42
田舎の診療所の医者の 仕事って、なんなんでしょう 平成 22 5 8 ( )9 ( ) 奈良市立月ヶ瀬診療所 藤原 靖士

田舎の医療の紹介

Embed Size (px)

DESCRIPTION

奈良市立月ヶ瀬診療所の藤原 靖士先生が作成してくださったパワポです!

Citation preview

Page 1: 田舎の医療の紹介

田舎の診療所の医者の仕事って、なんなんでしょう

?平成 22年 5月 8日 (土 )9日 (日 )

奈良市立月ヶ瀬診療所

藤原 靖士

Page 2: 田舎の医療の紹介

この PPTの内容

• 月ヶ瀬という場所の紹介• 月ヶ瀬診療所のある日 (3日間 )の患者さん

• 家庭医・診療所の医師は何をどんな考え方で診ているのか

• 家庭医は田舎にだけいるのか?• 家庭医を育てるのに田舎ができること

Page 3: 田舎の医療の紹介

月ヶ瀬の診療所ではどんなことをしているのでしょうか?

• ある年の、ある 3日間• 月ヶ瀬診療所に来た患者さんをご紹介します

• どんな人が来て• どんなことをしているのでしょうか?

Page 4: 田舎の医療の紹介

4

月ヶ瀬について

• 奈良市立月ヶ瀬診療所• 奈良市ではありますが   5年前までは「月ヶ瀬村」でした–限りなく三重県寄り 京都府に接し 滋賀県も近い

• 人口約 1700人の地区の診療所に勤務

• 1日平均受診 30人強( 15人~ 57人)

• 面積 約 21km2

Page 5: 田舎の医療の紹介

ある日の診療所 1日目

性別 年齢 疾患男性 86歳 胃癌

女性 87歳 からだのかゆみ・白内障・下肢静脈瘤

男性 5歳 気管支喘息・アレルギー性鼻炎

女性 91歳 むねやけ・白内障・変形性膝関節症・右肩痛

男性48歳 基本検診・高脂血症・空腹時高血糖

女性 17歳 肋軟骨炎

女性 16歳 かぜ・鼻炎・のどの痛み

女性 68歳 かぜ・咳・高血圧症・高脂血症・白内障

男性 76歳 肺気腫・急性気管支炎

Page 6: 田舎の医療の紹介

次の日の診療所 2日目

性別 年齢 疾患女性 12歳 右膝のけが

男性 88歳 インフルエンザ予防接種・糖尿病・心筋梗塞

女性 88歳 肩こり・高血圧・心不全

男性 56歳 右中指打撲・爪下血腫・糖尿病・高脂血症

男性 89歳肺炎・慢性心不全・からだのかゆみ・慢性腎不全・内痔核

女性 86歳 脳梗塞後遺症・寝たきり

女性 54歳 かぜ

女性 50歳 パニック発作

女性 82歳 脳血管性認知症・パーキンソン症候群

Page 7: 田舎の医療の紹介

そのまた次の日の診療所 3日目

性別 年齢 疾患男性 83歳 前立腺炎の疑い・前立腺癌・肺気腫

女性 55歳 高血圧症

女性 74歳 糖尿病・高血圧症・骨粗鬆症・腰痛

女性 55歳 高血圧症・緊張性頭痛

女性 68歳 高血圧症・変形性膝関節症・糖尿病

男性 92歳インフルエンザ予防接種・からだのかゆみ・腰痛

女性 87歳 からだのかゆみ・白内障・下肢静脈瘤

男性 7歳 インフルエンザ予防接種

女性 8歳 インフルエンザ予防接種

女性 38歳 ?

男性 0歳 三種混合予防接種 3回目

Page 8: 田舎の医療の紹介

いかがですか?

• いろんな人が来る• いろんな年齢の人が来る• いろんな病気が来る• 風邪や高血圧が多い• 予防接種もしている• でも、たいした重症の病気は来ない

Page 9: 田舎の医療の紹介

田舎の診療所の医者は

• いろんな科の病気を診ているんだなあ• 幅広い疾患について知っているんだなあ

• とだけ思ったら大間違い!

Page 10: 田舎の医療の紹介

ある日の診療所 1日目 再掲

性別 年齢 疾患男性 86歳 胃癌

女性 87歳 からだのかゆみ・白内障・下肢静脈瘤

男性 5歳 気管支喘息・アレルギー性鼻炎

女性 91歳 むねやけ・白内障・変形性膝関節症・右肩痛

男性48歳 基本検診・高脂血症・空腹時高血糖

女性 17歳 肋軟骨炎

女性 16歳 かぜ・鼻炎・のどの痛み

女性 68歳 かぜ・咳・高血圧症・高脂血症・白内障

男性 76歳 肺気腫・急性気管支炎

この人に注目してみます

Page 11: 田舎の医療の紹介

このおじいさんの病気• もともと肺気腫で在宅酸素療法をしていた

  がんこなおじいさん• 胃癌(胃の出口の近く)食べ物が通らなくなった

• 手術も検査も治療ももうしたくない!• 入院から逃げて、家に帰って食べては吐く• 介護保険でベッドを入れてもらい、私が往診

• 1回だけ家族の希望もあり点滴

• 麻薬を使用して痛みをコントロール• 水は飲まないように→「末期の水くらい飲ませろ!」

• この日、家でお看取りしました

Page 12: 田舎の医療の紹介

田舎の診療所の医者は

いろんな病気を診るだけでなく• 往診・在宅医療がある• 家での看取りをする• 病院がいやな人を診察する

• とだけ思ったら大間違い!

Page 13: 田舎の医療の紹介

もう一度見てみましょう

• さっきの患者さんたちについてもう少し詳しく見てみましょう

• 実は・・・

Page 14: 田舎の医療の紹介

次の日の診療所 2日目 再掲

性別 年齢 疾患女性 12歳 右膝のけが

男性 88歳 インフルエンザ予防接種・糖尿病・心筋梗塞

女性 88歳 肩こり・高血圧・心不全

男性 56歳 右中指打撲・爪下血腫・糖尿病・高脂血症

男性 89歳肺炎・慢性心不全・からだのかゆみ・慢性腎不全・内痔核

女性 86歳 脳梗塞後遺症・寝たきり

女性 54歳 かぜ

女性 50歳 パニック発作

女性 82歳 脳血管性認知症・パーキンソン症候群

Page 15: 田舎の医療の紹介

88歳 女性 肩こり・高血圧・心不全

• おじいさんの妻(年上女房)• 普段は町の病院にかかっている• おじいさんのことで病院へ行く余裕がなく

• 疲れもした

• おちつくまで診療所で対応

Page 16: 田舎の医療の紹介

50歳 女性 パニック発作

• おじいさんの娘• 町に嫁いでいる• 葬式などの手伝いにやってきた

• 葬式の手順などで言い争いをしているうちに

• 「いつもの」発作:ドキドキして息苦しくなる

Page 17: 田舎の医療の紹介

そのまた次の日の診療所3日目再掲

性別 年齢 疾患男性 83歳 前立腺炎の疑い・前立腺癌・肺気腫

女性 55歳 高血圧症

女性 74歳 糖尿病・高血圧症・骨粗鬆症・腰痛

女性 55歳 高血圧症・緊張性頭痛

女性 68歳 高血圧症・変形性膝関節症・糖尿病

男性 92歳インフルエンザ予防接種・からだのかゆみ・腰痛

女性 87歳 からだのかゆみ・白内障・下肢静脈瘤

男性 7歳 インフルエンザ予防接種

女性 8歳 インフルエンザ予防接種

女性 38歳 ?

男性 0歳 三種混合予防接種 3回目

Page 18: 田舎の医療の紹介

子供の予防接種

• 7歳 男 おじいさんのひ孫

• 8歳 女 おじいさんのひ孫

• 0歳 男 おじいさんのひ孫

• 38歳女性 孫嫁 =付き添い

 いちばん、おじいさんのお世話をしていた人

• 3ヶ月前には  0歳の子は  4ヶ月検診 でも受診

Page 19: 田舎の医療の紹介

田舎の診療所の医者は

• 家族のつながりを診ているんだな• 家族丸ごと相手にしているんだな• 都市部では、小児科と内科に分かれているけど、ここではわかれていないんだな

• とだけ思ったら大間違い!

Page 20: 田舎の医療の紹介

もう一度見てみましょう

• さっきの患者さんたちについてもう少し詳しく見てみましょう

Page 21: 田舎の医療の紹介

次の日の診療所 2日目 再掲

性別 年齢 疾患女性 12歳 右膝のけが

男性 88歳 インフルエンザ予防接種・糖尿病・心筋梗塞

女性 88歳 肩こり・高血圧・心不全

男性 56歳 右中指打撲・爪下血腫・糖尿病・高脂血症

男性 89歳肺炎・慢性心不全・からだのかゆみ・慢性腎不全・内痔核

女性 86歳 脳梗塞後遺症・寝たきり

女性 54歳 かぜ

女性 50歳 パニック発作

女性 82歳 脳血管性認知症・パーキンソン症候群

Page 22: 田舎の医療の紹介

54歳 女性 かぜ

• この方は、おじいさんのところへ訪問介護に行っていたヘルパー(介護士)

• ちょっと、不安が強い

Page 23: 田舎の医療の紹介

そのまた次の日の診療所3日目再掲

性別 年齢 疾患男性 83歳 前立腺炎の疑い・前立腺癌・肺気腫

女性 55歳 高血圧症

女性 74歳 糖尿病・高血圧症・骨粗鬆症・腰痛

女性 55歳 高血圧症・緊張性頭痛

女性 68歳 高血圧症・変形性膝関節症・糖尿病

男性 92歳インフルエンザ予防接種・からだのかゆみ・腰痛

女性 87歳 からだのかゆみ・白内障・下肢静脈瘤

男性 7歳 インフルエンザ予防接種

女性 8歳 インフルエンザ予防接種

女性 38歳 ?

男性 0歳 三種混合予防接種 3回目

Page 24: 田舎の医療の紹介

55歳 女性 高血圧・頭痛

• この方は、おじいさんの近所のおばさん

• もともと頭痛になりやすかった• お葬式の手伝いで疲れた

その他、私の子供の中学校の日曜参観で・・・おじいさんを担当していたケアマネージャーと

顔を合わせたので、経過について情報交換など        (診療所の外でも関わることがある)

Page 25: 田舎の医療の紹介

診療所でしていることは

• 1つの病気だけでなく• その人の健康問題を全て扱い• その家族も診て• その地域も診て• 子供からお年寄りまで• 診断・治療から、予防・健康増進、看取りまで

• 介護スタッフや病院や家族との連携

Page 26: 田舎の医療の紹介

こういう診療所の医者ってなにもの?

• 病院しか知らない人から見ると、なんだかよくわからない

• 田舎医者?• やぶ医者?• 変な医者?• ものずき?• 赤ひげ?• ドクター コトー?• 最近では、「家庭医」「総合医」と呼びます

Page 27: 田舎の医療の紹介

家庭医

• 1つの病気だけでなく• その人の健康問題を全て扱い• その家族も診て• その地域も診て• 子供からお年寄りまで• 診断・治療から、予防・健康増進、看取りまで

• 介護スタッフや病院や家族との連携

Page 28: 田舎の医療の紹介

診療所の医者はどこを

主に診る医者なのかEngel の図を改変

宇宙

地球

環境

社会

家族

個人

身体

臓器

細胞

遺伝子

分子

原子

保健所・公衆衛生

病院などの臓器別専門医

家庭医

Page 29: 田舎の医療の紹介

家庭医の 5つの要素A  C  C  C  C

• 近接性 Accessibility

• 包括性 Comprehensiveness

• 継続性 Continuity

• 協調性 Coordination

• 文脈医療 Contextual care

(責任性 Accountability)

Page 30: 田舎の医療の紹介

家庭医の 5つの要素A  C  C  C  C

• 身近に Accessibility

• 何でも Comprehensiveness

• ずっと Continuity

• みんなで Coordination

• その人らしい Contextual care

(しっかり Accountability)

Page 31: 田舎の医療の紹介

家庭医はどんな時に役立つか• ちょっとした病気や怪我• 高血圧・糖尿病など長く付き合う病気• いくつもの病気や健康問題があるとき• 検診・予防接種などの病気の予防・健康増進• 病院や専門医への道先案内• 在宅介護や在宅療養• 家で最期まで生きるために• 一家家族みんなの相談をまとめてできる• その人全体を見て治療の相談に乗ってくれるので、安心できる

Page 32: 田舎の医療の紹介

家庭医がいなくて専門医ばかりだと

• ちょっとした病気や怪我でも病院へ• いくつもの専門医にかからないといけない• 病気の予防・健康増進と治療が結びつきにくい

• 家族それぞれが別々の専門医へ• 行ってみたら見当違いの専門医のことも• 病院に行けなくなったら医療が受けにくい• 死ぬ時は病院で

Page 33: 田舎の医療の紹介

家庭医より専門医が役立つ場合

• ひとつの問題しかない時• 病気やけがの種類が明らかな場合• 治療が比較的限られた期間で終わる場合• 最初の診断や治療でうまくいかない場合• 入院での検査や治療が必要な場合

Page 34: 田舎の医療の紹介

家庭医は田舎にだけいるのか

• 田舎の方が、わかりやすい• 医者が少ない(1人しかいない)ので、なんでもそこに行くしかない• 子供も大人もお年よりも• 医者の側も、来たらやらざるをえない

• 自然と「家庭医」の役割になっていく

Page 35: 田舎の医療の紹介

家庭医の 5つの要素A  C  C  C  C

• 身近に Accessibility

• 何でも Comprehensiveness

• ずっと Continuity

• みんなで Coordination

• その人らしい Contextual care

(しっかり Accountability)

Page 36: 田舎の医療の紹介

家庭医の特徴を経験するには田舎の診療所は向いている

1.人間関係が見えやすい      → Accessibility

2.専門医が少ないと、いろいろな病気で来る

→ Comprehensiveness

3.行政や関連施設が身近、かつ限られる→ Coordination

4.対象地域・対象者がある程度限定される→ Continuity/ Contextual care

5.考えたり振り返る時間がある   →ACCCCをじっくり「感じる」ことができる

Page 37: 田舎の医療の紹介

これからの家庭医

• 正式な「認定医」は昨年はじめて誕生• 今しばらくの間は、現場にいる診療所の医者・開業医が家庭医の役割をしていく

• 家庭医は、地域現場で育つ• 家庭医は、まわりの住民や患者さんに育てられる

• 周囲の人との関係が見えやすい田舎の方が家庭医について学びやすい

Page 38: 田舎の医療の紹介

田舎へ行きさえすればいいのか?「月刊地域医学」平成 21年 5月号 愛知県・自治医大卒 宮道亮輔先

• 義務で田舎の診療所へ行かされている自治医大卒業生は、若手家庭医より満足度は低く、将来への不安も大きいことが分かった

• 若手自治卒医の多くがジェネラルの専門教育を受けていないと回答する傾向

• 自治卒医は若手家庭医と比べ、満足度が低く不安も大きい

• 田舎にただ「行かされる」だけで「家庭医」としての教育を受ける機会がなければ、ジェネラリストとしての満足度が低くなり、デメリットが大きい

Page 39: 田舎の医療の紹介

田舎の診療所が「いい」といっても

• 現場で経験することで得られることは多い・・・• 一方、現場にただ放り込むだけでは満足度が低い・・・

ということなのかも????

39

Page 40: 田舎の医療の紹介

こうなったらいいなぁ

• 「家庭医」を目指す人のキャリア・アップの場として、田舎の診療所が位置づけられて

• 「家庭医」を目指す人が、何年かでも田舎の診療所を経験できて–一生いてくれ、とは言いません

• 田舎の診療所を交代でリレーできれば–義務でいやいやではなく、希望して楽しく–行きっぱなしじゃなくて、戻れるキャリア

Page 41: 田舎の医療の紹介

都市部では家庭医はいらないのか?

• 病院はたくさんある• 開業医もいっぱいある• 専門医の看板もたくさん

• でも、いっぱいありすぎて、どこに行ったらいいのかわからない

• とりあえず何でも相談に乗ってくれて、必要なら病院や専門医を案内してくれる人がいたら、いいと思いませんか?

Page 42: 田舎の医療の紹介

最後の言葉に代えて私の意見

• 家庭医の役割をする医師は、田舎でも都会でも必要である

• 田舎の方が、家庭医の特徴が見えやすく、身につきやすい

• 田舎で育った家庭医が都会の医療を支えるシステムができるとよいかと思っています