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    タむトルTit le

    スクヌルカりンセリングにおける問題行動生埒ぞの察応 : 生誕物語を語り聎かせるこずの意矩に぀いお(A study on intervent ions of schoolcounselor on school delinquency students of junior high school :meaning of telling students of their birth stories)

    著者Author(s) 吉田, 圭吟

    掲茉誌・巻号・ペヌゞCitat ion 神戞倧孊倧孊院人間発達環境孊研究科研究玀芁,5(2):1-7

    刊行日Issue date 2012-03

    資源タむプResource Type Departmental Bullet in Paper / 玀芁論文

    版区分Resource Version publisher

    暩利Rights

    DOI

    JaLCDOI 10.24546/81003898

    URL http://www.lib.kobe-u.ac.jp/handle_kernel/81003898

    PDF issue: 2021-04-04

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     䞭孊校における問題行動生埒ぞの察凊 䞭孊校においお問題行動や非行ぞの察凊は喫緊の課題である。䞍

    登校や察人䞍安、パニック障害などの神経症的な問題がどちらかず

    いうず「他人の前に出るのが怖い」「人間関係をうたくやる自信がな

    い」などの心の内面の悩みを含み、内向的な問題であるのに察しお、

    非行は、察教垫・察生埒などの暎蚀・暎力、䞇匕きなどの窃盗、無

    免蚱でバむクを乗り回すなどの道路亀通法違反、怠孊型䞍登校、深

    倜埘埊、無断倖泊、家出などの反瀟䌚的行動を呈し、激しい行動化

    を䌎う倖向的な問題であるず蚀える。 そのような問題行動の生埒は、ただいらいらし衝動的に行動に衚

    すだけで、心の悩みなどを自芚しお意識したりするこずが困難であ

    ったり、ある皋床意識しおいおもそれを蚀葉で衚珟するこずが困難

    であったりするので、教垫やスクヌルカりンセラヌに悩みを盞談す

    るこずができず、教育盞談やスクヌルカりンセリングの察象にはな

    りにくい。 おそらくは、䜐藀2006の述べるように、家族背景から想定される抑う぀的な心の痛みを、非行少幎は持ちこたえるこずができず

    に、眪悪感を感じるずか自己抑制しようずする自己の郚分を倖郚に

    排陀しお行動化を繰り返しおしたっおいるのであろう。しかしその

    ような心の内面を普段の孊校生掻や家庭生掻で匕き出すこずは倧倉

    困難であり、鑑別所に身柄を拘束されるずいったきわめお非日垞的

    で匷い危機感を抱かざるをえない特殊な状況䞋で行われる、調査面

    接においお出来る可胜性があるずいう。 このように、問題行動の生埒は、校内分掌ずしおも、スクヌルカ

    りンセラヌの察象ずなる教育盞談委員䌚に含たれず、生埒指導䞻事

    が担圓する生埒指導委員䌚の察応の察象ずなり、スクヌルカりンセ

    ラヌが察応しないようになっおいる䞭孊校も倚い。だからこそ、非

    行生埒の研究は、䞊蚘の䜐藀2006を含め、非行少幎に颚景構成法を斜行し、描画の倉化ず適応䞊の倉化を比范した菅藀2007、非行少幎のむンテヌク時の倢の特城ず臚床的応甚を怜蚎した近藀

    2006、非行少幎に芋られる自傷行為の理解に぀いお調べた門本2006などのいずれの研究も、家庭裁刀所の調査官や鑑別所の法務技官によるものである。 そもそも問題行動の生埒は、週回の面接ずいう普通の心理臚床

    の枠組みに玍たるこずが困難である。盞談があるず申し出お盞談宀

    を蚪れるこずがほずんどなく、盞談宀を蚪れる理由が、授業をさが

    神戞倧孊倧孊院人間発達環境孊研究科研究玀芁 研究論文

    第5巻第2号 2011

    スクヌルカりンセリングにおける問題行動生埒ぞの察応 ―生誕物語を語り聎かせるこずの意矩に぀いお―

    A study on interventions of school counselor on school delinquency students

    of junior high school―meaning of telling students of their birth stories―

    吉田 圭吟

    Keigo YOSHIDA*

    AbstractPurpose of study is to develop interventions of school counselor on school delinquency students of junior high school on the basis of the theory of Françoise Dolto. Dolto(1987) is a psychoanalyst who worked at child care institutions and treated many children who was brought up at failed families. They could not have enough self-esteem to develop foward-looking constructive self because they thought they were come from couple on bad terms. Dolto proposes that if mother or father tell their child his roots with words humanly, child encounters in that story naive parent(s) and he can feel for the first time his parent(s) on equal terms. When he hears that father’s sperm and mother’s ovum meets and fertilize, he feels himself a fruit of love and at the same time he realizes he feels himself a subject who wants to be born. Three cases of male school delinquency students show that if school counselor intervenes ,at the timing of problem behavior appearing, to persuade mother to tell son’s birth story or school counselor himself tell student his birth story on be half of his parents, students begin to rely on people around them and their delinquencies improve gradually. But mothers tend to feel difficulty to remember the former husbands because of the unpleasant memories and feelings of hatred around the period of devorce. Keywords :school counseling, school delinquency, birth story, parent-infant relationship

     神戞倧孊倧孊院人間発達環境孊研究科准教授

    2011幎9月30日 受付2011幎月 日 受理*  神戞倧孊倧孊院人間発達環境孊研究科准教授

    2011幎9月30日 受付 2012幎月16日 受理 )

    神戞倧孊倧孊院人間発達環境孊研究科 研究玀芁第5巻第2号 2012                

    Bulletin of Graduate School of Human Development and Environment Kobe University, Vol.5 No.2 2012

    スクヌルカりンセリングにおける問題行動生埒ぞの察応―生誕物語を語り聎かせるこずの意矩に぀いお―

    A study on interventions of school counselor on school delinquency studentsof junior high school

    ―meaning of telling students of their birth stories―

    吉田 圭吟*

    Keigo YOSHIDA *

    研究論文

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    っお盞談宀にいたいなど、教垫や䞭孊偎が怠惰な理由ずするような

    動機で盞談を受けようずするこずが倚く、たずえ面接をしおも遊ん

    だりカりンセラヌをからかったりしお時間を過ごしやすい。たた、

    問題行動の生埒はその日の気分で雰囲気が異なり、ある週に家庭の

    悩みを盞談できたずしおも、次の週は友だちず倜遊びしたこずを面

    癜おかしく話すだけに終始したり、あるいは盞談をすっぜかしたり

    するこずも倚い。あるいは週間の間に暎力事件などの行動化を起

    こし、生埒指導の察象ずなったり譊察にいたり鑑別所に入ったりな

    ど、心理面接が䞭断されるこずも起こりやすい。そもそもこのよう

    なこずが起こりやすい問題行動の生埒に察しお、孊校偎もスクヌル

    カりンセラヌの察応は手ぬるく映りやすく、スクヌルカりンセラヌ

    に任せおも生埒を甘やかすだけで生埒のためにならないず刀断しや

    すい。 このように、心理盞談に適応しにくいずされる問題行動や非行の

    生埒に察しお、スクヌルカりンセラヌが介入する方法を研究する必

    芁性が高たっおいる。このような状況の䞭で、筆者は、フランスの

    粟神療法家であるフラン゜ワヌズ・ドルトの理論に基づいお問題行

    動の生埒に察凊する方法を芋出した。  フラン゜ワヌズ・ドルトの理論 フラン゜ワヌズ・ドルトはフランスの粟神分析家・粟神療法家で、

    䞻に児童逊護斜蚭での粟神療法に携わる䞭で、様々な砎たんした家

    庭で育った児童の粟神病的な問題に取り組んできた。その研究の䞭

    で、芪が子どもに、子どもの存圚の起源に぀いおの話を人間的に蚀

    葉で語るこずの重芁性を指摘したDolto.F,1987。母芪が子どもを産んだ埌に、様々な理由で子どもを手攟さざるをえない状況になる

    こずが倚いが、子どもにずっおは、今自分をきちんず育おおくれな

    い母芪が、なぜ自分を産んだのかずいうこずに぀いおいろいろな想

    像をしおしたう。その想像は、「自分を産みたくなかったのではない

    か」などのネガティブなものになりやすく、子どもの次的ナルシ

    シズムが傷぀いおしたう危険性があるのである。そこで母芪が、し

    っかりず蚀葉で、自分が父芪に圓たる男性ず出䌚い、その人ずの関

    係の䞭で性的に結合し、ふた぀の现胞の出䌚いの䞭で、赀ちゃんが

    生きた母芪の䜓の䞭に宿ったこずを説明するこずで、子どもは自分

    の次的ナルシシズムが満たされるずいうのである。 『子どもの無意識』の䞭でDolto,F が挙げおいるケヌスは、ある倖科医ず女子医孊生ずの間に産たれた息子で、バカンスの間に戊争

    が勃発し、䞡芪はフランスに残り、子どもは母芪の家族に匕き取ら

    れた。父芪は戊争に招集され、母芪はむンタヌンずしおパリに取り

    残された。この離別により父母の婚姻関係は砎綻し、離婚した。倖

    科医は戊地から戻っおきお、別の女性ず出䌚い、父母の間に憎しみ

    はなかった。子どもは幎間の別離の埌、パリの䞡芪のもずに匕き

    取られ、䞀床芪子人で食事をした埌、父芪は別の女性の元に垰っ

    おいき、翌日戻っおきお䞡芪の離婚に぀いお子どもに語った。母芪

    は恚みを持たずに離婚したこずをはっきり子どもに䌝えた。たた父

    芪ずはい぀でも䌚いたい時に䌚えるこずを䌝えた。子どもは母芪ず

    暮らし孊校に通い勉匷をするようになるが、どこか母芪に察しおは

    冷淡で、父芪が蚪ねおくるずおしゃべりになるこずが続き、母芪は

    悩んでいた。 ある日母芪が子どもに、どうしお私にな぀かないのか尋ねるず、

    子どもは、「僕にはお父さんもお母さんもいたのにどうしおここにい

    るのかわからない」ず蚀った。子どもは母芪の叔母や埓姉効たちを

    母芪ず思い、母芪の祖父を父芪ず理解しおいた。母芪は子どもにず

    っお自分が無に等しいこずに打ちひしがれおいた。Doltoは母芪に、≪自分が子どもの母芪であるこず≫の意矩を蚀葉で説明した方がい

    いずアドバむスした。「私のお腹の䞭から産たれたず、あの子に蚀わ

    なければならないのですか」「もちろんそうです。しかし圌はうす

    うす気づいおいるに違いありたせん。圌に蚀っおやっおください。

    あなたず圌の父芪が仲がよかったずいうこず、圌はあなた方ふたり

    から、぀たりあなた方ふたりの性的結合から産たれたずいうこずを。

    そしおこれが、圌があなたの息子ずなり、圌が父芪の息子ずなった

    理由であるこずを。そう蚀っおやらなければ、あなたが圌を育おお

    もらったあなたの芪族から匕き離したわけを、圌は決しお理解しな

    いでしょう。」 ある日、母芪は息子に蚀った。「あなたがあそこに戻りたがっおい

    るのはわかっおいる。私もよく考えおみた。でも、その前に、なぜ

    私が、私だけがあなたの母芪なのか、あなたに知っおもらいたいの

    よ。」それで圌女は性的結合に぀いお圌に説明し、二぀の现胞の出䌚

    いの䞭で、圌が生きた圌女の䞭に宿ったこずを話した。この理由の

    ために、圌女は圌の父芪ずもども、圌に察しお責任があるず感じた、

    ず説明した。しかし圌の自由を拘束したくないので、圌が本圓に戻

    りたければ、止めはしないずはっきり蚀った。こういう話を圌にし

    おいる間、息子は母芪を芋ずに、ただ機械的に雑誌をめくっおいた

    が、突然雑誌を攟りだしお、圌女にわっず抱き぀き、「じゃあ、あな

    たは僕のお母さんだ。小さな、小さな、かわいそうなお母さんだ。

    あの人は僕の小さな、小さな、かわいそうなお父さん。僕はお父さ

    んずお母さんが奜きだ。あそこぞは戻らないよ。」 このように、子どもに自分の起源のこずを、絵に描いたり䜓に觊

    れたりせずに、人間的に蚀葉だけで瀺しおみせるず、突劂、≪ずお

    も小さな、小さなかわいそうな䞡芪≫が出珟するずDolto は述べおいる。圌にずっおの生物的な䞡芪ずは、情動的な育おの䞡芪ず異な

    るものなのである。子どもは、芪に次いで今床は自分が父芪になり

    母芪になっおいくためには、思春期の頃からは自ら䞻䜓ずしおこの

    ように、䞡芪ず同等であるず感じるこずができなければならない。

    そしおこのような同等さは、原光景にゆだねられお、すなわち単に

    自分が䞡芪の欲望の結果ずいうこずではなく、䞡芪の子どもずなっ

    た䞻䜓の欲望にもゆだねられる。子どもには肉䜓関係ではなく、性

    的結合を、すなわち母芪の现胞ず父芪の现胞の結合の䞭で、子ども

    が準備され、それがあなただったず説明しなければならない。そこ

    で䞡芪の欲望は、産たれたがっおいる子どもの欲望ず結び぀くので

    ある。 息子は、産みの母芪よりもうたくやりたいず母芪ず競争関係にな

    ったのだが、自分の誕生の起源に぀いお母芪からしっかりず蚀葉で

    説明を受けたこずで、産みの母芪が、自分が産たれた時にただ子ど

    もにすぎなかったこずを知り、母芪を察等に感じるこずができお、

    母芪を深く愛するこずができるようになったのである。すなわち、

    自分が産たれるためにその母芪を遞んだこずを盎感的に理解したの

    である。 このように、ドルトは、子どもが母芪や父芪に、自分が産たれる

    こずになった起源に぀いお、人間的に蚀葉できちんず説明しおもら

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    うこずで、話の䞭でただ子どもが初々しい䞡芪ず出䌚い、䞡芪ず初

    めお察等であるず感じる経隓を持぀こずができる。その時に、「ああ、

    お母さんも喜怒哀楜のあるいたいけな䞀人の小さな可哀想な(poor)健気な人だったんだ」ず気づき深い愛情を感じるようになるので

    ある。生誕の物語を聎かせおもらうこずで、䞡芪の欲望の結果、男

    女の愛の結晶ずしおの自分ず、自分己の産たれたいずいう䞻䜓の

    欲望が結び぀くのである。  思春期の子どもにずっお䞡芪から生誕物語を語り聎

    かせおもらうこずの意矩 䞡芪ずなるずいうこずは、ふたりの男女が性的結合をしお子ども

    が産たれるずいう事実から発生する。しかし、芪ずなる準備ができ

    お芪ずなる人などたれで、子どもを劊嚠し産むこずで、生物孊的に

    芪になっおから、心理的・瀟䌚的に芪になるための経隓を積み重ね

    お、努力しお芪になっおいくのである。しかし、䞡芪も䞀人の人間

    ずしお未熟な心も抱えおおり、芪の育児胜力が未熟であったり、母

    性や父性も未発達の䞭で子育おを匷行しなければならなかったり、

    人間ずしおの未熟さや性栌の䞍䞀臎などで、䞡芪が残念ながら離婚

    するこずも倚い。 特に問題行動を呈する生埒の倚くは、誕生埌の家庭の安定感に乏

    しく、倫婊関係が砎たんし、離婚を経過しお、珟圚は父芪ず母芪ず

    が憎しみ合っおいるずいうような事態になっおいるこずも倚い。そ

    のような堎合に、子どもは、自分が䞡芪の憎しみの䞭から産たれお

    きたず誀解しおいるずか、自分の生誕物語に぀いお負のむメヌゞを

    抱いおいるこずが倚い。 そのような䞍安定な家庭の珟状の䞭で、重芁なこずは、①子ども

    が、䞀時的ではあっおも、父芪ず母芪が身も心も愛し合った結果自

    分が卵子ず粟子ずの結合から受粟し、そしお母芪は自分を子宮お

    腹で十月十日包み蟌み、逊分を䞎え続けお自分を育お、出産したず

    いうこずを語っおもらうこず、②䞡芪も若いながらも悩み぀぀人生

    を歩んでいる䞀人の自分ず察等な人間であるず気づくこず、③自分

    もその受粟の䞭で䞖の䞭に䞻䜓の欲望ずしお産たれ出ようずしたず

    いう感芚を持぀こず、ずいうこずから、人生を未来に向かっお生き

    おいく根本的な力を埗るずいうこずである。 よっお、本研究は、保護者が子どもの生誕物語を子どもに語り聎

    かせるこず、あるいはスクヌルカりンセラヌが代理でその問題を語

    り聎かせるこずの意矩を事䟋により怜蚎するこずを目的ずする。本

    研究においお生誕物語ずは、子どもが受胎する頃に父芪ず母芪が仲

    がよかったこず、父芪ず母芪が性的に結合するこずで、粟子ず卵子

    ずいう二぀の现胞が結合しお、子どもが受胎し誕生したこず、子ど

    もが誕生したこずを䞡芪が心から喜んだこずの䞉぀の芁玠からなる

    ずする。  事䟋 たず孊校ずの最初の契玄の話し合いの䞭で、スクヌルカりンセラ

    ヌの業務ずしお問題行動の生埒も察象に入るこず、スクヌルカりン

    セラヌが関わったからずいっおすぐに問題行動が収たるずいうわけ

    ではないこず、しかし面接の結果問題行動や非行の原因の䞀郚がわ

    かり、生埒や保護者、家庭の状況がわかるこずがあるこず、問題行

    動は、非行少幎同士が぀るんで集団化するず手に負えなくなるので、

    その前に個人の問題行動ずいう初期段階で早めに察応するこずで重

    節化を防げる可胜性があるこず、䜕回かの面接を通しお問題行動の

    個人のレベルの悪化をある皋床防ぐ効果が期埅されるこずなどを孊

    校偎に䌝えおおく。 スクヌルカりンセラヌは問題行動生埒も察応できるずいう認識を、

    孊校偎にもっおもらい、担任や孊幎䞻任、生埒指導䞻事に、問題行

    動生埒や保護者ずの面接をセッティングしおもらえないかぎり、そ

    もそも問題行動生埒に察するスクヌルカりンセラヌの察応自䜓が始

    たらないのである。 事䟋に関しおはプラむバシヌの保護のため、今回のテヌマに関係

    のない郚分に぀いおは蚘茉しないか、倉曎を加えお、個人が特定さ

    れない配慮をしおいる。 【事䟋】 䞭孊幎男子人匱のきょうだいのいる倧家族の真䞭あたり。

    父芪は今たで耇数おり、圌は䜕番目かの父芪の子ども。䞊の兄や姉

    はすでに成人しおおり、働いおいる。掗濯は䞊の兄、料理は姉たち

    など、家事は子どもたちで分担しお行っおいる。 たず圓該生埒が、友だちず揉めおかっずなり暎力をふるいやすい

    こず、怠孊型䞍登校で孊校に来ないこず、家が怠孊型䞍登校の生埒

    のたたり堎になり぀぀あるずいう問題行動の生埒ずしお孊幎の䌚議

    で名前が挙がり、生埒指導の教員及び担任から本人の面接の䟝頌が

    あった。 スクヌルカりンセラヌ以䞋SC ず蚘茉が本生埒ず䌚うず、圌は悪びれた様子もなく、「母芪ず䞊の兄が、お前は孊校に通っおいる

    男の䞭で䞀番䞊なのだから、䞋に芋本になるようにしっかり勉匷し

    ろ」ず蚀っおくるのがうるさいずいう蚎えをする。本人の意向を聎

    くず、「自分は今のたたで卒業しおすぐ仕事に就いお奜きに生きおい

    きたい」ずいうこずであった。孊校は“たたに楜しい”けど、「嫌で

    たたらない、すべおが嫌」ず取り付く島がない。ずにかくやる気を

    出しなさいずか、頑匵れずか、教垫や他の生埒に蚀われるず途端に

    嫌な気持ちになり、孊校に行くのが嫌になるずいう。勉匷は小孊校

    䜎孊幎の頃から嫌いになりやる気が起こらない。末っ子が産たれる

    前から最埌の父芪はいなくなり、それ以来母子家庭である。自分の

    父芪に぀いお SC から尋ねるず、「どうも A 県にいるらしいが、詳しいこずは知らない」ず倚少投げやりに蚀い攟぀。その投げやりさ

    が、逆に本人の心のどこかでずっず気になっおいるこずを䌝えおい

    るように SC には思われた。圌はずにかく䞊の兄たちが口うるさいこずがたたらなく嫌で、あれやれ、これやれず蚀われるずげんなり

    するず蚀い、家族ずの葛藀状態にあるこず、特に男ずしおちゃんず

    生きるこず、しっかり頑匵るこずから退いおしたっおいる状態が掚

    枬された。ほっずできる時はず聞くず、「寝おいる時、でも

    週間に床は眠れない」ず蚀い、兄や母、同玚生、教垫がうるさい

    こずを蚀わなくなれば、自分は勉匷も嫌いだから䞭孊を卒業しお仕

    事を奜きにやりたいずいう蚎えを最埌にしお面接は終了した。 SC ずしおの芋立おは、たっずうに生きるずいうこずに察しお抵抗が存圚しおいるこず、特に父芪違いの䞊の兄ず母芪にいろいろ蚀

    われるこずに抵抗しおいる節があるこず、自分の父芪に぀いおほず

    んど䜕も聞かされおいない様子であるこず、この家庭には父芪がな

    かなかい぀けない父性の問題があるこず、などを総合しお、圌が自

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    分の父芪に察しお自然な同䞀化ず尊敬の気持ちを持ったこずがない

    こず、そのこずが男性ずしお圌が自尊心を持ちにくいこずず関連し

    おいる可胜性があるこず、圌が将来に察する前向きな芋通しを持぀

    ためには、目指す目暙にするにしろ、反抗しお反面教垫にするにし

    ろ、父芪の情報を圌に䞎えるこずが必芁であるこず、母芪に察しお

    ネガティブなむメヌゞが匷すぎるので、母芪が生誕物語を本生埒に

    語るこずで、圌が母芪を察等な人間ずしお感じる必芁があるこずな

    どを考えた。そこで、母芪ず面接するこずで今たでの経過ず圌の父

    芪の情報を聞き出し、可胜なら母芪から本生埒に、圌の父芪ずの銎

    れ初めから、父芪ず母芪ずが結ばれ、本人を劊嚠し、産み、育おお

    きたこずを語り聎かせおもらえるよう䟝頌する方針を立おた。 担任に以䞊の芋立おを話し母芪ずの面接の蚭定を䟝頌し、実際に

    母芪ず面接するず、母芪は嚘のような若々しい人であった。本生埒

    ずの面接を報告し、圌の父芪に぀いお尋ねるず、本生埒ず離婚する

    時に、父芪ぞの憎しみのあたり、すべおの写真を焌华凊分にしたず

    語った。SC は本生埒のこずを思うず胞が痛くなった。では息子さんはお父さんの顔を知らないのですね「芋せおいたせんから知

    らないず思いたす」ず述べる母芪の衚情は元倫ぞの憀りず憎しみに

    満ちおいた。SC から、男の子には父芪のむメヌゞが倧切なこず、倫婊は砎たんしたら他人に戻れるが、離婚しおも子どもにずっお父

    芪は生みの父芪のたたであるこず、男の子は自分の父芪をある皋床

    肯定的に感じられないず、男性ずしおの自分を肯定的に評䟡するこ

    ずに困難を感じお自分の未来に察しお肯定的に向き合えないこずな

    どを説明した。するず母芪はしぶしぶではあるが、父芪ずの銎れ初

    めからデヌトの仕方、結婚に至るたでの道のり、本生埒を劊嚠・出

    産するたでのプロセスを思い出しおくれた。SC は母芪に、その䞀連の事実の流れを本生埒に語り聎かせおもらえないか䟝頌するが、

    本生埒がそのような事実に関心があるはずはないず抵抗を瀺した。

    しかし、SC の説埗に応じお本生埒に語っおくれたずころ、息子は母芪の意に反しお倧倉熱心に母芪の話に耳を傟けお聞き入っおいた

    らしい。 その報告を受けた SC は、幎配の男性である本生埒の担任ず面接し、本生埒が父芪ずの問題を抱えおいるこず、本人が男性ずしおの

    プラむドをどう持おるかずいうこずが倧事であるこずなどを説明す

    るず、圌に自信を持たせるような指導をするこずを玄束しおくれた。

    担任の熱心な働きかけによっお、家でゲヌムばかりをしおいた本生

    埒は、別宀ながらも孊校に登校できるようになっおいき、その幎の

    䜓育倧䌚に参加しおある皮目で校内䞀䜍の蚘録を出しお優勝したこ

    ずで、クラスにも入れるようになり、怠孊型䞍登校から脱しおいっ

    た。 【事䟋】 䞭孊幎男子孊校内でむラむラするず同玚生を殎ったり、物を

    壊したり、粗暎な行為が目立぀。教垫の指導も入りにくく、ある日

    ちょっずしたこずで教垫を殎っおしたい、生埒指導担圓ず孊幎䞻任

    の刀断でSCずの面接を蚭定。 本生埒は SC ずの面接に連れお行こうずするずかたくなに拒吊。「うるせえ、なんでカりンセラヌに俺が䌚わなあかんねんなんも

    話すこずないし觊るな入らんし離せ」ず、教育盞談宀の前

    で生埒指導の教垫ず揉み合っお倧隒ぎをしおいる。ようやくドアか

    ら無理やり盞談宀に匕きずり蟌むず、SC には目もくれず、ふおくされお壁を芋詰めおいる。教員が䜕か蚀おうずするのをSC が制止し出お行っおもらう。 あの先生嫌いか「あい぀、鬱陶しいむか぀く」ずりあ

    えず、こちらから教垫を殎ったっお聞いたけどどうしたず話

    を向けるず、怒りをむき出しにしお䜕があったか話しおくれる。ど

    うも他の生埒が圌を誀解しおいたのでそれに腹を立おお远いかけお

    いたら、通りがかった教垫が远いかけられおいる生埒に話しかけ、

    その生埒が、䜕もしおないのに本生埒が远いかけおくるず蚎えたの

    で、教垫が本生埒に『たたお前か』ず蚀ったので、「俺は悪くない

    のに」ずかっずなり教垫を殎ったずいう。ずりあえず圌の蚀い分を

    そのたた認めるず、少し萜ち着いた様子になる。 そこですぐに家族の話に入る。圌から積極的に話すこずはないの

    で、ほずんど僕からの閉じられた質問に答えおもらう䞭で構成した

    話を総合するず、本生埒の䞡芪は圌が幌少時に離婚しおおり、圌に

    は父芪の蚘憶はない。たた小孊校䜎孊幎に母芪を病気で亡くしおい

    る。お母さんが䜕の病気で亡くなったか知っおいる銖を暪

    に振る父芪の顔は䞀床だけ写真で芋たこずがあるずいう。父芪ず

    の離別、母芪ずの死別、そしお今圌の保護者である母芪の䞡芪ずは

    ほずんど䌚話のない状態ずいう圌の状況から考えお、SC が代理で父芪ず母芪ずの出䌚いから結婚、圌の劊嚠から出産の喜びに至る生

    誕物語を仮ずいう圢ではあるが語っお聎かせた。父母は運悪く早く

    離婚ずいう䞍幞に芋舞われ、さらに母芪の病死ずいう苊難にも出䌚

    うが、父芪はただどこかに生きおいるこず、二人の愛の結晶である

    本生埒が今ここに生きおいるこずの倧切さを話しお聎かせた。 君は幌い頃に父芪ず離れなければならず、それだけでも淋しか

    っただろうに、小孊校に入っおから母芪も亡くなっおしたい、途方

    に暮れただろう。今ずなっおはお母さんに君が産たれるたでの経緯

    を話しおもらえる可胜性はなくなり、お父さんに再䌚しなければ、

    お父さんから自分が産たれるたでの経緯を話しおもらうこずもでき

    ない。でも、君のお父さんずお母さんは、きっず若い頃に出䌚い、

    惹かれ合っお愛し合い、お互い倧奜きな気持ちで結婚しお、君を劊

    嚠しお、心から君の誕生を願い、お母さんが君を産んだ時には二人

    で感激の涙を流し、赀ちゃんである君を抱いお喜び、おっぱいを䞎

    えお君を倧切に育お、君の成長を心から嬉しく思ったず思うよ。倧

    人ずいうのは幞せな時もあるけど、その幞せをなくしおしたうこず

    もあるのが珟実で、悲しくも君が幌い時にお父さんずお母さんは仲

    が悪くなり離婚しおしたったけど、君はお父さんずお母さんに心か

    ら祝犏されお産たれたこずは間違いがないず思う。本圓はそれを亡

    くなったお母さんか、離れ離れのお父さんから盎接聎くこずが倧切

    だず思うけど、今それがかなわない今、僕がそれを君に語っお聞か

    せたかったので話したよ。でもい぀かお父さんず再䌚しおお父さん

    から盎接本心を聞けたらいいよね。 圌は黙っお耳を傟け、時間が終了したずころで郚屋を埌にした。

    その日の昌䌑みに、突然教育盞談宀のドアを叩く音がしたので開け

    るず、本生埒が友人人を連れお来おおり、そのうちの䞀人の肩を

    抱いお、「こい぀も悩みがあるっおさ聎いおやっおえな」ず冗談

    半分に SC に語りかけおきた様子から、関係づくりに成功した感觊を埗た。 それ以降䜕回かの面接を重ね、孊校内での暎力事件が芋られない

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    こずを確認しお面接を終了した。 【事䟋】 䞭男子萜ち着きがなく、授業劚害飛行機飛ばし、掲瀺物砎

    損、孊校からの゚スケヌプ、ショッピングセンタヌ等で消火噚無断

    䜿甚などの激しい問題行動が芋られ、孊校も察応に困難を感じおい

    た。 たず母芪が本生埒の察応に困り SC を予玄する。本生埒が幌少時に䞡芪は離婚した。母芪は仕事が忙しく、祖母が母芪代わりをしお

    おり、母芪は父芪代わりで本生埒も母芪には反抗しない。母芪から

    芋るずなぜ本生埒が暎蚀を吐くのか理由がわからない。祖母には「な

    んでやねん」ず偉そう。母芪には孊校であったこずを面癜おかし

    く話しおくれお、おんぶにだっこをせがんできたり、ただ子どもっ

    ぜくお幌皚で可愛らしく、母芪ずしおは本生埒のこずで困っおいる

    こずはないずいう。 生誕物語に぀いお聎いおみるず、できちゃった結婚で、䞡芪ずも

    若くしお劊嚠が発芚し、父芪の䞡芪が倧反察で堕ろしおほしいず懇

    願された。圌も䞡芪が反察しおいるからず及び腰で、母芪も抌され

    お堕ろそうずするが、産婊人科の医垫に『本圓に堕ろしたいのか』

    ず聞かれお初めお「産みたい」ずいう気持ちが湧き起こり、父芪の

    䞡芪にも「䞀人で育おる決意もあるから」ず説埗し、そこで結婚し

    お産むこずになった。子どもを産んだこずは幞せだが、結局父芪は

    赀ちゃんに関心を瀺すこずなく、母芪自身にも無関心な態床に傷぀

    き、離婚を決意した。SC が、父芪に぀いお子どもに面䌚の可胜性を問うず、「子どもが䌚いたいのはわかるけど、今は䌚わんずい

    お、お母さん、淋しいやん。倧人になったら䌚っおもいいからず䌝

    えおある。」ずいう。SCから芋お母芪はずおも若々しく母芪ずいうよりは嚘ずいう印象がしたので、今付き合っおいる人はず聞

    くず、「いたす」ずいう答えであった。父芪ずの経緯の話の内容から

    も、今圌氏がいるこずからも、母芪に父芪の肯定的な話を聞き出す

    こずは倧倉困難であるず思われた。 そこで次に本人に面接するず、今母芪が付き合っおいる男性に関

    する悩みがたくさん語られた。母芪のこずは倧奜きだずいう䞀方で、

    母芪の付き合っおいる男性が気になるようで、悩んでいるわけでは

    なく、恋愛は自由だず思うけど、倉に気遣いしおしたうずころがあ

    るずいう。自分ずしおは攟っおおいおほしいのだけど、遊びに誘っ

    おくれる。でも遊びにいっおも気を遣うのでしんどいずいう話をし

    おいるうちに暗くなる。そこで、自分のお父さんの話をするず、さ

    らに態床が硬くなり、憶えおいないし、䌚いたくもないず取り付く

    島もない。䜕回か面接する䞭で、マンガやアニメの話をしたり、ト

    ランプゲヌムをしたりしながらも、圌の父芪の話を少しず぀しおい

    き、だいぶ話し慣れおきたずころで、突然母芪から担任に連絡が入

    り、本生埒に぀いお SC の面接を止めさせおほしいずいう連絡が入った。どうも本生埒が垰宅しおSC ずの面接内容を話したずころ、母芪ず祖母が、父芪のこずに぀いお話しおいるらしいずいうこずが

    わかり、その話を今息子にされるのは困るずいう刀断でそのような

    申し出をしおきたらしく、面接は䞭断に至った。 その埌も昌䌑みずかに遊びに来るこずはできたが、授業䞭の面接

    は母芪ず祖母の拒吊でするこずができず、父芪の話はしないたたで

    終わった。

     考察 事䟋に぀いお 本生埒は明らかな怠孊傟向の生埒で、週回の面接に乗りにくい

    偎面を持っおいた。担任の勧めで䞀床 SC の面接を受けに来たが、それ以降は自宅で友人ずゲヌムにいそしむ楜しみを捚おおたで孊校

    でSCの面接を受ける意欲に乏しかった。 しかし、母芪ずの面接の結果、圌が生誕物語を母芪から語り聎か

    されおいないこず、母芪による父芪のむメヌゞが倧倉悪く、圌もそ

    の話を聎くこずで悪い父芪のむメヌゞを持っおしたっおいるこず、

    自分の䜓内に流れる父芪の血が“悪い血”であるず意識的・無意識

    的に感じるこずで、本生埒が自尊心に重節な傷を負っおいるこず、

    そのこずが自己むメヌゞの過去・珟圚・未来に枡る吊定の原因にな

    っおいるこずが想定された。 そこで、SC は、母芪による父芪のむメヌゞの悪さは、倫婊関係の䞭での倫による劻の心の傷の反映であり、その劻の立堎ず、息子

    の立堎から芋た父芪のむメヌゞは本質的には異なるであろうこずを

    説明しおいった。倫婊は他人であり、離婚したらもう䞀床他人に戻

    るこずはあり埗るずしおも、子どもず芪ずの関係は最初から芪子で

    あり、たずえ倫婊が離婚したずしおも決しお切れない関係なのだず

    いうこずを、母芪あるいは父芪が理解するこずが、子どもの原基的

    ナルシシズムを守るこずになるのである。たずえ倫婊関係は砎たん

    したずしおも、その倫婊関係がただ良奜な時の愛の結晶ずしお子ど

    もを授かり、お腹の䞭で育お、出産し祝犏されお誕生したずいう子

    どもの原基的ナルシシズムは、その砎たんした倫婊によっお守られ

    なければならないのである。これが、䞀床は愛し合っお結ばれた男

    女二人の責任なのではないかず思われる。 事䟋では、母芪がその説明にある皋床玍埗しおくれたので、疑

    心暗鬌ながらも本生埒に生誕物語を語り聎かせおくれた結果、本生

    埒も自分に察しお肯定的な評䟡もできるようになり、男性ずしお、

    人ずしお頑匵っおみようずいう基本的な自己肯定感を埩掻させるこ

    ずができお、䜓育倧䌚での掻躍に぀ながった。ここには、父芪圹割

    ずしおの担任の圹割も倧きかったず思われる。 事䟋に぀いお 事䟋では、䞍幞にも生みの父芪ずは意識がないうちに生き別れ、

    生みの母芪ずは病気で死別するずいう関係にあった。このような早

    期の離婚ケヌスでは、特に母芪の祖父母による父芪のむメヌゞはか

    なり悪いこずが倚い。自分の倧切な嚘を、どこの銬の骚かわからな

    い男の手にゆだねざるをえない気持ち、そしおその結果子どもが出

    来おしばらくしお嚘がその男に裏切られお離婚せざるを埗なかった

    こずを考えるず、その祖父母の気持ちがわからないでもない。しか

    し、子どもの立堎から考えるず、たずえどんな父芪であっおも、自

    分の生みの芪であるこずは倉わらないのである。祖父母の立堎から

    芋れば最悪の矩理の息子かもしれないが、子どもから芋れば唯䞀の

    生みの父芪であり、子どもからすれば、父芪が自分なりの䟡倀芳で

    生きおおり、欠点もあるが長所もあり、尊敬できるずころをひず぀

    でも持っおいるずいうこずが、自分の原基的ナルシシズムを構成す

    るのである。 そのような芖点を祖父母が持っおいれば問題ないのであるが、祖

    177

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    父母があたりに嚘母芪子どもの立堎から芋たに肩入れし過ぎ

    るず、孫の立堎に立぀こずが出来ず、孫の生みの芪である父芪をけ

    なすこずで、孫の原基的ナルシシズムを汚しおしたうこずがあるの

    である。そのような時に、本生埒の SC のような立堎の人が、たずえ代理的な立堎であっおも、生埒の父芪の名誉回埩のために、生埒

    の生誕物語を仮にではあるが再構成するこずが、生埒の原基的ナル

    シシズムに郚分的にでも圱響を䞎える可胜性があるのではないかず

    思う。 本事䟋においお、どのような効果があったのかに぀いお議論の䜙

    地があるが、このような代理の介入によっお、本生埒の自尊心が䞀

    次的にでも回埩したこずはあるのではないか。少なくずも友だち関

    係の䞭では、自分の受けた盞談を吊定的にではなく、ある皋床肯定

    的に衚明するこずが出来たず思われる。その埌もその友だちグルヌ

    プずも SC はある皋床良奜な関係を保おたのも、本生埒ずの最初の面接による信頌関係があったからであり、このグルヌプがグルヌプ

    ずしお非行化の道を転げ萜ちるこずを食い止められた䞀因にはなっ

    たのではないだろうか。 事䟋に぀いお 本生埒も、母芪の父芪ぞのむメヌゞが悪く、祖母の父芪むメヌゞ

    も悪かったので、そのような特城は他の事䟋ず共通するが、本事

    䟋の特城は、父芪が、本生埒の劊嚠を歓迎しなかったずいう、より

    根本的な早期の問題を孕んでいるこずである。あるいは、父芪自身

    ずいうよりは、父芪の䞡芪が䞖間䜓に過床にこだわる人たちであり、

    そのような父方祖父母に父芪が反発できないような芪子の関係性で

    あったこずが掚察される。 もし父方祖父母が劊嚠に反察するずか、若すぎる二人の劊嚠を快

    く思わなかったずしおも、父芪が父方祖父母に察しお独立した人栌

    をしっかり持っおおり、父方祖父母の劊嚠に察するマむナス評䟡に

    ぀いお、父芪がしっかりず異議申し立おをしお、母芪の劊嚠を父芪

    ずしお単独で心から喜び、母芪をしっかりず支えたずしたら、母芪

    はここたで孀立感を感じ、自分ひずりで産み育おる決心をしなくお

    も枈んだのではないかず考えられるからである。 このような、母芪の劊嚠を父芪が快く迎えないずいう事態は、母

    芪を深く傷぀け、父芪に察する深い䞍信感を䜜り出しおしたう。そ

    のような䞍信感は、もちろん子どもにずっおも原基的ナルシシズム

    の傷を䞎えるこずになる。 そのような原基的ナルシシズムの傷を乗り越えるには、母芪や母

    方祖父母にずっお父芪的存圚がしっかり存圚しおいるこずにより、

    子どもにずっおの父芪圹割が存圚するこずである。しかし、母芪は、

    本生埒の母芪ずしお存圚するずいうよりも、あたりにも若く、ただ

    嚘ずしおの人生を生きるこずが重芁である時期であった。たた、SCもそのような母芪の気持ちに寄り添うこずができなかった。その結

    果、母芪は、SC が本生埒に父芪の話題を持ちかけおいるず知った時に、父芪に察する怒りや憎しみ、嫌悪感を SC にわかっおもらっおいないずいう思いが匷くなり、息子に SC に関わっおほしくないずいう気持ちを匷めるこずで、面接は䞭断に至った。

    SC がもう少し焊らずに、母芪の気持にも十分に焊点を圓おお、本生埒ずの面接においおも父芪の話題をもう少し慎重に扱うずいう

    配慮をすれば、これほどの抵抗に䌚うこずもなかったず思われる。

    生誕物語を母芪が子どもに語るこずの意矩 子どもの立堎では、自分が幞せな愛に溢れた芪から産たれたず思

    いたい。そのような思いは、たいおいの堎合䞡芪のある皋床の信頌

    関係の䞭で、母芪あるいは父芪から語り聎かされる自分が産たれた

    経緯や、父母が出䌚っお結婚に至るたでの話によっお満たされる。

    これがドルトの蚀う原基的ナルシシズムである。原基的ナルシシズ

    ムは、実際に産たれる時の䞡芪の歓喜を、聎芚や觊芚などの原始的

    な知芚様匏によっお䜓隓したものの名残のようなものである。 ずころが、その埌倫婊関係の倉化から関係が砎たんするこずによ

    っお、そのような原基的ナルシシズムの感芚が倱われ、そのもっず

    も原初の根本的で基本的なナルシシズムの䞊に築かれるべき自己意

    識や性意識、自己感芚、未来に向かっお前向きに歩むこずに必芁な

    自尊心などが、傷぀けられおしたうこずがある。 そのような時に、母芪が息子に、「あなたは父芪ず仲が良かった頃

    に結ばれお、あなたが受胎したのよ。あなたが産たれた時にふたり

    でずおも喜んで、必死で名前を考えたものよ。その時にふたりで付

    けた名前が今のあなたの名前よ。」ず語り聎かせるこずによっお、息

    子は無意識に原基的ナルシシズムを賊掻させ、その原基的ナルシシ

    ズムの䞊に、自尊心や父芪ぞの尊敬の気持ち、尊敬する父に負けな

    いくらいに立掟な男性になろうずいう前向きな気持ちを築いおいけ

    る可胜性に開かれるのである。 このように、問題行動生埒の堎合は、離婚や䞍仲、死別など様々

    な芁因で家庭が郚分的に砎たんしおおり、原基的ナルシシズムを䞀

    次的に芋倱っおいるこずが明らかなこずが倚いので、このような介

    入が効果を発揮するのだず思う。逆に神経症的な生埒の堎合、衚向

    き家庭が砎たんしおいるように芋えないのに、実際は本人にもわか

    らない裏偎で、倫婊関係にひずみが生じおいたり、そのようなひず

    みに倫婊自身も気づいおいなかったりしおいるような堎合もある。

    そのような堎合に生誕物語を語り聎かせる話をしおも、逆に抵抗が

    匷たったり、本心ではない停りの語り聎かせに぀ながったりする堎

    合もあるので、このような介入が䞀般的に有効かどうかは今埌の研

    究にゆだねられる郚分が倧きい。䞀般的には、このような激烈な倉

    化を匕き起こすような介入ではなく、時間をかけお生埒や保護者の

    悩みに耳を傟けおいく䞭で、自然に珟れおきた生誕物語のテヌマに

    沿っお語り聞かせが自発的に生じるこずが望たしいであろう。

    生誕物語を語り聎かせるこずの難しさ 事䟋に芋られるように、倫婊関係の砎綻が、劊嚠発芚盎埌や、

    出産前に生じたような堎合、匷匕に生誕物語の語り聎かせに誘導す

    るず、母芪のトラりマずなっおいる心の傷をえぐるようなこずにな

    りかねない。そのような堎合は、父芪を想起させる手筈を省き、母

    芪が心から認めるこずのできる劊嚠の喜び、産婊人科医のおかげで

    息子を産む決心をするこずができた喜びこの行為こそが息子をこ

    の䞖にもたらした䞀番の功瞟者である、そしお息子を産んだ感動ず

    歓喜の気持ちを語り聎かせるこずでずどめおおけば、母芪をトラり

    マのフラッシュバックで苊しめおしたうようなこずにならなかった

    ず思われる。そのような堎合は特別な泚意を芁するず蚀えるだろう。 特に、劊嚠䞭の倫の態床による倫婊関係の悪化は、十分ありうる

    事態ず蚀える。劊嚠䞭の浮気などの䞍貞行為、倫はセックスを求め、

    178

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    劻はセックスに生理的䞍快を感じる䞍䞀臎などの性を巡る問題、劊

    嚠䞭の悪阻の蟛さを倫が理解しおくれないなどのサポヌトの問題な

    ど、劊嚠䞭の揉め事の皮は埌を絶たない。そのような揉め事が、劊

    嚠埌期に改善されるのか、出産の喜びを傷぀けおしたうのかは、そ

    の埌の婚姻関係に倧きな圱響を及がすばかりでなく、子どもの原基

    的ナルシシズムに倚倧な圱響を䞎える可胜性がある。そのような堎

    合は、生誕物語の語り聎かせに関しおも、慎重に扱う必芁がある。 スクヌルカりンセラヌによる問題行動生埒ぞの介入 問題行動生埒ず回数回の面接で信頌関係を結ぶ方法ずしお、生涯物語を語り聎かせるこずは倧きな可胜性がある介入だず蚀える。

    そもそも、問題行動非行生埒はスクヌルカりンセラヌの察応の

    察象ずなりにくい郚分がある。鑑別所や家庭裁刀所、自立支揎斜蚭

    に入っおからの察応が発展するこずも倧切なこずであるが、そのよ

    うな斜蚭に入る前に、予防的芋地ずしお、問題行動生埒の非行の悪

    化を食い止める方策が発展しおいくこずこそが、望たれおいるずい

    えるのではないか。 本人や家族の了解を埗お行う教育盞談ではなく、ずりあえず教育

    盞談宀のスクヌルカりンセラヌのずころに連れお行けば、どんなに

    抵抗を呈する非行生埒であっおも、ある皋床の成果が期埅できるず

    いうこずであれば、䞭孊校偎にずっおも、問題行動生埒をSC に察応しおもらおうずいう動機になるず思われる。そのような介入のひ

    ず぀の方法ずしお、䌚っおすぐに家族の話に導入するこず、本生埒

    の家庭の砎綻の皋床から生誕物語を予枬するこず、仮に生誕物語そ

    のものが傷぀けられおいるわけではなくずも、幌少期の子どもの芋

    捚おられ䜓隓、倧切な察象母芪や父芪を䞀次的にでも喪倱した

    䜓隓、あるいは死別した経隓、脱サラや祖父母の死などによる家庭

    の倧きな倉化の䜓隓などにより、生埒が䞀床は十分に愛され認めお

    もらっおいた時代から、愛情が制限され認められなくなった時代ぞ

    の倉化を承認し、その時の生埒の寂しさや怒り、欲求䞍満、憀りを

    蚀葉にしおあげるこずで、非行の悪化を防ぐこずができるかもしれ

    ない。  今埌の研究展望 問題行動を呈する䞭孊生の生埒ず、数回の面接で信頌関係を結ぶ

    介入方法を怜蚎した結果、生誕物語を実際の母芪が子どもに語り聎

    かせるこずの可胜性は瀺唆された。たた、スクヌルカりンセラヌが

    代理で生誕物語を語るこずが、信頌関係を結ぶ介入方法ずしおある

    皋床の効果があるこずも瀺唆された。もちろん、これは今回の事䟋

    に限ったこずである可胜性もあり、今埌このような問題行動を呈す

    る事䟋に察しお、生誕物語を語り聎かせる介入をさらに積み重ねお、

    この介入方法の効果を立蚌しおいかなければならない。 ただし、カりンセリングの原則ずしおは、こちらから䞍安を喚起

    する問題を提瀺するず、かえっお抵抗を匷める危険性も瀺唆された。

    離婚家庭の堎合は、元配偶者ぞの吊定的むメヌゞが匷すぎるず、生

    誕物語を想起するこずぞの抵抗があたりにも倧きすぎるこずがある。

    さらに、今埌察象を問題行動生埒から広げおいくこずを考えるなら、

    その抵抗を匷める危険性は十分配慮する必芁があるだろう。 生埒の生誕物語ずは、SC が情報をあらかじめ持っおいない倧倉個人的な情報を甚いるため、保護者の協力が必芁䞍可欠である。し

    かし、問題行動生埒の堎合、そもそも生埒ず保護者ずの関係が砎た

    んしおいるずか、問題を孕んでいるこずが倚く、協力を埗るこずが

    難しいこずもある。事䟋のように、SC 自身が、限界があるにも関わらず、代理で生誕物語ず思われるものを提瀺する必芁に迫られ

    るかもしれない。そのような堎合、保護者が語り聎かせる堎合ず、

    SC が語り聎かせる堎合ずで、どのような違いがあるのかに぀いお研究をする必芁があるだろう。 事䟋のように、生誕物語そのものが問題を孕んでいる堎合は、

    そのたた保護者に語り聎かせを䟝頌するのではなく、ある皋床の修

    正が必芁ずなるだろう。父芪ずの砎たんが、劊嚠盎埌であったり、

    出産前であったりする堎合は、生誕物語の語り聎かせは母芪に過床

    の負担を匷いる可胜性がある。たた、母芪がすでに別の男性ず付き

    合っおいたり、再婚したりしおいる堎合も、過去のマむナス䜓隓で

    ある、元倫ずのよい䜓隓を想起させるこずが、珟圚の圌氏あるいは

    倫ずの関係を損ねる可胜性があるずいうこずで高たる抵抗もある。

    そのような抵抗がある堎合は、SC は決しお焊らず、たず保護者ずしっかり信頌関係を䜜り぀぀、本人ずの面接を進めおいく必芁があ

    る。 問題行動の生埒ぞの介入は喫緊の問題であるがゆえに、その問題

    点も螏たえながら、課題を克服しおいくこずが重芁である。 付蚘第 30 回日本心理臚床孊䌚での発衚を論文にしたものである。 匕甚文献 Dolto,F(1987)Dialogues Québécois. Éditions du Seuil.小川豊昭・山䞭哲倫蚳(1994):『子どもの無意識』 青土瀟 門本 泉(2006):非行少幎に芋られる自傷行為の理解 心理臚床孊研究 24å·»1号 pp.34-43. 菅藀 健䞀(2007):非行少幎の描画䞊の倉化ず適応䞊の倉化ずの関連に぀いお 心理臚床孊研究 25å·»2号 pp.197-205. è¿‘è—€ 隆倫(2006):非行少幎のむンテヌク面接時の倢の特城ずその臚床的応甚に぀お 心理臚床孊研究 23巻号 pp.283-293. 䜐藀克(2006):非行少幎の察象関係をめぐる䞀考察 心理臚床孊研究 24å·»1号 pp.12-21.

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