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特集記事

PSP/TSPのための新材料開発*

小幡 誠**,三ツ石 方也***,長谷川 靖哉****

Advanced Materials for PSP/TSP Application

Makoto OBATA, Masaya MITSUISHI and Yasuchika HASEGAWA

1. はじめに

感圧塗料(PSP)および感温塗料(TSP)は物質の光物理化学過程を利用した可視化技術であり,光計測,工学,化学にわたる極めて学際的な計測技術である.光励起された物質に対する圧力(酸素消光)や温度(熱失活)といった摂動による光物理化学過程の変化を発光挙動の解析から紐解き,所望する物理量へと変換する.この変換を十分な感度・選択性,時間・空間分解能で実現するための物質が必要である.本小稿では PSP・TSP におけるポリマー,ナノ構造体,希土類錯体などの最近の材料開発について紹介する.

2. 酸素・温度センシングのための機能性高分子材料

2.1 酸素透過性ポリマー一般的にスプレーコーティング型の PSP・TSP は分子センサーである発光色素とそれを固定するバインダーであるポリマーおよび溶剤からなっている.PSP・TSPの機能を担う分子は色素であるが,色素のセンシング機能はポリマーが作る微環境に強く依存する.とくにPSP は色素の酸素消光をそのセンシング原理としているため,ポリマーの酸素透過性は PSP 性能を左右する重要な因子である.ポリマーの酸素透過性は単位面積・単位時間あたりの酸素透過量を膜の両面の圧力勾配で割った酸素透過係数で評価する.以下,酸素透過係数を[cm3(STP) cm/cm2 s Pa]で表す.ポリビニルアルコールなどガスバリア性ポリマーの酸素透過係数は 10-17程度である.一方,よく知られている酸素透過性ポリマーである PDMS(Fiɡ.1)の酸素透過係数は 10-11程度であ

り,このように酸素透過係数はポリマーによって6桁以上変化する(Fiɡ.2).酸素透過係数が低過ぎると圧力変化に対する酸素濃度変化が小さくなるため圧力計測が困難になる.逆に酸素透過係数が高すぎると色素が常に強く消光された状態になるため発光強度(シグナル強度)自体が弱くなる.したがって,測定したい圧力領域に適切な酸素透過係数が存在し,目的の計測に合ったポリマーと色素の組み合わせの選定が重要となる.PSP の代表的なバインダーとしては,汎用ポリマーである PS やPMMAの他に,PDMS など含ケイ素ポリマー,FIB やFEMなどの含フッ素ポリマーおよび PTMSP などのポリアセチレンが用いられている(Fiɡ.1).PS や PMMAの酸素透過係数は 10-14~10-13程度であり,典型的なPSP 計測にはあまり向かない.FIB,PDMS,TMSP は酸素透過係数がそれぞれ 10-12,10-11,10-10程度であり,実用的な PSP 用ポリマーとして利用されている.

可視化情報 Vol.38 No.148(2018 年1月)

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* 原稿受付 2017 年 10 月 10 日** 山梨大学 工学部応用化学科(〒 400-8510 山梨県甲府市武田 4-4-37,E-mail:[email protected])

*** 東北大学 多元物質科学研究所(〒 980-8577 仙台市青葉区片平 2-1-1,E-mail:[email protected])

**** 北海道大学 大学院 工学研究院 応用化学部門(〒 060-8628 北海道札幌市北区北 13 条西 8丁目,E-mail:[email protected])

Fiɡ.1 Representative oxygen-permeable polymers for PSPapplication.

Fiɡ.2 Permeability coefficient for oxygen gas.

2.2 低温度感度PSP色素の発光は酸素濃度だけでなく温度にも依存する.この温度の影響は PSP による圧力計測において最大の誤差要因であり,何らかの温度補正が必ず必要である.しかし,補正に必要な精度の温度分布計測は比較的困難であり,可能な限り温度依存性の小さい PSP が求められている.PSP の光物理化学過程は少なくとも吸収,発光,無輻射失活,酸素消光の4つの過程からなっている(ここでは内部転換や項間交差などは無視する).このなかで無輻射失活と酸素消光の温度依存性が PSP 応答の温度依存性をもたらす.この2つの過程の寄与の程度は圧力感度に依存し,実用的な圧力感度を有する PSPでは酸素消光の温度依存性が支配的である1).酸素消光は拡散律速反応であると考えられるので,酸素消光の温度依存性のほとんどはポリマー中の酸素拡散の温度依存性に由来する.したがって PSP の低温度感度を実現するには媒体である酸素透過性ポリマーの最適化が欠かせない.小幡と満尾らは含フッ素メタクリル酸エステルコポリマーを種々合成し,得られたポリマーと PtTFPPからなる PSP の温度依存性を評価した.モノマーユニットの検討(Fiɡ.3)およびその組成の最適化(Fiɡ.4)の結果,PHFIPM(Fiɡ.3)が最も温度感度を低減するポリマーであることを見出した.このようなポリマーは市販されていないため入手は容

易ではない.しかし,モノマーは市販されており重合操作も化学系学科の学生実験レベルのものなので,もし高分子合成の経験を有する研究者の助力と学生実験室レベルの実験環境があれば比較的容易に合成できる.2.3 色素連結型PSPおよび発光性ポリマーの利用さまざな観点から新たな PSP 材料開発が進められて

いるが,ここではポリマーに関する最近の開発例を紹介する.典型的な PSP は色素,ポリマーおよび溶剤の3

つの物質からなる塗料である.これをエアブラシなどで塗装して色素を含むポリマー膜を表面上に形成する.しかし一般に色素とポリマーはかなり溶解性が異なり,塗装後の乾燥過程で色素の凝集など不均一性が生じる恐れがある.そこで化学結合で色素とポリマーを一体化した色素連結型 PSP/TSP の開発が試みられている.例えばPSP/TSP 機能を有するポリマーとして PtTPP を連結した FEM(PtTPP-FEM)2)や PTMSP3),ローダミン B4)

などの有機色素や B錯体5),Ir 錯体6),Eu 錯体7)などの金属錯体を連結したポリマーなどが合成されている.特に PtTPP と FEMを単純に混合して作製した PSP ではStern-Volmer プ ロ ッ ト が 非 線 形 に な る が,PtTPP-FEM を用いて作製した PSP では非常に直線性の良い Stern-Volmer プロットが得られることが示されている2).これは色素分布のミクロ不均一性が低減した

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Fiɡ.3 Development of oxygen-permeable polymers for low temperature sensivie PSP application.

Fiɡ.4 Temperature sensitivity of PSP consisting of poly(HFIPM-co-IBM) and PtTFPP as a function of themole fraction of HFIPM units.

ことによると考えられる.色素連結型 PSP/TSP ではポリマーの側鎖に色素を導入することが多いが,主鎖に白金ポルフィリンを導入している例もある.例えばXiangらはフルオレンユニットと白金ポルフィリンユニットからなるポリマーが 375 nm で光励起すると 415 nm 付近にフルオレンユニット由来の蛍光を,また 720 nm 付近に白金ポルフィリン由来の燐光を示すことを報告してる(Fiɡ.5)8).このフルオレンユニット由来の蛍光は酸素消光を受けないので,酸素濃度が高くなるに従い,赤色から青色に変化する.以上のものは色素をポリマーに連結した例であるが,そもそもポリマー自体が発光性を有し酸素や温度に応答する材料も少数ではあるが開発されている.Kwak らは Fiɡ.6に示す二置換ポリアセチレンPTMSDPA が 430 nm の光を吸収し,520 nm 付近の発光性を示すことをを報告した9).この PTMSDPA の発光強度は顕著な温度依存性を示し,さらにこのポリマーは温度安定性にも優れており,200℃においてもほとんど重量減少を示さない.また PTMSDPA の発光の温度感度は類似のポリマーである PTPSDPAや PPH よりも3倍以上高く,これは PTMSDPA の高い自由体積率(fractional free volume)に依存しているとされている.熟練した作業者による定常状態の測定のためのポリ

マーベース PSP/TSP は概ね完成の域に達していると考えられる.しかし,非定常測定など高速応答性が要求される場合や高温域での計測にはまだ解決すべき点が多い.またセンサー薄膜の質が作業者の手技に依存する点もPSP/TSP を使いやすい技術にするためには克服すべき課題である.

3. ナノ構造体を用いた酸素センシング

発光性色素とバインダからなる感圧・感温塗料は,酸素分子が発光性色素に近づくことによる発光消光を利用している.陽極酸化皮膜や薄層クロマトグラフィー用プレート,ポリマー・セラミック複合膜などをバインダとした先行研究は高感度・高速応答を目指しており,極端な言い方をすれば,表面・界面とも密接にかかわっている10,11).すなわち,バインダがもたらすマトリックスのどこにどのような状態で発光性色素が配置されるのか,さらに配置された発光性色素に対し酸素分子がどういう空間を経由して近づくのかが感圧・感温塗料の性能に大きくかかわってくる.ここでは感圧・感温塗料に使用されるバインダの役割に着目し,バインダの構造制御という観点から最近の酸素センシングを論じる.3.1 多孔構造を利用した酸素センシング簡便には薄層クロマトグラフィープレートが担持体として使用されている.機械的強度のより安定な陽極酸化アルミニウム膜は 10-100 nm スケールの小孔からなる多孔構造を有し,色素表面吸着型バインダとして利用されている.陽極酸化皮膜上にインクジェットプリンターにより独立に印刷された感圧色素(PtTFPP)と感温色素(ZAIS)の系では,直径 0.3 mm のドットが規則正しく印刷され,18 µs の高速応答が報告されている12).溶媒のプレートに対する濡れ性がドット形成に大きく影響することが指摘されている.ドットの大きさだけでなく発光性色素の凝集状態にも影響する結果,発光特性が変わるということが報告されている.二次元平面を有効に活用でき,圧力と温度に関する情報が独立に取得できる手法である.高感度化に関して,フッ素系シリカ前駆体を含む三種

類の前駆体のゾルゲル法を用いたシリカバインダに関する系統的な研究によれば13),PtOEP を用いた系でIN2/IO2= 330 という高い酸素消光効率および酸素濃度に対する消光効率の良好な直線関係が達成されている(Fiɡ.7).スピンコート法によりガラス基板上に作製されたキセロゲル膜の膜厚は約 2.7 µm であり,1年以上の耐久性を有する.通常キセロゲル系ではシリカマトリックスのクラック形成を避けるため表面修飾剤が使用されるが,表面修飾剤を使用することで多孔化が阻害されるため消光効率が悪くなるなどの問題点がある.第三成分としてペンタフルオロフェニル基を有する前駆体を導入することで酸素分子の拡散が可能な多孔構造をもたらした結果ということもできる.Stern-Volmer プロットの良好な直線関係および発光寿命曲線を単一指数関数で解析できることから,キセロゲル膜中に PtOEP が均一に分散していることを示唆する.シリカナノ粒子は上述のキセロゲルと同様多孔構造を有し,発光性色素の担持体として機能する.通常水との親和性がよくバイオイメージングに有用な材料として用

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Fiɡ.5 Luminescent polymer having PtTFPP units in themain chain8).

Fiɡ.6 Luminescent polyacetylenes9).

いられている.発光性色素は疎水性のものが多く,ゾル-ゲル法に基づくシリカナノ粒子作製において,疎水性に富む n-octyltriethoxysilane と tetraethylorthosilane(TEOS)を組み合わせ,加水分解の際の水への親和性を制御することでシェル部分に発光性色素を取り込むなどの工夫がなされている.多孔構造はバインダと孔の二種類の空間が光の波長ス

ケールで入り組んでいる場合,光散乱をもたらす.これは光をプローブとしたセンシングには都合がよく,酸化物多孔構造だけでなく,ポリマーを利用した多孔構造でも実現可能である.フッ素系両親媒性高分子を用いて100-500 nm の微粒子が集まった薄膜が酸素センシングに応用されている(Fiɡ.8)14).フッ素系両親媒性高分子と2種類の溶媒からなる混合溶液にポルフィリン白金錯体をコモノマーとした両親媒性高分子を少量加えドロップキャストすることで,微粒子薄膜が作製できる.この場合,ポルフィリン白金錯体は微粒子表面近傍内部に位置するため,空気中での酸素消光効率は IAr/IO2= 63 とそれほど高くはない(Fiɡ.9).しかしながら,通常のキャスト膜と比較すると感度は高くなっており,微粒子による多孔構造が効果的であることを意味する.多孔率は 74%と算出されている.Ar から酸素へと外部雰囲気を切り替えた際の応答時間は 0.5-0.9 s であり,前述のシリカキセロゲル膜の 1-3 s を上回る.フッ化炭素側鎖の影響があるかもしれない.水中での溶存酸素センシングをモニターすると興味深い現象がみられる.溶存酸素濃度に対する消光効率は I0/I40= 126 と非常に高い値を示し,0-40 mg L-1の範囲で消光効率と溶存酸素濃度の間に良好な直線関係が成り立つ.これは微粒子薄膜表面が超撥水性のため,液体の水は膜中に入り込むことができないかわりに気体としての酸素分子が膜中を拡散するためと考えられる.キャスト膜では溶存酸素は液体の水を介して膜と接触せざるを得ず,常温・常圧における酸素分子の平均自由工程は 100 nm オーダーであること

から,数百ナノメートルスケールで多孔構造を形成する空間に配置されるポルフィリン白金錯体に対し,酸素分子が比較的近づきやすい環境になっているとも言える.3.2 ナノ構造制御を利用した酸素センシングポリマーをバインダとした場合,色素はポリマーバイ

ンダ中に分散される結果,ポリマー中の酸素の拡散は無

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Fiɡ.7 Chemical structures of (a) pentafluorophenyl-propyltrimethoxysilane, (b) tetramethoxysilane,and (c) n-octyltrimethoxysilane.

Fiɡ.8 Fluorinated nanoparticle film preparation: (top)chemical structures of amphiphilic polymers,(middle) drop casting, and (bottom) SEM image.

Fiɡ.9 Stern-Volmer plots of (red) nanoparticle film and(blue) cast film. Reprinted with permission from ref.14. Copyright 2015 American Chemical Society.

視できなくなる.そこで Langmuir-Blodgett(LB)膜などの超薄膜による酸素センシングが期待されている15).銀ナノ粒子の局在プラズモンを LB膜と組み合わせることで,発光性色素の発光強度を約 10 倍ほど増強することができ,わずかな発光性色素の量でも検出可能な発光強度をもたらす16).微小空間での酸素センシングへの可能性が示されている(Fiɡ.10).局在プラズモンを利用した発光増強は,発光性色素を金属ナノ粒子近傍に配置すること,金属ナノ粒子による消光も考慮しなければならないこと等に気をつけなければならない.色素の分散・均一性など超薄膜には優れた点があるが,実用的には明るさ,光安定性など克服すべき課題が多いのが現状である.ナノ粒子を含む感圧塗料は多孔構造を付与することが

可能となる.ナノ粒子内に多孔構造を構築することで酸素センシングの高感度化が期待できる.直径約 170 nmのコアシェル型シリカナノ粒子に PtTFPP を埋め込み,ゾルゲル法により形成されるシリカキセロゲル中に分散したファイバーセンサーは IN2/IO2= 166 と高い酸素消光効率を示す17).しかしながら,Stern-Volmer プロットは飽和する傾向があり,直線関係はよくない.応答時間もN2から O2の切り替えの際が 1.3 s なのに対しO2から N2の切り替えの場合 18.6 s と遅くなっている.コアシェル型とすることで,物理的に取り込まれているPtTFPP は粒子より脱離することなくセンサーとして機能するが,発光性色素は粒子内中不均一に分散していると思われる.発光性色素を担持したナノ粒子以外にも量子ドットや金属ナノクラスターなどより光安定性の優れたナノ材料が開発されている.今後のイメージングに向けての課題として,これらナノ材料の感圧・感温色素としての性能向上や均一分散性があげられる.

4. 物体表面の温度を正確に検知する強発光性の希土類錯体ポリマー

様々な情報を可視化する可視化情報技術はディスプレ

イなどの画像やセンシング検出分野において極めて重要とされている.新しい可視化情報技術を切り開く分子性の発光体として,長谷川らは「希土類錯体」を用いた研究をこれまで行ってきた.希土類は全部で 17 種類の元素から構成され,原子番号 58 番から 71 番の元素(Ce,Pr, Nd, Pm, Sm, Eu, Gd, Tb, Dy, Ho, Er, Tm, Yb, Lu)はランタニド元素と呼ばれる.希土類錯体は希土類イオンに有機分子を取り付けた分子性のハイブリッド物質であり,紫外光照射により高色純度の強発光を示す.この希土類錯体の精密分子設計を行うことにより,高い発光量子効率と高い光熱耐久特性を実現してきた.ここでは,緑色発光テルビウム錯体と赤色発光ユウロ

ピウム錯体を集積した新しい希土類錯体ポリマー「カメレオン発光体」について紹介する.このカメレオン発光体は温度によって発光色が変化し,その温度変化を正確に解析できる.さらに,感温機能を持つ新型の希土類錯体ポリマー「希土類配位ガラス」の開発にも成功した.ここでは温度の可視化を目的とした2つの希土類錯体ポリマーについて紹介する.4.1 カメレオン発光体18,19)

緑色発光テルビウム錯体と赤色発光ユウロピウム錯体を混合すると,目視で黄色発光を観察することができる.これはディスプレイにおける RGB(赤,緑,青)発光体によるフルカラー画像再現と同じ原理である.我々はテルビウム錯体とユウロピウム錯体を組み合わせ,さらに温度変化によって発光色が変化する機能をとりつけた新しい発光体「カメレオン発光体」の開発に成功した.カメレオン発光体の構成を Fiɡ.11に示す.テルビウ

ムイオン(Tb(III))とユウロピウムイオン(Eu(III))には紫外光を効率よく吸収するアンテナ分子(ヘキサフルオロアセチルアセトナト配位子)が取り付けられ,これらの希土類有機分子によって連結されている.カメレオン発光体内の Tb(III)イオンと Eu(III)イオンの混合比は99:1となっており,極低温においては,系中に多く存在する Tb(III)イオンからの緑色発光が支配的に観察される.このカメレオン発光体の温度が上昇すると,Tb(III)イオンから Eu(III)イオンへのエネルギー移動が進行し,Tb(III)イオンと Eu(III)イオンが同時に発光することになり,緑色と赤色の中間色である黄色からオレ

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Fiɡ.10 Schematic illustration of plasmon-enhancedluminescence.

Fiɡ.11 Structural image of thermos-sensitive lanthanidecoordination polymer, chameleon luminophore.

ンジ,赤色発光を目視において観察することができる(Fiɡ.12).正確な温度は CCD 検出器がついたスペクトルアナラ

イザーによってその発光を計測し,発光スペクトルにおける Tb(III)イオンの発光成分と Eu(III)イオンの発光成分の強度比を求めることで簡単に計算できる(Fiɡ.13)その感温変化は 0.83% K-1と見積もられた.カメレオン発光体は金属などの表面温度分布などの二

次元的な「面」の情報を正確に計測できる新しい発光材料である.この技術は高速移動する旅客機や未来の高速鉄道および次世代の自動車設計に有効である.さらに,表面温度計測の技術は,高速移動している物体の計測だけにとどまらない.現代の化学産業を支える大型プラント工場は,その反応器の温度を正確に計測することが重要である.カメレオン発光体の表面温度計測技術を用いることで,将来,大型の化学プラント容器やエネルギー発電容器の表面温度の可視化が期待されている.4.2 希土類配位ガラス20,21)

テルビウム錯体とユウロピウム錯体を連結したカメレオン発光体はエネルギー移動に基づく感温機能を示すことを明らかにしてきた.この発光体は希土類イオンとの配位結合によってポリマー鎖が構築されているため,明確な結晶構造を持ち,有機分子で構成されるポリマーのようなガラス転移温度は示さない.ガラス形成機能を有する希土類錯体ポリマーの開発は新しい光機能材料を切り開くと考えられる.このガラス形成機能を有する希土類錯体ポリマーを開

発するため,ガラス形成に重要な C3 対称構造(分子構造が 60 度回転すると同じ構造になるもの)とポリマー鎖間の CH-π相互作用を切断するアルケニル基の導入検討を行った.この2つの構造設計を分子へ導入したところ,明確なガラス転移温度を示す一連のアモルファス型希土類錯体ポリマーを作成することができた(Fiɡ.14).このガラス形成機能を有する希土類配位ポリマーの金属イオンをテルビウムおよびユウロピウム混合系にすることで,感温機能を発現することもわかった.その感温特性は 0.92% K-1であり,カメレオン発光体の感温特性よりも優れている.感温機能を有する希土類錯体ポリマーは物体の温度状態を正確に可視化できる新しい発光体である.現在では高温領域での発光(可視化)技術にも成功している22).

5. 最後に

PSP や TSP のような分子センサーを利用した可視化技術は目的に合った適切な分子センサーの利用が欠かせない.そのためには分子センサーの化学に関する知識が必要になる.一方,可視化技術に資する分子センサーを開発するには現場のニーズを物質の性質に反映する化学が必要不可欠である.この双方向コミニュケーションが新しい可視化情報技術を切り拓く鍵になると期待する.

参 考 文 献

1) Obata, M., Asato, R., Hirohara, S., Mituso, K.: Effect of polymermatrix on the performance of pressure-sensitive paintcomprising 5,10,15,20-tetrakis(pentafluorophenyl)porphinatoplatinum(II) and poly (1,1,1,3,3,3-hexafluoroisopropyl-co-tert-butyl methacrylates), J. Appl. Polym. Sci., (2016) DOI:10.1002/app.43316.

2) Obata, M., Tanaka, Y., Araki, N., Hirohara, S., Yano, S., Mitsuo,

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Fiɡ.13 Emission spectra of chameleon luminophore at 200,250, 300, 350, 400 and 450 K. Excited at 365nm.

Fiɡ.14 C3 -Typed lanthanide coordination glass withamorphous glass formation.

Fiɡ.12 Luminescence images of chameleon luminophoreat-173, 0, 27, 50, and 100℃.

K., Asai, K., Harada, M., Kakuchi, T., Ohtsuki, C.: Synthesis ofPoly(isobutyl-co-2,2,2-trifluoroethyl methacrylate) with 5,10,15, 20-Tetraphenylporphinato Platinum (II) Moiety as anOxygen-Sensing Dye for Pressure-Sensitive Paint, J. Polym.Sci. Part A Chem., Vol.43 (2005) pp.2997-3006.

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