第14回愛知感染予防ネットワーク勉強会 疥...

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第14回愛知感染予防ネットワーク勉強会

疥 癬

2011年6月11日

愛知医科大学看護学部

高橋 知子

疥癬とは

ヒゼンダニの寄生による皮膚感染症

臨床検査vol. 53 no. 11 2009年増刊号

雌 雄

卵 2

疥癬とは

交尾直後の雌成虫が人体に感染すると,最外層の角質層に疥癬トンネルを掘って寄生し,1

日2∼3 個の卵を約1か月間産み続ける.

幼虫は,毛包に潜り込んで寄生する.

臨床検査vol. 53 no. 11 2009年増刊号

3∼4 日で孵化

生活環は10∼14日

3

疥癬の症状:疥癬トンネル

4

体長0.4mm

3~6mm

疥癬/皮膚科学関連医療薬品のマルホ:http://www.scabies.jp/

疥癬の症状:疥癬トンネル

http://www.kaigo-hiwada.com/blog/001126.html

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通常疥癬と角化型疥癬の違い

通常疥癬 角化型疥癬

(ノルウェー疥癬)

寄生数 1,000以下 100万∼200万

免疫 正常 低下

感染力 弱い 強い

痒み 強い 不定

症状 丘疹,結節 角化 6

疥癬の症状

発疹,丘疹,結節ができ,非常にかゆい. (寄生虫の虫体,排泄物などに対するアレルギー反応)

角化型ではかゆみは少ない.

丘疹の 好発部位

結節の 好発部位

疥癬トンネルの好発部位

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疥癬の症状;角化

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感染経路

通常疥癬

肌と肌の直接接触が主体.

• 看護者や介護者のケアを通して

• 寝具を介して

潜伏期間:約1~2 カ月

(高齢者では数カ月のことあり)

角化型疥癬

多量のダニを含む皮膚角質層の飛散による間接接触が多く,集団発生しやすい.

潜伏期間:4~5 日(多

数のダニに暴露されるため,潜伏期間が短縮する)

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疥癬の診断

臨床症状

顕微鏡検査やダーモスコピー検査などでヒゼンダニの検出 ⇒ 確定診断

疥癬患者との接触機会を含めた疫学的流行状況

これらの3 項目を勘案して診断する.

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似た病気がある!?

汗疱(かんぽう) 疥癬

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似た病気がある!?

角化型疥癬 爪白癬

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似た病気がある!?

類天疱瘡 疥癬

http://jsp.umin.ac.jp/corepictures2010/20/c02/01.html 14

疥癬の治療

治療の基本的な考え方:疥癬と確定診断され

たもの,疥癬患者と接触の機会があり,かつ

明らかな臨床症状を持つ患者

イオウ外用剤:保険適用

イベルメクチン(ストロメクトールⓇ):保険適用

クロタミトン(オイラックスⓇ)は保険適用外だが,

有効な外用剤がない現在,頻用されている.

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外用療法

イオウ剤:5~10%沈降イオウ軟膏,チアントール

• 塗布後,24 時間で洗い流し,5 日間繰り返す.

• 毒性は低く妊婦,幼児でも使用できる.

• 臭気と皮膚刺激性がある.

イオウ入浴剤:ムトーハップⓇ

• イオウかぶれや皮脂欠乏性皮膚炎を起こしやすく,推奨されていない.

クロタミトン:10%オイラックスⓇ軟膏

• 塗布後,24 時間で洗い流し,10~14 日間程度続ける.

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外用療法(保険適用外)

安息香酸ベンジル:6~35%で基剤に混合.薬理作用は不明.

γ -BHC:0.5~ 1%で基剤に混合.神経細胞に作用.

ペルメトリン(日本未発売):5%エリマイトクリーム,神経細胞に作用.

これら2剤は,皮膚科専門医で,製剤について知識のある医師のみ使用すべき.

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外用療法の注意

外用薬は頸部から下の全身に塗布する.

• 皮疹の無い部位を塗り残さないようにする.

• 角化型疥癬患者では頭頸部にも塗布する.

• 角化型疥癬患者では,肥厚した皮疹や爪の病変は角質層を十分に除去する治療を併用.

無症状の潜伏期間を考慮して,感染機会のあったものは予防的に治療する.

皮疹から虫体や虫卵の検出がなくなれば,むやみに長期投与はしない.

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外用薬の塗り方

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乳幼児や高齢者の場合では,

顔や頭にも外用剤を塗りましょう. 厚い角質はブラシなどで除去しましょう.

疥癬/皮膚科学関連医療薬品のマルホ:http://www.scabies.jp/

内服療法

イベルメクチン;ストロメクトールⓇ錠3mg

• 寄生虫の筋細胞及び神経細胞に作用し,寄生虫が麻痺を起こし,死に至る.

• 卵には無効.

• 体重1Kgあたり,約200μgを2週間間隔で2回経口投与する.(空腹時に服用) • 体重25〜35Kgで2錠,体重36〜50Kgで3錠.

肝機能障害に注意.

原則として,卵が確実に孵化する1週間後に顕微鏡検査を行い,虫体・卵の有無を確認.

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疥癬の主な経過

ヒゼンダニに感染!! 発病!!

1~2ヶ月間

発疹 丘疹

結節

潜伏期間 殺ダニ剤,止痒剤(抗アレルギー剤,

抗ヒスタミン剤)の投与

生きたヒゼンダニが検出されないことを確認

人にうつす可能性あり!!

皮膚を検査し,虫体・虫卵

が見つかると・・・

ヒゼンダニが死んでも,皮膚症状は3ヶ月~1年持続する場合がある.

2~4ヵ月後に再

燃する場合があり,ダニが死んでも要注意!!

1週間ごとに治療効果を評価

疥癬虫の特徴

ヒトの皮膚から離れると,低温・乾燥状態であれば,2~3時間で死滅する.

具体的に…

• 16℃以下では動かない ⇒ ヒトの体温が必要

• 湿度90%以上では低温でも2週間ほど生存 ⇒ 湿った布団が大好き

リネン・洗濯物は50℃10分間 の熱処理

普通洗濯・よく乾燥

洗えないものは ビニール袋に入れ

1週間放置 22

疥癬の感染予防

内容 通常疥癬 角化型疥癬

隔離 不要 個室隔離,隔離期間は治療開始後1

~ 2週間程度

身体ケア

ガウン・手袋は不要

(長時間の直接接触では着用)

ガウン・手袋の着用

使用後の予防衣・手袋は落屑が飛び散らないようにポリ袋等に入れる.

患者の移送 通常どおり 患者はベッド・寝具ごと移動

入浴 タオルは共有しない 入浴は最後,浴槽は流水でよく洗浄.

脱衣所に掃除機をかける.

リネン・寝具・衣服の管理

交換は通常どおり

(運搬はビニール袋か蓋つきの容器に入れる)

外用剤処置し,洗い流した後に交換.

イベルメクチン内服の翌日に交換.

(運搬は,落屑の飛散を防ぐためビニール袋に入れ,ピレスロイド系殺虫剤を噴霧し24時間密閉)

感染予防の基本は,標準+接触感染予防

フマキラー

キンチョール

大正殺虫ゾル

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病室・居室

通常疥癬

角化型疥癬

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ピレスロイド系殺虫剤 フマキラー

キンチョール

大正殺虫ゾル

個室に隔離する必要はありません.

徘徊する患者さんや認知症の患者さんでは,間違って他のベッドに入ったり,他人の衣類を着てしまうことがあるため,注意や配慮が必要です.

疥癬/皮膚科学関連医療薬品のマルホ:http://www.scabies.jp/

身体ケア

通常疥癬 角化型疥癬

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隔離期間中は,ガウンや手袋を着用しましょう.

手洗いは感染予防の基本です.

患者さんへの対応の前後は,手を洗いましょう.

疥癬/皮膚科学関連医療薬品のマルホ:http://www.scabies.jp/

入浴

通常疥癬 角化型疥癬

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患者さんの入浴は最後にしましょう.

角質や落屑をしっかり落としましょう.

入浴後は浴槽や浴室の床,脱衣所などの掃除を行いましょう.

長時間肌と肌が接触することは避けましょう.

タオルなど肌に直接触れるようなものは,別々に使用しましょう.

リネン類の管理

通常疥癬 角化型疥癬

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シーツや寝具,衣類は毎日交換しましょう.洗濯物はビニール袋に入れましょう.ビニール袋に入れる際に落屑が飛び散らないようにしましょう.その後殺虫剤をビニール袋の中で噴霧し,24時間密封します.

シーツや寝具・衣類の交換や洗濯は通常の方法で行いましょう.

患者さんが使った後のリネン類は,長時間直接触らないようにしましょう.

疥癬の感染予防

内容 通常疥癬 角化型疥癬

洗濯 通常どおり 通常の洗濯後に乾燥機・アイロン使用,または,50℃ 10分間の熱処理後に通常洗濯.

部屋の環境整備 通常どおり

落屑を残さないように掃除機で清掃.

使用後の部屋は2週間閉鎖するか,

殺虫剤散布.

布団の消毒 不要 治療終了時に熱乾燥,または,殺虫剤散布後掃除機をかける.

接触者への

予防的治療

同室者,家族・同棲者の生活習慣や症状に応じて予防的治療を検討.

家族・同室者は症状の有無を問わず予防的治療を検討.職員は患者との接触の頻度・密度を配慮して予防的治療を検討.

疥癬に感染した

スタッフへの対応

通常勤務は可能.◎しっかりと治療する. 患者ケアの際は,手袋着用.患者と密接に接する場合は,ガウンまたはビニールエプロンを着用. 28

洗濯

通常疥癬 角化型疥癬

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通常の洗濯後に乾燥機・アイロン使用,

または,50℃ 10分間の熱処理後に

通常洗濯しましょう.

洗濯は通常の方法で行いましょう.

部屋の環境整備

通常疥癬 角化型疥癬

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トイレや車椅子,ストレッチャーなど共用するものには注意が必要です.

・直接触らない

・ウェットティッシュで拭き取る

・患者さん専用にする

・殺虫剤を使用する

通常の方法で行いましょう.

殺虫剤の使用は必要ありません.

ベッドマットや床は,落屑が残らないように丁寧に掃除しましょう. 疥癬/皮膚科学関連医療薬品のマルホ:http://www.scabies.jp/

困っているんです…

当院では,半年周期ほどで,疥癬患者が集団発生しております.初めは一病棟だったが,現在では各病棟に拡大しました.

• 繰り返す集団感染の原因は,前回治療時の軟膏の塗り残しと考えるべきでしょうか?

• 職員を介しての感染拡大と考えるのが妥当なのでしょうか?

• 治療法がまずいのでしょうか?

• 患者との濃厚接触の際には,職員にプラスチック製の腕カバーを着用させていますが,逆にそれで他の患者に感染させているのでしょうか?

疥癬を完全に 撲滅するための 良い方法は

ないでしょうか…

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困っているんです…

経過

8月;A病棟で数名の湿疹者あり,オイラックス軟膏で対処.その後,症状は悪化し,疥癬感染者発生.

• 患者5名からに虫体(+):イベルメクチンとγ -BHCを2回実施.

• 虫体(-)の湿疹患者50名:γ -BHCを2回.

• 湿疹無しの患者5名と職員全員:オイラックス®軟膏2日間の治療実施.

• 病室の消毒,マット交換を実施.この頃から,他病棟でも疥癬陽性患者が出始めた.

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困っているんです…

経過

1月;患者2名から虫体・虫卵が発見.

• 前回と同様,疥癬陽性患者,湿疹のみの患者6

名,無症状の患者52名に治療を実施.

• 爪疥癬(ノルウェイ?)の患者には,4週間の密封療法を実施.

• 職員全員に症状はなかったが,オイラックス®2

日間実施.

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困っているんです…

経過

6月~7月;患者8名から虫体・虫卵が発見.

• 疥癬陽性患者:イベルメクチンとγ -BHCを2回実施.

• 他患者及び職員:湿疹患者は2名であったが,γ -BHC治療を実施.

• 8人の患者はそれぞれ別の病室(一部屋4人)であった.

他の病棟で疥癬の治療を受け転棟してきた患者が2ヶ月後にまた発症した. 34

みなさんで対策を立てましょう!!

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見落としはありませんか?

特に角化型疥癬患者さんを見落としていませんか?

• 入浴していないから,皮膚がボロボロなんだ…

• 湿疹で治療中…

• 足白癬でしょう?…

• 麻痺側の手掌…

• ミトンの中…

• 靴下の中…

• ギプスの中… 36

全身をよく見て下さい

おやっ!?と 思ったら… 角質や落屑を 密閉容器へ

プロット

しよう

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病室と発症者 の地図を作ってみよう

転棟,転院,退院などの患者さんも念頭に… (死亡退院も含め)

病棟を行き交う スタッフはいるか?? (業者も含めて)

再燃に注意しよう

治癒とされた人が再発することは高齢者では再々あり得る.

必ず,週に1回は治療効果を判定する.

通常疥癬から角化型疥癬になることもある.

再燃の場合,治癒が十分ではなかったといえるが,治癒判定は極めて難しい.

治癒判定を厳しくすることで過剰治療をすることは危険.疥癬薬は外用内服を問わず毒性が高い.

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意外なところから…

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直接ケアしてないのに,腰パンのスソから感染しました…

疥癬患者さんのケア後だったので,念入りに手洗いしたのに…

二の腕に 感染しました…

参考文献

疥癬診療ガイドライン(第2 版):日皮会誌,117(1),1-13,2007(平19),http://www.dermatol.or.jp/

疥癬/皮膚科学関連医療薬品のマルホ:http://www.scabies.jp/

微生物別の種類別にみた施設内感染制御:臨床検査,53(11), 2009年増刊号

疥癬症例:www.kansensho.or.jp/sisetunai/2008_3_pdf/19.pdf

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