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1.2.1 はじめに誘電体バリア放電(Dielectric Barrier Discharge, DBD)は
オゾナイザー放電とも呼ばれ,1857年,Siemens がオゾン
を合成する方法として考案したことに端を発する[1](オゾ
ンの発見は1840年).現在では,空気清浄機などの家電製品
に必須の機能として装備され,また有害物質の除外装置を
はじめとするエネルギー・環境分野への産業応用が急速に
展開している[2].さらに近年では,超臨界流体,液体,粉
体,生体など新媒体における反応性プラズマの生成や,バ
イオメディカル応用,新物質創成といった,最先端のプラ
ズマ科学を支える基盤技術として重要な役割を果たしてい
る[3,4].
DBDはナノ秒で生成と消滅を繰り返す微細なパルス放
電の集合体で,電子温度は数万度,気体温度はほぼ常温と
いわれている.一方,電源の高周波数化や反応器の小型化
に伴って電力密度が増大し,DBDで発生する熱の取り扱い
(装置の加熱や気体温度の上昇)がクローズアップされてき
た.DBDの本質は,大気開放系で活性種を生成して所望の
化学反応を低温度で促進することにある.DBDで発生する
熱はエネルギー損失となるばかりでなく,誘電体を含む電
極系,反応媒体を劣化させる要因にもなっている.このよ
うな問題は,100年にわたるオゾン合成にかかわる研究で
提唱されてきたが,詳細に検討した例はほとんど見当たら
ない.巨視的な観点から,複数のストリーマによる電極間
の均一発熱を仮定して,一次元定常熱伝導方程式を解くこ
とで時間・空間的に平均化された気体温度を見積もること
が多い.実験で得られる諸量を用いて簡単に気体温度を算
出できるため,特に化学反応解析では多用されている
[5‐7].しかし,得られた気体温度の妥当性は実験的に検証
されておらず,このような解析で見積もられた気体温度は
反応器の設計指針として便宜的に用いることしかできない
だろう.
本稿では,大気圧非平衡プラズマとして広く利用されて
いるストリーマ形式の誘電体バリア放電(DBD)と,近年
新たに考案された大気圧グロー放電(Atmospheric pres-
sure glow discharge, APG)を取り上げ,両者を対比しなが
らプラズマの空間構造が大気圧非平衡プラズマ反応場の
熱・物質移動現象に及ぼす影響を明らかにしている.さら
に,発光分光分析によってプラズマ形成に伴う局所温度上
昇を計測し,従来の熱伝導方程式による気体温度予測の問
題点を明確化することで,DBD,APGにおけるヒートマネ
ジメントの重要性を概説し,本企画の導入とする.
1.2.2 誘電体バリア放電と大気圧グロー放電まず,誘電体バリア放電の発生原理と基本特性を概説す
る.大気圧グロー放電(APG)は,プラズマの空間構造に
着目して命名されており,電極構成に着目して命名された
誘電体バリア放電(DBD)とは明確に区別されている.し
かし,いずれも電極間に誘電体を挿入したバリア放電電極
系で形成される過渡的なパルス放電であることから,APG
と DBDは本質的に同じものである.本稿では慣例に従い,
ストリーマタイプの誘電体バリア放電をDBD,グロータイ
プの誘電体バリア放電をAPGと呼んで両者を区別する.以
後,「誘電体バリア放電」という場合には,特にDBDと
APGを区別しない.
講座 熱流を伴う反応性プラズマを用いた材料合成プロセス
1.はじめに
1.2 誘電体バリア放電におけるエネルギー分配機構とヒートマネジメント
野崎智洋東京工業大学大学院理工学研究科グローバルCOE
(原稿受付:2008年11月18日)
大気圧非平衡プラズマとして広く利用されているストリーマ形式の誘電体バリア放電(Dielectric BarrierDischarge, DBD)と,近年新たに考案された大気圧グロー放電(Atmospheric pressure glow discharge, APG)を取り上げ,両者を対比しながらプラズマの空間構造が大気圧非平衡プラズマ反応場の熱・物質移動現象におよぼす影響を明らかにした.入熱(消費電力)と抜熱(外部冷却回路)のバランスで決まる反応場の平均温度上昇に加え,発光分光分析によってプラズマ形成に伴う局所温度上昇を計測し,従来の熱伝導方程式による気体温度予測の問題点を明確化することで,DBD,APGにおけるヒートマネジメントの重要性を概説する.
Keywords:
dielectric barrier discharge, atmospheric pressure glow discharge, heat and mass transfer
1.2 Heat Management and Energy Distribution Mechanism in Dielectric Barrier Discharges
NOZAKI Tomohiro author’s e-mail: tnozaki@mech.titech.ac.jp
J. Plasma Fusion Res. Vol.85, No.1 (2009)46‐52
�2009 The Japan Society of PlasmaScience and Nuclear Fusion Research
46
1.2.2.1 DBD
図1は,DBDの電圧・電流波形と電極間の発光分布であ
る.印加電圧は 80 kHz の正弦波電圧,上側は銅電極,下側
には厚さ 0.5 mmのガラス板を挿入している.誘電体を含
む電極系は一種のコンデンサとみなせるため,交流電圧を
印加しなければならない.DBDの特徴はストリーマ形式の
絶縁破壊が生じることで,直径約 100 μmの微細放電が時間・空間にランダムに形成され,電極間の広い範囲を電離
する.ストリーマが進展する速度は,外部電界の大きさに
よって決まる電子のドリフト速度の約10倍に達し(108~
109 cm/s),これに伴いスパイク状の電流パルスが電圧の
半周期に複数観察される.個々のストリーマが非平衡プラ
ズマ源に相当しており,オゾン生成,エキシマランプ,排
ガス処理,有害物質の分解,除菌・殺菌,燃料改質など,気
相反応を中心に幅広く利用されている[1].
ストリーマはナノ秒で生成と消滅を繰り返すため,スト
リーマと電源は電気的にほとんど結合しておらず,商用か
ら高周波まで様々な電源を使って簡単にDBDを形成でき
る.個々のストリーマにおける電子密度は 1012-1013 cm-3,
電子エネルギーは最大で1×10 eVと言われているが[8],
原料ガスや誘電体を含む電極構成でストリーマ1本あたり
の性質が決まれば,プロセス全体の性能は大略決定され
る.周波数,印加電圧波形などの外部パラメータは,スト
リーマの発生頻度(単位時間・単位面積あたりに発生する
数密度[本/cm2/時間])を変えるだけで,ストリーマ1
本の電子密度や電子エネルギーまで制御するには至らない
ことが多い.ラボスケールでプロセスを最適化すれば比較
的簡単にスケールアップできるが,反面,プロセスとして
の反応制御性は高くないことを意味している.
1.2.2.2 APG
図2はHe:CH4=98:2を用いてAPGを形成した時の
電圧・電流波形,および発光分布である.ガス組成以外は,
図1に示したDBDと同じ電極系でプラズマを形成してい
る.しかし,APGの場合には水平方向に均一な発光が確認
されると同時に,印加電圧の半周期に単一の電流パルスが
形成されている.極性による電流パルスの違いはほとんど
見られないが,発光分布には明確な差が現れている.金属
電極が陰極になる場合,金属電極の近くに発光強度の強い
負グローが出現する.誘電体が陰極となる場合には負グ
ローが厚くなる.ヘリウムの準安定励起種(20 eV)は寿命
が長いうえ,ほとんどの気体分子の電離電圧を上回ってい
るため,Penning 電離が二次電子の供給に重要な役割を果
たしている[9].すなわち,原料ガスを多量のヘリウムで希
釈すれば,印加電圧を低く抑えて電子なだれがストリーマ
へと転化しにくくなり,比較的簡単にAPGを形成できる.
電流パルスがピークに達する頃,低圧グロー放電と類似し
た負グロー,ファラデー暗部,陽光柱が形成され,このと
き負グローの電子密度は約 1011 cm-3 に達する[10,11].電
流パルスが減衰した後,Penning 電離によって次の放電に
必要となる電子が供給され(>106-107 cm-3),次の半周
期で再び単一電流パルスが形成される.非放電期間の残存
電子が消滅する前に次の放電が発生しなければならず,一
般に10 kHz以上の高周波電源が必要とされている.電流の
急激な立ち上がりと同時に電極間電圧は低下するため
図1 DBDにおける電圧・電流波形と発光分布(CH4:100%).露光時間 1.2 ms.
図2 APGにおける電圧・電流波形と発光分布(CH4:2%).写真(a)は負電流パルスに同期,同(b)は正電流パルスに同期して撮影(露光時間 1 μs×100フレーム).
Lecture Note 1.2 Heat Management and Energy Distribution Mechanism in Dielectric Barrier Discharges T. Nozaki
47
(�������),APGは不安定で過渡的にしか存在しない.
1.2.3 エネルギー分配機構と熱・物質移動現象DBD,APGいずれの場合でも,電極間に誘電体を挿入し
てパルス放電を形成することで,プラズマ反応場の過度な
熱化を抑制している.しかし,大気圧では粒子同士の衝突
頻度が高く,投入した電気エネルギーが熱エネルギーへ変
換されやすい系となっている.したがって,プロセスの高
効率化のためには原料ガスの転換率や反応選択性を向上さ
せるだけでなく,プラズマの熱化をいかに抑制するかが重
要なポイントとなる.ここでは,DBDとAPGを天然ガス
の主成分であるメタンの分解反応に適用し,プラズマ反応
場に供給した電気エネルギーがメタンの分解反応に有効利
用される割合と熱エネルギーに変換される割合,そして熱
エネルギーがプラズマ反応場でどのように伝達されている
のか,また,プラズマ反応場の気体温度はどの程度まで上
昇しているのかといった,伝熱を含めたエネルギー分配機
構を検討した結果を紹介する.さらに,発光分光分析に
よってプラズマ形成に伴う局所温度上昇を計測し,実際に
化学反応が生じている非平衡プラズマ反応場の気体温度を
関連づけて熱・物質移動現象を総括的に考察する.
1.2.3.1 実験装置と実験方法
実験装置の構成を図3に示す.誘電体バリア放電は,水
冷プローブを一対の電極とする平行平板電極で形成した.
水冷プローブの上流と下流には熱電対を挿入しており,冷
却水の温度上昇から電極への伝熱量を計測した.接地電極
とパイレックスガラス(厚さ 0.5 mm)は,接触熱抵抗を低
減するため導電性ペーストで接着した.プラズマは電極面
積 80 mm×10 mm,電極間距離 0.5 mmの領域で形成され
る.DBDを形成する場合には高純度のメタン(99.99%)を
供給し,APGの場合にはHe:CH4=98:2の混合ガスを
供給した.また,ガス組成がエネルギー分配機構におよぼ
す影響を調べるため,He:CH4=50:50の混合ガスも実験
に供した.メタンの一部は反応器を通過する間に分解さ
れ,エタン,エチレン,アセチレン,水素が生成される.こ
れら生成物はガスクロマトグラフ(FID)で定量し,メタン
分解にともなう反応吸熱量を算出した.さらに,プラズマ
発光部の気体温度を計測するためCH(432 nm)回転温度を
計測した.光学系および回転温度の算出方法は文献を参照
されたい[12,13].
1.2.3.2 エネルギー分配機構[13,14]
消費エネルギーに対する反応・熱へのエネルギー分配
は,図4に示す模式図と緒元から算出した.ここで,消費
エネルギーはリサージュ図形を描く方法で求めた[6].図
4によれば,流速がゼロの場合「消費エネルギー」�「両電
極への伝熱量」と仮定できるため,��0 m/s(すなわち
����)の条件で実験系の熱損失に起因した測定誤差を推
定した.���0 m/s の場合,消費エネルギーから電極への伝
熱量(�+�),反応吸熱量(�),熱損失を差し引いた残りは,混合ガスの顕熱上昇(温度変化を伴う熱量変化:
���������)に相当する(�).これを混合ガスの熱容量(��)で割れば,時間・空間平均量としての気体温度上昇
(�����)を求めることができる.ここで,プラズマの形成に
よって混合ガスの物性値は変化しないと仮定した.詳細は
1.2.3.5節を参照されたい.このようにして求めた�����
は,プラズマの形成に伴う局所温度上昇(�������)とは本
質的に異なるパラメータであることに注意しなければなら
ない.これを式で表すと次のようになる.
������������� ������������������
すなわち,����������� ���������� (1)
ここで,����:プラズマ(発光部)の気体温度,�� �:CH
(432 nm)の回転温度,��:反応器入り口における気体温
度,�����:平均温度上昇,�������:プラズマ形成に伴う
局所温度上昇.実験で得た�����,�� �を用いて式1から
図4 誘電体バリア放電電極系とエネルギー分配を表した模式図.CP:比熱[Jkg-1・K-1],G:質量流量[kg・s-1],�T:温度 上 昇[K],[C2]:C2生 成 物 の 質 量 分 率[kg・kg-1],�HC2:C2生成物の反応熱[J・kg-1].下つきmとwは混合ガスと冷却水を表す.
図3 実験装置の概略.OSC: Oscilloscope,GC: Gas Chromatography,FID: Flame Ionization Detector,ICCD: Intensified Charge Cou-
pled Device.
Journal of Plasma and Fusion Research Vol.85, No.1 January 2009
48
��������を推定し,気体平均流速,消費電力に対する変化を
調べることでエネルギー分配機構を考察した.
1.2.3.3 エネルギー分配機構
混合比の異なる3種類の気体を用いて実験を行った.図
5(a),(b)に平均流速に対する消費エネルギーの分配を示
す.流速がゼロの場合,消費エネルギーと電極伝熱量の差
は測定誤差に相当しており,DBD,APGいずれも消費エネ
ルギーに対して6-9%に相当する.メタン分解にともなう反
応吸熱量は消費エネルギーに対して約1%で,DBD,APG
いずれの場合も物質変換のエネルギー効率は低い.DBDに
触媒を重畳させればメタン分解効率は格段に向上するが,
詳細は本講座の趣旨から外れるため文献に譲る[15‐17].
他方,消費エネルギーの約80%が熱エネルギーとして水冷
電極から除熱されている.流量の増加とともに気体の顕熱
として持ち去られる熱量が増えるため,電極への伝熱量は
減少する.図5(a),(b)には一見大きな差はないように見
えるが,電極伝熱量には顕著な差が現れている.この点を,
He:CH4=50:50の混合比の場合も含めて考察した.
平均流速を 5 m/s で固定し,ガス組成がエネルギー分配
におよぼす影響を図6にまとめた.図6はプラズマ構造の
違いだけでなく,混合ガスの熱物性(熱伝導率,比熱など)
がエネルギー分配に及ぼす影響も反映されている.DBD
(CH4:100%)の場合,ストリーマが誘電体の表面で沿面
放電として広範囲に進展するため(図1参照),消費エネル
ギーの約 56%が誘電体電極へ伝達され,約 21%が金属電
極へ伝達されている.CH4:He=1:1の場合,エネルギー
分配割合はDBDとほぼ同じである.混合ガス(CH4:He
=1:1)の熱伝導率は純メタンより 2.5 倍も増大するが,電
極伝熱量に顕著な差は生じなかった.これは,流速の影響
が及びにくい電極(壁面)表面で選択的に熱が放出される
ためである.換言すれば,気体の熱物性が電極への伝熱量
に及ぼす影響は極めて小さいことを意味する.これ
は,1.2.3.5節で述べる解析が妥当ではないことを実験的
に裏づける重要な結果である.これとは対照的に,APG
(CH4:2%)では金属電極近傍で発光強度の強い負グロー
が形成されるため(図2参照),金属電極への伝熱量が誘電
体電極のそれを上回った.DBD,APGに関わらず,消費エ
ネルギーの約80%が電極から除熱されるため,気体の顕熱
増加は消費エネルギーに対して 10%程度である.
1.2.3.4 平均流速と気体温度の関係
平均流速に対する平均温度上昇(�����)と局所温度上昇
(��������)の関係を図7に示す.�����と��������の関係は
式(1)を参照されたい.図5,6から,ガス組成によらず
消費エネルギーの約 10%しか気体の顕熱上昇に分配され
ないため,平均温度(�����)は20-40 Kしか上昇しない.
一方,局所温度上昇(��������)はプラズマの状態によって
特徴的な変化を示す.DBDの場合(図7(a)),ストリーマ
の形成に伴って平均温度よりさらに 100 K以上の局所温度
上昇が観察された.APGの場合,負グローは電極近傍にの
み形成されるが,空間均一性が高くエネルギー密度が低く
なるため,��������は�����よりわずかに高い値を示すのみ
である(■と□を比較).CH4:He=1:1の場合,局所温度
上昇(��������)は平均温度(�����)より 100 K近く上昇し
ており,プラズマの空間構造はストリーマ形式に近いとい
える(▲と△)を比較).
図5 平均流速に対するエネルギー分配の違い(50 W).(a)APG(CH4=2%),(b)DBD(CH4=100%)
図6 エネルギー分配にガス組成が及ぼす影響(50 W,5 m/s).DBD(CH4=100%),APG(CH4=2%).熱物性がエネルギー分配に及ぼす影響を調べるために CH4=50%の実験も行った.
Lecture Note 1.2 Heat Management and Energy Distribution Mechanism in Dielectric Barrier Discharges T. Nozaki
49
1.2.3.5 エネルギー方程式による平均温度の推算
誘電体バリア放電の気体温度は,プラズマによる均一発
熱を仮定して一次元定常熱伝導方程式から見積もられるが
[6,7],これでは不十分である.第一に,DBD,APGとも
特徴的な空間構造を呈しており,電極間の均一発熱を仮定
することはできない.第二に,熱伝導方程式では気体流量
(または流速)の影響を含めて解析することができない(式
2).そこで我々は,対流による熱輸送も考慮した二次元エ
ネルギー方程式を解くことで,反応器出口における平均温
度上昇を見積もった[13,14,18].ただし,解析ではプラズ
マによる均一発熱を仮定した.
一次元定常熱伝導方程式 ������
����� (2)
二次元エネルギー方程式
����������
������
��������
� �����������
� ���(3)
以下の仮定により,プラズマの有無に関わらず混合ガスの
物性値を一定とみなせるため,式(3)は気体温度の関数と
して簡略化でき式(4)を得る.
①.ストリーマ(負グロー)は弱電離プラズマである.
②.ストリーマ(負グロー)形成による局所温度上昇は
100℃程度である.
③.反応後のガス組成はほとんど変化しない(C2H6,C2H4の濃度は 1000 ppm以下)[14].
④.流れは(層流)は十分発達しており �方向速度成分
はゼロ(��0 m/s)である.
二次元エネルギー方程式
���������� ��
���
�������
���� �� �
�� ��(4)
ここで,�:流れ方向の座標,�:流れに垂直な座標(図4
参照),�:�方向速度成分,�:�方向速度成分,��:熱伝
導率,��:エンタルピー,��:密度, ��:定圧比熱,�:
気体温度,�:プラズマの電力密度 (W/m3),である.添
え字mは混合気体に対する物理量を示す.境界条件とし
て,反応器入口における気体温度を 15℃一定,反応器出口
では温度勾配を一定とした.また,水冷プローブ内(水流
側)の熱伝達係数を 600 W/m2/K で一定と仮定した.混合
ガスの熱伝導率は誘電体の熱伝導率より充分小さいため,
誘電体層(0.5 mmガラス)の熱抵抗は考慮する必要はない.
CH4/He 混合比を変化させた時の,反応器出口の平均温度
(解析結果)を図8に示す.
まず,DBD(CH4=100%)の解析結果(●)について考
察する.図7(a)と比較すれば明らかなように,解析結果
は実験値(�����)よりはるかに大きな値となっている.解
析結果とプラズマの局所温度上昇(��������)のオーダは一
致しているが,これは偶然の一致である.なぜなら,式(4)
(a)CH4:100%(DBD)●平均温度,○回転温度 (b)CH4:50% ▲平均温度,△回転温度CH4:2%(APG)■平均温度,□回転温度
図7 平均流続に対する気体温度の変化(�T=�Tave+�Tplasma)(50 W).
図8 反応器出口における平均気体温度(電力 50 W).●CH4:100%,◆CH4:50%,▲CH4:10%,■CH4:2%).
Journal of Plasma and Fusion Research Vol.85, No.1 January 2009
50
はプラズマの空間構造や時間変化を一切考慮していないた
め,解析結果と局所温度上昇(��������)の相関を議論して
も本質的に意味がない.また,実験結果では流速によって
気体温度はほとんど変化しておらず,この点も解析結果と
一致していない.さらに,解析結果ではヘリウムの濃度が
高まるとともに平均温度が顕著に低下している.これは,
ヘリウムによって混合ガスの熱伝導率が増大し,電極への
伝熱量が増えるためである.しかし,このような熱物性の
影響は実験では確認されていない.�����,��������のいず
れの見地からも,気体温度に最も大きな影響をおよぼすの
はプラズマの空間構造であり,均一発熱を仮定したエネル
ギー方程式(熱伝導方程式)の解は,①実際に化学反応が
生じているプラズマ反応場の気体温度を反映しておらず,
②物性値,ガス流速が気体温度におよぼす影響を記述する
ことはできない.ストリーマ(負グロー)による均一発熱
を仮定する場合,エネルギー方程式を3次元まで拡張して
も解析結果の精度を高めることにはならない.
1.2.3.6 消費エネルギーと気体温度の関係
消費電力に対する�����,��������を図9に示す.結果は,
DBDについてのみ示している.消費電力が増えるほど平均
温度(�����)は増加するが,プラズマの形成に伴う局所温
度上昇(��������)はほぼ一定である.�����は入熱(消費電
力)と抜熱のバランスできまるプラズマ反応場の平均温度
上昇に相当する.すなわち,水冷電極における冷却条件が
一定であるから,消費電力が大きくなるほど�����は単調
に増加する.したがって,電力=0Wで�����はゼロに漸近
する.一方,消費電力を増大させても,単位時間,単位面
積あたりに発生するストリーマの発生頻度が増えるだけ
で,ストリーマ一本あたりの電力密度(プラズマ密度)は
ほとんど変化しないと考えられる.したがって,電力を増
加させても��������はほとんど変化しない.消費電力がゼ
ロの場合,��������は約100 Kとなり原点を通らない.消費
電力はストリーマ1本あたりの消費エネルギーと発生頻度
に比例しており,電力をゼロに近づけてもストリーマ1本
あたりの消費電力が有限の値を持つ(ゼロに漸近しない)た
めである.
1.2.4 おわりにDBDとAPGを対象に,大気圧非平衡プラズマ反応場の
エネルギー分配機構について考察した.一般に誘電体バリ
ア放電では,電子温度が数万度,気体温度はほぼ常温とい
われている.しかしながら,入熱(消費電力)と抜熱のバ
ランスで決まるプラズマ反応場の温度上昇はあってしかる
べきである.プラズマ反応場の温度上昇は,そこで生じて
いる化学反応速度に大きな影響を及ぼすだけでなく,反応
器の寿命やプロセスの品質を低下させる原因にもなってい
る.オゾン合成や種々のガス処理では,反応器を外部から
強制冷却することで対応できるが,生体サンプルをプラズ
マ処理する場合には適切な冷却措置を取ることが難しく,
過度な温度上昇が生体組織を変性させる恐れが指摘されて
いる.液中や超臨界媒体でプラズマを形成する場合には,
発生する熱エネルギーによって反応媒体が相変化し,所望
の反応を引き起こせない問題も危惧される.このような問
題に直面すると,本質的にプラズマで熱を発生させない技
術,あるいは発生した熱をうまく除熱する技術など,これ
までとは異なる視点でプラズマを制御しなければいけない
ことに気が付くだろう.プラズマ反応場における熱・物質
移動現象が,プロセスの改善や現象の本質理解にとって重
要な要素であることを認識していただければ,本企画の導
入として十分であると考える.
参 考 文 献[1]U. Kogelschatz, Plasma Chemistry and Plasma Process-
ing 23, 1 (2003).[2]大久保雅章:プラズマ・核融合学会誌 84, 121 (2008).[3]小駒益弘監修:大気圧プラズマの生成制御と応用技術
(サイエンス&テクノロジー,2006).[4]橘 邦英,寺嶋和夫監修:マイクロ・ナノプラズマ技
術とその産業応用(シーエムシー出版,2006).[5]U. Kogelschatz, B. Eliasson and W. Egli, J. de Physique
IV 7, 47 (1997).[6]葛本昌樹,田畑要一郎,吉沢憲治,八木重典:電学論A
116, 121 (1996).[7]J. Kitayama andM. Kuzumoto, J. Phys. D: Appl. Phys. 30,
2453 (1997).[8]B. Eliasson,M. Hirth andU. Kogelschatz, J. Phys.D:Appl.
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Phys. Control. Fusion 47, B577-B588 (2005).[10]FMassines, P Segur,NGherardi, CKhamphan,ARicard,
Surf. Coat. Technol. 174-175, 8 (2003).[11]Y. Honda, F. Tochikubo and S. Uchida, Jpn. J. Appl. Phys.
Part2, 41, L1256 (2002).[12]T. Nozaki, Y. Unno, Y. Miyazaki, K. Okazaki, Plasma
Sources Sci. Technol. 11, 431 (2002).[13]T. Nozaki, Y. Unno, Y. Miyazaki and K. Okazaki, J. Phys.
D: Appl. Phys. 34, 2504 (2001).[14]T. Nozaki, Y. Miyazaki, Y. Unno and K. Okazaki, J. Phys.
D: Appl. Phys. 34, 3383 (2001).[15]T. Nozaki, W. Fukui and K. Okazaki, Energy and Fuels
図9 消費電力に対する気体温度(DBDのみ示す).▲平均温度,●回転温度.
Lecture Note 1.2 Heat Management and Energy Distribution Mechanism in Dielectric Barrier Discharges T. Nozaki
51
������������������������������������������� ���������������������������
����������������
in press Oct. 2008 (DOI: 10.1021/ef800461k).[16]T. Nozaki, H. Tsukijihara, W. Fukui and K. Okazaki, En-
ergy and Fuels 21, 2525 (2007).[17]T. Nozaki, H. Tsukijihara and K. Okazaki, Energy and
Fuels 20, 339 (2006).[18]M.N. Ozisik,Heat Transfer: A Basic Approach (Mcgraw-Hill
College, 1984).
の ざき とも ひろ
野 崎 智 洋
東京工業大学大学院理工学研究科・グロー
バルCOE(エネルギー学理の多元的学術融
合)特任准教授.博士(工学).1995年豊橋
技術科学大学エネルギー工学専攻修士課程
修了.石川島播磨重工業�(現:IHI)(微粉炭燃焼),岐阜大学工学部助手(工業用熱交換器),東京工業大学大学院理工学
研究科助教を経て現職.ミネソタ大学機械工学科在外研究員
(’03.3-’04.2).大気圧プラズマを使った材料合成,エネル
ギー・環境分野への応用に関する研究に従事.
Journal of Plasma and Fusion Research Vol.85, No.1 January 2009
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