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335回北杜会 国際カルテル事件及びFCPA違反事件 ~海外で日系企業が摘発されている状況~ 弁護士・ニューヨーク州弁護士 中村 優紀 201671本内容は、当職の個人的見解を述べるものであり、所属する法律事務所その他の 団体の見解を示すものではありません。

第335回北杜会 発表資料

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Page 1: 第335回北杜会 発表資料

第335回北杜会

国際カルテル事件及びFCPA違反事件 ~海外で日系企業が摘発されている状況~

弁護士・ニューヨーク州弁護士 中村 優紀 2016年7月1日

本内容は、当職の個人的見解を述べるものであり、所属する法律事務所その他の団体の見解を示すものではありません。

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自己紹介 弁護士・ニューヨーク州弁護士

2000年3月 宮城県立仙台第二高校卒業

2005年3月 一橋大学法学部卒業

2007年3月 一橋大学法科大学院卒業

2009年12月 最高裁判所司法研修所修了(新62期)

   弁護士登録(東京弁護士会)

2010年1月 矢吹法律事務所入所

2014年5月 米国Northwestern University School of Law卒業(LL.M.)

2014年9月〜2015年6月 米国Gibson, Dunn & Crutcher LLP (San Francisco)

2015年4月 ニューヨーク州弁護士登録

2015年7月 矢吹法律事務所復帰~現在に至る 7/1/2016 2

Page 3: 第335回北杜会 発表資料

アウトライン

1.  カルテル事件とは?

2.  日本の独占禁止法

3.  アメリカの反トラスト法

4.  外国公務員贈賄規制の拡大

5.  FCPAの概要

6.  日本の不正競争防止法

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国際カルテル事件

FCPA違反事件

Page 4: 第335回北杜会 発表資料

アウトライン

1.  カルテル事件とは?

2.  日本の独占禁止法

3.  アメリカの反トラスト法

4.  外国公務員贈賄規制の拡大

5.  FCPAの概要

6.  日本の不正競争防止法

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Page 5: 第335回北杜会 発表資料

カルテル事件とは?

�  カルテルの類型 �  ①入札談合: 落札予定者や入札価格を調整 �  ②価格カルテル: 販売価格を調整、共同して値上げ

�  ③市場分割カルテル: 販売地域、顧客を分け合う �  ③ハブアンドスポーク型カルテル

�  競争者同士は直接コンタクトを取らず、競争者とはいえない第三者を情報交換の媒体とすることで、互いの行動を調整しあう 

�  Hasbro/Argos/Littewoods事件 �  玩具メーカーのHasbroが小売業者ArgosとLittlewoodsにそれぞれ同じ

推奨価格を示し、小売業者側もHasbroを解した価格指示が小売価格の下落を防ぐため、互いの小売業者もこれに従うと承知していた

�  ④シグナリング型カルテル �  自社製品の価格引き上げの意図を、前もって競合他社も分かるよう

な公の発表の形で開示する行為 �  米国のレンタルトラック事業者が、投資家向けの収支報告において、

他のレンタルトラック事業者に対し、価格の引き上げを呼びかけた行為が、米国の反トラスト法に違反すると認定された

�  ⑤ベンチマークカルテル(LIBOR事件)

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カルテル事件とは?(続き)

�  金融商品カルテル(2014年10月22日 日本経済新聞) �  欧州連合(EU)の執行機関である欧州委員会は、欧米の金融機関が

関与したスイス・フランの金利デリバティブ取引に関するカルテル2件について、3社に合計で約9400万ユーロ(約128億円)の制裁金

�  自動車部品カルテル(2014年11月14日 日本経済新聞) �  米司法省は、米国で自動車部品の価格カルテルに加わったとして、ベ

アリング大手のジェイテクトと日本精工の幹部2人を起訴 �  2人は2001年~11年に、米国などでトヨタ自動車に納入するベアリン

グの入札価格を事前協議し、不正入札や価格操作を繰り返していた �  ジェイテクトと日本精工は昨年不正を認め、ジェイテクトは1億327万ド

ル(約120億円)、日本精工は6820万ドルの罰金支払いに同意

�  米国司法省「自動車部品カルテルは歴史上もっとも大規模なカルテル」�  日本企業を中心とする35社、役職員55名を訴追(2015年5月現在)�  最高4.7億ドルの罰金、20社以上が1000万ドル以上の罰金�  30名(日本人29名)について約1年~2年の禁固刑及び罰金

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Defendant Year County Fine Product1 AU Optronics Corporation of

Taiwan 2012

Taiwan $500M Liquid Crystal Display (LCD) Panels

2 F. Hoffmann-La Roche, Ltd. 1999 Switzerland $500M Vitamins 3 Yazaki Corporation 2012 Japan $470M Automobile Parts 4 Bridgestone Corporation 2014 Japan $425M Anti-vibration Rubber 5 LG Display Co., Ltd &

LG Display America 2009

Korea $400M Liquid Crystal Display (LCD) Panels …

12 Furukawa Electric Co. Ltd. 2012 Japan $200M

Automotive Wire Harnesses, etc.

13 Hitachi Automotive Systems, Ltd

2014 Japan $195M

Same above

14 Mitsubishi Electric Corporation

2014 Japan $190M

Automotive Wire Harnesses, etc.

�  アメリカにおけるカルテルの罰金額 �  $10M Club (トップ20社のうち日系企業が8社を占める)

Gibson Dunn & Crutcher LLP “2015 Year-End Criminal Antitrust and Competition Law Update”を加工7

カルテル事件とは?(続き)

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Defendant Fine Product

1 Citicorp $925M Foreign Exchange

2 Deutsche Bank & DB Group Services (UK) Limited

$775M LIBOR

7 NGK Insulators Ltd. $65.3M Auto Parts (ceramic substrates)

8 Kayaba Industry Co. Ltd., dba KYB Corporation

$62M Auto Parts (shock absorbers)

9 Nippon Yusen Kabushiki Kaisha $59.4M Ocean Cargo Services

11 Aisin Seiki Co. Ltd. $35.8M Auto Parts (variable valve timing devices)

13 NEC Tokin Corp. $13.8M Electrolytic Capacitors

14 Minebea Co. Ltd. $13.5M Ball Bearings

16 Sanden Corp. $3.2M Auto Parts (air conditioning compressors)

17 Yamada Manufacturing Co. $2.5M Auto Parts (manual steering columns)

18 Hitachi Metals Ltd. $1.2M Auto Parts (brake hoses)

�  2014年10月~2015年9月の高額罰金事例

Gibson Dunn & Crutcher LLP “2015 Year-End Criminal Antitrust and Competition Law Update”を加工8

カルテル事件とは?(続き)

Page 9: 第335回北杜会 発表資料

カルテル事件とは?(続き)

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�  日米におけるコンプライアンス意識の差異 �  日本

�  マインド �  会社の利益のためという意識から、贈賄・カルテルに至りやすい(違法性の意識乏

しい) �  証拠の破棄に対する意識も低い、厳罰のリスクを認識できていない

�  企業風土 �  日本独自の“系列文化” �  他のサプライヤーも集まるメーカー主催の新製品説明会 �  同業他社が市場の情報収集のために集う業界団体 �  前任者の行為をそのまま引き継ぐ慣行 �  終身雇用制-もし何かあっても会社が守ってくれるはず

�  FCPAで、2度訴追を受けた丸紅の事例 �  アメリカ

�  マインド �  個人責任が文化として根付いているので、ルールに敏感 �  ディスカバリー制度に裏付けられる真実発見としての裁判 �  裁判所の侮辱(contempt of court)への意識の高さ、Judgeの権威

�  企業風土 �  At willで解雇が可能-家族を守るのは自分、会社への帰属意識薄い

�  FCPAで、訴追を免れたモルガンスタンレーの事例

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アウトライン

1.  カルテル事件とは?

2.  日本の独占禁止法

3.  アメリカの反トラスト法

4.  外国公務員贈賄規制の拡大

5.  FCPAの概要

6.  日本の不正競争防止法

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Page 11: 第335回北杜会 発表資料

日本の独占禁止法~違反類型�  独占禁止法(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律)

�  「公正且つ自由な競争を促進し、事業者の創意を発揮させ、事業活動を盛んにし、雇傭及び国民実所得の水準を高め、以て、一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発達を促進することを目的」(第1条) �  1)不当な取引制限の禁止(価格カルテル、市場分割カルテル等) �  2) 私的独占の禁止 �  3) 企業結合規制 �  4) 不公正な取引方法の禁止

�  景品表示法(不当景品類及び不当表示防止法) �  不当な表示や過大な景品類を規制し、消費者が適正に商品・サービス

を選択できる環境を確保

�  下請代金支払遅延等防止法 �  親事業者の下請事業者に対する取引を公正にして、下請事業者の利

益を保護

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Page 12: 第335回北杜会 発表資料

日本の独占禁止法~違反類型(続き)

�  独占禁止法

�  1) 不当な取引制限(独占禁止法2条6項) �  「事業者が、、、他の事業者と共同して対価を決定し、維持し、若しく

は引き上げ、又は数量、技術、製品、設備若しくは取引の相手方を制限する等相互にその事業活動を拘束し、又は遂行することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限すること」

�  同業者や業界団体で、価格や生産数量などを取り決め、お互いに市場で競争を行わないようにすること(価格カルテル、入札談合)

�  カルテルを規制する趣旨 �  自由競争市場の確保、消費者利益の確保

�  新規参入の促進、市場主義経済の発達

�  カルテル規制がない世界?

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Page 13: 第335回北杜会 発表資料

日本の独占禁止法~違反類型(続き)

�  「相互にその事業活動を拘束し、又は遂行すること」 �  東芝ケミカル事件(東京高判平成7年9月25日)

�  事業者相互で拘束し合うことを明示して合意する必要はなく、相互に他の事業者の行為を認識して、暗黙のうちに認容することで足りる

�  暗黙の意思の連絡があれば足りる

�  「競争を実質的に制限」 �  東宝・スバル事件(東京高判昭和26年9月19日)

�  競争の実質的制限とは、競争自体が減少して、特定の事業者または事業者集団が、その意思で、ある程度自由に、価格、品質、数量、その他各般の条件を左右することによって、市場を支配することができる形態が現れているか、または少なくとも現れようとする程度に至っている状態

�  市場支配力の形成・維持・強化

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Page 14: 第335回北杜会 発表資料

日本の独占禁止法~違反への制裁�  カルテル事件における制裁

�  ①排除措置命令及び課徴金納付命令 �  公正取引委員会は,違反行為をした者に対し,意見陳述・証拠提出の

機会を与えるなどの意見聴取手続を経て命令を行う �  法人に対する課徴金(行政罰)

�  課徴金=(カルテルの実行期間中の売上額)×10%(製造業の場合) �  売上額=カルテルの対象となった商品又は役務の売上が対象 �  実行期間は最長3年間 �  繰り返し又は主導的立場の場合は50%増

�  平成27年度は、排除措置命令9件(入札談合・受注調整:5件,価格カルテル:2件,事業者団体による構成事業者の不当な制限:2件)。課徴金納付命令7件。

�  ②刑事罰 �  法人: 5億円以下の罰金 �  個人: 5年以下の懲役又は500万円以下の罰金

�  日本で実際に懲役刑の実刑判決が出た事例はない �  公取委の刑事告発が必要(平成2年以降、合計16件の刑事告発)

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Page 15: 第335回北杜会 発表資料

日本の独占禁止法~違反への制裁(続き)

�  課徴金納付命令: アルミ電解コンデンサ事件(平成28年3月29日) �  違反事業者4社は、「マーケット研究会」などと称する会合を毎月開

催するなどして、アルミ電解コンデンサの販売価格を共同して引き上げることを合意(1社は、会合以外の場所で他の違反事業者と販売価格の引き上げについて伝えあった)

�  違反事業者3社に対して各々、33億6223万円、14億3524万円、10億6774万円の課徴金(1社はリニエンシーにより全額免除)

�  平成27年12月9日、台湾の公平交易委員会は、日系企業ら10社に対し、総額57億9660万台湾ドル(約220億円)の課徴金を科した �  台湾でのカルテルに対する課徴金として過去最高額

�  各国競争法は、国内の市場に影響を与えた行為について適用

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Page 16: 第335回北杜会 発表資料

日本の独占禁止法~違反への制裁(続き)

�  刑事罰: 北陸新幹線融雪・消雪基地機械設備工事に係る入札談合事件(東京地判平成26年11月14日) �  事案

�  独立行政法人鉄道・運輸機構が、条件付一般競争入札の方法で北陸新幹線融雪・消雪基地機械設備工事を順次発注

�  冷暖房設備工事の請負等の事業者8社が、東京都内の飲食店等で、受注予定事業者を決定するとともに、当該受注予定事業者が受注できるような価格で入札を行うことなどを合意

�  公取委が検事総長に告発、東京地検が起訴 �  東京地方裁判所は、以下の判決を言渡した

�  被告会社に1億2000万円から1億6000万円の罰金

�  被告会社社員に懲役1年2月から1年6月(執行猶予3年)

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Page 17: 第335回北杜会 発表資料

日本の独占禁止法~リニエンシー

�  競争当局がカルテルの証拠を得る前にその証拠を提出し、 調査手続きに協力することで、刑罰の減免を受ける制度 �  調査開始日前の1番目の申請者 ⇒ 課徴金を免除

�  調査開始日前の2番目の申請者 ⇒ 課徴金を50%減額

�  調査開始日前の3~5番目の申請者 ⇒ 課徴金を30%減額

�  調査開始日以後の申請者 ⇒ 課徴金を30%減額(3社まで)

�  公取委が指定するFAX番号にファクシミリを送信

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Page 18: 第335回北杜会 発表資料

日本の独占禁止法~リニエンシー(続き)

�  リニエンシー制度(制裁金減免制度)による違反申告によって連鎖的にカルテルが摘発され、自動車部品カルテルにつながった

�  欧州充電メーカーABB社が世界的リニエンシー申請(した可能性)

�  2009年1月 高圧電線に関するカルテルで、日系高圧電線メーカー3社を摘発

�  摘発されたうちの1社(日立電線の出資するアドバンスト・ケーブル・システムズ)がリニエンシー申請

�  2009年6月 NTT向け光ファイバーのカルテル摘発

�  摘発された2社に出資していた昭和電線がリニエンシー申請

�  2009年12月 屋内配線カルテル、VVFケーブルカルテルの摘発

�  摘発された古河電工がリニエンシー申請

�  2010年2月 ワイヤーハーネスカルテルの摘発

�  2011年7月~ 大規模な自動車部品カルテルの摘発

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Page 19: 第335回北杜会 発表資料

日本の独占禁止法~立入調査と社内対応

�  公取委の調査の端緒~リニエンシー、通報

�  証拠収集、海外当局との調査協力

�  立入調査(Dawn raid)への対応�  依頼者弁護士間秘匿特権(attorney-client privilege)がないので、

弁護士とのコミュニケーションを秘匿できない

�  公取委による長時間の事情聴取、自白に重きを置く調査手法、弁護士同席できない

�  証拠の破棄による制裁のリスク

�  手帳等全て留置されるので、業務に支障がでないようコピーするのが望ましい、公取委との交渉

�  法務部はLitigation holdの通知、役員会を開催して方針決定、外部弁護士の起用

�  外部弁護士はリニエンシー申請の検討、社内調査、公取委との折衝

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Page 20: 第335回北杜会 発表資料

アメリカ反トラスト法~違反類型

�  シャーマン法(The Sherman Act) �  独占禁止、カルテル禁止、企業結合規制 �  Section 1 "Every contract, combination in the form of trust or

otherwise, or conspiracy, in restraint of trade or commerce among the several States, or with foreign nations, is declared to be illegal.“

�  「各州間もしくは外国との取引または通商を制限する全ての契約、トラストその他の形態による結合または共謀を違法とする」

�  クレイトン法(The Clayton Act) �  排他的取引の禁止、抱き合わせ販売の禁止 �  差別的価格設定の禁止(The Robinson - Patman Act, 1936) �  寡占的企業合併の禁止(The Hart-Scott-Rodino Act, 1976)

�  連邦取引委員会法(The Federal Trade Commission Act, 1914)

�  その他、各州法が反競争的行為を規制

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Page 21: 第335回北杜会 発表資料

アウトライン

1.  カルテル事件とは?

2.  日本の独占禁止法

3.  アメリカの反トラスト法

4.  外国公務員贈賄規制の拡大

5.  FCPAの概要

6.  日本の不正競争防止法

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Page 22: 第335回北杜会 発表資料

アメリカ反トラスト法~規制当局

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�  米国司法省

�  DOJ(Department of Justice)

�  主に、 The Sherman Actの執行を担当

�  連邦取引委員会

�  FTC(Federal Trade Commission)

�  主に、 The Clayton Actの執行を担当

Page 23: 第335回北杜会 発表資料

アメリカ反トラスト法~違反への制裁

�  シャーマン法1条違反(カルテル行為)への制裁

�  法人 �  1億ドル以下の罰金(刑事罰) �  ただし、違法行為で得た利益の2倍まで引き上げられる �  量刑ガイドライン(Federal Sentencing Guideline)による罰金の

算定 �  ①基礎罰金額(Base fine)

�  違反行為により生じた損害(カルテルの場合取引額の20%)

�  米国内のCommerceに生じた影響を考慮

�  ②責任スコア(Culpability score)に基づく罰金額のレンジ算定�  0.75倍~4倍。会社規模、調査への協力、違反歴、遵法体制等を考

�  ③裁判所による罰金額の決定�  調査への協力、違反行為の影響、カルテルでの役割、違反前歴等を

考慮

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Page 24: 第335回北杜会 発表資料

アメリカ反トラスト法~違反への制裁(続き)

�  個人 �  100万ドル以下の罰金、10 年以下の禁固刑(併科もあり)�  違反会社は、DOJと司法取引を行う(Plea agreementの締結)�  Plea agreementで除外される(起訴される)被疑者が特定される

(carve out)�  "except that the protections granted in this paragraph do not

apply to [insert names of all carve outs who have been publicly charged]"

�  外国人の禁固刑の平均期間は15ヶ月(2013年)�  1997年~2014年 合計88人の外国人が禁固刑

�  禁固刑の期間は、取引の規模や、当該個人の役割等を考慮�  営業幹部が会社を抜けることのダメージ、家族を離れる不安�  "会社のため"にしたカルテルによって、個人が禁固刑を科される�  刑務所の待遇は意外にいい

�  メールや電話が使える、囚人服は着ない、英語ができなければ部屋割り配慮

�  入所する刑務所を予め見学できる

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Page 25: 第335回北杜会 発表資料

アメリカ反トラスト法~違反への制裁(続き)

�  個人に対する禁固刑についての疑問

�  米国外に所在している限り、禁固刑を科されないのか?

�  原則として、各国の法律は国外まで適用、執行されない(内国干渉)

�  日本企業の役職員の相当数は、自主的に米国に渡航して有罪答弁を行い、米国で服役する

�  一方、DOJとの交渉に応じないで、日本から出国しないこととする者もいる

�  原則、米国の司法権は日本に及ばないが、英米系の国の入国時に入管で逮捕され米国に移送されるリスクもあり、また犯罪人引渡条約の執行により米国以外で逮捕される可能性がある

�  逮捕をおそれて渡航制限をすると業務の支障が致命的な場合、むしろ収監され服役を終えた方が良いという考え方もある

�  DOJは服役終了後は入管に再入国を認めるよう通知している

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Page 26: 第335回北杜会 発表資料

アメリカ反トラスト法~違反への制裁(続き)

�  犯罪人引渡条約による米国外からの被疑者引渡し事例 �  2010年8月 マリンホース事件で摘発されたイタリアの会社の元幹部(イタリア

人)が、フロリダ州連邦地裁大陪審で起訴される

�  2013年 6 月 当該被疑者が、出張先のナイジェリアからイタリアに帰国中、経由地であるドイツ・ フランクフルト空港で、ドイツ当局に逮捕される

�  2014年4月 当該被疑者は米国当局に引渡され、フロリダ州に移された。禁固 2 年(ドイツで拘束されていた 9 か月間を刑期算入)と 5 万米ドルの罰金刑

�  独米犯罪人引渡条約の存在。ドイツでは談合は刑事罰の対象(双罰性あり)

�  日本人は、米国外(日本含む)にいても、同様に米国に引き渡される可能性がある�  ①日米犯罪人引渡条約がある

�  日本は米国及び韓国と犯罪人引渡条約を締結。日本は裁量で自国民を引き渡せる(条約5条)

�  一方、逃亡犯罪人引渡法 2 条 9号は逃亡犯罪人が日本国民のときは引き渡してはならないと規定

�  日米犯罪人引渡条約が優先適用

�  ②双罰性の要件(double criminality)を満たす �  被請求国でも嫌疑がかけられている行為が犯罪とされていること �  日本の逃亡犯罪人引渡法は、請求対象行為が日本で懲 役・禁固 3 年以上の罪

になることを要求7/1/2016 26

Page 27: 第335回北杜会 発表資料

アメリカ反トラスト法~違反への制裁(続き)

�  Red notice list掲載

�  DOJが、出頭しない外国人をInternational Criminal Police Organization (ICPO、国際刑事警察機構)に通知すると、当該外国人はRed noticeに掲載される。この事実を加盟国が認識すると、犯罪人引渡条約等に基づき米国へ引渡しが行われる可能性がある。

�  一方、犯罪人引渡条約によらない限り身柄を外国政府に引き渡すことはないので、Red noticeが出されても引き渡されないという見解もある

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Page 28: 第335回北杜会 発表資料

アメリカ反トラスト法~違反への制裁(続き)

�  クラスアクション-民事訴訟における損害賠償債務�  米国では司法省の調査手続と並行してクラスアクションが提起される

�  原告は、直接購入者(自動車メーカー)、間接購入者(エンドユーザー)

�  オプトアウト方式(明示的に参加しない旨を表明しない限り原告となる)による高額請求

�  クラスアクションをビジネスとする専門ローファームの存在(Plaintiff lawyers)

�  カルテルより最終製品に転嫁された価格(Overcharge)が損害

�  証拠開示手続(ディスカバリー)の負担、弁護士費用�  紙の文書と電子情報の双方を含む

�  電子メール、手帳、領収書、当局の捜査で使われた文書が開示命令対象

→口頭でのリニエンシー申請、Profferにより開示対象にならないようにする

→ディスカバリーがあるからこそ原告は証拠にアクセスできる ⇔日本

�  懲罰的賠償(実損害額の3倍の金銭賠償)により違反抑止

�  敗訴した場合、原告の訴訟費用(合理的な弁護士報酬含む)を支払う義務

�  ディスカバリー手続による莫大な負担、敗訴による高額の賠償リスクを避けるため、真に違反があったかわからない段階で和解に至ることもある

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Page 29: 第335回北杜会 発表資料

アメリカ反トラスト法~DOJの調査

・大陪審(Grand jury)がサピーナ(Subpoena、召喚状)を発行

・サピーナの交付を受けた米国会社は、それに従って証拠を提出する義務を負う(日本にはサピーナの効力は及ばない)

・提出する文書の範囲や、証言を行うタイミング等については、合理的な範囲でDOJと交渉可能

・DOJは、サピーナに基づいて提出された文書や証人へのインタビュー等を通じて情報を集め、司法取引を行う

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Page 30: 第335回北杜会 発表資料

アメリカ反トラスト法~DOJの調査(続き)

�  DOJによる抜き打ちの立入調査(dawn raid)、裁判所の令状に基づきFBIが同行

�  弁護士の立ち会いなくして質問に答える義務はない

�  証拠の隠滅・破棄は、調査への不協力と見なされて最終的な罰金額・禁固刑に影響

�  虚偽の発言をしたり、真実を話さない場合、偽証罪あるいは司法妨害の罪(最高20年の懲役)で起訴されうる

�  各国競争当局による同タイミングでの立入調査

�  DOJは、盗聴やおとり捜査等を行うことができる �  リジンカルテル事件:飼料添加物の国際カルテルに関わっていた米

穀物メジャーADM社の元幹部が、FBIにカルテルの存在を内部告発

�  同幹部は告発後3年間、カルテルの他のメンバーに捜査協力していることを隠して関与を続け、その過程で作成した隠し撮りビデオが証拠となった

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Page 31: 第335回北杜会 発表資料

アメリカ反トラスト法~DOJの調査(続き)

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Page 32: 第335回北杜会 発表資料

アメリカ反トラスト法~DOJの調査(続き)

�  米国外でのサピーナの執行

�  日本には米国の主権は及ばないので、サピーナが日本の会社に強制的に執行されることはない。しかし、日米司法共助条約によりDOJは日本所在の証拠入手が理論的には可能

�  証人へのインタビューも、犯罪引渡条約によらない限り、強制的に米国につれてくることはできない(日本で同条約に基づいた引渡事例はない)。 �  他方、任意でインタビューに応じるため米国に入国したときに身

柄拘束されるリスクがあるので安全に米国から離れることを確約するレター(Safe Passage Letter)をDOJから取り付ける。

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Page 33: 第335回北杜会 発表資料

アメリカ反トラスト法~DOJの調査(続き)

�  司法取引(Plea bargaining)

�  DOJとPlea agreementを締結する �  被疑者がDOJに対し違反を認め、捜査に協力し、連邦大陪審で

違法行為を認めることを約束する代わりに、DOJが求刑を軽減する旨合意

�  この合意で救済されない(起訴される可能性がある)従業員が特定される=カーブアウト(carve out)→ビジネス上のキーマンである場合の会社の対応

�  DOJにとって立証の負担が軽減できるメリット �  本来は、合理的な疑いを超える程度の証明が必要

�  Ability to payの交渉

7/1/2016 33

Page 34: 第335回北杜会 発表資料

アメリカ反トラスト法~DOJの執行状況

Gibson Dunn & Crutcher LLP “2015 Year-End Criminal Antitrust and Competition Law Update”より抜粋

�  罰金額の増大

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Page 35: 第335回北杜会 発表資料

アメリカ反トラスト法~DOJの執行状況(続き)

Gibson Dunn & Crutcher LLP “2015 Year-End Criminal Antitrust and Competition Law Update”より抜粋

�  個人の禁固刑の平均期間

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Page 36: 第335回北杜会 発表資料

アメリカ反トラスト法~リニエンシー�  カルテルに参加した者が、カルテルの証拠を提出し、調査手続きに協力す

ることにより、罰金の減免や個人の刑事罰の縮小のメリットを受けられる制度。 �  TypeA(必要的免責) DOJがカルテルに関する情報を入手する前の申告

�  TypeB(裁量的免責) DOJがカルテルに関する情報を入手した後の申告

�  米国では、刑罰の100%免除を受けられるのは最初の1社のみ

�  2番目でも調査協力等により罰金減額、起訴人数や服役期間の減免がありうる

�  アムネスティプラス(Amnesty Plus)�  あるカルテル事件に関してリニエンシー申請による免責が認められなかったが、

「別の関連市場」のカルテルにつき順位1番でリニエンシーを行った場合、当該「別の関連市場」での協力が考慮され、最初のカルテル事件に関しても量刑の軽減を受けられる制度

�  アメリカ特有の制度で、日本にはない

�  捜査対象外のリニエンシー申請の連鎖、それによる捜査が拡大

�  アムネスティプラスを利用できるのにしなかった場合、後に罰金が増額される要因になりうる(ペナルティプラス)。

7/1/2016 36

Page 37: 第335回北杜会 発表資料

カルテルを防ぐために�  競合他社との接触の機会を洗い出し

�  業界団体、新製品展覧会、個別の会議 �  接触する必要があるのか、営業上必要か、利益とリスクの見極め

�  接触した際の報告書の作成�  価格、市場シェアに関する情報交換をしたか、合意をしたか �  カルテルと疑われない言葉を選ぶべき �  競合他社の情報についてはその情報源を明確にすること(公開情報から情報を入手)

�  競合他社から価格引き上げ提案や見積額の開示をしてきた場合�  価格、市場シェアに関する会話から退出し、その理由も明確に示すべき

�  カルテル行為を発見した時の社内対応 �  社員へのインタビュー �  社内メールやサーバ上のデータの確認 →ITベンダーの活用

�  証拠破棄による制裁のリスク �  Eメールは相手方に残る、自分のドライブから削除しても事後的に復活される(フォレン

ジッック技術)

�  データの削除が後に判明すると、司法妨害(contempt of court)として厳罰のリスク

7/1/2016 37

Page 38: 第335回北杜会 発表資料

アウトライン

1.  カルテル事件とは?

2.  日本の独占禁止法

3.  アメリカの反トラスト法

4.  外国公務員贈賄規制の拡大

5.  FCPAの概要

6.  日本の不正競争防止法

7/1/2016 38

Page 39: 第335回北杜会 発表資料

1. 外国公務員贈賄規制の拡大

�  2015年腐敗認識指数(Corruption Perceptions Index 2015)

7/1/2016 39

順位 国名 点数

1 デンマーク 91

2 フィンランド 90

8 シンガポール 85

10 イギリス 81

16 アメリカ 76

18 日本 75

30 台湾 62

61 南アフリカ 44

76 インド 38

76 タイ 38

76 ブラジル 38

順位 国名 点数

83 中国 37

88 インドネシア 36

95 フィリピン 35

95 メキシコ 35

112 ベトナム 31

119 ロシア 29

136 ナイジェリア 26

139 ラオス 25

147 ミャンマー 22

150 カンボジア 21

175 北朝鮮 8

国際NGO Transparency Internationalウェブサイトを加工

Page 40: 第335回北杜会 発表資料

1. 外国公務員贈賄規制の拡大

�  外国での贈賄の典型例 �  A国で国立病院建設プロジェクトを落札するため、事前に公表され

ない最低入札価格を聞き出す目的で、A国厚生省職員に現金を供与

�  B国で、環境基準を満たさない化学プラントを設置する許可を受ける目的で、B国検査機関の職員を接待

�  C国で、建築資材の輸入に係る関税を不当に減免してもらう目的で、C国税関職員にゴルフセット等の高額品を提供

�  D国で、競合企業より優位に立つため、商品の輸出の認可を優先的に処理してもらう目的で、D国公務員の親族に利益を供与

�  なぜ賄賂はだめなのか?

�  贈賄側―国際商取引における競争が公正でなくなる

�  収賄側―発展途上国における法の支配、経済秩序を歪める(賄賂がないと仕事しなくなる)

Page 41: 第335回北杜会 発表資料

1. 外国公務員贈賄規制の拡大�  歴史的背景~グローバルルールの形成

�  1976年 ロッキード事件 �  米国上場企業に簿外債務の問題発覚、企業の公正な情報開示の要請

�  1977年 連邦海外腐敗行為防止法(Foreign Corrupt Practices Act) �  ①外国公務員への贈賄行為等を禁じる贈賄禁止条項 �  ②会社取引・資産処分を公正に反映した帳簿・記録の維持義務と、これを合

理的に保障する内部統制システム構築義務 �  しかし、米国企業のみ摘発されると国際競争上不利、不公正との批判

�  1988年 FCPA改正(International Anti-Bribery Act) �  各国に対して利益供与禁止を義務付ける国際的な取り決めの締結や、各国

制度の改変を積極的に求める規定(域外適用) �  米国は、条約で外国公務員贈賄を規制しようと、OECDに条約策定提案

�  1997年 国際商取引における外国公務員に対する贈賄の防止に関する条約(OECD条約)成立 �  OECDは、条約締約国の措置の同等性確保のため、条約の履行状況を相互

審査

�  1998年 日本、不正競争防止法を改正 �  「外国公務員に対する不正の利益の供与の禁止」(18条)を設ける

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Page 42: 第335回北杜会 発表資料

アウトライン

1.  カルテル事件とは?

2.  日本の独占禁止法

3.  アメリカの反トラスト法

4.  外国公務員贈賄規制の拡大

5.  FCPAの概要

6.  日本の不正競争防止法

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Page 43: 第335回北杜会 発表資料

FCPAの概要~違反類型

�  ①賄賂禁止条項(Anti-bribery provision)

�  外国公務員に対して、賄賂の支払、その申込、約束、それらの承認を行うことを禁止

�  収賄については処罰されない

�  ②会計、内部統制条項(Accounting and record-keeping provisions)

�  正確かつ適正な会計帳簿を作成し、取引及び資産を管理して記録する内部統制を確立し、故意に虚偽の記録を行い又は内部統制確立を怠ることを禁止

�  「賄賂」としてではなく、会計上虚偽の項目で計上されることに対処

�  賄賂禁止条項の立証が困難な場合に、説明できない支払行為全般を指摘して、キャッチオール的に処罰

�  民間贈賄(例えばキックバック)は、こちらで処罰

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Page 44: 第335回北杜会 発表資料

FCPAの概要~規制当局米国司法省 DOJ(Department of Justice) 主に刑事責任追及を担当。罰金、禁固刑、違法収益の没収

米国証券取引委員会 SEC(Securities Exchange Commission) 民事責任追及を担当。民事制裁金、違反行為の停止命令等

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Page 45: 第335回北杜会 発表資料

FCPAの概要~適用範囲

�  疑問 �  アメリカの法律は日本企業には関係ない?

�  共謀、幇助教唆、エージェント理論により摘発対象となる

�  接待だから許される? �  社会通念上の範囲を超えると贈賄と認定されうる

�  外国政府でなければOK? �  外国政府関係機関の関係者に対する贈賄も摘発される

�  第三者に支払うのであればOK? �  外部団体への寄付も摘発される場合がある

�  ファシリティーペイメントだからOK? �  適法かどうかの線引きが不明確、日本の指針では言及自体削除

�  親会社は関係ない? �  親会社が賄賂を承認していれば親会社も摘発される

→いずれも摘発対象となることに注意

7/1/2016 45

Page 46: 第335回北杜会 発表資料

FCPAの概要~適用範囲(続き)�  ①米国上場企業(Issuer)

�  親会社が米国で上場しており、日本子会社が日本で賄賂を支払った場合

�  ②国内関係者―居住者、法人等(Domestic concern) �  米国に駐在する日本人社員、日系企業の米国子会社

�  ③米国内で行為の一部を行った者(Foreign person acting within the United States)�  賄賂に関する電子メールや電話の送受信を米国内で行う

�  米国内に設置されている電子メールサーバーを経由していた場合も米国内での行為とみなされうる

�  米ドルにより米国外で賄賂を送金し、米国の銀行口座が資金決済の過程で用いられた場合(米国内でなされる行為を生ぜしめたとして、米国内で行為の一部あり)

�  ④①~③について共謀(Conspiracy)、幇助(Adding and abetting)�  米国当局からは、日本企業にFCPAを適用する根拠として使うケースが多い

�  日本企業と米国企業が合弁事業に参加していて、その合弁企業が賄賂を支払った

→外国企業による贈賄行為、米国外の贈賄行為にも適用される点に特徴7/1/2016 46

Page 47: 第335回北杜会 発表資料

FCPAの概要~適用範囲(続き)

�  親会社、子会社の関係

�  親会社が子会社の贈賄行為を指示し、又はその他の方法により参加していた場合

�  子会社が親会社の代理人として行為していると認められる場合

�  管轄について裁判で争うことは実務上ない

�  訴訟長期化、国際的信用毀損をおそれて和解で終わることが多い

�  米国の陪審員制度―贈収賄について敗訴、厳刑のリスク高い

�  DOJ/SECが取引先企業に情報提供を依頼してしまうと、取引の存続に支障がでるおそれ

7/1/2016 47

Page 48: 第335回北杜会 発表資料

FCPAの概要~構成要件

�   賄賂禁止条項は、以下の行為を禁止 �  ①外国公務員等に対して

�  ②汚職の意図をもって(Corruptly) �  ③営業上の利益を得る目的で

�  ④利益の申込、供与、約束、承認又はこれらを助長する行為

7/1/2016 48

Page 49: 第335回北杜会 発表資料

FCPAの概要~構成要件(続き)

�  ①外国公務員等に対して

�  立法、行政、司法、国際機関、政治団体の個人への支払が、処罰対象となり、外国政府に対する支払いは禁止されていない

�  行政機関職員、裁判官、検察官、国会議員、国会議員秘書、国連職員

�  国有企業(外国政府機関、foreign instrumentality)については、明確な基準はない

�  ②汚職の意図をもって(Corruptly)

�  「不当に、事業を自ら取得し又はその依頼者に取得させ、有利な立法又は規制を獲得し、外国公務員の職務上の不作為を誘発するような、外国公務員の職務の不当行使の誘発を意図すること」

�  →社会的儀礼行為の範囲内の接待や贈答は、処罰の対象とならない

7/1/2016 49

Page 50: 第335回北杜会 発表資料

FCPAの概要~構成要件(続き)

�  FCPAガイドラインのケーススタディ

�  Q:米国上場会社A社は、外国でのトレードショーで、現顧客又は見込み客合計10数名に、会場外で飲もうと誘い、控えめな代金を支払った。客の中には、外国公務員もいた。

�  A:違反しない。FCPAは、外国公務員に対する全ての接待を禁止するものではない。ブースで提供する飲み物、軽食、プロモーション品に比較すると、ある程度の費用が発生しており、提供相手も特定して選別されているが、この場合も汚職の意図を伺わせる事情はない。

7/1/2016 50

Page 51: 第335回北杜会 発表資料

FCPAの概要~構成要件(続き)

�  ④利益の申込、供与、約束、承認又はこれらを助長する行為

�  以下はいずれも処罰の対象になる �  賄賂を支払う約束はしたが実際利益の供与はされなかった場合

�  国際事業部長が某国の事業に関し賄賂支払を承認した場合

�  賄賂を支払ったが不当な利益を得られなかった場合

�  現地コンサルタントを通じ商品を政府系企業に販売する場合

�  第三者に提供する利益が、外国公務員に対して支払われることを知っていた場合(knowingly)=第三者が外国公務員に対して賄賂を支払う結果が生じるであろうと認識している場合は、処罰対象となる

7/1/2016 51

Page 52: 第335回北杜会 発表資料

FCPAの概要~構成要件(続き)

�  FCPAガイドラインが定める第三者に関する「不正の兆候」(Red Flag)

�  ①第三者エージェント、コンサルタントへの報酬額が過大

�  ②第三者ディストリビューターに対する不合理に過大な割引

�  ③コンサル契約上の委託業務内容が不透明

�  ④第三者コンサルタントが当初契約外の業務を行っている

�  ⑤第三者が外国公務員の親戚や近親者である

�  ⑥外国公務員の明示的な要求により第三者が取引に参加

�  ⑦第三者が国外で設立されたペーパーカンパニー(shell company)

�  ⑧第三者が国外の銀行口座に支払を要求

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Page 53: 第335回北杜会 発表資料

FCPAの概要~構成要件(続き)

�  機械的業務に対する円滑化のための少額の支払(Facilitation Payment)

�  査証の発行、警察出動、郵便、電気、ガス、水道、電話、登記簿謄本発行といった機械的、非裁量的業務(routine governmental action)を促進させるために外国公務員に提供される少額の支払

�  FCPAでは例外的に処罰対象から除外。しかし、その例外の範囲は狭いので注意。

�  外国公務員に一定の裁量が認められている場合は、処罰の対象

�  外国公務員の権限の行使に不当な影響を及ぼすことを目的としている場合

�  支払の目的が違法の場合(関税の減額、禁制品の輸入)

7/1/2016 53

Page 54: 第335回北杜会 発表資料

FCPAの概要~構成要件(続き)

�  寄付

�  汚職の意図をもって外国公務員に対して影響を与えるための支払の隠れ蓑として行われる場合は違法

�  ①寄付の目的は何か

�  ②寄付を行う企業の社内規定に従った寄付であるか

�  ③外国公務員の要請に基づいてなされる寄付か

�  ④外国公務員に、寄付を行う企業が行うビジネスについての決定権があるか

�  ⑤ビジネスの獲得その他の便宜を図ることを条件として行われる寄付か 

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Page 55: 第335回北杜会 発表資料

FCPAの概要~DOJの調査

・司法取引による事件解決

①有罪答弁合意(Plea Agreement)

②訴追延長合意(Deferred Prosecution Agreement)

③不訴追合意(Non Prosecution Agreement)

④不起訴処分(Declination)

7/1/2016 55

Page 56: 第335回北杜会 発表資料

FCPAの概要~DOJの調査(続き)�  ①有罪答弁合意(Plea Agreement)

�  有罪を認める答弁を行い、捜査協力をする代わりに、量刑を軽減することを検察官と合意する

�  裁判所は、合意された内容の量刑で有罪判決を下す

 →無罪推定の原則、合理的な疑いを超える立証の手間・コストを省ける

�  ②訴追延期合意(Deferred Prosecution Agreement)�  FCPA事件のほとんどがDPAで処理される �  DOJは起訴状を裁判所に提出するが、訴追が一定期間(通常3年)猶

予され、行為者が契約で定めた義務を遵守した場合、起訴が却下 �  ただし、罰金の支払、調査協力、事実を認めること、コンプライアンス措

置導入等の約束をする  →有罪判決を受けないため、入札資格停止処分等を避けられる

�  ③不訴追合意(Non Prosecution Agreement) �  NPA上の義務を果たした場合は訴追しないことを約束。約束事項は

DPAと同じ

�  起訴状の提出はなく、裁判所の関与がない。

7/1/2016 56

Page 57: 第335回北杜会 発表資料

FCPAの概要~DOJの調査(続き)

�  ④不起訴処分(Declination)

�  モルガンスタンレー(MS)の不起訴事例(2012年4月)

�  MS不動産取引グループの上海事務所のマネージングディレクター(MD)が、不動産投資にあたって中国政府関係者に500万米ドルの賄賂を支払った

�  MDは、9ヶ月の禁固刑、違法収益の吐き出しとして約24万ドルの支払、証券業等への永続的な従事禁止の制裁

�  MSは不起訴

�  MSには、従業員が贈賄行為を行っていないと合理的に信じるに足るコンプライアンス体制 を構築していた

�  ①ガバナンス(社内のコンプライアンスグループ、研修、注意喚起)

�  ②予防・発見コントロール(定期的な内部監査、内部通報制度)

�  ③継続的なリスク評価(汚職防止ポリシーの改善)

�  100%の予防を求めてはいない)

�  DOJに自主申告し、その調査に全面的に協力した7/1/2016 57

Page 58: 第335回北杜会 発表資料

FCPAの概要~違反への制裁�  ①罰金

�  法人: 200万ドル以下、 個人: 10万ドル以下 �  ただし、選択的罰金法(Alternative Fines Act)により犯罪行為の利益又は損失の2倍が上

限になるため、1億ドル単位の罰金が科される

�  ②禁固: 5年以下

�  ③違法利得の放棄

�  ④民事責任 �  SECが発行体への民事責任追及 �  DOJはそれ以外の類型(国内関係者、米国内で行為の一部をした者)への民事責任追及

�  ⑤衡平法(equitable remedy)に基づく違法利益相当額及び利息の追徴 �  違法利益を企業に残すことは衡平に反し違法行為を助長するとの考え方 �  場合によっては違法利益の金額が数百億円に至り、罰金額よりも多額になりうる

�  ⑥その他の不利益処分 �  米国連邦政府の入札資格停止事由 �  国際開発金融機関(世界銀行、アジア開発銀行等)の取引停止処分

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Page 59: 第335回北杜会 発表資料

FCPAの概要~日本企業の摘発

�  FCPAの法執行件数(不起訴も含む)

7/1/2016 59

Gibson Dunn & Crutcher LLP “2015 Year-End FCPA Update”より抜粋

Page 60: 第335回北杜会 発表資料

FCPAの概要~日本企業の摘発(続き)�  日本企業の摘発件数は6件(贈賄が5件、内部統制違反が1件、2016

年6月現在)

事件名 概要 制裁

日揮・ナイジェリア事件 (2011年4月)

日揮は、1991年、米国企業及び外国企業3社とともに合弁企業を設立。1995年~2004年にナイジェリアのボニー島にLNG施設を建設する入札に参加し、60億ドルで受注。受注に際して、ナイジェリア政府高官に総額1億8200万ドルの便宜を計った。

・和解金2億1880万ドル(約187億円)のDPA ・合弁企業に出資する米国企業との共謀又は幇助

丸紅・ナイジェリア事件 (2012年1月)

上記事件について、当該合弁企業との間で業務委託契約を締結し、代理人としてナイジェリアの公務員に対して不正な支払。

・和解金5460万ドル(約42億円)のDPA ・共謀、幇助

ブリジストン・中南米事件 2011年9月)

ラテンアメリカ諸国の販売を確保するため、米国子会社が、海外エージェントを通じてラテンアメリカ諸国の公務員に対して不正な支払。日本本社の部長が、米国子会社と共謀したとして、米国内での会議に出席後逮捕

罰金2800万ドル(独禁法違反も含む)のPA。部長に24ヶ月の禁固及び8万ドルの罰金刑。

7/1/2016 60

Page 61: 第335回北杜会 発表資料

FCPAの概要~日本企業の摘発(続き)

事件名 概要 制裁

丸紅・インドネシア事件 (2014年3月)

フランス企業とコンソーシアムを組成して、インドネシアで火力発電所向けボイラー案件を受注したが、そこで起用された代理店がインドネシアの公務員に不正な支払

・罰金8800万ドル(約91億円)のPA ・捜査協力なし

日立・南アフリカ事件 (2015年9月)

日立の子会社が南アフリカのインフラ整備契約受注のため、南アフリカ与党のフロント企業を介して贈賄を行い、コンサルティング費用として計上

・1900万ドルの民事制裁金 ・内部統制条項違反

オリンパス・中南米事件 (2016年3月)

2006年から2011年にかけて、米国子会社が中南米諸国での医療機器の販売を増大させるため、政府系医療機関の医療従事者に合計300万ドル支払い、結果として750万ドル以上の利益を上げた

和解金2280万ドルのDPA

7/1/2016 61

�  日本企業の摘発件数は6件(贈賄が5件、内部統制違反が1件、2016年6月現在)

Page 62: 第335回北杜会 発表資料

FCPAの概要~日本企業の摘発(続き)

社名 国籍 法的地位 DOJ罰金・没収金 DPAの有無 禁固刑

日揮 日本 共謀者 2億1880万ドル あり

丸紅 日本 エージェント 5460万ドル あり

KBR/Halliburton アメリカ 国内関連者 4億200万ドル なし 3年

Technip SA フランス 発行者 2億4000万ドル あり

Snamprogetti/Eni オランダ/イタリア

親会社が発行者

2億4000万ドル

あり

Albert “Jack” Stanley

アメリカ 国内関連者 1080万ドル 収監 30ヶ月

Jeffrey Tesler イギリス エージェント 約1億4900万ドル 収監 21ヶ月

Wojciech J. Chodan

イギリス エージェント 約70万ドル 保護観察 1年

合計 約13億1590万ドル

7/1/2016 62

�  日揮・ナイジェリア事件の全体像

内田芳樹「海外腐敗行為防止法(FCPA)の域外適用」国際商事法務41巻7号976頁の図を加工

Page 63: 第335回北杜会 発表資料

アウトライン

1.  カルテル事件とは?

2.  日本の独占禁止法

3.  アメリカの反トラスト法

4.  外国公務員贈賄規制の拡大

5.  FCPAの概要

6.  日本の不正競争防止法

7/1/2016 63

Page 64: 第335回北杜会 発表資料

日本の不正競争防止法~適用範囲

�  不正競争防止法 �  第十八条  何人も、外国公務員等に対し、国際的な商取引に関し

て営業上の不正の利益を得るために、その外国公務員等に、その職務に関する行為をさせ若しくはさせないこと、又はその地位を利用して他の外国公務員等にその職務に関する行為をさせ若しくはさせないようにあっせんをさせることを目的として、金銭その他の利益を供与し、又はその申込み若しくは約束をしてはならない。

�  属人主義により、以下が処罰対象

�  ①日本国内で贈賄行為を行った者(構成要件の一部が国内)、又は

�  ②日本国外で贈賄行為を行った日本人

�  海外でエージェントが賄賂を贈ったとしても、当該エージェントが日本人でなければ不正競争防止法の処罰対象とはならない

�  ただし、日本本社が当該エージェントと共謀していた場合は、構成要件の一部が国内なので、当該日本本社が処罰対象となる

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Page 65: 第335回北杜会 発表資料

日本の不正競争防止法~指針

�  経済産業省「外国公務員贈賄防止指針」平成27年7月30日

�  「営業上の不正の利益」について

�  ファシリティーペイメント

�  事業者が現地法令上必要な手続を行っているにもかかわらず、事実上、金銭や物品を提供しない限り、現地政府から手続の遅延その他合理性のない差別的な不利益な取扱いを受けるケース

�  そのような支払自体が「営業上の不正の利益を得るため」の利益提供に該当し得るものである上、金銭等を外国公務員等に一度支払うと、それが慣行化し継続する可能性が高いことから、金銭等の要求を拒絶することが原則

�  社交行為

�  純粋に一般的な社交や自社製品・サービスへの理解を深めるといった目的があり、さらに外国公務員等の職務に関して、自社に対する優越的な取り扱いを求めるといった不当な目的もなければ、「営業上の不正の利益」を目的とする贈賄行為と評価されるわけではない。 7/1/2016 65

Page 66: 第335回北杜会 発表資料

日本の不正競争防止法~指針(続き)

�  「営業上の不正の利益」について�  寄付行為

�  通常、典型的な贈賄行為に該当(表面上は非営利団体に対する寄付の形式をとったとしても、当該寄付が実質的に外国公務員等に対する支払となっている場合)

�  寄付に先立って、寄付先の役員やその親族等が自社のプロジェクトにかかる外国公務員等の関係者ではないこと、寄付後も寄付先の会計帳簿等を確認するなど合理的な範囲内で、外国公務員等の関係者への寄付金の還流がないことを確認する必要

�  第三者への利益供与�  以下の場合は、処罰対象となりうる

�  第三者と外国公務員との間に共謀がある場合

�  外国公務員の親族が当該利益の収受先になっている場合など、実質的に当該外国公務員に対して利益供与が行われたと認められる場合

�  外国公務員が第三者を道具として利用し、当該第三者に利益を収受させた場合

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Page 67: 第335回北杜会 発表資料

日本の不正競争防止法~制裁�  刑事罰

�  自然人に対する罰則

�  5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金

�  法人に対する罰則

�  3億円以下の罰金刑 �  日本の裁判所で、懲役刑の実刑判決が出たケースはなく、罰金額もアメリカに

比べると非常に少ない

�  政府系機関からの処分�  ①独立行政法人日本貿易保険(NEXI)

�  保険引受の拒絶、引受後でも保険支払の拒否、補償または支払済保険金の返還

�  ②国際協力銀行(JBIC)

�  融資契約締結前は、融資の拒否

�  融資契約締結後は、貸出停止、融資未実行残高の取消、または期限の利益喪失

�  ③独立行政法人国際協力機構(JICA)

�  一定の要件の下で、最大18ヶ月間、調達契約の当事者となることを認めない、または調達契約を資金協力の対象としない

�  ④外務省

�  6ヶ月~36ヶ月の期間、日本国が資金供与する事業に係る調達契約の当事者と認められない

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Page 68: 第335回北杜会 発表資料

日本の不正競争防止法~摘発事例

�  これまでの摘発件数は4件のみ(2016年6月現在)

当事者 概要 制裁

九電工(2007年)

2004年4月、社員2名が、フィリピンにおける自動指紋照合システム事業への参入を巡り、フィリピン国家捜査局の長官ら2名に80万円相当のゴルフセット等を贈った

罰金20~50万円の略式命令

パシフィックコンサルタンツインターナショナル(2009年)

2003年~2006年に、ベトナム高速道路建設のコンサルティング業務を受注した謝礼として、管理局長に合計82万米ドルを渡した

・会社に罰金7000万円、また外務省及びJBICから24ヶ月間の円借款事業および無償資金協力事業に関する受注失格の処分・代表取締役に懲役2年6月(執行猶予3年)。代表取締役以外の3名に、懲役1年6月、1年8月、2年(それぞれ執行猶予3年)

7/1/2016 68

Page 69: 第335回北杜会 発表資料

日本の不正競争防止法~摘発事例

�  これまでの摘発件数は4件のみ(2016年6月現在)

当事者 概要 制裁

フタバ産業(2013年)

自動車マフラー最大手の同社は、中国の現地工場の違法操業を黙認してもらうために、中国の地方政府幹部に対し、現金3万香港ドル(約45万円)及び女性用バッグ(約14万円)を贈った

元専務に罰金50万円の略式命令

日本交通技術(2015年)

2014年、鉄道関連のコンサルタント業を営む同社が、インドネシア、ベトナム、ウズベキスタンのODA事業に関連し、鉄道公社関係者等に、現金約7,000万円を支払った

・会社に罰金9000万円の判決、及び外務省・JICAが36ヶ月間の無償資金協力及び資金協力事業への参加排除措置・元社長、取締役ら3名に懲役2年~3年(執行猶予3年~4年)の判決

7/1/2016 69 →摘発件数の少なさから、OECDは法執行努力が欠如していると日本を批判

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