慶應義塾大学理工学部 中川正雄 - jterc.or.jp · KEIO University 3...

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KEIO University 1

可視光通信とインフラ

慶應義塾大学理工学部

中川正雄

KEIO University 2

目次

• 可視光通信とは

• 他の無線通信手段と比較した際の可視光空間通信のメリット

• 可視光空間通信の応用例

• イメージセンサ通信

• 端末とインフラ

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第1章 可視光空間通信とは

グラハムベルによる世界初の可視光無線通信実験(1880)

(Bell研究所資料より)

太陽光による180m程度の距離の音声伝送 Photophone

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船舶間の光モールス通信

他の船舶に傍受されないので主に軍用に利用

現在でも利用され、自動追尾や音声伝送まで高度化されている。 高到達距離10km。

可視光通信が無線であるのにかかわらずセキュリティーにも強い。

船員が見てモールスを解読

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白熱電球

変調器 増幅器

光電素子

著者自身中学時代(1959年)にこんなものを組んで遊んだ記憶がある。当時LEDもなく豆電球利用では音らしきものが伝送

された程度の音質であった。

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1960年代に東京タワーと地上で

光無線通信(半導体レーザはまだ無いし、ファイバーも無い時代)

赤色レーザ光

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グラスファイバの低損失

0.1

0.51510

100

dB/km

0.8 1.2 1.4 1.6

0.2dB/km

mμ波長200THz周波数

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以後、可視光の可能性は消えて、光通信といえば赤外線通信となった。

また、光無線通信についても、見える光は邪魔であるということと、近赤外から赤にかけて、シリコンの受光感度が高いために、850nm近傍の波がリモコ

ンなどによく使われる。この波は周囲が明るいと見えないが、暗いところで、見える。

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周波数帯

3kHz 30kHz 300kHz 3MHz 30MHz 300MHz 3GHz

波長:10cm 1cm 1mm 0.1mm 0.01mm 1μm

VLF LF MF HF VHF UHF

3GHz 30GHz 300GHz 3THz 30THz 300THz 3PHz

波長:100km 10km 1km 100m 10m 1m 10cm

Visible light

可視光

Sub-millimeter wave

Far infra-redNear infra-red

携帯電話

第4世代携帯

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第2章他の無線空間通信手段と比較した際の

可視光空間通信のメリット2.1 無線通信の歴史

一般にはマルコーニにはじまるといわれるが、それより先の

グラハムベルにはじまるとしたら、どうして可視光が忘れられたかを考える。

高速に点滅できる光源の不在と、マルコーニの実験で回折現象が電波にとって大きなメリットであることを示した。

数kmボロー二アの家

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その後の無線の発展

無線通信の長距離化:短波の利用:電離層の反射。

船舶通信:水平線を越えても通信できる。霧でも豪雨でもできる。

ラジオ放送:中波による半径100km程度のエリアに影の

無い伝送。放送は受信者が多いほうが良い。

テレビ放送:VHF,UHFによる伝送。高周波による影が出やすく、

指向性のあるアンテナが必要。

衛星通信:短波通信の不安定、少ない容量を改良。

移動通信:いつでもどこでもの代名詞。UHF利用だが、セルサイズ

は数kmのために、影を作りにくい。

無線LAN:オフィスの無線化を実現。数10mの範囲で利用するので、

データレートを高くでき、かつ影も少ない。

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リモコン:目の前のテレビやエアコンを安価に操作する。赤外線利用に

よって、10m程度の距離まで可能。ユビキタス通信の初歩。

赤外線無線LAN:レーザ利用による1Gbpsの高速伝送の製品もある。

LED利用では、100Mbpsの製品あり。

RF-ID:無電源での利用可能。ただし、かなり近距離に接近する必要

あり。

長距離 広域 モバイル ユビキタス

現在

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2.2 注目の通信距離

大陸間通信(短波)

大陸間、宇宙通信(マイクロ波)

1901

1960

1980

2000

2010

セルラ

WLAN

RF-ID と 可視光通信

歴史は結局皮肉なことに近距離通信技術の追及になっている。

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技術が未発達な時代には、高価な技術を皆でシェアする。1900年ごろの無線送受信機は戦艦1艘程度の値段であり、長距離通

信か軍用にしか価値を認めない。

技術が発達して、個々の機器が安価になり、近距離通信の可能性が見えた。

究極はユビキタス通信であり、我々の周囲のものが情報をどう

発するかは技術の問題である。

ユビキタス通信の究極の利用者はロボットである。

abcd

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ユビキタス度

望まれる距離

通信距離×ユビキタス度=一定

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2.3 ユビキタス時代のRF-ID(Radio Frequency-ID)

質問器RF-IDチップ(バッテリレス)(応答器)

喋らせたいものに付けておく。

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アンテナ

アンテナ

高周波回路 MPU

電源再生回路 メモリ

RF-IDチップの構成

通信距離は電源再生回路への電力供給で決まる。

(根日屋、植竹著:ユビキタス無線工学と微細RFIDより)

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チョークコイル

チョークコイル

ダイオード

直流電圧

アンテナ

電波

レクテナ(Rectenna=Rectifier + Antenna)

電波の到達距離はこの能力でほぼ決まる

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SW 開放で同相反射し、短絡で逆相反射

してPSK変調をかけて送り返す。

SW

搬送波送信

PSK受信

送信

受信

クロック

MPU

メモリ

アンテナ アンテナ

周波数:125kHz、13.56MHz、433MHz、900MHz、2450MHzなど

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RFーIDの長所

RF-IDチップが無電源でも動作する。途中に多少の障害物があっても利用可能。

RF-IDの短所

強力な質問器(出力大でアンテナなども大きい)を用いると、電波は見えないから、相手にわからずに、情報を得ることができてしまう。(セキュリティー問題)

高出力質問器RF-IDチップ

(バッテリレス)

通常の距離(例えば数cm)

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高出力(高EIRP)質問器

RF-ID長所・短所

近傍に応答器が複数あれば、選択することなくそれらの情報を得られる。

長所:いっぺんに情報を得られる。(買い物かごの中の価格計算等)

短所:個々の情報が欲しい場合は、どれがどれだか分からなくなる。(右から2番目の情報は?さて?)

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通信距離を長くするには

・質問器の送信電力を大きくする。バッテリーの消耗。送信電力による人体

への影響。無線局免許必要。

・電力は大きくせずに、アンテナ利得を大きくする。アンテナ規模の増大。モ

バイルにならない。結局到達距離による免許問題。RF-IDだけが、受信機で

はない。増幅器を持つ一般の受信機には大きな干渉になる。

・RF-ID側のアンテナの利得を大きくする。アンテナ規模増大で場所を

とる。

・距離を長くすると、通信可能な範囲に複数のRF-IDを仮定しなければならない。都合の良い場合と悪い場合が存在する。

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2.4 可視光通信のメリット

2.4.1 可視LED

街やビルの中、地下街、家、自動車などで表示や照明にLEDが現在利用され、かつ将来にもさらに利用されるであろう。LEDはまさにユビキタスな素子である。

交通信号機液晶用バックライトLEDスクリーン自動車のブレーキランプ自動車の室内灯自動車のヘッドライト通路の照明室内照明

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LED電気スタンド(中川春山研究室試作)

LED誘導灯(中川春山研究室試作)

LED交通信号機(海外仕様:日亜化学製)

宇宙船用LED照明(中川春山研究室試作)

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蛍光剤利用白色LED(20mWのもの)の変調応答特性

80Mbpsまで可能。応答特性はLEDの電力などで異なる。

慶応大学理工学部 松本佳宣氏の測定

LED Chip

測定回路(左:送光側、右:受光側)

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2.4.2 ユビキタス時代のインフラ

ユビキタス情報システムとは遍(あまね)く情報のためのシステムという意味であり、どこからも情報を得られることを意味している。物流の制御に用いたり、買い物かごの中身を計算したりだけが、ユビキタス情報システムではない。

我々は街の隅々で細やかな情報を得たいことがある。特に歩行者はビルの中でも、地下街でも自分の正確な場所やその周辺情報を得たいのであるが、精度高くかつ経済的に得るためのインフラとは何かを考えよう。

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GPSというインフラを利用するも屋内測位は不可能、もしくは精度が低い。GPSは天然に与えられていない。これも高価なインフラの一つ。

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インフラの多機能性

道路インフラ:交通以外には通信、水道、下水道、電力伝

送に利用

鉄道インフラ:鉄道以外に通信に利用

電話網: 電話以外にADSLなどの網に利用

電力: 通信にも利用

照明インフラ:照明は照明のためにあり、他に利用がない。

屋内無線通信から言うと、照明の位置に

アンテナを置くことは理想的である。

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個々の照明器具に位置情報などを入れて携帯のカメラ状受光器で受信

ビル管理、ビル案内、緊急通報機能の高度化などユビキタス社会化に貢献

照明がLED化される今がチャンス

LED照明光を位置情報やIDで変調

IDによって詳細な情報を携帯の電波で取得

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もしも、赤外線を用いると。

新たなインフラの設置が必要。デザイン的にもきれいでない。

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RF-IDの貼り付け位置を探して、そばまで行く必要がある。一般の人はもとより、

高齢者や障害者、ロボットにとって大変。美観問題やいたづら問題。さらに、内容の変更困難。メモリも小さいので、IDのみの場合に、位置情報は携帯電波からな

ので、地下道や携帯の電波が来ないところには困難。

RF-IDによる方法

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電灯線に情報伝送させれば、個々の照明のメモリの書き換えなどが安価にできる。

低速な情報伝送でもOKな場合が多い。

内容変更容易

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視覚障害者の8割は光の方向が見えるが、細かい一般のものは見えない。RF-IDは視覚障害者には利用しにくいが、可視光は利用しやすい。

我々に光を与える

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201 203 205 207

202 204 206 208

部屋を間違えない可視光位置情報

ビルの中の位置情報は屋外のそれとは異なる扱いになる。

本当の位置無線LAN電波による位置決め

建物の構造に沿った精度が必要。

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第3章 可視光空間通信の応用例VLCC

Visible Light Communication Consortium

Oct. 2004 CEATEC Makuhari Demo.

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携帯電話による位置検出のデモ

構想:慶應大学

照明側:松下電工

携帯側とネットワーク:

日本電気

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8WのLED

携帯側に受光器とアダプタ

専用に作れば、携帯の

赤外線装置と同じ程度

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可視光位置情報WEB Site

受光器(レンズなし)

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NTSC-TV画像を可視光伝送

場内監視カメラ

慶應義塾大学+中川研究所(株)

監視情報は外部で傍受されては困るもの。無線なのにセキュリティーがよい。

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LEDランプに内部状態やマニュアル情報を変調

携帯機に内部状態やマニュアルを表示

可視光タグLEDインディケータ

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可視光タグ(インジケータ)

レンズなし受光器伝送された静止画表示

NEC製作

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交通信号機による可視光通信

交通信号機から情報を得る実験(日本信号(株)が製作、名古屋工業大学構想)

受光器

(レンズなし) 大50m受光 9.6kbps

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音と光の競演

緑色のLEDでギターの音を伝送

構想:慶応大学、

LED:アジレントテクノロジー

ヘッドホン:ソニー

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音と光の競演を楽しむ参加者

受光器

(レンズなし)

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可視光通信による視覚障害者用ナビゲーション 国土交通省関西空港実験2005年6月

視覚障害者の8割、9割の

方は光の方向がわかる。可視光検出器を光の方向に向けて、検出器の出す音声で場所をナビゲーションできる。

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視覚障害の方はできたら杖に頼りたくない。可視光の方式は照明の方向に検出器を向けて、音を聞くので自然である。ちょうど携帯電話を利用するようにである。

新潟大学の牧野教授は病院における実験をして、大きな成果をあげている。

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床上LEDによる可視

光通信ナビゲーション

国土交通省関西空港実験(2005年6月)

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ロボットは照明の情報から自分の位置を正確に知る。

簡単なセンサーから複雑なものまで考えられる。

照明

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LEDアレーによる照明

2次元受光素子群

LED照明に位置情報

を変調して送信。

高精度(m/m)の位置決めできる。

天井

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第4章 イメージセンサによる通信

単一PD(Photo Diode)Modulated LED

レンズとPDによる受光感度は大変に高い。数100m離れたLEDの情報を受信の可能性あり。

ただし、レンズをその方向に向ける必要がある。機械的動作が必要で、特に初期捕捉が大変である。

数100m

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2次元アレー受信は強力な方法になる。カメラの原理と同じである。

光源が遠方でも感度が高い。

複数の光源があっても多重受信可能。

2次元アレーPD LED

LED

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複数のLED信号機から出される情報も同時に受信できる。

信号は青です

メリークリスマス♪

信号は赤です

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○○タワーへようこそ。このタワーの建設はーーーー

○○タワーの展望台レストランにようこそーーーー

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遠く離れた位置にある2つの光源が別々に変調されています。

480mW LED光源二つ

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受信側のビデオカメラとPCです。特別なハードウエアはありません。 大で190m受信できましたが、廊下がまだあればもっとできたはずです。

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第5章 端末とインフラ、結論

通信とは結局インフラと端末の問題である。

端末側:可視の受光器などは、単純で大きくはないので、負担にならない。しかし、すでに、赤外線の送受光器はついている。赤外線と類似なので置き換えていくことになろう。

2次元受光(イメージセンサー)の場合は、すでにカメラがついているので、それを利用したい。

インフラ側;いつ照明がLEDに交替するのか、蛍光灯でも可視光通信の

利用はできるが、やはり照明システムの替わり時期がチャン

スである。他のRF-IDなどとも同じであるが、膨大なデータの

管理問題。ただし、照明はRF-IDよりも管理しやすい。

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照明インフラは規則正しい配置をなすことが多いので、位置決めに適。電源もある。

しかも、壁などは位置がえをすることが多いが、照明は位置を変えない。

よく管理されている。図面もしっかりある。

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見えることの意義

我々人間の受ける情報の8割は視覚であり、たぶんロボットもそれに近いものになろう。

今までの無線通信の主役は電波であり、電波のよさは、送った信号がどこにでも回折や反射、散乱をしながら入り込んでくることである。その性質は波長の長さから来ている。移動通信に用いる波長は数mから数cmである。

ところが、ユビキタス時代に入ると、より個々の人や物の位置に結びついた情報が重要になる。電波はそうした物や人の位置を知ることが不得手である。

我々の日常の周囲の情報は可視光によって与えられ、さらにそこに豊かな情報を可視光通信は加えることができる。しかも、高いセキュリティー能力、視覚障害の人にも使える能力、従来のインフラを利用し安全に管理できる能力を発揮するのである。

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