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ロシア:エネルギーから見たウクライナ問題
2014年4月17日本村 眞澄
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ウクライナ問題の発端はいつか?
時 期 出来事 概 要
伏 線 2013年11月21日12月17日
「連合協定」断念
ロシア=ウクライナ天然ガス合意
「東方パートナーシップ」不参加天然ガス価格33%引き150億ドルの金融支援
発 端 2014年2月22日 クーデター暫定政権発足
ヤヌコビッチ政権崩壊。
派 生 2014年3月18日
4月7日
クリミア半島のロシアへの併合東部で分離運動
暫定政権のNATO志向へ対抗。セバストポリ軍港のNATO移管阻止。
ロシアによるクリミア半島併合がウクライナ問題の発端ではない。これは派生事象。
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ウクライナを通過するガス量
2011年までの欧州向けガスの比率
– ウクライナ経由:能力1,200億m3/年 (約80%)
– ベラルーシ経由:能力320億m3/年
2013年の実績
– ウクライナ経由:840億m3 (全体の55%)
– ベラルーシ経由:310億m3
– Nord Stream経由:230億m3(能力550億m3)
2011年9月Nord Stream-1が稼働開始
South Stream(630億m3)が2017年に稼働開始すればウクライナの比重は大きく低下
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2011年までのロシアから欧州へのガス輸出
ウクライナ経由の欧州向けガスの比率は約80%
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2013年のロシアから欧州へのガス輸出
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ウクライナ向けガス価格
2013年:$401/1,000m3($11.0/MMBtu)– 2010年4月ハリコフ合意に基づくフォーミュラ価格
– $330/1,000m3以下では30%割引
– ガス価が$330以上では$100/1,000m3引き。
– Sevastopol軍港租借権を2017年から42年まで延長
2014年Q1:$268.5/1,000m3($7.4/MMBtu 33%↓
4月1日:$385.5/1,000m3($10.7 フォーミュラ価格)
4月3日:$485/1,000m3($13.4 2009年合意へ)
– ウクライナ側は仲裁裁判所へ提訴の意向
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ウクライナの債務対策
2013年のガス代累積債務:$22億
– 対IMF債務$82億、対外債務$1,400億(昨年末)
– 外貨準備は150億ドル(3/1)本年中に底をつく
4月9日:露はガスの全額前払い方式へ
– ウクライナが前払いを拒否すれば供給停止
4月10日: Putin大統領はEUの18か国首脳
に書簡を送付し、ウクライナのガス代金滞納問題に関して共同で対処するよう提案。
– ウクライナへのガス供給が停止した場合に、欧州に影響が出ることを念頭に協力を求めた
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各国のウクライナ支援
米国:10億ドルの債務保証
EU:110億ユーロ規模の包括支援策
日本:1,500億円の経済支援
– 円借款1,100億円、
– IMFに連携した金融支援100億円
– 貿易取引補償枠300億円(2年間)
IMF:140億~180億ドルの融資枠
– 厳しい財政規律、公務員給与・年金の引き下げ
– IMFと協議し、ウクライナ国内で逆鞘となっているガス価格を4月1日に産業用を29.1%、5月1日に民生用を56%引き上げることで合意。暫定政権の人気低下必至。
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2014年のウクライナのガス輸入
2013年:ウクライナへPL逆走で($370/1,000m3)
– ポーランド:年間11.3億m3(独RWEとの契約)
– ハンガリー:8.7億m3
– 数列のガスパイプラインの内の1本を逆走に使用
– Gazpromからの対欧州価格+輸送費を適用
2014年の計画
– ハンガリー、ポーランドから100億m3/年
– 新規にスロバキアから150億m3/年
– 合計250億m3/年まで可能
– 4月15日から供給開始。Q1はガス価格が安く必要なし
– 元はロシアからのガス、ロシアが量的管理を行えば、大規模な逆走は難しい
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米国による対露制裁
第1次制裁(3月6日)
– ウクライナ政変に関与した個人・法人の資産凍結。
– 同個人・法人とのビジネスの禁止。
– 同個人への査証発給禁止。
第2次制裁(3月17日)
– 対象となる露・ウ両国の個人リスト(11名)を規定。
– 露:ロゴジン副首相、スルコフ大統領補佐官、マトビエンコ上院議長
– ウ:ヤヌコビッチ前大統領、クリミア自治共和国・アクショーノフ首相を含む
第3次制裁(3月20日)
– 対象個人を産業界にも拡大し、20名追加。
– チムチェンコ(NOVATEK、Gunvor(欧州向け石油仲買業)大株主)
– ローテンベルク兄弟(プーチンの柔道仲間、Gazprom向けPL業拡大中)
– コヴァルチュク(バンク・ラシーヤ(民間銀行:政権幹部の財布と言われている)保有)
– ヤクーニン(ロシア鉄道総裁)
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欧州等の対露制裁
欧州による対露制裁(3月6日及び17日)
– 政変に関与したウクライナ政権幹部の資産凍結。
– 資産凍結・査証発給禁止措置をロシア及びクリミア自治共和国政府・21名に拡大。
欧州による対露制裁(3月21日)
– 更に12名を対象に追加。
– 但し、ロシア産業界の対象者・企業は非公開。
その他OECD諸国による対露制裁
– カナダ、日本、豪州はそれぞれ独自の制裁を実施(日本:査証発給要件緩和に関する協議停止、両国間の新投資協定等締結交渉の開始延期)
ロシアによる対欧米制裁(3月20日及び24日)
– 対米:政府幹部9名の渡航を禁止(マケイン上院議員他)
– 対加:政府幹部13名の渡航を禁止。
対ロエネルギー制裁の可能性– 5月上旬、イタリアでG7エネルギー相会議
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エネルギー分野で考え得る制裁
決裁通貨
– ロシアによる石油・ガス売上のドル送金の禁止
LNG技術
– 液化技術の移転を制限
– Yamal LNG、Vladivostok LNGに影響
追加の人的制裁
– セチンRosneft社長の渡航制限。多くの事業が頓挫
レーガン政権でのエネルギー関連技術禁輸の例
– レーガン政権時の1981年12月、米国製石油ガス関連機械設備の対ソ輸出の禁止。 パイプライン、加圧ステーション等。SODECOが影響を受けた。
欧州、日本は必ずしも同調せず。1982年11月解除。
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メジャー等の動向
BP:「ロシアと西側との橋の役割を果たす」
– BPはロスネフチの20%を保有、共同事業予定
Total:Yamal LNG共同事業に影響はない
– Lukoilと西シベリアのBazhenov層開発で協力
ExxonMobil:露事業に影響ない
– サハリン1Arkutun-Dagi予定通り生産開始
– 北極のカラ海でRosneftと試掘
Siemens:プーチン大統領公邸で会談(3/26)– South Streamに機器類提供
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対中国ガス交渉
5月下旬、プーチン大統領訪中予定
2006年3月にプーチン大統領訪中。東ルートでロシア産ガス380億m3/年輸出で合意(西ルートは300億m3/年)
2006年4月にトルクメニスタンのニヤゾフ大統領訪中。300億m3/年のガス輸出で合意
– 2009年末にパイプライン建設、ガス輸出開始まで実現
2013年時点で露中はガス価格以外ですべて合意済み
Jonathan Stern:「ウクライナ編入問題を巡っての欧州との
急速な関係悪化は、ロシアに中国とのガス供給契約の締結での妥協を促す可能性がある」
ロシア側の安易な譲歩は、ロシアの国際的な孤立感を印象付けることに。逆に取りづらい。ロシアは経済性重視。
その前に東シベリア・サハリンの資源基盤の整理が必要
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北東アジアの石油・ガスパイプライン
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South Streamの動向
EUの①生産と輸送のアンバンドリング、②第3者アクセスの保証、の2点に違反
ECは3月11日のモスクワ訪問を取りやめ
Eni:悲観的「イタリアにとってロシア産ガスは30%でしかない。TAPがある」
Wintershall:「ウクライナでの出来事は代替の供給ルートの必要性を示している」
黒海パイプ調達第2段階の入札(3/14):日本40%, 露OMK(35%), Severstal(25%)– 日本企業にも影響が
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クリミア半島の状況
クリミア沖鉱区– Skifska鉱区(Exxon等):2012年8月鉱区取得。撤退表明
– Prykerchenskaya鉱区(Eni等):2013年11月PSA、交渉中、中断か
– 同鉱区はVanko(英)も保有、2008年にTymoshenko首相と係争
– ロシア天然資源省は2014、15年のクリミア沖大陸棚のライセンス交付を検討中
– ウクライナとの係争は必至
クリミアでのガス事業– ChernomorNaftogaz:15ガス田、2油田、生産量17億m3/年
– ソ連崩壊時にアゾフ海ガス事業体は分裂、再び合体か?
– RusskayaまたはKrasnodarからSevastopolまで100kmのガスパイプラインの計画、総工費2-3億ドル
– RusskayaはSouth Streamの出発点、西シベリアからのガス。
– ガス、電気のクリミアでの自給体制。但し、水の自給はできず。
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クリミア半島沖合鉱区
出典:ChernomorNaftogaz
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クリミア半島へのガス輸送計画
Russkaya-Sevastopol 100kmのガス・パイプラインで総工費2-3億ドル
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何故、2014年2月か?
2013年はロシアの対ウクライナ・対欧州エネルギー戦略は十分な成果を挙げた年
– Nabuccoパイプラインが却下、Statoil系のTAPが採用
– South Streamにとっては南欧部空白となり「不戦勝」
– ウクライナはEUとの「連合協定」を見送り
– 2014年ガス価格$265.5/1,000m3で33%引、$150億協力
– 好条件の背後にロシアに対する「密約」あった可能性
2015年にはウクライナは大統領選。親欧米勢力
は勝利の可能性が予想されていたにも拘わらず、2014年前半で政変。急がねばならない理由は?
「密約」の定着・既成事実化を防ぐ必要性があった
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「密約」の存在の可能性
2月22日:ウクライナで政権転覆
2月24日:メドヴェージェフ首相「ウクライナとの既
往契約は特定個人とのものではなく法的拘束力のある政府間合意。履行されなければならない」
2013年12月17日の契約はロシア側によるガス価
格の割引き。これを維持しろという主張は、それ以外に「密約」の存在を示唆
3月4日にロシアはガス価格の値上げを決定。ウクライナとの合意を白紙に、「密約」は闇から闇
– これが政変の目的の一つである可能性
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2005年~2013年のガス価格
年 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013
EU 250 245-285 293 369 308 276 372 415 370
Estonia 90 190 260 340 267 319 315 420Latvia 92-94 130-145 217 340 311 319 310 420Lithuania 85 115-155 210 353 296 330 367 491Belarus 46.68 46.68 100 128 151 180 265 166Ukraine 50 95 130 180 259 260 329 424 401Moldova 80 110-160 170 250 237 253 341 394Georgia 63 110 230 235 - *(167) (175) (186)
Azerbaijan 60 110 - - - - - -
Armenia 54 110 110 110 154 174 200 200
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パイプライン政策を巡る露米の対立
2013年12月17日の対ウクライナのガス価格の割引きの「対価」は?
ロシアが も必要としウクライナが提供可能なもの
– →ウクライナのパイプライン権益
ロシアは欧州まで統一したネットワーク構築を希求
– ウクライナはブラックボックス、ガスの流量・圧力不明
ベラルーシではPL会社Beltransgazの権益をGazpromが2005年と2011年に各50%取得
– 見返りにベラルーシにガス価格の割引き
レーガン政権時の米国はソ連から欧州へのガスパイプラインを危険視、これを抑制する政策→今も?