1.浅大腿動脈慢性完全閉塞に対する 体表面超音波ガ...

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第39回日本 IVR学会総会「技術教育セミナー」:吉町文暢,他

1 . 浅大腿動脈慢性完全閉塞に対する 体表面超音波ガイド下の血行再建

青森県立中央病院 循環器科,臨床検査部 1)

吉町文暢,三浦 大,會田悦久,坂本幸則,丹野倫宏,川原隆道金城貴彦,中﨑真也,小林数真,田嶋育子1),柏木さおり1)

はじめに

 閉塞性動脈硬化症(ASO)は,動脈硬化に関わる基礎疾患の増加,高年齢化などにより,徐々に増加している。なかでも,血行再建を必要とする浅大腿動脈の狭窄,閉塞は増加傾向にあると考える。 浅大腿動脈(SFA)の慢性完全閉塞(CTO)に対する治療のガイドラインとして有名なものにはTASCⅡがあるが,しかし,最近のステントの成績を考えた時には,no stenting zoneと呼ばれる部位にステントがかからない限りはインターベンションを第一に考えても良い時代になったと言っても過言ではない1,2)。 インターベンションの手技は,従来からの造影に基づいて術者の感と感触で行う方法,retrogradeとantegradeの両方からガイドワイヤ(GW)を通過させる false lumen angioplasty3),血管内超音波ガイドで行う方法4,5),体表面エコーガイド下で行う方法など,様々ある。いずれの治療方法でも初期成功率は著しく高くなったが,慢性期の成績を比較した大きなスタディは無く,術者や施設の考え方によって手技は選択されている。 当科においては,下肢閉塞性動脈硬化症における殆ど全ての末梢血管CTOに対して体表面超音波(エコー)ガイド下にてインターベンション治療を行っている。

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なぜエコーガイド下インターベンションか?

 CTOへのインターベンションに,どんな情報が必要であろうか?閉塞している末端の位置が解ればそれで良いのであろうか?単に血管が詰まっているという情報だけでよいのであろうか? 一見健康そうにみえる血管でも閉塞部位を含めて全ての動脈において程度の差はあれ動脈硬化が進行している。狭窄部や閉塞部においても様々な病変が混在している。それぞれの異なる病変に対しては異なる局所情報を細かく得ることは血行再建に有用である。局所情報を低侵襲でリアルタイムに確認する手段はエコーが最も優れている。 我々循環器内科は,実際の動脈を見たり,CTやMR Angioの画像を構築したりする機会は少ない。故に,下肢動脈の解剖学的な立体感は得意ではない。これらをカバーする情報もエコーで得られる。 SFAは長い血管であるため,冠動脈用血管撮影装置にて閉塞部全体を一視野で撮影できないことも少なくない。末梢血管治療用の固いGWをどこに進ませるべきかがよく解らないままに,手技を進めることは危険かつ無謀である(図1)。エコーでは長軸像でGWの進むべき方向を導きながら治療が行われる(図2)。 血管径の測定もエコーが一番優れている。CTやMR

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図1 ガイドワイヤ(GW)のオリエンテーション

aの閉塞部は矢印から矢印の間である。このように,一視野に閉塞部位の全体が入る場合にはGWの進むべき方向がある程度理解できる。しかし,bのように,閉塞部位にGWが入った後に,一視野の中で側副血行路も末梢端も何も造影されないときにGWを何処に向けて進めるべきなのであろうか?

a b

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Angioで血管径の測定を行う施設もあるが,時間や人員もしくは血行再建に興味が無い放射線科スタッフにはそこまで依頼するのは難しい。 CTやMR Angioを撮影しながらインターベンションを行うことはできない。すなわち,術前情報と術中情報が異なる中で治療を行っている。この情報の乖離が合併症の誘因になったり,予想以上に治療に難渋する原因になったりする。 以上より,エコー情報を,CTやMR angioや血管造影の画像と合わせて情報を処理することで,末梢血管インターベンションを行うのが望ましいと考える。

超音波による術前画像診断

 治療前の術前検査よりエコーガイドインターベンションは始まっている。この詳細な情報を整理することで,実際の治療は容易で安全に施行される。 閉塞起始部と末端部はもっとも治療を慎重にすべき場所であるために,その位置,形状,硬さを丁寧に観察する。この時点で手技の際に最初に使用するGWが決定している。 閉塞血管内部は,血管径はもちろんのこと,石灰化の程度と局在,屈曲,小さなチャンネルの有無などを確認しておく。長い閉塞部はその局所の情報を連続してつかむようにしたい。エコー輝度の変化,大きな石灰の塊,小さな石灰化粒子の散在などで閉塞部位の固さをある程度予想することができる。造影で血流が無い部分のすべてが固いわけではなく,実際にはかなり柔脆な組織であったり,血栓性の閉塞であったりする。エコーで観察できる程度のマイクロチャンネルや微細な島状に血流がある場合には,GWが容易に血管内を通過できると予想できる。一方その際には末梢塞栓症の懸念も必要になる。硬そうな部分がどのくらいあるのか,柔らかそうな部分がどのくらいあるのかを確認することで,手技時間を予想することもできる。 さらに,その後バルーンやステントの使用を考えると,閉塞していない部分の血管情報は,閉塞部位の情報よりも大切かもしれない。造影では正常に見えても,実際にはアテロームが豊富についていることも少なくない。 また,病変部だけではなく穿刺部の大腿動脈の観察も重要である。治療が必要な程度でなくても,穿刺部位にアテロームが多量についている時にはその穿刺部位を選択すべきではない(図3)。

図3 穿刺部の観察 大腿動脈の穿刺を計画した際に穿刺部の観察も大切である。CTなどでは確認できないアテロームや石灰

化のために,穿刺をはばかる場合もある。 図3aの総大腿動脈はほぼ正常であったため,順行性の穿刺が行えた。 図3bは浅大腿動脈の慢性完全閉塞病変を認めたが,穿刺部の総大腿動脈のアテロームと石灰化を認めた

ため,左総大腿動脈よりアプローチを行いクロスオーバーでの治療を行った。右総大腿動脈には治療を行っていない。

a b

図2 GWの描出 GW先端を描出し,さらにその先の組織を観察しな

がらGWを進める事ができる。進む前方を確実に見ながらできるインターベンションは他には無い。

石灰化

GW先端

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エコーガイド下インターベンションの実施

 患者の臥床方向は,エコー技師の立ち位置も考えて選択する。たとえば,左SFAの治療を行うときには,通常の方向に臥床してもらうが,右SFAの治療のときには,通常とは反対側・下肢と上肢の向きを反対にして臥床してもらう。 患者の臥床の向きと合わせて,エコーにて安全と確認した大腿動脈か,上腕動脈アプローチを選択する。 シースもしくはシースレス・ガイディングカテーテルを挿入し,サポートカテーテル及びGWを閉塞部間近まで進める。ここまでは通常の手技と同様に透視を使用する。GWは0.014”もしくは0.018”を選択する。微細な作業を行うために,0.035”は避けるべきである。 ここから先,エコー技師が血管撮影室に入ってからは,透視はGWが閉塞部位を通過するまで使用しない。 まずは,エコーでGWの先端を確認する。見えにくいときにはGWを数センチ前後に動かしながら,先端を回転させてエコーで確認する。 閉塞起始部のどの位置にGWを穿通させるかが,インターベンションの成功・不成功を決めるといっても過言ではない。エントリーが false lumenに入らないようにするのは当然で,血管のなるべく中心を通る末梢側の路を選択する。閉塞好発部位であるSFAとDFAの分岐部は,エコーで観察すると閉塞部位に確実にGWを進めることができる(図4)。 閉塞部内のGWは30~45度以下で方向性を持って回転させながら慎重に進める。エコーは長軸像でGWの先端とその少し末梢側を描出する。GWの進むスピードに合わせてエコーも移動する。エコーでGWを見失ったときには,GWが血管の中心からずれ,思わぬ方向に進んでいる場合が殆どである。決してそれ以上にワイヤーを進めずに,短軸でワイヤーの局在を確認するか,思い切って数センチGWを引き抜いて先端を確認できるところから再度スタートするようにする。 透視ガイドのインターベンションではGWを抜くと,次は同じ場所にワイヤーが入らないのではないかという懸念より大胆な操作はやりにくい。しかし,体表面エコーガイド下では,局所を見ながらワイヤー操作を行っているので,同じ場所にワイヤーが入っているかどうかは一目瞭然である。遠慮無く思い切ったやり直しが可能である。 同様に血管の外側縁にGWが進みがちな時にも,大きくGWを引いて軌道修正することが望ましい。非常に小さな偏曲点をもって血管内でGWの軌道修正は難しいし,その後もGWのコントロールに難が生じる。 血管を塞ぐような大きな石灰化病変の存在により到底GWの通過点がなさそうに見える箇所に対しても,まずは中心を通るチャンネルがないかどうか確認するべきである。大きな石灰化には,軽石の様に中空があいている場合も少なくない(図5)。

 エコーでGW先端を見失いそうになったときには,GWを数ミリ前後させながら先端の方向性が変わらない程度で小さく回転させる。どうしても見えないときにはGWのシャフトが見える部分までGWを引き戻すしかない。 術者があわてると,GWはU字になって進んでしまう。技師はこれに気がつかずに,シャフトの一部を先端と勘違いして誘導してしまうことがある。このようになると大きな偽腔を作り出し,閉塞長が長くなり,エコーガイドの意味が無くなる。結果,不要な場所,入れてはいけない場所にまでステントを入れざるを得ない結果になる(図6,7)。 長いCTOでは,実際にGWがどのくらい進んだのか,到達の程度を確かめたくなる。ここで,透視でオリエンテーションをつけたくなる気持ちがでるが,エコーガイド中に絶対に透視を出してはいけない。見えるのは,エコーのプローブと技師の手だけである。無意味どころか,技師は無用な被ばくにさらされる。どうしても,どのくらい進んだかを確かめたくなった際にはエコーを一度外してもらう。骨条件やレントゲン不透過メジャーなどを用いてGWの位置を確認すると,目標が見えてくるので次のワイヤー操作へのモチベーションとなる。しかし,一度エコーを体表面から外すと,もう一度全く良い条件のポジションを探すまでに時間がかかる。それまではGWの先端を追って,連続する像でSFAを追いかけてきたために非常に良いエコーの描出が得られていたのだが,一度外すとエコー

図4 大腿動脈分岐部 浅大腿動脈と深大腿動脈分岐部は,浅大腿動脈慢

性完全閉塞の好発部位である。ここにGWを適切に進めるときには,エコーは力を発揮する。わかりにくいときにはカラードップラーをあてて閉塞起始部の形状を観察するとよい。

CFA:総大腿動脈,SFA:浅大腿動脈,DFA:後大腿動脈

CFA SFA

DFA

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上のオリエンテーションを失ってしまうこともある。 エコーガイドが一番有用性を発揮するのはGWが閉塞部より抜けるときである。可能な限り,中枢側で閉塞部より抜け出すようにする必要がある。とくに閉塞部位末梢ではGWは血管の外側に向いやすいが,エコーで先端をみながら慎重に閉塞部位の出口を捉える

ようにコントロールする。ここで慎重さを欠くと,簡単にsub intimal lumenにGWは迷入し,閉塞長を長くし,大切な側副血行路を壊してしまうこともある。通常の断層エコーで解りづらい場合には,カラードップラーを使用して,血流がある末梢を確認し,その方向にGWを進める。

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図6 良いエコーとGWの関係 a : GWをエコーが追従している事を確認しながら手技を進める。 b : 石灰化で見えにくくなることもあるが,無理にGWを進めてはいけない。先端が見える範囲でGW

をコントロールするべきである。 c : ワイヤが J形状を保ったまま,なるべく一番中枢側に近い場所で非閉塞部に抜けるようにエコーで

導くのが良い。

図7 悪いエコーとGWの関係 a : エコーで見える範囲を越してGWを進めてしまうことがある。 b : 術者がさらにGWを進めると,先端がU字になって進む。エコーではシャフトの部分が見えている

だけである。 c : さらにGWを進めると偽腔が大きくなり,閉塞長を医原性に長くしてしまう。最終的にGWが末梢

に抜けたとしても,側副血行路を潰し長いステントを使用する事になる。

a b c

a b c

図5 石灰化病変 a : GWは石灰化病変にあたり,末梢側へなかなか通過できない。 b : GWが石灰化病変の中央の空洞に潜り込んですす進める事ができた。 c : GWは通過し,末梢へさらに進めて行く事が可能であった。

a b c

石灰化病変

GW先端

石灰化病変

GW先端

石灰化病変

GW先端

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 GWが閉塞部より末梢に抜けたように見えても慎重になるべきである。エコーガイドであっても2方向以上での確認が大切であり,長軸だけではなく短軸でも確認してから,ワイヤーを末梢まで進める。 ここでしばらくはエコー技師に休憩をしていただく。技師は術者以上に極度の緊張を強いられていることを理解しておくべきである。 透視下でのインターベンションを行う。当科ではGW通過後は最初に2.0㎜の小径バルーンで閉塞部位の拡張をしている。その後,GWを柔らかいものに変更して,バルーンのサイズアップを行う。バルーンのサイズは,術前エコーで測定した血管径で決めている。ステントサイズも同様である。しかし,実際にはアンギオや患者の拡張時の症状なども合わせて決定していきたい。エコーも情報の一つであり,すべてと過信するのは良くない。 SFAはステントをできれば挿入せずに終了したいと考えることもあるが,バルーンのみでは解離が増大傾向にあったり,血流を妨げるような所見があったり,十分な内径が得られていなかったりという場合には,ステントの挿入を躊躇しない。長いCTOに対しては最初からステントを挿入するつもりで戦略を立てている。 ステントを挿入し,後拡張を行った後は,病変部治療のエンドポイント決定の為に改めてエコーの出番である。短軸で中枢側から末梢側までプローブを移動させて確認することでステントの拡張はよく観察できる。不十分な拡張部位には,高圧拡張かバルーンのサイズアップで対処する。また,ステントが病変部や解離を十分カバーできていないときには,もう1本ステントを追加挿入せざるを得ない。 最後は造影を行う。末梢までの血流や細かい枝の評価など,エコーではわからない情報も確認すべきである。

超音波による術後評価

 治療直後に血管径,ステントの拡張,解離,血流の評価などが血管造影室で即座にできる。これが慢性期のコントロールとなり,同じ条件で侵襲無く比較評価していくことが可能となる。

エコーガイド血管形成術Tips & Tricks

 前述した具体的な治療内容と,エコー技師と術者の技術と知識の習得とトレーニングがTips & Tricksの全てである。 通常の末梢血管エコーが全く問題なく速やかにできるレベルまで,技師はトレーニングをしなければいけない。一度や二度の末梢動脈エコーの経験で治療ができるようにはならない。スクリーニングとして正常な血管を沢山見ることが技術の向上につながるはずである。また,エコー技師にも,CTや血管造影を見ていただき,動脈の立体感を捉えてもらう。

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 インターベンション中は自分のペースではなく治療のペースで画像を出すことが要求される。検査時のように自由に肢位がとれるわけではないので,その体勢でも末梢血管を確実に捉えるようにする。 また,多くの場合技師はインターベンションの知識をもともと持っていない。GWとは,バルーンとは,ステントとはなど基本から勉強していただき,実際のインターベンションの際にコミュニケーションに困らないよう勉強すべきである。インターベンションの各段階で求められるものを理解しながら治療に参加すると,治療はスムーズに進む。血管に関しての知識が豊富な技師は,インターベンションのことはすぐに理解可能であり,客観的な所見を観察しながら治療を成功に導く大きな力となる。 インターベンションのトレーニングは,最初からCTOへの治療を行うのではなく,まずは高度狭窄に対しての治療をお勧めする。具体的には,治療中に血管を長軸,短軸で自由に描出できること,GW先端の描出と追従のトレーニングである。完全閉塞でなければ,慣れた術者はエコー無しで治療を終わってしまうのであろうが,それではエコーガイドインターベンションのトレーニングとはならない。術者も最初から慢性完全閉塞の病変に対してのインターベンションをしたのではなく,高度狭窄から始めたことを思い出してほしい。一足飛びにエコーガイドインターベンションという最高度の技術を技師に求めてはいけない。そのためには術者も協力を惜しむべきではない。 術者もトレーニングの必要がある。エコーと実際の病変を一致させ,血管のオリエンテーションをつけること,ワイヤーを自分の思う方向にコントロールすること,などは最低条件である。また,その立体感も同様に習得すべきである(図8)。 術者も,エコーの知識は技師任せではよろしくない。エコーの基本的な事項は当然であるが,術者もエコーの画像をみてその部分の情報が解るように努めなければいけない。また,エコー技師のどんな質問にも答えられるように,さまざまな観点で勉強をしておくべきである。 実際の治療の際には,ワイヤの進む速さとエコーの進む速さをお互いに合わせるといった,術者と技師と息のあった作業が必要になる。ワイヤ操作のとき,術者は「ワイヤを進めます」「ワイヤを引きます」と声をかけながら操作を行う。技師も「先端はここです」「もう少し下です」「ワイヤが見えないです」など遠慮なく情報を提供していただきたい。 術者と技師の知識の共有も大切であるので,術前カンファレンスなどを行うのも有効であろう。

エコーガイド下インターベンションの利点

 まず,エコーは侵襲無く,治療前/治療中/治療後/慢性期と同じ条件で見ることができるので経時的な

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変化を見ることが可能である。 エコーの使用でほぼ確実に true lumenを捉える治療が可能である。また,その中でも血管の中心部を捉えることができるため,バルーンやステントで拡張時にacute gainを多く取ることができるという利点となり,再狭窄率の低減につながる。 これと比較して IVUSガイドは false lumenにデバイスを入れ,GW通過後にそれが適正なルートを通っているかどうかを判断する手技である。血管の短軸像を見るだけであるため前方向の確認はできない。故に,基本的には try & errorを繰り返していく手技となる。また,IVUSの太いプローブが入った大きな偽腔のために,ステントの挿入は必需である。 エコーを使用すると造影剤の使用量が少なく済む。腎不全の患者に対しては炭酸ガスを使用しながらの治療はさらに造影剤使用量を低減させる。 無用な放射線被ばくを避けられる。患者に対してはもちろんであるが,被ばく線量が多くなりがちな末梢血管治療に携わる術者にとても良いことである。 False lumen angioplastyのように,2ヵ所の穿刺部位は不必要である。穿刺部位が増えることは手技時間も長くなり,出血性合併症も多くなる。

エコーガイド下インターベンションの欠点

 現時点でのエコー自体の問題点としては石灰化に弱い。また,断層やドップラーのみという平面的な考察で観察をし,頭の中で立体構造を再構築しなければい

けない。しかし,これらはたいした問題ではない。 また,局所を見ながら丁寧にGWを進めて行くので,他の方法に比較して時間がかかると言われる。しかし,良い治療を提供する為の時間を問題にすべきかどうか疑問である。 エコーガイドはエコー自体の問題よりも人的な問題の方が大きい。 多くの技師は日常検査業務に多忙であり,治療まで時間を割くことができないという。また,治療に携わるチャンスにも恵まれない。実際の治療をみる機会,研究会に行く機会,勉強会などの時間を作り,技師の根本的なモチベーションを向上させたいが,治療は余計な仕事扱いとする病院もある。 人件費も考えなければいけないのも現実である。術者や技師がインターベンションに使う時間は決して短いものではない。手技料に見合うものかどうかは難しいかもしれない。もちろん,我々医療従事者は,金銭の為に治療をするのではなく,良い治療の提供にこそ意味があるが,不幸にもそれを理解していない組織も多い。 また,ほとんどの施設で,エコー技師は循環器科専属ではない。検査技師の力を借りるには,多くの部門の協力が必要である。多忙な業務の合間を縫って参加していただくので,都合の良い時間に治療を始められるとも限らないし,他の業務をカバーする他の技師への援助もお願いしなければいけない。実際,当院でも,多くのネゴシエーションが必要となる。外来にては,検査予定をマネージメントする外来看護師とスタッフへ感謝しつつも,エコー技師のスケジュールをおさえ,各方面の連絡や,嫌みを言われながらも検査部責任者へ循環器治療に携わることを依頼しなければいけない。入院後の病棟でも,通常は技師の日常業務が終わってから始まる手技になるので,患者とその家族には遅い時間の開始と終了にお詫びをし,手薄の準夜帯に治療が食い込むことで看護師やスタッフにも迷惑をかけてしまうことを謝罪する。医師も多忙な日常業務をこなしている日々の中,ここまで各方面に頭を下げて行う手技かどうかと悩むかもしれない。プライドが高くしかし怠慢な医師にとっては嫌になる内容である。しかし,良い治療と信じるものが実現できるのであればこのくらいはたいした問題ではないと筆者は考える。 体表面エコーを一度は志したが断念していく病院の多くは,このトレーニングの難しさと各方面へのネゴシエーションの困難さに,途中で気持ちが折れてしまうのである。「エコーガイドが良いのは解っているのだが…,こんな面倒くさいことをしなくても,ある程度の結果は得られるので」という言葉でこの道を断念してしまうのは非常に残念である。

結 語

 エコーガイドにより,安全で確実なインターベン

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図8 浅大腿動脈の屈曲 浅大腿動脈は直線の血管であろうイメージが大き

いが,とくに膝窩近くの末梢近くになるにつれて裏側に回り込みながら屈曲している。直線のイメージで固いGWを真っ直ぐに進めることは血管穿孔の原因になり得る。なるべくGWが血管の中心を通るようにコントロールする必要があり,血管の屈曲を意識しながらGWを進めるべきである。

GW先端

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ションが可能である。 術者自身の欠点と放射線診断と治療の欠点を補うものとして,さらなるエコー及びエコー技師の活躍が期待される。

【参考文献】1) Soga Y, Iida O, Hirano K, et al: Mid-term clinical out-

come and predictors of vessel patency after femoro-popliteal stenting with self-expandable nitinol stent. J Vasc Surg 52: 608 - 615, 2010.

2) Jiang XJ, Zhang HM, Yang Q, et al: Outcome of en-dovascular therapy of iliac, superficial femoral and popliteal arteries in 136 patients. Zhonghua Xin Xue Guan Bing Za Zhi 35: 1015 - 1019, 2007.

3) Noory E, Rastan A, Schwarzwälder U, et al: Retro-grade transpopliteal recanalization of chronic super-ficial femoral artery occlusion after failed re-entry during antegrade subintimal angioplasty. J Endovasc Ther 16: 619 - 623, 2009.

4) Kawasaki D, Tsujino T, Fujii K, et al: Novel use of ultrasound guidance for recanalization of iliac, femoral, and popliteal arteries. Catheter Cardiovasc Interv 71: 727 - 733, 2008.

5) Krishnamurthy VN, Eliason JL, Henke PK, et al: Intravascular ultrasound-guided true lumen reentry device for recanalization of unilateral chronic total occlusion of iliac arteries: technique and follow-up. Ann Vasc Surg 24: 487 - 497, 2010.

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第39回日本 IVR学会総会「技術教育セミナー」:佐藤友保

2 . 下腿動脈の血管形成術(PTA)あかね会土谷総合病院 放射線科

佐藤友保

はじめに

 近年の高齢者の増加,糖尿病患者の増加,血液透析症例の増加などに伴い,全身の動脈硬化性変化に伴う疾患の頻度が増加している。下肢領域では慢性下肢虚血に伴う足趾潰瘍,安静時痛症例の増加が知られており,重症下肢虚血(critical limb ischemia:CLI)と呼ばれている。 これらの症例では腸骨動脈から下腿動脈にかけての広い範囲に,多発性狭窄・閉塞病変が存在することが知られており,血行改善が治療のためには必須である。近年ガイドワイヤや,PTA用バルーンなどの用具の急速な進歩に伴い,下腿動脈を含む下肢動脈のPTAが広く行われるようになり,成績も年々向上している。

CLIの定義と診断・治療

 CLIの正式な定義はいまだはっきりと決められていない。一般的には①4週間以上続く疼痛,②潰瘍病変が神経障害や感染巣など他の原因でないこと,③壊死が下肢全体の虚血で引き起こされており,アテローム塞栓による虚血ではないことなどが挙げられる。下肢虚血に対する診断と治療のガイドラインとしてTASCⅡ(Inter-Society Consensus for the Management of Pe-ripheral Arterial Disease 2007年)がありこれに基づいた診断と治療が世界的に行われている。CLIの主症状は足部の安静時疼痛である。虚血性安静時疼痛は通常夜間に生じるが,下肢下垂位での症状軽減が特徴的である。重症化すると虚血性壊疽を生じ,足趾や踵に好発する。小さな外傷や火傷を契機として急速に重篤化することも多い。 下肢虚血の分類として,Fontaine分類(4段階),Rutherford分類(6段階)が使用されることが多い。FontaineⅢ,Ⅳ度,Rutherford 4,5,6度がCLIに相当する。Rutherford分類では,臨床的定義と客観的基準が示されているが,厳密な評価にはトレッドミルテストや,足関節血圧や母趾血圧が必要となることが難点で,臨床的定義のみが使用されることも多い。下肢虚血の診断としては,触診,足関節上腕動脈血圧比(ABPI),母趾上腕動脈血圧比(TBPI),母趾収縮期血圧,トレッドミル,経皮的酸素分圧(TcPO2),皮膚潅流圧(SPP),MRA,CTA,超音波検査,血管造影,サー

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モグラフィー,核医学的検査等があげられるが,すべてを実臨床で施行できるわけではない。徒に検査に時間を費やすことなく,早く正確な診断を行い,早期に血行改善を行うことで予後の改善ができることも多い。当院ではSPPとCTAをもとに虚血の診断と,病変分布の確認を行い,治療法を選択している。諸外国ではSPPの代わりに,TcPO2が使用されていることが多い。 下肢虚血・潰瘍の治療としては,運動リハビリ(側副血行の発達を促す),薬物療法(末梢循環の改善),感染制御,創傷ケア・フットケア,LDL吸着(アフェレーシス)療法,高気圧酸素療法,マゴット(ウジ虫)療法,血管再生療法(血管新生因子,骨髄単核球),下肢切断など様々な治療があり,これらを組み合せて治療がなされる。まず投薬がなされることが多いが,CLI治療に推奨される薬物療法はなく,侵襲的な血行改善が必須となる。血行改善にはバイパス手術,血管内治療,これらを組み合せたハイブリッド治療があるが,いずれを選択するかは,各施設の状況に大きく左右される。近年では腸骨から下腿動脈にかけての血管内治療が行われることが増えている。

画像診断(特にCTDSA)の意義

 治療前に病変分布を確認しておくことは,治療法の選択にとって重要である。PTAでは,腸骨動脈病変であれば同側・対側からのアプローチとすることが多く,大腿下腿動脈病変であれば同側順行性アプローチも選択枝となる。また腸骨大腿動脈病変のみであれば上腕動脈からのアプローチも選択枝となる。広い範囲の血管の状態を俯瞰的に把握する方法としては,MRAとCTAがあげられる。造影MRAは石灰化の影響を受けないため理想的な検査法であるが,NSF(腎性全身性線維症)の問題から腎機能低下症例での造影剤使用は困難となった。TOF(time of flight)法による非造影MRAは空間分解能が不良であること,CLI患者は流入血流の低下から血管描出が不良となり実用的ではない。CTAは造影剤使用という侵襲性はあるが,空間分解能が高く,広範囲の血管の状態が把握可能であり重要な検査法となっている。しかしCLI患者では血管壁に高度石灰化が見られることが多く,しばしば内腔評価は困難となる。腸骨動脈,大腿動脈ではCPR(curved

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planar reformation)法を用いることで血管内の評価が可能であるが,下腿動脈は細く,CPR法でも高度石灰化血管の評価はしばしば困難となる。最近の機種ではエネルギーサブトラクション法を用いて石灰化を除去した末梢血管画像が得られ,理想的な検査と考えられる。しかし,非常に高価格な機種であること,機器更新のタイミングなどから一般病院への普及には時間がかかると思われる。当院ではこの問題を解決するため非造影相と造影相のCTを撮影しサブトラクション画像を作成し(CTDSA)臨床応用している。CLI患者ではしばしば体動のための画像不良が見られるものの,体動がなければ非常に鮮明な下腿動脈描出が得られ,術前計画を立てる上で必須の検査となっている(図1)。

下腿の血管解剖

 膝関節以下で,膝窩動脈が前脛骨動脈と脛骨腓骨動脈幹に分岐することが多い。前脛骨動脈や後脛骨動脈が早期分岐する破格があり注意を要する。それぞれの動脈は,筋肉枝等を分枝しながら足関節レベルまで到達する。前脛骨動脈末梢が足背動脈,後脛骨動脈末梢が足底動脈となることが多いが,腓骨動脈から足背・足底動脈が分岐する破格がみられることもある。足関節以遠ではこれら3枝の末梢枝が複雑なネットワークを形成しており,主要動脈閉塞時の重要な側副血行路となる。CLI患者では3枝閉塞になっていることも多く,足関節まで3枝中1本の血流が確保できれば効果が期待できるとされている(one straight line flow)。しかし足内動脈にも動脈硬化性変化があり側副血行の発達が悪いこともしばしば経験される。この場合は2枝

或いは3枝の下腿血管PTAや足背・足底動脈以遠の足内血管のPTAが必要となる。動脈の血流分布としてangiosomeが提唱されている。病変の位置から,どの動脈を再開通することが最も効果的な血行改善に結びつくか術前に予測することが可能である1)。

下腿領域のPTA時に使用される用具

1.ガイドワイヤ 下腿領域では0.014 inchワイヤの使用がほぼ必須である。多くの種類の製品があり各々の特徴を理解して使用する必要があり,ワイヤ操作に習熟することが成功率向上の決め手となる(図2)。マイクロカテーテルを併用するのが安全であるが,ワイヤを単体で進めることや細径バルーンを併用しながらワイヤを進めることもある。狭窄性病変であれば,比較的柔らかい滑りの良いワイヤが用いられることが多い(Syncro 2,Cruise,Runthrough peripheral)。高度狭窄性病変では,先端が0.008 inch程度まで細くなっている taper型ワイヤが有用なことも多い(ExtreamPV,Athlete Wizard)。下腿で頻繁に見られる,短区域・長区域の慢性完全閉塞性病変(CTO)では全体的に硬く作られたいわゆるCTOワイヤが必要となることが多い(AstatoXS 9-12,TreasureXS,Athleteruby superhard)。CTOワイヤ使用の際は,対象血管径に応じて先端の約1~2㎜程度をangle型に曲げ,閉塞血管が存在すると思われる想定ライン上を回転をかけながら丁寧に進めていく(ワイヤくるくる法)。ワイヤが,内膜下走行となることも多いが,この場合は確実に血管内と思われるレベルまでワイヤを引き戻し,方向を変えながら再びワイヤ

図1 CLI症例の下腿領域のCTAび漫性に多発する石灰化のためCTAでの内腔評価はしばしば困難となる。CTDSAを行うことで内腔の評価ができることが多い。DSAと比べても小病変まで再現されていることがわかる。左からMIP,VR,CTDSA,DSAである。

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を進めていくことを繰り返すことになる。血管内走行時と内膜下走行時とでは手応えが異なるので察知できることも多いが,造影を行って気づくこともしばしばである。穿通を起こしても大出血となることは少なく,外部からの圧迫を加えればほぼ止血可能である。

2.PTA用バルーン ワイヤの取り回しから,over the wire型と rapid ex-change型がある。Rapid exchange型にはシャフトがハイポチューブで作られた硬いシャフトのものと,コイルシャフトで柔軟性を持たせたものがある。通過性やプッシャビリティなどそれぞれ一長一短があり,状況や術者の好みにより選択される。0.014 inchワイヤ専用のものがあるので注意が必要である。バルーンの直径は約2~3㎜が用いられることが多い。過大なバルーンを選択すると血管破裂,AVF,解離などの原因となり,過小なバルーンではリコイルによる早期再狭窄が発生する。リコイルや限局狭窄に対してはカッティングバルーンやアンギオスカルプトのような切れ目を入れながら拡張するバルーンも使用される。現在発売されているバルーンの大部分はセミコンプライアンス型であり,圧力により径が変化するので,事前に確認しておくことが望ましい。バルーン長は長いものが安全とされている。日本では12㎝長が入手可能な最も長いバルーンだが,ヨーロッパでは20㎝を越えるバルーンが常用されている注)。長いバルーンでは長区域閉塞の貫通性はやや劣る為,状況によっては短いバルーンでの前拡張が必要となる。非常に硬い閉塞性病変では1.5㎜径・2㎝長などの貫通性にすぐれたバルーンが使用されることが多い。最近では冠動脈用バルーンの末梢への転用が進み,貫通性は大きく改善している。近年ではバルーン表面に内膜増殖を抑える薬剤を塗った薬剤放出性バルーン(drug eluting balloon(DEB),drug coated balloon(DCB))がヨーロッパでは使用され良好な成績が報告されている2)。(注:原稿執筆時;現在では,20㎝バルーンが販売されている。)

3.ステント 下腿領域では,保険上ステントは使用できないとされている。しかし,現実的には血流制限をきたすような解離を生じた場合にはステント使用を考慮せざるを得ない。冠動脈用のステントや腎動脈用のステントが大きさ的に使用される。海外では下腿領域のベアステントの成績,薬剤放出性ステント(DES)の成績が報告されている3)。

4.遠位塞栓予防用具 閉塞病変の再開通を行う際には遠位塞栓の可能性を考えておく必要がある。遠位塞栓を予防する用具としてガードワイヤやフィルトラップが使用可能である。

しかし,下腿で使用できる規格がないことも多く,手技が煩雑になるため現実的には使用症例は限られることとなる。ウロキナーゼなどの血栓溶解療法を併用することも遠位塞栓予防の重要な選択枝と考えられる。

5.血栓塞栓吸引用カテーテル 血栓などによる遠位塞栓がPTAに伴い発生し血流低下が見られることがあり,血栓吸引用カテーテルが使用される。下腿では,EliminateやThrombusterなどの,0.014 inchワイヤにそわせて挿入できるものが便利であるが,吸引ルーメンはやや細く大きな塞栓子は吸引できない。しかしワイヤにそって挿入できるため,血管損傷は比較的おこしにくい。ガイディングカテーテルのような内腔の大きなカテーテルを用いると大きな塞栓子も摘除できるが,カテーテル単体での挿入或いはワイヤの挿入・抜去を繰り返す必要があることなどから血管損傷を起こす可能性が高く,使用には慎重を期する必要がある。保険適応外ではあるが胃生検鉗子も有用なことがある。

6.術中併用薬剤 下腿血管ではPTA時に血管の攣縮が発生する頻度が非常に高く,これが原因で一時的なno flowとなることもしばしば経験される(図2)。攣縮発生時には,プロスタグランディン製剤やニトロールなどの亜硝酸剤,塩酸パパベリンの動注などが行われるが,一旦spasmが発生してしまうと薬剤が側副血行路に流れ目的血管に効率的に到達しないこともしばしば経験される。そこで当院では血管を観察するために間欠的に注入する造影剤にこれらの薬剤を混じ使用することとしている。また閉塞血管ではplaque等による閉塞だけでなく,血栓性成分も存在することが多く,ウロキナーゼの併用もしばしば有用である。

7.PTA後の経口投与薬剤 バイアスピリン,チクロピジン,クロピドグレルなどの冠動脈狭窄治療後に用いられる抗血小板剤の使用が基本となる。これに,プロスタグランディン製剤やシロスタゾール,サルポグレラートなどの血行改善剤が追加される。ワーファリンが用いられることもある。多くの症例では心疾患に対しすでに投薬がなされていることも多いので,新たな投薬は必要ないことも多い。SFA領域ではシロスタゾールの追加によりPTAの間隔(TLR)の延長が報告されている4)。

PTAの目標,治療成績

 実際のPTAの成績は,対象症例の血管の状態や術者の経験により左右されることが多い。用具の発達もあり成功率は年々向上している(表1)。糖尿病症例,血液透析症例では初期成績(再開通率)が不良であるだけでなく,開存率も不良であることが知られている。

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最近では足背・足底動脈穿刺を併用したbidirectional approachの導入や,下腿や足内の側副路からの逆向性ワイヤ挿入の併用(SAFARI technique)5)による再開通率の向上も報告されているが,血管閉塞のリスクも伴っており,充分なレベルの経験を積むまでは控えたほうがよいと思われる。主要血管の再開通ができなかった場合でも,側副血流の増加ができれば症状の改善が見られることも多く,エンドポイントの見極めが重要である。CLI治療でのPTAの目的は血管の再開通にあるのではなく,血行改善が主目的であることを念頭に置く必要がある。 血行改善の結果として,潰瘍治癒,大切断の回避(小

切断のみでの創治癒),切断レベルの変更(膝上切断を膝下切断に,あるいは膝下切断を足趾切断にといった具合に)が得られれば臨床的な成功である。CLI患者では3年生存率が40%とも言われており,PTAをくりかえすことになっても,亡くなるまでの間下肢切断が回避できれば本人,介護者ともに満足されることも多い。また,広汎壊疽のため下肢切断が避けられない症例でも切断前にPTAを行うことで,早期の切断端創閉鎖が得られることも多い。また慢性期に切断端に潰瘍形成が発生することも経験されるが,この場合もPTAによる創治癒が期待できる。

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図2 症例:70歳代女性 血液透析 10年,左足趾潰瘍の保存的治療を受けるが約3ヵ月受

けるも治癒傾向なく,SPP 24 mmHgと低値のためPTAを行うこととなった。下腿動脈は3枝ともに描出不良であった⒜。腓骨動脈にXtreamPVを挿入し,前脛骨動脈には硬い石灰化病変が見られたためワイヤくるくる法にてAstatoXS9-12を進めた⒝。2.5㎜径バルーンにて拡張を行った。両動脈の起始部にはKBT(kissing balloon technique)を用いた。腓骨動脈は足関節まで拡張したが,slow flowとなっている⒞。

a b c

血管拡張成功率の変化

2004〜2007年 2008,2009年症例数 成功率 症例数 成功率

腸骨動脈 88/89 99% 48/48 100%大腿動脈 189/195 96.9% 146/153 95.4%

ATA 84/120 70% 79/96 82%PTA 43/65 66% 42/54 78%

Peroneal a. 49/63 78% 83/100 83%One vessel run off 146/163 89.6% 155/158 98.2%

表1 当院でのPTA成功率の年次変化

用具の発達を反映して,最近では下腿領域での成績の改善が顕著である。

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まとめ

 CLI症例は,高齢化とともに年々増加している。これらの患者のPTAを依頼される機会も増加するものと思われる。下腿領域のPTAも不可避となりつつあるが,リスクを理解しながら施行すれば比較的安全に行える治療手段となりつつある。今回は,下腿領域でのPTAについて概説した。

【参考文献】下肢血管のインターベンションについて:光藤和明:PTCAテクニック 慢性完全閉塞.医学書院,東京,2003.Coronary interventionistのための末梢インターベンション術.Coronary Intervention 1:2005.Coronary interventionistのための末梢インターベンション術 PartⅡ.Coronary Intervention 3:2007.Coronary interventionistのための末梢インターベンション術 PartⅢ.Coronary Intervention 3:2007.末梢血管インターベンション-症例に学ぶベストテクニック,中村正人編.医学書院,東京,2007.Peripheral CTO for cardiologists, 中村茂ら編.

重症下肢虚血について:重症虚血肢診療の実践,南都伸介監,飯田修編.南江堂,東京,2008.横井良明:重症虚血肢の診断と治療,河原田修身編.メディアルファ,東京,2007.

1) Taylor GI, Pan WR: Angiosomes of the leg: anatomic study and clinical implications. Plastic and recon-strictive surgery, September 1998.

2) Tape G, Zellet T, Albrecht T, et al: Local delivery of paclitaxel to inhibit restenosis during angioplasty of the leg. N Engl J Med 358: 689 - 699, 2008.

3) Scheinert D, Ulrich M, Scheinert S, et al: Compari-son of sirolimus-eluting vs. bare-metal stents for the treatment of infrapopliteal obstructions. EuroInter-vention 2: 169 - 174, 2006.

4) Iida O, Nanto S, Uematsu M, et al: Cilostazol reduc-es target lesion revascularization after percutaneous transluminal angioplasty in the femoropopliteal ar-tery. Circ J 69: 1256 - 1259, 2005.

5) Gandini R, Pipitone V, Stefanini M, et al: The "Safari" technique to perform difficult subintimal infrage-nicular vessels. Cardiovasc intervent Radiol 30: 469 -473, 2007.

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