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2014年12月8日(月) 数理人セミナー@ 早稲田大学西早稲田キャンパス63号館102号室
友枝 明保 (Akiyasu Tomoeda)武蔵野大学 / JST CREST
共同研究者: 杉原 厚吉 (明治大学/JST CREST)小野 隼 (明治大学卒業生)
錯視現象を計算する:幾何計算による現象の理解から錯視作品の創作へ
講演概要
「計算錯覚学(Computational Illusion)」– 錯視現象を計算する意義
– 錯覚美術館
– 錯視と渋滞 (縦断勾配錯視)
“ホロウマスク錯視”と同じ効果を持つ錯視立体の数理設計法
– 回転速度計算による錯視現象の理解
– 幾何計算を用いた立体の設計法
– 陰影計算による無照明下での実現
“フットステップ錯視” アート– 観察される錯視効果の条件計算と分類
– Best illusion of the Year Contest
まとめ
計算錯覚学の紹介
JST CREST 「計算錯覚学の構築」
視覚における錯覚:錯視
– 対象が実際とは異なるように見えてしまう現象
– 錯覚は理性で答えがわかっていても,必ずまた起こる.
錯視現象を計算する意義
– 錯視の仕組みを理解し,錯視効果を数量化することで,
錯視(量)を制御する・予測することが可能となる.
»錯視量の最小化
→ 錯視の解消
• 交通事故防止
• 渋滞緩和
»錯視量の最大化
→ 錯視の利用
• 目をひく標識や看板広告の設計
錯視と渋滞
サグ(sag) = ドライバーが気がつかない程度の上り坂
上り坂を正しく上り坂と認識できていない
傾斜の誤認:「縦断勾配錯視」と呼ばれる錯視現象
データ図:NEXCO東日本HP http://www.e-nexco.co.jp/activity/safety/detail_07.html より
縦断勾配錯視の例(屋島ドライブウェイ,下り)
ホロウマスク錯視と同じ効果を持つ錯視立体の数理設計法
ホロウマスク錯視(マスクの回転速度)
ホロウマスク錯視の視線は観測者を追い越していく.
– 観測者:点Eから点P(点P’)を見る.
– Pの周りに一様な密度の模様が書かれているとする.
– 正面から見たときの模様密度:
– 見かけの密度
– 観測者の視点移動による
見かけの密度変化
D
0
cos
DD
0
2
sin
cos
DdD
d
(b) Illusion
(a) Real
マスク面
P
P
E
0D
ホロウマスク錯視(マスクの回転速度)
観察者が面に向かって右に動く
(a) Real
(実際のマスク面の場合)
– 見かけの密度の変化
→ 見かけの密度は増加する
0
2
sin0
cos
D
0
0
2
sin
cos
DdD
d
密度変化
(a) Real
マスク面
P
E
ホロウマスク錯視(マスクの回転速度)
観察者が面に向かって右に動く
(b) Illusion
(錯視の状態のマスク面の場合)
– 見かけの密度の変化
→ 見かけの密度は減少する
0
2
sin
cos
DdD
d
密度変化
(b) Illusion
マスク面
E
P
0
0
2
sin0
cos
D
減少するはずが,実際は増加!
ホロウマスク錯視(マスクの回転速度)
期待していた密度変化と実際の密度変化の差
– (a) 実際の密度変化
錯覚に気付かない観察者
– 壁面が回転して向きを変えているために,観察された密度の変化が生じている.と解釈
0
2
sin
cos
D
(b) 錯視の状況での密度変化
– (a)と(b)の差
0
2
sin
cos
D
0
2
sin2
cos
D
0 0
2 2
sin sin2
cos cos
D D
2
視点の二倍で回転
(回転角 とする)
【作成立体】 立体俯瞰図
底面の形状を与えて,立体を作成する(線分ボロノイ図, Straight Skeleton)
ボロノイ図(Voronoi Diagram)
直感的説明
ボロノイ図は一種の「なわばり」図
領域の境界は二点の垂直二等分線の一部
母点
ボロノイ点
ボロノイ領域
線分ボロノイ図
線分ボロノイ図 (Voronoi diagram for line segments)
– 線分を生成元とするボロノイ図
– Straight skeleton (ex. 屋根の設計)» 各生成元からの直線距離(Straight line distance)で勢力圏を分割
» 得られるボロノイ境界は全て直線で表される.
[O. Aichholzer, et al. (1995), D. Eppstein, et al. (1999), Huber, et al. (2010). ]
l
lEuclid distanceStraight line distance
等しい傾斜壁を持つくぼみ構造の作り方
傾斜壁を持つくぼみ構造
– 立体表面は広い観察角度から完全に見えるように作成
– 深さも必要
: 線分で囲まれた二次元閉領域
: 境界の線分の集合
: xy平面と傾斜壁とのなす角
: くぼみ構造の高さ
P
1 2, ,p nE e e e
h
1. 多角形の境界を外側にのばしていき,長さが になったところで止める.
2. 長さが になる前に壁同士が交差した場合,その交差部で止める.
3. xy平面上で得られた座標に対して,Z座標を追加する.
coth
coth
z h
Straight line Voronoi diagram
Straight line Voronoi diagram
– ボロノイ領域 の集まり
» は に対して,直線距離で定義されるボロノイ領域ie
iR e
iR e
» 得られたボロノイ領域はxy平面から傾斜 α を持った傾斜壁となる.
» 任意の多角形底面Pに対して,くぼみ構造を作成することが可能.
P
立体形状の計算(イメージ)
0z z h
1 1 1 1, ,V x y z
【作成立体:再掲】 立体俯瞰図
立体の展開図
「矢印の幻惑」
矢印は両方ともくぼんでいて,左は正しくくぼんで見えるが,右の矢印は出っ張って見える.
矢印立体から目を離さずに左右に移動すると,矢印がずっと追いかけてくるように見える.
1. A. Tomoeda, K. Sugihara, (ISVD 2012), pp. 144–147 (2012), doi:10.1109/ISVD.2012.26.
2. 日本応用数理学会年会2012 予稿集 稚内
3. (Wikipedia) http://en.wikipedia.org/wiki/Straight_skeleton
作:友枝明保,杉原厚吉 (2012)
「矢印の幻惑(照明透過ver)」
錯視立体に光を裏から当てた状況
(ケント紙ではなく,3Dプリンタで作成した錯視立体)
作:友枝明保,杉原厚吉 (2012)
「駐車場マーク」作:友枝明保,杉原厚吉 (2012)
「矢印の幻惑」 照明による比較
下からの照明上からの照明
照明によって凹凸が反転 (陰影の効果)
→ クレーター錯視
クレーター錯視
– 画像を回転させると,凹部が凸部に見える.» 陰影による形状(立体)復元:Shape from Shading
» 「地球上では光が上から来る」 → 知覚の学習という説
Fieandt, K. von (1938). Helsinki, Finland: Psychologisches Itistitut Universitat Helsinki.Fieandt, K. von (1949). Ada Psychologica, 6, 337-357.
「はぐれ矢印」の作成に向けて
【アイデア】
• 錯視立体の各面に予め陰影を付けておけば,照明ナシでも立体に見えるハズ
→ 実用化における照明設置のコスト削減につながる.
• 平面矢印であっても,適切な陰影を付ければ立体に見えるハズ.
→ ある視点から見ると,平面矢印と錯視立体を同一に見せることができる.
• 複数の平面矢印の中に,一つだけ「矢印の幻惑」を紛れ込ませる.
→ 錯視立体だけが視点移動に伴って回転する錯視効果により,
目を惹く看板を作成できる.
【作成手順】
1. 錯視立体に対して,ある視点で見た場合の投影面の頂点座標を求める.
立体 → 平面
2. 投影面の平面矢印に対して,出っ張って見えるような陰影を与える.
平面 → 立体に見せる
3. その色を元に,「拡散反射」を仮定して立体面の陰影計算を行う.
立体に見える平面 → 同一に見える立体
平面 立体
平面 平面
「はぐれ矢印」
投影変換
視点O(0,0,f)となるように平行移動したのち,P(x,y,z)をZ=0に射影した座標P0
0 : :x f x f z
0,0,O fZ
Y
X
0 0 0, ,0P x y , ,P x y z
0
fxx
f z
0
fy
f z
同様に,y
【手順】 1. 平面矢印の頂点座標を求める.
2. 平面矢印の各面に陰影を与える.
3. 拡散反射を仮定して,立体面の陰影を求める.
平面矢印に与える色
面:{A,B,C,D,E,F,G,H}
【手順】 1. 平面矢印の頂点座標を求める.
2. 平面矢印の各面に陰影を与える.
3. 拡散反射を仮定して,立体面の陰影を求める.
【仮定する条件】
各面は色の大小関係を保てばよく,0(黒)-255(白)のとき,
F<D<B=E=G(=H)<C<A
である.
面HはB=E=Gと同じである
必要はないが,鉛直方向の陰影が重要なので,ここでは同じ色とした(B=E=G=H) .
0Z
Z d
AB
C
DE
F
G H
平面矢印に与える色
仮定に基づいて設定した色
0(黒)-255(白)
A:180 B:115
C:150 D:90
E:115 F:60
G:115 H:115
F<D<B=E=G(=H)<C<AProcessingによる表示
(平行光線,拡散反射)
【手順】 1. 平面矢印の頂点座標を求める.
2. 平面矢印の各面に陰影を与える.
3. 拡散反射を仮定して,立体面の陰影を求める.
拡散反射
ランバートの余弦則
– 拡散反射光は見る方向によって明るさは変わらない.
– 明るさは面の法線方向と入射光のなす角の余弦に比例
【手順】 1. 平面矢印の頂点座標を求める.
2. 平面矢印の各面に陰影を与える.
3. 拡散反射を仮定して,立体面の陰影を求める.
0 cosdL x I C
0I
n
ランバートモデル
:光源の強度
x
C
:面の反射率(0~1)
:色の値
面Xの輝度
立体面の色計算
面Xの輝度
色つき平面と色つき立体面が同じ色に見える
【手順】 1. 平面矢印の頂点座標を求める.
2. 平面矢印の各面に陰影を与える.
3. 拡散反射を仮定して,立体面の陰影を求める.
0 cosXd X XL xI C 0 cosXd X XL xI C
cos
cos
XX X
X
C C
cos X
n L a b L
n L a b L
0 0cos cos
Xd a Xd a
X X a X X a
L L L L
xI C L xI C L
XX X
a b La b LC
a b La b
a b La bC C
a b bL a L
n a b
ab
XC
L
Processingによる表示
(視点距離) f=200の場合,平行光線,拡散反射
平面に色付けした矢印 立体面に色付けした矢印
「陰影付き矢印の幻惑」
陰影付き平面矢印 陰影付き立体矢印
作:友枝明保,小野隼,杉原厚吉(2013)
「はぐれ矢印」作:友枝明保,小野隼,杉原厚吉(2013)
矢印の一つが「矢印の幻惑」(錯視立体)で構成され,他の矢印は平面矢印で構成された作品.
視点角度の変化(回転)に伴って,錯視立体矢印だけが変化(回転)して見える.
フットステップ錯視アート
フットステップ錯視
二つの長方形(オブジェクト)が等速に動いているが背景が縞模様だと、まるで交互に動いているように見える。
S. Anstis, Footsteps and inchworms: Illusions show that contrast affects apparent speed, Perception, 30, 785-794, (2001).
コントラスト差が要因
オブジェクトの大きさ(幅)による錯視の変化
間欠運動(フットステップ錯視)
伸び縮み(インチワーム錯視)
エッジが隠れている時間の計算
フットステップ錯視:両エッジが同時に隠れるとき
→ ストライプ幅の偶数倍のとき
最も長い時間両エッジが隠れる.
x
x
22
xx
3
2 32
xx
3 x
x
エッジが隠れている時間の計算
インチワーム錯視:両エッジが交互に隠れるとき
→ ストライプ幅の奇数倍のとき
最も短い時間両エッジが隠れる.
x
x
3 x
3x 3
3 42
xx
3
2 32
xx
フットステップ錯視の見え方の分類
オブジェクトの設定で8パターンに分類
width Apparent motion
x1 x2 d O1 O2 Timing
1 even even even Footstep Footstep synchronously
2 even even odd Footstep Footstep alternately
3 odd odd even Inchworm Inchworm alternately
4 odd odd odd Inchworm Inchworm synchronously
5 even odd even Footstep Inchworm synchronously
6 even odd odd Footstep Inchworm alternately
7 odd even even Inchworm Footstep alternately
8 odd even odd Inchworm Footstep synchronously
フットステップ錯視アートの実用化に向けて
時計のデザイン技術
– 特願2012-173418,特願2013-110085
CGによるデモ 試作によるデモ
フットステップ錯視アートの実用化に向けて
パターンの組み合わせによるデザイン
Best Illusion of the Year Contest 2013
Best Illusion of the Year Contest 2013 ―概要―
錯覚の新作を競う世界コンテスト– Vision Science Society(視覚科学協会)年会のサテライトイベント
– 応募作品から、専門家による1次審査でベストテンが選ばれ、それがファイナリストとして決勝戦に臨み、1位から3位を競う.
– 決勝戦の結果は、NatureやScientific Americanなどに紹介され、速報HP
には、数百万回のアクセスが殺到するなど、視覚科学の分野で大変注目されている大イベント.
Best Illusion of the Year Contest 2014
Best Illusion of the Year Contest 2014
Top 10 Finalist “Pigeon-Neck Illusion”
「行ったり来たりする動きを錯視で表現」Contents : “Tag”, “UFO”, “Clock”
まとめ
計算錯覚学の紹介
– 錯視現象の数理モデリング
»錯視(量)を制御する・予測することを目指す
– 錯視の解消:錯視量の最小化
»環境誤認からくる事故防止や渋滞緩和
(縦断勾配錯視)
– 錯視の利用:錯視量の最大化
»新しいエンタテイメント・芸術表現
(ホロウマスク型錯視立体の数理設計)
(フットステップ錯視アート)