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電子図書館と電子出版の今後 長尾 JEPAセミナー 2015.3.3

2015長尾先生 電子図書館

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電子図書館と電子出版の今後

長尾 真

JEPAセミナー

2015.3.3

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国立国会図書館の電子図書館

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知へのアクセスの保障と知の創造のために

• 図書館は知の集積と利用(アクセス)を保障する機関

• これが知の拡大・創造に繋がるようするためには電子図書館を充実すべきである

• 図書館と出版界とが協調的に発展するための方策を検討することが大切

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所蔵資料

図書 970万冊

雑誌 960万冊

新聞 460万点

音盤等 66万点

画像・映像等 27万点

その他 1217万点

合計 3700万点

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NDLにおける資料の収集

• 納本制度

• WEBサイトの収集

• 電子納本

• 5万枚の歴史的音盤の収集とディジタル化

• 科学映画の収集とディジタル化

• 東日本大震災アーカイブの構築

• ラジオ、テレビ映像のアーカイブに向けて

• 脚本、台本等の収集とディジタル化に向けて

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• 国会会議録(戦後)は全て文字テキスト化し、種々の検索が可能。

• 帝国議会会議録は全ての資料がディジタル画像データとして読むことができる。

• 日本法令索引で1867年以降の全ての法律、条約等が検索できる。

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所蔵資料のデジタル化の状況(平成23年8月末)

デジタル化実施済み(平成22年度第1次及び第2次調達分を含む。)の範囲 *冊数は平成22年度末所蔵数より。

デジタル化未実施の範囲

インターネット公開済分 館内公開済分

博士論文

和雑誌

古典籍

1,000タイトル

22万冊

和図書

1990 1995 2000 2005

江戸期以前 明治 大正 昭和戦前 昭和戦後 平成

1965 19701920 1930 1940 1945 1950 1955 1960 19851860 1870 1880 1890 1900 1910

全 88万冊

339万冊

354万冊

25万 14万冊

7万冊 「デジタル化資料(貴重書等)」

ネット公開中

「近代デジタルライブラリー」57万冊(うちネット公開24万冊)

「デジタル化資料(貴重書等)」11万冊

「デジタル化資料(貴重書等)」32万冊

全 101万冊

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デジタル化の状況(2014年2月現在)※点数は概数

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資料種別

提供範囲

合計インターネット

公開図書館送信

国立国会図書館内限定

古典籍 7万点 2万点 - 9万点

図書 35万点 50万点 5万点 90万点

雑誌 0.5万点 67万点 40万点 107.5万点

博士論文 1.5万点 12万点 1万点 14万点

その他 4万点 - 5万点 9万点

合計 48万点 131万点 51万点 230万点National Diet Library (NDL)

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WEBサイト情報の収集のための著作権法改正

・国立国会図書館法の改正

国、地方公共団体、国公立大学、独立行政法人等のwebサイトを許諾なく収集できる。・深層webで収集のできない部分については送ってもらう。・収集したwebサイトの情報は、許諾を得てインターネット上に公開する。

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電子納本のための著作権法改正

• あらゆる種類の出版物は収集、保存され、新しい創造のために利用されるべきである。

• 紙の出版物は納本制度により国立国会図書館で収集され、利用に供されている。

• 電子出版物についても電子納本、保存され、利用できるよう著作権法を改正

• 但し商用の電子出版物については協議中10

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資料の検索

• NDL-OPAC(蔵書検索・申込)(約2,150万件)

• 雑誌記事検索

• 博士論文検索

• アジア言語OPAC(約25万件)

• 電子ジャーナル提供タイトルリスト

• 総合目録検索

• 中国、韓国の国立図書館の書誌をMTを介して検索できる

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NDLサーチ

• 所蔵機関、情報種別を問わない統合検索機能の提供:

公共図書館、大学図書館、専門図書館、NII,

国立公文書館、国立美術館、民間電子書籍

サイト など

• 近くの所蔵館の表示

• 書評やオンライン書店への橋渡し

• 書誌、目次及び全文テキストからの検索

• 同一著作物、同一資料をグルーピング表示

単行本、文庫本、紙、ディジタル、など

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公共図書館等への配信のための著作権法改正

• 著作権法を改正し、容易に入手できない書籍については許諾なしに国立国会図書館から公共図書館、大学図書館まで配信できるようにした。

• 個人の端末への送信については著作権者・出版社との合意のもとに貸出し料金をとり、これを著作権者・出版社の収入とすることにより、全国の読者に電子出版物の配信を可能とすることが考えられる。

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いわゆる長尾モデルについて

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電子出版物の販売

• グーグルは出版社から電子出版物を受け入れ、出版社の定める値段で販売を代行する。

• グーグルのデータベースには世界中の出版物が集中し、世界最大の書店となるだろう。

• 日本でこの役割りをはたせる企業はない。

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電子出版物配信システムの共通化

• 種々の配信システムが乱立し、利用者はどれかのシステムしか使えない

• 一つのシステムが高々数十万冊しか持っていないようでは利用者にとって魅力はない

• ファイルフォーマットの標準化などを行い、電子出版物の統一化された配信システムを提供し、全ての電子出版物にアクセスできるようにする

• 海外のデファクトスタンダードとの整合性

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電子書籍の貸し出し/販売

• 電子図書館から個人の端末への貸し出しについては、著作権者・出版社との合意のもとに貸出し料金をとり、これを著作権者・出版社の収入とすることにより、全国の読者に電子書籍の配信を可能とすることが考えられる。

• 電子書籍の購入は個人の端末への書籍データの送信でなく、出版社のデータベースのその書籍へのアクセス権を買うという意味である

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• 国立国会図書館のディジタルアーカイブに全ての出版物が納入されれば、出版社はこれをクラウドとみなして利用することが考えられる。

• 電子出版物を買う人は、国立国会図書館のディジタルアーカイブから買って、料金は出版社へ支払う。

• こうすれば各出版社がディジタルアーカイブを維持する必要が無くなる。

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・出版社からの販売

・有償の貸出し

・権利者への配分

紙 ディジタル

出版社 ( 権利者 )

電子出版物流通センター (仮称)

公共図書館等

館内利用者

広告主

書庫

公共図書館へ貸し出した資料は館内でのみの利用

納本制度

ディジタル化

(納本制度)

国立国会図書館(クラウド)

ディジタル時代の図書館と出版社・読者

ディジタルアーカイブ

無料 無料

利 用 者

広告掲載料支払い

無料貸出

アクセス料金の支払い

読 者

(X円/頁で購入)

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JEPAのシステムについて

• 出版されたすべての資料を自由に利用できるようにするという観点に立てば、NDLがこれら全てについて許諾を得る事は困難で、金銭的な問題を避けられないだろう。

• NDLとJEPAの両方であらゆる出版物の巨大データベースを維持しなければならないというのは重複の無駄である。

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電子出版物に対する長期にわたるアクセスの保障

• 例えば出版社が倒産し、その電子出版物を読めなくなる危険性

• 電子出版物の集中的な収集と管理、アクセスを保障するアーカイブの必要性

• このアーカイブにアクセスすれば過去のすべての出版物を参照することができることが重要

• 国立国会図書館しかその役目を果たせない

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マルチメディア書籍の時代

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電子書籍革命

• グーテンベルグ革命は印刷術における革命であった。

• 電子書籍の革命は、紙から電子媒体への表示の革命であるだけでなく、人間の表現できる内容が文字・図形・写真から、音や映像などの多次元世界に拡大されたこと、また読者が反応することが出来ることであり、全く新しい世界が展開される大きな影響力のある革命である。

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これからの電子書籍の世界

• 電子書籍は文字だけでなく図、表、音、動画像などマルチメディアの著作物となってゆくだろう。

• こうして、紙の本では表現できないことが表現できる。

• 読書は文字のほかに音や映像が扱えるマルチメディア端末である。

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Page 25: 2015長尾先生 電子図書館

マルチメディア電子出版時代への移行

• インターネットの普及

• 学術雑誌の電子出版

• 米国その他におけるデジタル出版の活発化

• 電子新聞のスタート

• デジタルアーカイブへの世界的な関心

• グーグルは1600万冊以上の書物をデジタル化し、検索提供

• グーグル、アマゾンの日本上陸

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教育への電子書籍の導入

• マルチメディア電子教科書

• ネットを通じたクラス討論、教師との対話

• 教師による全生徒の学習状況の把握と個別指導

• 演習問題の解答に対する人工知能的ソフトウエアによる指導の可能性

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ディジタル教科書の方向

• 文部科学省は学校教育へのディジタル教科書の導入を検討している。

• ディジタル教科書・演習書の利点は、音や映像のメディアを用いて教科内容のより良い理解が可能となることである。

• 児童生徒個人の学習の度合いに合った学習がやりやすい。

• 先生が生徒の学習、理解度をより良く把握できる。

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Page 28: 2015長尾先生 電子図書館

マルチメディア出版物は編集者の力による

• 著者一人で文章のほかに、画像、映像、音声、音楽などを用意できない

• 他の人の作った画像、映像、音声、音楽などを利用せざるをえず、権利処理が必要になり、編集者に任せることになる

• 魅力的なマルチメディア出版物は編集者の力によることになる

• 著作権を厳しくすれば魅力的な物を作れなくなるから、著作権は著者を守るのでなく、著者を不自由にする。

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著者、出版社、書店などにとって

• マルチメディア出版物が容易に作れるソフトウエア環境の整備

• 著作権処理の円滑化

• 孤児出版物の再利用の容易化

• 電子出版物の流通基盤をどうすべきか

• 書店はどのような機能のものになるか(POD,相談業務、キャフェ的機能、など??)

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読者、利用者にとって

• 電子図書館におけるマルチメディア出版物の高次検索システムの実現

• 電子読書をする人のプライバシーを確保した電子読書クラウドシステムの開発

• 過去のすべての出版物へのアクセスの確保

• 世界各国の電子図書館へのアクセスの確保

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電子読書端末の持つべき機能

• 読者が本当に満足できる読書端末の開発(種々の読書機能の実現)

• 文字の大きさ、行の間隔、縦組み・横組みなどを読者の好みで変えられること

• 目で読むほかに耳で聞く読書

• 辞書引きや関連文書の参照(二画面表示)

• 機械翻訳で外国語文章を読む

• メモを書き込む

• 栞を入れ、次回はそこから読む

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• 読者が端末表示画面に指やペン、音声などによって意図を伝達することができるようになる。

• したがって読者と電子書籍との間で対話の関係が生じる。

• 端末装置はネットにつながっているから、読者は他の読者と共同で読書をしたり、著者などと対話できることになり、著作活動、読書活動に新しい世界が開かれる。

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理想の電子図書館

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Through knowledge we prosper

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知識へのアプローチ

• グーグルのknowledge graph

• これはテキストから抽出された関連知識の表現である

• これを使って関連項目も含めて適切な検索結果を示す

• 人間に迫る知識システムの構築(IBMワトソンをこえるもの)

• 文脈だけでなく周囲環境情報の取り込みと利用による質問応答、対話のシステム

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先進的な高次検索方式の開発

・全文検索やテキストの構造化による部分

検索システムの構築

• 字句、記事、目次(章、節、項など)、頁など種々の粒度(マイクロコンテンツ)を単位として、検索とともに種々の出版物間での相互参照ができる機能(アリアドネで実現済み)

• MLA連携による横断検索など

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知識ネットワークの構築

• 全ての書籍を部品に解体し、種々の因果関係によって部品同士をリンクすることができる。

• 因果関係としては同義/類似関係、反義関係、

上位下位関係、原因結果関係、全体・部分関係などいろいろのものが考えられる。

• こうして関連する情報を薯ずる式に取り出すことができる

• 世界の電子図書館の有機的統合による言語の壁を越えた利用を推進すべきであろう

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情報検索から事実・知識検索へ

• これまでの検索は、解答が含まれているドキュメントを取り出すことであった。

• これからの検索として、解答そのものをドキュ

メントの中から取り出して与える事実検索(fact retrieval)も考えねばならない。

• 自然言語表現による質問文に適合するドキュメント部分を取り出す方式は事実検索の一種となりうる。

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• Wikipediaのような百科事典を検索対象とすることによって、知識検索ができる。

• こうして電子図書館を人間の頭脳内の記憶のように、知識のシステムの形に構成することができるだろう。

• 連想機能をもつ種々の検索システムによって必要とする情報・知識を取り出せるようになるだろう。

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• この知識システムは一種の百科辞典とみることもでき、これに検索質問を出すことによって書誌情報でなく質問に対する答が取り出せることになるだろう。これは事実検索である。

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知識インフラの必要性

• 知識の拡大再生産のためには、知識の創造と集積・流通・活用のサイクルの構築が必要。

• 課題解決型の研究には様々な学問分野がかかわるシステム的アプローチが必要。

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• 課題を設定するためには、その課題についてこれまでどのような研究がなされて来たか、何が未解決か、イノベーションをおこせる可能性があるか、社会に対するインパクトはどうなりそうか等を調べねばならない。

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知の共有化

• 多くの分野がかかわるシステム的課題の場合、理工系の研究者だけでなく、政策立案者、人文社会系の研究者や市民もが調査してアセスメントができる環境を作る必要がある。

• あらゆる学問の成果は当然のこと、企業社会、人間社会、自然社会等の知識・情報を収集整理し、自由に利用できるようにしなければならない。

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知識インフラの構造

• 研究情報基盤の整備が謳われてきたが、通信ネットワークが中心であった。

• 必要なものは学術情報コンテンツ、知識コンテンツの組織的な整備である。

• 分野を超えた知識の関連付けが必要である。

• 日本中に散在するコンテンツをクラウドに移し、そこに検索をかければ関連する全ての必要なコンテンツが得られるようにする。

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• 知識は関連するものが有機的に結合され、ネットワーク的に統合化されたもの(単に情報を集めたものではない)である。

• 日本中にある人文社会科学を含んだあらゆる学問・研究のコンテンツ、数値データ、研究データ、研究ツール、社会状況データ等が知識の形に組織化される必要がある。

• 諸外国の同様なシステムとリンクがとれる必要がある。

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終わり