1 テンソル積 -...

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1 テンソル積

テンソルは座標変換により一定の変換をする幾何学量,物理学量を扱うた

めに Ricciによって導入されたものです.

テンソルはベクトル空間の多重線型写像という性質とベクトルの基底を定

めたとき,決まる数の組で,基底を変換したとき一定の規則で変換するとい

う性質を持っています.これらの内容を説明するのが目的です

第1節ではまずテンソルをベクトルの基底を用いない抽象的な取り扱いを

します.この方法は内容がすっきりしており理論を学ぶには向いています

が,定義より読みとるべき内容を理解するにはある程度の慣れが必要です.

第2節ではテンソルの伝統的な方法に従った,ベクトルの基底を用いて,

テンソルの成分の変換公式を中心に説明します.テンソルの成分表示の上

付き,下付きの方法と和のアインシュタインの表示法を理解すれば,テンソ

ルの基底の取り替えの変換公式が思いのほか簡単に処理できるのが分かり

ます.

第3節ではベクトル空間の計量テンソルを用いてテンソルの説明をしま

す.テンソルの理解が深まると思います.

第4節ではテンソルの縮約を説明します.

第1節  テンソル積

V, Vi,W がベクトル空間で

f : V −→ W

が線型写像のとき,f の像 f(V ) = Imf はW の部分ベクトル空間ですが

多重線型写像 (双線型写像も含む)

f : V1 × · · · × Vk −→ W

の像すなわち

1

{f(v1, . . . , vk)|vi ∈ Vi}は W の部分空間とは限らない.このときは生成したベクトル空間を考

え,< Imf > のように < >で多重線型写像 f の像の生成したW の部分

ベクトル空間を表す.

また,V, Vi, W がベクトル空間のとき

線型変換

f : U −→ V

全体の作るベクトル空間を L(U ;V )と表し

多重線型写像

f : V1 × · · · × Vr −→ W

全体の作るベクトル空間を L(V1, . . . , Vr; W ) と表す.なお,ベクトル空

間 L(V1, . . . , Vr; W ) における和,定数倍は

(f + g)(v1, . . . , vr) = f(v1, . . . , vr) + g(v1, . . . , vr)

(kf)(v1, . . . , vr) = kf(v1, . . . , vr)

で定義する.

テンソルの定義から入る.

定義

U, V をそれぞれベクトル空間とする.

下の条件(1),(2)を満たすベクトル空間W と双線型写像

⊗ : U × V −→ W

が存在する.

(1)W =< Im⊗ >=< ⊗(U × V ) >

(2)任意のベクトル空間 X と双線型写像

   f : U × V −→ X

に対して,必ず線型写像

g : W −→ X

2

が存在して

f = g ◦ ⊗が成り立つ.

ベクトル空間W をベクトル空間 U とベクトル空間 V の各ベクトルのテ

ンソル積が生成するテンソル空間または簡単にべクトル空間 U とベクトル

空間 V のテンソル積といいW = U ⊗ V と表す.

U × V - W (= U ⊗ V )@

@@

@@R X

?

gf

以後,

⊗(u, v) = u ⊗ v, (u ∈ U, v ∈ V )

と表す.

この定義を読んで内容が読みとれる人は相当のものです.定義から読みと

るべき内容は後で説明するとしてまず定義が意味を持つことを証明する必要

があります.

(2) において,このような g が存在するなら唯一つに限ることから示し

ます.

g1, g2 : W −→ X

が共に条件を満たすと,すなわち

g1 ◦ ⊗ = g2 ◦ ⊗とする.

u ∈ U, v ∈ V に対して

g1(u ⊗ v) = f(u, v), g2(u ⊗ v) = f(u, v)

および,W は u⊗vで生成されたベクトル空間で,g1, g2 が線型変換,u, v

が任意であるから g1 = g2 が成り立つ.したがって,g がただ一つに限るこ

とが示された.

3

U × V からW への双線型写像全体よりなるベクトル空間を L(U, V ; W )

であらわす.

以下W 及び⊗を実際に構成する.U, V の双対空間をそれぞれ U∗, V ∗ と

する.

U 3 u, V 3 v に対して u ⊗ v ∈ L(U∗, V ∗; R)を次のように定義する.

任意の α ∈ U∗, β ∈ V ∗ に対して

u ⊗ v(α, β) = u(α)v(β)

ここで,u(α), v(β)はベクトル空間とその双対空間の自然な演算である.

⊗ : U × V −→ L(U∗, V ∗; R)

⊗は双線型写像である.実際(u1 + u2) ⊗ v(α, β) = (u1 + u2)(α)v(β) = u1(α)v(β) + u2(α)v(β) =

u1 ⊗ v(α, β) + u2 ⊗ v(α, β)

等.

⊗によって定義された u⊗ v (u ∈ U, v ∈ V )の生成する L(U∗, V ∗; R) の

部分空間をW とする.このとき

W ⊂ L(U∗, V ∗; R)

W と ⊗が定義の条件を満たすことを証明する.{ei}, {fi}をそれぞれ U, V の基底とし,U∗, V ∗ の {ei}, {fi}に対応する

双対基底をそれぞれ {ei}, {f i}とする.⊗は双線型写像であるから,u ⊗ v = u(ei)ei ⊗ v(f j)fj = u(ei)v(f j)ei ⊗ fj

したがって,ei ⊗ fj がW の基底となる.

一方,g ∈ L(U∗, V ∗; R) とする.

g(ei, f j) = gij とおけばすでに定義した ei ⊗ ej を用いて

g = gijei ⊗ ej

と表せる.実際

g(α, β) = g(αiei, βje

j) = αiβjgij

= gijei(α)ej(β) = gijei ⊗ ej(α, β)

4

したがって,

L(U∗, V ∗; R) ⊂ W

ゆえに

W = L(U∗, V ∗; R)

が成り立つことが分かる.

以上でWが構成された.後は条件(2)を満たすことを証明することだ

けである.

f : U × V −→ X の任意の双線型写像 f について,任意の u ∈ U, v ∈ V

に対して線型写像

g : W −→ X

g(u ⊗ v) = f(u, v)

で定義すれば f = g ◦ ⊗を満たす.g の一意性はすでに示されているから以上で,定義を満たすベクトル空間

W = U ⊗ V が存在することが証明された.

以上が2つのベクトル空間のテンソル積の定義およびその定義が意味があ

ることの説明です.

テンソル積とは,2つのベクトル空間 U, V の u ∈ U, v ∈ V に対して u, v

に関して双線型である積 u ⊗ v すなわち

(u1 + u2) ⊗ v = u1 ⊗ v + u2 ⊗ v

u ⊗ (v1 + v2) = u ⊗ v1 + u ⊗ v2

(ku) ⊗ v = u ⊗ (kv) = k(u ⊗ v)

を満たす演算 u ⊗ v のことです.当然上の定義からこの演算が定義される

ことを読みとる必要があります.

まず,定義から U ⊗V は同型を除きただ一つに決まることが分かる.実際

⊗ : U × V −→ W

5

⊗ : U × V −→ W

が共に定義の2条件を満たすとする.このとき線型写像

f : W −→ W

g : W −→ W

が存在し

f ◦ ⊗ = ⊗, g ◦ ⊗ = ⊗

U × V - W@

@@

@@R W

?6

f g⊗

W, W はそれぞれ ⊗, ⊗の像の生成したベクトル空間であるからf ◦ g, g ◦ f はそれぞれ恒等写像,したがって,(W,⊗), (W, ⊗) は同型で

ある.

したがって,U ⊗ V (= W )は条件を満たすベクトル空間を一つ見つけれ

ばよく,証明の中で U ⊗ V 構成されており,それは L(U∗, V ∗; R)である.

具体的にいえば

u ⊗ v(α, β) = α(u)β(v), α ∈ U∗, β ∈ V ∗

で定義される.u, v に関して線型であることは証明の中で述べてある.

このように,U ⊗ V はテンソル積の定義のなかの (1), (2)の条件だけで一

意的 (普遍的) に決まる.それで,この2条件 (1), (2) をテンソル積の普遍

性という,ここで述べた定義をテンソルの普遍性による定義と呼ぶことも

ある.

テンソルの普遍性のダイアグラム

6

U × V - W (= U ⊗ V )@

@@

@@R X

?

gf

から分かる内容を調べよう.

f ∈ L(U, V : X)に対して g ∈ L(U ⊗ V ; X)がただ一つ決まるからこの

対応による写像

Φ : L(U, V ; X) −→ L(u ⊗ V ;X)

は1対1である.Φが線型写像であり,2つのベクトル空間の次元が等し

いから

L(U, V ; X) ∼= L(U ⊗ V ; X)

がわかる.

さらに X を Rに替えればL(U, V ; R) ∼= L(U ⊗ V ; R) = (U ⊗ V )∗

また,(U ⊗ V )∗ ∼= U∗ ⊗ V ∗ が成り立つ.それは

U ⊗ V = L(U∗, V ∗; R)

より

U∗ ⊗ V ∗ = L(U, V ; R) = (U ⊗ V )∗

となる.

これらをまとめると

L(U, V ; W ) ∼= L(U ⊗ V ; W ) ∼= (U ⊗ V )∗ ⊗ W ∼= U∗ ⊗ V ∗ ⊗ W

3つ以上のベクトル空間のテンソル積 V1 ⊗ V2 ⊗ · · · ⊗ Vk も同様に定義で

きる.すなわち

V1, . . . , Vk をそれぞれベクトル空間とする.

下の条件(1),(2)を満たすベクトル空間W と多重線型写像

7

⊗ : V1 × · · · × Vk −→ W

が存在する.

(1)W =< Im⊗ >=< ⊗(V1 × · · · × Vk) >

(2)任意のベクトル空間 X と多重線型写像

   f : V1 × · · · × Vk −→ X

に対して,必ず線型写像

g : W −→ X

が存在して

f = g ◦ ⊗が成り立つ.

このベクトル空間W を

W = V1 ⊗ · · · ⊗ Vk

と表す.なお,W = L(V ∗1 , . . . , V ∗

k ; R)である.

第2節  反変ベクトルと共変ベクトル第1節では,普遍性に基づいてテンソルを述べたが,これからは伝統的な

ベクトルの基底を用いた取り扱いをする.

まず,ベクトル空間 V の定義を確認しよう.

実数 R上のベクトル空間 V とは,集合 V に次の2つの演算が定義され,

(1)任意の x, y ∈ V に対して V の要素 x + y がただ一つきまる.

(2) 任意の x ∈ V, a ∈ Rに対して V の要素 axがただ一つきまる.

さらに,これらの演算が任意の x, y, z ∈ V, a, b ∈ R に対して次の条件を満足するものである.

• a(x + y) = ax + ay, (a + b)x = ax + bx

• (ab)x = a(bx)

8

ベクトル空間とはこのような抽象的な集合である.基底はベクトル空間

V の要素を表現するためのものである.さらに,基底の選び方は幾らでもあ

り,基底を変えたときの変換則があり規則に従う (32ページ参照).ですか

ら,ベクトル空間 V 上で何かを定義するとき,基底を用いるならば,他の

基底のとき規則に従った変形をするかどうかを調べる必要があり,これは案

外煩雑です.したがって,できるだけ基底を用いない方法をとる,これが数

学の特にリーマン幾何の基本的な立場です.このベクトルの基底によらない

扱い方を,ベクトルがもともと(生まれながら)持っている(稟性)の意味

の Intrinsicを用いて,Intrinsicな方法といいます.第1節で述べたテンソ

ルの定義をもう一度見てみましょう.基底を用いていない Intrinsicな定義

であることが分かります.

この Intrinsic な方法は取り扱いやすいのですが,実際に何かを計算しよ

うとすると,ベクトル空間の基底を用いた成分計算が必要になり,成分計算

は避けては通れません.以下テンソルの伝統的な方法に従って解説します.

ベクトル空間 V を扱うのに基底 {e1, e2, · · · , en}を用いV の要素 xを

x = x1e1 + x2e2 + · · · + xnen

と表し調べるのである.ここで大事なのは,ベクトル空間の基底

{e1, e2, · · · , en} はベクトルの要素を表すためのものである.ベクトル空間の基底のとり方は幾らでもあるので,基底を変えたときベクトルの成分

x = (x1, x2, · · · , xn)

がどうなるかを調べる必要がある.

それを調べよう.まずルールをはっきりさせます.

ベクトル空間 V の基底は ei のように添字は下に置き,ベクトルを基底を

用いて表すときの成分の添字は上に置く.たとえば

V 3 v = v1e1 + · · · vnen = viei

9

となる.一番右側はアインシュタイン規約に従った表示です.なおアイン

シュタイン規約とは1つの項の中の上下に同じ添字があるとき,ここでは i,

その添字が動く範囲全体の和をとることです.

さらに V の要素は列ベクトルとして扱う.

次に V の双対空間 V ∗ の基底は ei のように添字は上に置き,ベクトルを

基底を用いて表すときの成分の添字は下に置く.たとえば

V ∗ 3 w = w1e1 + · · ·wnen = wie

i

となる.なお,V の基底 {e1, . . . , en}の双対基底はここでは同じ文字を用いて,

{e1, · · · , en}とし,V ∗ の要素は行ベクトルとして扱う.

V ∗ の要素と V の要素の自然な演算は行列の積として行う.

このルールに従って計算すれば,ベクトル,双対ベクトル,テンソルの座

標変換による成分の変換公式がすっきり理解できる.

ベクトル空間 V の基底を1つとりそれを

{e1, . . . , en}とする.このとき,v ∈ V は

v = xiei

より,n個の実数 {xi}によりv = (x1, . . . , xn)

と表せる.

次に,V の別の基底

{f1, . . . , fn}をとる.基底 {ei}と基底 {fi}の関係がfi = aj

iej

のとき,すなわち

10

(f1 · · · fn

)=

(e1 · · · en

) a11 · · · a1

n

......

...

an1 · · · an

n

· · · (])

のとき.

ここで

A =

a11 · · · a1

n

......

...

an1 · · · an

n

とおく.

基底変換でベクトルの成分がどのように変換するか調べよう.

v = xiei = yifi

のとき,行列で表示すると

(f1 · · · fn

) y1

...

yn

=(e1 · · · en

) x1

...

xn

上の (])を代入して

(e1 · · · en

)A

y1

...

yn

=(e1 · · · en

) x1

...

xn

(e1 · · · en

)は逆行列を持つから,

A

y1

...

yn

=

x1

...

xn

をえる.

ここで行ったことをまとめると次のようになる.

命題

ベクトル空間 V の基底 {e1, . . . , en}, {f1, . . . , fn} に

11

(f1 · · · fn

)=

(e1 · · · en

)A

の関係があるとき,v ∈ V に対して

v = xiei = yifi

なら

A

y1

...

yn

=

x1

...

xn

である.すなわち

ajiy

i = xj

注意

1.命題から分かるようにベクトルの基底には行列を右からかけ(右から作

用するという),ベクトルの成分には行列を左側からかける.これは,行列

が空間に作用するとき区別しなければならない重要なことです.

2.命題をよく見ると,基底の変換と成分の変換の行列は変わりませんが,

基底では {ei}側にかけ,成分は反対の {fi}にかけます.これは後で説明することですが V を反転ベクトルというゆえんです.

3.添字を上下に置くことで,変形が驚くほどうまくいきます.

4.ここでは {ei}と {fi}の関係を基底は列ベクトルとし(f1 · · · fn

)=

(e1 · · · en

)A

とした.これを,両辺の転置をとった,すなわち基底を行ベクトルとみたf1

...

fn

= At

e1

...

en

としても問題はないが,転置行列がでてきて混乱しおすすめできない.本

稿の内容は全く転置行列は出てこない.

12

次に V の双対空間 V ∗ を考える.

V の基底 {ei} の双対基底を {ei} と文字をかえず添字を上にかく.さらに,v ∈ V ∗ は

v = xiei

より,n個の実数 {xi}によりv = (x1, . . . , xn)

と表せる.このように,V ∗ の基底の添字は上に置き,成分の添字は下に

置く.

ベクトル空間 V の基底を {ei} から {fi} に変換したとき双対空間 V ∗ の

ベクトルの成分はどのように変換するかを調べよう.(f1 · · · fn

)=

(e1 · · · en

)A

とする.まず,双対基底の変換式を調べよう.

まず,e1

...

en

(e1 · · · en

)=

f1

...

fn

(f1 · · · fn

)= E

である.ただし E は単位行列.e1

...

en

(f1 · · · fn

)=

e1

...

en

(e1 · · · en

)A = A

= A

f1

...

fn

(f1 · · · fn

)

であり,行列(f1 · · · fn

)は逆行列を持つから

13

A

f1

...

fn

=

e1

...

en

次に v ∈ V ∗ が

v = xiei = yif

i

のとき

(x1 · · · xn

) e1

...

en

=(y1 · · · yn

) f1

...

fn

より

(x1 · · · xn

)A

f1

...

fn

=(y1 · · · yn

) f1

...

fn

(x1 · · · xn

)A =

(y1 · · · yn

)∴ xia

ij = yj

以上の内容をまとめると次の命題になる.

命題

ベクトル空間 V の基底 {e1, . . . , en}, {f1, . . . , fn} に(f1 · · · fn

)=

(e1 · · · en

)A

の関係があるとき,基底 {e1, . . . , en}, {f1, . . . , fn} の双対基底をそれぞれ{e1, . . . , en}, {f1, . . . , fn}このとき

A

f1

...

fn

=

e1

...

en

が成り立ち,さらに

v ∈ V ∗ に対して

14

v = xiei = yif

i

なら(y1 · · · yn

)=

(x1 · · · xn

)A

である.すなわち

yj = aijxi

ここで,V を反変ベクトル,V ∗ を共変ベクトルというわけが理解できる.

すなわち

ベクトル空間 V の基底 {e1, . . . , en}, {f1, . . . , fn} に(f1 · · · fn

)=

(e1 · · · en

)A

の関係があるとき.行列 Aの逆行列を B = (bij)とおくと

v ∈ V に対して

v = xiei = yifi

のとき

A

y1

...

yn

=

x1

...

xn

すなわち

y1

...

yn

= B

x1

...

xn

· · · (1)

v ∈ V ∗ に対して

v = xiei = yif

i

のとき(y1 · · · yn

)=

(x1 · · · xn

)A · · · (2)

∴ yi = xjaji

すなわち V の要素の基底の変換による成分の変換は基底の変換を定める

15

行列の逆行列を用いるが,V ∗ の要素は同じ行列を用いる.これが V を反転

ベクトル,V ∗ を共変ベクトルというゆえんです.

つぎにテンソル積の説明に入ります.まず見慣れた線型変換を考え,その

後一般的な定義をする.なお,線型変換は次の節でも再度説明する.

線型変換

f : V −→ V

は V の基底 {e1, . . . , en}を用いればf(ei) = f j

i ej

より定まる n2 個の実数の組 {f ji }で決まる.

もう一つの基底 {d1, . . . , dn}をとり(d1 · · · dn

)=

(e1 · · · en

)A

すなわち

di = ajiej

を満たすとき,

f(di) = f ji dj

で定まる {f ji }と {f j

i }の関係を調べよう.f(di) = f(aj

iej) = ajif

kj ek

一方

f(di) = f ji dj = f j

i akj ek

したがって,

f ji ak

j = ajif

kj

(aji )の逆行列 (bj

i )の blk を両辺にかけ k につぃての和をとると

f ji ak

j blk = aj

ifkj bl

k

∴ f li = fk

j aji b

lk  · · · (3)

すなわち,{f ji }は座標変換で上つきの添字は反変ベクトルの変換をし,下

つきの添字は共変ベクトルの変換をします.

16

ベクトル空間 V の線型変換は次のように言うことができます.

V の基底が定まればきまる n2 個の数字の組 {f ji }で,基底の変換による

変換は (3)にしたがう.

次に1次変換

f : V −→ V

に対して,双線型写像

F : V ∗ × V −→ Rを α ∈ V ∗, v ∈ V のとき

F (α, v) = α(f(v))

で定義する.逆に,双線型写像 F が与えられたとき,V の基底 {ei}とその双対基底 {ei} を用いて

f(v) = f(ei, v)ei

によって定義すると,この定義は基底を用いた定義であるが,基底の取り

方によらない.したがって,この定義は well defined (整合性がある)であ

る(30ページ参照).

f ji の定義は

f(ei) = f ji ej

であった.

f(ei) = F (ej , ei)ej

より

f ji = F (ej , ei)

である.

このことから,f ji は

F (α, v) = α(f(v))

で定義した双線型写像

F : V ∗ × V −→ R

17

で表せば

f ji = F (ej , ei)

となる.これが分かれば,f ji の基底変換による変換式はもっとわかりや

すい.実際

2つの基底 {ei}, {di}の関係がdi = aj

iej

のとき

di = bije

j

であるから

f ji = F (dj , di) = F (bj

kek, aliel) = bj

kalif

kl

となる.このように,線型写像で行った基底変換による変換式が双線型写

像と見れば自然に導き出される.これらの内容は第3節で詳しく説明して

ある.

以上の準備の元で,改めてテンソルの定義をしよう.

定義 1

V を n次元ベクトル空間,V ∗ をその双対空間とする.このとき r + s重

線型写像

f :

r︷ ︸︸ ︷V ∗ × · · · × V ∗ ×

s︷ ︸︸ ︷V × · · · × V −→ R

を r 階反変,s階共変テンソルまたは (r,s)型テンソルという.

V の基底を {ei}その双対基底を {ei}とするとき nr+s 個の実数

f i1...iry1...js

= f(ei1 , . . . , eir , ej1 , . . . , ejr )

をテンソル f の基底 {ei}における成分という.注意

テンソルの成分で添字は f i1...iry1...js

のように上にあればその真下はあけ

ておき,下にあればその真上はあけておくのが一般的な書き方です.後で,

18

ユークリッド空間 (内積が適されたベクトル空間) では,添字の上げ下げを

行うからです.

もう一つのテンソルの定義をします.

定義 2

V を n 次元ベクトル空間とする.V 上の基底を定めたとき nr+s 個の実

数の組が定まり,その実数の組が基底変換で次の条件を満たすとき,この

nr+s 個の実数の組を r 階反変,s階共変テンソルという

基底が {ei}のとき定まる nr+s 個の実数の組 {f i1...iry1...js

},基底が {di}のとき定まる nr+s 個の実数の組 f i1...ir

j1...js,が基底変換

di = ajiej

のとき

fk1...kr

l1...ls= bk1

i1. . . bkr

iraj1

l1. . . ajs

lsf i1...ir

j1...js

を満たす.ただし,(bji )は (aj

i )の逆行列.

定義1と定義2が同値であることを確認しよう.

定義 1→定義 2

di = ajiej

のとき

di = bije

j

であるから

fk1...kr

l1...ls

= f(dki , . . . , dkr , dl1 , . . . , dls)

= bk1i1

. . . bkrir

aj1l1

. . . ajs

lsf i1...ir

j1...js

定義 2→定義 1

記号が煩雑になるので,(2, 2)型のテンソルのとき示す.

V 上の基底 {ei}を定めたとき n2+2 個の実数の組 f i1i2j1j2が定まり,そ

の実数の組が基底変換により

19

fk1k2l1l2

= bk1i1

bk2i2

aj1l1

aj2l2

f i1i2j1j2

を満たす.

u, v ∈ V, α, β ∈ V ∗

に対して,

u = uiei, v = viei, α = αiei, β = βie

i

のとき,多重線型写像 f(α, β, u, v)を

f(α, β, u, v) = αi1βi2uj1vj2f i1i2

j1j2

で定義する.この定義が基底変換で矛盾がないためには V の別の基底で

も同じであることを示せばよい.

di = ajiei

のとき

viei = vidi

のとき

vi = bijv

j

αiei = αid

i

のとき

αi = ajiαj

から

αi1 βi2 uj1 vj2 f i1i2

j1j2

= (ak1i1

αk1)(ak2i2

βk2)(bj1l1

ul1)(bj2

l2vl2)f i1i2

j1j2

= αk1βk2ul1vl2fk1k2

l1l2

したがって証明された.

ここまでである程度の慣れが必要ですがテンソルの計算は自由にできると

思います.

20

多重線型写像

f :

r︷ ︸︸ ︷V ∗ × · · · × V ∗ ×

s︷ ︸︸ ︷V × · · · × V −→ R

全体が作るベクトル空間を L(

r︷ ︸︸ ︷V ∗, · · · , V ∗,

s︷ ︸︸ ︷V, · · · , V ; R) または V r

s と表

し,このベクトル空間を r 階反変,s階共変テンソル空間という.

なお,f, g ∈ V rs , k ∈ Rに対して

(f + g)(v) = f(v) + g(v)

(kf)(v) = kf(v)

で f + g, kf を定義すれば V rs がベクトル空間になることは容易に分かる.

ベクトル空間

V rs = L(

r︷ ︸︸ ︷V ∗, · · · , V ∗,

s︷ ︸︸ ︷V, · · · , V ; R)

の基底や次元を調べよう.

一般の場合は文字が煩雑になるので,ここでは r = 2, s = 2すなわち

V 22 = L(V ∗, V ∗, V, V ; R)

で考える.

V の基底として {ei} をとり,さらに双対空間 V ∗ の双対基底を {ei} とする.

このとき

ei ⊗ ej ⊗ ek ⊗ el ∈ V 22

である.

なお,

α = αiei, β = βie

i, u = uiei, v = viei,

のとき

ei ⊗ ej ⊗ ek ⊗ el(α, β, u, v) = α(ei)β(ej)ek(u)el(v)

で定義し

= αiβjukvl

である.

21

次に,任意の f ∈ V 22 が ei ⊗ ej ⊗ ek ⊗ el で表せることを示す.

f(α, β, u, v)

= f(αiei, βje

j , ukek, vlel)

= f ijklαiβju

kvl

ただし,f(ei, ej .ek, el) = f ijkl とおいた.

= f ijklei ⊗ ej ⊗ ek ⊗ el(α, β, u, v)

任意の α, β, u, v で成り立つから

f = f ijklei ⊗ ej ⊗ ek ⊗ el

と表せる.すなわち,任意の f ∈ V 22 は n4 個の {ei ⊗ ej ⊗ ek ⊗ el}の1

次結合で表せる.

次に V 22 において,

{ei ⊗ ej ⊗ ek ⊗ el}が1次独立であることをしめそう.

f ijklei ⊗ ej ⊗ ek ⊗ el = 0

とすると

f ijkl = f(ei, ej , ek, el) = 0

であるから1次独立であることが分かる.

すなわち {ei ⊗ ej ⊗ ek ⊗ el}がベクトル空間 V 22 の基底であり,次元は

dimV 22 = n4

である.

ここでいいたいことは,テンソルの普遍性より

L(V ∗, V ∗, V, V ) ∼= V ⊗ V ⊗ V ∗ ⊗ V ∗  · · · (])を示すことが一般的である.しかし u ⊗ v ⊗ α ⊗ β(u, v ∈ V, α, β ∈ V ∗)

が生成するベクトル空間が V ⊗ V ⊗ V ∗ ⊗ V ∗ であるから普遍性を用いずと

も (])が理解できる.

一般の場合で説明したわけではないが,ベクトル空間 V rs においては

ei1 ⊗ · · · eir ⊗ ej1 ⊗ . . . ejs

が基底で,任意の f ∈ V rs は

22

f i1...irj1...js

ei1 ⊗ · · · eir ⊗ ej1 ⊗ . . . ejs

と一意的に表せることがわかるであろう.

また

dimV rs = nr+s

が成り立つ.

ここでテンソル計算の公式をまとめておくのでご利用下さい.

テンソル計算の公式V をベクトル空間,{ei}, {fi}を基底,それぞれの双対基底を {ei}, {f i}

とする.

fj = aijei

のとき行列 Aを

A = (aij)

Aの逆行列 B を

B = (bij)

とする.すなわち,行列 Aの第 i行第 j 成分が aij であり,つねに,上付

きの添字が行で下付の添字が列である.

ベクトルやテンソルの成分のとき用いる添字は上付きが反変成分で下付が

共変成分で,基底を変えたとき反変成分は bij を用い共変成分は ai

j を用いて

変換する.

すなわち次のようになる.

• V の要素 (反変ベクトル)

xiei = yifj

のとき

yi = bijx

j

• V ∗ の要素 (共変ベクトル)

xiei = yif

i

23

のとき

yi = ajixj

•テンソル(2,2)型のテンソルで説明する

テンソル T を V の基底 {ei}, {fi} で表した成分がそれぞれ T ijkl , T

pqrs の

とき

T pqrs = bp

i bqja

kral

sTijkl

となる.

なお,逆行列 (bij)を用いない

反変ベクトルは

yi = bijx

j

のかわりに

ajiy

i = xj

を用い,テンソルは

T pqrs = bp

i bqja

kral

sTijkl

のかわりに

aipa

jqT

pqrs = ak

ralsT

ijkl

を用いることも多い.

これらが分かればテンソルは怖くありません,上付,下付の添字および和

に関するアインシュタインの規約が優れた内容であることが分かります.

第3節 計量テンソル今までの説明でテンソルが分かったでしょうか.まだ漠然としているかも

しれません.ここで,計量テンソルやその逆行列で決まるテンソル,ベクト

ル空間の線型変換を用いて再度テンソルの説明をします.ちなみに私は計量

テンソルをいじってテンソルの理解が深まりました.皆さんにも役に立つの

ではないかと思います.

24

ベクトル空間で定義された内積を 

(u, v) = g(u, v) (u, v ∈ V )

と表せば,

g : V × V −→ R, (u, v) 7→ g(u, v)

について

(1) g は双線型写像.すなわち g は2階共変テンソル.

(2) g は対称テンソル,すなわち

g(u, v) = g(v, u), ∀u, v ∈ V

(3) g は正値である.すなわち,

g(u, u) = 0, ∀u ∈ V

等号が成り立つの u = 0に限る.

の3条件を満たす.

言い方を変えれば,ベクトル空間に内積を与えるとは,2階正値共変対称

テンソル gを1つ与えることであり,gを(リーマン)計量テンソルという.

これから,計量テンソル g の性質を調べることでテンソルの持つ性質を学

びます.

ベクトル空間 V の計量テンソル g を V の基底 {e1, . . . en}および,その双対基底 {ω1, . . . , ωn}を用いて表そう.

g は2階共変テンソルであるから

g = gijωi ⊗ ωj

と表せる.ただし

gij = g(ei.ej)

である.

実際 u = uiei, v = viei のとき

25

g(u, v) = g(uiei, vjej) = uivjg(ei, ej) = giju

ivj

= gijωi(u)ωj(v) = gijω

i ⊗ ωj(u, v)

すなわち,g は基底 {ei}用いて n2 個の実数の組 {gij}で表せる.次に g を別の基底 ei およびその双対基底 ωi を用いて表そう.

ei = ajiej · · · (A)

とする.

g = gijωi ⊗ ωj

であり,

gij = g(ei, ej) = g(aki ek, al

jel) = aki al

jgkl · · · (B)

となる.

すなわち,2階の共変テンソル g を基底 {ei} で表せば n2 個の実数の組

{gij},基底 {ei}で表せば n2 個の実数 {gij} となり,基底間に (A)の関係が

あるとき gij と gij には (B)の関係がある.この関係を共変ベクトルの基底

の変換式と見比べて見ましょう.添え字が2つになっただけということが分

かると思います.

逆に基底 {ei}のもとで定義された n2 個の実数の組 {gij}と基底 {ei}のもとで定義された n2 個の実数の組 {gij} に (B) の関係があるとき V 上の

双線型写像

g : V × V −→ Rが矛盾なく定義できる.実際

ベクトル空間 V の基底を {e1, . . . , en}, {e1, . . . , en}2つの基底の関係式が

ei = ajiej

のとき u, v ∈ V に対して

u = uiei = uiei, v = viei = viei

なら

ui = aij u

j , vi = aij v

j

満たす.このとき

26

g(u, v) = gijuivj = gija

ikukaj

l ul = gklu

kvl

したがって g(u, v)が矛盾なく定義できることが分かった.

もう少し付け加えるならば,この2階共変テンソル g は,基底 {ei}の双対基底 {ωi}を用いれば

g = gijωi ⊗ ωj

となる.実際

gijωi ⊗ ωj(ukek, vlel) = gijω

i(ukek)ωj(vlel) = gijuiuj

である.

基底 {ei}の双対基底を ωi とすると

g = gijωi ⊗ ωj = gklω

k ⊗ ωl

であり,

gijωi ⊗ ωj = gija

ikaj

l ωk ⊗ ωl

より

gkl = gijaikaj

l

このようにテンソルの成分 gij , gij の関係式を求めてもよい.

次に計量テンソル {gij}の逆行列 {gij}が2階反変テンソルであることを示そう.

{gij} はベクトル空間 V の基底 {ei} を決めれば定まる n2 個の実数の組

である.基底を変換したとき,どのように変換するかを調べればよい.

もう一つの基底を {ei}とし ei = ejaji を満たすとする.

gij = g(ei, ej), gij = g(ei, ej) とし行列 {gij}, {gij} の逆行列をそれぞれ{gij}, {gij}とする.さらに,行列 {ai

j}の逆行列を {bij}とする.

なお,和のアインシュタイン表記は,たとえば aibi で iは考えている範囲

のすべてをとるだけで,文字は何でもよい.すなわち

aibi = ajbj = apbp

であり,使う文字は変形にあわせて変えられる.

27

gkl = gijaikaj

l

の両辺に bki をかける.

bki gkl = bk

i gstaskat

l = δsi a

tlgst = aj

l gij

さらに glrgsi をかける.

bki gklg

lrgsi = bki δr

kgsi = bri g

si

ajl gij g

lrgsi = ajl δ

sj g

lr = asl g

lr

したがって

bri g

si = asl g

lr

両辺に akr をかけると

gsk = asl a

kr glr

を得る.{gij}, {gij}の基底を変換したときの変換式を書くとgij = ai

kajl g

kl · · · (1)

gij = aki aj

l gkl · · · (2)

となる.

次に,{gij}が (1)を満たすことより,V ∗ 上の双線型写像

G : V ∗ × V ∗ −→ Rが矛盾なく定義できること確認しよう.

基底 {ei}の双対基底を {ωi},{ei}の双対基底を {ωi}とする.ここで ei = aj

iej のとき ωi = aijω

j であることに注意する,

α, β ∈ V ∗ が

α = αiωi = αiω

i, β = βiωi = βiω

i

のとき.

αi = αjaji , βi = βja

ji

である.

したがって

G(α, β) = gijαiβj = aikaj

l gklαiβj = gklαkβl

が成り立つ.

テンソル Gを

28

G = gijei ⊗ ej

と表すこともできる.

ここで行った議論は可逆であり計量テンソルに限る必要はない.

{gij} が2階共変テンソルなら,その逆行列で定まる {gij} は2階反変テンソルである.逆に {gij} が2階反変テンソルならその逆行列で決まる{gij}は2階共変テンソルである.

次に,ベクトル空間 V の線型写像

f : V −→ V

を考えよう.V の基底 {ei}を用いてf(ei) = f j

i ej

によって n2 個の実数 {f ji }を定義する.

V のもう一つの基底 {ei}をとりei = eja

ji

のとき

f(ei) = f ji ej

f(ei) = f(aki ek) = ak

i f jkej

fki ek = fk

i ajkej

∴ aki f j

k = ajkfk

i · · · (1)

逆に {f ji }, {f

ji }が (1)を満たすとき,矛盾なく V 上の線型写像が定義で

きる.

実際 v = viei = viei に対して

f(v) = vif ji ej

で定義すれば

= aikvkf j

i ej = f lkaj

l vkej = f l

kvkel

となり矛盾なく定義できた.

(1)を見よう.下付の添字は共変ベクトルの変換式,上付きの添字は反変

29

ベクトルの変換式である.すなわちベクトル空間 V の線型写像は一階反変,

一階共変テンソルである.このテンソルを (1,1)型テンソルという.

さて,ここで注意するべきことは,一階反変,一階共変テンソルは双線型

写像

F : V ∗ × V −→ Rである.これは {f j

i }, {fji }が

aki f j

k = ajkfk

i · · · (1)

を満たすとき線型写像 f : V −→ V と同様に双線型写像 F : V ∗ × V −→R が矛盾なく定義できることで示すことができるが, ここでは L(V ; V ) と

L(V ∗, V ; R)に自然な同型写像,言い方を変えれば基底を用いない同型写像

が存在することを示す.これはすでに述べてあることであるが再度確認し

よう.

v ∈ V, α ∈ V ∗,V の基底を {ei}その双対基底を {ωi}とする.Φ : L(V ; V ) −→ L(V ∗, V ; R), f 7−→ F

を F (α, v) = α(f(v)) で定義し,

Ψ : L(V ∗, V ; R) −→ L(V ; V ), F 7−→ f

を f(v) = F (ωi, v)ei で定義する.

Φは基底を用いてないが,Ψに関しては基底の取り方によらないことこと

を確認する必要がある.

F (ωi, v)ei = F (aijω

j , v)ei = F (ωj , v)ajiei = F (ωj , v)ej

より,F の定義は基底の取り方によらないことが分かる.

次に合成写像 Ψ ◦ Φを調べよう.

(Ψ ◦ Φ)(f)(v) = Φ(f)(ωi, v)ei = ωi(f(v))ei = f(v)

したがって Ψ ◦ Φは恒等写像より Φが同型写像がわかった,

今まで,自然な同型写像という言葉がでてきました.これも分かりづらい.

U, V をベクトル空間.

30

f : U −→ V, u 7−→ v

が自然な同型写像とは,uに決まった v が対応する同型写像ということで

す.議論を進める上で,この対応にしたがってベクトルを交換してもかまい

ません.

たとえば

Φ : L(V ; V ) −→ L(V ∗, V ; R), f 7−→ F

は線型写像は実数への双線型写像と見ることができる.f を与えれば決

まった F が定まるということです.

また,V と V ∗∗ は a ∈ V に対して

V ∗ 3 f 7−→ f(a) ∈ Rで定まる対応は V ∗ から R(実数)への線型写像でこの写像を a∗ と表せば

V から V ∗∗ への同型な線型写像が得られる.これは a ∈ V はそれ自身が

V ∗∗ の要素です.

それでは V とその双対空間 V ∗ ではどうでしょう.

V と V ∗ は次元が同じであるので当然線型同型写像は存在する.例えば

V の基底 {e1, · · · , en}とその双対基底 {ω1, · · · , ωn}を用いてei 7→ ωi

を線型拡張するにより得られる線型変換,すなわち

f : V −→ V ∗, aiei 7−→∑

aiωi

は当然同型写像です.

別の基底を {ei},その双対基底を {ωi},さらに ei = ajiej とすると

f : ei = ajiej 7→

∑aj

iωj

一方  ωi = bijω

j である.したがって ei 67→ ωi である.すなわち,基底

を変えれば対応が異なるので,この対応は自然な同型写像ではない.v ∈ V

に対して対応する v∗ が決まりません.自然な同型写像とは1つ1つの要素

が対応しているということです.

通常の同型写像 f : V −→ W は任意の w ∈ W に対して f(v) = w をみ

たす v が存在し,v1 6= v2 のとき f(v1) 6= f(v2)が成り立つことで,これは

31

基底を用いてできるが,V,W 間に固有の対応があること(これが自然な同

型対応)を基底を用いて示すには,どの基底でもその対応になることを示す

必要があるということです.

さて,再度書くことになるが,ここで,ベクトル空間の基底の役割を思い

出そう.ベクトル空間は抽象的な概念で,基底を用いて初めてベクトル空間

V の要素が扱えます.すなわち,基底 {ei}を用いてV 3 v = viei

より成分表示 v = (v1, . . . , vn)となります.

逆に,V の要素は基底を与えたとき,定まる n個の実数の組で,基底の変

換で次の条件を満たす.

基底 {ei}のとき定める n個の実数の組 {vi}と基底 {ei}のとき決まる n

個の実数の組 vi が基底の関係が

ei = ajiej

のとき,

vi = aij v

j

を満たす.

この条件を満たすとき,V の要素が矛盾なく定義できる.実際

viei = aij v

jei = vj ej

これが基底に基づいたベクトルの定義です.

ベクトルのこの定義に慣れていれば,テンソルを変換則で定める伝統的な

定義が自然であると納得できるのではないでしょうか.

次に内積 (, )が与えれたベクトル空間 V では V, V ∗ の間にも自然 (Intrin-

sic)な同型写像が存在することを示します.

f : V −→ V ∗

32

を x ∈ V に対して

f(x)(y) = (x, y)  y ∈ V

によって f(x) を定義します.この定義は V の基底を用いていないので

Intrinsic な定義です.なお,f(x) = 0のとき x = 0が成り立ち,V, V ∗ の

次元が等しいので同型であることが分かります.

次に基底を用いて

f : V −→ V ∗

を表しましょう.

V の基底を {e1, · · · , en},その双対基底を {ω1, · · · , ωn}とし,(ei, ej) = gij

とおく.

f(ei) = aijωj

とおけば,

aij = (aikωk)(ej) = f(ei)(ej) = (ei, ej) = gij

∴ f(ei) = gijωj

したがって,V の要素 ei と V ∗ の要素 gijωj は同じものと考えます.す

なわち

ei = gijωj

ei, ωj の関係を行列を用いて表せば

e1

...

en

=

g11 · · · g1n

...

gn1 · · · gnn

ω1

...

ωn

行列 (gij)の逆行列を (gij)と表せば

ω1

...

ωn

=

g11 · · · g1n

...

gn1 · · · gnn

e1

...

en

となる.すなわち ei, ω

i の関係は

33

ei = gijωj , ωi = gijej

となります.したがって,V のベクトル xiei に対応する V ∗ のベクトル

は xigijωj であり,V ∗ のベクトル yiω

i に対応する V のベクトルは yigijej

となります.すなわち,次の同一視がおこなれれます.

V 3 xiei ⇐⇒ xiωi ∈ V ∗

のとき

xi = gijxj , xi = gijxj

この同一視はテンソルでも用いられます.

例えば次のようになります.

f = fijkωi ⊗ ωj ⊗ ωk

= fijk(giheh) ⊗ ωj ⊗ ωk

= fhjk(ghiei) ⊗ ωj ⊗ ωk

= f ijkei ⊗ ωj ⊗ ωk

ここで,

f ijk = fhjkghi

である.

ベクトル空間 V に内積 (, ) が定義されているとき,同じ型のテンソルに

は内積が定義される.

たとえば

f = f ijkei ⊗ ωj⊗k, h = hi

jkei ⊗ ωj⊗k

に対して内積 (f, g)は

(f, h) = f i1j1k1

hi2j2k2

(ei1 , ei2)(ωj1 , ωj2)(ωk1 , ωk2)

= f i1j1k1

hi2j2k2

gi1i2gj1j2gk1k2

によって定義されます.

ちなみに

|f |2 = (f, f) = f i1j1k1

f i2j2k2

gi1i2gj1j2gk1k2 = fijkf ijk

34

となります.

このように内積が定義されたベクトル空間 (V, g)は V と V ∗ が同一視し

されます.

なお,ベクトル空間 V に内積が定義されれば,基底を与えればシュミッ

トの直交化より新しい正規直交基底 {e1, . . . , en}が作られV −→ Rn, xiei 7−→ (x1, . . . , xn)

は距離を保つ同型写像である.したがって,計量テンソルを与えたベクト

ル空間 (V, g)をユークリッド空間といいう.

第4節 テンソルの縮約テンソルの縮約について説明する.これがテンソルを学ぶときの最後の関

門です.

テンソルの縮約は,V の要素 v と V ∗ の要素 α の定義より定まる演算

α(v)をテンソルの中に組み込んだものです.

V の基底を {ei},その双対基底を {ei}とする.v ∈ V, α ∈ V ∗ に対して α(v)を計算しよう.

v = viei, α = αiei

のとき

α(v) = αiei(vjej) = αiv

i

ちなみに最後の式はn∑

i=1

αivi

のことです.

この関係式を見直しましょう.

v ∈ V, α ∈ V ∗ からテンソル積 v ⊗ αを作ると

v ⊗ α = viαjei ⊗ ej

ここで f ij = viαj とおく.

35

v ⊗ α = f ijei ⊗ ej

この式を用いて α(v)を表すと

α(v) = viαi =n∑

i=1

v ⊗ α(ei, ei)

すなわち,テンソルの中の反変ベクトルと共変ベクトルを定義にしたがっ

て計算することは∑

v ⊗ α(ei, ei)を示し,これが縮約です.

もう一つ例を挙げます.

u, v ∈ V, α, β ∈ V ∗

よりテンソル

u ⊗ v ⊗ α ⊗ β ∈ V 22

をつくり,uと αを計算して新しく得られる

α(u)v ⊗ β ∈ V 11

が縮約です.

成分を計算しましょう.

u = uiei, v = viei, α = αiei, β = βie

i

のとき

u ⊗ v ⊗ α ⊗ β = uivjαkβlei ⊗ ej ⊗ ek ⊗ el = f ijklei ⊗ ej ⊗ ek ⊗ el

一方

α(u)v ⊗ β = uiαivjβlej ⊗ el = f ij

il ej ⊗ el

この例は,縮約の2つのことを意味しています.

(2,2)型のテンソル f ijkl ∈ T 2

2 に対して反変の1番の添字と共変の1番目の

添字を等しいとして和をとり新しい (1,1)型のテンソル f ijil ej ⊗ el をつくる.

もう一つの見方は

f ∈ V 22 より新しい g ∈ V 1

1 を

g(α, v) = f(ei, α, ei, v)

によって定義する.

この2つのことが同じであることが分かります.したがって,以下に定義

する2つの定義は同じことです

36

定義

V をベクトル空間,{ei}を基底,{ei}をその双対基底とする.p, q は 1 5 p 5 r, 1 5 q 5 sを満たすとする.

(r,s)型テンソル f に対して (r-1,s-1)テンソル g を次のように定義する.

g(α1, . . . αr−1, v1, . . . vs−1)

= f(α1, . . . , αp−1, ei.αp, . . . , α

r−1, v1, . . . , vq−1, ei, eq, . . . , vs−1)

この新しいテンソル g をテンソル f の p番目の反変添字と q 番目の共変

添字を縮約したテンソルと呼び新しいテンソル g を

g = contr(p,q)(f)

と表す.

さらに,テンソル f の i番目の反変成分と p番目の共変成分,j 番目の反

変成分とと q 番目の共変成分を縮約するとき

contr(ij,pq)(f)

と表す.

ただ前後からどこを縮約したことが明らかなことが多く,さらに煩雑にな

るので縮約の場所の (i, p)を省略する場合が多い.すなわち

g = contr(f)

と表すことが多い.

縮約をテンソルの成分を用いて定義すると次のようになる.

定義

ベクトル空間 V の基底 {ei}による成分が f i1...irj1...js

である (r,s)型テンソル

f に対して,p番目の反変成分と q 番目の共変成分を等しいとして和をとっ

て得られる (r-1,s-1)型テンソル g すなわち

gi1...ip−1ip+1...ir

j1...jq−1iq+1...jr= f

i1...ip−1kip+1...ir

j1...jq−1kiq+1...jr

で得られるテンソル g をテンソル f の p番目の反変成分と q 番目の共変

成分を縮約したテンソルと呼ぶ.新しいテンソル g を

g = contr(p,q)(f)

と表す.

37

テンソルの積をとりその後縮約をすることはよく行われる.

たとえば f を (2,2)型のテンソルとする.

u = uiei, v = viei, α = αiei, β = βie

i

のとき

f(α, β, u, v) = f ijklαiβju

kvl

であるが,これは積をとって縮約したもの,すなわち, 積をとり (4, 4)型

のテンソル

f ⊗ α ⊗ β ⊗ u ⊗ v

を作り

contr(1234,3412)f ⊗ α ⊗ β ⊗ u ⊗ v

と縮約したものである.

最後に,ベクトル空間 V の線型変換 f を考えよう.

線型変換

f : V −→ V

は (1,1)型テンソルである.

すでに述べたが,

F : V ∗ × V −→ Rを

F (α, v) = α(f(v))

で定義する.

V の基底を {ei}として F の縮約を求めると

contr(F ) = F (ei, ei) = eif(ei) = f ii

この値は,行列で表せば対角成分の和になるわけであるが,線型変換 f の

この値は f の不変量である.すなわちこの値は座標の取り方によらない値

38

である.

定義

ベクトル空間やテンソル空間で扱う量で,座標変換しても変わらない量を

スカラーと呼ぶ

        (テンソル積の項目終わり)

39

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