるのは困難である。
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協調的安全保障 <概要> ・伝統的安全保障や集団安全保障は紛争の存在を想定した、それに対する「抑止」と「対
処」の方法である。これに対し、協調的安全保障は対立の原因を取り除き、紛争に発展す
ることを防ぐ「予防」に重点を置いた理論である。 ・ 元になったのは冷戦期に生まれた「共通の安全保障」の概念 →戦争回避のために敵同士が協力する →軍事情報の交換などの「信頼醸成措置」、他国を攻撃する力を持たない「防衛的防御」 →特定の脅威を前提とし、奇襲や偶発戦争を防止する短期的な予防 ・ 協調的安全保障は仮想敵国との協調関係の構築による長期的な予防
→制度化された対話や多様な信頼醸成措置といった非強制的な手段を継続する →仮想敵国への強制措置を想定とする集団安全保障との違い
<例> ・ 欧州安全保障協力機構(OSCE)、ASEAN 地域フォーラム(ARF) <問題点> ・ 必ずしも対話によって協調がもたらされるとは限らない ・ 軍事衝突が起こった場合、どうするのか →結局、集団安全保障論のような強制措置が必要となるのではないか
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III.各論 1.日本と中国 尖閣諸島 今回、尖閣諸島への中国の対応を巡り、そこから安全保障について考えていこうと思う。
図:尖閣諸島の位置(佐島直子『安全保障ってなんだろう』より)
尖閣諸島の歴史 1372 年に琉球は民国と朝貢関係に入り、16 世紀に中国の使者の航海記に尖閣諸島の記述が
現れる。 1885 年から日本国は尖閣諸島を調査。 1894 年に日清戦争開戦、1895 年に魚釣島や九場島を沖縄県の所轄と決定。同年に、下関条
約署名。 下関条約…日清戦争の講和条約。日本に対する遼東半島、台湾・澎湖列島の割譲などをさ
だめたもの
1945 年の終戦後、中華民国政府(現在の台湾)はポツダム宣言に基づき台湾と澎湖諸島を自
国領土に回復。同年 11 月に米国は旧沖縄県行政地域(尖閣諸島を含む)の施政を引き継ぐ。
1952 年に日本政府は平和条約に基づき台湾および、澎湖諸島の領土権を放棄。その後、石
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油資源埋蔵可能性が指摘されると、中華人民共和国政府は 1970 年に非公式、1971 年に公
式に尖閣諸島の領有権を主張。その間に日米政府が沖縄返還協定に署名、1972 年に沖縄は
日本政府へと返還された。 尖閣を巡る争点 争点となるのは、16 世紀の航海記の記述は「発見」として扱われうるのか、澎湖列島へ
と尖閣諸島は含まれるのか。ということである。 日本側の見解としては、1885 年の調査の時点で「単にこれが無人島であることのみなら
ず、清国の支配が及んでいる痕跡がないことを慎重確認のうえ」編入したものであり、台
湾および澎湖諸島には含まれない。というものである。日本の立場としては、尖閣は日本
の実効支配の及ぶ場所であり、紛争は無い、故に国際司法裁判も必要はない
(http://www.sankeibiz.jp/macro/news/120922/mca1209220606005-n1.htm)という立場で
ある。一方で、一部では尖閣決着を国際司法裁判所でつけるべきという考え方も現れてき
ている。(0http://www.jiji.com/jc/zc?k=201209/2012092900330) また、1970 年以前の中
国の文献では尖閣諸島は日本領であると明言されたものもあり、明らかにこの問題は石油
資源を巡る争いである。 中国の「領海法」では、尖閣諸島も台湾も中国の内海である。尖閣諸島を日本がコント
ロールできるのは日本の海軍力が中国の海軍力を上回っているからである。 一方、2010 年の日本の石垣海上保安部の巡視船への漁船の衝突では、那覇地検は処分保
留のまま釈放、中国との外交ルートの欠如と中国政府の力の増大を示す結果となった。
図:中国の軍備費用の推移(佐島直子『安全保障ってなんだろう』より)
米国の立場 数日前、アメリカは尖閣諸島について日米安全保障の対象となる旨を示した。
つまりは、現状では尖閣諸島の問題は、米中関係の絡む複雑なものとなる。現在、各国は
尖閣周辺に巡視船を出している。現状では、それ以上の軍事衝突は発生していない。では、
尖閣が日米安保の対象となることでいったい何が起こるのかを考えようと思う。米中関係
は、1972 年に当時アメリカ大統領のニクソンが訪中、79 年には国交を樹立した。その後も
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アメリカの各大統領は中国とのかかわり方をアピールする政策の一つとしてきた。だが、
現状では米中は互いに経済大国であるという点が大きく、両国の関係は良好とまではいか
なくとも、相互依存はしていると言えよう。李登輝へのビザの支給へと抗議した際や日米
安保を再強化した際に中国側の矛先は機敏にアメリカから日本や台湾へと切り替わったと
いう事実からも、中国は米国と事を荒立てたくないということは明らかである。恐らく、
日本という第三国が関わる事象にしか過ぎない尖閣諸島の問題に関しては、米中間で直接
の軍事衝突を起こすとは考えにくい。 日米安保の対象に組み込まれた結果としては、中国への牽制という効果以上のものはお
そらくない。 2.東南アジア SEATO(South East Asia Treaty Organization, 東南アジア条約機構)
1954~1977
アメリカ、フランス、イギリス、イギリス、ニュージーランド、オーストラリア、フィリ
ピン、タイ、パキスタン
<理由>
・ 対 中国、北ベトナム
・ 東南アジアの共産化を防ぐ
きっかけ
・ 中国共産党の勝利(1949)、朝鮮戦争(1950~1953)、第一次インドシナ戦争(1946
~1954)
・ マニラ条約(1954)
<ベトナム戦争>
トンキン湾事件(北ベトナムによるアメリカの駆逐艦への攻撃)1964 年 8 月
米軍介入開始
オーストラリア政府の南ベトナムへの派兵決定 1965 年 4 月
ニュージーランド政府の南ベトナムへの派兵決定 1965 年 5 月 (ANZUS条約)
タイ陸軍派兵開始 1967 年 1 月
フィリピン後方支援隊 1968 年
<成功点>
・ 軍備の近代化 タイ、フィリピン、パキスタン
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・ 必要な兵力の推測 米国
・ 組織的な計画
・ 東南アジアにおける華人の統計
・ 役割分担 英連邦
・ 教育面 SEATO工科大学院(アジア工科大学院)タイ
・ 東南アジアへの経済支援
<失敗点>
・ 参加国の考えの違い → 組織的な行動が取れなかった
例 フィリピン、フランスが南ベトナム、ラオス、カンボジアの参加反対
パキスタン、フランスのベトナム戦争介入反対
・ 優先度が低かった、1 位ヨーロッパ、2 位北東アジア、3 位中東、4 位東南アジア
<まとめ>
実際のSEATOとしての軍事行動などは、参加国全員の合意がなされなかったため、
軍事演習レベルにとどまった。しかし、実行力においては欠けているが、SEATO自体
は多国家間の枠組みとしては、共産主義から軍事的に弱い東南アジア諸国を守ることに貢
献したという一面もある。軍事的な側面だけではなく、東南アジアにおける華人の統計な
どの東南アジア地域における地域研究も本格的に始まった。
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ASEAN (Association of South-East Asian Nations, 東南アジア諸国連合)
1967 タイ、インドネシア、シンガポール、フィリピン、マレーシア
1984 ブルネイ加盟
1975 ベトナム戦争終結
1995 ベトナム加盟
1997 ミャンマー、ラオス加盟
1997 アジア通貨危機
1999 カンボジア加盟
内政不干渉という原則がある
初期参加国が第二次世界大戦後に独立した若い国の集まりだったため、自国の独立を
重要視していたため。
<ASEANと中国>
第一期
第二次世界大戦中の日本による占領期間に多くの共産兵が東南アジアで立ち上がった
例 The Malayan Peoples' Anti-Japanese Army (MPAJA)
新人民軍(New People’s Army, NPA)
多くの東南アジアにいた抗日共産兵は華人であり、加えて中国からの武器や軍事訓練の提
供がされていた。そのため、大戦後東南アジア諸国が共産兵との戦いや独立戦争を終えた
To Cage the Red Dragon, page154
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時のASEANは中国と敵対していた。
第二期
鄧小平 文化大革命で疲弊した国力回復、天安門などの問題からの国際社会からの孤立を
避けるため、開放改革により東南アジアとの国交回復
1974 マレーシア、75 フィリピン、タイ、90 シンガポール、インドネシア
主に 2 国間同士での外交
第三期
1992 南シナ海におけるASEAN宣言 武力不行使、平和的解決、法的拘束力なし
ベトナム&マレーシアの共同開発
1994 中国のASEAN地域フォーラム(ARF)参加
2002 年ASEAN+1 FTA
「南シナ海における関係国の行動宣言」中国署名
南シナ海 主にスプラトリー諸島の主権問題
スプラトリー諸島のすべては自国の領土である=中国、台湾、ベトナム
スプラトリー諸島の一部は自国の領土である=フィリピン、マレーシア、ブルネイ
1980 年代~ 中国がスプラトリー諸島の海洋調査や軍事訓練開始
1988 年 中国、ベトナムが主張するサンゴ礁の実行支配開始
1992 年 米国の在比軍撤退
1992 年 南シナ海におけるASEAN宣言
1995 年 中国、フィリピンが主張するサンゴ礁の実行支配開始
1998 年 中国とベトナムの海軍遭遇戦
2002 年 ASEAN+1
2012 年 7 月 地域フォーラム ARF プノンペン
議長国カンボジア
フィリピンとベトナムは共同声明に中国が自国の排他的経済水域(EEZ)を侵犯した
事実を含めようと主張したが、議長国のカンボジアは拒否した
南シナ海行動規範 = 法的拘束力がある の早期策定
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2012 7 月 地域フォーラム ARF プノンペン議長国カンボジア フィリピンとベ
トナムは共同声明に中国が自国の排他的経済水域(EEZ)を侵犯した事実を含めようと
主張したが、議長国のカンボジアは拒否した
南シナ海行動規範 = 法的拘束力がある の早期策定
<ASEANと中国の経済>
中国にとってASEANは輸出相手第 4 位、輸入相手第 3 位
http://www.stats.gov.cn/was40/gjtjj_en_detail.jsp?searchword=ASEAN&channelid=952
8&record=1
Statistical Communiqué of the People's Republic of China On the 2011 National Economic and Social Development
http://www.stats.gov.cn/was40/gjtjj_en_detail.jsp?searchword=ASEAN&channelid=9528&record=1
Wikipedia 南海諸島 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8D%97%E6%B5%B7%E8%AB%B8%E5% Wikipedia 南海諸島 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8D%97%E6%B5%B7%E8%AB%B8%E5%B3%B6
南海諸島
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ASEANにとって中国は輸出国第2位、輸入国第1位(ASEAN内取引を除く)
ASEAN Statistics http://www.aseansec.org/19230.htm
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<まとめ>
中国は基本的にASEANという枠組みではなく、当事国同士の 2 カ国間で話し合いを
試みている。加えて、米国の介入を嫌がっている。一方、フィリピンなどの当事国は、A
SEANとして、ひとつになっての話し合いを望んでいるが、経済、軍事的大国となった
中国と自国の関係悪化を恐れASEAN全体として中国に対抗するという構造が作れなく
なっている。 Ⅳ.考察-グローバル社会における安全保障の現状- 現在、東アジアの安全保障はうまくなされていない。 近のニュースから分かるように、
領土問題や東アジア諸国の軍備強化により、東アジアでの緊張は高まっている。その大き
な理由の一つとして、資源の確保などを目的とした、海軍力を増強した中国による尖閣諸
島や南シナ海の進出がある。この問題を発端に、経済損失や国家間の緊張が高まった。こ
こから分かることは、国々が自国の資源や利益などの安全ばかりを意識してグローバルな
視点を欠いているということだ。 加えて、冷戦時代に生まれた、SEATOやASEANなどの伝統的な安全保障では、
文化、経済など複雑化したグローバル化時代の問題に対して平和的に対応できていない。
これからは、今までの敵対を前提とした安全保障体制ではなく、潜在的な敵とも協調する
枠組みが必要だ。 V.おわりに グローバル化が進んだ国際社会において、安全保障の領域は広がり続けてい
る。軍事力や経済的手段を用いて自国の安全を守るという伝統的な安全保障は、
力によって強制的に作りあげた「秩序」である。それは短期的なもので、いつ
崩れ去ってもおかしくない。ま た、そのような安全保障観では、国境を越えて
考えなければならない問題に対応することができない。
これからの安全保障を考える上で重要なのは、非強制的な手段によって多国間
の長期的な協調関係を築いていくことである。協調関係を築くことは、戦争の
回 避だけではなく、貧困や飢餓などの個人の安全に直接関わる問題の解決にも
繫がるだろう。そのためには、国家はグローバルな視点と人間一人ひとりの安
全を守るという視点を持ち、対話や交流を継続して行っていく必要がある。力
によって自国の利益を追求するのではなく、国際社会全体の協調を志向するこ
とで、平和的で恒久な「秩序」が生まれる。
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Ⅵ.参考文献・ホームページ 中嶋嶺雄,1992,『国際関係論』中公公論社.
鈴木基史,2007,『平和と安全保障』東京大学出版会.
大矢根聡,2009,『東アジアの国際関係 多国間主義の地平』有信堂高文社.
防衛大学校安全保障学研究会,武田康裕編,2007,『安全保障のポイントがよくわ
かる本 [安全]と[脅威]のメカニズム』亜紀書房.
佐島直子,2011,『安全保障ってなんだろう』勁草書房.
木村朗,2005,『核の時代と東アジアの平和』法律文化社.
日中ジャーナリスト交流会議,2012,『日中の壁』築地書館.
Fenton Damien, 2012, “To Cage the Red Dragon, Singapore: National University of
Singapore.”
山影進,2011,「ASEAN の歩んできた道、これから作る道 -「新しい ASEAN」の浮上-」,
山影進著『新しい ASEAN-地域共同体とアジアの中心性を目指して-』、アジア経済研究所.
浅野亮,2005,「中国と ASEAN-対立からパートナーへ」,黒柳米司,『アジア地域秩序と ASEAN
の挑戦』、明石書店.
佐藤孝一,1997,「中国外交と ASEAN 諸国」,天児慧,『中国は脅威か』,勁草書房.
外務省:人間の安全保障(日本の取組)-
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/bunya/security/initiative.html(2012年 10
月 13日)
Securitygirl.net-http://www.securitygirl.net/index.html (2012年 10月 13日)
外務省: ASEAN地域フォーラム(ARF)・予防外交の概念と原則
(仮訳)-http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/asean/arf/g_seimei_d.html(2012 年 10
月 13 日)
外務省: ARF(アセアン地域フォーラム)の関連資料
http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/asean/arf/pdfs/gaiyo.pdf(2012 年 10 月 13 日)