黄色ブドウ球菌菌血症における 感染性心内膜炎合併...

Preview:

Citation preview

黄色ブドウ球菌菌血症における感染性心内膜炎合併診断のStrategy

~経食道心エコーは必要か~SAB IE TEE 適応

分野:感染症テーマ:検査

Clinical Question 2017年3月4日JHospitalist

Network

聖隷浜松病院 総合診療内科作成 服部 悠斗監修 堀 博志

渡邉 卓哉

略語確認

SAB; staphylococcus aureus bacteremia

黄色ブドウ球菌菌血症

IE; infective endocarditis

感染性心内膜炎

TTE; transthoracic echocardiography

経胸壁心エコー

TEE; transesophageal echocardiography

経食道心エコー

【症例】85歳 女性

【主訴】発熱, 嘔吐

【現病歴】

2日前より発熱・嘔吐あり, 当院救急外来受診.

尿路感染症が疑われ精査加療目的に当科入院.

【既往歴】

高血圧, 食道裂孔ヘルニア

80歳 変形性膝関節症(両膝TKA)

82歳 脳出血→左片麻痺

【常用薬】ランソプラゾール

【アレルギー】なし

症例提示

【入院時現症】

GCS:E4V5M6

BT:38.5℃, BP:100/80mmHg, HR:98bpm

RR:24/min, SpO2:91%(room air)

眼瞼結膜や口腔内に点状出血なし.

心雑音聴取せず. 膝関節の発赤腫脹なし.

両手指先に小紅斑の散在あり. 手掌足底に明らかな発疹なし.

【入院後経過】

Day3 血液培養陽性→2/2セット 黄色ブドウ球菌(MSSA)

【診断】

黄色ブドウ球菌菌血症

症例提示

【経胸壁心エコー】

僧帽弁後尖起始部に8mm大の可動性腫瘤

循環器Drコンサルト「非典型的ではあるが, IEを否定出来ない所見.」「しかし, 高齢でありTEEはリスクが高い.」

MR moderate

Clinical Question

SABに対しTEEを施行せずにIEを除外可能か?

1. SABのmanagement

2. IEの検索はTTE?TEE?

3. 臨床的Lowリスクとは?

4. TTEでIEを除外可能?

5. SABにおけるIEの検索strategy

CONTENTS

SABの定義

• SABの前向きコホート研究(n=1809)によると,

S. aureusのcontaminationは1.5%であった.

• 血培が1本でもS. aureusが陽性であれば, SABとすべき.Lancet Infect Dis. 2011 Mar;11(3):208-22.

SABの疫学

• SABのIE合併率は過去の報告では14-28%とされたが,

近年では5-17%とされている.

• SABの前向きコホート研究(n=2008)によると,

深部感染合併率は36.6%で, うちIEは11.0%と最多であった.

JAMA. 2014 Oct 1;312(13):1330-41.Clin Infect Dis. 2015 Jul 1;61(1):18-28.

PLoS One. 2015 May 28;10(5):e0127385.

• S. aureusはIEの起炎菌のうち最多かつ増加傾向.

Lancet. 2016 Feb 27;387(10021):882-93.

Heart. 2005 Jul;91(7):932-7.

Circulation. 2015 Oct 13;132(15):1435-86.

IEにおけるSAB

26.6%

Staphylococcus aureus

Coagulase-negative staphylococci

Oral streptococci

Non-oral streptococci

EnterococciOther(Streptococci and enterococci)

HACEK microorganisms

Candida species

Other

Polymicrobial

No microorganism identified

S. aureus (n=61) Other (n=133) p Value

中枢神経合併率* 11 (18%) 11 (8%) 0.04

院内死亡率 21 (34%) 13 (10%) <0.001

• S. aureusはIEの予後不良因子であり, 他の起炎菌の2倍の中枢神経合併率と3倍の死亡率であった.

*中枢神経合併:片麻痺を伴う脳梗塞, 脳出血, 脳膿瘍, 脳症, 意識障害

IEの臨床所見は乏しい

• IEの自覚症状は非特異的であることが多く, 予測困難.

• 臨床所見では心雑音や塞栓現象・神経徴候に注意.

• IEを臨床的に疑わない症例でも20%でTTE陽性であった.Lancet Infect Dis. 2011 Mar;11(3):208-22.

Eur J Echocardiogr. 2011 Jun;12(6):414-20.

SABのmanagement

• SABでは心エコーによるIEの検索が推奨されている.

• Bundle遵守(心エコーを含む)は死亡率低下と相関する.

Infection. 2016; Oct 5.

対象:2006-14年に診断されたSAB (n=477)

目的:QCI遵守と30日死亡率

方法:単施設後ろ向きコホート

SAB management Bundle

1. 血液培養のFollow up

2. 早期source control

3. 心エコー

4. 早期の適切な抗菌薬使用

5. 適切な治療期間

SABは合併リスクが高い

合併症の中でIEが最も多い

IE合併例は予後不良であり,

心エコーによる積極的な検索が推奨される

SABのmanagement

1. SABのmanagement

2. IEの検索はTTE?TEE?

3. 臨床的Lowリスクとは?

4. TTEでIEを除外可能?

5. SABにおけるIEの検索strategy

CONTENTS

心エコーはTTE?TEE?

• IEを疑った場合, 早急 (<12hr)に心エコーを実施すべき.

• IEを疑った場合, 全例でTTEを実施すべきであるが,

TTE陰性の19%でTEE陽性であったとの報告もあり,

全例でTEEを実施すべきとする意見もある.

• 初回心エコーが陰性であっても, 臨床的に強く疑う場合は,

5-7日以内に再検することが望ましい.

Circulation. 2015 Oct 13;132(15):1435-86.Lancet Infect Dis. 2011 Mar;11(3):208-22.

Circulation. 2015 Oct 13;132(15):1435-86.

Eur Heart J. 2015 Nov 21;36(44):3075-128.

TTE/TEEのIE診断能

• 疣贅検出能

• TEEはTTEに比べ, 以下の場合で特に優れている.

①小さな疣贅(<5mm)

②大動脈弁や僧帽弁の疣贅

③人工弁や心臓内デバイス

• 前壁の小膿瘍はTTEのほうが有用かもしれない.

感度 特異度

TTE 75% (50%) 約90%

TEE 96% (92%) 約90%

( )内は人工弁

Eur Heart J. 2015 Nov 21;36(44):3075-128.

Lancet Infect Dis. 2011 Mar;11(3):208-22.

Eur J Echocardiogr. 2010 Mar;11(2):202-19.

TEEの実施率は?未実施の理由は?

• TEEの実施率は24%であった.• TEE未実施の理由の半数以上は,

「血培の早期陰性化」であった.

対象:2013-14年に診断されたSAB (n=118)

目的:TEE実施率と未実施の理由

方法:単施設前向きコホート

Open Forum Infect Dis. 2016 Sep 28;3(4):ofw204.

全例にTTEが必要か?

• 臨床的にLowリスクであればTEE不要となる可能性あり.• しかし, Lowリスクの定義が曖昧かつ具体性に乏しい.

ガイドラインでは・・・

Circulation. 2015 Oct 13;132(15):1435-86.

IEの検索にTTE?TEE?

SABでは全例に対し早急にTTEを施行すべき

TEEは感度・特異度ともに高く,

診断に重要な検査であるが, 施行率は高くない

臨床的にLowリスクであれば,

TEEをせずにIEを除外可能かもしれない

1. SABのmanagement

2. IEの検索はTTE?TEE?

3. 臨床的Lowリスクとは?

4. TTEでIEを除外可能?

5. SABにおけるIEの検索strategy

CONTENTS

IEの有病率

13%

IEの診断

Modified Duke基準

患者背景

透析:12%

心臓内デバイス:20%

静脈薬物の常用:2%

市中感染:24%

MRSA:39%

持続菌血症:49%

TEE実施:71%

対象:2006-11年に診断されたSAB (n=678)

目的:IEのリスク評価

方法:単施設後ろ向きコホート

Lowリスクとは?=PREDICT study=

Clin Infect Dis. 2015 Jul 1;61(1):18-28.

Clin Infect Dis. 2015 Jul 1;61(1):18-28.

心臓内デバイス 感染場所 持続菌血症(>72hr)

ICD 2pt 市中感染 2pt あり 2pt

PPM 3pt 医療関連感染 1pt なし 0pt

なし 0pt 院内感染 0pt

Lowリスクとは?=PREDICT study=

Day5で1ptをcut-offとすると, 感度:98.8%, NPV:98.5%

→ 1pt以下ではTEE不要かもしれない.

Clin Infect Dis. 2015 Jul 1;61(1):18-28.

Lowリスクとは?=PREDICT study=

J Infect. 2016 May;72(5):544-53.

IEの有病率

11.0%

IEの診断

Modified Duke基準

患者背景

透析:10.5%

心臓内デバイス/IEの既往:17.0%

静脈薬物の常用:3.1%

市中感染:43.6%

MRSA:19.0%

持続菌血症:17.1%

TTE実施率:67.1% (TEE:30.1%)

対象:2009-11年に診断されたSAB (n=2008)

目的:IEのリスク評価

方法:多施設前向きコホート

Lowリスクとは? =VIRSTA study=

IE予測因子とされる10項目について多変量解析

J Infect. 2016 May;72(5):544-53.

Lowリスクとは? =VIRSTA study=

臨床所見 score

脳/末梢の塞栓, 髄膜炎 5pt

心臓内デバイス/IEの既往, 経静脈薬の常用 4pt

弁膜症の既往, 持続菌血症 3pt

椎体/骨髄炎, 市中/医療関連感染 2pt

重症敗血症/敗血症性ショック, CRP>19mg/dL 1pt

2ptをcut-offとすると感度:95.8%, NPV:98.8% (98.4-99.4)

→ 2pt以下ではTEE不要かもしれない.

J Infect. 2016 May;72(5):544-53.

Lowリスクとは? =VIRSTA study=

PREDICT VIRSTA

研究デザイン 後ろ向きコホート 前向きコホート

IEの有病率 13% 11%

IEの診断方法 Modified Duke基準

リスク因子

市中感染医療関連感染

21

2

心臓内デバイス 2-3 4

持続菌血症(>72hr) 2 3

脳または末梢塞栓 5

髄膜炎 5

弁膜症の既往 3

経静脈薬の常用 4

椎体・骨髄炎 2

重症敗血症 1

CRP>19mg/dL 1

Lowリスク基準 ≦ 1 ≦ 2

NPV 98.5% 98.8% (98.4-99.4)

臨床的Lowリスクとは?

1. SABのmanagement

2. IEの検索はTTE?TEE?

3. 臨床的Lowリスクとは?

4. TTEでIEを除外可能?

5. SABにおけるIEの検索strategy

CONTENTS

TTEは有用?

Eur Heart J. 2015 Nov 21;36(44):3075-128.

• “Negative TTE”かつ”Lowリスク”であれば, TEE不要.• しかし, Negative TTEの定義の具体的な記載なし.

ガイドラインでは・・・

IEのエコー所見は?

• Duke major criteriaのエコー所見

– 疣贅A

– 膿瘍B

– 人工弁の新規裂開C

Eur J Echocardiogr. 2010 Mar;11(2):202-19.

IEのエコー所見は?

• その他のIEを示唆する所見

– 弁の破壊と逸脱

– 弁の肥厚・狭窄・硬化

– 弁逆流

– 動脈瘤

– 左室拡大と機能低下

– 右室機能低下

– 心嚢液貯留

僧帽弁前尖の肥厚

高度の大動脈弁逆流

UpToDate

TTEでIEを除外可能?

患者背景IE有病率:19.8%SAB:26%

Strict negativeの定義・中等度以上の画像の質・解剖学的異常なし・弁の狭窄や硬化なし・trivial以下の弁逆流・軽度以下の心嚢液貯留・心臓内デバイスやCV留置なし・疣贅なし

J Am Soc Echocardiogr. 2016 Apr;29(4):315-22.

対象:2007-14年にIEが疑われた自然弁患者 (n=790)

目的:IEに対するTTEの診断能

方法:単施設後ろ向きコホート

• 疣贅以外の所見も参考にすると, 感度:98.1%, NPV:97.1% (91.9-99.0)

• SABのサブグループ解析がなされた同様の先行研究では, IEに対するNPV:95%であった.

TTEでIEを除外可能?

J Am Soc Echocardiogr. 2016 Apr;29(4):315-22.

Mayo Clin Proc. 2014 Jun;89(6):799-805.

TTEでIEを除外可能?

TTEの疣贅描出の感度は十分ではない

Duke基準以外のエコー所見も参考にすることで, TTEの感度を上げるかもしれない

1. SABのmanagement

2. IEの検索はTTE?TEE?

3. 臨床的Lowリスクとは?

4. TTEでIEを除外可能?

5. SABにおけるIEの検索strategy

CONTENTS

対象:2007-2010年のSAB (n=833)

目的:Lowリスクの導出 & Prediction ruleの診断性能の評価

方法:多施設後ろ向きコホート

IEの有病率

9.1%

IEの診断方法

Modified Duke基準

患者背景

透析:10.7%

高リスク心疾患:8.4%

静脈薬物の常用:4.9%

市中感染:27.6%

MRSA:17.0%

持続菌血症:10.8%

TTE実施率:67.9% (TEE:14.0%)

JACC Cardiovasc Imaging. 2015 Aug;8(8):924-31.

臨床的Lowリスク+Negative TTE

JACC Cardiovasc Imaging. 2015 Aug;8(8):924-31.

Negative TTE=以下を満たさないDuke major criteria弁逆流の出現or悪化異常な弁肥厚非振動性腫瘤精査が推奨されるその他の異常質の低いエコー

高リスク心疾患弁手術後先天性心疾患弁膜症による心移植心内膜炎の既往ペースメーカー/ICD埋込後

臨床的Lowリスク+Negative TTE

Lowリスク=以下を全て満たす

• 臨床的Lowリスク

– 経静脈薬の常用なし

– 高リスク心疾患なし

– 市中感染なし

• Negative TTE

リスク因子の導出と多変量解析

“臨床的Lowリスク”+“Negative TTE”であれば, TEE不要.

感度:97% (87-100)NPV:99% (96-100)

JACC Cardiovasc Imaging. 2015 Aug;8(8):924-31.

Validation Cohort (n=268)IEの有病率:14.2%Lowリスク+Negative TTE:45%

臨床的Lowリスク+Negative TTE

Prediction rule (Lowリスク)のvalidation

SAB TTE

TEE

IE除外=TEE不要

5日後にTTE再検

5日後にエコー再検

IEYes

No

どちらも

以下のいずれかを満たすか?

1方のみ

IEの診断Strategy

1つでも

心臓内デバイス持続菌血症(>72hr)市中感染

修正Duke基準

修正Duke基準

TTE所見

解剖学的異常

弁の狭窄や硬化

Mild以上の弁逆流

中等度以上の心嚢液

描出不良

臨床所見

脳/末梢塞栓

髄膜炎

弁膜症の既往

経静脈薬の常用

IEの既往

or

definite

本症例の経過

IEに準じた抗菌薬治療が開始された.

頭部MRIにて多発する脳塞栓所見を認めたため, 臨床的にIEと診断された.

2日後に施行されたフォロー血培は陰性であった.

入院中に塞栓症状の新規出現は認めなかった.

TTEにて可動性腫瘤の縮小を認めた.

血培陰転化から6週間の抗菌薬投与を行い, 退院となった.

今後の展望

• SAB全例にTTEが施行されるようになれば,

さらに精度の高い研究結果がでてくるかもしれない.

• Negative TTEの定量的評価方法の確立が期待される.

• 市中感染において,

TEE不要群を予測するリスク因子の同定が望まれる.

SABは合併症リスクが高く,

特にIE合併例は予後不良である

SAB全例に対し, TTEを実施すべきであり,

その際にはDuke基準以外の所見も参考になる

臨床&TTE所見によるリスク評価により,

TEEをせずにIEを除外可能かもしれない

Take Home Message

≪参考≫ Modified Duke基準大基準

1.血培陽性 (ABCのいずれか)

A. 典型的な起炎菌が2セットの血培から検出される・黄色ブドウ球菌, 緑色連鎖球菌, Streptococcus bovis, HACEK, 市中感染の腸球菌

B. IEを起こし得る起炎菌が持続的に血培陽性・12時間以上の間隔を空けて採取された血培が2回以上陽性

・3回すべて, あるいは4回以上の大部分の血培陽性 (最初と最後の採血間隔は1時間以上)

C. 1つの血液培養からCoxiella burnetiiが陽性か, 抗IgG抗体titer>1:800

2.エコー所見 (ABのいずれか)

A.心エコーで以下のいずれかの場合・疣贅, 膿瘍, 人工弁の新たな部分的裂開

B.新規の弁閉鎖不全 (既存の雑音の悪化または変化のみでは不十分)

小基準

1.素因:心疾患, 静注薬物常用2.発熱:38.0℃以上3.血管現象:主要血管塞栓, 感染性動脈瘤, 頭蓋内出血, 眼球結膜出血, Janeway発疹4.免疫学的現象:糸球体腎炎, Osler結節,Roth斑, リウマチ因子5.微生物学的所見:大基準を満たさない血培陽性, IEに矛盾しない活動性炎症の血清学的証拠

【IE診断】“大基準2つ” or “大基準1つ&小基準3つ” or “小基準5つ”【IE疑い】“大基準1つ&小基準1つ” or “小基準3つ”

Clin Infect Dis. 2000 Apr;30(4):633-8.

Recommended