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WHAT IS STYLISTIC REGULARISATION OF HIRAGANA IN THE MEIJI PERIOD?KAZUHIRO OKADA (ILCAA, TUFS)
はじめに: 平仮名の「楷書化」とはなにか• これが(嵯峨版『伊勢物語』,NYPL蔵)
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はじめに: 平仮名の「楷書化」とはなにか• こうなること(『小学読本』巻菱潭蔵,NDL蔵)
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はじめに: 平仮名の「楷書化」とはなにか• 明治時代において,平仮名を漢字の楷書の筆法を模して書くようになること
• 楷書的筆法:行草に比して一画一画を明確に書く,連綿しない
• 楷書(含明朝)の漢字に楷書風の平仮名を交えて書くこと
• cf. 小松英雄「仮名⇔平仮名」
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はじめに: 平仮名の「楷書化」とはなにか• 古田(1974)が国定化前の教科書の字体の調査から命名
• 矢田(1998)が,古田(1974)と関連付けはしないものの,国学者における同種の表記の意義を検討
• →「楷書化」でなにが変ったのかは明らかになっていない
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今回の目標
• 平仮名の楷書化ではなにが変ったのかを明らかにすること
• 性質からして異り,「古平仮名」(–c. 1900)と「平仮名」(c. 1900–)などと分けるべきなのか,単に書風が変っただけなのか?
• Okada (2013)において提示したコーパスを用いて検証すること
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今回の目標
• 字体の大小の変化
• 字体の字画の変化
• 楷書化の前後でどのように変ったか
• 現代の平仮名の基盤となった「いろは仮名」は,この点からどのように評価できるか
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平仮名の楷書化の外部要因
• 平仮名の楷書化じたいは国学者にすでに見られ(矢田, 1998),一般化したのが明治時代
• 明治の国語教育において楷書が中心に置かれ,字画を明瞭にする方針が採られた
• 明朝体を基調とした漢字活字印刷を導入するにあたり,それと調和するように平仮名を作った
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平仮名の楷書化の外部要因
• 漢字文化圏における書体の格
• 正俗の対極に楷書体と草書体がある
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平仮名の楷書化の外部要因
• 平仮名は草書体をもとにしている: 俗なもの
• cf. 藤枝晃「日本語を楷書では書かなかった」
• 平仮名を楷書で書くこと=楷書の格に平仮名を高めること
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資料
• Okada (2013)に基づく
• 高野切第一種,青蹊書屋本土左日記・妙一記念館本仮名書き法華経・足利学校本仮名書き法華経・西来寺本仮名書き法華経・若林『小学読本』(「別体平仮名」)・築地「五号明朝総数見本」
• 追加・変更
• 宝文堂「明朝風一号活字摘要録」(築地一号)
• 戸籍統一文字→学術情報交換用変体仮名
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資料
• 非楷書化資料
• 高野切,土左日記・妙一本・足利本・西来寺本仮名書き法華経
• 築地一号
• 楷書化資料
• 若林『小学読本』
• 築地五号・学術情報交換用変体仮名
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サンプリングについて
• Okada (2013)から一字体ごとに一点標本をランダムに採取
• 一資料においてある字体の大小が極端に変ることは稀という観測に基づく
• とはいえ,Okada (2013)の標本数は各資料ごとに200点ほどしかないので,すべての字体でランダムといえるほどランダムではないことが弱点
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サンプリングについて
• 画像にほかの字が入り込んでいるときは除去(連綿も含む)
• 起筆部や終筆部が明確な字体はそれぞれ前部と後部を除去
•「字体間のわたり」と「字体の一部」の区別は連綿しない字体の用例を見ていればだいたい決定可能
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サンプリングについて
• 連綿の認定が難しいばあい厳密にはしなかった
• 連続的な変化のなかでは,連綿の終りが紙の上に書かれているわけではないので,判断を避けてしまう
• 連綿が字体の一部となっているような字体もある(「こ」や「可」,「る」など)
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サンプリングについて
• 連綿除去の例(妙一本)
• 連綿を除去しきれない例(高野切,足利本)
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→
→
字体の大きさにおける変化
• もととなった行草漢字字体の大きさは,平仮名字体の大きさにも影響している
•「み」は四方に大きく,「と」は細長い
• もととなった漢字(字母)が同じであることはこのこととは独立
• 余談: 字種的な関係を示す「字母」よりも,もととなった「漢字字体」との関係を示す手だてがあればいい
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字体の大きさにおける変化「み」(高野切)
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字体の大きさにおける変化「と」(高野切)
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字体の大きさにおける変化
• 楷書化以降は個々の大きさのちがいは統一され,どれも同じくらいになってゆく
• 字体表象には筆画の空間的な相対関係も重要な要素であると考えられる(佐藤智子2014基礎心理学研究32)
• 筆画を取り囲む外枠を仮定したとき,それが一定の大きさの正方形に収束するかのように字体が均質化しつつあったといえる
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字体の大きさにおける変化学術情報交換用変体仮名 (情報処理推進機構,国語研究所)
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字体の大きさにおける変化
• 安岡・安岡(1996): 書作品の科学
• 行における字の大小
•「となりあう2文字の面積の差を1行の全文字の面積の総和で正規化したもの」(安岡・安岡, 1996, 21)
• →サンプル全体を1行として見なすことにより,ある資料における字体の大小が比較可能
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字体の大きさにおける変化
• サンプルした画像をもとに安岡・安岡(1996)の式によって各資料の字体の大小を計算
• サンプリングと連綿の処理に依存するので多少の誤差はあるが,.1の差は出ない模様
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字体の大きさにおける変化
• 字体のバラつき度(小数点第二位未満四捨五入)高野切第一種 0.80
青蹊書屋本土左日記 0.78
妙一記念館本仮名書き法華経 0.68
足利学校本仮名書き法華経 0.85
西来寺本仮名書き法華経 0.75
若林『小学読本』 0.59
宝文堂「明朝風一号」 0.44
築地「明朝体五号」 0.35
学術情報交換用変体仮名 0.32
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字体の大きさにおける変化
• 筆写資料 > 活字資料 (0.5)
• 非楷書化資料 > 楷書化資料 (0.6 / 0.4)
• 非楷書化筆写資料における字体の大小差が,ほぼ一定の範囲(0.8-0.7)に収まることは注目できる
• 活字資料および楷書化した筆写資料は点数が少なく,検討の余地じたいはある
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字体の大きさにおける変化
• 各資料の文字の大きさがだいたい同じくらいになるようにサンプル画像のサイズを調節すれば,字体ごとの資料における大小変化も検知可能?
• 各資料の文字の面積の平均値が同じになるように拡大縮小を図れば可能ではなかろうか
• 今後の課題
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字体の筆画における変化
•「ね・れ」と「わ」の書きはじめは,いまは同じように書いているが,字源の偏に違いがあり,書きかたも自然異っていたという主張がある(画像は土左日記)
• 楷書化するまえからこのふたつは混同していたが,楷書化のなかで筆画の変化は確認できるだろうか?
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字体の筆画における変化
• 資料上の制約により,あまりたしからしいことは言えないものの,大略つぎのように言うことができる
• 楷書化により筆画が大幅に変った字体はほとんどない(cf. 矢田勉2007国文学52-10)
• 字画の明瞭化がなされ,いままで省略されることの多かった微細な要素を強調することが増えた
• 同一の筆画と判断される範囲が狭くなった?
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字体の筆画における変化
• 楷書化によって筆画の運動に明確な変化が起ったといえる字はほぼない
• いくつかの字体において,筆画要素の共通化が見られる ex. 「可」と「の」(高野切,築地五号)
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→
→
字体の筆画における変化
• 字画の明瞭化がなされ,いままで省略されることの多かった微細な要素を強調することが増えた
•「登」の下部要素の強調(妙一本,築地五号)「阿」の入筆の強調(高野切,足利本,築地五号)
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→
→
字体の筆画における変化
• 同一の筆画と判断される範囲が狭くなった?
• 楷書化以降,同一の字と認識される範囲が狭まり,これまでであれば同一かどうか気にしなかったものまで区別する意識が発生し,
• 省略で済ませてきた点画をはっきりと描くものが多くなり,省略したものをそれと認識できなくなっていった……のではないか?
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字体の筆画における変化
• 要素の省略のほのめかしは,おおく暗黙的に行われたのではなかろうか
• 点やくねりによる省略のほのめかし
• 長さによる省略のほのめかし
• 草仮名的字体(行草をひきずる仮名,岡田一祐2016日本語学会春季大会)でおもに起っていた可能性?
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字体の筆画における変化
• 要素の省略のほのめかしの例
• 点やくねりによる省略(西来寺本,土左日記)
• 長さによる省略(高野切,築地五号)
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字体の筆画における変化
• 楷書化された資料では,省略した字形をなんらかのかたちで「正規化」することが多い
• 若林の「したごころ」(「志」は例外)
• 築地五号の「てんてん」
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字体の筆画における変化
• 教育から異体仮名が廃止されたのちの大正期にまで多用されていた「奈A」がそれまで用いられていた「奈B」に取って代った理由などもこのあたりにあるのではなかろうか
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奈A 奈B
いろは仮名と楷書化
• いろは仮名
• 手習い塾で用いられた,いろは歌手本に共通して用いられた仮名字体(岡田, 2014a)
• 現代の平仮名の基盤となった(附録参照)
• 楷書化によって,「可」のようにドラスティックに形が変る字体がない(cf. 矢田1995国語と国文学72-12)
• そのような字体がまとまっているという意味でも使いやすかったのではないか
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結論
• Q. 字体の大小の変化
• A. 楷書化以前は区々であった字体の大小が,楷書化にともない統一的になった
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結論
• Q. 字体の字画の変化
• A. 窮屈な見た目ほどには,楷書化にともなう字体要素の変化は少ない
• A. 字体の要素をはっきりと書くことにより,字体の許容される変化範囲が狭まったか
• Q. いろは仮名に対する楷書化の観点からの評価
• A. 大きく形を崩さずに使える字体群である
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結論
• Q. Okada (2013)において提示したコーパスを用いて検証する
• A. なにかを言うにはデータがすくなく,隔靴掻痒の感が強い。字体と用例がおのおの数倍はあることが望ましい
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結論
• Q. 平仮名の楷書化ではなにが変ったのか
• A. 各字体の大小
• A. 省略の許容度
• Q. 性質からして異り,「古平仮名」(–c. 1900)と「平仮名」(c. 1900–)などと分けるべきなのか,単に書風が変っただけなのか?
• A. にわかに断定はできないが,前後に分ける要因のひとつとはなりうるのではないか
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