N Engl J Med 2014;370:1227-‐36.
2014.6.24 慈恵ICU勉強会
研修医 山崎 幸太
Introduc)on• 経口摂取が不可能な患者では、経腸または非経口的に主要栄養素の補充を行わない限り、るい痩や不良な転帰につながる。 Intensive Care Med 2009;35:1728-37 • 重症患者における重度の骨格筋萎縮や衰弱は、人工呼吸とリハビリの期間の延長と関連がある。 Crit Care Med 2007;35:2007-15 • 重症患者においてエネルギー不足の程度はICU滞在期間、感染症、死亡率に相関する。 Intensive Care Med 2009;35:1728-37
このレビューでは以下の条件を満たすRCTに絞って紹介する。
新しい知見を以前の推奨と合わせて、 重症患者の急性期の栄養に関して提案する
・study groupの割り付けが盲検化されている
・sample sizeが十分に大きい
・paDentsの選択とフォローアップの手順が明確に図示されている
・事前に設定されたoutcomeに対して統計学的な解析がなされている
・intenDon to treat解析がなされていること
Enteral Nutri)on(1) いつ始めるか?
早期経腸栄養でICU死亡率は約20%、院内死亡率は約25%減少した
Design:後向き観察研究 Patients:3日以上人工呼吸を必 要とした患者4049人 Outcome:ICU死亡率, 院内死亡率 ,VAP,ICU滞在期間
CHEST 2006; 129:960–967
「早期」経腸栄養の定義 人工呼吸開始から
48時間以内
生存率
挿管してからの日数
早期に経腸栄養を受けた患者は 生存率が高かった
Limita)on・観察研究であること
・「早期に経腸栄養が出来ない」ことが、 「重症」のマーカーであるだけかもしれない
早期に経腸栄養が出来ない事が 合併症や予後悪化に寄与している訳ではない可能性
RCTを集めてメタ解析してみた
そこで
早期の経腸栄養は死亡率の改善 をもたらす
Design:meta analysis Included studies:6RCTs, 234人 Primary Outcome:死亡率, QOL, 身体機能 Secondary Outcome:嘔吐, 逆流, 肺炎, 菌血症, sepsis, MODS
早期経腸栄養は死亡率を 著明に改善した (OR 0.34, 95%CI 0.14-‐0.85)
Intensive Care Med (2009) 35:2018–2027
「早期」経腸栄養の定義
発症またはICU入室から24時間以内
Limita)on
• それぞれのstudyのsample sizeが小さい(どの研究もearly EN群とcontrol群がそれぞれn=10~30の範囲内)
• 6つのうちの3つのRCTで、対照群が24時間以内に経静脈栄養を受けている
Intensive Care Med (2009) 35:2018–2027
重症患者の急性期における、早期経腸栄養の有用性に関して、充分なsample sizeでの、質の高いRCTは、まだ、行われていない。
Enteral Nutri)on(2) 投与量はどう設定するか?
経腸栄養が様々な理由で中断したり遅れたりする事がある
アルゴリズムの導入をしてみた
ENの有効性を示せない原因では?
必要量に到達できない
アルゴリズムの設定
ある「アルゴリズム」を使用したら 転帰が改善した
CMAJ 2004;170:197-‐204. (ACCEPT trial)
Design:a cluster-‐randomized trial Pa)ents:499人(16歳以上) Outcome:病院死亡率, 入院期間 , ICU滞在期間
介入群で
より長期の経腸栄養(6.7日 vs 5.4日, p=0.042) 入院期間の短縮(25日 vs 35日, p=0.003)
アルゴリズムは付録(1)参照
死亡率には有意差はなかった (27% vs 37%, p=0.058)
しかし別のアルゴリズムを使用すると、、、
JAMA 2008;300:2731-‐41
死亡率, 入院期間, ICU滞在期間に有意差を認めなかった。
Design:a cluster-‐radomized trial Pa)ents:1118人 Outcome:死亡率, 入院期間, ICU滞在期間
アルゴリズムは付録(2)参照
Enteral Nutri)on(3) 量は制限するべきか?
ALIの患者で、初期栄養量を制限した群とそうでない群で予後を比較してみた
JAMA 2012;307:795-‐803
EDEN Trial
Design:randomized, open-‐labeled, mulDcener trial PaDents:ALIで人工呼吸を必要とした患者1000人 IntervenDon/Control:最初の6日間を割り付け。 full feeding群(約1300kcal/day, 上限は必要カロリーの80%) vs trophic feeding群(約400kcal/day, 上限は必要カロリーの25%) 7日目以降は全員full feeding Outcome:60日死亡率, 臓器障害, 人工呼吸期間, 感染症
Exclusion criteria: 慢性肺疾患, 重度肝障害, 難治性shock, TPN 重症神経筋疾患, 重度低栄養状態, 脳出血
60日死亡率臓器障害のなかった期間人工呼吸を不要とした期間感染症(VAP, CD腸炎, 菌血症)の発生頻度
いずれも有意差なし
別の研究では、早期栄養量を制限した方が、死亡率が低かったと報告
Am J Clin Nutr 2011;93:569–77.
Design:randomized controlled trial Pa)ents:18歳以上の患者120人 Outcome:28日死亡率, 180日死亡率, ICU死亡率, 院内死亡率 Permissive underfeeding群で
院内死亡率が有意に低かった (RR 0.71, p=0.04)目標値は、計算必要熱量の
Permissive underfeeding群:60-‐70% Target feeding群:90-‐100%
Parental Feeding PNを併用するか?
2つのガイドラインの見解の相違
• ESPEN guideline 1週間の経過中にENのみではエネルギー投与量が不足する場合、出来るだけ早期(ICU入室から48時間以内)からのPNの併用を推奨。
• SCCM/ASPEN guideline 元々の栄養状態が悪くない患者においては、PNの前の、1週間程度のhypocaloric enteral nutritionは許容できる。
Crit Nutr 2009;28:387-400
Crit Care Med 2009;37:1757-61
ESPEN vs SCCM/ASPEN ガイドラインを比較してみた
N Eng J Med 2011;365:506-‐17.EPaNIC Trial
Design:randomized, mulDcenter trial PaDents:ENのみでは目標エネルギーを達成できない患者4640人 IntervenDon/Control: 48時間以内にPN併用開始 vs 最初の7日間はPNを併用しない どちらの群も早期からENを行う 血糖値は持続インスリン投与によりBS 80-‐110 mg/dLにコントロール Outcome:ICU滞在期間, 感染症, 人工呼吸期間, 死亡率
Exclusion criteria: 18歳未満, 短腸症候群, 在宅人工呼吸療法患者 妊娠, 経口摂取可能患者, ICU再入室, BMI<17, NRS<3
①死亡率に有意差はなかった(p>0.5)
②PNを併用しなかった群で、 ICU滞在期間・感染症発生率・人工呼吸期間が有意に減少
PN非併用群で低血糖は増えた
必要エネルギー量の100%を PNを併用して達成すべきか?
院内感染症の発生率が有意に低下した。 (Hazard RaDo 0.65, 95%CI 0.43-‐0.97, p=0.0338)
Lancet 2013;381:385-‐93
Design:randomized controlled trial two centers Pa)ents:ICU滞在≧3日の患者305人 Interven)on/Control: 1日目から両郡ともENを開始。 4日目よりPNを併用した群 vs しない群 Outcome:院内感染症発生率 (ICU入室後9-‐28日)
SPN Trial EN群
PN併用群
院内感染症のKaplan-‐Meier曲線
※対象はEN単独で目標エネルギーの 60%を達成できない患者に限る
ENに相対的禁忌の患者では?
Design:randomized controlled trial mul) center Pa)ents:ENに相対的禁忌の患者1372人 Interven)on/Control: 相対的EN禁忌の患者に早期PNを行う群 vs 行わない群 Outcome:60日死亡率, QOL, 感染症発生率
Early PN TrialJAMA 2013;309:2130-8
60日死亡率,入院期間,ICU滞在期間に有意差を認めず
アミノ酸と脂肪酸
グルタミンとセレニウムの経静脈的投与は死亡率と関連がなかった
BMJ 2011;342:d1542
SIGNET trialDesign:randomized, double blinded, controlled Pa)ents:PNを必要とする成人患者502人 Interven)on/Control: 経静脈的にグルタミンまたはセレニウムを投与 Outcome:ICU死亡率, 6ヶ月死亡率, 14日以内の新規感染症
早期のグルタミンまたは抗酸化剤の投与は死亡率を改善しない
N Engl J Med2013;368:1489-‐97
Design:randomized controlled trial Pa)ents:人工呼吸管理を受けている重症患者1223人 Interven)on/Control: 経静脈的または経腸的にグルタミンまたは抗酸化剤 を投与 Outcome:28日死亡率
REDOXS trial
n-‐3脂肪酸の追加投与は予後を改善せず、有害な可能性があった
JAMA 2011;306:1574-‐81
OMEGA trialDesign:randomized, double blinded, controlled trial mul)center Pa)ents:人工呼吸器を開始して48時間以内にALIを発症 した成人患者272人 Interven)on/Control:経腸栄養にn-‐3脂肪酸を追加投与 をした群としない群 Outcome:28日間の人工呼吸器フリーの日数,死亡率
※この研究は当初は1000人の登録を予定していたが、中間解析で無効もしくは有害と判断され、早期中止となった。
以上の事を踏まえた Recommenda)ons
実際の臨床についての提案
・以前の栄養状態が不良でない急性期重症患
者では、7日間までのエネルギー制限した経腸栄養は許容される。
・重症患者において、早期のグルタミン投与を支持するエビデンスはない。
・refeeding syndromeの予防に電解質やビタミンなどの微量栄養素の投与を行う。 ※これは質の高いRCTではなく、不整脈やWernicke 脳症など致死的合併症の報告に基づいている。
これからの研究についての提案
・重症患者へ早期に主要栄養素を投与することの潜在的な利益・有害性の機序を調査する。 ・より積極的な栄養を開始するための、回復期における同化のバイオマーカーを特定する。 ・早期の栄養により利益を受ける患者を特定するためのスコアリング制度を検討する。 ・急性臓器不全から回復した患者における、経静脈的グルタミン投与の役割を特定する。
感想
・栄養に関してこれほど多くの研究がされていると知らなかったため、勉強になった。 ・早期の経腸栄養の重要性を認識できた。 ・栄養療法の歴史的な変遷について知ることができたので、これからどのような研究がされるか興味が出た。 ・エビデンスというものの重要性と面白さを知った。
付録(1)-‐1 アルゴリズムA CMAJ 2004;170:197-‐204. (ACCEPT trial)
付録(1)-‐2 アルゴリズムB
CMAJ 2004;170:197-‐204. (ACCEPT trial)
付録(1)-‐3 アルゴリズムC
CMAJ 2004;170:197-‐204. (ACCEPT trial)
付録(2)アルゴリズムJAMA 2008;300:2731-‐41