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-1- メディア・リテラシー教育小学生向け教材の開発 研究の概要 メディア・リテラシー教育のための小学生向け教材を開発し,活用実践を行った。教材開発の手順とし ては,昨年度指導すべき情報・メディアの特性を洗い出しながら学年・発達段階を考慮して作成した「小 学校メディア・リテラシー教育目標リスト」を元に,それを網羅するように単元を設定した上で,教材を 開発していく方法を採った。その結果,児童の情報・メディアに対する関心・意欲・態度やその特性に対 する知識・理解は有意な高まりを示したが,教材の記載内容や構成に課題も見られた。この効果は,教材 を開発する上で留意した,①時数・内容をどの学校でも実践可能なものにすること,②情報の送り手と受 け手の循環,情報の批判的な分析,多様なものの見方・考え方を促す資料の投入を学習活動に位置付ける ことの2点によるものであることが示唆された。 〔キーワード〕メディア・リテラシー 小学生向け教材 目標リスト 情報・メディアの特性 はじめに 情報社会の進展にともなって,情報倫理・安全 にかかわる教育が注目を集めている。一方でメデ ィア・リテラシー教育は 「情報教育の実践と学 校の情報化 (文部科学省) にも記されている 1) とおり非常に重要であるが,学校教育の中に定着 していない。筆者らも近年,小学校における単元 モデルや指導到達目標等を作成し実践研究に取り 組んでいるが(高橋ら2002~2004) ,普及に 2)3)4) は至っていない。 本研究では,より多くの学校で実践されること をめざし,メディア・リテラシー教育のための小 学生向け教材(以下「教材」と記す)の開発に取り 組んだ。教材は教科書のような体裁で,学習展開 ・活動例等が示してある。教師は指導内容を把握 し授業展開がイメージできるので,メディア・リ テラシー教育の授業に取り組むことへの敷居は低 くすることができるのではないかと考えた。 目的 メディア・リテラシー教育のための教材を開発 し,活用実践を行い,児童の学習目標の達成につ いて評価し,教材の成果や課題を示す。同時に, メディア・リテラシー教育のための小学生向け教 材開発の手順・留意点を整理する。 方法 3.1.教材開発の手順 小学校のメディア・リテラシー教育では 「何 を 「どこまで」教えるべきかを探りながら,次 の手順で教材を開発した(図1 。 (1) 筆者らがこれまで実践したメディア・リテラ シー教育で児童に育てた力 を,カナダオン 5)6) タリオ州教育省が示している「八つの基本的概 念」 ,NHK学校放送・体験!メディアのA 7) BCの「六つの学習目標」 ,中橋による「現 8) 代社会に求められるメディア・リテラシーの構 成要素」 等と照らし合わせて整理した。 9) (2) (1) を,小学生が知識として身に付けるべき 「情報・メディアの特性」という観点から表記 し直し,リスト化した。 (3) 3~6年の国語科教科書(M社)と5年の社 会科教科書(T社とO社)を分析した。メディ ア・リテラシー教育は諸外国でも母国語教育の 中で実践されるケースが多い上,学習のほとん 図1 教材の開発手順

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メディア・リテラシー教育小学生向け教材の開発

研究の概要

メディア・リテラシー教育のための小学生向け教材を開発し,活用実践を行った。教材開発の手順とし

ては,昨年度指導すべき情報・メディアの特性を洗い出しながら学年・発達段階を考慮して作成した「小

学校メディア・リテラシー教育目標リスト」を元に,それを網羅するように単元を設定した上で,教材を

開発していく方法を採った。その結果,児童の情報・メディアに対する関心・意欲・態度やその特性に対

する知識・理解は有意な高まりを示したが,教材の記載内容や構成に課題も見られた。この効果は,教材

を開発する上で留意した,①時数・内容をどの学校でも実践可能なものにすること,②情報の送り手と受

け手の循環,情報の批判的な分析,多様なものの見方・考え方を促す資料の投入を学習活動に位置付ける

ことの2点によるものであることが示唆された。

〔キーワード〕メディア・リテラシー 小学生向け教材 目標リスト 情報・メディアの特性

1 はじめに

情報社会の進展にともなって,情報倫理・安全

にかかわる教育が注目を集めている。一方でメデ

ィア・リテラシー教育は 「情報教育の実践と学,

校の情報化 (文部科学省) にも記されている」 1)

とおり非常に重要であるが,学校教育の中に定着

していない。筆者らも近年,小学校における単元

モデルや指導到達目標等を作成し実践研究に取り

組んでいるが(高橋ら2002~2004) ,普及に2)3)4)

は至っていない。

本研究では,より多くの学校で実践されること

をめざし,メディア・リテラシー教育のための小

学生向け教材(以下「教材」と記す)の開発に取り

組んだ。教材は教科書のような体裁で,学習展開

・活動例等が示してある。教師は指導内容を把握

し授業展開がイメージできるので,メディア・リ

テラシー教育の授業に取り組むことへの敷居は低

くすることができるのではないかと考えた。

2 目的

メディア・リテラシー教育のための教材を開発

し,活用実践を行い,児童の学習目標の達成につ

いて評価し,教材の成果や課題を示す。同時に,

メディア・リテラシー教育のための小学生向け教

材開発の手順・留意点を整理する。

3 方法

3.1.教材開発の手順

小学校のメディア・リテラシー教育では 「何,

を 「どこまで」教えるべきかを探りながら,次」

の手順で教材を開発した(図1 。)

(1) 筆者らがこれまで実践したメディア・リテラ

シー教育で児童に育てた力 を,カナダオン5)6)

タリオ州教育省が示している「八つの基本的概

念」 ,NHK学校放送・体験!メディアのA7)

BCの「六つの学習目標」 ,中橋による「現8)

代社会に求められるメディア・リテラシーの構

成要素」 等と照らし合わせて整理した。9)

(2) (1) を,小学生が知識として身に付けるべき

「情報・メディアの特性」という観点から表記

し直し,リスト化した。

(3) 3~6年の国語科教科書(M社)と5年の社

会科教科書(T社とO社)を分析した。メディ

ア・リテラシー教育は諸外国でも母国語教育の

中で実践されるケースが多い上,学習のほとん

図1 教材の開発手順

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どが言語活動であることは自明である。また5

年社会科には「生活と情報」について学習する

単元があり,小学校の教科学習の中で唯一メデ

ィア・リテラシー教育に直結するような内容と

なっている。これらの理由から,国語科・社会

科の教科書を分析することにした。

表1 小学校メディア・リテラシー教育目標リストと3年~6年で実施可能な単元

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具体的には,(2) でリスト化した各項目にか

かわりがある「学習内容 「学習方法」が何年」

生に位置付いているかということを中心に分析

した。そして(1) に記した既存の実践と合わせ

て,何年生でどこまで指導すべきかを整理した。

(4) (2) のリストへ(3) の作業で明らかになった

指導開始学年を整理し,7の上位項目と34の下

位項目からなる「小学生メディア・リテラシー

教育目標リスト」を作成した。

(5) 各学年三つずつメディア・リテラシー教育の

単元を目標リストに位置付け,34の下位項目全

てが3~6年で系統的・網羅的に指導できるよ

うにした(表1 。)

(6) 「単元モデル (高橋ら2003) を典型的に」 3)

生かせる単元を,中学年・高学年向きにそれぞ

れ一つずつ開発・教材化した。

3.2.教材開発の留意点

(1) 教材内容

全ての学校で実施可能な内容にするために,次

の3点に留意した。

○ 1単元5単位時間以下,必要最小限の内容

○ 読み手に偏った印象を与えない内容

○ 地域性や既習内容の違いによる影響があまり

出ない内容

(2) 活動内容

「単元モデル」を元に,次の3点に留意した活

動を位置付けた。

○ 情報の送り手と受け手の循環

○ 情報の批判的な分析

○ 多様なものの見方・考え方を促す資料投入

3.3.実践と事前事後調査

本研究では中学年・高学年向け教材をそれぞれ

開発し,活用実践を行う。そして次のような事前

事後調査により,児童の「関心・意欲・態度」や

「知識・理解」の変容を調べる。

高学年用調査

①自分の興味があることが書いてある雑誌の

記事は読んでみたい。

②自分の興味があることが書いてある新聞の

記事は読んでみたい。

③同じような内容を取り扱う雑誌の記事は,

2社以上のものを比べて読んでみたい。

④同じ出来事を取り扱う新聞の記事は,2社

以上のものを比べて読んでみたい。

⑤自分が記事を書く時は,伝えたいことに合

わせて必要なことだけを書くようにする。

⑥自分が記事を書く時には,調べたことの中

から必要なものとそうでないものとを区別

している。

⑦自分が記事を書く時には,伝えたいことに

合わせて書く順番を変えるようにする。

⑧同じ出来事なのに,出版社によって記事の

内容が違うことがある。

⑨同じ出来事を記事にする時,出版社によっ

て「伝えたいこと」が変わることはない。

⑩雑誌の記事に書かれていることは,事実の

すべてではなく一部である。

⑪新聞の記事に書かれていることは,事実の

すべてではなく一部である。

⑫雑誌が伝える情報は,事実のすべてを伝え

ていて正しいものばかりである。

⑬雑誌が伝える情報の中には,その出版社の

もうけに結びつくような情報もある。

⑭新聞が伝える情報は,事実のすべてを伝え

ていて正しいものばかりである。

⑮新聞が伝える情報の中には,その新聞社の

もうけに結びつくような情報もある。

⑯新聞記事では,見出しに書いてあることが

一番伝えたいことである。

⑰新聞記事では,一番伝えたいことが先に書

かれ,くわしい説明は後に書かれている。

中学年用調査

①自分の伝えたいことを伝えるためにディジ

タルカメラでいろいろなものを写したい。

②友だちの写真を下から写しても上から写し

ても,印象(イメージ)は変わらない。

③写真を使って伝えたいことをわかりやすく

伝えるために,説明の文章や見出しをいっ

しょに書く。

④写真を見たとき「写した人は何を伝えたい

のかな?」と考えながら見るようにする。

⑤写真を写すときは,写したいものに近づい

たりはなれたりしながら,写し方をくふう

する。

⑥同じ写真でも,説明の文章が変わると写真

の印象(イメージ)も変わる。

⑦写したいものにぐっと近づいて写真を写す

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と,そのものの様子がくわしくわかる。

⑧写したいものから遠くへはなれて写真を写

すのはよく見えないのでやめた方がよい。

⑨写真には本当のことしか写らないのでそこ

から受ける印象(イメージ)は信じてよい。

実践および事前事後調査は,次の児童を対象に

実施する。

○ 笠岡市立中央小学校6年C組 29名

○ 倉敷市立琴浦北小学校3・4年 7名

○ 倉敷市立中島小学校4年 137名

3.4.インタビュー調査

授業者の内の無作為抽出した2名に対して,教

材を活用した実践の成果や課題についてインタビ

ュー調査を行う。

4 実践

児童の情報・メディアの特性理解を促すための

教材を開発し,実践した。

4.1.「雑誌・新聞の特徴 (6年)」

(1) 教材の概要

図2①では2社のグルメ雑誌の記事「オムライ

スの人気NO.1のお店」(フィクション)を比較・分

析することによって,子どもが「同じテーマの記

事なのになぜ内容が違うのか?」という疑問を抱

くような機能を持たせている。

図2②では,まず雑誌編集長のお話を掲載し,

記事の内容は出版社の意図によって編集・構成さ

れるということを紹介している。その後,実際に

新聞を持ち寄って分析する学習活動を促し,最後

に雑誌・新聞をはじめとするマスメディア情報の

特性を,読み物としてまとめている。

図2③では,①②で「受け手の立場」から雑誌

・新聞の特徴を学んだ知識を生かして,今度は

「送り手の立場」に立ち,同じ題材を二つの異な

る視点で記事にするという学習活動を促している。

(2) 授業の様子

笠岡市立中央小学校での実践を掲載する。

a.学習目標

同じ話題・出来事を取り扱った記事でも,出版

社・新聞社によって表現が異なっていることを知

ると共に,情報は送り手の意図によって構成され

ているということを理解する。

b.展開

まず児童は,図2①に書き込みをしたりグルー

プ・学級全体での話し合いを行ったりしながら,

出版社によって記事が違う理由について問題意識

を高めていった(図3 。)

そして図2②の読み物資料を読んで話し合った

り2社の新聞記事を比較する活動をしたりして,

マスメディア情報の特性を理解した(図4 。)

図2 教材「雑誌・新聞の特徴」のイメージ

①①

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さらに図2③を参考にしながら,学校の運動場

を二つの異なる視点でとらえた記事作りを行い,

情報の送り手と受け手の立場を循環しながら,情

報の特性に対する理解を深めていった(図5 。)

4.2.「写真を使った伝え方の工夫 (3・4年)」

(1) 教材の概要

図6④では,被写体と伝えたいこと(テーマ)

を決めた後に,ディジタルカメラで人物を撮影し

お互いにスピーチを通して紹介し合う,という体

験的な活動の見通しを示している。

図6⑤では,アングルやフレームの取り方を変

えると同じ被写体でも伝わる印象が大きく変わる

ことを,対比できる写真と説明文を載せた読み物

としてまとめている。

図6⑥では,④⑤の活動をまとめ,マスメディ

図3 2社記事を比較して問題意識を持つ

図4 読み物資料の利用と新聞記事分析で

マスメディア情報の特性を知る

図5 意図が異なる2つの記事作りを体験

しながら,送り手と受け手を循環

図6 教材「写真を使った伝え方の工夫」のイ

メージ

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アの中にある事実が誇張されたり歪んだりした情

報への注意や,本単元で学習した情報の特性を見

つけるための課題を記している。また,読み物資

料として「写真と文字情報とを組み合わせた情報

の特性」についての説明文を掲載している。

(2) 授業の様子

ここでは,倉敷市立琴浦北小学校での実践を掲

載する。

a.学習目標

体験を通して写真を使った情報には様々な表現

の仕方があることを知ると共に,情報は送り手の

意図によって作られているということを理解する。

b.展開

まずグループごとにみんなの前で紹介したい人

を決め,その人をディジタルカメラで撮影した。

その後使う写真を選び,伝えたいことがはっきり

と分かるように被写体についてのスピーチを行い,

相互評価を行った(図7 。)

次に,教師が資料を提示しながら,アップとル

ーズを使い分けた撮影・アングルを変えた撮影に

よって,同じ被写体でも全く印象が変わることを

説明した。その後同じ被写体を,写し方を変えて

撮影し,前回との違いが分かるように,写真の紹

介・評価を行った(図8 。)

授業の終末では,学習を通して分かったことを

話し合った。その中で,マスメディアが伝える情

報の中の,今回学習した写真の特性について気づ

いたことを出し合った。そして次時までに家庭で

「テレビ・新聞・雑誌が伝える情報」を調べなが

ら,以下の課題に取り組むことを確認した。

○ 写し方が工夫されているものを見つける。

○ そのことによって何を伝えようとしているか

考える。

後日,家庭学習でテレビCM等から見つけたこ

と・考えたことを発表しながら,制作者が意図的

に写し方を変えて発信している情報が身の回りに

もたくさんあることを確認した。最後にコラム

「写真と言葉を組み合わせた工夫」を読みながら

気づいたことを話し合い,今後もマスメディアが

伝える情報の中に「写真を使った伝え方の工夫」

を見つけながら情報を受け止めることや,伝え方

を工夫した情報発信を行うことを促して,授業を

締めくくった(図9 。)

5 結果

5.1.「雑誌・新聞の特徴 (笠岡市立中央小6年」

C組)

図7 友だちを撮影し1回目のスピーチ

図8 カメラワークを学んだ後,意図を明

確にして2回目の撮影・スピーチ

図9 家庭でCMを調べ発表(左),読み物

資料でメディアの特性を理解(右)

表2 「関心・意欲・態度」や「知識・理解」の高まり(中央小6C)

有意平均値 標準偏差 t項目

水準前 後 前 後 値

***17項目の 7.61 10.86 2.66 3.35 7.57合計得点

*①雑誌への 0.71 0.93 0.46 0.26 2.27関心

**②新聞への 0.54 0.82 0.51 0.39 2.83関心

***③雑誌比較読 0.25 0.79 0.44 0.42 4.92みへの関心

***④新聞比較読 0.04 0.61 0.19 0.50 6みへの関心

*⑧出版社によ 0.43 0.68 0.50 0.48 2.05る記事の違い

***⑨意図による 0.43 0.82 0.51 0.39 3.67記事の違い

*⑬雑誌情報と 0.29 0.57 0.46 0.51 2.52商業の関係

**⑮新聞情報と 0.21 0.57 0.42 0.50 3.38商業の関係

**⑰記事の構成 0.57 0.86 0.50 0.36 3.29の仕方

標本数=29

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(1) 事前事後調査

「関心・意欲・態度」や「知識・理解」を問う

質問(17項目)の正答を1点,誤答を0点として,

実践の事前と事後それぞれ集計した(表2 。17)

項目の合計得点および各項目ごとに,事前と事後

で対応のある平均値の差の検定(t検定)を行っ

たところ,17項目の合計得点が0.1%水準で有意

に上昇した。また9項目で有意な上昇が見られた。

(2) インタビュー調査

教材活用の効果が表れた理由を探るために,実

践を行った教師にインタビュー調査を行った。教

師は学習目標や指導内容,そして送り手と受け手

の循環等によって情報・メディアの特性理解を促

すという「教材の編集意図」も理解していたので,

おおむね学習目標を達成する授業ができたと感じ

ていた。

5.2.「写真を使った伝え方の工夫」

(1) 事前事後調査

a.倉敷市立琴浦北小学校3・4年

「関心・意欲・態度」や「知識・理解」を問う

質問(9項目)の正答を1点,誤答を0点として,

実践の事前と事後それぞれ集計した(表3 。9)

項目の合計得点および各項目ごとに,事前と事後

で対応のある平均値の差の検定(t検定)を行っ

たところ,9項目の合計得点が0.1%水準で有意

に上昇した。また3項目で有意な上昇が見られた。

b.倉敷市立中島小学校4年

「関心・意欲・態度」や「知識・理解」を問う

質問(9項目)の正答を1点,誤答を0点として,

実践の事前と事後それぞれ集計した(表4 。9)

項目の合計得点および各項目ごとに,事前と事後

で対応のある平均値の差の検定(t検定)を行っ

たところ,9項目の合計得点が0.1%水準で有意

に上昇した。また9項目中7項目で有意な上昇が

見られた。

(2) インタビュー調査

実践を行った一人の教師にインタビュー調査を

行い,教材活用の効果が表れた理由を尋ねた。教

師は一回目の撮影後に「アングルやフレームを変

えた撮影による印象の変化」の指導を行ったので

失敗体験に基づいて知識が獲得できたこと,さら

にそれを二回目の撮影で実感できたことが効果的

だったと述べた。送り手と受け手の循環等によっ

て写真の特性理解を促すという「教材の編集意

図」も良く理解できていたので,学習目標を達成

する授業ができたと感じていた。

6 考察

開発の手順・留意点を整理し,それらを踏まえ

て教材の開発に当たったことによって,成果が上

がったと考える。そこで,その理由を考察する。

表3 「関心・意欲・態度」や「知識・理解」の高まり(琴浦北小3・4年)

有意平均値 標準偏差 t項目

水準前 後 前 後 値

***9項目の 3.43 6.57 1.62 0.54 6.18合計得点

*①デジカメ撮 0.71 0.86 0.49 0.38 1影への関心

**②アングルを 0.29 0.86 0.49 0.38 2.83変えた撮影の特性理解

*③文字+写真 0.29 1 0.49 0 3.87情報の特性理解

標本数=7

表4 「関心・意欲・態度」や「知識・理解」の高まり(中島小4年)

有意平均値 標準偏差 t項目

水準前 後 前 後 値

***9項目の 4.31 5.66 2.09 2.38 8.06合計得点

***①デジカメ撮 0.42 0.65 0.50 0.48 4.78影への関心

***②アングルを 0.40 0.71 0.49 0.45 5.26変えた撮影の特性理解

***③文字+写真 0.45 0.63 0.50 0.49 3.90の特性理解

*④撮影者の意 0.50 0.61 0.50 0.49 2.19図への関心

*⑦アップで撮 0.48 0.59 0.50 0.49 2.22影した写真の特性理解

***⑧ルーズで撮 0.49 0.69 0.50 0.47 3.78影した写真の特性理解

***⑨撮影者の意 0.34 0.52 0.48 0.50 3.49図と特性の理解

標本数=137

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6.1.「開発の手順」による成果

○ 小学生で指導すべき情報・メディアの特性を

整理し,必要な内容を教材に位置付けて実践に

生かすことができたので,成果が上がった。

○ 既存の実践や教材を分析することによって,

教材には学年・発達段階を踏まえた学習内容を

盛り込むことができたので,成果が上がった。

6.2.「開発の留意点」による成果

○ 指導内容や指導時数がコンパクトで,また既

習経験に関係なく馴染みやすい記載内容の教材

になった。教師も児童も理解しやすい学習が展

開できたので,成果が上がった。

○ メディア・リテラシーを高める学習活動の要

件を盛り込んだ記載内容の教材だったので,無

理なく学習目標にせまることができる実践がで

き,成果が上がった。

7 結論と今後の課題

開発した「メディア・リテラシー教育のための

小学生向け教材」の活用実践では,児童の情報・

メディアに対する関心・意欲・態度やその特性に

対する知識・理解はおおむね有意に高まり,教材

開発の成果が示唆された。

開発の手順としては,指導すべき「情報・メデ

ィアの特性」を洗い出しながら学年・発達段階を

考慮した目標リストを作成し,それを網羅するよ

うに単元を設定した上で,教材を開発する方法が

有効だった。開発する上で留意した,①時数・内

容をどの学校でも実践可能なものにすること,②

情報の送り手と受け手の循環,情報の批判的な分

析,多様なものの見方・考え方を促す資料の投入

を学習活動に位置付けることの2点が,活用実践

の成果を支えたことも示唆された。

しかし一方では 「開発の留意点」に沿って教,

材を編集したために,記載内容や構成に次のよう

な課題も見られた。

○ 必要最小限の記載内容にとどめたため,学習

活動の例示を省略した箇所があった。そのため

教師も児童も,活動の見通しが持ちにくかった。

○ 授業時数を5単位時間以下に収めるため,体

験的な活動を通して知識・理解を促す展開にせ

ず,単に「読み物」として情報・メディアの特

性を記載した箇所があった。その部分の知識・

理解は高まらなかった。

今後は,こうした課題も踏まえながら,新たな

単元でも教材開発に取り組み,メディア・リテラ

シー教育の普及・定着に寄与していきたい。

<参考文献>

,1) 文部科学省:情報教育の実践と学校の情報化

2002.6

2) 高橋伸明:小学校におけるメディア・リテラシ

ー教育目標リスト作成のための研究,岡山県情

報教育センター研究紀要第5号,2005.2

3) 高橋伸明ほか:メディア・リテラシーを育てる

授業作りのための単元モデルに関する研究,日

本教育工学会第19回大会発表論文集,2003.10

4) 高橋伸明ほか:小学生のメディア・リテラシー

育成のための単元モデル,日本教育工学会第18

回大会発表論文集,2002.11

5) 高橋伸明ほか:子ども制作ビデオ作品を地元

CATVの番組で放映するプロジェクト学習の

研究,第29回全日本教育工学研究協議会研究発

表論文集,2003.11

6) 中村ひとみほか:メディア・リテラシー教育

の小学校高学年カリキュラム作成,第28回全日

本教育工学研究協議会研究発表論文集,2002.11

7) カナダ・オンタリオ州教育省編:メディア・

リテラシー,リベルタ出版,1992.11

8) NHKテレビラジオ「学校放送 :体験!メデ」

ィアのABC,日本放送出版協会,2002.4

9) 中橋雄:メディア・リテラシー育成に関する研

究,関西大学大学院博士学位論文,2004.3

<研究協力委員>

森本 敏行 岡山市立芳泉小学校ひばり分校教諭

田邉 徳子 倉敷市立中島小学校教諭

根岸 正治 倉敷市立中島小学校教諭

田中 始子 倉敷市立中島小学校教諭

萱嶋 淑美 倉敷市立中島小学校教諭

藤原 一志 倉敷市立琴浦北小学校教諭

淺野 浩二 笠岡市立中央小学校教諭

影山 知美 津山市立西小学校教諭

なお,岡山県情報教育センターでは,次の者が

本研究に当たった。

高橋 伸明 研修課指導主事