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因果推論の基礎 ――ミクロ計量経済学の最近の潮流から―― 森田果 [email protected] 東北大学大学院法学研究科 法社会学会関東研究支部定例研究会(早稲田大学) 2014 12 13 森田 (東北大) 実証分析入門演習 Dec 13, 2014 1 / 28

因果推論の基礎

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Page 1: 因果推論の基礎

因果推論の基礎――ミクロ計量経済学の最近の潮流から――

森田果 †

[email protected]

† 東北大学大学院法学研究科

法社会学会関東研究支部定例研究会(早稲田大学)2014年 12月 13日

森田 (東北大) 実証分析入門演習 Dec 13, 2014 1 / 28

Page 2: 因果推論の基礎

Introduction

Outline

1 Introduction

2 因果推論の根本問題

3 因果推論の前提条件

4 割当メカニズムの重要性

5 ランダム化:特殊な割当メカニズム

6 さまざまな因果推論の手法

7 因果推論と構造推定

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Page 3: 因果推論の基礎

Introduction

伝統的な法学における実証分析の利用

記述的推論データを要約統計量 (summary statistics)・記述統計量 (descritivestatistics)の形にまとめるmean, median, maximum/minimum, varianceなどこれだけでも,〔上手に行えば――King et al 1994〕分かることは結構ある

相関関係 (correlation, association)の計算基本的には OLS(最小二乗法による線形回帰)やクロス集計

差の検定e.g., 男女(の平均賃金 etc)の間に有意な差があるかどうかの検定

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Page 4: 因果推論の基礎

Introduction

最近の法学研究における実証分析の利用

より政策的な方向へconsequentialism — 法ルールがその目的を達成できているかどうか?program evaluationと呼ばれる分野との接合

単なる記述的推論ではなく,因果推論(causal inference)の重視相関関係ではなく,因果関係の評価経済学や政治学でのトレンドを反映医療での EBMなども因果推論の世界(統計学の世界では裏でつながっている)

因果推論では,推定手法(統計ソフトウェアが計算してくれる部分)よりも,リサーチデザイン(どこに因果関係を見いだすか,うまく仕組む)ことの方が重要

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Page 5: 因果推論の基礎

因果推論の根本問題

Outline

1 Introduction

2 因果推論の根本問題

3 因果推論の前提条件

4 割当メカニズムの重要性

5 ランダム化:特殊な割当メカニズム

6 さまざまな因果推論の手法

7 因果推論と構造推定

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Page 6: 因果推論の基礎

因果推論の根本問題

基本概念

a la RCM (Rubin Causal Model)

unit: 対象

treatment: 介入がなかった場合(=control)と比較して,それがあった場合の効果を測定したいと考えている(政策)介入potential outcomes: ユニットに treatmentがあった場合となかった場合について,ユニットが取り得る(=まだ観察されていないものである点に注意!)値

counterfactual: 実現しなかった方の potential outcome

causal effect: 1つ 1つのユニットについて,treatmentがあった場合の potential outcomeと treatmentがなかった場合の potentialoutcomeとの間の差

‘The Fundamental Problem of Causal Inference’: 私たちは,複数のpotential outcomeのうち,最大で 1個しか観察することはできないから,causal effectを直接観察することはできない

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Page 7: 因果推論の基礎

因果推論の根本問題

具体例:単純な差分をとる場合

ユニット=ある時点の「私」。頭痛がある。

treatment=頭痛薬アスピリンの投与。

Y= 2時間後の「私」の頭痛の評価。treatmentの有無で,2通りあり得る。

Unit 当初の頭痛 potential outcomes Y への causal effect

X Y (Asp) Y (Not) Y (Asp)− Y (Not)「私」 80 25 75 -50

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Page 8: 因果推論の基礎

因果推論の前提条件

Outline

1 Introduction

2 因果推論の根本問題

3 因果推論の前提条件

4 割当メカニズムの重要性

5 ランダム化:特殊な割当メカニズム

6 さまざまな因果推論の手法

7 因果推論と構造推定

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Page 9: 因果推論の基礎

因果推論の前提条件

基本概念:因果推論のための前提条件

replication: 少なくとも 1つのユニットは treatmentを受け,少なくとも 1つのユニットは treatmentを受けない(control)。複数の対象の間の variationでもいいし,単一の対象が異なる時点で variationがあってもよい。SUTVA (stable unit-treatment-value assumption):2つの内容がある

a) 1つ 1つのユニットについて,同時で 1つの treatmentしか働かず,controlも 1種類しかないb) ユニット間に干渉がない(spill over effectや一般均衡効果は存在しない)

assignment mechanism: どのユニットが treatmentを受け,どのユニットが controlになるかを決定するメカニズム

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因果推論の前提条件

Nユニット・処置 2つで,SUTVAが満たされるケース

Unit X Y (1) Y (0) ユニットレベルの因果効果1 X1 Y1(1) Y1(0) Y1(1)− Y1(0)2 X2 Y2(1) Y2(0) Y2(1)− Y2(0)...

......

......

i Xi Yi(1) Yi(0) Yi(1)− Yi(0)...

......

......

N XN YN (1) YN (0) YN (1)− YN (0)

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Page 11: 因果推論の基礎

因果推論の前提条件

population levelの因果効果

Yi(1)と Yi(0)を比較するのが基本ただし,このようなユニットレベル因果効果を直接観察することは不可能なので,代わりに...

1と 0との間の平均因果効果 average causal effect

Ave[Yi(1)− Yi(0)] =1N

∑Ni=1(Yi(1)− Yi(0))

1と 0との間のメディアン因果効果Median[Yi(1)− Yi(0)]

などなど...を推定していくことになる

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Page 12: 因果推論の基礎

割当メカニズムの重要性

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1 Introduction

2 因果推論の根本問題

3 因果推論の前提条件

4 割当メカニズムの重要性

5 ランダム化:特殊な割当メカニズム

6 さまざまな因果推論の手法

7 因果推論と構造推定

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Page 13: 因果推論の基礎

割当メカニズムの重要性

割当メカニズム

具体例=完璧な医者

Potential OutcomesUnit Control Y (0) Treatment Y (1)

1 13 142 6 03 4 14 5 25 6 36 6 17 8 108 8 9

‘true’ average 7 5

average causal effect = -2

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Page 14: 因果推論の基礎

割当メカニズムの重要性

割当メカニズム

完璧な医者が,一人一人について最適な治療方法を適用すると:W は,treatmentのあり (1)なし (0)を示す

Potential OutcomesUnit W Control Y (0) Treatment Y (1)

1 1 ? 142 0 6 ?3 0 4 ?4 0 5 ?5 0 6 ?6 0 6 ?7 1 ? 108 1 ? 9

‘observed’ average 5.4 11

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Page 15: 因果推論の基礎

割当メカニズムの重要性

補完 imputationによる因果推論

完璧な医者が最善を尽くしているとなると,欠損データの補完ができる:

Potential OutcomesUnit W Control Y (0) Treatment Y (1)

1 1 ≤14 142 0 6 ≤63 0 4 ≤44 0 5 ≤55 0 6 ≤66 0 6 ≤67 1 ≤10 108 1 ≤9 9

‘observed’ average ≤7.5 ≤7.5

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Page 16: 因果推論の基礎

割当メカニズムの重要性

さまざまな割当メカニズム

assignment mechanism: 観察される潜在的結果と欠損する潜在的結果を振り分けるもの:

Pr(W |X,Y (0), Y (1))

混同的でない unconfounded割当メカニズム:Pr(W |X)

確率的な probabilistic割当メカニズム:Pr(Wi = 1|X,Y (0), Y (1))

個別的な individualistic割当メカニズム:AM ∝

∏Ni=1 Pr(Wi|Xi, Yi(0), Yi(1))

古典的なランダム化実験:AM ∝

∏Ni=1 Pr(Wi|Xi)

ちなみに,プロペンシティスコア(傾向スコア propensity score):Pr(Wi = 1|Xi)

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Page 17: 因果推論の基礎

ランダム化:特殊な割当メカニズム

Outline

1 Introduction

2 因果推論の根本問題

3 因果推論の前提条件

4 割当メカニズムの重要性

5 ランダム化:特殊な割当メカニズム

6 さまざまな因果推論の手法

7 因果推論と構造推定

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Page 18: 因果推論の基礎

ランダム化:特殊な割当メカニズム

ランダム化=因果推論のもう一つの手法

randomization=割当メカニズムを無作為なものとする(ただしXに依存させてもよい)ことで,treatmentと controlとが「だいたい同じ」(もうちょっと言うと,共変量 covariateが balanceしている)状況に持ち込み,Yobs(1)− Yobs(0) = Y (1)− Y (0)となるように仕組む方法。基本的には,平均やメディアンなどを見る。

最近のネット企業(典型例は facebook:https://research.facebook.com/)は,ランダム化実験を実施している契約法・消費者法などでも,ランダム化実験の活用はどんどん増えている開発経済学などでも,ランダム化実験(フィールド実験)をかなり行うようになってきている

けれども,社会科学においては,倫理的・法的な理由で,ランダム化実験を実施することができない場合がまだまだ多い

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Page 19: 因果推論の基礎

ランダム化:特殊な割当メカニズム

観察データの分析をランダム化実験と同じようにデザインするには

1 デザイン段階が完了するまで,結果データは見ないようにする2 意思決定者(割当メカニズムを実行している者)がどのように考えて割当を行っているのかについて分析し,割当に際して鍵となっている共変量を取り出す

3 この共変量が,入手できなかったり,ノイズの多いデータだったら,恐らくそのデータセットを使うのはあきらめて,別のデータセットを探した方が吉

4 treatment/controlグループが,バランスしている(=観察された共変量がほぼ同じような分布をしている)ようなサブグループを見つけ出す

バランスしているかどうかには,分布を描いて目視してみることが有益必ずしも常に,十分なバランスが実現できるとは限らないこの場合の推論は,当該サブグループの範囲内であることに注意

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Page 20: 因果推論の基礎

さまざまな因果推論の手法

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1 Introduction

2 因果推論の根本問題

3 因果推論の前提条件

4 割当メカニズムの重要性

5 ランダム化:特殊な割当メカニズム

6 さまざまな因果推論の手法

7 因果推論と構造推定

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Page 21: 因果推論の基礎

さまざまな因果推論の手法

マッチング

ランダム化実験の基本アイデアtreatment/controlの間で,共変量にバランスがとれた状態を実現する

それならば,treatmentに属する各ユニットについて,共変量が「同じ」ユニットを controlから選び出してきて比較すれば良い:matching

共変量が全く同じものをマッチング共変量ができるだけ近いものをマッチングpropensity scoreでマッチング

最近のビッグデータでは,かなり正確なマッチングが実現できるようになってきている

cf. ビッグデータ関連では,ELも発展してきている(まだまだappliedの世界での実例はあまり見ないが...)

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Page 22: 因果推論の基礎

さまざまな因果推論の手法

DD/DiD

differences-in-differences: (Y1T (1)− Y0C(1))− (Y0T (0)− Y0C(0))

時点 Treatment Control

時点 0 Y1T (0) Y0T (0) Y1C(0) Y0C(0)時点 1 Y1T (1) Y0T (1) Y1C(1) Y0C(1)

Red texts are counterfactuals.

私たちが知りたいもの:Y1T (1)− Y0T (1)

一見,それらしそうな選択し:ビフォーアフター:Y1T (1)− Y0T (0)処置群 vsコントロール群:Y1T (1)− Y0C(1)

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Page 23: 因果推論の基礎

さまざまな因果推論の手法

DD/DiD

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Page 24: 因果推論の基礎

さまざまな因果推論の手法

FE

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Page 25: 因果推論の基礎

さまざまな因果推論の手法

IV/LATE

confoundedな割当メカニズムについても利用可能

natural experimentを探す:instrumental variable

具体例(Angristのベトナム戦争徴兵制のくじ)従軍経験が賃金に与える影響の測定ベトナム戦争時の徴兵は,くじ:ランダムな自然実験くじに「当選する」かどうかはランダムだが,くじに当選することによって従軍確率が増加し,それによって賃金は左右される

wrong IVと weak IVに注意wrong IV:「IVが従属変数に影響するのは,内生的な説明変数を通じてだけ」という exclusion restriction [only through condition]が充足されないweak IV:IVと内生的な説明変数との相関関係が弱い

また,IVは LATE (local average treatment effect on compliers)に過ぎない〔されど LATE〕

complier= IVによって影響を受けるユニット

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Page 26: 因果推論の基礎

さまざまな因果推論の手法

RD

恣意的な規制・介入が存在している場合その規制の近傍では,ランダム化が実現しているはずそれであれば,近傍のデータを取り出せば,規制の有無の影響を測定できるはず

具体例負債額に基づく規制の変化世帯収入に基づく社会保障給付の変化

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Page 27: 因果推論の基礎

因果推論と構造推定

Outline

1 Introduction

2 因果推論の根本問題

3 因果推論の前提条件

4 割当メカニズムの重要性

5 ランダム化:特殊な割当メカニズム

6 さまざまな因果推論の手法

7 因果推論と構造推定

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Page 28: 因果推論の基礎

因果推論と構造推定

因果推論 vs 構造推定

因果推論:最小限の前提に依拠して,因果関係を推定伝統的な計量経済学における構造推定:世界が(経済学)モデルにしたがって動いていると仮定した上で,モデルのパラメタを推定

いわゆる構造方程式(SEM/structural equation model)とは違う

両者の対立点internal validity vs external validity前提条件の明示経済学教育への影響分野の違い

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