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米国電子書籍の 短い歴史 そこから得られる教訓 林 智彦 @日本ユニ著作権セミナー 2013/11/19 1

第22回 JUCC秋季定例セミナー 「電子書籍時代を生きるための“必須知識”」資料2/2

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Page 1: 第22回 JUCC秋季定例セミナー 「電子書籍時代を生きるための“必須知識”」資料2/2

米国電子書籍の短い歴史そこから得られる教訓

林 智彦@日本ユニ著作権セミナー

2013/11/19

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Page 2: 第22回 JUCC秋季定例セミナー 「電子書籍時代を生きるための“必須知識”」資料2/2

アマゾンの内情がもれてきた

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研究書も

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電子書籍黎明期1968 アラン・ケイ Dynabook1971 Project Gutenberg

1993 Digital Book フロッピーディスクで本を販売

1995 Amazon正式サービス開始

1998 SoftBook、Rocket eBook(ベゾス、出資を求められるが決裂)1999 Open eBook Forum(現IDPF)

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電子書籍夜明け直前2000 Microsoft Reader

2002 HarperCollinsとRandom House、書籍の電子化を開始

2003 ベゾス、電子書籍について検討しはじめる

2004 Google、図書館電子化を開始

2006 Sony Reader発売

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Sony Reader PRS-500

当初、独自フォーマット。そのため、タイトル数が限られる

独自書店

USB接続

ボタンが無数にある

1年で「失敗」

IDCによると、2010年の販売台数は80万台。同年の電子書籍専用端末の累積販売数は1200万台

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始まりはiPod

2003年、Apple/Apple会談

Amazonが音楽ストア持ちかける→断られる

Photo: by jurvetson on Flickr CC-BY 2.07

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ベゾスの心中・2003年春にオープンしたITMSの大成功で、CD売上が急減した。このことに驚いたアマゾンは、iPodで再生できないMSのDRMを使った音楽ストアを始めようとしたが、ローンチ寸前に取りやめた・2007年にはDRMフリーの音楽ストアを立ち上げたが、これを見たアップル側が、すぐさま音楽出版社とDRMフリーの契約を結んだ(そのため、顧客流出を食い止められた)・音楽で起きたことが、本やその他の商品に及べば会社の存亡に関わることに気づいたベゾスは、慌てて電子書籍に本格的に取り組み始めた。

Photo: by jurvetson on Flickr CC-BY 2.08

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「2004年、アップルによるデジタルミュージックの支配が、アマゾンの目をさまさせた。書籍、音楽、映画の販売はその年のアマゾンの、年間売上の74%を占めていた。アップルが示したように、これらのフォーマットがデジタルに移行することが不可避なら、アマゾンは自社を守るために、すぐさま動く必要がある。『われわれはiPodがアマゾンの音楽ビジネスに与えたインパクトに震え上がった』。ディレクターのジョン・ドーアは言う。『アップルや他のメーカーから、われわれのコアビジネスを直撃するデバイスが出ることが怖かったんだ。コアビジネスとは、つまり本さ』」

「新しいデジタル時代に、書店として生き延びるためには、アップルが音楽産業を牛耳ったように、電子書籍ビジネスを自社所有する必要があるとベゾスは結論づけた。数年後、スタンフォードビジネススクールでの講演で、同社のディアゴ・ピアセンティーニはこう話した。『誰か他人にカニバライズされるくらいなら、自分でカニバライズした方がマシだ』」

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君の仕事は、アマゾンのビジネスを殺すことだ。紙本を売っている人間を、全員失職させることが目的であるかのように、事業を進めてほしい。

アマゾン社内でベゾスの腹心を『ジェフ・ボット』というが、書籍事業を軌道に載せたスティーブ・ケッセルは、その中で最も忠誠心もあり、やる気もある人物。2004年のある日、ベゾスはケッセルを新事業の担当に配置換えすると述べ、クリステンセンの『イノベーションのジレンマ』(自社の外に、破壊的イノベーションを持った企業を作るべし、と説いた)を念頭に置きながらこう説明した。

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世界最大のデザインファーム

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世界最大のデザインファーム

デザイナー二人が電子端末で徹底的に読書を繰り返し、何百年もの間、当たり前だと思われていた読書の物理学を研究。その結果、「いい本は意識から消えてなくなる」というコンセプトを発見。

キーボードをつけるかどうか、無線を無料にするかどうかで対立。「ブラックベリーっぽくしてくれ」「これが俺のシナリオだ。空港へ行くとき、読む本がほしくなったら、車の中ですぐ本がダウンロード出来る」「しかしそれはできない」「できるかどうかは俺が決める。お前はデザイすればいいんだ」

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トラブルの連続E-inkの製品不良、IntelがKindleのCPUを提供するはずだったXScaleを売却、内部のチップ、無線モジュールの提供元であるクアルコムとブロードコムの特許戦争により一時部品の輸入が差し止められる危険が生じるなど、次から次へとトラブル勃発

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電子書籍をどう増やしたか・2004年当時、電子書籍は2万タイトルしかなかったが、ベゾスはSony等の失敗の経験から、「NYTのベストセラーリスト90%を含む10万タイトル」を目標にした。・アマゾンは紙の書籍で築いた地位を利用して出版社を脅迫。さらに「なか見!検索」用のファイルを電子書籍に転用できるTopazという技術を利用してタイトルを増やした。

・アマゾンの(紙書籍の正味などを含めた)出版社交渉作戦は「ガゼル・プロジェクト」と呼ばれた。チータ(アマゾン)が弱い出版社(ガゼル)を追い回す、という意味。

・出版社はSony等で売れなかったため、電子書籍に後ろ向き。特に電子化の権利がはっきりしない1990年代後半以前のタイトルの電子化を嫌がった。著者やエージェントと交渉すること自体が、契約条件の見直しにつながるから。

・アマゾンは次から次へと「電子化リスト」を出版社に送りつけた・電子化に消極的な出版社については、アマゾンがエージェントや著者と直接交渉した。⦆

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結果

2010年のシリーズ販売合計80

万台(推計)2010年のシリーズ合計614万

台(推計)

当初タイトルは1万。 当初9万点。2年以内に30万点15

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なぜ成否が別れたか

実行の中心課題

実行の中心課題

コイノベーション

アドプションチェーン

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なぜ成否が別れたか~プラットフォームの構築

電子インクスクリーン

その他の補完品

ソニーDRM

著者

ソニーリーダー 小売業者 ユーザー

出版社ソニー・コネクト・ドットコム

接続性:USBケーブル経由でPCから

リーダーへ転送

出所:「ワイドレンズ」P86

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なぜ成否が別れたか~プラットフォームの構築

接続:ワイヤレスネットワーク

アマゾンDRMとその他の補完品

出版社

アマゾンのキンドル

アマゾンのウェブストア エンドユーザー

出所:「ワイドレンズ」P88

著者

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プラットフォームの経済学

両面市場の経済学

Source:http://en.wikipedia.org/wiki/Two-sided_market19

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プラットフォームの経済学

Source:http://en.wikipedia.org/wiki/Two-sided_market20

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プラットフォームの経済学

Source:http://en.wikipedia.org/wiki/Two-sided_market21

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プラットフォームの経済学

Source:http://en.wikipedia.org/wiki/Two-sided_market22

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電子書籍価格談合裁判米大手出版5社(アシェット、ハーパーコリンズ、マクミラン、ペンギン、サイモンシュスター)が電子書籍の価格決定権と価格引き上げを狙い、Appleと共謀した、として米司法省と各州政府が訴えたもの。※RHは歩調を合わせなかったため、難を免れた。

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電子書籍価格談合裁判

ホールセールからエージェンシーに価格MFN(最恵国待遇)→その結果、被告出版社の電子書籍の平均価格が10%以上上昇9.99ドル→12.99ドルや14.99ドル

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何が問題となったのか?

・エージェンシー契約自体は合法・同一市場内の複数の事業者が共謀して類似の契約をAppleと結んだことが問題(独禁法違反)・MFNも実質的に競争を制限すると問題視

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同意判決の中身

・アップルとの現契約の終了・MFNの終了・2年間値引き制限不可・5年間MFN含む契約を結べない

→Agency Liteと呼ばれる契約へ

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Page 31: 第22回 JUCC秋季定例セミナー 「電子書籍時代を生きるための“必須知識”」資料2/2

Agency Lite・大手出版社がAmazonなどと再契約・価格は指値、割引可・ただし逆ざやは禁止(年間支払額を上回る値引きは不可)・ハーパーコリンズは「ダイナミックプライシングや実験を最重要視する」と声明

http://www.bookweb.org/news/publishers-work-e-book-agreements-under-doj-settlement31

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結論として・司法は「競争環境の回復」を再優先・そのため、実質的にはAmazonにも譲歩を迫る内容に・未だにあるべきモデルが見えていない市場に人為的にモデルを押し付けることを回避・市場への信頼が根底に

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Page 33: 第22回 JUCC秋季定例セミナー 「電子書籍時代を生きるための“必須知識”」資料2/2

法的是非はさておき、電子書籍にはどうした価格決定のあり方がふさわしいか?

・ネットコンテンツでは、消費者のアテンションを得ることが難しい・価格は、その数少ないコミュニケーション手段の一つ・そのため、頻繁にセール等を行って、消費者の認知を高めることが必要・ホールセールであれば、Amazonのプライスマッチに任せればよいが、出版社にそれができるか、やるべきか?・紙本の編集部の理解を得られるか?・そもそもカニバリズムがない(別の財)なのであれば、どうつけても総利益には影響なし・日本の事業者のように、価格改訂のたびに書誌をアップロードするような仕組みだと、出版社の手間がかかる・海外展開を考えるとますます大変・米国のエージェンシー契約では、消費税は出版社が払っているようだ(売主であるため)

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Page 34: 第22回 JUCC秋季定例セミナー 「電子書籍時代を生きるための“必須知識”」資料2/2

ここまで米国の歴史でしたが同じ頃、日本では何がおきて

いたのでしょうか

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日本の電子書籍の歴史年 できごと

1986 日本電子出版協会(JEPA)設立

1990 ソニー、データディスクマンを発売

1993 ボイジャージャパン、エキスパンドブック・ツールキットを発売

1993 NEC、デジタルブックプレイヤーを発売

1995 フジオンラインシステム(→パピレス)設立

1995 CD-ROM版「新潮文庫の100冊」

1998 電子書籍コンソーシアム設立

2000 イーブックイニシアティブジャパン(EBJ)設立

2000 電子文庫出版社会設立。「電子文庫パブリ」オープン

2000 ミュージック・シーオー・ジェーピー(現MTI)が「パブリ」運営を受託

2004 ソニー、リブリエ発売

2004 松下、シグマブック発売

2005 デジタルコミック協議会設立

2005 ビットウェイ設立

2005 モバイルブック・ジェーピー(MBJ)がミュージック・ドット・ジェーピーから分割独立

2006 松下、ワーズギア発売

2006 米ソニー、Readerを北米で発売

第一次電子書籍元年

第二次電子書籍元年

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Page 36: 第22回 JUCC秋季定例セミナー 「電子書籍時代を生きるための“必須知識”」資料2/2

日本の電子書籍の歴史年 できごと

2007 米アマゾン、初代Kindleを発売

2009 米アマゾン、Kindle2国際版を日本を含む世界100カ国へも発売開始

2009 米書店チェーンのバーンズアンドノーブルが電子書籍サービス「NOOK」を開始

2010 日本電子出版社協会(電書協)設立

2010 「デジタル・ネットワーク社会における出版物の利活用の推進に関する懇談会」(通称、三省デジ懇)開催

2010 ブックリスタ設立(ソニー、KDDI、凸版印刷、朝日新聞社)

2010 電子出版制作・流通協議会(電流協)設立

2010 トゥ・ディファクト設立(ドコモ、大日本印刷)

2010 TSUTAYA GALAPAGOS設立(CCC、シャープ)

2010 ソニー、Readerを日本で発売

2010 シャープ、GALAPAGOSを発売

2011 ビットウェイ、インテルキャピタルなどがBookLive設立

2011 シャープ、GALAPAGOS端末事業から事実上撤退

2012 楽天、カナダの電子書籍企業、コボを買収

2012 出版デジタル機構設立

2012 コボ、電子書籍サービスを日本で開始、Kobo touchを発売

2012 米アマゾン、日本で電子書籍サービスを開始。Kindle Paperwhite/Kindle Fireシリーズ発売

2013 米アマゾン、Kindle新シリーズを日本で発売、「Kindle連載」を開始

第三次電子書籍元年

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三省(デジ)懇

「デジタル・ネットワーク社会

における出版物の利活用の

推進に関する懇談会」

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三省懇談会報告書(2010年6月)で提示された「7つの課題」1. 国内ファイルフォーマット(中間(交換)フォーマット)の共通化に向けた環

境整備(報告書で掲げられた「電子出版日本語フォーマット統一規格会議(仮称)」の設置・運営を含む。)

2. 書誌情報(MARC等)フォーマットの確立に向けた環境整備(報告書で掲げられた「電子出版書誌データフォーマット標準化会議(仮称)」の設置・運営を含む。)

3. メタデータの相互運用性の確保に向けた環境整備

4. 記事、目次等の単位で細分化されたコンテンツ配信等の実現に向けた環境整備

5. 電子出版のアクセシビリティの確保

6. 書店を通じた電子出版と紙の出版物のシナジー効果の発揮

7. その他電子出版の制作・流通の促進に向けた環境整備

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三省懇談会報告書を受けた国策プロジェクト(新ICT利活用サービス創出支援事業)

プロジェクト名 代表機関 共同提案組織電子書籍交換フォーマット標準化プロジェクト 一般社団法人日本電子書籍出版社協会 学校法人東京電機大学

大日本印刷株式会社凸版印刷株式会社慶昌堂印刷株式会社豊国印刷株式会社株式会社ボイジャーシャープ株式会社シャープビジネスコンピュータソフトウェア株式会社EPUB日本語拡張仕様策定 イースト株式会社 一般社団法人 日本電子出版協会(JEPA)アンテナハウス株式会社

次世代書誌情報の共通化に向けた環境整備 社団法人日本書籍出版協会 一般社団法人日本出版インフラセンターNTTコミュニケーションズ株式会社株式会社数理計画

メタデータ情報基盤構築事業 筑波大学 インフォコム株式会社株式会社インフォコム西日本株式会社ナレッジ・シナジー合資会社ゼノンロジカルウェブ株式会社株式会社ジオ・ブレーン

次世代電子出版コンテンツID推進プロジェクト 社団法人日本雑誌協会 伊藤忠テクノソリューションズ株式会社アクセシビリティを考慮した電子出版サービスの実現

一般社団法人 電子出版制作・流通協議会 株式会社電通 京セラ丸善システムインテグレーション株式会社株式会社日立コンサルティング

書店店頭とネットワークでの電子出版の販売を実現するハイブリッド型電子出版流通の基盤技術の標準化及び実証

株式会社インフォシティ 日本書店商業組合連合会ハイブリッドeBookコンソーシアム

電子出版の流通促進のための情報共有クラウドの構築と書店店頭での同システムの活用施策プロジェクト

財団法人出版文化産業振興財団(JPIC) 日本書店商業組合連合会社団法人日本出版取次協会社団法人日本雑誌協会社団法人日本書籍出版協会株式会社博報堂プライマル株式会社

研究・教育機関における電子ブック利用拡大のための環境整備

大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構

東京大学千葉大学京都大学九州大学一般社団法人 日本電子出版協会(JEPA)

図書館デジタルコンテンツ流通促進プロジェクト

日本ユニシス株式会社 ビジネス支援図書館推進協議会株式会社ミクプランニング

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総費用8億円

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三省懇談会報告書を受けた国策プロジェクト(新ICT利活用サー

ビス創出支援事業)

「EPUB日本語拡張仕様」以外は、その後この事業の成果が活用されている形跡はなし「成果」もよく見ると、すでにあった成果物を事業の成果であるように見せたものが多い(国家プロジェクトでよくある話)

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2年以上更新のない「電子書籍交換フォーマット標準化会議」のサイト

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「電子書籍交換フォーマット標準化会議」の「今後のロードマップ」

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「電子書籍交換フォーマット」について当時実務者の間でささやかれていたこと

XMDF、ドットブックいずれについても、ソースファイルはHTML/XMLの変種であり、変換の難易度は高くない(実際、その後ボイジャー社が変換ツールをリリースした)。また、HTML/XMLであるから、ビデオのβ規格などと違って、近い将来読めなくなることもない。

それをわざわざ第三のフォーマット(交換フォーマット)に変換し、そこから再変換する必要があるのか。

エラーが起これば、かえって手作業等の処理コストがかかる。実際、実証実験においても、元のレイアウト等の再現率は79.6%だった。

またEPUBもXHTML(HTML5)であり、XMDF、ドットブックのソースファイルからの変換は比較的容易(共通規格としての交換フォーマットは要らない)

ソースファイルがHTML/XML等のオープンフォーマットで保管されているということは、それ自体が交換フォーマットとみなせる。そこから別の交換フォーマットにエラーのリスクを冒して変換する理由がない

市場で実用に供されているフォーマットは絶えず検証され、問題が修正されるが、ユーザーの目に触れないフォーマットはエラーや要改善点があっても迅速に更新されないおそれがある

変換プログラムで使うための内部的交換フォーマットは必要だが、それこそベンダーの腕の見せ所

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行政刷新会議「事業仕分け」でのコメント

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•環境未来都市構想のためであれば予備費でいいのではないか。中身が曖昧なままの要求は、電子出版のように必要性が不明なものにあえて使われる危険性がある。

•2020 年までに 6500 億の市場を創出するとしているが、全く具体性がない。「環境未来都市構想」とは格好良いネーミングだが、具体的な内容が見えず、当然効果も不明。名前に億単位の予算を請求しているとしか理解できない。そして“名前”には1円の予算をつけることもできない。

•この手の白紙委任型予算が総務省に他にもないか、財務省は徹底的に調査すべき。電子書籍システムについても国が金を入れる必要はない。本契約は取りやめとすべき。

•まったく不要である。このような新規事業に今後国費が投入されることのないように新規事業立ち上げについてのガイドラインが必要なのではないか(特別法を立法しなければ、このような新規事業を立ち上げられないようにすべし)。

Page 44: 第22回 JUCC秋季定例セミナー 「電子書籍時代を生きるための“必須知識”」資料2/2

プロジェクトから事業へ

国費10億円出版社約40億円、官製ファンドから150億円

6万点の電子化100万点の電子化

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約7割のシェアを占めると言われたビットウェイを吸収

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経産省コンテンツ緊急デジタル化事業

1.黎明期にある電子書籍市場を活性化する

2.東北関連情報の発信

3.被災地域における知へのアクセスの向上

4.被災地域における新規事業の創出や雇用を促進し、被災地域の持続的な復興・振興ならびに我が国全体の経済回復を図る

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Page 46: 第22回 JUCC秋季定例セミナー 「電子書籍時代を生きるための“必須知識”」資料2/2

官製事業の成果(緊デジ)印刷所や制作会社に一定のノウハウ

東北の事業者や本はごく一部。「ダシに使われた」との思いが

電子書籍を電子化(?)した本が大量に

電子化した本の版元すら公開されず、公費が適正に使用されたかどうかの検証ができない。モラルハザード

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Page 47: 第22回 JUCC秋季定例セミナー 「電子書籍時代を生きるための“必須知識”」資料2/2

官製事業の成果(デジ機構)

デジタル機構のビットウェイ合併で7割のシェアを握る「国営」電子取次が

民業圧迫との批判

これでイノベーションが生まれるか、新規参入が増えるか、がカギ

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Page 48: 第22回 JUCC秋季定例セミナー 「電子書籍時代を生きるための“必須知識”」資料2/2

「緊デジ」の教訓「何を、どのタイミングで(電子化して)市場に投入するか」の判断はまさに出版社のコア機能

それを手放すプロジェクトにはそもそも矛盾がなかったか?

またアメリカの例を見れば、闇雲にバックリストの点数を増やすことの合理性を検証すべき(米国の大手出版社はそんなことはやっていない)

必然性のないプロジェクトはサステイナブルでない

→デジタル機構で同じことを繰り返さないように

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ビッグ6(5)出版社の電子書籍タイトル数

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English TitlesRandom House 7358HarperCollins 9600Penguin 7169Hachette 2181Macmillan 7144Simon & Schuster 7521

合計 40973※amazon.comのadvanced searchでkindle本を検索(2013/11/23)。各出版社配下のインプリントの本も、概ね親会社名で販売されていることを確認している。PE/RHだけで120ものインプリントがあるので、全体のタイトル数は、この数倍ある可能性もないではない。

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ビッグ5の電子書籍はなぜこんなに少ないのか?

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要するに電子書籍の大部分は伝統的出版社が刊行した本ではないからと考えるのが妥当

Page 51: 第22回 JUCC秋季定例セミナー 「電子書籍時代を生きるための“必須知識”」資料2/2

ところが、日本では「電子書籍の普及には米国のように100万点が必要」という考え方が、いつの間にか

常識のようになっている。↑

ここでいう「100万点」は伝統的出版社の刊行物を意味する。

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国策電子化の成果の一端を覗いてみましょう

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官製事業の成果(緊デジ)

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http://www.slideshare.net/tomohikohayashi/ss-24315506

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日米比較

(米国)とにかく民間のリスクで、失敗を繰り返す

(日本)とにかく協議会、コンソーシアム、アライアンス、会社設立、法改正、国費投入、記者会見、リリース、シンポジウム、パワポ資料の山

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協議会・懇談会の問題点責任の所在がはっきりしない

バズワードに踊らされる

斬新なアイデアなどは出ない。最大公約数的な方針、「悪くもないがよくもない」アイデアが幅を効かせる。意味のない数値目標

予算消化が目的化する

実務家でなく経営者が出席するため、議論はうわすべり、議事はショー化する

本当に大事なことはトレードシークレットなので誰もいわない

一度もあたったことのない市場予測が根拠。「米国では」と引かれるデータも怪しい。

儲かるのはパワポを作るコンサルタント、助言する弁護士等

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日米の法制度観(米国)競争を促進し、ビジネスを下支えするもの。不都合があれば変えればいい。企業には愚行権もある

(日本)ビジネスの前提となるもの。法律が未整備だと何もできないかのよう。また未実現のリスクに対しても政府が責任を負うかのような家父長主義的視点

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電子出版権vs総合出版権

海賊版の被害はどれだけあるのか、実証は?

その被害に法律改正に伴うコスト追加分は見合うものなのか(費用便益分析は先進国の立法では常識だが日本では印象論だけ)

新規参入者への障壁を上げることにならないか

米国含め諸外国で、法律の未整備が電子書籍普及の障害となっているという証明は?(これまで見てきたように、米国では新規の法的手当なしに発展した)

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【参考】電子書籍にはコードがない

Aというストアに出した本とBというストアに出した本を同じものだと判定(同定)する方法がない

現在は手作業で管理

「版」の管理も決定打がない(作り直しが多いので、これも管理コストを上げる)

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【参考】電子書籍の書誌は大変

ストアによって書誌の形式がバラバラ

しかも、変わることもある

書誌だけですべての情報が網羅されているわけではない(セール期限など)

電子書籍の制作よりも、ファイルや書誌の管理が大変(取引費用)

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結論電子書籍のカギを握るのは「イノベーション」。法制度でも量でもない

イノベーションを推進する、または阻害しない政策や制度設計こそが必要

中でも、取引費用逓減が重要。 電子書籍のID、書誌(表紙、著者紹介なども含む)、メタデータ、API、検索サービスの標準化を通じて、電子化にかかる取引費用を下げる。

海賊版退治やDRMが産業新興に資する、という証拠はない(音楽産業ではこの仮説は放棄された)→電子書籍でも数年後にはDRMフリーになると考えられる。

海賊版よりはるかに使いやすいサービスでしか海賊版には対抗できない(これは音楽産業では常識)

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出典P4 Photo of SoftBook by jurvetson at Flickr(http://www.flickr.com/photos/44124348109@N01/2608962510/in/photolist-4YxBEf) under CC BY 2.0 License

Photo of Rocket eBook (http://www.est.co.jp/ks/dish/rocket/rocket.htm)

P6 Photo of PRS-500 by Hidae under Creative Commons Attribution-Share Alike 3.0 Unported license

P7/P8 iPod photo by [email protected] under CC-BY-2.5.

P7/P8 Bezos photo by by jurvetson on Flickr CC-BY 2.0

P7~P14の記述はBrad Stone, "The Everything Store: Jeff Bazos and the Age of Amazon"による。

P15 Kindle 1 photo by Jon 'ShakataGaNai' Davis under CC BY-SA 3.0.

P15 Sony Readerの2010年までの出荷台数はIDC Press Release (http://www.idc.com/about/viewpressrelease.jsp?containerId=prUS22737611&sectionId=null&elementId=null&pageType=SYNOPSIS)による。当初タイトル数はDaily Techによる(http://www.dailytech.com/Sony+Reader+PRS500+Release+Revealed+For+Real/article4340.htm)。

Kindleシリーズの出荷台数は、上述のIDC Press Releaseによる。タイトル数は、The Everything Storeによる。

P24 米司法省資料、欧州連合資料、各種報道から筆者作成

P25/P26 OECD, "E-books: Development and Policy Considerations"

P27 (米国)OECD, Ibid.

(日本) 公正取引委員会「書籍・雑誌の流通・取引刊行の現状」数値は米国と合わせるため調整した。

P31 David Glogan, "Publishers work on e-book agreements under DOJ settlement", Bookselling this week, Sep 13, 2012. (http://www.bookweb.org/news/publishers-work-e-book-agreements-under-doj-settlement)

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出典P37 総務省「「デジタル・ネットワーク社会における出版物の利活用の推進に関する懇談会」報告の公表」(http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/02ryutsu02_02000034.html)

P38 総務省「電子出版環境整備事業(新ICT利活用サービス創出支援事業)」(http://www.soumu.go.jp/menu_seisaku/ictseisaku/ictriyou/shinict.html)

P40/41 電子書籍交換フォーマット標準化会議(http://ebformat.jp/)

P42 電子書籍交換フォーマット標準化会議「電子書籍交換フォーマット標準化プロジェクト 【調査報告書】」(http://ebformat.jp/dl/koukan_format_houkoku_2011_05.pdf)

P43 事業仕分け第3弾「行政事業レビュー」(http://www.soumu.go.jp/menu_seisaku/ictseisaku/ictriyou/yubikitasu.html、http://www.soumu.go.jp/main_content/000103231.pdf)

P45 コンテンツ緊急電子化事業特設サイト(http://www.kindigi.jp/)より。

P50 BISG, "Consumer Attitudes Toward E-Book Reading" (http://www.bisg.org/publications/product.php?p=19)とBowker, "New Books Titles and Editions , 2002-2012" (http://www.bowker.com/assets/downloads/products/isbn_output_2002_2012.pdf)より

P50 コンテンツ緊急電子化事業特設サイトより著者調査・作成

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