「不安の医学」第13回都民講演会 「躁うつ病治療の実際」

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「不安の医学」第13回都民講演会 「躁うつ病治療の実際」. 2007.2.4. 国立精神・神経センター 武蔵病院 精神科 岡本長久. 躁うつ病のうつ状態(双極性うつ病). 躁病エピソード. うつ病エピソード. 症例1: A さん( 37 歳男性、会社員).  従姉がうつ病で精神科通院歴あり。  大学卒業と同時に結婚。  技術職として 10 年間勤務してきたが、 34 歳時の 4 月に事務部門の主任を任されてからは、仕事にやりがいを感じ、張り切って出社していた。  もともと社交的で明るく、人に気を使う性格。. 34 歳. - PowerPoint PPT Presentation

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  「不安の医学」第13回都民講「不安の医学」第13回都民講

演会演会「躁うつ病治療の実際」「躁うつ病治療の実際」

国立精神・神経センター 武蔵国立精神・神経センター 武蔵病院病院

精神科 岡本長久精神科 岡本長久

2007.2.4.2007.2.4.

躁うつ病のうつ状態(双極性うつ躁うつ病のうつ状態(双極性うつ病)病)

躁病エピソード躁病エピソード

うつ病エピソードうつ病エピソード

症例1: 症例1: AA さん(さん( 3737 歳男性、会社員)歳男性、会社員)

   従姉がうつ病で精神科通院歴あり。 従姉がうつ病で精神科通院歴あり。 大学卒業と同時に結婚。 大学卒業と同時に結婚。 技術職として 技術職として 1010 年間勤務してきたが、年間勤務してきたが、 3434

歳時の歳時の 44 月に事務部門の主任を任されてから月に事務部門の主任を任されてからは、仕事にやりがいを感じ、張り切って出社は、仕事にやりがいを感じ、張り切って出社していた。していた。

 もともと社交的で明るく、人に気を使う性格。 もともと社交的で明るく、人に気を使う性格。

   3434 歳、主任をまかされて歳、主任をまかされて 44 ヶ月が経つ頃、仕ヶ月が経つ頃、仕事の事の疲れがなかなかとれず、気持ちも沈みがちで、疲れがなかなかとれず、気持ちも沈みがちで、ちょっとしたことで不安を感じるようになった。ちょっとしたことで不安を感じるようになった。 何事にも気乗りせず、ドライブを楽しんでいた休何事にも気乗りせず、ドライブを楽しんでいた休日も友人と会うのが億劫で、家でゴロゴロとテレ日も友人と会うのが億劫で、家でゴロゴロとテレビを見て過ごすようになった。ビを見て過ごすようになった。

  勤務は午前中が倦怠感が強く能率が落ちた感じ  勤務は午前中が倦怠感が強く能率が落ちた感じがしたが、午後からは幾分楽になった。辛いなががしたが、午後からは幾分楽になった。辛いながらも何とか出社していたところ、らも何とか出社していたところ、 33 ヶ月ほどでうヶ月ほどでうつ状態は改善した。その後は以前のように調子がつ状態は改善した。その後は以前のように調子が戻り、再び張り切って事務の仕事を続けていた。戻り、再び張り切って事務の仕事を続けていた。

3434 歳歳

   3535 歳時、歳時、 66 月ころから、特に理由なく、自信がみな月ころから、特に理由なく、自信がみなぎるようになった。寝る間を惜しんで勉強し、仕事とはぎるようになった。寝る間を惜しんで勉強し、仕事とは無関係の資格を立て続けに無関係の資格を立て続けに 44 つとった。つとった。 部下を連れて毎日飲みに行き、気前良くおごってしま 部下を連れて毎日飲みに行き、気前良くおごってしまったり、妻に毎日プレゼントを買って帰ったり、金遣いったり、妻に毎日プレゼントを買って帰ったり、金遣いが荒くなった。が荒くなった。 気分は良いが、些細なことでイライラしやすくなり、 気分は良いが、些細なことでイライラしやすくなり、同僚から怒りっぽいことを指摘された。次第に上司に横同僚から怒りっぽいことを指摘された。次第に上司に横柄な口のきき方をするようになり、職場で問題となった柄な口のきき方をするようになり、職場で問題となったが、が、 33 ヶ月ほどで軽躁状態は改善した。ヶ月ほどで軽躁状態は改善した。  

3434 歳歳3535 歳歳

       3737 歳時、歳時、 1111 月に事務部門の係長に昇進した後から、月に事務部門の係長に昇進した後から、自信がなくなり、些細な事が心配となりミスをしていな自信がなくなり、些細な事が心配となりミスをしていないかと書類を何度も確認するようになった。早朝いかと書類を何度も確認するようになった。早朝 44 時に時に目覚め、再び眠れなくなった。動悸がし、自分が心臓病目覚め、再び眠れなくなった。動悸がし、自分が心臓病なのではないかと心配になった。食事は取れているものなのではないかと心配になった。食事は取れているものの、何を食べても砂をかんでいるようで美味しくなかっの、何を食べても砂をかんでいるようで美味しくなかった。頭がモヤモヤして仕事に集中できず、朝方は特に辛た。頭がモヤモヤして仕事に集中できず、朝方は特に辛く、ついに出社できなくなった。仕事に行けない焦りはく、ついに出社できなくなった。仕事に行けない焦りはつのる一方だったが、体は億劫で動かず、次第に家族につのる一方だったが、体は億劫で動かず、次第に家族に「生きていても仕方がない」と話すようになった。「生きていても仕方がない」と話すようになった。

  このため家族に伴われ翌年  このため家族に伴われ翌年 11 月に当院初診した。月に当院初診した。

3434 歳歳3535 歳歳

3737 歳歳

    3737 歳時、当院精神科を初診した。歳時、当院精神科を初診した。 

 採血や心電図などの体の検査では特に問題なく、心と体のエネルギーが低下した “うつ状態” と考えられます。  過去に軽躁病エピソードがあり、現在は双極 II型障害のうつ状態と考えられます。 インシュリンが足りなくなって血糖値が上がる糖尿病などの体の病気と同じように、脳の神経物質の乱れが起きていて、気分や意欲に関してのバランス調整が取れなくなった状態です。

当院初診当院初診

躁うつ病(うつ状態)躁うつ病(うつ状態)

3434 歳歳 3535 歳歳 3737 歳歳

一回目の受診:治療の説明一回目の受診:治療の説明

   双極性障害の治療の基本は双極性障害の治療の基本は 1.十分な休養をとる 1.十分な休養をとる 2.気分安定薬をのむ 2.気分安定薬をのむ 3.環境を調整する  3.環境を調整する の3つです。の3つです。 必ずよくなる病気ですから、一緒 必ずよくなる病気ですから、一緒に治療をすすめていきましょう。まに治療をすすめていきましょう。まずは十分な休養をとってください。ずは十分な休養をとってください。休息が必要であることの職場への診休息が必要であることの職場への診断書を書きますが、よろしいですか?断書を書きますが、よろしいですか?ゆっくり休めるように家族の方も、ゆっくり休めるように家族の方も、ご協力お願いします。「あれしたらご協力お願いします。「あれしたら・・・これしたら・・・」と励まさ・・・これしたら・・・」と励まさないようにしてください。ないようにしてください。

一回目の受診:治療の開始一回目の受診:治療の開始

     いきなり抗うつ薬を使うと躁転の危険がありますので、今日は、神経物質の乱れを整える、「炭酸リチウム」という気分安定薬を処方します。効果が出るまで 3~ 4週間かかりますので、効果がないからとやめないでください。手の振るえや喉が渇くなどの副作用がでることがありますので、出現した場合は教えてください。これで改善しなければ、弱い抗うつ薬を処方します。必ずよくなる病気ですので、自殺だけはしないように約束してください。 

二回目の受診(二回目の受診( 1414 日後)日後)

     先生の診断書を出して仕事を休先生の診断書を出して仕事を休んでからんでから、あせりや不安は少しま、あせりや不安は少しましになり、「生きていても仕方がしになり、「生きていても仕方がない」と思うことはなくなりましない」と思うことはなくなりました。た。 おいしくは感じませんが食事も おいしくは感じませんが食事も少し食べれるようになり、夜も睡少し食べれるようになり、夜も睡眠薬のおかげで少しは眠れるよう眠薬のおかげで少しは眠れるようになりました。 になりました。  でもまだ体がだるくて、家で寝 でもまだ体がだるくて、家で寝てばかりいます。てばかりいます。

二回目の受診(二回目の受診( 1414 日後)日後)

      薬を飲み、ゆっくり休んでくだ薬を飲み、ゆっくり休んでくださったおかげで、食べたり寝むれさったおかげで、食べたり寝むれたりと少しずつよくなっていますたりと少しずつよくなっていますよ。よ。  手の振るえなどの副作用はあり手の振るえなどの副作用はありませんか?ませんか?今回は、血中濃度を測ってから、今回は、血中濃度を測ってから、リチウムを十分量に増やしましょリチウムを十分量に増やしましょう。その調子で、休養を上手にとう。その調子で、休養を上手にとってください。休めば休むほど体ってください。休めば休むほど体のだるさはとれてきますよ。のだるさはとれてきますよ。

三回目の受診(三回目の受診( 2828 日後)日後)

     家族には迷惑をかけていると思家族には迷惑をかけていると思うのですが、協力してくれて、ゆうのですが、協力してくれて、ゆっくりできています。っくりできています。 先週くらいからおなかも空くよ 先週くらいからおなかも空くようになり、夜も眠った感じがするうになり、夜も眠った感じがするようになりました。そろそろ仕事ようになりました。そろそろ仕事もいけそうな感じがするのですが、もいけそうな感じがするのですが、今日先生に相談してからと思い、今日先生に相談してからと思い、まだ仕事は休んでいます。まだ仕事は休んでいます。

三回目の受診(三回目の受診( 2828 日後)日後)

     大分良くなってますが、まだま大分良くなってますが、まだまだ休息が必要な状態です。充電期だ休息が必要な状態です。充電期間だと思って、スローペースな生間だと思って、スローペースな生活でいきましょう。ゆれ戻しが来活でいきましょう。ゆれ戻しが来ることもありますので、来月までることもありますので、来月まで様子を見て、調子がよければ、復様子を見て、調子がよければ、復職を相談していきましょう。職を相談していきましょう。気分が良すぎたり、活動しすぎて気分が良すぎたり、活動しすぎてしまうことはありませんか?しまうことはありませんか?リチウムは躁うつ病相の再発予防リチウムは躁うつ病相の再発予防にも有効ですので、良くなってもにも有効ですので、良くなってもしばらく内服を続けてください。しばらく内服を続けてください。 

当院初診当院初診

躁うつ病(うつ状態)躁うつ病(うつ状態)

3434 歳歳 3535 歳歳 3737 歳歳

炭酸リチウム炭酸リチウム

躁うつ病のうつ状態の薬物治療の概要【武蔵病躁うつ病のうつ状態の薬物治療の概要【武蔵病院】院】

双極性うつ病双極性うつ病

炭酸リチウムの追加または増量炭酸リチウムの追加または増量

選択セロトニン再取り込み阻害薬選択セロトニン再取り込み阻害薬またはまたは

選択的セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬選択的セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬の追加の追加

バルプロ酸またはカルバマゼピンの追加バルプロ酸またはカルバマゼピンの追加

ドパミンアゴニストの追加ドパミンアゴニストの追加非定型抗精神病薬の追加非定型抗精神病薬の追加

**精神病の特徴を伴う場合は早期より抗精神病薬併用精神病の特徴を伴う場合は早期より抗精神病薬併用*ラモトリジンがわが国で発売されたら*ラモトリジンがわが国で発売されたら LiLi と同レベルのと同レベルの扱い扱い*気分安定薬以外の無効薬剤は早期に中止*気分安定薬以外の無効薬剤は早期に中止

三環系抗うつ薬の追加(躁転リスク大)三環系抗うつ薬の追加(躁転リスク大)

甲状腺ホルモンの追加甲状腺ホルモンの追加

ECTECT の併用の併用

          

 

 

単極性うつ病単極性うつ病 双極性うつ病双極性うつ病発症頻度発症頻度 多い多い 少ない少ない遺伝性遺伝性 低い低い 高い高い初発年齢初発年齢 中年期~初老期  中年期~初老期   青年期~中年期青年期~中年期病前性格病前性格 執着・メランコリー執着・メランコリー

性格性格循環性格循環性格

発症形態  発症形態      

緩徐緩徐 急速な発症と終息急速な発症と終息

病相期間  病相期間            

比較的短い比較的短い 長い(長い( I I < < IIII ))

病相反復病相反復 比較的少ない比較的少ない 多い多い自殺の危険性自殺の危険性 12%12% 17%(I) 24%(II)17%(I) 24%(II)   薬剤性躁転薬剤性躁転 少ない少ない 多い多い第第 11選択薬選択薬

抗うつ薬抗うつ薬 炭酸リチウム炭酸リチウム

単極性うつ病と躁うつ病のうつ状態(双極性うつ病)の比較単極性うつ病と躁うつ病のうつ状態(双極性うつ病)の比較

軽躁病エピソードは見逃されうつ病と診断されることがある軽躁病エピソードは見逃されうつ病と診断されることがある

双極性うつ病と単極性うつ病の治療は異なるが、双極性うつ病と単極性うつ病の治療は異なるが、うつ状態で受診したときに軽躁病エピソードは見逃うつ状態で受診したときに軽躁病エピソードは見逃されることが多く、双極性うつ病のされることが多く、双極性うつ病の 33 分の1が単分の1が単極性うつ病と誤診されている。(極性うつ病と誤診されている。( Ghaemi2000Ghaemi2000 ))

症例2:症例2: BB さん(さん( 5151 歳男性 大学教授)歳男性 大学教授)家族歴家族歴:: 特記なし 特記なし現病歴現病歴:: 大学院卒業後、出身大学の講師、助教授を 大学院卒業後、出身大学の講師、助教授を経て、経て、 5151 歳時より教授職。歳時より教授職。   3535 歳ころより、毎年秋になると、寝つきが悪く、体歳ころより、毎年秋になると、寝つきが悪く、体がだるくなり、仕事に気乗りがしない日が続くことががだるくなり、仕事に気乗りがしない日が続くことがあった。仕事に支障はなく、毎年春になると回復するあった。仕事に支障はなく、毎年春になると回復するため、うつ状態とは思わずあまり気にはしていなかっため、うつ状態とは思わずあまり気にはしていなかった。た。   4949 歳の秋、いつになく気分が落ち込み、寝つきが悪歳の秋、いつになく気分が落ち込み、寝つきが悪く、やっと寝付いても夜中に何度も目を覚ますようにく、やっと寝付いても夜中に何度も目を覚ますようになった。食欲が低下し、疲れやすく、授業をするのがなった。食欲が低下し、疲れやすく、授業をするのが困難となり、休職。次第に自分などいなくなった方が困難となり、休職。次第に自分などいなくなった方が大学や学生のためではないかと思うようになった。大学や学生のためではないかと思うようになった。    

  学部長の勧めで、近医精神科受診。うつ病と診断され、学部長の勧めで、近医精神科受診。うつ病と診断され、パロキセチン(パロキセチン( SSRISSRI )を処方された。うつ症状は)を処方された。うつ症状は 44 ヶヶ月ほどで改善し、再び教壇に立つようになったが、近医月ほどで改善し、再び教壇に立つようになったが、近医への通院は続け、再発予防のため抗うつ薬内服は継続しへの通院は続け、再発予防のため抗うつ薬内服は継続していた。ていた。   11 年後の年後の 5151 歳時の春、特に誘因なく、自信がみなぎ歳時の春、特に誘因なく、自信がみなぎり、気分が高揚し、朝4時から大学に行き、論文を書きり、気分が高揚し、朝4時から大学に行き、論文を書き始めるようになった。次第に多弁となり、機嫌よく話し始めるようになった。次第に多弁となり、機嫌よく話し続ける一方で、家族や学生に怒りっぽくなった。学内規続ける一方で、家族や学生に怒りっぽくなった。学内規則を守れず、学生を連日飲みに連れ出し、自分の業績の則を守れず、学生を連日飲みに連れ出し、自分の業績の自慢話が多くなった。みかねた同僚の教員や家族が休職自慢話が多くなった。みかねた同僚の教員や家族が休職するように勧めたが、「俺の仕事の邪魔をするな」と周するように勧めたが、「俺の仕事の邪魔をするな」と周囲が止めるのを聞かずに大学に出勤した。家族が主治医囲が止めるのを聞かずに大学に出勤した。家族が主治医に相談し抗うつ薬を中止されたが、軽躁状態が改善しなに相談し抗うつ薬を中止されたが、軽躁状態が改善しないため当院紹介受診した。いため当院紹介受診した。  

軽躁病エピソードは見逃されうつ病と誤診されることがある軽躁病エピソードは見逃されうつ病と誤診されることがある

双極双極 IIII 型障害型障害の軽躁状態と診断しの軽躁状態と診断し炭酸リチウム炭酸リチウム開始。開始。軽躁状態は改善し、以後再発もない。軽躁状態は改善し、以後再発もない。

炭酸リチウム炭酸リチウム当院初診当院初診

妻の話によれば、過去妻の話によれば、過去 22回ほど春から夏にかけ、いつもより多回ほど春から夏にかけ、いつもより多弁で、仕事のやる気にあふれ、朝早く大学に出勤し、短期間に弁で、仕事のやる気にあふれ、朝早く大学に出勤し、短期間に論文を仕上げるという年があった。妻や同僚は仕事にやる気が論文を仕上げるという年があった。妻や同僚は仕事にやる気が出ているだけと思っており、軽躁病とは思わなかった。出ているだけと思っており、軽躁病とは思わなかった。

パロキセチンパロキセチン

毎年秋から冬の軽うつ病エピソード毎年秋から冬の軽うつ病エピソード

3535 歳歳 4949 歳歳 5151 歳歳

抗うつ薬投与を契機に躁うつ病に気付かれることがあるうつ薬投与を契機に躁うつ病に気付かれることがある

• 単極性うつ病を 単極性うつ病を 1111 年間追跡すると、年間追跡すると、 3.93.9 %が双極%が双極 II型型    8.6%8.6% が双極が双極 IIII 型に移行した(型に移行した( Akiskal1995)Akiskal1995) 。。• 双極性障害の双極性障害の 56%56% は以前に単極性うつ病と診断されは以前に単極性うつ病と診断されたこと たこと がある がある (Ghaemi2000)(Ghaemi2000) 。。躁うつ病は意外と多いが、躁うつ病は意外と多いが、躁や軽躁病の既往のない初回躁や軽躁病の既往のない初回うつ病エピソードうつ病エピソードでは、では、単極性うつ病単極性うつ病との鑑別が困難との鑑別が困難。。そのためそのため気分安定薬気分安定薬の投与なしにの投与なしに抗うつ薬抗うつ薬を投与されを投与され躁躁転転することがある。することがある。

 病前性格として精力性病前性格として精力性 若年発症 若年発症 うつ病エピソードの遷延化 うつ病エピソードの遷延化  双極性障害の遺伝歴双極性障害の遺伝歴 頻回のうつ病エピソードの既往ならびに入院歴 頻回のうつ病エピソードの既往ならびに入院歴 非定型病像やメランコリー病像 非定型病像やメランコリー病像  薬剤性の(軽)躁状態を呈した既往薬剤性の(軽)躁状態を呈した既往

初回うつ病相のみで双極性障害を診断できるか?初回うつ病相のみで双極性障害を診断できるか?初回うつ病相のみで双極性障害を診断できるか?初回うつ病相のみで双極性障害を診断できるか?

躁うつ病になりやすいうつ状態がある躁うつ病になりやすいうつ状態がある

双極双極 IIIIII 型障害型障害として双極性障害の仲間(として双極性障害の仲間( Soft Soft bipolar spectrumbipolar spectrum )に含めたほうがいいという)に含めたほうがいいという意見もある。意見もある。

症例6:症例6: FF さん(さん( 2929 歳歳男性 内科医師)男性 内科医師)家族歴家族歴: : 父親が躁うつ病父親が躁うつ病現病歴現病歴:: 医学部卒業後、研修を終え、病院勤務。 医学部卒業後、研修を終え、病院勤務。 2424 歳時、歳時、結婚し結婚し 11 子をもうける。子をもうける。社交的社交的、、精力的精力的で、責任感の強い性格。で、責任感の強い性格。2727 歳時に、大学病院から現在の総合病院に転勤し、多忙な生歳時に、大学病院から現在の総合病院に転勤し、多忙な生活であった。活であった。 2828 歳時の秋、寝つきが悪くなり、動悸、胃部不歳時の秋、寝つきが悪くなり、動悸、胃部不快感、嘔気、眩暈などの身体症状が出現した。心配になり、各快感、嘔気、眩暈などの身体症状が出現した。心配になり、各種検査をしたが身体的に異常はなかった。同僚医師に相談した種検査をしたが身体的に異常はなかった。同僚医師に相談したところうつ病を疑われミルナシプランところうつ病を疑われミルナシプラン (SNRI)(SNRI) を服用開始。身を服用開始。身体症状や寝つきの悪さは、1ヶ月で改善したが、その後、気分体症状や寝つきの悪さは、1ヶ月で改善したが、その後、気分が高まり、イライラしやすく、多弁で同僚に過干渉となったたが高まり、イライラしやすく、多弁で同僚に過干渉となったため、め、抗うつ薬誘発性の軽躁状態抗うつ薬誘発性の軽躁状態を疑われ、同僚医師の勧めでミを疑われ、同僚医師の勧めでミルナシプラン中止、以後軽躁状態は改善し、問題なく勤務を続ルナシプラン中止、以後軽躁状態は改善し、問題なく勤務を続けていた。けていた。

  

2929 歳時、再び早朝に覚醒しその後眠ることができず、食事が美味しく感歳時、再び早朝に覚醒しその後眠ることができず、食事が美味しく感じられなくなった。趣味のゴルフも楽しめなくなり、じられなくなった。趣味のゴルフも楽しめなくなり、 TVTV も見るのが億も見るのが億劫となった。午前中の疲労感が強く、勤務が辛くなった。同僚から睡眠劫となった。午前中の疲労感が強く、勤務が辛くなった。同僚から睡眠薬を処方してもらい辛うじて仕事は続けていたが、うつ症状が改善しな薬を処方してもらい辛うじて仕事は続けていたが、うつ症状が改善しないため、同僚医師に相談し、再びミルナシプランいため、同僚医師に相談し、再びミルナシプラン (SNRI)(SNRI) を服用。徐々にを服用。徐々にうつ症状は改善したが、うつ症状は改善したが、 11 ヶ月程度で多弁で同僚に過干渉となり、香水ヶ月程度で多弁で同僚に過干渉となり、香水をつけて病院に行くなどの行動が見られた。をつけて病院に行くなどの行動が見られた。ミルナシプランを中止しても軽躁症状が進行するため、当院初診した。ミルナシプランを中止しても軽躁症状が進行するため、当院初診した。

  

初診時の印象初診時の印象爽快気分を認め、多弁で、自分がいかに一生懸命仕事をして爽快気分を認め、多弁で、自分がいかに一生懸命仕事をしているか話す。医師が質問しても自分の話が止まらず、「ここいるか話す。医師が質問しても自分の話が止まらず、「ここ2ヶ月ずっとテンションが高い」と自覚がある。2ヶ月ずっとテンションが高い」と自覚がある。      

抗うつ薬を契機に躁うつ病に気付かれることがある

双極双極 IIII型障害の軽躁状態型障害の軽躁状態と診断。一時休職を進め、バルプロと診断。一時休職を進め、バルプロ酸を使用。1ヶ月で症状改善し、その後再発はない。酸を使用。1ヶ月で症状改善し、その後再発はない。

バルプロ酸バルプロ酸ミルナシプラミルナシプランン

当院初診当院初診

確かにこの時点では、うつ病と診断し抗うつ薬を服用するのは確かにこの時点では、うつ病と診断し抗うつ薬を服用するのは正しい判断。正しい判断。もしも自分が躁うつ病だったと分かっていれば、まず気分安定もしも自分が躁うつ病だったと分かっていれば、まず気分安定薬を使うはずだが、分からないのは当然。薬を使うはずだが、分からないのは当然。

こちらの時点では、躁うつ病の遺伝歴に加え、抗うつ薬誘発性こちらの時点では、躁うつ病の遺伝歴に加え、抗うつ薬誘発性の躁転歴があるため、気分安定薬を使ったほうが良かったかもの躁転歴があるため、気分安定薬を使ったほうが良かったかも・・・。・・・。

2828 歳歳 2929 歳歳

躁うつ病のそう状態(そう病)躁うつ病のそう状態(そう病)

うつ病エピソードうつ病エピソード

躁病エピソード躁病エピソード

症例3:症例3: CC さん(さん( 3636 歳男性、会社員)歳男性、会社員)家族歴家族歴: : 母が躁うつ病で精神科通院歴あり。母が躁うつ病で精神科通院歴あり。現病歴現病歴::   3131 歳時結婚。営業歳時結婚。営業 1010 年のベテラン。明るく年のベテラン。明るくユーモアがあり友人が多い。ユーモアがあり友人が多い。   44 年前の年前の 3232 歳時、仕事にやる気がでず、取引先と話歳時、仕事にやる気がでず、取引先と話すのが億劫で営業のノルマが達成できないことがあった。すのが億劫で営業のノルマが達成できないことがあった。眠れなくなり、はじめて会社を無断欠勤した。体がだる眠れなくなり、はじめて会社を無断欠勤した。体がだるく自宅でゴロゴロして過ごすことが多く、会社には出たく自宅でゴロゴロして過ごすことが多く、会社には出たり出なかったりの日が続いた。仕事への自信がなくなり、り出なかったりの日が続いた。仕事への自信がなくなり、「仕事を辞めよう」と考えていたが、病気とは思わず、「仕事を辞めよう」と考えていたが、病気とは思わず、受診はしなかった。受診はしなかった。   22 ヶ月ほどで自然に元気が出て、再び毎日出社できるヶ月ほどで自然に元気が出て、再び毎日出社できるようになり、元のように仕事ができるようになった。そようになり、元のように仕事ができるようになった。その後は、元通りやり手の営業マンとして仕事を順調にこの後は、元通りやり手の営業マンとして仕事を順調にこなしていた。なしていた。  

   44 年後の年後の 3636 歳時、理由なく自信がみなぎり、仕事の歳時、理由なく自信がみなぎり、仕事の自慢ばかり多弁に話すようになり、同僚から「テンショ自慢ばかり多弁に話すようになり、同僚から「テンションが高い」、「性格が変わった」と指摘されるようになンが高い」、「性格が変わった」と指摘されるようになった。新車を3台を立て続けに注文したり、高級なクラった。新車を3台を立て続けに注文したり、高級なクラブで毎日すべてをおごったりし、やがて消費者金融からブで毎日すべてをおごったりし、やがて消費者金融から金を借りるようになった。仕事のやる気にあふれ、ほと金を借りるようになった。仕事のやる気にあふれ、ほとんど睡眠をとらず、取引先に深夜まで横柄な口調で電話んど睡眠をとらず、取引先に深夜まで横柄な口調で電話を掛け続けた。先方より非常識であることを指摘されるを掛け続けた。先方より非常識であることを指摘されると、取引先を怒鳴るなど仕事上のと、取引先を怒鳴るなど仕事上のトラブルが絶えなくなトラブルが絶えなくなった。った。 「俺は天才だから、今の会社を辞め会社をおこし大も 「俺は天才だから、今の会社を辞め会社をおこし大もうけする」と話すようになり、周囲が止めるのも聞かずうけする」と話すようになり、周囲が止めるのも聞かず社長室に乗り込み社長に出資を求めるなどの逸脱行動が社長室に乗り込み社長に出資を求めるなどの逸脱行動が見られた。家族や同僚が通院を勧めたが、「俺を精神病見られた。家族や同僚が通院を勧めたが、「俺を精神病にするのか!」と怒鳴りちらし、暴力を振るった。にするのか!」と怒鳴りちらし、暴力を振るった。 家族と上司に強制的に連れられて当院を受診した。 家族と上司に強制的に連れられて当院を受診した。

   初診時の印象 初診時の印象  初診時、問診に対してすべて「イエス!」「ドゥーユー?」など英語で答え、多弁で上機嫌。  初診時、問診に対してすべて「イエス!」「ドゥーユー?」など英語で答え、多弁で上機嫌。「会社をつくれば「会社をつくれば1010 億もうかる」など誇大妄想を話し続けるが、話題は次々と飛んでまとまらな億もうかる」など誇大妄想を話し続けるが、話題は次々と飛んでまとまらない。い。

  躁うつ病(双極I型障害)の躁状態であることを説明し、服薬および入院の必要性を説明するが、  躁うつ病(双極I型障害)の躁状態であることを説明し、服薬および入院の必要性を説明するが、「損害賠償するぞ!」「損害賠償するぞ!」

  「俺は絶好調だ!病気ではない、バカ医者め!」と服薬は拒否する。  「俺は絶好調だ!病気ではない、バカ医者め!」と服薬は拒否する。    

妻妻の同意を得て、医療保護入院とし、個室施錠にて治療の同意を得て、医療保護入院とし、個室施錠にて治療開始。上機嫌に歌を歌いだしたかと思うと、薬は飲まな開始。上機嫌に歌を歌いだしたかと思うと、薬は飲まないと興奮しドアを蹴るなど、意にそぐわぬことがあるといと興奮しドアを蹴るなど、意にそぐわぬことがあると些細なことで興奮状態となった。 些細なことで興奮状態となった。 

当院入院当院入院

躁うつ病(双極Ⅰ型障害の躁状態)躁うつ病(双極Ⅰ型障害の躁状態)

33 週間で躁症状は改善し、職場でのトラブルや浪費を悔週間で躁症状は改善し、職場でのトラブルや浪費を悔いた。「再発したら大変ですから」と服薬理解が得られ、いた。「再発したら大変ですから」と服薬理解が得られ、再発予防のため炭酸リチウムを内服開始し、再発予防のため炭酸リチウムを内服開始し、 22 ヶ月後退ヶ月後退院。再発はない。院。再発はない。

炭酸リチウム炭酸リチウム抗精神病薬静脈注射抗精神病薬静脈注射

再三の服薬の必要性の説明も、了解が得られず、抗精神再三の服薬の必要性の説明も、了解が得られず、抗精神病薬の静脈注射にて治療開始した。徐々に躁症状は改善。病薬の静脈注射にて治療開始した。徐々に躁症状は改善。

3232 歳歳 3636 歳歳

そう・うつ混合状態(不快そうそう・うつ混合状態(不快そう病)病)

躁病エピソード躁病エピソード

うつ病エピソードうつ病エピソード

症例4:症例4: DD さん(さん( 3131 歳女性、主婦)歳女性、主婦)家族歴家族歴::母方祖母が出産後うつ状態母方祖母が出産後うつ状態現病歴現病歴::高卒後、事務員として働き、高卒後、事務員として働き、 2525 歳で職場結婚歳で職場結婚した。した。 2626 歳時、妊娠を契機に退職した。正常分娩し、歳時、妊娠を契機に退職した。正常分娩し、出産後は、母子ともに健康であったが、出産出産後は、母子ともに健康であったが、出産 33 ヶ月後ヶ月後よりイライラして夜寝れなくなった。気分が沈み、今よりイライラして夜寝れなくなった。気分が沈み、今までこなしていた家事や育児が億劫となり、「育児にまでこなしていた家事や育児が億劫となり、「育児に自信がない」と涙ながらに夫に訴えるようになった。自信がない」と涙ながらに夫に訴えるようになった。他院精神科を受診し、産後うつ病と診断され、外来に他院精神科を受診し、産後うつ病と診断され、外来にてアモキサピンてアモキサピン ((三環系抗うつ薬三環系抗うつ薬 )) を処方されを処方され 33 ヶ月ヶ月でうつ状態は軽快し、服薬を中止した。でうつ状態は軽快し、服薬を中止した。   2828 歳時、特に理由なく気分が高揚するようになり、歳時、特に理由なく気分が高揚するようになり、子育てを放棄し、毎日のように友人と外出し、ブラン子育てを放棄し、毎日のように友人と外出し、ブランド品を買い漁り、夫以外の恋人を作った。軽躁状態とド品を買い漁り、夫以外の恋人を作った。軽躁状態と判断され、他院にて炭酸リチウムが開始となり、判断され、他院にて炭酸リチウムが開始となり、 22 ヶヶ月で軽躁状態は改善した。 月で軽躁状態は改善した。 

 その後は、夫とも和解し、再び育児と家事を問題なくこ その後は、夫とも和解し、再び育児と家事を問題なくこなしていた。なしていた。   3131 歳時、子供の幼稚園入学を契機に、再び気分が落ち歳時、子供の幼稚園入学を契機に、再び気分が落ち込み、子供がいじめられるのではと心配するようになった。込み、子供がいじめられるのではと心配するようになった。毎日のように頭痛、めまい、動悸、寒気を夫に訴えるよう毎日のように頭痛、めまい、動悸、寒気を夫に訴えるようになった。家事ができなくなり、になった。家事ができなくなり、 11 日中横になって過ご日中横になって過ごすことが増え、次第に「子供と一緒に死にたい」と話すよすことが増え、次第に「子供と一緒に死にたい」と話すようになった。うになった。 このため他院にて炭酸リチウムと併用してアモキサピン このため他院にて炭酸リチウムと併用してアモキサピン(三環系抗うつ薬)が再開された。 (三環系抗うつ薬)が再開された。 33週間程度で、活動週間程度で、活動性は改善し、外出できるようになったが、気分の落ち込み性は改善し、外出できるようになったが、気分の落ち込みやイライラ感、死にたい気持ちなどのうつ症状は持続した。やイライラ感、死にたい気持ちなどのうつ症状は持続した。再び大量のブランド品を買い求めるようになり、金遣いが再び大量のブランド品を買い求めるようになり、金遣いが荒くなった。幼稚園で他児の母親から借金をしたり、幼稚荒くなった。幼稚園で他児の母親から借金をしたり、幼稚園の男性教諭を理由なく食事に誘ったりすることがあった。園の男性教諭を理由なく食事に誘ったりすることがあった。

  

初診時の印象初診時の印象  診察時は多弁だが、不機嫌でイライラした様子で、突然泣き出すなど  診察時は多弁だが、不機嫌でイライラした様子で、突然泣き出すなど情緒不安定。多弁、過活動、乱費、性的逸脱行動などの軽躁症状を認め情緒不安定。多弁、過活動、乱費、性的逸脱行動などの軽躁症状を認める一方で、抑うつ気分、不安、イライラ感、希死念慮などのうつ症状をる一方で、抑うつ気分、不安、イライラ感、希死念慮などのうつ症状を伴っていた。伴っていた。

一方、家庭では、気分の落ち込みが持続し、家事は億劫一方、家庭では、気分の落ち込みが持続し、家事は億劫でできず、一日中イライラして不機嫌で、夫が注意するでできず、一日中イライラして不機嫌で、夫が注意すると「もう死にたい」と薬を大量に飲んだり、リストカッと「もう死にたい」と薬を大量に飲んだり、リストカットをして、自殺を図ることがしばしばあった。軽躁症状トをして、自殺を図ることがしばしばあった。軽躁症状がある一方、抑うつ気分やイライラ感、希死念慮などのがある一方、抑うつ気分やイライラ感、希死念慮などのうつ症状が強く、自殺企図を繰り返すため、当院紹介さうつ症状が強く、自殺企図を繰り返すため、当院紹介され入院した。れ入院した。

当院初診当院初診

躁うつ病(不快躁病:躁うつ混合状態)躁うつ病(不快躁病:躁うつ混合状態)

アモキサピアモキサピンン

アモキサピンアモキサピン

 炭酸リチウム 炭酸リチウムバルプロ酸バルプロ酸

不快躁病(躁うつ混合状態)と診断し、アモキサピン不快躁病(躁うつ混合状態)と診断し、アモキサピン(抗うつ薬)を中止し、バルプロ酸を追加した。(抗うつ薬)を中止し、バルプロ酸を追加した。 22 ヶ月ヶ月で躁うつ混合状態は改善し退院。その後再発はない。で躁うつ混合状態は改善し退院。その後再発はない。

2626 歳歳 2828 歳歳 3131 歳歳

炭酸リチウムまたはバルプロ酸炭酸リチウムまたはバルプロ酸

抗うつ薬の投与中止抗うつ薬の投与中止

双極性障害 躁状態双極性障害 躁状態

非定型抗精神病薬追加非定型抗精神病薬追加

多幸性多幸性 混合性混合性

リチウム・バルプロ酸・カルバマゼピンのうちリチウム・バルプロ酸・カルバマゼピンのうち 22 剤併用剤併用

非定型の変更非定型の変更

バルプロ酸バルプロ酸*状態により定型抗精神病薬静注*気分安定薬以外の無効薬剤は  早期に中止* BZP を併用することがある*精神病の特徴を伴う場合は早期より 抗精神病薬併用

定型抗精神病薬の使用定型抗精神病薬の使用または

ECTECT or

躁うつ病の躁状態の薬物治療の概要【武蔵病院】躁うつ病の躁状態の薬物治療の概要【武蔵病院】

リチウム・バルプロ酸・カルバマゼピンの3剤併用リチウム・バルプロ酸・カルバマゼピンの3剤併用

症例7:症例7: GG さん(さん( 3535 歳男性、公務員)歳男性、公務員)家族歴家族歴::父親がうつ病で自殺父親がうつ病で自殺現病歴現病歴::大学卒業後、省庁勤務。大学卒業後、省庁勤務。 2525 歳職場結婚し、1子を歳職場結婚し、1子をもうけた。中学校頃より、慢性的空虚感があり自信のない性もうけた。中学校頃より、慢性的空虚感があり自信のない性格。格。   3030 歳時、職場の上司が代わり、叱られることが増えた。歳時、職場の上司が代わり、叱られることが増えた。通勤中の電車で、職場への嫌悪感が募り、めまい、動悸が出通勤中の電車で、職場への嫌悪感が募り、めまい、動悸が出現するようになった。イライラすると、リストカットを繰り現するようになった。イライラすると、リストカットを繰り返すようになった。上司に勧められ、近医精神科を初診。過返すようになった。上司に勧められ、近医精神科を初診。過食や自傷行為を認め、「パーソナリティ障害」と診断された。食や自傷行為を認め、「パーソナリティ障害」と診断された。各種抗うつ薬服用し効果なかったが、各種抗うつ薬服用し効果なかったが、 3131 歳時、職場移動し歳時、職場移動したことを契機に職場に行けるようになった。たことを契機に職場に行けるようになった。その後も新しいその後も新しい上司との関係の悪化や家族とのケンカの度に、周囲に見捨て上司との関係の悪化や家族とのケンカの度に、周囲に見捨てられてしまう不安や空しさが強まり、情緒不安定となり、仕られてしまう不安や空しさが強まり、情緒不安定となり、仕事を休むことが多かった。事を休むことが多かった。

 空しさが強まり 空しさが強まり情緒不安定となると、「すっきりする情緒不安定となると、「すっきりするから」とピアッシング、リストカット、大量服薬などのから」とピアッシング、リストカット、大量服薬などの自傷行為を繰り返し、時にイライラして妻や子供に手を自傷行為を繰り返し、時にイライラして妻や子供に手をあげることがあった。あげることがあった。 仕事への不満が強く、休むことが多い一方で、友人と 仕事への不満が強く、休むことが多い一方で、友人と遊ぶのは楽しく、しばしば飲み会やパチンコに出かけ乱遊ぶのは楽しく、しばしば飲み会やパチンコに出かけ乱費した。職場の配慮で仕事量を軽減されると「職場にい費した。職場の配慮で仕事量を軽減されると「職場にいらない人間」と、被害的となり、上司とケンカをし、そらない人間」と、被害的となり、上司とケンカをし、その罪悪感から自傷行為を繰り返した。境界性パーソナリの罪悪感から自傷行為を繰り返した。境界性パーソナリティ障害と診断され、ティ障害と診断され、各種の抗うつ薬や心理療法を試さ各種の抗うつ薬や心理療法を試されたが改善なく、れたが改善なく、 当院紹介受診した。当院紹介受診した。

初診時の印象初診時の印象  茶髪でピアスを  茶髪でピアスを 1010箇所あけている。多弁で気分は高揚し、他責的で職場箇所あけている。多弁で気分は高揚し、他責的で職場

に対する不満を話しつづける。イライラした様子で、話が上司のことに及ぶに対する不満を話しつづける。イライラした様子で、話が上司のことに及ぶと突然泣き出すなど情緒不安定。慢性的な自信低下、空虚感と希死念慮、見と突然泣き出すなど情緒不安定。慢性的な自信低下、空虚感と希死念慮、見捨てられ不安、自傷行為、過食を認めた。捨てられ不安、自傷行為、過食を認めた。

抗うつ薬を中止し、バルプロ酸開始したところ、上記のすべて抗うつ薬を中止し、バルプロ酸開始したところ、上記のすべての症状は消失し職場適応や自傷行為も改善し、再発はない。の症状は消失し職場適応や自傷行為も改善し、再発はない。

バルプロ酸バルプロ酸

当院初診当院初診各種抗うつ薬や炭酸リチウム各種抗うつ薬や炭酸リチウム

パーソナリティ障害と紛らわしいケースがある

自信低下、空虚感の増悪、見捨てられ不安、過食、過眠、自信低下、空虚感の増悪、見捨てられ不安、過食、過眠、抑うつ気分、イライラ、自傷行為及び多弁、過活動、他責性抑うつ気分、イライラ、自傷行為及び多弁、過活動、他責性

境界性パーソナリティ障害と診断基準を満たし、経過観察して境界性パーソナリティ障害と診断基準を満たし、経過観察していたが、経過を良く観察すると、症状が病相性に出現していた。いたが、経過を良く観察すると、症状が病相性に出現していた。双極性障害(躁うつ混合状態;非定型)に診断を変更。双極性障害(躁うつ混合状態;非定型)に診断を変更。

3030 歳歳 3535 歳歳

急速交代型(ラピッドサイクラ急速交代型(ラピッドサイクラー)ー)

躁病エピソード躁病エピソード

うつ病エピソードうつ病エピソード

症例5:症例5: EE さん(さん( 3737 歳女性 主婦)歳女性 主婦)

家族歴家族歴: : 祖母が精神疾患で自殺祖母が精神疾患で自殺 ((詳細不明詳細不明 )) 父からの虐待歴あり。父からの虐待歴あり。現病歴現病歴:: 高校卒業後、販売会社に勤務。 高校卒業後、販売会社に勤務。 2222 歳、結婚歳、結婚退職。退職。 2828 歳時、うつ状態となり、以後他院精神科通院し、歳時、うつ状態となり、以後他院精神科通院し、うつ病と診断され抗うつ薬を服用。うつ病と診断され抗うつ薬を服用。 3232 歳時、軽躁病相が出現し、以後は、躁うつ病と診歳時、軽躁病相が出現し、以後は、躁うつ病と診断され、抗うつ薬を中止され炭酸リチウムを服用して断され、抗うつ薬を中止され炭酸リチウムを服用していたが、リチウム十分量の使用にかかわらず、年にいたが、リチウム十分量の使用にかかわらず、年に 22~~ 33 回のうつ病相と軽躁病相の病相交代を繰り返して回のうつ病相と軽躁病相の病相交代を繰り返していた。いた。   3333 歳時より、炭酸リチウムにバルプロ酸の併用を開歳時より、炭酸リチウムにバルプロ酸の併用を開始され、病相交代は年に1~始され、病相交代は年に1~ 22 回に減少した。回に減少した。  

   3535 歳時、夫の失業を機に重症うつ病エピソードが出歳時、夫の失業を機に重症うつ病エピソードが出現し、トフラニール(三環系抗うつ薬)が処方された。現し、トフラニール(三環系抗うつ薬)が処方された。数週間で軽躁状態となり、トフラニールは中止された。数週間で軽躁状態となり、トフラニールは中止された。 以後うつ病相と軽躁病相との病相交代が急速になり、 以後うつ病相と軽躁病相との病相交代が急速になり、月に月に 11 回程度の病相交代が出現するようになった。回程度の病相交代が出現するようになった。 軽躁状態のときには、家事をこなし、旅行に出かけ、 軽躁状態のときには、家事をこなし、旅行に出かけ、アルバイトを見つけ就職するが、アルバイトを見つけ就職するが、 11 ヶ月たたずにうつ状ヶ月たたずにうつ状態となり寝込んでしまい、仕事に行けなくなって退職す態となり寝込んでしまい、仕事に行けなくなって退職することを繰り返すようになった。「頻回の病相交代を治ることを繰り返すようになった。「頻回の病相交代を治したい」という本人の希望があり当院外来受診した。したい」という本人の希望があり当院外来受診した。初診時の印象初診時の印象  きっちり化粧をし、ブランド品で身だしなみを整えている。  きっちり化粧をし、ブランド品で身だしなみを整えている。

自分の病歴を多弁に楽しそうに話した。現在は、気分が良い状自分の病歴を多弁に楽しそうに話した。現在は、気分が良い状態で、家事をこなせており、アルバイトの面接も6件申し込ん態で、家事をこなせており、アルバイトの面接も6件申し込んでいるという。自分でも軽躁状態と自覚していた。でいるという。自分でも軽躁状態と自覚していた。      

  

 年間14回の病相交代を繰り返しており、躁うつ病 年間14回の病相交代を繰り返しており、躁うつ病(双極II型障害)急速交代型の軽躁状態と診断した。(双極II型障害)急速交代型の軽躁状態と診断した。 初診時、躁うつ病の治療教育を行い、治療戦略につい 初診時、躁うつ病の治療教育を行い、治療戦略について本人と話しあった。て本人と話しあった。 まず甲状腺機能低下が病相急速交代に関与している可 まず甲状腺機能低下が病相急速交代に関与している可能性を考え、甲状腺機能正常化を目的に炭酸リチウムを能性を考え、甲状腺機能正常化を目的に炭酸リチウムを中止し、バルプロ酸単剤とした。中止し、バルプロ酸単剤とした。  

【【薬剤血中濃度薬剤血中濃度】】炭酸リチウム炭酸リチウム 1.0mmol/l1.0mmol/l 、バルプロ酸、バルプロ酸 90ug/l90ug/l と十分と十分量。量。【甲状腺機能】 【甲状腺機能】 甲状腺ホルモンは正常だが、甲状腺ホルモンは正常だが、 TSH10.5uIU/mlTSH10.5uIU/ml と炭酸と炭酸リチウムによると考えられる潜在的な甲状腺機能低下リチウムによると考えられる潜在的な甲状腺機能低下あり。あり。

躁うつ病(急速交代型;ラピッドサイクラー)躁うつ病(急速交代型;ラピッドサイクラー)

トフラニールトフラニール炭酸リチウ炭酸リチウムム バルプロ酸バルプロ酸

クロナゼパムクロナゼパム甲状腺ホルモン甲状腺ホルモン

  クロナゼパム追加は効果がなく、甲状腺ホルモンを併用した。クロナゼパム追加は効果がなく、甲状腺ホルモンを併用した。

当院初診当院初診

カルバマゼピンカルバマゼピン

リチウム中止にて甲状腺機能は正常化したが、病相交代に変化リチウム中止にて甲状腺機能は正常化したが、病相交代に変化ないため、カルバマゼピンを追加したところ、うつ病相・躁病ないため、カルバマゼピンを追加したところ、うつ病相・躁病相の程度は軽減した。相の程度は軽減した。

2828 歳歳

3232 歳歳

3535 歳歳 3737 歳歳

バルプロ酸単剤バルプロ酸単剤

抗うつ薬の投与中止抗うつ薬の投与中止

ラピッドサイクラー(ラピッドサイクラー( LiLi+抗うつ薬服用中)+抗うつ薬服用中)

クロナゼパムの併用クロナゼパムの併用

炭酸リチウムの十分な増量炭酸リチウムの十分な増量

炭酸リチウムとバルプロ酸併用炭酸リチウムとバルプロ酸併用

非定型抗精神病薬の併用非定型抗精神病薬の併用

甲状腺ホルモンの併用甲状腺ホルモンの併用

部分反応部分反応非反応・甲状腺機能異常非反応・甲状腺機能異常

炭酸リチウム・バルプロ酸・カルバマゼピンの3剤併用炭酸リチウム・バルプロ酸・カルバマゼピンの3剤併用

*ラモトリジンが発売された*ラモトリジンが発売された  ら ら Li/VPALi/VPA とともに第とともに第 11選択選択*精神病の特徴を伴う場合*精神病の特徴を伴う場合  は早期より抗精神病薬併用  は早期より抗精神病薬併用

ECTECT

炭酸リチウムとカルバマゼピン併用炭酸リチウムとカルバマゼピン併用バルプロ酸とカルバマゼピン併用バルプロ酸とカルバマゼピン併用

ラピッドサイクラーの躁状態の薬物治療の概要【武蔵病ラピッドサイクラーの躁状態の薬物治療の概要【武蔵病院】院】

躁うつ病の躁うつ病の薬物療法以外の治療法薬物療法以外の治療法

とりあえずここまで☆とりあえずここまで☆御静聴ありがとうございました。御静聴ありがとうございました。

修正型電気けいれん療法修正型電気けいれん療法

電気けいれん療法室電気けいれん療法室

麻酔科医麻酔科医精神科医精神科医

看護師看護師

短時間作用型の静脈麻酔と筋弛緩薬短時間作用型の静脈麻酔と筋弛緩薬

呼吸・循環モニター呼吸・循環モニターとその管理とその管理

脳波電極と刺激電極シール脳波電極と刺激電極シールの装着の装着

焼けど防止のための刺激部位の皮膚抵抗測定焼けど防止のための刺激部位の皮膚抵抗測定

刺激電極シール刺激電極シール

脳波電極脳波電極シールシール

バイトバイトブロックブロック

患者さまが眠ったところで・・患者さまが眠ったところで・・

数秒間の通電中数秒間の通電中 パルス波治療器パルス波治療器

通電終了後、自動脳波測定通電終了後、自動脳波測定

通電終了後、数十秒のけいれん波が出現通電終了後、数十秒のけいれん波が出現

1010 分程度で目覚め、病室に帰るが、点滴と酸素吸入を継続。分程度で目覚め、病室に帰るが、点滴と酸素吸入を継続。11 時間後には歩行や食事が可能。時間後には歩行や食事が可能。

11回の治療は約回の治療は約 3030 分。分。これを週これを週 22回、計回、計 44~~ 1212回程度繰り返す。回程度繰り返す。

薬物療法よりもすぐれた急性期の抗うつ(抗そう)効果。薬物療法よりもすぐれた急性期の抗うつ(抗そう)効果。薬剤抵抗性のうつ状態や躁状態にも有効なことが多い。薬剤抵抗性のうつ状態や躁状態にも有効なことが多い。栄養状態の悪化が進行している場合、希死念慮の強い場栄養状態の悪化が進行している場合、希死念慮の強い場合、薬剤の副作用が強い場合、本人が希望する場合など合、薬剤の副作用が強い場合、本人が希望する場合などが第が第 11選択になりうる。選択になりうる。最大の限界は最大の限界は ECTECT 後の再発で、高い急性期効果を示す一後の再発で、高い急性期効果を示す一方、効果が長続きしないことが多いことが問題。方、効果が長続きしないことが多いことが問題。ECTECT 後の再燃予防には十分な維持薬物療法が必要。後の再燃予防には十分な維持薬物療法が必要。薬物療法でコントロール困難な易再発者では、希望によ薬物療法でコントロール困難な易再発者では、希望により、定期的に数回のり、定期的に数回の ECTECT を行う維持を行う維持 ECTECT も可能。も可能。

修正型電気けいれん療法修正型電気けいれん療法

光療法光療法

日照時間に関連してうつ状態日照時間に関連してうつ状態(躁状態)となる季節性気分(躁状態)となる季節性気分障害(特に冬季うつ病)が適障害(特に冬季うつ病)が適応応

光治療室は臥位で5000ル光治療室は臥位で5000ルクスクス

               通常の室内は200~400通常の室内は200~400ルクスルクス

朝6時から2~3時間の照射朝6時から2~3時間の照射(( または夕2時間または夕2時間 )) を数週間を数週間

認知行動療法認知行動療法

出来事出来事AA

受け止め受け止め方方BB

気分と気分とその強さその強さ

CC

違う受け違う受け止め方止め方

B´B´

気分の変気分の変化化C´C´

友人の家友人の家に行き、に行き、友達が仕友達が仕事と主婦事と主婦業を見事業を見事に両立しに両立しているのているのを見たを見た

彼女に比彼女に比べて、自べて、自分は家事分は家事すらまとすらまともにできもにできないだめないだめな人間な人間

悲しみ悲しみ100%100%

罪悪感罪悪感100%100%

恥ずかし恥ずかしささ80%80%

できるとできるときは家事きは家事をこなしをこなしているている今は子育今は子育てが忙してが忙しい時期でい時期で家族も認家族も認めてくれめてくれているている

悲しみ悲しみ40%40%

罪悪感罪悪感40%40%

恥ずかし恥ずかしささ10%10%

うつ状態の患者の認知の歪みに注目しながらその歪みを修正しうつ状態の患者の認知の歪みに注目しながらその歪みを修正していく治療法⇒「思考記録表」ていく治療法⇒「思考記録表」 ((55カラム法カラム法 )) などなど

急性期 維持期躁病(多幸

性)躁病(混合

性)うつ病

Expert Consensus

(2000)

リチウムバルプロ酸

バルプロ酸 リチウム リチウムバルプロ酸

APA(2003)

リチウムバルプロ酸

± オランザピン

リチウムバルプロ酸

± オランザピン

リチウムラモトリジン

リチウムバルプロ酸

TMAP(2003)

リチウムバルプロ酸

オランザピン

バルプロ酸オランザピン

気分安定薬 記載なし

精神科薬物療法研究会

(2003)

リチウムバルプロ酸

テグレトール抗精神病薬

リチウムバルプロ酸

テグレトール抗精神病薬

リチウム抗うつ薬追加テグレトール

バルプロ酸

記載なし

各種アルゴリズムでみる第各種アルゴリズムでみる第 11選択薬選択薬各種アルゴリズムでみる第各種アルゴリズムでみる第 11選択薬選択薬

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