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124 パブリック・ヒストリヌ

曞評・新刊玹介

Paola Tartakoff

Between Christian and Jew:Conversion and Inquisition in the Crown of Aragon, 1250-

1391

Philadelphia, University of Pennsylvania Press, 2012,

209pp, ISBN9780812244212

䞭䞖のむベリア半島は、キリスト教、ナダダ教、

むスラヌムの䞉宗教の信埒が同時に存圚した堎所

ずしお知られおいる。半島北郚のキリスト教埒が

支配する地域に぀いおは、ずくに 11䞖玀以降の

キリスト教埒ずナダダ教埒ずの共存その関係が

平和的か吊かは措いおおくがよく知られおいる

ずころである。11䞖玀から 13䞖玀にかけお半島

南郚を非ムスリムに察しお匷硬な態床をずるベル

ベル系勢力が支配しおいたこずもあっお、11侖

玀以降ナダダ教埒が倚く流入した。このため、倚

数掟のキリスト教埒ず、少数掟ながら無芖できな

い存圚ずしおのナダダ教埒が共存するずいう状況

が圢成されたのである。この䞭䞖䞭埌期のアラゎ

ンやカスティヌリャにおけるキリスト教埒ずナダ

ダ教埒ずの共存状態は、䞭䞖西欧カトリック瀟䌚

の䞭においおは特城的な状況であるず捉えられお

きたこずもあっお、研究者の関心を匕くずころず

なっおおり、䞡者の関係や共存の実態、文化亀流、

共存の終焉ずその背景などに぀いお、倚くの研究

が蓄積されおいる。

本曞は、ニュヌゞャヌゞヌ州立ラトガヌズ倧孊

の助教授である Paola Tartakoffによっお著された。

専門は西欧䞭近䞖史、ずくにアラゎン王囜におけ

るナダダ教埒や異端審問の問題に関心があるずい

うこずである。この関心に基づいお曞かれた本曞

は、䞭䞖埌期アラゎンにおけるナダダ教埒ずキリ

スト教埒ずの関係を扱うものであり、䞊述した䞀

矀の研究の䞭に䜍眮づけられるものであるが、䞻

に䞡教埒の「間」に存圚する人々、぀たり改宗者

に焊点を圓おおいる点が特城的であるなお、本

皿で単に「改宗者」ず蚀った堎合にはナダダ教か

らキリスト教ぞ改宗した人々を指すこずずする。

このような改宗者が䞻たる研究察象ずされおいる

からである。たた、本曞では、いったんキリスト

教に改宗した埌ナダダ教に埩垰した人々も扱われ

おいるが、圌らのこずを本皿では「再改宗者」ず

呌ぶこずずする。著者は、改宗者を䞻ずしお扱い

぀぀も、改宗者が生み出された背景や改宗者に察

するキリスト教埒・ナダダ教埒の態床を探るこず

で、圓時のアラゎンにおける䞡教埒間の関係に぀

いお新たなアプロヌチを呈瀺するこずが可胜であ

るずいう趣旚のこずを述べおおり、䞡教埒間の関

係にも関心が及んでいるず思われる。そしお、

著者は異端審問ずいう堎を遞んでいるが、これも、

改宗者や再改宗者の眮かれた状況を瀺すものであ

るず同時に、改宗者を介したキリスト教埒ずナダ

ダ教埒ずの関係の描かれる堎ずしお、ずいうこず

であるず思われる。

著者の蚭定した察象幎代も特城的である。サ

ブタむトルにある通り、本曞では、1391幎たで

の時代が䞻に扱われおいる。1391幎には、カス

ティヌリャ・アラゎン䞡囜の倚くの郜垂でナダダ

教埒に察しお虐殺・略奪が起こり、さらに、倚く

の者が匷制的に改宗させられた。この埌、ナダダ

教埒の共同䜓は䞀旊再興されるものの、基本的に

は、1391幎は、1492幎のナダダ教埒远攟に向け

おの流れが生たれたタヌニングポむントであるず

されおいる。本曞で扱われるのはそれより前の時

代であり、本曞で扱われる改宗者も、匷制的な改

宗によりキリスト教埒ずなった人々ではなく、基

本的には自発的に改宗した人々である。埓来、む

ベリア半島におけるナダダ教埒問題に぀いお、改

宗者や異端審問を扱うず蚀った堎合には、察象ず

なるのは、1391幎以降、タヌニングポむントを

経お盞察的寛容ずいう状況が厩れた埌のコンベル

゜であり、王暩が関䞎しお 15䞖玀末に蚭眮され

たスペむン異端審問所であった。しかし、著者は

それより前の時代を蚭定し、自発的な改宗者や王

暩関䞎以前の異端審問所を察象ずしお論を進めお

いるわけである。自発的な改宗が䞻であるが故に、

改宗、あるいは再改宗の動機やそれに向けた説埗

のあり方、その背景、そういったこずを問題にす

る可胜性が生じる。著者のいう新たなアプロヌチ

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は、1391幎以前ずいう、盞察的・比范的に芋お

なお寛容性のあった時代を察象ずするこずで、よ

りよく呈瀺されるずもいえよう。

さお、本曞には、䞻人公ずでもいうべき人物が

存圚する。アラゎンの郜垂・カラタナヌ出身のナ

ダダ教埒であった圌は、1340幎 12月にカタルヌ

ニャでキリスト教の掗瀌を受け、ペラペトロに

由来するカタルヌニャ語名ずいう名を䞎えられ

た本曞に倣い、以䞋では圌のこずを改宗埌のペ

ラずいう名で呌ぶ。1341幎、アラゎンに戻った

ペラは、ナダダ教埒から再改宗するよう説埗され

ナダダ教に埩垰したため、再改宗を説埗した人々

ずもども異端審問にかけられおいる。この異端審

問の蚘録が残っおおり、本曞では圓該蚘録を史料

ずしお甚いるず同時に、ペラたちの物語を本論ぞ

入っおいくうえでのいわば入り口ずしお利甚しお

いるのである。このため、本曞の構成はやや特殊

である。すなわち、本曞の䞻郚は 3郚に分けられ

おいるが、それぞれの郚の最初ず最埌にペラたち

のケヌスに぀いお述べるセクションが眮かれおい

る。そしお、このセクションで本論ここではペ

ラたちのケヌスはあくたでも論を補匷する具䜓䟋

ずしお扱われおいるを挟み蟌むずいうスタむル

になっおいる。

以䞊で本曞の倖圢的な郚分を倧たかに説明した

こずになるが、以䞋では䞀歩進んで本曞の内容に

迫り、内容の玹介ず本曞の議論に察する評䟡をす

るこずずしたい。

既述の通り、本曞は 3郚からなり、それぞれの

郚がペラのケヌスに぀いお述べるセクションず本

論 2章を含んでいる。ペラのケヌスに関しおはす

でに事䟋の抂略の玹介を枈たせおあるので、以䞋

では本論郚分に限っお内容を玹介するこずずする。

第 1郚 “Before the Tribunal”では、䞻に、ナダダ教

埒や改宗者を察象ずする異端審問の状況やその背

景に぀いお、ペラのケヌスを䞻たる䟋にずりなが

ら、論じおいる。第 1章、第 2章の 2章が含たれる。

第 1章は “Defending the Faith”ず題されおいる。

ナダダ教埒は、本来「異端」ではなく「異教埒」

であり、異端審問の察象ずはなりえない。しかし、

本章によれば叀くは 13䞖玀からナダダ教埒を異

端審問の察象ずしお扱う䟋があり、14䞖玀には、

異端審問官ベルナヌル・ギヌが異端審問の手匕曞

の䞭で、ナダダ教埒やナダダ教からの改宗者に぀

いおも異端審問の察象ずしお挙げおいる。なぜナ

ダダ教埒や改宗者が異端審問の察象ずなったの

か。これが本章の䞻たるテヌマであるが、ありう

るさたざたな理由のうちで本曞が最も重芖しおい

るのは、ナダダ教埒が改宗者に再改宗を促すこず

でカトリック教䌚に打撃を䞎えるこずを問題芖し

たから、ずいう理由である。改宗者の存圚は、カ

トリック教䌚にずっおはキリスト教のナダダ教に

察する優䜍を瀺すずいう重芁な意味を持぀。した

がっお、ナダダ教埒が再改宗を促すこずは、キリ

スト教の保護のため、防止されるべきであるずい

うわけである。改宗者はこの再改宗の勧めに応じ

たこずが眪ずされおいる。

第 2章は “From Resistance to Surrender”ず題され

おおり、異端審問の察象ずなったナダダ教埒たち

がどう察応したかに぀いお扱われおいる。具䜓的

には、ペラに再改宗の説埗をしたナダダ教埒たち

が䟋に挙げられおおり、王暩による協力を芁請し

た䟋ナダダ教埒にぱリヌト官吏も少なくな

かったこずから可胜であった手段であるや、あっ

さりず自癜をしお厳しい远及や凊眰を逃れた䟋な

どが玹介されおいる。なお、本章でも説明されお

いる通り、最終的には改宗も有効な手段であるが、

ペラのケヌスで吊認を続けたナダダ教埒はいずれ

もこの手段は遞ばなかったようである。

第 2 郚 “At the Front of New Life” では、1391 幎

以前の改宗者の状況や改宗の動機などに぀いお論

じられおいる。第 3章、第 4章の 2章を含む。

第 3章は “Between Doubt and Desire”ず題されお

いる。改宗者に察しお、キリスト教埒たちは、改

宗を積極的に歓迎する目ず、改宗をしおもなお䞭

身はナダダ教埒なのではないかずいう疑いの目ず

の䞡方を持っおいた。章題の意味するのはこのこ

ずであろう。この疑いの目のためか、改宗者あ

るいはその子孫は、あくたで「新キリスト教埒」

ずしお、通垞のキリスト教埒ずは区別されおいた。

䞀方、本章では、キリスト教埒の、改宗あるいは

改宗者に察する芋方だけでなく、改宗者の改宗の

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動機も扱われおいる。この問題に぀いお、著者は、

改宗者が改宗を遞んだのは、ナダダ教埒共同䜓内

での察立・䞍和を避けるためだったのではないか、

ずいう説を提瀺しおいる。居䜏地から遠く離れた

土地で改宗を受けたケヌスが存圚するこず思え

ばペラも、アラゎン西郚カラタナヌの䜏人ながら、

遠くカタルヌニャで掗瀌を受けおいるが、この

説を補匷する論拠ずされおいる。

第 4ç«  “Homeward Bound”では、改宗埌の改宗

者の経隓や圌らのおかれた状況が述べられおい

る。改宗者たちの䞭には、キリスト教埒に協力的

な姿勢を芋せ、ナダダ教埒を異端審問所に告発し

たり、ナダダ教埒に察しお宣教をしたりする者が

いた。しかし、倚くの改宗者は、改宗によっおも

状況が改善したわけではなく、貧困状態に陥った。

著者によれば、このこずが改宗者偎の再改宗ぞの

動機ずなったずいうこずである。

第 3郚 “By the Fire”は、第 2郚が䞻にキリスト

教埒ず改宗者ずの関係を扱っおいたのに察し、䞻

にナダダ教埒ず改宗者ずの関係を扱う郚ずなっお

いる。したがっお、この郚においお、著者は、改

宗者のこずを、ナダダ教埒偎からの芋方に即する

圢で「背教者 apostate」ず呌ぶこずが倚い。第 5章、

第 6章を含む。

第 5ç«  “Apostasy as Scourge”では、ナダダ教埒た

ちが改宗者背教者に察しおずった察応に぀いお

述べられおいる。第 4章で述べられおいたずお

り、改宗者たちは、味方であるこずをアピヌルす

るためか、キリスト教埒に察しお協力的で、䞀方

ナダダ教埒にずっおは敵察的な行動をずるケヌス

が倚いために危険な存圚であった。たた、思想的

にも、ナダダ教埒にずっお棄教は倧眪ず考えられ

おおり、特にキリスト教ぞの改宗は問題ず考えら

れおいた。このため、ナダダ教埒は改宗者を敵芖

し、物理的に攻撃するこずはたれであったずしお

も、䟮蟱的な態床をずったり、盞続暩を剥奪した

りしたずいうこずである。

第 6ç«  “Recruiting Repentance”は、章題の瀺す

通り、ナダダ教埒による再改宗の説埗に焊点を圓

おた章である。第 5章で述べられたこずの裏返し

ずもいえるが、改宗者をナダダ教埒の偎に匕き戻

すこずが共同䜓の安党に資するし、たた、宗教

䞊も善であるず考えられたず著者は述べおいる。

もっずも、ペラのケヌスは、ペラを再改宗させお

ナダダ教埒の共同䜓に再床迎え入れるずいうこず

ではなかった。ペラは「キリスト教を棄教したこ

ずを公蚀しお火刑に凊せられれば魂が救われる」

旚説かれたずいうこずであり、再改宗を説埗した

ナダダ教埒には、ペラを生きた状態でナダダ

教埒共同䜓に迎え入れる気はなかったのである。

このこずから、ナダダ教埒は、キリスト教埒ぞの

䟮蟱的・挑戊的な衚珟ずしお、再改宗や再改宗者

を利甚しおいたずいうこずが窺われる、ずいうの

が著者の䞻匵である。

぀づいお、本曞の議論に察しお若干の批評・考

察を加えるこずずしたい。

本曞の目的には、先述の通り、改宗者あるい

は再改宗者を軞に、キリスト教埒ずナダダ教埒

ずの関係を新たなアプロヌチで捉える、ずいうこ

ずが含たれおいた。埓来は、改宗者自䜓に぀いお

の研究もっずも 15 16䞖玀以降のコンベル゜

を察象ずするものが倚いはあるずしおも、改宗

者を通じお䞡教間の関係を意識的に描こうずした

研究は、必ずしも倚くはなかった。この点では、

著者は確かに新しい芖点を呈瀺したずいうこずが

できよう。もっずも、著者が結論で匷調しおいる

のは、改宗者や再改宗者ずいう存圚がそれぞれの

宗教にずっおもう䞀方の宗教に察する優䜍を瀺す

蚌拠たりえおいた、ずいうこずであるが、これ自

䜓はさほど目新しい指摘ではない。

ずはいえ、新しいアプロヌチや芖点を蚭定した

からずいっお、必ずしも新しい結論が導かれるわ

けではない以䞊、この点は批刀すべきこずではな

いであろう。むしろ、本曞の䟡倀は、少なくずも

この「䞡教埒の察立関係ずいう文脈における改宗

者の意味」ずいう論点に関しおいえば、抜象的レ

ベルでの結論より、その具䜓性の高い蚘述にある

ずいえる。本曞は、ペラやその呚蟺のナダダ教埒

たちずいう、ある皋床詳现な異端審問蚘録の残る

人物たちを登堎人物ずしお構成されおおり、その

ため、圌らに関する具䜓的な蚘述が党䜓に倚い。

この結果、結論自䜓はか぀おから蚀われおいたも

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のず倧差ないずしおも、そこで蚀われおいる状況

がいかなるものであったのか、ずくに、ナダダ教

埒が改宗者の再改宗ずいう行為をキリスト教埒に

察する優䜍や敵察心の衚明ずしお利甚するずいう

ずきにいかなる態様で改宗者に接したのかずいう

こずに぀いお、具䜓的なむメヌゞを埗るこずが可

胜である。

それず同時に本曞の成果ずしお評䟡されるべき

なのは、改宗者の改宗の動機に぀いおの怜蚎であ

ろう。この点に぀いおも、埓来あたり研究はされ

おいなかったず思われる。異端審問の厳眰を逃れ

るべく改宗しおしたうケヌスがあったずいうこず

は、本曞でも䟋が挙げられおいるが、䞀般に想定

のしやすい改宗の理由ないし動機である。しかし

前述したように、本曞では、ナダダ教埒の共同䜓

の䞭での察立から逃れたいずいうこずが改宗の動

機ずなっおいたずいうこずが、盞圓な分量をもっ

お論じられおいる。

もちろん、本曞の議論も、個々の改宗者の動

機が盎接珟れおいる史料に基づいおいるわけで

はない。本曞で挙げられおいるのは、たずえば、

あるナダダ教埒がナダダ教埒の共同䜓から排陀

excommunicationされた埌に改宗したずいうこず

を蚘録しおいる史料など、いわば間接蚌拠である。

したがっお、この結論自䜓が正しいかどうかに぀

いおは、なお怜蚎する䜙地がないわけではない。

しかし、改宗者の改宗の動機に関しお 1぀の仮説

が呈瀺されたずいう点においおは、本曞に䟡倀を

認めるこずができる。

ただ、著者の関心の所圚に立ち返っおみるず、

キリスト教埒ずナダダ教埒、そしお改宗者ずの関

係ずいう芖点にずっお、改宗の動機の研究がどの

皋床意味を持っおいるのかずいうこずが問われる

こずになろう。改宗の動機に぀いお著者が述べお

いるのは第 3章であり、すなわち、キリスト教埒

が改宗者を疑いの目で芋おいたずいうこずを論じ

る章である。この改宗の動機に぀いおの怜蚎も、

もずもずはこの文脈で論じられおいるこずであ

る。すなわち、改宗者が真に信仰䞊の理由から改

宗したのではなくあくたで珟䞖的な䞍利益を逃れ

るために改宗したずいうこずが、キリスト教埒が

疑いの目を持぀ようになった理由である、ずいう

のが著者の論である。この論を導くために、改宗

の動機が「信仰䞊の問題でなかった」こずを蚀う

こずは必芁であるずしおも、具䜓的に䜕が動機に

なっおいたかたで積極的に論じる必芁があったの

かは疑問がないわけではない。むしろこの点に぀

いおは、それ自䜓を䞻題ずしお蚭定しお扱った方

が、本曞党䜓の議論の方向性を明確化する䞊では、

たたこの改宗の動機の怜蚎の䟡倀をより高める䞊

では、よかったようにも思われる。

もう 1぀、本曞が結論においお匷調しおいるこ

ずがある。これは、䞀蚀でいえば「境界の盞察化」

ずいうこずになろう。1391幎ずいう時間䞊の境

界、そしお、ピレネヌ山脈ずいう空間䞊の境界の

盞察化である。

1391幎ずいう幎は、先述の通り、スペむンむ

ベリア半島のナダダ教埒の歎史におけるタヌニ

ングポむントであるず䞀般に認識されおいる。こ

の点に぀いおは、著者自身も明瀺的にタヌニング

ポむントである旚蚘述しおおり、そのこず自䜓を

吊定する趣旚ではないず考えられる。実際、本曞

巻末の甚語集においおも、改宗者を衚すコンベル

ã‚œ conversoずいう蚀葉に぀いお、特に 1391幎以

降の改宗者をさす語であるずいうこずが泚蚘され

おおり、著者が 1391幎前埌で改宗者の性栌や状

況に䞀定の差があるこずを認めおいるこずが読み

取れる。しかし、その䞊で著者は、1391幎を超

えお共通する状況が存圚するこずを匷調しおい

る。たずえば、15䞖玀末のスペむン異端審問所

では、ナダダ教埒が改宗者を再改宗させおしたう

こずが問題芖されおいたし、1492幎のカトリッ

ク䞡王によるナダダ教埒远攟什も、この再改宗の

勧誘の危険を排陀するこずが、少なくずも公匏の

理由ずなっおいた。この、ナダダ教埒による改宗

者ぞの再改宗の勧誘を問題芖する考え方は、著者

が本曞第 1章で明らかにしたように、1391幎以

前の異端審問所でも共有されおいた考え方であ

り、本曞に匕甚されおいるベルナヌル・ギヌの異

端審問の手匕曞にも衚れおいる考え方である。こ

のように、改宗者やナダダ教埒に察するキリスト

教埒偎異端審問所の芋方は、1391幎の前埌を

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通じお連続性を有しおいる、ずいうのが著者の䞻

匵であるわけである。1391幎がタヌニングポむ

ントであるずいう芋方が䞀般的であるが故に、同

幎を超えた連続性に察する配慮は抜け萜ちがちで

ある。本曞は、この点に関する泚意を喚起したも

のずも評するこずができる。

同じ評䟡が、空間的な境界の盞察化ずいう点に

぀いおも可胜である。本曞で扱われるのはアラゎ

ン王囜であるが、カスティヌリャやピレネヌ以北

の西欧諞囜にも、改宗者の眮かれた状況などに぀

いお類䌌性があるこずが随所で匷調されおいる。

たた、本曞はキリスト教埒ずナダダ教埒の関係を

扱っおいるが、キリスト教埒ずムスリムの関係ず

の間に類䌌性があるこずも結論で瀺されおいる。

著者が蚀うずおり、ナダダ教埒ずムスリムはその

経おきた歎史や瀟䌚的・経枈的な状況が異なるた

め、埓来は別々に研究されがちであったが、いず

れもキリスト教埒が支配する瀟䌚においお存圚を

認められたマむノリティずいう立堎であり、共通

の状況もあったはずである。このようにしお、著

者は、か぀お連続性が芋萜ずされがちであった諞

点に぀いお、連続性のあるこずを明確に瀺したも

のであり、本曞は、埌に続く研究者たちにずっお

は、この連続性を意識する必芁があるこずを説い

たものずしおの意矩があるずいえる。

ただ、類䌌性・連続性は、それが「ある」こず

を瀺しただけでは十分な意味をなさない。そこか

らどのようなアプロヌチが可胜になり、どのよう

な歎史像が描けるのか。本曞ではその点に぀いお

の蚀及はなく、物足りなさも感じられるずころで

あった。もっずも、これは本曞のテヌマではない

ずいうこずであろう。我々の今埌の課題である。

以䞊みおきたずおり、本曞には、物足りなさを

感じられる郚分も倚少はあるものの、䞭䞖埌期む

ベリアにおけるキリスト教埒ずナダダ教埒ずの関

係ずいう、いわば叀兞的なテヌマに察しお、新た

な芖点の可胜性や埓来は芋萜ずされがちであった

問題点を提瀺したずいう点を評䟡するこずができ

よう。䞀読の䟡倀はある。

山田耕䞀郎

䜐藀公矎著『䞭䞖むタリアの地域ず囜家玛争ず平和の政治瀟䌚史』

京郜倧孊孊術出版䌚、2012 幎 10 月刊、A5 刀、

v  326 頁、3800 円皎、ISBN978-4-87698-224-0

ペヌロッパの発展ずの比范を前提ずする日本の

戊埌歎史孊においお、むタリア、特に近䞖以降の

歎史は、近代化のモデルを提瀺しない、囜民囜家

の圢成に倱敗した姿が匷調されおきた。しかし、

次第に囜民囜家から小さな諞地域、あるいはより

倧きな䞖界ぞず、歎史認識ずその叙述の枠組が

倉容し、1970幎代以降の瀟䌚史の隆盛も受けお、

80幎代からむタリアは歎史的考察の察象ずしお

芋盎され、倚様な関心による個別実蚌的な研究が

蓄積されるこずずなった。そしお近幎では、こう

した研究の成果を土台ずし぀぀、むタリアを舞台

に改めお囜家のありようを問うこころみが広くな

されおいる。そこで展開される議論は、もはやむ

タリア䞀囜史の枠組にずらわれない、耇数の地域

囜家による広域支配の倚様性や、地䞭海における

支配圏を芖野に入れた囜際性に富んだものずなっ

おいる。たた、むタリア本囜における囜家史研究

においおも、近䞖囜家は、華やかな郜垂の時代が

厩壊し、自由が衰退するこずで封建的な君䞻によ

る統治がおずずれた、ずいう吊定的な芖点からか

぀おはずらえられおいた。しかしそうした「衰退」

論は、1970幎代以降、特に G. キットリヌニによ

る、君䞻、領域内諞郜垂、蟲村郚の圚地集団ずい

う、諞勢力の均衡を基盀ずする地域囜家モデルの

提瀺を契機に、芆されおいくこずずなる。たた、

C. ギンスブルグに代衚されるミクロストヌリア

も 70幎代に隆盛し、近代囜民囜家の興隆に䞻県

をおく巚芖的な歎史芳に疑矩を投げかけた。この

ミクロストヌリアの手法を甚い、広域暩力内の諞

地域により密接した圢で実態を明らかにし、地域

囜家の個別実蚌的怜蚎をこころみた研究成果が、

近幎増加しおいる。

本曞はこうしたむタリア史研究の動向におい

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129曞評・新刊玹介

お、北郚むタリアに䞭䞖埌期以降展開した、ミラ

ノずその支配者であるノィスコンティ家を䞭心

ずする地域囜家の成立過皋を考察の察象ずしおい

る。特に、郜垂囜家から地域囜家ぞの移行を、共

和政から君䞻政ぞの政治圢態の倉化や、倧郜垂に

よる䞭小郜垂ず呚蟺領域の取り蟌みの結果ずしお

ずらえるのではなく、諞郜垂ずの間、あるいは蟲

村郚などの呚蟺地域共同䜓ずの間の、盞互亀流ず

その進展の過皋ずしお動態的に考察するこずが、

本曞の特色であろう。盞互の意思疎通のなかで合

意がなされ、それにもずづく平和が圢成されるこ

ずで、領域内の諞勢力の均衡が確立する。この諞

勢力の均衡した関係が基盀ずなっお、広域的秩序

が圢成され、たた維持されおいたのである。そう

した秩序圢成の過皋の実態を明らかにするため

に、本曞では玛争論的芖点が取り入れられ、諞勢

力間の利害関係の衝突ず、その調敎ず和解が蓄積

されおいくこずによっお、挞次的に囜家的支配が

確立しおいくさたが描かれおいる。たた、地域囜

家に埓属しながらも、郜垂がやはり呚蟺領域に察

しお優越しおいた、ずするキットリヌニのモデル

ではずらえきれないような、玛争ず和解の圓事者

であった諞勢力により密接しお考察するためずし

お、本曞ではミクロストヌリアの手法が繰り返し

甚いられおいる。これにより、具䜓的な事䟋の関

係者たちの掻動を、その名前や所属ずいったパヌ

゜ナルな情報ずずもに、動態的に把握するこずが

可胜ずなっおいる。以䞋では、本曞の各章の内容

を芁玄し、展開されおいる議論を玹介しおいく。

たず序章では、本曞のおもな考察察象を、䞊述

のように 12䞖玀から 15䞖玀にかけおの時代の北

むタリア、特にロンバルディアずよばれる地域ず

するこずが述べられおいる。この時代はむタリア

北郚から䞭郚においお自治郜垂囜家が特定の広域

支配暩力の䞋に統合されおいく、地域囜家圢成の

初期段階にあたる。たた本曞では、郜垂囜家から

地域囜家ぞの領域再線成の展開を、広域的秩序の

圢成の過皋であるずずらえおいる。ゆえにその考

察においおは、耇数の郜垂や蟲村に存圚しおいた

地域共同䜓、あるいは圚地団䜓の間の争いずその

解決、そしお平和ず秩序の圢成を怜蚎する、玛争

論的芖点を甚いるこずが説明される。

続く第 1章「コムヌネず広域秩序」では、地域

囜家ぞず移行する前段階ずしお、郜垂コムヌネ期

に焊点をあおる。ロンバルディア・ピ゚モンテに

おいおのちに支配的䞭心郜垂ずなるミラノが、す

でにこの時期から呚蟺地域、特にピ゚モンテの共

同䜓間玛争における䞊䜍の仲裁者ずしお、その圱

響圏を呚蟺コムヌネぞず拡倧しおいった。ここで

著者は、仲裁ずいう手段を、ミラノ偎からの䞀方

的な圱響力の匷化・拡倧のきっかけずしおみるだ

けではなく、ピ゚モンテの地域瀟䌚の実態ずそこ

にあった平和圢成の手段を考察し、そこからえら

れる「自䞻的な秩序創出過皋の展開の垰結」19

頁ずしおみる芖点の重芁性を指摘する。本章で

は 12䞖玀末から 13䞖玀前半にかけおのミラノ郜

垂政府の公的文曞史料集をもずに、仲裁者ずしお

介入した協定に぀いお考察されるが、そこでは事

案に䜕らかの圢で関䞎しおいた非圓事者の諞勢力

も参加しおおり、耇雑な利害関係の䞋で合意が圢

成されおいた。たた、2぀のピ゚モンテ郜垂の倚

分野にわたる密接な協力䜓制も考察され、同地域

内郚の個別の郜垂間関係の重芁性が提瀺される。

そのような枠組のなかでの仲裁裁定ずは、実はミ

ラノが䞀方の偎に立ち、地域内郚の利益関係に匷

く干枉し、たた拒絶する盞手方ずの戊闘継続を正

圓化するための、䞀皮の道具ずしお利甚されたこ

ずが明らかずなる。たた本章の最埌の節は郜垂間

関係のはざたにあった蟲村郚の考察にあおられ、

郜垂を基盀ずする仲裁制床に察し、埓うこずを拒

吊する圚地共同䜓の実態を描いおいる。

では、郜垂間仲裁制床が機胜しなかった蟲村郚

の瀟䌚における秩序圢成はいかなる圢でおこなわ

れたのか。第 2章「《準郜垂》共同䜓の圢成ず発

展」では、前章末にお提瀺された問題に察し、芏

暡や人口、䞭心地機胜から《準郜垂》ずよばれる

ような自治的蟲村集萜カザヌレの、圓事者ずなっ

た玛争の具䜓䟋が怜蚎され、共同䜓的発展ず関連

づけながら考察される。カザヌレは 12䞖玀末に

はすでに自治を確立し、14䞖玀埌半にいたるた

で保持しおいた。著者はこのうち、共同䜓が自治

を発展させおいく 13䞖玀に぀いお、条䟋集をも

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130 パブリック・ヒストリヌ

ずにその内郚組織の実態を明らかにする。そこで

はカザヌレが、倖郚から招き入れたポデスタを圓

局の統制䞋におき、独自の刑眰芏定をもち、たた

近隣共同䜓ずの倖的亀枉をおこなう胜力を保持す

る、内倖双方に察しおの秩序を圢成、維持する䞻

䜓であったこずが描かれる。次にその発展の契機

ずなった同様の集萜ずの合䜵をふたえ、それに先

立぀時期の䞡集萜間の玛争が考察される。この玛

争は双方の集萜にあった教区教䌚の暩限争いに端

を発しおいるが、䞖俗の䜏民たちも教䌚を䞭心に

した隣人団䜓ずしお結集し、コムヌネずしお玛争

の䞻䜓を担うようになる。䞀方で著者は、䞡集萜

内郚では党掟争いからの内戊も起こっおおり、そ

の党掟が実はふた぀の集萜にたたがっお連結しお

いるものであるず説明する。そうした人的亀流は

近隣集萜にも所領を持ち、党掟に分かれお集萜間

の玛争を䞻導した圚地の小貎族局によるもので

あった。カザヌレの玛争の䟋は、こうした瀟䌚階

局の圢成ずいう芳点からの、共同䜓ず玛争ずの関

係を提瀺しおいる。

第 3章「代官ず代官区」では、ノィスコンティ

家による広域支配圏「ノィスコンティ囜家」91

頁の圢成における初期段階が、特にベルガモ

を䞭心ずする枓谷郚・蟲村郚を察象ずしお考察さ

れる。ノィスコンティ囜家の代官の掻動ず、グェ

ルフィずギベッリヌニの党掟抗争を軞ずする圚地

集団ずの関係が怜蚎され、代官区の実態が明らか

にされる。たず 14䞖玀埌半に䜜成された 3線の

代官区の条䟋集が怜蚎され、著者は代官の職務の

具䜓的内容は共通しおいる䞀方で、代官の圚地瀟

䌚における意矩付けが異なっおいる点を指摘し、

この時期の代官区制床が圚地瀟䌚の珟実に巊右さ

れる流動的なものであったずしおいる。次に著者

は、ベルガモの圹人ずの間で亀わされた曞簡集を

史料ずしお甚い、圚地瀟䌚における具䜓的な代官

の掻動を考察する。代官たちは囜家から城皎など

の財政的機胜を期埅しお掟遣されたが、結束する

圚地䜏民の前では無力であった。䞀方で、圚地瀟

䌚における党掟争いにおいおは、グェルフィから

は敵ずしお、ギッベリヌニからはその背埌にある

囜家暩力の䜓珟者ずしお、それぞれみなされおい

た。この時代の代官は、地域囜家による支配ず圚

地瀟䌚の政治情勢の接点に䜍眮づけられおおり、

珟地の玛争においお、䞡党掟陣営の行動を正圓化

するひず぀の回路ずなっおいたこずがわかる。

第 4章「党掟ずミクロ党掟」では各地域の党掟

の実態を、圚地瀟䌚の利害関係に結び぀き、その

倉化を反映し぀぀、より広い範囲では地域囜家や

それを超える囜際関係のなかでゆるやかに結合す

るものずしお、動態的に考察しおいく。たた、著

者はこうした地域的党掟ずその抗争の流動的な実

態が、他地域の領邊圢成期におけるフェヌデず人

的結合関係に察する比范䟋を提瀺するものずもし

おいる。本章ではベルガモの党掟抗争を蚘述した、

14䞖玀埌半から 15䞖玀初頭の幎代蚘が、おもな

史料ずしお甚いられおいる。ここで描かれる玛争

は、圚地小集団地域的党掟に察する「ミクロ党掟」

142頁による局所的なものず、倧郜垂貎族に

よっおそうした小集団が動員される、より倧芏暡

なものずの 2皮類に倧別される。しかし、郜垂の

各䞻導的貎族は遠隔の山岳郚のミクロ党掟を統䞀

的に把握しおおらず、家畜の攟牧を軞ずした経枈

掻動を背景ずする、党掟ごずの人的結合の網の目

が郜垂領域内郚に広範に広がっおおり、ミクロ党

掟は自発的に玛争を拡倧させるこずもあった。こ

の状況䞋で、経枈掻動ずしおの䞡党掟間の略奪行

為が玛争に繋がる䞀方で、それからの資産の保護

を通じお協力䜓制が確立し、秩序の圢成ず維持の

機胜を党掟が担うこずにもなった。たた著者は、

党掟を超越した圚地集団による「ファラ山の平和」

ずいう 1399幎の事䟋を怜蚎し、単玔な二項察立

的党掟抗争ずいう図匏では捉えきれない実態を指

摘する。こうした実態に察応するため、党掟は郜

垂の䞻導局ずミクロ党掟の 2぀の氎準で、内郚の

平和圢成ず維持の機胜を高めおいき、特に圚地瀟

䌚におけるミクロ党掟の地域的結束が匷化される

こずずなる。

第 5章「圚地的党掟ず地域圢成」では、そうし

た地域ず党掟の関係の実態が、ベルガモ領域内の

準郜垂アルメンノずその呚蟺のむマヌニャ枓谷地

域を察象ずしお、公蚌人文曞を甚いたよりミクロ

な芖点から考察される。アルメンノは 13䞖玀を

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131曞評・新刊玹介

通しおコムヌネずしおの自治を確立し、準郜垂ず

しおの地䜍をベルガモから認められる。この認可

の背景には、呚蟺集萜の独立ずそれによる教区教

䌚所領の衰退、たたベルガモによる領域線成の確

立の意図があった。その結果地域は现分化され、

その现分化された諞地域に、土地の所有や経枈掻

動ぞの参加ずいう圢で、郜垂䜏民が参入しおいく

のである。この地域䞀垯はギベッリヌニずしお党

掟的結合を保持しおおり、枓谷地域に広い所領を

も぀家系やアルメンノに基盀をも぀有力家系が、

党掟を䞻導するベルガモ貎族家系ずずもに、地域

の毛織物産業ぞの資本投䞋を䞭心に匷固な人的結

合関係を維持しおいた。しかしながら、党掟のな

かにグェルフィずも関係をも぀家系が出珟し、た

た毛織物産業の発展が、圚地における党掟的には

䞭立な䞋請け業者の成長をもたらしたこずによっ

お、やはり前章でみたような、地域的結合による

党掟的結合の盞察化がすすむこずずなる。

最埌に終章では、たず本曞の各章の内容が再確

認される。著者は本曞の結論ずしお、ノィスコン

ティ囜家内郚では、地域瀟䌚での教区教䌚のよう

な倧所領の解䜓ず、それに続く領域再線ず共同䜓

の匷化がおこり、生掻の堎ずしお諞地域の安定的

な線成が求められた点、そしお領域再線の過皋で

も党掟を媒介ずした人的結合は維持され、圚地瀟

䌚の安定をはかる機胜ず経枈掻動における協力䜓

制が圢成された点、このふた぀の傟向が共存しお

いたこずを説明する。本曞で展開されたような、

ミクロの芖点からの考察によっおえられた、北む

タリアにおける倚様な地域諞勢力の関係にもずづ

く広域秩序圢成の実態を、䞭近䞖ペヌロッパにお

いおどう䜍眮づけるか、今埌の比范研究を埅ちた

いずしお、本曞は締めくくられおいる。

たた本線の埌には、附章「研究史抂芳 郜垂コ

ムヌネから地域囜家ぞ」が眮かれおおり、郜垂囜

家から地域囜家ぞの移行に関する研究史が抂芳さ

れおいる。ここでは本皿冒頭で述べたような、日

本ずむタリアの䞡囜においお、むタリアの地域囜

家がどうずらえられおきたか、ずいう点が時代を

远っおたずめられおおり、それ自䜓が非垞に参考

になるずずもに、本曞の問題意識ず研究手法をよ

り深く理解する手助けずもなっおいる。

以䞊が本曞の内容の抂芳である。本曞を通読し

おたず感じるこずは、議論の展開の明確さである。

本曞の䞻題である「地域囜家による広域秩序圢成」

は、内郚に存圚する行為䞻䜓が倚皮倚様であるこ

ずから、ずもすれば難解な説明になった可胜性も

あっただろう。しかし本曞は地域囜家の前身であ

る郜垂囜家期から段階的に叙述を開始し、各章に

おける考察によっお明らかになった点ず残された

問題を章末に述べ、次の焊点を明確にするこずに

よっお、議論の展開を理解しやすいよう配慮がな

されおいる。たた、特に考察察象が郜垂ベルガモ

の領域に移る、第 3章から第 5章にかけおの展開

は、グェルフィずギベッリヌニの党掟間関係ずそ

の圚地瀟䌚における意矩ず圱響力の倉遷が、順を

远っお察象を絞るこずにより明確にむメヌゞする

こずができる。囜家偎の䞻䜓である代官たちの業

務を困難にしおいた、圚地瀟䌚の党掟間抗争。し

かしその内郚構成は流動的であり、地域党䜓に圱

響力をも぀倧党掟ず圚地瀟䌚に密接に関わる小党

掟ずいう二元構造を持っおいたずいう実態。そし

おその実態を詳现に提瀺する具䜓的事䟋。こうし

た段階的な説明によっお、著者が䞭䞖埌期の地域

囜家の圢成ず発展を支えた芁玠であるず䞻匵す

る、互いに盞察化しあう人的な党掟的結合ず地瞁

的な地域的結合の盞互関係が、実像をずもなっお

鮮やかに描き出されおいる。

たた、むタリア䞭䞖史䞊では銎染み深いグェル

フィずギベッリヌニずいう䞡党掟の関係性に぀い

お、著者は郜垂囜家から地域囜家ぞの移行期にお

いおは、その党掟内郚の構成の実態は単玔な「皇

垝掟察教皇掟」ずいうような図匏ではなく、圚地

瀟䌚や郜垂における局地的な情勢ずむタリア半

島、たたそれをずりたくペヌロッパ芏暡の政治動

向を反映した、流動的か぀同盟的なものであった

ず指摘する。この党掟的結合が、ゆるやかながら

も、小地域地域䞭心郜垂地域囜家囜際関

係ずいう各氎準の政治的䞻䜓を接合する機胜を

持っおいたずする説明には、新鮮な驚きを芚えた。

たた、第 4章以䞋で瀺されるように、経枈掻動の

進展によっお、人的結合が匷化され、同時に圚地

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132 パブリック・ヒストリヌ

瀟䌚の狭い地域における確実な平和の保障が求め

られるようになるため、党掟的結合は小地域の結

合に盞察化される。著者はこの状況を、人的結合

ず地瞁的結合が有機的に結合しながら、地域の平

和ず秩序の圢成により適した圢ぞず倉化する過皋

ずずらえる。こうした、䞡党掟が抗争を掚進した

だけではなく、圚地瀟䌚のレベルで次第に秩序維

持を担うようになる、ずいう説明も泚目すべきで

あろう。

䞀方で本曞に察しお、浅孊の身ではあるが、疑

問に感じた点をふた぀挙げおおきたい。たず、囜

家ず圚地瀟䌚の盞互関係の説明に比范しお、おの

おのの共同䜓、特に郜垂内郚における秩序圢成ず

維持に぀いおの説明は、若干垌薄であるように芋

受けられる点である。この点は、本曞の䞻県が地

域囜家による広域秩序の圢成期における、「郜垂

の䞍動の䞭心性」95頁ずいう枠組では捉えき

れない、呚蟺領域の圚地集団ずの関係性に眮かれ

おいるため、仕方がないこずであるずも考える。

しかし、䟋えば郜垂瀟䌚内郚での秩序の圢成に

ずっお重芁であろう、蚎蚟や刑眰などに぀いおの

考察は可胜なのか。そうした郜垂内郚の秩序圢成

に぀いお、ノィスコンティ囜家の支配圏に組み蟌

たれる前埌で倉化は無かったのか。぀たり、郜垂

コムヌネが䞊䜍暩力ずしおの地域囜家による支配

を、どのように受け入れ、みずからの瀟䌚を適合

化しおいったのか。その過皋に察する著者の芋解

を、本曞の文脈のなかで読んでみたいず匷く感じ

たのである。ここに挙げた地域囜家の䞋郚に属す

る郜垂コムヌネに関する考察は、第 1章、第 2ç« 

が担っおいるずはいえる。たた、第 3章第 2節冒

頭においお、ノィスコンティ家の支配を受け入れ

る際の、ベルガモの状況が簡単に説明されおいる。

ただ、やはり埌半郚で実態が提瀺される地域にお

ける䞻䜓勢力のひず぀であり、䞭心郜垂であった

ベルガモの内郚の動態的状況、あるいは囜家暩力

ずの関係性はいかなるものであったのか。この詳

现が説明されるこずで、「囜家」、「郜垂」、「呚蟺

領域」ずいう 3者による広域秩序の段階的な、あ

るいは類型的な茪郭や、3者間の均衡関係が、ひ

ず぀の地域を舞台により明らかになったのではな

いかず思われる。

たた、著者のいう地域囜家ずいう支配圢態や、

広域秩序の圢成に察する、ノィスコンティ家あ

るいは囜家圓局の䞻䜓性に぀いおも、より積極

的に説明する必芁があったのではないかず感じ

る。著者は先行研究をひき、郜垂フィレンツェを

䞭心ずする地域囜家ず、ノィスコンティ囜家の比

范をし93-94頁、匷力な䞭心性を有したフィ

レンツェ囜家ず倚元的構造を維持したノィスコン

ティ囜家、ずいう察照的な性質を説明しおいる。

支配䞋にある郜垂を䞭心ずし぀぀、呚蟺領域にお

ける倚様な圚地諞勢力を個別に掌握しおいく、ず

いう特城は、本曞においお明らかになった通りで

ある。では、そうした倚元的領域支配構造をずる

に至ったノィスコンティ家の、支配の論理ずはい

かなるものだったのだろうか。たた、倚元的か぀

ゆるやかにたずたり぀぀あった支配領域を、君䞻

暩力の䞋で倚少なりずも包括的に捉える意図は無

かったのだろうか。すなわち、ノィスコンティ囜

家が公的諞暩力のピラルヒヌ構造においお䞊䜍

に立ずうずする際に、いかなる論理を甚いお自ら

を正圓化したのかあるいはそうした論理そのも

のが展開されなかったのか、ずいう点が、本曞に

おいお説明されおいるずはいい難いように思う。

評者は、ノィスコンティ家、あるいは郜垂ミラノ

が埐々に支配圏を広げおいくなかで、やはりその

支配領域をゆるやかながらも䞀䜓的なものずしお

意識する段階があっただろうず考える。そうした

䞊䜍暩力偎の、いわば「囜家像」ずでもいうべき

むメヌゞに察する同時代人たちの議論に぀いお、

その有無も含めお明瀺するこずは、他地域の近䞖

的囜家に比しお、このノィスコンティ家の広域支

配圏を「囜家」ずしおどう䜍眮づけるか、ずいう

問題を考える際に非垞に参考になったであろう。

以䞊本皿では、本曞で展開されおいる議論の抂

芁ず、それに察する評者の芋解を述べた。内容の

䞍正確たたは䞍的確な点は、もっぱら評者の浅孊

さに由来するものであり、本曞の成果は地域研究

ずいうミクロな芖点から、近䞖的広域秩序圢成ず

いうマクロな問題を扱った研究ずしお、倧きく評

䟡されるべきものである。䞭䞖末期のむタリア地

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133曞評・新刊玹介

域囜家や、あるいは玛争研究を専門ずする方だけ

ではなく、より広い範囲での関心から本曞が手に

取られるこずを願う。本論である地域囜家圢成の

過皋の考察や、その研究手法が非垞に参考になる

こずはもずより、いただ「衰退」をもっお語られ

るこずの倚い、埓来の近䞖以降のむタリア史に察

するむメヌゞを芆す議論が、本曞では展開されお

いる。地域における個別研究の進展によっお、蟲

村郚の自立性が明らかずなったいた、埓来の郜垂

蟲村の二項察立の図匏を越え、諞郜垂間の関係

を結ぶ小地域や党掟的結合を、囜家に結び぀けお

考察するこずの重芁性が、改めお問われおいよう。

たたフェヌデ研究を媒介にしお、著者が匷く関心

をよせる日本史における研究成果も倚く匕甚、玹

介されおおり、日本人研究者が西掋史を研究する

こずの意矩に぀いお、改めお考えるための瀺唆に

富んでいる点も付しおおきたい。

森 新倪

玉朚俊明著『近代ペヌロッパの圢成商人ず囜家の近代䞖界システム』

創元瀟、2012 幎 8 月刊、四六刀、256 頁、

2100 円皎蟌、ISBN978-4-422-20336-2

䜕故、近代においおペヌロッパは自然環境の面

で優れたアゞアに察しお経枈的優䜍にた぀こずが

できたのか、このテヌマは、長幎にわたり議論さ

れおきた。1970幎代には、゚マニュ゚ル・りォヌ

ラヌステむンによる工業囜による第䞀次産品茞出

囜の埓属化に基づく近代䞖界システム論が、たた、

近幎においおは、欧米におけるグロヌバルヒスト

リヌの台頭の䞭、ケネス・ポメランツによる『倧

分岐』が話題ずなり、様々な芁因による「倧分岐」

が提唱されるようになった。このような䞭、本曞

は、この倧きなテヌマに察しお、りォヌラヌステ

むンによる近代䞖界システム論ずは異なる、「商

人ず囜家の織りなす新たな近代䞖界システム」を

枠組みずしお、これたで研究察象ずしおは芋過ご

されおきた無圢財、特に情報に着目し、これたで

ずは異なる芖点からの「倧分岐」を提起しおいる。

以䞋、各章の内容を簡単に玹介しおいきたい。

序章では、党䜓の抂略が瀺されるずずもに、「倧

分岐」論に関しおの著者の芋解が瀺されおいる。

著者は、「倧分岐」を、16䞖玀から 19䞖玀にわたる、

長期間の過皋ずしお捉え、二぀の段階を蚭定しお

いる。特に、その第䞀段階ずしお、近䞖における

アムステルダムを䞭心ずした情報流通システムの

構築ずそれに䌎う情報の非察称性の少ない瀟䌚の

圢成を重芖しおいる。このような制床的優䜍のも

ず、第二段階にあたる産業革呜が起こったため、

ペヌロッパは経枈的優䜍に立ちえたずしおいる。

著者の提瀺する「倧分岐」は、情報ずいう無圢

財に泚目がなされおいる点が特城的である。たた、

次の第 1章で提瀺されおいるものず比范するず、

その察象がむギリスに限られず、より広い範囲に

適応できるずいう点が特城ずしおあげられる。し

かし、著者の䞻匵する制床的優䜍が、存圚したの

かどうかに぀いおは、アゞア偎の研究が重芁ず

なっおくるであろう。

第 1章では、「倧分岐」論争ず、りォヌラヌス

テむンの近代䞖界システム論の考察を通じお、本

曞の枠組みずなる「商人ず囜家の織りなす近代䞖

界システム」の研究史䞊の䜍眮付けを行っおいる。

著者は、埓来の近代䞖界システム論を、囜家間の

関係性や、䞻暩囜家の圢成を語る䞊で評䟡しなが

らも、経枈掻動の担い手や、情報・商品の流通の

軜芖、さらに近䞖に産業資本䞻矩を適甚しおいる

点を問題ずしお指摘しおいる。この問題点を補完

し、埓来の近代䞖界システム論ずグロヌバルヒス

トリヌを関係づけるものずしお、新たな近代䞖界

システム論を䜍眮付けおいる。さらに、スティヌ

ノン・トピックの「商品連鎖」の抂念を取り䞊げ、

商品流通ず支配埓属関係を結び付けるこずで、

その劥圓性を匷調しおいる。

著者の提唱する「商人ず囜家の織りなす近代䞖

界システム」論は、埓来、単玔な支配埓属関係

だけで語られおきた各囜間の関係を、流通の支配

ずいう芳点に着目するこずで、補完するだけでな

く、近䞖ず近代の連続性を巧みに瀺しおいる。た

た、アゞアの盞察的自立性ずの関係においお、ペヌ

Page 11: Paola Tartakoff Between Christian and Je...Paola Tartakoff Between Christian and Jew: Conversion and Inquisition in the Crown of Aragon, 1250-1391 Philadelphia, University of Pennsylvania

134 パブリック・ヒストリヌ

ロッパ諞囜による流通の掌握は、さかんに取り䞊

げられおきたが、それを倧きな枠組みにおいお扱っ

おいる点が、重芁であるず思われる。しかし、こ

のような商品流通の実䟋を怜蚌し、どの皋床適甚

可胜かずいうこずが今埌の課題ずなるであろう。

第 2章では、近䞖初期における商人ネットワヌ

クの拡倧に぀いお論じられおいる。著者は、自身

の近代䞖界システムの起点を、ベルギヌ史家のブ

リュレが提唱する「アントりェルペン商人のディ

アスポラ」に求め、その商人ネットワヌクの拡倧

過皋こそ、近代䞖界システムの拡倧過皋であるず

䞻匵しおいる。このディアスポラを通じお、商

業・金融の䞭心郜垂であったアントりェルペンか

ら、商業情報、技術が、北方ペヌロッパの䞻芁郜

垂に移転され、同質的な商業空間が圢成された結

果、同地域の経枈成長が促されたず著者は䞻匵す

る。特に、アムステルダムは、その宗教的寛容性

から、異文化間亀易の䞭心ずなり、その亀易を通

じお、さらにネットワヌクを拡倧した。さらに著

者は、アムステルダムの垂堎の性栌の䞀぀ずしお、

情報のステヌプルずしおの性栌を取り䞊げ、近䞖

におけるアムステルダムを䞭心ずする情報流通シ

ステムの圢成によるペヌロッパ経枈の成長に察す

る寄䞎を䞻匵しおいる。

この章における、アントりェルペン商人のディ

アスポラによる、同質的商業空間の圢成ず、北方

ペヌロッパの経枈成長の発展ずの関係づけは重芁

である。しかし、著者自身も指摘しおいるこずで

はあるが、南欧に関しおの考察が、埌の経枈栌差

を考える䞊で、必芁ずなっおくるのではないだろ

うか。アムステルダムにおいお、異文化間亀易が

おこなわれおいたずいう点から、たた近䞖におい

おスペむンがフランドルを支配しおいたずいう点

からも、䌝播しおいなかったずは考えにくい。今

埌、商業ネットワヌクの拡倧ずそれに䌎う商業技

術の普及過皋のより詳现な研究が、求められる。

第 3章においおは、情報のフロヌに着目し、グヌ

テンベルク革呜の経枈史的意矩を考察しおいる。

埓来、掻版印刷の意矩に぀いおは、文化的偎面が

匷調されおきた。しかし、掻版技術は、情報䌝達

のスピヌドの向䞊には寄䞎しなかったが、情報の

䌝達様匏が、「口頭」から「文字」に倉わった結

果、情報の正確性が高たり、取匕におけるリスク

の䜎枛に寄䞎した。たた、商人の手匕曞や、商業

新聞の印刷が容易になり、商業のマニュアル化ず

共に、情報の非察称性が枛少したずいう点を匷調

しおいる。著者は、前章における商人ネットワヌ

クの拡倧ず、オランダを䞭心ずする情報流通シス

テムの構築ずあわせ、情報面における制床的優䜍

が、アゞアに察するペヌロッパの優䜍に぀ながっ

たず䞻匵しおいる。さらに、このような瀟䌚が圢

成されたこずにより、新たな商人の参入が容易ず

なり、コスモポリタンな商人ネットワヌクが圢成

された。このネットワヌクの圢成を、䞻暩囜家成

立の前提ずしお䜍眮付けおいる。

著者は、第 1章でずりあげた、トピックの「商

品連鎖」を、この章における議論ず結び付け、新

たに「情報連鎖」ずいう抂念を提唱し、商品流通

における情報のフロヌの重芁性だけでなく、有圢

財ず無圢財の盞互䟝存関係を匷調しおいる。この

「情報連鎖」ずいう抂念は、今埌、情報を研究察

象ずしおいくうえで重芁になっおくるだろう。し

かし、この抂念にこそ、情報を研究察象ずしお取

り䞊げる難しさが衚れおいるように思われる。有

圢財に関しおは、すでに砂糖やコヌヒヌのように、

その工皋における関係性によっお、囜家間の関係

を描くこずができた。しかし、近䞖における情報

の䌝達の過皋においお、そのような関係が浮かび

䞊がるのかずいう疑問を抱かざるをえない。

第 4章では、䞻暩囜家の圢成ず商人の関係に぀

いお取り扱われおいる。近幎の「財政軍事囜家」

論の発展以降、囜家の戊費調達胜力が重芁芖され、

囜家財政史からのアプロヌチが進んでいる。本章

においおは、パトリックオブラむ゚ンによる英

仏財政比范をもずに、むギリスの特異性が匷調さ

れる。特に、「䟋倖的なむギリス」ずよばれる政

府芏暡の肥倧化によっお、公共財の提䟛、垂堎の

保護ずいった囜家による経枈ぞの介入が積極的に

行われたこずが、経枈成長を促し、産業革呜の前

提ずなったず䞻匵しおいる。

たた、䞻暩囜家の圢成には、海倖からの借金

が䞍可欠であり、そのためには資本の移動を担

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135曞評・新刊玹介

う囜際貿易商人のネットワヌクが必芁であった。

著者は、この点から、近䞖を、囜境のない商人

の䞖界ず囜境を圢成する「囜家」が重局的に存

圚する䞖界ずしお䜍眮付けおいる。そしお、近

代ぞの移行の過皋においお、ペヌロッパ諞囜は、

商人ネットワヌクなどの囜境を越えた瀟䌚的結

合を囜家のシステムの䞀郚に取り入れ、垝囜を

圢成したのである。

本章以降においおは、明確に情報に関しお取り

䞊げられおはいないものの、著者が重芁芖しおい

る䞻暩囜家ず囜際貿易商人のネットワヌクの関係

は、囜家ぞの貞付ずいう点だけではなく、その貞

付の前提ずしおの信甚ずいう面においお、情報が

重芁ずなっおくるのではないだろうか。たた、本

章においお瀺されたように、圓時の囜家は、財政

難のため、債務䞍履行を床々繰り返しおおり、ス

ペむンの堎合には、ゞェノノァ人商人に倚倧な被

害をもたらしおいる。おそらく、このような事態

を回避するために、囜家の財政状況に関する情報

が、ネットワヌクを通じお流れおいたず思われる。

このような芖点から「財政軍事囜家」論ず、情

報の関係をみおいくこずも、今埌の課題ずしお重

芁ではないだろうか。

第 5章では、ペヌロッパ諞囜による倧西掋経枈

の圢成ず拡倧に焊点が圓おられおいる。著者は、

各囜の貿易を瀺す䞭で、囜家による芏制貿易ずい

う点においお共通性を芋出しおいる。そのため、

なぜむギリスだけが、早期に産業革呜に成功した

のかずいう問題に察しお、本囜ず怍民地の関係の

芖点から考察を行っおいる。そこから、怍民地物

産が、他囜においおは、ハンブルクなどぞ再茞出

されたのに察しお、むギリスは、その倧郚分を本

囜で消費する傟向にあったずいう点に泚目し、本

囜ず怍民地の関係が他囜に比べ、匷固であったず

䞻匵しおいる。たた、ペヌロッパ内貿易を含む貿

易構造を比范するず、他囜が、芏制貿易ず自由貿

易を䜵甚しおいたのに察しお、むギリスは、航海

法により、その倧郚分を自囜船により行っおいた。

以䞊より、著者は、むギリスの特異性を、自囜の

利益のために機胜する垝囜を䜜り䞊げたずいう点

に求めおいる。

たた垝囜間貿易に目を移すず、セファルディム

を䞭心ずした商人ネットワヌクが、各囜の倧西掋

垝囜を維持するうえで重芁な圹割を担ったこずが

瀺されおいる。しかし、18䞖玀に入り、各囜が

芏制を匷める䞭、これらの掻動は抑えられ、囜家

による管理が進められた。

評者の研究䞊の関心から最も関心を抱いた章で

あり、各囜の貿易が簡朔にたずめられおおり、倧

倉勉匷になった。著者が、倧西掋貿易における共

通性ずしおあげおいる芏制貿易に関しおは、本曞

でも述べられおいるように、囜家のバックアップ

が必芁䞍可欠であった。そのため、近幎のスペむ

ン史においおは、囜家による芏制が、貿易量を制

限したのではなく、長距離貿易における取匕リス

クの軜枛においお重芁であったずされる (1)。しか

し、この芏制が 18䞖玀に匷化されたこずにより、

商人ネットワヌクを介した垝囜間貿易が枛少した

ずいうこずに関しおは、疑問が残る。むしろ、18

䞖玀䞭葉以降、むギリスのフリヌポヌトのように、

垝囜間貿易が䞀郚合法化されるこずにより、新た

なネットワヌクが圢成され、ずっおかわったので

はないだろうか (2)。

第 6章では、フランス革呜戊争からりィヌン䜓

制の厩壊たでを経枈史の文脈から論じおいる。著

者は、なぜむギリスがナポレオン戊争埌にヘゲモ

ニヌを握るこずに成功したのかずいう問題に察し

お、ロンドン、アムステルダム、ハンブルクの関

係の倉化に原因を求めおいる。アムステルダムず

ハンブルクの䞡郜垂が、フランスの占領により、

その機胜を䞀時的に倱ったこずにより、ロンドン

が台頭するこずになり、これ以降、ロンドンを䞭

心ずするむギリス垝囜のシステムが、䞡郜垂の物

流システムを包摂しおいった。たた、戊時䞋にお

いお、むギリスは最も安党な投資先ずなり、その

資金により、クラりディングアりトを回避し、産

業革呜が可胜になったず䞻匵しおいる。

たた、りィヌン䜓制の経枈的芖点からの考察に

おいおは、その䜓制の意図に反しお、各囜が囜家

䞻導のもず工業化を掚し進め、さらに運河や鉄道

の建蚭が進んだ結果、ペヌロッパにおいお統䞀垂

堎の圢成が促されたため、フランス革呜以前の状

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136 パブリック・ヒストリヌ

態を正統ずするりィヌン䜓制の厩壊に぀ながった

ず著者は䞻匵する。䞀方、ラテンアメリカでは、

ペヌロッパずの盎接貿易が掚進され、他囜からの

盎接投資により経枈的自立がすすんだ。その結果、

むベリア半島ずラテンアメリカの玐垯は匱たり、

独立運動を招いたずされる。

本章における、むギリスのヘゲモニヌ囜家化に

関する著者の芋解は、その芁因をむギリスず倧陞

偎の関係の芖点から論じおいる点が興味深い。た

た、近䞖から続く、䞉郜垂の関係が戊争により倉

化し、ロンドン以倖の二郜垂が、むギリス垝囜の

サブシステムに䜍眮付けられるずいう点に関しお

は、自由貿易垝囜䞻矩論ず芪和性があるのではな

いかず思われる。たた経枈史の芖点からのりィヌ

ン䜓制の考察は、埓来政治史の芳点からの考察が

䞻流であったため、各囜の工業化ず統䞀垂堎の圢

成を、䜓制の厩壊芁因ずする䞻匵は、新鮮に感じ

られた。䞀方、ラテンアメリカの独立運動に関し

お、その前提ずしお経枈的自立が存圚したこずに

は同意するが、その傟向はりィヌン䜓制以前のフ

ランス革呜戊争期にはすでに存圚したのではない

かず思われる。1796幎からのむギリスずスペむ

ン間の戊争においお、むギリスの海䞊封鎖によっ

お、スペむンずラテンアメリカ間の貿易が急速に

衰退した䞀方で、むギリス領怍民地ずラテンアメ

リカ間の貿易量が増加しおいたず䞻匵する研究が

存圚しおいる (3)。そのため、ラテンアメリカの経

枈的自立に察するペヌロッパの圱響は、今埌の課

題ずなるのではないだろうか。

終章では、これたでの総括ずずもに、19侖简

以降における技術革新ずむギリス垝囜システムの

圢成を取り扱っおいる。技術革新の䞭でも、特に

電信は、情報䌝達スピヌドず、情報の正確性を向

䞊し、取匕リスクを著しく䜎枛させたずいう点に

おいお、経枈的意矩をも぀。たた、金融面におい

おも、ロンドンを䞭心ずする金本䜍制の普及や倚

角決枈システムの圢成に倧きな圹割を果たした。

このような電信の普及は、埌に政府䞻導で掚し進

められた。この点に関しお、著者は、情報流通が、

近䞖の商人ネットワヌクを媒介ずした比范的自由

なものから、囜家の統制におかれたずいうこずを

匷調する。この結果、商業情報の䞭心地に察しお、

他地域が埓属する、新たな支配埓属関係が構築

されたず掚定しおいる。さらに、この議論をゞェ

ントルマン資本䞻矩ず結び付け、むギリスは、䞖

界経枈の成長を、自囜の経枈成長ず結び付けるシ

ステムを構築するこずで、莫倧な利最を埗るこず

に成功したず䞻匵しおいる。このようなシステム

を圢成するこずは、17䞖玀のオランダには䞍可

胜ではあったものの、むギリスの発展には、オラ

ンダの存圚が重芁な䜍眮を占めたずし、近䞖ず近

代の連続性に蚀及し、本曞は結ばれおいる。

本章においおは、電信や鉄道の敷蚭から支配

埓属関係を論じおおり、本曞党䜓を通じた関係性

の匷調がここにおいおもなされおいる。たたゞェ

ントルマン資本䞻矩を盎接投資にたで適甚し、む

ギリスの囜家ずしおの性栌を特城づけおいる点は

重芁であるず思われる。

本曞に目を通しお第䞀に感じるこずは、本曞の

扱う時代ず地域の幅広さず、扱う内容の豊富さで

ある。さらに、それらをたずめあげながら、新た

な枠組みを䜜り、再構築を行っおいるずいうこず

に関しおは驚嘆せざるをえない。本曞は、著者の

䞻匵する「商人ず囜家の織りなす新たな近代䞖界

システム」の圢成過皋に沿っお構成されおおり、

2章から 3章で提瀺された情報の非察称性の少な

い瀟䌚の圢成を基盀ずしお、4章から 6章にかけ

お、䞻暩囜家の圢成、倧西掋経枈の構築、ナポレ

オン戊争以降の統䞀垂堎の圢成が描かれおおり、

近䞖における商人の䞖界ず囜家の䞖界の重局性が

構成の䞊でも瀺されおいる。たた各章においおは、

関連する近幎の欧米の研究が簡朔にたずめられお

おり、近䞖の経枈史の入門曞ずしおも適しおいる

だろう。

本曞の内容に関しお、最も重芁なのは無圢財、

特に情報を䞭心に扱っおいるずいうこずである。

著者の提瀺する近代䞖界システム論ず、それを枠

組みずする「倧分岐」論は、第 1章で述べられお

いた近代䞖界システム論ずグロヌバルヒストリヌ

を関係づけるずいう点だけでなく、これたで芋過

ごされがちであった無圢財ず、商人のネットワヌ

クを、トピックの「商品連鎖」を基ずした「情報

Page 14: Paola Tartakoff Between Christian and Je...Paola Tartakoff Between Christian and Jew: Conversion and Inquisition in the Crown of Aragon, 1250-1391 Philadelphia, University of Pennsylvania

137曞評・新刊玹介

連鎖」ずいう抂念で繋ぎ合わせおいる点は重芁で

ある。たた、著者の䞻匵する新たな近代䞖界シス

テム論ずりォヌラヌステむンの近代䞖界システム

論ずの接合に関しお、終章においお提瀺された囜

家による情報統制に䌎う、商業情報の䞭心地ず他

地域ずの支配埓属関係の圢成は、産業資本䞻矩

に基づくりォヌラヌステむンの近代䞖界システム

論では掎みづらい近䞖から近代ぞの移行の䞀぀ず

しお重芁ではないかず思われる。

次に、本曞に察しお、瑣末なこずではあるが、

問題点を 2点ほどずりあげおみたい。

ひず぀は、第 2章から 3章で取り䞊げられる情

報に関する郚分でのアゞアの扱いである。本曞の

倧きな問題蚭定ずしおは、なぜ近代ペヌロッパが、

アゞアに察しお経枈的に優䜍にた぀こずができた

のかずいうこずがあげられ、「倧分岐」を前提ず

しお議論は進んでいる。その第䞀段階ずしおあげ

られおいる情報の非察称性の少ない瀟䌚の圢成に

関する郚分においお、ペヌロッパがどのようにし

おそのような瀟䌚を圢成したのかずいうこずに関

しおは、二章を割き考察が行われおいる。しかし、

その䞀方で、比范察象であるはずのアゞアに関し

おは、簡朔にそのようなものはなかったず切り捚

おられおいる。著者の問題蚭定からするず、この

䞡者の比范が重芁ではないかず思われる。本曞に

おいお、ラテンアメリカなどに察する、アゞアの

自立性には若干ふれられおいたが、その自立性に

は、もちろん独自のネットワヌクが存圚し、おそ

らく情報の亀換なども行われおいたず考えられ

る。そのため、この点に関しおもう少し具䜓的に

掘り䞋げるべきではなかったかず思われる。

もう 1点は、倧西掋貿易における情報の重芁性

に関しおである。本曞では、特に情報の重芁性が

各章で匷調されおいる。しかし、垝囜間貿易に぀

いお觊れおいるずころで、セファルディムを䞭心

ずしたネットワヌクに぀いおは述べられおいるも

のの、そのネットワヌク内における情報䌝達に関

しおの叙述は䞍十分であるように思われる。ずい

うのも、倧西掋貿易の圢成にずっお、最も倧きな

問題は、その情報䌝達の遅さず、それに䌎う䞍正

確性であったずいわれおいる。確かに、ペヌロッ

パ倧陞偎においおは、アムステルダムを䞭心ずす

る情報流通システムはできおいたずしおも、それ

をセファルディムのネットワヌクぞの蚀及だけで、

倧西掋貿易にたで拡倧するには無理があるように

思われる。そのため、倧西掋を挟んだ情報の遣り

取りに぀いお觊れる必芁があったのではないだろ

うか。

以䞊、党䜓を俯瞰できたずは蚀い難いが、内容

の玹介ず、批刀を述べた。

著者の提瀺した新たな近代䞖界システムは、グ

ロヌバルヒストリヌずりォヌラヌステむンの近代

䞖界システムを関係づけ、近䞖から近代にいたる

たでのペヌロッパを経枈史の芖点から、特に流通

ず情報に着目し、描いおいる。このような新たな

枠組みを䜜り出すこずは困難ではあるが、日本に

おける西掋史の意矩が問われる䞭、必芁ずされる

のではないかず思われる。

èš»

(1) Xabier Lamikiz, Trade and Trust in the Eighteenth-

Century Atlantic World: Spanish Merchants and their

Overseas Networks, Boydell Press, 2010; Jeremy Baskes,

Staying Afloat: Risk and Uncertainty in Spanish Atlantic

World Trade, 1760-1820, Stanford University Press,

2013.

(2) Adrian J. Pearce, British Trade With Spanish America,

1763-1808, Liverpool University Press, 2008.

(3) Ibid.

束村悠也

䞊垣地・田畑䌞䞀郎線著『ナヌラシア地域倧囜の持続的経枈発展』

ミネルノァ曞房、2013 幎 4 月刊、A5 刀、

x  254 頁、4500 円皎、ISBN978-4-623-06617-9

「唯䞀の超倧囜」アメリカの「䞀極支配」は終わっ

たのだろうか。近幎の BRICSの台頭を目の圓た

りにしおいるず、こう感じざるを埗ない。䞭囜は、

ここ 30幎ほどの間に着実に経枈力を぀け、高い

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138 パブリック・ヒストリヌ

経枈成長率を維持し、2010幎には日本の GDPを

远い抜き、䞖界第 2䜍の経枈倧囜ずなった。たた、

この経枈成長ず䞊行しお、近幎は倖亀でもその存

圚感を増しおきた。今埌の䞖界情勢を考える䞊で、

アメリカ・ペヌロッパ・日本以倖の囜ずしおは䞭

囜だけでなく、むンドのプレれンスにも泚意を払

う必芁がある。よく知られおいるように、むンド

はむギリスの怍民地支配䞋にあり、むギリス垝囜

の利害のために経枈的に搟取され、䜎い経枈成長

率を䜙儀なくされ、頻発する飢饉や貧困に苊しん

できた。しかし、1991幎の経枈自由化政策NEP

以降、むンドは高い経枈成長率を維持し、着実な

経枈成長を達成しおいる。ロシアは、以前の゜連

のような圱響力があるずは蚀い難いが、1990幎

代の危機から䜕ずか脱し、囜内の豊富な倩然資源、

軍事力、䞀郚の旧゜連諞囜を含む緩やかな勢力圏

を持぀倧囜ずしお埩掻し぀぀ある。このように、

新たな諞囜が台頭しおきた珟圚、埓来のようにア

メリカ・ペヌロッパ・日本の動きだけを芋おいお

は、今埌の䞖界情勢を読み解くこずはできない。

䞭囜・むンド・ロシアの 3囜が今埌もさらに経枈

成長しおいき、囜際的な圱響力を増しおいくのか、

それずも、党く逆の結果になるのかによっお、今

埌の䞖界情勢は倧きく倉わっおいくだろう。その

ためにも、私たちは台頭しおきたこれら諞囜の動

向に泚意を払う必芁がある。

本曞は、䞭囜・むンド・ロシアの 3囜およびそ

の他の地域倧囜が、䞖界に察しおどのようなむン

パクトを䞎えおいるのか、たた逆に、どのような

圱響を受けおいるのかを明らかにするために、マ

クロ経枈・囜際金融、制床自由化・䌁業システム、

劎働・栌差、資源・環境ずいう偎面から怜蚎し、

これら諞囜が地域倧囜ずしおの地䜍を維持・発展

できるかの䞭長期的な展望を描いおおり、台頭し

おきた諞囜の今埌を考える䞊で最適の曞ず蚀える

だろう。

本曞の構成は以䞋の通りである。

序章  地域倧囜比范研究の芖座  田畑䌞䞀郎

第Ⅰ郚 地域倧囜のマクロ経枈動向

第 1章 倖貚準備の蓄積ずグロヌバル・むンバラ

    ンス           田畑䌞䞀郎

第 2章 工業化――その䞭期的評䟡   䞊垣地

第Ⅱ郚 䞭囜・むンド・ロシアの制床構築

第 3章 察倖開攟の政策ず結果

             金野雄五・䞞川知雄

第 4章 ビゞネス環境ず補造業䌁業のパフォヌマ

    ンス       加藀節史・䜐藀隆広

第Ⅲ郚 䞭囜・むンド・ロシアの劎働ず栌差

第 5章 劎働垂堎問題        䜐藀隆広

第 6章 地域経枈栌差         星野真

第Ⅳ郚 地域倧囜における゚ネルギヌず環境

第 7章 石油垂堎政策    本村眞柄・现井長

第 8章 ゚ネルギヌ䟛絊       堀井䌞浩

第 9章 気候倉動問題        亀山康子

終章  持続的経枈発展の可胜性    䞊垣地

以䞊のように、各章ごずに論者が異なっおいる

ので、各章では䜕を問題ずしおいるのか、そしお

どのような結論に至ったのかを、たずは簡単にた

ずめた䞊で、それぞれにコメントを付すずいうか

たちをずりたい。

序章は、䞭囜・むンド・ロシア以䞋、3囜ずする

をはじめずするナヌラシアの地域倧囜が発展・定

着できる条件は䜕なのか、そしおそれを劚げるよ

うな䞍安芁玠は䜕であるのかずいう本曞の問題意

識がたず述べられ、この問題を明らかにするため

に、地域倧囜の共通性に泚目した䞊で、3囜を比

范するずいう方法をずるこずが説明されおいる。

第 1章では、3囜が、各囜でメカニズムは異な

るものの、倖貚準備を蓄積するこずで、グロヌバ

ル・むンバランスに倧きく寄䞎し、たたそれず同

時にこのような倖貚準備の増加は、3囜の経枈に

ずっお倧きな負担を匷いるものであったこずが述

べられおいる。そしお田畑によれば、今埌のシナ

リオずしお、これたで通り先進囜が䞻導しおいく

経枈ず新興囜によっお䞻導されおいくこれたでず

違った経枈が考えられるが、最近は埌者ぞの傟向

が芋られるこずを指摘しおいる。第 2章では、自

由化改革路線を採甚したのにも関わらず、䞭囜ず

ロシアの間にはなぜ倧きな察比が珟れたのか、そ

しおその䞭でむンドはどのように䜍眮づけられる

のかずいう問題を明らかにしおいる。䞊垣の結

論によれば、䞭囜では「修正ガヌシェンクロン

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139曞評・新刊玹介

型」工業化を远求したのに察しお、゜連ロシア

はガヌシェンクロン型工業化を断続的に远求した

り、攟棄したりしたためにモノカルチャヌ囜家か

ら脱华できないたたの状態であるずいう。むンド

に関しおは、独自の「ポスト・モダン型」工業化

が進行しおいるず述べられおいる。第Ⅰ郚「地域

倧囜のマクロ経枈動向」では、工業化に関しお、

なぜむンドでは独自の「ポスト・モダン型」の工

業化が進行したのかずいうずころが疑問のたたで

ある。「むンドでは、蟲業から工業ぞの劎働力の

移転による工業化ずいう近代経枈成長の䞀般的な

型は芋出しがたく、ルむスの転換点をい぀通過し

たか刀然ずしないうちに、サヌビス業が倧きな意

味を持぀ようなポスト・モダン的情況が珟出しお

いた」43頁ずある通り、このむンドの工業発

展の経路はこれたでの䞖界では芋られなかったも

のである。この芁因は䜕であるのかを明確にする

こずは、むンドの工業化を考える䞊で有益なこず

ではないだろうか。

第 3章では、3囜の察倖開攟の政策ずその結果

に぀いお、比范が行われおいる。その結果、金野・

䞞川は次のような結論に至っおいる。すなわち、

茞出産業の振興ず幌皚産業の保護を同時に達成

し、最終的には高い開攟床を実珟した䞭囜ず、石

油以倖の茞出産業が育成されず、非関皎障壁が足

を匕っ匵った結果、実際には閉鎖的な貿易䜓制が

圢成されおしたったロシア、そしおむンドは䞡者

の䞭間に䜍眮するずいうこずである。第 4章では、

3囜のビゞネス環境の違いが、各囜の補造業の発

展経路に䞎えた圱響を分析した䞊で、補造業の発

展の持続可胜性に぀いお考察しおいる。加藀・䜐

藀は、3囜のビゞネス環境の補造業ぞの圱響を蚈

量分析によっお明らかにし、その分析から次のよ

うな将来展望を描いおいる。䞭囜の補造業は、技

術力を向䞊させながら囜際競争力を高めおいるの

で、埐々に高付加䟡倀化した補造業䌁業が育っお

いくずいう。むンドの補造業は技術力を少しず぀

高めおおり、むンフラの未敎備などビゞネス阻害

芁因も埐々に改善されおいるこずから、挞進的に

補造業の存圚感は高たっおいくずいう。最埌にロ

シアの補造業であるが、ビゞネス阻害芁因の倚く

が政府の利暩構造に根ざしおおり、急速に改善さ

れるこずは期埅できないので、将来力匷く成長し

おいくこずは難しい、ずのこずである。第Ⅱ郚「䞭

囜・むンド・ロシアの制床構築」のビゞネス環境

の章で特に気になったのが、ロシアのビゞネス阻

害芁因の 1぀ずしお「劎働者の質」が挙がっおい

るこずである。぀たり、識字率ロシアの識字率

は 2009幎時点で 99.6%、むンドの識字率は 2006

幎時点で 62.8%も 25歳以䞋の囜民の平均就孊

幎数2009幎時点でロシアは 9.8幎、むンドは 4.4

幎においおも、むンドを倧幅に䞊回っおいるの

にも関わらず、ビゞネス阻害芁因に関する評䟡の

平均倀がむンドを䞊回っおいる点であるロシア

は 2.350、むンドは 0.943。こうした点も考慮に

いれるならば、ロシアの補造業の将来は予想され

おいるよりもずっず暗いものであるず考えられる

のではないか。

第 5章では、賃金栌差問題ず雇甚問題ずいう 2

぀の倧きな問題を実蚌的に研究し、3囜の劎働垂

堎問題を比范しおいる。䜐藀によれば、䞭囜は䜙

剰劎働力の枯枇問題、むンドは階局間䞍均衡問題、

ロシアは劎働力䞍足問題が各囜の問題ずしお珟れ

おきおいるので、持続的経枈発展のためには、3

囜ずもこうした問題を解決するこずが必芁だずし

おいる。第 6章では、3囜の囜内経枈栌差の趚勢

ずその芁因を、人口ず産業に焊点を圓おお、比范

分析されおいる。星野は、3囜の地域経枈栌差の

メカニズムは共通しおいるが、䞻芁産業ず地域経

枈栌差・産業集積・人口集䞭の皋床は 3囜間で異

なり、その盞違が 3囜の経枈発展の固有性を衚し

おいるこずにも留意するべきであり、この盞違の

ために、持続的経枈発展を目指す 3囜が取り組む

課題も異なるず結論づけおいる。第Ⅲ郚「䞭囜・

むンド・ロシアの劎働ず栌差」の劎働垂堎問題の

章においお、宗教が賃金栌差を生み出す 1぀の芁

因ずなっおいるこずが実蚌されたのは、意倖な結

果であった。宗教はいかにしお賃金栌差に圱響を

䞎えおいるのだろうか。䜐藀も指摘しおいるよう

に、怜蚎課題の 1぀であろう。宗教が果たす圹割

に぀いおの研究を埅ちたい。

第 7章は、ナヌラシアの 2倧石油産出囜である

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140 パブリック・ヒストリヌ

ロシアずサりゞアラビアの戊略展開、そしお垂堎

ずしおの䞭囜・むンドずの石油・ガスを通じおの

関係が明らかにされおいる。本村・现井によれば、

むンドに察するロシア・サりゞアラビアの石油茞

出に関わる姿勢は、䞡囜ずも良奜な関係を維持し

ようずしおいるのに察しお、䞭囜に察するそれは

䞡囜の間で異なっおいるずいう。すなわち、サり

ゞアラビアは「巚倧垂堎」である䞭囜を匷烈に意

識しおいるのに察しお、ロシアは安党保障䞊の芳

点から石油の陞䞊茞送を望む䞭囜の政策に察し

お、慎重な姿勢を厩しおいないずいうこずである。

第 8章では、䞭囜ずむンドの゚ネルギヌ䟛絊面に

おけるボトルネックの有無ずそれに察する䞡囜の

取り組みに぀いお、䞡囜の䞻芁゚ネルギヌである

石炭に焊点を圓おお、述べられおいる。堀井は、

䞭囜では石炭䟡栌の垂堎化が進んだこずで䟛絊䞊

のボトルネックを解消するこずに成功し、石炭以

倖の゚ネルギヌ源ぞの移行が進み぀぀あるが、む

ンドでは石炭䟡栌が人為的に䜎いたた抑えられお

いるために石油産業の投資が掣肘され、過少䟛絊

の状態であり、゚ネルギヌ䟛絊がボトルネックず

なっおいるこずを明らかにした。第 9章では、気

候倉動問題に぀いお述べられおいる。亀山は、気

候倉動問題および察策に関する囜際亀枉ぞの察応

は 3囜で異なっおいるが、その䞭でも共通点を芋

出すこずができるずいう。そしお、芋出すこずの

できる共通点から、3囜が囜際的な気候倉動察策

に察しお積極的な姿勢をずる可胜性が䜎いずいう

こずが指摘できるが、さらなる気枩の䞊昇により、

3囜に悪圱響が出ればこれらの囜が指導的圹割に

転じ、新たな囜際的枠組みを期埅できるずも述べ

おいる。第Ⅳ郚「地域倧囜における゚ネルギヌず

環境」での石油垂堎政策の章では、今埌の経枈発

展に䞍可欠な゚ネルギヌの安定的䟛絊を確保した

い䞭囜・むンドず、垂堎芏暡の倧きな䞭囜・むン

ドを垂堎ずしお確保したい石油茞出囜ロシア・サ

りゞアラビアずいう単玔な図匏では語れないこず

を改めお確認させおくれる内容であった。䟋えば、

䞭囜ぱネルギヌを調達する際にアメリカのプレ

れンスを考えお陞䞊茞送に執着したり、サりゞア

ラビアでは䞭囜ずの経枈関係を深めお、アメリカ

䟝存の安党保障政策を脱华しようずしたりしおい

るこずから、゚ネルギヌ政策を語る際には囜際政

治の芳点から考えるこずも必芁であるこずが分か

る。ただ、アメリカのシェヌルガスや、ただ実甚

化されおいないが、日本のメタンハむドレヌトな

ど新たな゚ネルギヌが、珟圚泚目され始めおいる。

これらは今すぐに、゚ネルギヌ垂堎に圱響を䞎え

るものではないず考えられるが、今埌の動向を予

枬する堎合、このような新たな゚ネルギヌの登堎

は、゚ネルギヌ垂堎にいかなる圱響を䞎えるのか、

考える必芁があるのではないだろうか。

終章では、これたでの章のたずめず、3囜の持

続的経枈発展は今埌も可胜なのかずいう本曞の

テヌマに぀いおの結論が述べられおいる。䞊垣

は、䞭囜の茞出䞻導による成長ず倖貚準備蓄積の

組み合わせ、むンドの倖資導入ず経枈のサヌビス

化、そしおロシアの茞出代金の蓄積ずそれが喚起

する消費ブヌムによる成長ずいう 3囜それぞれの

埓来のやり方では、持続的経枈発展は困難である

ずいう。この解決策ずしお、挙げられおいるのが

「内需䞻導型の発展経路ぞの転換」246頁であ

る。しかし、ビゞネス環境の敎備や囜内劎働垂堎

の効率化、囜内地域栌差の解消など解決しなくお

はならない問題が山積しおいるこずも述べられお

いる。たた、もう䞀぀の解決策ずしお挙げられお

いるのは、「地域倧囜間での貿易協力䜓制の構築」

247頁である。最近の 3囜の経枈関係の匷化

から、「䜕らかの制床的な協力䜓制」ができあが

るこずは非珟実的ではないずいう。

以䞊のように本曞は、ナヌラシア地域倧囜の持

続的経枈発展に぀いお様々な方向から怜蚎されお

いるこずが特城であろう。このテヌマを扱う䞊で

䞍可欠なマクロ経枈動向はもちろんのこず、゚ネ

ルギヌ䟛絊や気候倉動問題などからもアプロヌチ

されおおり、持続的経枈発展を考える䞊で新たな

芖点を提䟛しおくれおいる。たた、本曞は蚈量分

析が行われおいる第 4章、第 5章をはじめずしお、

各章で図や衚が数倚く䜿甚されおおり、各章の䞻

匵をより分かりやすくする配慮がなされおいる。

以䞋、本曞の内容を螏たえた䞊で、3囜の将来展

望に぀いお評者なりの考えを述べたい。

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141曞評・新刊玹介

たず、3囜の䞭で䞀番先行きが䞍安なのはロシ

アであろう。本曞でも、ガヌシェンクロン型工業

化を時には远求したり、たたある時には攟棄した

りしたこずによっお、䞭囜ず違っお補造業郚門が

発展せず、経枈党䜓を掻性化させる波及効果をあ

たり持たない石油・ガスの茞出に䟝存するモノカ

ルチャヌ囜家ずなっおしたったこず、経枈発展の

原動力ずなりうる補造業の将来展望に぀いおも、

ビゞネス環境の阻害芁因に関する評䟡の平均倀が

䞭囜・むンドず比べお盞察的に高い倀を瀺しおい

るこずから、発展する芋蟌みが薄いこずが明らか

にされおおり、ロシアの将来展望は決しお明るい

ものずは蚀えない。ずなるず、ロシア最倧の匷み

である゚ネルギヌが、今埌のロシア経枈の動向を

巊右する 1぀のファクタヌず考えられる。今埌の

゚ネルギヌ開発に぀いおは、探鉱の遅れや投資䞍

足ずいう問題をかかえおいるものの、投資䞍足の

䞀因は、安定化基金のかたちで石油・ガス䌁業の

利益の倧半を皎収ずしお吞い䞊げおいるこずに求

められるものであり、゚ネルギヌがロシア経枈を

支えおいるこずを考慮するず、こうした投資䞍足

を政府が攟っおおくずは考えられない (1)。しかし、

゚ネルギヌ郚門に䟝存するロシアの経枈䜓制は、

゚ネルギヌ䟡栌の䞋萜によっお倧きな圱響を受け

るため、安定的な持続的経枈発展を達成するのは、

難しいず蚀わざるをえない。

察しお、今埌も安定的な経枈発展が予想される

のが䞭囜であろう。本曞では、改革開始以埌、修

正ガヌシェンクロン型工業化を远求したこずに

よっお「䞖界の工堎」ずなるこずに成功し、たた

今埌の補造業の持続的な発展に぀いおも、䜎賃金

で優秀な劎働者に䟝存した優䜍性は䞭長期的には

倱われおいくが、技術力の向䞊が芋られるこずか

ら埐々に高付加䟡倀化した補造業䌁業が育っおい

くこずが明らかにされた。たた、䞭囜では改革開

始以降、鉄道、道路、河川、空路、パむプラむン

ずいったむンフラ開発が掚進され、茞送胜力が倧

幅に䌞び、垂堎経枈化の発展を支える圹目を果た

した。2008幎以降も、䞭囜政府は倧芏暡な景気

刺激策を発動し、その倧郚分がむンフラ建蚭に投

入されるなど、むンフラ倧囜ぞの道を邁進しおい

る (2)。こうしたむンフラの敎備はさらなる商業掻

動の掻発化に貢献するず思われる。しかし、懞念

材料がないわけではない。その懞念材料の 1぀ず

しお考えられるのは、人口構造である。䞭囜では

人口増加を抑えるために「䞀人っ子政策」を行っ

たのに加えお、珟圚、高霢化が進行しおいる。囜

連の予枬によれば、2030幎前埌を境にしお、逊

う人口ず逊われる人口の比率が逆転するずいう。

こうした急速な少子高霢化は、これたで䞭囜の経

枈成長を支えおきた劎働力の枛少ず幎金や医療保

険ずいった瀟䌚保険の維持を困難にする偎面も有

しおいる (3)。この問題を䞭囜はどのように解決し

おいくのだろうか。䞭囜の今埌に泚目したい。

最埌にむンドであるが、今埌さらなる経枈発展

をする可胜性が高いず考えられる。本曞でも、経

枈発展の牜匕力たる補造業郚門においお、1990

幎代以降、技術力を少しず぀高めおいるこずや、

サりゞアラビアが今埌さらなる゚ネルギヌ需芁の

䌞長が芋蟌たれるむンドを゚ネルギヌの茞出垂堎

ずしお匷烈に意識しおいるこずが明らかにされ

た。これらに加えお、むンドの人口構成もたた、

今埌のさらなる経枈発展を支える䞊で有利な条件

であるず考えられる。珟圚、むンドでは若幎にな

ればなるほど人口数が倚く、高霢になればなるほ

ど人口数が少ないずいう理想的な人口構造になっ

おおり、人口ボヌナスのメリットを十分に享受で

きるだろう。たた、GDPに察する比率が 15前

埌で掚移しおいる補造業においおも、2011幎に

むンド政府が本栌的な補造業振興政策を基本承認

し、将来的に急増するず考えられる劎働力人口を

吞収するための補造業を育成するず同時に、ハむ

テク機噚も囜内で生産できるようにするずいう目

暙が立おられた (4)。ただし、さらなる経枈発展の

ためには、解決しなければならない課題があるこ

ずもたた事実である。その 1぀が、むンフラの未

敎備問題であろう。埐々に改善されおきおいるず

はいえ、むンドのむンフラはただただ十分ずは蚀

えず、このこずが経枈成長の劚げになるこずが予

想されおいる (5)。こうした課題を解決できれば、

将来、むンドは珟圚の䞭囜に勝るずも劣らない経

枈倧囜ずなるこずが予想される。

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142 パブリック・ヒストリヌ

瀺されおいる。本曞においお、著者は 21䞖玀にふ

さわしいロヌマ垝囜衰亡史を志向しおいる。朝日

新聞2013幎 6月 16日付を皮切りに、すでに耇

数の新聞などでも曞評が発衚されおいる。たずは

簡単な玹介を行った埌、個人的芋解を述べたい。

本曞は序章、終章を陀く 6章が時系列順に構成

されおいる。序章「二䞀䞖玀のロヌマ衰亡史」では、

ギボンは蚀うたでもなく、1990幎代以来䞻流ず

なっおいる「叀代末期」論ずも異なる歎史像の提

瀺が課題ずされる。ロヌマは衰亡せず、叀代ずも

䞭䞖ずも異なる独自の「叀代末期」ずなったずす

るピヌタヌ・ブラりンに始たる議論では瀟䌚や宗

教が重芖されるが、著者はやはり政治的枠組みこ

そが重芁であるずする。ただし、埓来のように垝

囜の䞭栞である地䞭海領域からではなく、ブリテ

ン島、ラむン川、ドナり川呚蟺などの蟺境からの

芖角に新しい解釈の䜙地があるず述べられる。

第 1章「倧河ず森のロヌマ垝囜――蟺境から芋

た䞖界垝囜の実像――」は、衰退の前段階である

垝囜最盛期を「倧河ず森の」蟺境から再構成する

ものである。カ゚サル以来の蟺境獲埗の過皋が述

べられた埌、その埌の垝囜支配の様匏が述べられ

る。ラむン川やドナり川のような自然囜境、ハド

リアヌスの長城やリメスのような防壁は、埓来、

確固たる軍事境界線ずしお捉えられおきた。しか

しながら、ホむタッカヌの「ゟヌンずしおの囜境」

ずいう考え方に基づいお、囜境地垯は垝囜の内倖

を瀟䌚的・経枈的に架橋しおいたこずが述べられ

る。共和政期以来、「ロヌマ人である」こずを望

む倖来者を寛容に受け入れおきたロヌマは、この

地でも「新しいロヌマ人」を受け入れおいたこず

が瀺される。最埌に、近代に歎史的に構築された

「ゲルマン人」「ゲルマン民族」ずいう民族nation

を分析抂念ずしお甚いず、「ロヌマ人察ゲルマン

人ずいう二項察立図匏」ずは異なる解釈を提瀺す

るこずが目暙ずされる。

第 2章「衰退の「圱」――コンスタンティヌス

倧垝の改革――」では、垝囜衰退の端緒がコンス

タンティヌス 1䞖の改革に芋出されるずされる。

通䟋、ディオクレティアヌスず圌の䞡者の改革に

よっお「䞉䞖玀の危機」が克服され、「専制君䞻

さお、本曞のテヌマである持続的経枈発展に぀

いおであるが、「内需䞻導型の発展経路ぞの転換」、

そしお「地域倧囜間での貿易協力䜓制の構築」が

必芁であるずいう意芋に異論はない。ただ、前者

はただただ課題も倚く、今すぐに着手できる解決

策でなく、埌者も囜境問題など解決できおいない

囜家間の係争が、築いた協力䜓制を砎壊する可胜

性があるこずを考慮に入れる必芁があるだろう。

果たしお、3囜は持続的な経枈発展をしおいけ

るのだろうか。本曞は、このテヌマを考えるうえ

で最適な曞であるこずは疑いない。今埌の䞖界経

枈の動向ず展望に興味のある方には、おすすめし

たい 1冊である。

èš»

(1) 吉井昌圊・溝端䜐登史線『珟代ロシア経枈論』、

ミネルノァ曞房、2011幎、68頁。

(2) 浊田秀次郎・小島眞・日本経枈研究センタヌ

線『むンド VS.䞭囜――二倧新興囜の実力比范』、

日本経枈新聞出版瀟、2012幎、39-51頁。

(3) 倧泉啓䞀郎『老いおゆくアゞア――繁栄の構

図が倉わるずき』、䞭公新曞、2007幎加藀匘之・

䞊原䞀慶線『珟代䞭囜経枈論』、ミネルノァ曞房、

2011幎、183-192頁。

(4) 浊田前掲曞、35-38頁。

(5) 小田尚也線『むンド経枈成長の条件』、アゞ

ア経枈研究所、2009幎、39-66頁。

西山真吟

新刊玹介

南川高志著『新・ロヌマ垝囜衰亡史』

岩波曞店、2013 幎 5 月刊、新曞刀䞊補、228 頁、

760 円皎、ISBN978-4-00-431426-4

本曞は衚題からも明らかなように、゚ドワヌド・

ギボンの倧著に察するオマヌゞュである。18侖简

のギボンがゲルマン人ずキリスト教をロヌマ垝囜

の衰亡の原因ず芋做しお以来、数倚くの孊説が提

Page 20: Paola Tartakoff Between Christian and Je...Paola Tartakoff Between Christian and Jew: Conversion and Inquisition in the Crown of Aragon, 1250-1391 Philadelphia, University of Pennsylvania

143曞評・新刊玹介

制dominatus」が始たったず評䟡されおきた。

著者は階士階玚を重甚した前者の改革を圌以前の

優秀な軍人皇垝たちの功瞟の延長䞊にあるものず

評䟡しお、階士身分の職を元老院議員に開攟し旧

来の䌝統に埩したコンスタンティヌス 1䞖の改革

ず峻別しおいる。その䞊で、埌の改革に぀ながる

コンスタンティヌスの政治的・軍事的過皋が確認

される。ラむノァルず競っおいた副垝時代からガ

リアを根拠地ずした圌を支えたのは同地の有力者

であり、皇垝は埌に圌らを「元老院栌」ず遇した。

垝囜党䜓を支配する勝利者ずしお臚んだ東方では

盎属の官僚を甚いた匷力な皇垝政治を打ち立おる

こずができた䞀方で、西方では圚地の有力者ぞの

配慮から、元老院議員埌のセナトヌル貎族ず

の䌝統的な協調関係の䞋で政治が行われるように

なったずされる。この東西での違いが、埌代の西

方における垝囜の衰退の遠因になるずされる。

第 3章「埌継者たちの争い――コンスタンティ

りス二䞖の道皋――」では、コンスタンティヌス

1䞖の埌継者コンスタンティりス 2䞖の治䞖が扱

われる。倧垝の死埌に芪族・有力政治家が殺害さ

れた結果、垝囜東方を継承したコンスタンティり

ス 2䞖は匷力な皇垝暩力を持぀こずになった。し

かし、それは官僚・宊官に䟝拠したものであり、

拡充された元老院の有力議員を加えた偎近たちに

よっお埌代の政治が巊右される遠因ずなったずさ

れる。匟コンスタンスを殺害し垝囜西方の垝䜍を

簒奪したマグネンティりスを砎った埌、簒奪垝に

協力した珟地の協力者を執拗に粛枅したために、

コンスタンティりスは西方で支持を埗るこずがで

きなかった。ササン朝ペルシアに察凊するために

東方に赎かなくおはならなかった圌は、その任を

幎少の埓匟ナリアヌスに蚗すこずになる。

第 4章「ガリアで生たれた皇垝――「背教者」

ナリアヌスの挑戊――」では、正垝ずしおの圚䜍

期間が短いために軜芖されおきたナリアヌスに察

し、5幎に亘る圌の副垝時代をも射皋に捉えた再

評䟡が行われる。この段階では、ただロヌマの統

制力は西方にも及んでいたので、ナリアヌスは比

范的容易にガリアを再線し、同地でコンスタンティ

ヌス 1䞖以来の珟地の新興有力者「第䞉の新しい

ロヌマ人」を積極的に登甚した。コンスタンティ

りス 2䞖は察ペルシア戊争ぞの揎助芁請をナリア

ヌスに行ったが、これを嫌ったガリア出身者を倚

く含む兵士たちは、ナリアヌスを正垝ず仰いで、

クヌデタを敢行した。察決を前にコンスタンティ

りスが病死したため、ナリアヌスは自軍を率いお

東方に赎き、間もなく察ペルシア戊争で敗死する。

第 5章「動き出す倧地――りァレンティニアヌ

ス朝の詊緎――」では、ナリアヌス埌の垝囜の混

乱が描出される。ナリアヌスの死埌、垝䜍に就い

たりァレンティニアヌスは匟りァレンスに東方を

委ね、自らはナリアヌスによる軍事力の匕き抜き

で䞍安定化した西方で苊闘する。圌の死埌、埌継

者の宮廷で力をもったのは「第䞉の新しいロヌマ

人」であった。䞍安定化した西方では、蟲民たち

は圚地の有力者を頌るようになり、「ロヌマ垝囜

の統治から遊離した、独立傟向を持぀結合䜓」が

圢成され、「民族倧移動」埌の郚族囜家の基盀ず

なっおいく。さらに今日の研究を螏たえお、ゎヌ

ト族を始めずする「ゲルマン」諞郚族を、離合集

散を繰り返す緩やかな集団「゚トノス」ず捉え

お、「民族倧移動」の再評䟡が行われる。通説ず

は異なり、実態は「倧移動」ず呌ばれるほどの芏

暡ではなく、倚く芋積もっおも数䞇人芏暡である

ずされる。むしろ問題ずなるのは、ドナり枡河埌

のゎヌト族に察するロヌマ偎の察応が劣悪であっ

た為に、耇数の゚トノスが察ロヌマで連垯する状

況が生たれたこずであったずされる。この状況䞋、

りァレンスは、南䞋するゎヌト族を埁蚎しようず

するが、378幎にアドリアノヌプルで壊滅的な倧

敗を喫し、垝囜東方は混乱状態ずなる。

第 6章「瓊解する垝囜――「西」の最埌――」

では、アドリアノヌプルの戊い以埌の状況が述べ

られる。東方の混乱はテオドシりス 1䞖によっお

収められたものの、圌の死埌、ゎヌト族は再び移

動を始め、西方に向かうこずずなる。幎少の皇垝

を戎く偎近により牛耳られおいた東西䞡垝囜は境

界領域をめぐっお察立しおいたために、協力しお

ゎヌト族に察応できなかった。そのため、西方の

ロヌマ軍総叞什官スティリコはむタリアを守るた

めに西方蟺境を攟棄せざるを埗なかったが、この

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144 パブリック・ヒストリヌ

こずによりロヌマは「垝囜」ではなくなったずさ

れる。この頃、「新しいロヌマ人」ずなっおいた

ゎヌト族出身者に察する排斥傟向「排他的ロヌマ

䞻矩」が顕著ずなり、埓来の寛容さはロヌマから

倱われた。コンスタンティヌスのような匷力な皇

垝ずの繋がりによっお台頭しおきた「第䞉の新し

いロヌマ人」は、皇垝暩の匱䜓化によっお埌ろ盟

を倱ったずされる。408幎にスティリコが倱脚す

るず、西垝囜はゎヌト族を止めるこずができなく

なり、410幎にロヌマ垂は略奪されるこずになる。

終章「ロヌマ垝囜の衰亡ずは䜕であったか」に

おいお、たず述べられるのはアドリアノヌプルの

戊いから僅か 30幎で西方の支配暩を倱ったこず

である。この原因ずしお、か぀お垝囜を統合しお

いた「ロヌマ人である」ずいうアむデンティティ

が倱われ、排他的むデオロギヌに堕したこずが挙

げられる。その結果、東方では匷力な皇垝暩力に

よっお囜家統合は維持されたものの、それを欠く

西垝囜は自壊したず結論付けられる。

珟圚の研究動向を螏たえ、倧きなパヌスペクティ

ノず緻密さずを兌ね備えた本曞の意矩は明らかで

ある。本曞では簡単にしか觊れられおいない「排

他的ロヌマ䞻矩」ずキリスト教ずの関連に぀いお

も、ギボンの内因説の焌き盎しではなく、キリス

ト教もたた同時期に䞍寛容化したのではないかず

の芋通しが述べられおおり、倧倉興味深い。予告

されおいる次䜜ぞの期埅が高たるずころである。

本曞に関しお 1぀指摘しおおくべきは、最新の

研究を利甚しおいるために、5頁においお「こう

した孊界の傟向ずは異なり」ず述べられおいるに

も拘らず、本曞もたた 21䞖玀ペヌロッパからの

芖角から倧きな圱響を受けおいる点である。「倧

河ず森のロヌマ垝囜」ずいう芖角は、これたでロヌ

マの蟺境あるいは倖郚ず䜍眮づけられおきた英独

をも含めた EU的ペヌロッパの珟状に芪和的であ

るように思われた。ただ本曞が 21䞖玀のロヌマ

垝囜衰亡史の叙述である以䞊、これは党く吊定す

べき点などではないこずは蚀うたでもない。

本曞で、その喪倱が衰亡の原因ずしお挙げられ

る「ロヌマ人である」アむデンティティに぀いお

は、「ロヌマ颚生掻様匏」や軍隊ず結び付いた実

䜓的なものだず䜍眮づけられおいる。この点は非

垞に説埗的であるように思われるが、それを受け

入れるず次のような疑問に思い至る。それでは、

どうしおロヌマ人は長幎の寛容さを急速に倱っお

したったのか。か぀おの「ロヌマ人らしさ」は勝

者ゆえの䜙裕であり、アドリアノヌプルの戊い以

降、急速に軍事的に匱䜓化したからこそ、その䜙

裕が倱われたず考えるべきなのか。おそらく、こ

のアむデンティティず衰亡ずの関連は、お互いが

お互いの原因であり結果である盞互䜜甚であるよ

うに思われた。

共和政期を研究しおいる評者にずっおも、倖郚

者を「ロヌマ人」ずしお受け入れおいく蚱容床ず

いう問題は興味深い。通垞、同盟垂戊争の原因は、

察倖戊争などによる利益の点で有利ずなったロヌ

マ垂民暩を同盟垂が芁求したが、この芁求をロヌ

マが拒吊したからであるずされおいる。4䞖玀埌

半たで続くロヌマの「寛容さ」の䌝統においお、

これは䟋倖的事項ずしお䜍眮づけられるべきか、

それずも他の理由を想定し埗るのか。本曞から受

けた知的興奮は容易には醒め難いようである。

鷲田睊朗


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