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    新しい収益認識会計基準の「本人と代理人の区分」に係る会計処理

    2020 年 1 月 28 日

    ひびき監査法人

    公認会計士 渡部 靖彦

    1.はじめに

    企業会計基準委員会は 2018 年 3 月 30 日に、企業会計基準第 29 号「収益認識に関する会計基

    準」(以下「本会計基準」という。)及び企業会計基準適用指針第 30 号「収益認識に関する会計基

    準の適用指針」(以下「本適用指針」という。)を公表した。本会計基準の開発の方針として、国内

    外の企業間における財務諸表の比較可能性の観点から IFRS 第 15 号「顧客との契約から生じる収

    益」(以下「IFRS 第 15 号」という。)の定めを基本的にすべて取り入れることとされている。

    新しい会計基準の中で財務諸表に対して最も大きな影響を与えた論点の一つが「本人と代理人

    の区分」判定と思われる。収益の総額主義と純額主義に関しては、企業会計原則において費用及

    び収益は原則として総額によって記載する旨が定められているが(企業会計原則第二 1B)、どの

    ような場合に純額表示すべきかについては、実務対応報告第 17 号「ソフトウェア取引の収益の会

    計処理に関する実務上の取扱い」において「一連の営業過程における仕入及び販売に関して通常

    負担すべきさまざまなリスク(瑕疵担保、在庫リスクや信用リスクなど)を負っていない場合に

    は、収益の総額表示は適切でない。」という考え方が示されているだけで、一般的な定めはなかっ

    た。

    従来の会計実務では、収益の表示方法について、契約上、取引当事者として判断される場合は

    総額で、代理人として判断される場合は報酬又は手数料の金額を純額表示されることが多いと思

    われるが、一部の企業や取引によって、代理人として行動している場合であっても収益を総額表

    示している場合があると思われる。新しい会計基準適用後は、企業が「代理人」に判定されると、

    これまで総額で収益を計上していたものが純額の計上となってしまうため、このような取引慣行

    がある広範な業種・業界に影響を与える可能性がある。特に、卸売業における取引、小売業にお

    ける取引、いわゆる消化仕入取引、電子商取引サイト運営に係る取引、商社等にとって、損益計

    算書のトップラインへの影響が大きいので、自社のビジネスがどちらに該当するか慎重に検討す

    る必要がある。

    そこで、「本人と代理人の区分」に関する論点について、特に留意すべきポイントを紹介する。

    2. 新しい収益認識会計基準における「本人と代理人の区分」の概要

    (1) はじめに

    新しい会計基準では、「約束した財又はサービスの顧客への移転を当該財又はサービスと交換に

    企業が権利を得ると見込む対価の額で描写するように、収益を認識すること」とされている。財

    又はサービスが顧客に移転するとき、その対価を正しく描写し、企業の実態をより適切に表現す

    ることにより、財務諸表の利用者が企業についてより適切に理解できるようになる。

    他の当事者が顧客への財又はサービスの提供に関与している場合には、企業は、収益の金額を

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    決定するために、顧客への財又はサービスの提供における企業の役割(本人か代理人か)を判断

    することが求められている。企業が自ら財又はサービスを提供する取引(企業が本人)ならば、

    収益を総額で認識する。一方、企業が財又はサービスを他の当事者によって提供されるように手

    配する取引(企業が代理人)ならば、純額で収益を認識することになる。

    一般的に収益額(売上高)は企業の規模を示すものとして受け取られる傾向が強く、投資家が

    意思決定に利用する財務指標の中には、収益額を用いたものが多くある。収益額により取引規模

    や成長率を図る場合、純額表示は総額表示より小さく見えてしまうため、比較すると不利かもし

    れない。その一方で、売上高総利益率については、総額表示より純額表示の方が高い値になる。

    売上高総利益率は企業の収益力を図る指標として用いられることが多く、その観点にたてば、総

    額表示は純額表示より不利かもしれない。

    このように、総額表示と純額表示によって損益計算書の見え方が異なるため、最終的な利益が

    同額だからといって、必ずしも同じには扱えない。そして、実務上、純額表示すべきかどうかは、

    企業の合理的な判断に委ねられており、実務上、以下のような表示方法も見受けられる。

    ・代理人となっている取引についても、取引当事者のために回収した金額で収益が表示されて

    いる例がある。

    ・複数の企業が契約当事者となり、特定の事業を連合して遂行するコンソーシアム取引のよう

    な場合についても、自社の受取相当額だけでなく、他者の受取相当額を含む総額で収益が表

    示されている例がある。

    ・ガソリン税や酒税等の納税義務を有する企業では、税相当額を含む金額で売上高及び売上原

    価が表示されている例が多い。

    ・消費税等の会計処理についても、税込処理が容認されている。

    このように、我が国において取引の総額を収益として表示している事例の中には、新しい会計

    基準に照らして考察した場合、純額表示が求められる場合が少なくないと考える。

    新しい会計基準では、これまでの収益認識に対して大きく変わる点として、収益認識に係る(会

    計)単位として、履行義務という概念を導入している。企業は契約の中で顧客に財又はサービス

    の提供を約束している。履行義務とは、その契約において「別個の財又はサービス」又は「一連

    の別個の財又はサービス」のいずれかを顧客に移転する約束をいうとされている(本会計基準第

    7 項)。履行義務の捉え方によっては、履行義務の単位が契約の単位と一致することもあれば異な

    ることもある。顧客との契約に複数のサービスが含まれている場合には、これらを単一のものと

    して会計処理すべきなのか、または複数に分けて会計処理すべきなのかという観点から会計処理

    の単位となる履行義務を識別することが必要になる。すなわち、履行義務とは一つひとつの区分

    できる約束、つまり財又はサービスの引渡し義務のことをいい、収益基準の適用対象となった契

    約内容の中で、収益や原価を計上する単位がいくつ含まれているかを識別することが求められる。

    これらの検討の結果は、収益認識の金額と収益認識するタイミングの判断に影響を与える。

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    (2) 判定を行う単位

    本人と代理人の区分判定では、企業の顧客との約束の性質が、財又はサービスを企業が自ら提

    供する履行義務であるのか、財又はサービスが他の当事者によって提供されるように企業が手配

    する履行義務であるのかを以下の手順に従って判定する(本適用指針第 42 項)。

    ① 顧客に提供する財又はサービスを識別すること。(例えば、顧客に提供する財又はサービス

    は、他の当事者が提供する財又はサービスに対する権利である可能性がある。)<判定を行う

    単位>

    ② 財又はサービスのそれぞれが顧客に提供される前に、当該財又はサービスを企業が支配して

    いるかどうか(本会計基準第 37 項)を判断すること。<支配の概念と本人と代理人>

    まずは、本人と代理人との区分判定をする前に、企業の履行義務の対象となる顧客に対して提

    供する約束した別個の財又はサービスである「特定の財又はサービス」を識別することが必要で

    ある(本適用指針第 41 項)。

    (3) 企業が行う取引の本人と代理人の区分の基本的な考え方~支配概念について

    これは、収益認識に関するいわゆる 5 ステップのうち、「ステップ 2:契約における履行義務を

    識別する」に関連する。そのうえで、顧客に約束した特定の財又はサービスのそれぞれについて

    顧客に対して「本人」として提供されるのか、「代理人」として提供されるのかを見極めていくこ

    とになる(本適用指針第 41 項)。

    企業が、本人と代理人のいずれに該当するかを見極める基本的な考え方は、特定の財又はサー

    ビスのそれぞれが顧客に移転される前に、企業がその財又はサービスを支配しているかどうか(本

    適用指針第 42 項)に依存する。すなわち、財又はサービスが顧客に提供される前に、企業がその

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    財又はサービスを支配しているのであれば、企業は、「本人」に該当し、支配していないのであれ

    ば「代理人」に該当するということになる(本適用指針第 43 項)。

    この場合の資産に対する支配について、本会計基準では、次のとおり定義されている(本会計

    基準第 37 項)。

    資産に対する支配とは、当該資産の使用を指図し、当該資産からの残りの便益のほとんどすべ

    てを享受する能力(他の企業が資産の使用を指図して資産から便益を享受することを妨げる能

    力を含む。)をいう。

    これを受けて、次のいずれかを企業が支配しているときには、企業は本人に該当するとされて

    いる(本適用指針第 44 項)。

    ① 企業が他の当事者から受領し、その後に顧客に移転する財又は他の資産

    ② 他の当事者が履行するサービスに対する権利

    他の当事者が履行するサービスに対する権利を企業が獲得することにより、企業が当該他

    の当事者に顧客にサービスを提供するよう指図する能力を有する場合には、企業は当該権利

    を支配している。

    ③ 他の当事者から受領した財又はサービスで、企業が顧客に財又はサービスを提供する際に、

    他の財又はサービスと統合させるもの

    例えば、他の当事者から受領した財又はサービスを、顧客に提供する財又はサービスに統

    合する重要なサービスを企業が提供する場合には、企業は、他の当事者から受領した財又は

    サービスを顧客に提供する前に支配している。

    ただし、①に関連して、仮に約束した財を顧客に移転させる前に一旦企業が当該財の法的所有

    権を得ていた場合であっても、その法的所有権が瞬時に顧客に移転される場合には、企業が実質

    的には法的所有権を得ていたとは言い難い状況であるため、必ずしもここでの「支配している」

    という考え方には該当しない(本適用指針第 45 項)。すなわち、財又はサービスを手配する百貨

    店やスーパー等の、いわゆる消化仕入の取引(テナントと商品の売買契約を結び、テナントが顧

    客へその商品を販売すると同時にその商品仕入を計上する取引)は、原則として、代理人として

    の取引と認識すべきものと考える。

    (4) 「支配」の判断にあたっての 3 つの指標

    企業が本人に該当することの評価に際しては、顧客に提供する特定の財又はサービスが識別さ

    れたのちに、当該財又はサービスのそれぞれについて、顧客に提供される前に当該企業が「支配」

    しているかどうかを判定することになる。しかし、「支配」しているという状態がどういう状態で

    あるかについては、複雑な取引である場合など、判定が難しくなることがある。そこで、本適用

    指針では、本人に該当することの評価において、企業が財又はサービスを顧客に提供する前に「支

    配しているか否か」を判定するにあたって考慮する指標について以下の 3 つを示している(本適

    用指針第 47 項)。

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    契約によっては、説得力のある根拠を提供する指標が異なる可能性があるため、「支配」の判定

    の際には、特定の財又はサービスの性質や契約条件を十分に考慮し、その「支配」の判定とより

    関連性のある指標を重視する必要がある(本適用指針第 136 項)。たとえば、企業が代理人に該当

    する場合でも、他の当事者による財又はサービスの提供を手配するサービスから追加的な収益を

    生み出すために、一定の価格裁量権を有する場合もある(本適用指針第 47 項(3))。

    適用指針に示された 3 つの指標は、あくまでも例示であり、また、企業による「支配」の評価

    を手助けするものであり、「支配」の評価に優先するものではない。そのため、企業は特定の財又

    はサービスの性質及び契約条件を基礎として、それぞれの指標、その他考慮すべき事象及び状況

    がないかどうかを検討した上で、総合的に判断する必要がある。当該指標による評価は、「支配」

    の評価、すなわち、当該資産の使用を指図し、当該資産からの残りの便益のほとんどすべてを享

    受する能力(本会計基準第 37 項)の評価を覆すものではなく、当該評価とは別に単独で行われる

    ものでもない(本適用指針第 136 項)ことにも留意する必要がある。

    また、「支配」しているか否かを判定する考え方において信用リスク、すなわち、顧客からの代

    金の回収に関するリスクを誰がどの程度負っているのかという視点が検討される場合もあるかも

    しれない。しかし、今回の適用指針では、信用リスクを「支配しているか否か」の指標に入れて

    いない(本適用指針第 136 項)。代金の回収リスク視点を重視しすぎると、すべからく代理人と判

    定されなくなるからである。つまり、代理人であるという判定を覆すために利用される可能性が

    あり、企業の「支配」の判定においては有用な指標とならない可能性があるため、当該指標に含

    まれない点に留意する必要がある(本適用指針第 136 項)。

    なお、この指標で履行義務ではなく、顧客に移転される特定の財又はサービスに焦点を当てて

    いる理由は、「履行義務」という用語の使用が、企業が代理人である場合には混乱を招くものであ

    るからである。代理人の履行義務は、他の当事者が財又はサービスを顧客に提供するよう手配す

    ることであり、特定の財又はサービスを最終顧客に自ら提供することは約束していない。したが

    って、最終顧客に提供される特定の財又はサービスは代理人の履行義務ではないことに留意が必

    要である。

    (5) 法人税法上と消費税法上の取扱い

    法人税法上は本人か代理人かの区分については、特に法令又は通達で規定されていない。法人

    税法が利益に対して課せられる税金であるため、総額表示か純額表示かによって課税所得の計算

    に影響がないことから本人取引であるか、代理人取引であるかの取扱いは定めていない。また、

    販売するのが本人であっても代理人であっても、履行義務の充足時期に変更がないため、法人税

    法上は対応する必要がないと考えられるからである。よって、法人税法上も会計上の会計処理が

    ① 企業が当該財又はサービスを提供するという約束の履行に対して主たる責任を有している

    こと。これには、通常、財又はサービスの受入可能性に対する責任が含まれる。

    ② 当該財又はサービスが顧客に提供される前、あるいは当該財又はサービスに対する支配が

    顧客に移転した後において、企業が在庫リスクを有していること。

    ③ 当該財又はサービスの価格の設定において企業が裁量権を有していること。

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    そのまま容認されている。一方、消費税法上は、消化仕入取引において、代理人取引と判断され

    る場合であっても、基本的に課税売上と課税仕入をそれぞれ認識することになる点に留意が必要

    である(4.我が国に特有の会計処理参照)。

    3. 収益認識に関する会計基準の適用指針の設例

    (1) 企業が行う取引の本人と代理人の区分の設例

    支配の原則及びその評価を支援する 3 つの指標を適用する困難性に関する意見が寄せられてい

    たことから、本適用指針には、IFRS 第 15 号の設例を基礎として企業が代理人であると判定され

    る【設例 17】、企業が本人であると判定される【設例 18】及び【設例 19】、最後に、企業が本人

    であり代理人であると判定される【設例 20】が設けられている。また、【設例 28】では、我が国

    に特有な取引等についての設例-小売業における消化仕入等の例示が示され、我が国における同

    一業種内の会計処理の多様性を軽減する観点から、消化仕入に係る取引において代理人に該当す

    ると判断して処理するとされた例示が示されている。

    (2) 国際会計基準審議会(IASB)第 18 号と国際財務報告基準(IFRS)第 15 号の考え方の

    変遷

    2014 年 5 月 28 日に IFRS 第 15 号「顧客との契約から生じる収益」が公表された。これは、

    1993 年の IAS 第 18 号以来、およそ 21 年ぶりの大幅改正であった。その後、2016 年 4 月 12 日

    に「IFRS 第 15 号の明確化」が公表された。

    従来の IAS 第 18 号では、収益は、企業が自己の計算により受領し、又は受領し得る経済的便

    益の総流入だけを含むとされている。したがって、付加価値税(消費税等)や代理の関係にある

    場合の第三者のために回収した金額は、企業の持分の増加をもたらさないため、これらの金額は

    収益から除外される(代理の関係にある場合、手数料の額が収益となる。(IAS 第 18 号 8 項))。

    このほか、企業が本人として行動しているのか(総額表示)、それとも代理人として行動してい

    るのか(純額表示)を判断するガイダンスが「IFRSs の改善―12 の IFRSs の改訂集」(IASB 2009

    年 4 月 16 日公表)により IAS 第 18 号の付録に追加された。これによれば、基本的には、企業が

    財貨の販売又は役務の提供に関する重要リスクと経済価値にさらされている場合には、本人とし

    て行為を行っているものと整理している。そして、企業が本人として行動していることを示す特

    徴には、以下のものが含まれる。

    ・顧客に対する物品の引き渡し又は役務の提供や注文の履行について、第一議的な責任がある。

    例えば顧客の注文・購入した物品やサービスの適合性について責任を負う。

    ・顧客による注文の以前あるいはそれ以降、輸送又は返品される間において、在庫リスクを負

    う。

    ・価格を決定する直接的又は間接的な自由裁量がある。例えば追加的な物品やサービスを提供

    することができる。

    ・顧客に対する売掛金について、信用リスクを負う。

    一方、IFRS 第 15 号では、収益認識に履行義務という新しい概念を入れ、また、顧客視点の考

    え方から「支配」の観点が導入され「顧客が資産に対する支配を獲得した時」に収益を認識する。

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    企業は、自らの約束の性質が、特定された財又はサービスを自ら提供する履行義務(すなわち、

    企業が本人)であるのか、または他の当事者がそれらの財又はサービスを提供するように手配す

    る履行義務(すなわち、企業が代理人)であるのかを判断しなければならない。企業は、自らが

    本人であるのか代理人であるのかを、顧客に約束した特定された財又はサービスのそれぞれにつ

    いて判断する。実際の商取引には無限の取引形態があり、取引ごとの判断が必要となることから、

    IFRS 第 15 号 B35 項で示された指標等の考慮事項は、あくまでも例示列挙とされ、企業による

    「支配の評価」の観点から総合的な判断が求められるという原則主義の IFRS の立場が色濃く出

    ているところである。

    (3) 企業が行う取引の本人と代理人の区分

    【設例 17】企業が代理人に該当する場合

    ① 前提条件

    ・A 社はウェブサイトを運営しており、顧客は当該ウェブサイトを通じて、多くの供給者から製

    品を直接購入することができる。A 社は、B 社(供給者)との契約条件に基づき、B 社の製品

    X が当該ウェブサイトを通じて販売される場合には、製品 X の販売価格の 10%に相当する手

    数料を得る。製品 X の販売価格は B 社によって設定されており、当該ウェブサイトにより、

    B 社と顧客との間の決済が容易となる。A 社は、注文が処理される前に顧客に支払を求めてお

    り、すべての注文について返金は不要である。A 社は、顧客に製品 X が提供されるように手配

    した後は、顧客に対してそれ以上の義務を負わない。

    ② 履行義務の識別

    <顧客に提供すべき財又はサービスの識別>

    A 社の履行義務が製品Xを自ら提供すること(すなわち、A 社は本人に該当する。)なのか又は

    供給者 B 社によって製品Xが提供されるように手配すること(すなわち、A 社は代理人に該当す

    る。)なのか(本適用指針第 39 項及び第 40 項参照)を判断するために、A 社は、顧客に提供する

    特定の財又はサービスを識別し、当該財又はサービスが顧客に移転される前に自らが当該財又は

    サービスを支配しているかどうかを判定する(本適用指針第 42 項及び第 43 項参照)。

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    ③ 本人か代理人かの判定

    <企業による財又はサービスの支配の有無>

    ・A 社が運営するウェブサイトは、供給者 B 社が製品を提供し、供給者 B 社によって提供され

    た製品を顧客が購入する市場である。したがって、A 社は、ウェブサイトを使用する顧客に提

    供する特定の財は、供給者 B 社が提供する製品 X であり、他の財又はサービスの提供を顧客

    に約束していないことに着目した。

    ・A 社は、どの時点においても顧客に提供される製品 X の使用を指図する能力を有していない

    ため、当該ウェブサイトを通じて注文する顧客に製品 X が提供される前に製品 X を支配して

    いないと結論付けた。

    ・A 社は、製品 X が顧客に提供される前にそれを支配していないと結論付ける際に、次の指標

    も考慮した(本適用指針第 47 項参照)。

    ⅰ)供給者 B 社は、顧客に製品 X を提供するという約束の履行に対して主たる責任を有し

    ている。一方、A 社は、供給者 B 社が製品 X を顧客に提供できない場合に製品 X を提

    供する義務はなく、製品 X を提供するという約束の履行に対する責任も負わない。

    ⅱ)A 社は、製品 X が顧客に提供される前後のどの時点においても在庫リスクを有してい

    ない。A 社は、製品 X を顧客が購入する前に製品 X を B 社から取得する約束をしてお

    らず、製品 X の損傷又は返品に対する責任も負っていない。

    ⅲ)製品 X の価格の設定において A 社には裁量権がない。販売価格は、供給者 B 社によっ

    て設定される。

    したがって、A 社は、上記を踏まえ、自らは当該取引における代理人であり、自らの履行義務

    は供給者 B 社によって製品 X が提供されるように手配することであると結論付けた。供給者 B

    社が顧客に提供すべき製品 X を手配するという約束を A 社が充足する時に(顧客が財を購入し

    た時)、A 社は自らが権利を得る手数料の金額で収益を認識する。

    ④【設例 17】の会計処理

    A 社は代理人であるため、製品 X を手配したことにより受け取った手数料の金額で収益を

    認識する。顧客がウェブサイトを通じて 1,000 千円の製品 X を購入した日における仕訳は、

    次のとおりである。

    (単位:千円)

    (借)売掛金 100 (貸)手数料収入(*1) 100

    (*1)B 社により製品 X が顧客に提供されるよう手配するという約束を A 社が充足する時

    に、A 社は自らが権利を得る手数料の金額 100 千円(=1,000 千円×10%)を収益と

    して認識する(本適用指針第 40 項参照)。

    【設例 18】企業が本人に該当する場合(オフィス・メンテナンス・サービスの提供)

    ① 前提条件

    ・A 社は、B 社(顧客)に対してオフィス・メンテナンス・サービスを提供する契約を締結した。

    A 社と顧客 B 社は、サービスの範囲について合意し、価格を交渉する。A 社は、契約条件に従

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    ったサービスの提供を確保することに責任を負い、合意した価格に基づき毎月 10 日の支払条

    件で顧客に請求する。

    ・A 社は、オフィス・メンテナンス・サービスを顧客に提供するために、外部業者を定期的に利

    用している。A 社が顧客 B 社との契約を獲得する際に、外部業者 C 社と契約を締結する。顧

    客 B 社に対するオフィス・メンテナンス・サービスは、A 社の指図により外部業者 C 社が提

    供する。A 社と外部業者 C 社との契約における支払条件は、通常、A 社と顧客 B 社との契約

    における支払条件と整合している。しかし、A 社は、仮に顧客 B 社が A 社に支払を行うこと

    ができない場合であっても、外部業者 C 社に対する支払義務がある。

    ② 履行義務の識別

    <顧客に提供すべき財又はサービスの識別>

    ・A 社は、自らが本人に該当するのか又は代理人に該当するのか(本適用指針第 39 項及び第 40

    項参照)を判断するために、顧客 B 社に提供する特定の財又はサービスを識別して、当該財又

    はサービスが顧客 B 社に提供される前に自らが当該財又はサービスを支配しているのかどう

    かを判定する(本適用指針第 42 項及び第 43 項)。

    ③ 本人か代理人かの判定

    <企業による財又はサービスの支配の有無>

    ・A 社は、顧客 B 社に提供する特定の財又はサービスは、顧客 B 社と契約したオフィス・メン

    テナンス・サービスであり、他の財又はサービスの提供を顧客 B 社に約束していないことに

    着目した。A 社は、顧客 B 社との契約締結後に、外部業者 C 社からオフィス・メンテナンス・

    サービスに対する権利を獲得するが、当該権利は顧客 B 社には移転されない。すなわち、A 社

    は、当該権利の使用を指図する能力及び当該権利からの残りの便益のほとんどすべてを享受す

    る能力を有する(本適用指針第 44 項(2)参照)。例えば、A 社は、外部業者 C 社に対し、オ

    フィス・メンテナンス・サービスの提供先を指図できる。顧客 B 社は、A 社と同意していない

    サービスの履行を外部業者 C 社に指図する能力を有していない。したがって、A 社が外部業

    者 C 社から獲得するオフィス・メンテナンス・サービスに対する権利は、顧客 B 社との契約

    における特定の財又はサービスではない。

    ・A 社は、当該サービスが顧客 B 社に提供される前に自らそれを支配していると結論付けた。A

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    社が、オフィス・メンテナンス・サービスの権利に対する支配を獲得するのは、顧客 B 社との

    契約締結後ではあるが、当該サービスが顧客 B 社に提供される前である。A 社と外部業者 C

    社との契約条件により、A 社は、当該サービスを A 社に代わって外部業者 C 社が提供するよ

    うに指図する能力を有している。

    ・さらに、A 社は、当該サービスが顧客 B 社に提供される前にそれを支配していると結論付け

    る際に、次の指標も考慮した(本適用指針第 47 項参照)。

    ⅰ)A 社はオフィス・メンテナンス・サービスを提供する約束の履行に主たる責任を有し

    ている。A 社は、顧客 B 社に約束したサービスを提供するために外部業者 C 社を利用

    するが、外部業者 C 社が顧客 B 社のために履行したサービスに対する責任を負うのは

    A 社である(すなわち、A 社がサービスを自ら提供するのか、サービスを提供するた

    めに外部業者を利用するのかにかかわらず、A 社は契約における約束の履行に責任を

    負う。)。

    ⅱ)A 社は顧客 B 社へのサービスの価格の設定に裁量権を有している。

    ・A 社は、顧客 B 社との契約締結前に外部業者 C 社からサービスを獲得することを約束してい

    ないため、当該サービスについての在庫リスクが軽減されているが、上記ⅰ)ⅱ)の状況に基

    づき、当該サービスが顧客 B 社に提供される前にそれを支配していると結論付けた。

    したがって、上記を踏まえ、A 社は、この取引における本人であり、A 社がオフィス・メン

    テナンス・サービスと交換に顧客 B 社から権利を得ている金額で収益を認識する。

    ④ 【設例 18】の会計処理

    A 社が顧客 B 社と合意した価格が 150 千円、外部業者 C 社と合意した価格が 120 千円であ

    る場合に、オフィス・メンテナンス・サービスが履行された日における仕訳は、次のとおり

    である。

    (1) 収益の計上

    (単位:千円)

    (借)売掛金 150 (貸)営業収益(*1) 150

    (*1)A 社は、B 社に提供するオフィス・メンテナンス・サービスと交換に B 社から権利を

    得る対価の総額 150 千円を収益として認識する(本適用指針第 39 項参照)。

    (2) 費用の計上

    (単位:千円)

    (借)営業費用 120 (貸)買掛金 120

    【設例 19】企業が本人に該当する場合(航空券の販売)

    ① 前提条件

    ・A 社は、主要な航空会社と交渉し、一般の顧客に直接販売される航空券の価格より安く航空券

    を購入している。A 社は、航空会社から一定数の航空券を購入することに同意しており、それ

    らを再販売できるかどうかにかかわらず、航空会社に航空券の代金を支払うこととされている。

    A 社がそれぞれの航空券に対して支払う価格は、航空会社との事前の交渉により合意されてい

    る。

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    ・A 社は、自らの顧客に航空券を販売する価格を決定し、航空券の販売時に顧客から対価を回収

    する。

    ・また、A 社は、航空会社の提供するサービスへの顧客の不満を解決するサポートを行っている。

    しかし、顧客に提供したサービスへの不満に対する改善策の提示を含め、航空券に関する義務

    の履行に対する責任は各航空会社にある。

    ② 履行義務の識別

    <顧客に提供すべき財又はサービスの識別>

    ・A 社の履行義務が特定の財又はサービスを自ら提供すること(すなわち、A 社は本人に該当す

    る。)なのか、あるいは当該財又はサービスが他の当事者によって提供されるように手配する

    こと(すなわち、A 社は代理人に該当する。)なのか(本適用指針第 39 項及び第 40 項参照)

    を判断するために、A 社は、顧客に提供する特定の財又はサービスを識別し、当該財又はサー

    ビスが顧客に提供される前に自らが当該財又はサービスを支配しているのかどうかを判定す

    る(本適用指針第 42 項及び第 43 項参照)。

    ③ 本人か代理人かの判定

    <企業による財又はサービスの支配の有無>

    ・A 社は、航空会社から購入することを約束している航空券という形式で特定のフライトに搭乗

    する権利に対する支配を獲得し、その後に、その権利に対する支配を顧客に移転すると結論付

    けた(本適用指針第 44 項(1)参照)。A 社は、顧客に提供する特定の財又はサービスは、A

    社が支配している特定のフライトの座席に対する権利であると判断した。なお、A 社は、他の

    財又はサービスの提供を顧客に約束していないことに着目した。

    ・A 社は、顧客との契約を履行するために航空券を使用すべきかどうか及び航空券を使用する場

    合にはどの契約を履行するのかを決定することにより、フライトに対する権利の使用を指図す

    る能力を有しているため、それぞれのフライトに対する権利を顧客に移転する前に当該権利を

    支配していると判断した。A 社は、航空券を転売して当該売却による収入のすべてを獲得する

    か、あるいは航空券を自ら使用することによって、当該権利からの残りの便益を享受する能力

    も有していると判断した。

    ・さらに、A 社は、フライトに対する権利(航空券)が顧客に移転される前に当該権利を支配し

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    ていると結論付ける際に、次の指標も考慮した(本適用指針第 47 項参照)。

    ⅰ)A 社は、航空券を販売するという顧客との契約を獲得する前に、航空会社から航空券を

    購入することを約束しており、A 社が航空券を転売するための顧客を獲得できるかどう

    か及び当該航空券について有利な価格で購入できるかどうかにかかわらず、フライトに

    対する権利について航空会社に対する支払義務があるため、航空券について在庫リスク

    を有している。

    ⅱ)A 社は、航空券に対して顧客が支払う価格を設定する。

    したがって、上記を踏まえ、A 社は、自らは当該取引における本人に該当すると結論付けた。

    A 社は、顧客に移転する航空券と交換に顧客から権利を得る対価の総額で収益を認識する。

    ④【設例 19】の会計処理

    A 社が航空会社から 100 千円で購入した航空券を、120 千円で顧客に現金で販売した日におけ

    る仕訳は、次のとおりである。

    (1) 収益の計上

    (単位:千円)

    (借)現金預金 120 (貸)営業収益(*1) 120

    (*1)A 社は、顧客に移転する航空券と交換に顧客から権利を得る対価の総額 120 千円を

    収益として認識する(本適用指針第 39 項参照)。

    (2)費用の計上

    (単位:千円)

    (借)営業費用 100 (貸)棚卸資産 100

    【設例 20】同一の契約において企業が本人と代理人の両方に該当する場合

    ① 前提条件

    ・A 社は、顧客 B 社と、顧客 B 社における役職の候補となる求職者の効率的な人選を支援する

    求人サービスを提供する契約を締結した。A 社は、求職者との面談などの複数のサービスを提

    供する。

    ・顧客 B 社は、この契約の一環として、求職者に関する情報について、外部業者 C 社のデータ

    ベースにアクセスする権利を提供するライセンスを獲得する。A 社は、顧客 B 社による当該

    ライセンスの獲得について外部業者 C 社に手配するが、ライセンス契約は顧客 B 社と外部業

    者 C 社との間で締結される。A 社は、外部業者 C 社に代わって、顧客 B 社から外部業者 C 社

    への支払を顧客 B 社への請求の一部として回収する。

    ・C 社は当該ライセンスについて顧客 B 社に対する価格を設定する。また、外部業者 C 社は、

    顧客 B 社にテクニカル・サポートを提供するとともに、データベースへのアクセス障害又は

    他の技術的問題により発生する顧客 B 社への値引きに対する責任を負う。

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    ② 履行義務の識別

    <顧客に提供すべき財又はサービスの識別>

    ・A 社は、自らが本人に該当するのか又は代理人に該当するのか(本適用指針第 39 項及び第 40

    項参照)を判断するために、顧客 B 社に提供する特定の財又はサービスを識別し、当該財又は

    サービスが顧客 B 社に提供される前に自らが当該財又はサービスを支配しているのかどうか

    を判定する(本適用指針第 42 項及び第 43 項参照)。

    ③ 本人か代理人かの判定

    <企業による財又はサービスの支配の有無>

    ・A 社は、求人サービスとデータベースにアクセスする権利を提供するサービスは、本会計基準

    第 34 項及び本適用指針第 5 項から第 7 項に従って、それぞれ別個のものであると結論付け

    た。したがって、顧客 B 社に提供すべき 2 つの特定の財又はサービス(すなわち、外部業者 C

    社のデータベースにアクセスする権利を提供するサービスと A 社が自ら提供する求人サービ

    ス)が存在している(本適用指針第 41 項参照)。

    ・顧客 B 社はライセンスについて外部業者 C 社と直接契約しており、A 社はどの時点において

    もライセンスの使用を指図する能力を有していないため、A 社は、外部業者 C 社のデータベ

    ースにアクセスする権利が顧客 B 社に提供される前に当該権利を支配していないと結論付け

    た(本適用指針第 44 項(2)参照)。

    ・さらに、A 社は、外部業者 C 社のデータベースにアクセスする権利を当該権利が顧客 B 社に

    提供される前に支配していないと結論付ける際に次の指標も考慮した。

    ⅰ)A 社は、外部業者 C 社のデータベースにアクセスする権利を提供する約束の履行に対し

    て責任を負っていない。顧客 B 社はライセンスについて外部業者 C 社と直接契約してお

    り、外部業者 C 社は、例えばテクニカル・サポート又はサービスに対する値引きを顧客

    B 社に提供することによって、データベースにアクセスする権利を提供するという約束

    の履行に対して責任を負う。

    ⅱ)顧客 B 社が外部業者 C 社のデータベースにアクセスする権利について外部業者 C 社と直

    接契約する前に、外部業者 C 社のデータベースにアクセスする権利を購入しておらず、

    また購入する約束もしていないため、A 社は在庫リスクを有していない。

    ⅲ)データベースへのアクセスに関する顧客 B 社との価格設定は外部業者 C 社がおこなうた

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    め、A 社は価格設定において裁量権を有していない。

    したがって、A 社は、上記を踏まえ、外部業者 C 社のデータベースにアクセスする権利を提

    供するサービスに関しては、自らは代理人に該当すると結論付けた。

    ・A 社は、求人サービスに関しては、当該サービスを自ら提供し、他の当事者は当該サービスの

    顧客 B 社への提供に関与しないため、自らは本人に該当すると結論付けた。

    ④ 【設例 20】の会計処理

    求人サービスの対価及びデータベースにアクセスする権利の手配に対する手数料が 150 千円、

    データベースにアクセスする権利を提供するライセンスの対価が 50 千円である場合に、当該サ

    ービス及びライセンスが提供された期間における仕訳は、次のとおりである。

    (単位:千円)

    (借)売掛金 200 (貸)営業収益 150

    未払金(*1) 50

    (*1)①前提条件より、A 社は、外部業者 C 社のデータベースにアクセスする権利に対す

    る顧客 B 社のライセンスの支払については、外部業者 C 社に代わって、顧客 B 社へ

    の請求の一部として回収する。

    4.我が国に特有の会計処理

    本人または代理人の区分の論点に関連する我が国に特有な取引として、小売業における消化仕

    入取引の設例として【設例 28】が設けられている。当該取引においても支配の観点から、企業が

    本人なのか又は代理人なのかを判定し、履行義務を識別する必要があるので参照されたい。

    ここでは、消化仕入に係る会計処理と法人税法上及び消費税法上の取扱いを紹介する。

    設例:小売業における消化仕入等-法人税法上および消費税法上の処理

    前提条件

    小売業(百貨店等)である A 社は、仕入先 B 社と消化仕入契約を締結している。A 社は、顧客

    に商品 1,000 千円(仕入値 900 千円)を販売した。百貨店 A 社は、自らを消化仕入に係る取引に

    おける代理人に該当すると判断している。

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    (単位:千円)

    本会計基準上の会計処理 (借)売掛金 1,100 (貸)手数料収入 100

    仮払消費税 90 買掛金 990

    仮受消費税 100

    法人税法上の取扱い 上記同様となる。

    (借)売掛金 1,100 (貸)手数料収入 100

    仮払消費税 90 買掛金 990

    仮受消費税 100

    消費税法上の処理

    たとえ、会計上手数料部分のみを純額で計上したとしても消

    費税法上は、課税売上に係る消費税額と課税仕入に係る消費

    税額をそれぞれ認識することになると考えられる。

    課税売上の対価額 1,000 課税売上に係る消費税額 100

    課税仕入の対価額 900 課税仕入に係る消費税額 90

    総額表示の場合と比べて納税額は変わらないと考えられる

    が、課税売上割合に影響するので、実務上注意が必要であ

    る。

    5.IFRS-連結財務諸表注記の開示例(参考)

    商社に係る IAS 第 18 号から IFRS 第 15 号への変更による金額的影響について検討するため卸

    売業に属している商社を抽出した。IFRS 第 15 号は、2018 年 1 月 1 日以後開始する事業年度よ

    り適用されていることから、2019 年 3 月期の第 1 四半期報告書の開示事例について紹介する。

    IFRS 第 15 号開示例 ― 株式会社三菱商事(2019 年 3 月期の第 1 四半期報告書(2018 年 6 月))

    IAS 第 18 号から IFRS 第 15 号への変更により収益及び原価はそれぞれ 2.0 兆円増加

    2. 作成の基礎

    当社の要約四半期連結財務諸表は IAS 第 34 号に準拠して作成しており、年次連結財務諸表で要求されている全

    ての情報が含まれていないため、前連結会計年度の連結財務諸表と併せて利用されるべきものです。

    3. 重要な会計方針

    当要約四半期連結財務諸表において適用する重要な会計方針は、以下を除き、前連結会計年度の連結財務諸表

    において適用した会計方針と同一です。

    新たに適用する主な基準書及び解釈指針 基準書及び解釈指針 概要

    IFRS 第 15 号「顧客との契約から生じる収益」 収益の認識に関する会計処理及び開示を改訂

    IFRS 第 9 号「金融商品」(平成 26年 7 月改訂) 分類と測定の一部改訂及び減損に予想信用損失モデ

    ルを導入

    (1)IFRS 第 15 号「顧客との契約から生じる収益」

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    連結会社は、当第 1 四半期連結会計期間より IFRS 第 15 号を適用しており、経過措置として認められている方

    法のうち、適用による累積的影響を当連結会計年度期首の利益剰余金等の残高の修正として認識する方法を採

    用していますが、当該影響額に重要性はありません。

    ① 収益認識の方法(5 ステップアプローチ)

    連結会社は、IFRS 第 15 号の適用に伴い、以下の 5 ステップアプローチに基づき、収益を認識しています。

    ステップ 1:顧客との契約を識別する

    ステップ 2:契約における履行義務を識別する

    ステップ 3:取引価格を算定する

    ステップ 4:取引価格を契約における履行義務に配分する

    ステップ 5:企業が履行義務の充足時に収益を認識する

    連結会社は、顧客との契約に含まれる別個の財またはサービスを識別し、これを取引単位として履行義務を識

    別しています。

    履行義務の識別にあたっては、本人か代理人かの検討を行っており、自らの約束の性質が、特定された財又は

    サービスを自ら提供する履行義務である場合には、本人として収益を対価の総額で連結損益計算書に表示して

    おり、それらの財又はサービスが他の当事者によって提供されるように手配する履行義務である場合には、代

    理人として収益を手数料又は報酬の額若しくは対価の純額で連結損益計算書に表示しています。

    ② 主な取引における収益の認識

    製品及び商品の販売

    連結会社は、金属、機械、化学品、一般消費財など、多岐にわたる製品及び商品を取り扱っていますが、製品

    及び商品の販売については、受渡条件が満たされた時点において顧客が当該製品や商品に対する支配を獲得し、

    履行義務が充足されると判断し、受渡時点で収益を認識しています。

    役務提供その他のサービス提供

    連結会社は、サービス関連事業及びその他の事業も行っています。サービス関連事業にはフランチャイズ契約

    に基づく役務の提供に加え、物流、情報通信、技術支援やその他のサービスなど、様々なサービスの提供が含

    まれています。サービス関連事業に係る収益は、契約から識別されたサービスについての履行義務が充足され

    た時点で認識しており、一定の期間にわたり履行義務を充足する取引については、履行義務の進捗に応じて収

    益を認識しています。

    ③ 従前の会計基準適用時との差異

    IFRS 第 15 号を適用した結果、財又はサービスの移転を本人としての履行義務と識別し、対価の総額を収益と

    して認識する取引が増加したことで、従前の会計基準を適用した場合と比較し、当第 1 四半期連結累計期間に

    おける要約四半期連結損益計算書の「収益」及び「原価」がそれぞれ 2.0 兆円増加しています。「四半期純利

    益」を含む当要約四半期連結財務諸表のその他の項目に重要な影響はありません。

    IFRS 第 15 号開示例 ― 三井物産株式会社(2019 年 3 月期の第 1 四半期報告書(2018 年 6 月))

    IAS 第 18 号から IFRS 第 15 号への変更により収益及び原価がそれぞれ 385,014 百万円増加

    2.要約四半期連結財務諸表の基本事項

    (1)作成の基礎

    当社の要約四半期連結財務諸表は、IAS 第 34 号に準拠して作成しており、年次連結財務諸表で要求されて

    いる全ての情報が含まれていないため、前連結会計年度の連結財務諸表と併せて利用されるべきものです。

    (2)見積り及び判断の利用

    要約四半期連結財務諸表の作成に当たり、経営者は会計方針の適用並びに資産、負債、収益及び費用の報告

    額に影響を及ぼす見積り及び仮定に基づく判断を利用しております。実際の結果はそれらの見積りや仮定に基

    づく判断と異なることがあります。

    当要約四半期連結財務諸表の金額に重要な影響を与える見積り及び仮定に基づく判断は、以下の注記に含ま

    れるものを除き、前連結会計年度と同様です。

    ・注記 14 マルチグレイン事業関連引当金取崩額

    (中略)

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    (3)重要な会計方針

    当要約四半期連結財務諸表において適用する重要な会計方針は、以下を除いて、前連結会計年度に係る連結

    財務諸表において適用した会計方針と同一です。

    当社及び連結子会社は、当第 1 四半期連結累計期間期首より、以下の基準書を適用しております。

    基準書 基準名 概要

    IFRS 第 9 号 金融商品(2014 年 7 月改訂) 金融商品の減損に予想損失モデルを導入

    IFRS 第 15 号 顧客との契約から生じる収益 顧客との契約からの収益認識に関する会計処理を規定

    IFRS 第 15 号「顧客との契約から生じる収益」

    当第 1 四半期連結累計期間より、IFRS 第 15 号に従い、5ステップアプローチ(①顧客との契約の識別、②

    契約における履行義務の識別、③取引価格の算定、④取引価格を契約における履行義務に配分、⑤企業が履行

    義務の充足時に収益を認識)に基づき、契約の履行義務を充足した時点で収益を認識しております。なお、履

    行義務の識別にあたっては、本人か代理人かの検討を行っており、自らの約束の性質が、特定された財又はサ

    ービスを自ら提供する履行義務である場合には、本人として収益を対価の総額で認識しており、それらの財又

    はサービスが他の当事者によって提供されるように手配する履行義務である場合には、代理人として収益を手

    数料又は報酬の額もしくは対価の純額で認識しております。

    当社及び連結会社は、財の販売について、国内取引においては、引渡、検収、出荷等により、貿易取引にお

    いては、インコタームズによる危険及び費用の移転等により、顧客が財に対する支配を獲得した時点で収益を

    認識しています。また、サービスの提供について、契約から識別されたサービスについての履行義務が充足さ

    れた時点、もしくは充足するにつれて収益を認識しております。

    なお、一定の期間にわたり履行義務が充足される取引については、進捗度を合理的に測定できる場合に限

    り、履行義務の充足につれて進捗度を測定して収益を認識しています。進捗度を合理的に測定できないが、履

    行義務の充足に要したコストの回収が見込まれる場合には、合理的な測定ができるようになるまで、発生した

    コストの範囲内でのみ収益を認識しております。

    本基準の経過措置に従い、適用開始による累積的影響を適用開始日に認識する方法を採用しておりますが、

    以下を除き、本基準の適用が要約四半期連結財務諸表に与える影響は軽微です。

    従来、IAS 第 18 号「収益」に従い、財又はサービスの提供に関する重要なリスク及び経済価値に対するエク

    スポージャーを有していないことから代理人として収益を純額で認識していた取引のうち、顧客に財又はサー

    ビスが移転される前に当社が当該財又はサービスを支配している取引については、上述の通り本基準では本人

    としての取引と判断されることから、収益を総額で認識しております。この結果、従前の会計基準を適用した

    場合と比較して、当第 1 四半期連結累計期間の要約四半期連結損益計算書において、収益及び原価が、それぞ

    れ、385,014 百万円増加しております。

    また、当第 1 四半期連結累計期間より、顧客との契約から認識した収益について、収益及びキャッシュ・フ

    ローの性質等がどのように経済的要因の影響を受けるのかを描写する区分で分解した金額を、注記 15「収

    益」で開示しております。このため、要約四半期連結損益計算書上、従来、収益は「商品売買による収益」、

    「役務提供による収益」及び「その他の収益」、原価は「商品販売に係る原価」、「役務提供に係る原価」及

    び「その他の収益の原価」にそれぞれ、区分表示しておりましたが、当第 1 四半期連結累計期間より、「収

    益」及び「原価」に集約しております。

    上記 2 社の開示では、IAS 第 18 号から IFRS 第 15 号への変更により、代理人ではなく本人と

    判断されたものについて、収益及び原価を純額表示から総額表示に変更している。これは、会計

    基準 IFRS第 18号と IFRS 第 15号との考え方が異なることが影響していると思われる。つまり、

    本人と代理人の区分について、IAS 第 18 号では「リスク及び経済価値に対するエクスポージャ

    ーを有しているかどうか」(IAS 第 18 号 21 項)に重点が置かれていたものが、IFRS 第 15 号で

    は、「顧客に移転する前に、その財又はサービスを支配しているかどうか」(IFRS 第 15 号 B37)

    に重点が置かれた影響と思われる。

    6.本会計基準の早期適用会社の開示例(参考)

    (中略)

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    当該会計基準等を早期適用している会社の開示例を紹介する。

    ① 株式会社 CARTA HOLDINGS(2019 年 12 月期の第 2 半期四半期報告書(2019 年 3 月))

    -収益及び原価の総額主義から純額主義への変更により売上高及び売上原価ともに減少

    (連結財務諸表の注記)

    (会計方針の変更)

    (収益認識に関する会計基準等の適用) 「収益認識に関する会計基準」(企業会計基準第 29 号 平成 30 年3月 30 日。以下「収益認識会計基準」という。)及び「収益認識に関する会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第 30 号 平成 30 年3月 30 日)

    が 2018 年4月1日以後開始する連結会計年度の期首から適用できることになったことに伴い、第1四半期連結

    会計期間の期首から収益認識会計基準等を適用し、以下の変更を行いました。

    収益認識会計基準の適用に伴い、他の当事者が顧客への財又はサービスの提供に関与している場合におい

    て、企業は、自らの約束の性質が、特定された財又はサービスを自ら提供する履行義務(すなわち、企業が本

    人)であるのか、それらの財又はサービスが当該他の当事者によって提供されるように手配する履行義務(す

    なわち、企業が代理人)であるのかにつき検討いたしました。これにより、パートナーセールス事業の一部を

    除く取引、アドプラットフォーム事業の全ての取引、コンシューマー事業における一部の取引につき、収益の

    認識を総額から純額へ変更することとしました。この結果、従前の会計処理方法と比較して、当第2四半期連

    結累計期間の四半期連結損益計算書において売上高および売上原価はそれぞれ 48,542 百万円減少し、また、

    四半期連結貸借対照表において従来「ポイント引当金」に含めて表示していた株式会社 VOYAGE MARKETING のポ

    イント預り金 2,473 百万円は「預り金」に含めて表示することになりました。なお、当該「預り金」2,473 百万

    円は負債及び純資産の総額の 100 分の 10 以下となったため、「その他流動負債」に含めて表示しております。

    収益認識会計基準の適用については、収益認識会計基準第 84 項ただし書きに定める経過的な取扱いに従っ

    ております。ただし、当連結会計年度の期首の純資産に反映されるべき累積的影響額はないため、当連結会計

    年度の利益剰余金期首残高に与える影響はありません。

    ② 株式会社ジャフコ(2019年 3月期の有価証券報告書)

    -管理報酬の計上方法、成功報酬の収益認識の変更により売上高等に影響

    【注記事項】

    (連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項)

    4.会計方針に関する事項

    (5)重要な収益及び費用の計上基準

    当社及び連結子会社は、「収益認識に関する会計基準」(企業会計基準第 29 号 平成 30 年3月 30

    日)及び「収益認識に関する会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第 30 号 平成 30 年3月 30

    日)を適用しており、管理報酬については一定の期間にわたる履行義務を充足した時点、成功報酬につ

    いては収入金額が期末時点で将来、著しい減額が発生しない可能性が高いと見込まれた時点で収益を認

    識しております。

    (会計方針の変更)

    当連結会計年度より、当社の 100%子会社である JAFCO America Ventures Inc.(JAV)が受け取る管理報酬

    の収益計上の方法を変更するとともに、同社を連結の範囲から除外しました。

    ベンチャーキャピタル業は地域性が高く、親会社が海外での投資活動を支配するマネジメントは適さないた

    め、当社の米国投資は、ローカルのベンチャーキャピタリストから成るチームが独自のファンドを運営し、投

    資の意思決定も独自に行ってきました。

    また、当該ファンド資金の調達は、従来は当社及び当社が国内において設立したファンドからの出資に依存

    していました。しかし、米国におけるファンドサイズの大型化に対応して、2013 年からは独自のファンド募集

    を実行し、外部出資の割合も高まっています。さらに、米国におけるブランド強化の観点から、チーム名も Icon

    Ventures に刷新しました。

    (中略)

    (中略)

    (中略)

  • ひびき監査法人 No.26 PKF Accountants & business advisers

    19 / 19

    こうした状況を踏まえ、この度公表された「収益認識に関する会計基準」(企業会計基準第 29 号)等を適用

    し、JAV の売上と経費を相殺表示した結果、当社の連結財務諸表に対する重要性が低下するため、JAV を当社

    連結の範囲から除外することとしました。

    (収益認識に関する会計基準等の適用)

    「収益認識に関する会計基準」(企業会計基準第 29 号 平成 30 年3月 30 日。以下「収益認識会計基準」

    という。)及び「収益認識に関する会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第 30号 平成 30 年3月

    30 日)が 2018 年4月1日以後開始する連結会計年度の期首から適用できることになったことに伴い、当連

    結会計年度の期首から収益認識会計基準等を適用し、以下の変更を行いました。

    ①JAV が受け取る管理報酬の計上方法の変更

    管理報酬の収益計上方法を変更し、JAV がファンドから受け取る管理報酬は、JAV の販売費及び一般

    管理費と相殺した純額のみを収益として計上することといたしました。これにより、当連結会計年度の

    売上高が 1,351 百万円減少し、売上原価は 512 百万円増加し、販売費及び一般管理費は 1,863 百万円減

    少しております。

    ②成功報酬の収益認識の変更

    当社が運用するファンドから受け取る成功報酬は、期末時点で将来、著しい減額が発生しない可能性

    が高いと見込まれる金額を未収収益として計上することといたしました。これにより、当連結会計年度

    の売上高、営業利益、経常利益及び税金等調整前当期純利益がそれぞれ 124 百万円増加しております。

    また、利益剰余金の当期首残高は 87 百万円増加しております。

    収益認識会計基準等の適用については、収益認識会計基準第 84 項ただし書きに定める経過的な取扱

    いに従っており、当連結会計年度の期首より前に新たな会計方針を遡及適用した場合の累積的影響額

    を、当連結会計年度の期首の利益剰余金に加減し、当該期首残高から新たな会計方針を適用しておりま

    す。

    ただし、収益認識会計基準第 86 項に定める方法を適用し、当連結会計年度の期首より前までに従前の

    取扱いに従ってほとんどすべての収益の額を認識した契約に、新たな会計方針を遡及適用しておりませ

    ん。また、収益認識会計基準第 86 項また書き(1)に定める方法を適用し、当連結会計年度の期首より前

    までに行われた契約変更について、すべての契約変更を反映した後の契約条件に基づき、次の①から③

    の処理を行い、その累積的影響額を当連結会計年度の期首の利益剰余金に加減しております。

    ① 履行義務の充足分及び未充足分の区分

    ② 取引価格の算定

    ③ 履行義務の充足分及び未充足分への取引価格の配分

    なお、当連結会計年度の1株当たり純資産額は 4.91 円、1株当たり当期純利益金額は 2.79 円、それ

    ぞれ増加しております。

    7.おわりに

    「本人と代理人の区分」については、我が国では、同業種であっても実際の会計処理にばらつ

    きが見られていたが、新しい収益認識会計基準の適用により財務諸表の比較可能性は一層向上す

    るであろう。

    新しい会計基準が適用になると、認識する収益の単位、金額、タイミングが変わることがある。

    そのため、収益の経営指標の目標値の見直しや、経営指標自体を見直す必要が生じ、予算の設定

    や中期経営計画の策定にも影響する。しかし、企業の実態をより適切に表現し、これを通じて、

    経営者がより正しい経営判断ができるようなり、ひいては、財務諸表の利用者が企業についてよ

    り適切に理解できるようになる。会計実務においては、個々の取引についての契約の形態は様々

    であるため、個々の契約内容に基づいて総合的に判断し、取引実態に応じた会計処理が必要とな

    ると思われる。

    なお、本稿の意見に関する部分は、筆者の個人的見解であることを申し添えます。

    以上

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