学習科学: 数学リテラシーと批判的思考...2011/09/09  · –...

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学習科学:数学リテラシーと批判的思考

楠見 孝京都大学大学院教育学研究科教育認知心理学講座教授http://www.educ.kyoto-u.ac.jp/cogpsy/kusumi/

1. 学習科学とは2. ジェネリックスキルとは3. 批判的思考とは4. 批判的思考力の育成5. まとめ:クリティカルな学生になる,育てるために

大阪府立大学学習科学勉強会 2011.9.9

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目次1.学習科学とは

2.ジェネリックスキルとは

3.批判的思考とは

4.批判的思考力の育成

5.まとめ:クリティカルな学生になる,育てるために

1 学習科学(Sawyer, 2006)

• 「教えること」「学ぶこと」を科学的に研究する新しい学際的学問分野

– 認知科学,教育心理学,コンピュータ科学,教育工学,人類学,神経科学,社会学等

– 1991年に国際会議,学術誌創刊

– 学校だけでなく,職場,家庭などのコミュニティの学習も対象

– 学習を促進する認知的・社会的条件の解明

→学習環境のデザインへ

科学教育の流れ(鈴木,2006)

生活経験から学問の系統性重視

認知革命

スプートニックショック

環境問題

高度化,落ちこぼれ

社会との影響関係,市民との共有

5

認知システムの変容

学習者の知識・技能の獲得・構成

累加再構造化調整生成

生得的,認知的制約

既有知識の制約

知的好奇心

理解の重要性

1.1 認知的・構成主義的学習観

6

学習者と(社会的分散

認知)システムの協調関係の

構築

文化的実践への参加

外的制約(リソース)

知的好奇心

理解の重要性

(文化,社会,

他者,道具等)

1.2 状況論的学習観

7

構成要素モデル

概念的知識手続き的知識態度

数学力の認知モデル

獲得モデル教授-学習過程

授業E-Learning

学習支援

文脈モデル専門の学習,研究,

職業,市民生活(メディア、科学・技術)

等に関わる活用,社会的問題解決

数学力を支える3つのモデル(Sternbergの知能モデルの応用)

7

8

1.3 思考と表象

• 心的な情報の操作としての思考– 問題解決,類推,推論,意思決定を含む

• 認知をシンボル操作として捉える=計算主義

• 思考を支える表象representation外部環境→内的表象→操作

命題的表象 イメージ的表象言語に対応 特定視点からのシンボルの運用 映像的表象

メンタルモデル外界の直接的構造的対応物

数学的構造の発見

リテラシーとシンボル(松下,2006)

読みとく

書く,運用する(構造を見抜く)

主体 ー シンボル体系 ー 世界(学習者) 日常言語 問題

数学言語

科学言語

数学力の内容のブレイクダウン

1.シンボルを用いた論理的思考力

– シンボルとは数学言語

– 単語は数字、記号

– 文は命題、式

– 文法としての論理が支える

– 文章は証明、計算

– 図はグラフ、表

数学言語を使っての読解、記述、説明(コミュニケーションを支えるリテラシー)を支える論理的思考

数学力の明確化(つづき)

2.シンボルを用いた情報分析能力– 理解や活用などの数学リテラシー、ジェネリックス

キル(汎用的技能)

3.シンボルの運用能力としての計算力や

プログラム実装力

4.現象の中に数学的構造を見抜く力

– 「数学的な判断力をいろいろな方向に適用させる力」とした中で、課題の発見-解決-実行-評価など

の運用全体の中での批判的判断力

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1.4 学習と教育の類型

a. 経験の反復-技能学習,強化学習– (熟慮を伴う)練習,フィードバック

b. 経験からの帰納--説明に基づく学習→カテゴリ化,パタン,規則

c. 観察(社会的)学習-技能,態度,知識

d. 他者との相互作用-討論,協同学習,プロジェクトベース学習

e. メディア,情報機器による学習-文字,動画,音声などの多様な情報• 3Dによる視覚化,シミュレーション,• 内容やペースの個別化、最適化

f. 既有知識領域からの類推による転移

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1.5 熟達化 Expertise

• 練習による高次のスキルや知識の獲得

• 長期:10年ルール(Ericsson,K.A.,1996)

• 素早く,正確な遂行,自己調整

– 構造化された,原理に基づく領域知識→効果的な問題表象

• 適切な問題の分類や解釈

– 手続き化された知識→自動化

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目次1.学習科学とは

2.ジェネリックスキルとは

3.批判的思考とは

4.批判的思考力の育成

5.まとめ:クリティカルな学生になる,育てるために

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2 ジェネリックスキル(汎用的技能)

• さまざまな市民生活,職業,学問領域において適用できる技能,転移可能な技能

– コアスキル,キイ・コンピテンス,employable skillsと対応

– 数学,統計リテラシー

– 批判的思考力,コミュニケーション能力や問題解決能力、チームワーク能力(社会的スキル)

– 専門知識とは異なり,学部学科を問わず大学卒業生が 学習成果(learning outcomes)として求められるスキル

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2.1 学士力

大学卒業までに学生が最低限身に着けなければならない能力 (中教審,2007)

【技能】▽論理的思考力 :情報や知識を分析、表現▽情報活用力 :インターネットなどの多様な情報を適切に使

い、活用▽コミュニケーション能力 :日本語、外国語で読み、書き、聞き、話す

【知識】▽異文化の理解:外国などの文化を理解 (開かれた心)▽社会情勢や自然、文化への理解:人類の文化や社会情勢などを理解

【態度】▽チームワーク、リーダーシップ :他者と協力して行動、目標実現のために方向性を示せる▽倫理観 :自分の良心や社会のルールに従って、行動▽生涯学習力 :卒業後も自ら学習 (探求心)

【創造的思考力】知識、技能、態度を総合的に活用し、問題を解決

2.2 21世紀型スキルATC21S(Assessment & Teaching of 21st Century Skills,2010)

21世紀に生きる市民のための情報コミュニケーション

技術の進歩に対応したリテラシーとして提唱

4カテゴリのスキル1.思考の方法(批判的思考・問題解決・意思決定,創造性,学習能力・メタ認知)

2.仕事の方法(コミュニケーション、チームワーク)

3.仕事のツール(情報リテラシー,ICTリテラシー)

4.市民生活(地域および地球規模の市民性 ,生活と

キャリア,異文化の理解と対処能力を含む個人的責任および社会的責任)

1818

PISA(OECD生徒の学習到達度調査)の目的とリテラシー

• 知識社会に直面する若者の準備の度合いの評価– 定型的な仕事の遂行ではなく,自律的で,リスクに立ち向

かう必要

– 教育は,分析,批判,創造などのスキルを育てる必要

• 多面的役割としての人– 学習者,市民,働く人,消費者,家族,..

• 多面的能力– 知識とスキル(認知的) リテラシー

– 態度(社会的,行動的) 自律的行動

協調関係

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PISAが測定している3分野の

リテラシーは批判的思考が支えている

リテラシー情報にアクセスし,管理・統合・評価する能力

• 知識の実生活での応用のためのコミュニケーション

– 読解リテラシー(読解力)• 書かれたものの理解,利用,熟考

– 数学リテラシー(数学応用力)• 生活における数学的な根拠に基づく判断,数学の活

– 科学リテラシー(科学応用力)• 科学的知識を活用した,自然界を理解し,意思決定

• 証拠に基づいて結論を導く能力

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高等教育版PISA(AHELO:International Assessment of Higher Education Learning Outcomes )

• 試行調査:2010年~2011年 10カ国以上 1 ~ 3万人• 本調査:2016年頃• 高等教育のアウトカム評価の国際比較の信頼性を科学的に

評価• 卒業時,筆記テスト,(約2時間?)

①汎用的技能(generic skills) CLAの国際版②分野別技能(工学及び経済学) 日本は工学に参加予定③付加価値(高等教育機関による付加価値の評価方法に関す

る検討)④背景情報(学習成果の評価を間接的に示す指標に関する検

討)専門家会議(AHELO Group of National Experts)

Paris, 15-16 March 2010 が終わったところ,結論が出るまで非公開 上記は2009年9月のHP公開情報

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AHELOの汎用的技能とは

1. 分析的推論

2. 批判的思考

3. 問題解決(アイディアの生成と理論の実践的適用)

4. 筆記コミュニケーション(作文)

5. リーダーシップ,グループワーク能力(社会的スキル)など

– 米国のCLA(Collegiate Learning Assessment) (Council for Aid to Education:CAE) を国際的文脈に適合させたものをパイロットテストに用いる(1-4の認知的スキルを測定)

– 参加表明国はFinland, Korea, Mexico, Norway(日本ははいっていない??)

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高次リテラシー

• 高次の思考スキルと内容的知識に基づく読解能力・コミュニケーション能力

– リテラシー(母語の読み書きやコミュニケーション能力)、機能的リテラシー(職業訓練に必要な計算能力など)を基盤にした、市民生活に必要な能力(市民リテラシー)を展開した能力

– 批判的思考のスキルと態度が支えている

– マルチリテラシー(メディア,経済,健康,科学,リーガルリテラシーなど)を含む

• 大学教育では専門分野の基盤となる学問リテラシー,数学リテラシー,研究リテラシーの育成が重要

科学リテラシー(Miller,1998)

• 基本的な科学技術用語、概念の理解,• 科学的な手法、過程の理解

• 科学政策に関する問題の理解

– 市民リテラシー(市民生活に必要な能力)には、メディア,健康,経済,リーガルリテラシーなども含まれる

理解+行動

数学リテラシー(統計リテラシーも含む)

• 基本的な用語、概念の理解(例:標本誤差,有意差)

• 手法、計算手順の理解(例:サンプリング)• 現実の問題解決への活用,コミュニケーショ

ン(読解,情報発信)

– 公的統計,図表,報道の理解

を支える能力

理解+行動

研究

リテラシー

数学リテラシ-読解・情報

リテラシー

科学リテラシー

大学教育が育成する力(学習成果)

2626

ゼミ,個別指導

専門教育(研究法,実習

講義

専門論文読解)

専門基礎教育(数学,統計学,情報リテラシ教育など)

導入教育,教養教育

講義.講読演習

研究法・実験実習

卒論

体系的教育:高次リテラシーを育成する教育実践

高校教育

アカデミックリテラシー

研究リテラシー

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目次1.学習科学とは

2.ジェネリックスキルとは

3.批判的思考とは

4.批判的思考力の育成

5.まとめ:クリティカルな学生になる,育てるために

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3 批判的思考(クリティカルシンキング)

• 証拠に基づく論理的で偏りのない思考

– 多面的,客観的にとらえる

– 科学的な証拠に基づく判断

– 数学リテラシーの基盤

• 内省的思考(リフレクション)

– 「相手を批判する」よりも,自分の思考を意識的に吟味する,メタ認知

• 問題解決や判断を支えるジェネリックスキル

– 目標志向的

– 学習,研究,職業生活での実践の重要な要素• 問い,情報収集,行動の決定,問題解決

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3.1 批判的思考の構成要素

• 認知的側面・・・能力とスキル,知識– 領域普遍知識(論証形式を評価)

• 推論の手続き的知識やスキル

– 情報収集,解釈の形成,評価の方法» 批判的思考教育,数学リテラシー教育

– 領域固有知識(論証の基盤となる情報を評価)• 内容を理解・評価するための知識、複雑領域ほど

重要.» 幅広い教養教育,深い専門教育

• 情意的側面・・・態度(Ennis, 1987)

2929

31

3.2 批判的思考のプロセスとスキル

(1) 明確化

1. 問題、仮説に焦点を当てて、それを明確化(問題,仮説,前提など)

2. 論理(結論,理由,事実,意見)を分析– 論理(必要条件,十分条件)

3. 明確化のための問い

なぜ? なにが重要か? 事例は?など

4. 用語を定義する

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(2)推論の土台の検討:情報の分析

他者の主張、科学的事実、観察結果、 以前の結論

1 情報源の信頼性を判断• 専門家によるものか?• 異なる情報源間で一致しているか?

• 確立した手続きをとっているか?

2 科学的事実、観察結果を評価するメディア,科学,数学リテラシーにとって重要

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科学的証拠の見分け方

• データの質の評価– 誤差と不確定性

=>データ数,再現性,サンプル選定が鍵例:脳年齢の基準データは20-70代の各20人

• 要因と相関に関する主張の評価– 相関があることは原因(要因)を意味しない

– 比較統制群の必要性

– 複数の要因の存在• 例:認知症の患者群にコミュニケーションを頻繁にとっ

たために成績が向上

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4.行動

決定

(3)推論のスキル

3.推論

2.推論の土台の検討

1明確化相手の発言、メディア、書籍など

根拠から結論が導けるか• 帰納(一般化)判断,類推

• 演繹(三段論法など)判断• 価値判断いずれも領域固有知識が必要

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(3) 推論のスキル

根拠から結論が導けるか

1. 帰納(一般化)における判断どのような条件、サンプルで研究したのか?

サンプルは網羅的か、代表的か?

動物実験の結果が人にも当てはまるのか?

2. 演繹(三段論法など)の判断•推論過程を簡略化していないか

•あやまった議論や二者択一ではないか

3. 価値判断(背景事実、結果、バランスなどの判断)が必要

•多面的に情報を集め、比較して、自分自身で判断

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4.行動

決定

(4)行動決定のためのスキル

3.推論

2.推論の土台の検討

1明確化相手の発言、メディア、書籍など

1. 問題を定義2. 規準の選択3. 解決策を複数形成4. 仮の決定5. 再吟味6. 実行過程をモニター

(4) 行動の決定、問題解決

1. 直面する問題を定義し、2. 解決の判断のための規準の選択3. 解決策を複数形成し4. 何をすべきかの仮の決定をして、5. 状況全体を考慮した上での再吟味6. 実行過程をモニター– メタ認知的活動

• 自分自身の認知過程をモニターするコントロールメカニズム

• 他者との相互作用を、対話,議論などを通しておこなうことも大切– 相互作用にはすべてのプロセスが関わる。

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4.行動

決定

態度

(5)批判的思考を支える態度

3.推論

2.推論の土台の検討

1明確化メディア、発言、書籍など

客観的,多面的論理的

熟 慮

探求心証拠重視

批判的思考を支える態度批判的思考は、スキルだけでは、十分に発揮されない。

態度が、問題解決や読解、討論などの状況において必要

(1)論理的な思考態度明確な主張や理由を求める

(2)探求心さまざまな情報や知識、選択肢を探す

開かれた心をもつ(他者に耳を傾け理解しようとする)(3)客観性

主観にとらわれず多面的、公平にものごとをみる

(4)証拠の重視信頼できる情報源を求め、証拠に依拠した立場をとる

新たな証拠が出たときは、自分の考えを変える

(5)熟慮情報を鵜呑みにせず、じっくり考える

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学歴と批判的思考態度尺度得点(楠見・平山,2008)

0

5

10

15

20

25

30

35

40

45

50

中学 高校 短大、専門学校 大学 大学院

(n= 27) (n = 444) (n = 340) (n = 600) (n = 82)

• TukeyのHSD検定・・・中学=高校=短大・専門学校 < 大学 < 大学院

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目次1.学習科学とは

2.ジェネリックスキルとは

3.批判的思考とは

4.批判的思考力の育成

5.まとめ:クリティカルな学生になる,育てるために

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4.批判的思考力の育成

• 何のために批判的思考力を教えるのか?– 大学教育では領域知識,スキルを教え,即戦力を

もった人材を育てることが重視される傾向

– それに対して,批判的思考力を教えることは,自らの経験から学習し、適切に判断する人材を育てることを目標とする.

→自己エンパワーメント(self-empowerment)– 批判的思考が重要な場面

– 問題解決,意思決定,創造

大学における批判的思考教育

• 初年次教育

– 大学での学習を支える能力と態度の育成

• 領域普遍的な一般的な思考力,学習能力,リテラシー

• 論理的思考,証拠の重視,客観,探求心などの態度

• 専門教育

– 専門家としての課題遂行を支える能力と態度の育成

• 専門文献の読解

• 実習(研究計画立案・実施,分析,問題解決など)

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批判的思考教育と領域固有性3つのアプローチ(Ennis,1989)。1. ジェネラル(general)アプローチ

• 領域普遍的な批判的思考スキルをライティング・リーディング・メディアリテラシー、論理学などの授業で教える方法

2. インフュージョン(infusion:導入)アプローチ• 専門分野の教育において批判的思考のスキルなどを明

示的に教える方法

3. イマージョン(immersion:没入)アプローチ• 学習者は教科・専門内容に深く没入することを通して,批

判的思考スキルを明示的に教えられなくても獲得することを目指す教え方(伝統的な専門教育)

4. 混合(mixed)アプローチ

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批判的思考力の専門教育

– 思考スキルの構成要素だけを訓練するよりは,ある領域

の問題解決過程全体の過程の中での教育の方が効果

• 一般的な思考スキルの訓練コースにおいて,取り上げた領域が

他の領域に転移すること想定(Halpern, 1987)

– 大学院教育レベルの専門教育(心理学や医学のような確

率論的な科学)は,科学的問題だけではなく,日常的問題

に対しても統計的原理や方法論的原則を正しく適用する

能力を高める(Lehman, Lempart, & Nisbett,1988).

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批判的思考力を高める活動1-21.批判的読書(critical reading)

読解は情報収集の大きな部分を占めており,批判的思考を働かさなければならない活動.読解テストは批判的思考力の評価にも用いられる

(a)新聞の記事,社説などを用いて,客観的証拠や対立した意見に着

目して分析

(b)作品に対して,反対の立場で分析,エッセイ執筆.

(c)研究報告や論文の読解においては,チェックリスト(例:問題設定が明確か,キイワードが定義されているか)に照らして評価(Metzoff, 1997)

2.ビデオ,テレビ,映画などの視聴– メディアを解読する能力(メディアリテラシ)や主体的態度を育成することは,

良き市民を育てる教育として重要.

– 受動的になりがちなメディアの視聴は,内省だけでなく,対話や討論によって能動的に学ぶことが重要

授業回数と論文読解批判的思考得点

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

1.2

1.4

1.6

1.8

1回 4回 7回 11回

条件統制

研究改善

要因計画

分析法

71授業回数

項目別得点(範囲

0~

2)

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批判的思考力を高める活動3

3.討論– 批判的思考力に加えて,コミュニケーションスキル,能動的傾聴

(active listening)スキルの育成を目指す

– 教師による有意義な問題提起と,学生の反応を引き出す工夫が必要

(a)クラス討論の形で,講義形式の授業の後半部分で自由討論,

(b)代表者数名が異なる観点から,個人発表をしたあとで,全体討論

(c)グループ討論の形で,グループに分かれて,準備をしたうえで討論

– 構造化された討論の授業(UCB(カリフォルニア大学バークレー校)の実例(Davis, Wood, & Wilson, 1983)

(a)各回の授業の討論のための問題をあらかじめ,シラバスに掲載しておき, 学生に討論の準備をさせる,

(b)クラスを6-8人の小グループに分割する,

(c)討論のリーダを順番に割り当てる

などの工夫をして,討論を活発化

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批判的思考力を高める活動4

4 レポート・作文

– 分析的思考と自己表現力,創造性を育成する活動

– 宿題あるいはレポートして,出題し,教師が添削し,フィードバック

• Wade(1995)は,6つのテーマに関して,作文実習を

実施して,討論実習と効果を比較– 作文は,反省的思考や,ある立場に立った論理や主張につ

いて考察する時間が長く,批判的思考獲得に優れる

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批判的思考力を高める活動(その他)5 グループプロジェクト

– 4-6人程度のグループで,討論をしながら,プロジェクトを進める方法

– 3の討論で育成するコミュニケーションスキルに加えて,問題解決や意思決定,創造のスキルの形成も目指す

– 共同研究の現場や職場での実践的能力とも結びつく.

• Jigsaw法

6 ゲーム– 架空状況における個人または共同による問題解決によって,問題

解決能力や意思決定能力,対人関係能力などの実践的能力を訓練

– 模擬経験を通して,技能や知識を能動的に学習するためのプログラムである.さらに,人間関係の能力養成

• 経営大学院(MBA)や研修

• 特定スキル訓練(合意形成の技法,ブレーンストーミング,KJ法などの創造技法)

• シミュレーションゲームのように,現実場面に近い状況での訓練

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目次1.学習科学とは

2.ジェネリックスキルとは

3.批判的思考とは

4.批判的思考力の育成

5.まとめ:クリティカルな学生になる,育てるために

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5.まとめ:クリティカルな学生を育てるために

1. 批判的思考のスキルを身につける(明確化、隠れた前提、根拠の確かさの検討など)

2. 批判的思考の態度を身につける(多面的、論理的、熟慮・内省など)

3. 質の高い経験を積む,情報を得る–学生には質の高い経験を積む機会を用意–挑戦(少し高いレベルの経験,勉強会などのグループ活動,読書)

–インターネットの適切な利用:信頼性の高いサイト

→self-empowerment(自分が力をつける)

クリティカルな学生を育てるために(つづき)

5.自分の思考過程と経験を内省する習慣とツールを用意する(就寝前,日記)

6.批判的になるべき時に、批判的になる

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まとめ

1. 批判的思考は数学リテラシーを含む高次リテラシー能力の基盤となる思考

2. 優れた学習者,良き市民,社会人,優れた専門家,研究者になるための批判的思考教育

3. 批判的思考教育は,体系性,応用の視点,学習者間のインタラクションが重要

主な文献Ennis, R. H. 1987 A taxonomy of critical thinking dispositions and abilities. In J. B.

Baron & R. J. Sternberg (Eds.), Teaching thinking skills: Theory and practice. New York: W. H. Freeman and Company, Pp.9-26.

平山るみ・楠見孝 2004 批判的思考態度が結論導出プロセスに及ぼす影響―証拠評価と結論生成課題を用いての検討―.教育心理学研究.52, 186-198.

伊勢田哲治 2005 哲学思考トレーニング ちくま新書545楠見 孝 2010 批判的思考と高次リテラシー 楠見 孝(編) 思考と言語 現代の

認知心理学3 北大路書房 pp.134-160.楠見 孝・子安増生・道田泰司(編) 2011 批判的思考力を育む:学士力と社会人

基礎力の基盤形成 有斐閣楠見 孝・三浦麻子・小倉加奈代 2009 がん・アトピー性皮膚炎患者・家族のイン

ターネット行動(1):批判的思考が情報信頼性評価と病気への適応に及ぼす効果 日本社会心理学会第50回大会発表論文集,244-245.

楠見孝・子安増生(監修) 2010 クリティカルシンキング:情報を吟味・理解する力を鍛える (大学基礎力BOOKシリーズ)ベネッセ

松下佳代(編著) 2010 〈新しい能力〉は教育を変えるか?学力・リテラシー・コンピテンシー ミネルヴァ書房、

メルツォフ,J.(中澤潤監訳)2005 クリティカルシンキング (研究論文篇) 北大路書房

Sawyer, R. K. 2006 森・秋田監訳 2009 学習科学ハンドブック 培風館ゼックミスタ, E. B., ジョンソン, J. E., 宮元博章・道田泰司・谷口高士・菊池聡(訳)

1996/1997 クリティカルシンキング<入門篇><実践篇> 北大路書房鈴木真理子 2006 科学領域における共同学習に関する研究. 風間書房,

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