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イノブタ実験家系から生産されたF2産子の経済形質の特徴
誌名誌名群馬県畜産試験場研究報告 = Bulletin of the Gunma Animal HusbandryExperiment Station
ISSNISSN 13409514
著者著者
松原, 英二湊, 一之後藤, 美津夫ほか1名,
巻/号巻/号 6号
掲載ページ掲載ページ p. 35-39
発行年月発行年月 1999年12月
農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センターTsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research CouncilSecretariat
群馬畜試研報第6号(1999) : 35-39
キーワード:イノブタ ・実験家系・経済形質
イノブタ実験家系から生産されたF2産子の経済形質の特徴
松原英二 ・湊 一之*・後藤美津夫 ・渋谷立人
Economical Features of F2 Obutained from Standerd Lineage by Cross-Breeding Landrace with Wild Boar
Eiji MATSUBARA, Kazuyuki MINATO, Mituo GOTOH and Tatsuto SHIBUY A
要 ヒ=忌日
ランドレース種(グンマL)と野生イノシシの交配による、イノブタ実験家系から得られた
イノブタ F2 (IC)の経済形質を、戻し交配豚 (BC)と比較した。
1 繁殖性の形質では、分娩総数及び乳頭数ともにBCがICより多かったが、生時体重は両者
に差はなかった。発育性では、 1日当たり増体量 (DG)はIC=443.7土11l.2g 、BC=
638.5:t 11l.2 g 、また飼料要求率 (FC)ではIC=5.9士1.4、BC=4.7:tl.3とBCがICより
優れていた。
2 と畜時の枝肉歩留りは、 ICが74.2:t2.1%と高く、部分肉重量を比較した場合ICのパラ重
量が重かった。これは皮下脂肪及び腹腔内脂肪の蓄積がICに強く認められたことも関連が
あった。
また、問料効率に関連する小腸長を比較した場合、 ICが1,471.7:t167.7cm、BCが1,686.3:t
106.3cmとICが短くDGおよびFCの低下を反映していた。
3 肉の理化学的特徴では、肉の色調においてICがL汁直およびb.値が低く a.値が高いため、
総合的に暗く赤みが強い特徴があった。
4 脂肪の融点では背脂肪内層、及び腎周囲脂肪ともにが低かった。これは脂肪酸測定の結
果から飽和脂肪酸量がICで41.7:t2.3%、BCで42.6士2.4%とICが低いことからも裏付けら
れた。
以上の結果から、ランドレース種を母系とした場合、野生イノシシの遺伝的割合により経済
形質が変化することが明らかとなった。
緒 Eヨ
農林水産省畜産試験場が中心となり、平成 5
年度から豚のDNA育種事業が開始した。当場に
*現在群馬県立農林大学校
おいても共同委託研究の対象となり、他の 5県
とSTAFF研究所(農林水産先端技術研究所)
を加え、実験家系の構築とDNAマイクロサテラ
イトマーカーを用いた、豚の遺伝解析が実施さ
-35 -
群馬畜試研報第6号(1999)
れた。
一方、当場で構築されたICは、近年の差別化
食品としての需要が高まり、群馬県上野村では
商品化による村おこしも盛んである。しかしな
がら、家畜豚どうしを交配した豚と異なり、豚
肉としての特性はまだ充分に明らかとなってい
ない。そこで、本事業で生産されたイノブタ F
2 (第2世代)と P世代(母豚:ランドレース)
にイノブタ F1 (第 1世代)雄を戻し交配した
産子の発育、肉質等の経済形質を比較した。
材料及び方法
1 実験家系の構築
家系の構築に用いられた雄のイノシシ 1頭は
上野村で繋養され、ストロ一法凍結精液を作成
し人工授精に供した。また、雌豚は本場で系統
造成されたランドレース種 2頭を用い、イノシ
シとランドレース種の F1 (イノブタ)を計 7
頭生産した。生産された同腹のIC雄と雌を兄妹
交配しイノブタ F2を計192頭生産した。さら
に、イノブタ F1雄を親豚のランドレースに戻
し交配しBCを計65頭生産した(図1)。このう
ち脂肪酸組成の分析まで終了した頭数は、 ICが
137頭、 BCが55頭である。
この様にして得られた遺伝的変異の少ない
(血縁係数の高い)イノブタの経済形質を以下の
P /T L♀ | イノシシ♂
( J==→ I ---------.J
F 1 F 1 (♂) F 1 (♀) F 1 (♀)
↓↓
方法で調査した。
2 分娩及び子豚の管理
妊娠したイノブタは、分娩 1カ月前に分娩豚
舎に移動し分娩させた。分娩後のイノブタは気
性が激しくなり、時には自らの子豚もかみ殺す
程、産後の警戒心は激しかった。したがって、
分娩の確認は専任の職員が朝夕の給餌する時に
限られていた。分娩確認後 3日目に、母豚の様
子を伺いながら子豚の処置を実施した。
離乳は分娩後 1カ月で実施し、子豚は、その
後 1カ月間分娩房内で育成した。
3 表現形質の測定
1 )繁殖性
各家系から生産された子豚の分娩頭数、生時
体重、一腹体重、離乳時体重等を測定した。
2)発育成績
晴育育成した子豚は、順次産肉検定用飼料に
馴致させ、体重40kgに達した時点で検定を開始
した。
検定は体重の不均衡を避け、 1豚房に 2頭飼
いで実施した。
給与飼料は不断給餌した。
体重の測定は週 1回実施し、 90kgに達した時
点で翌日と殺した。
3)枝肉成績
と畜は、湯はぎ法により行った。小腸長およ
F2 F2(31頭) F 2 (49頭 , " I p:親世代
F 2 (2 9頭) F 2 (49頭) F 2 (34頭 IFI:雑種第 1代
F2:雑種第 2代
A,B:戻し交配
図 l 野生イノシシとランドレース種によって構築されたイノブタ実験家系
-36 -
松原・湊 ・後藤 ・渋谷:イノプタ実験家系から生産されたF2産子の経済形質の特徴
び枝肉重量を測定後、 40
Cの保冷庫に懸垂し21
時間冷蔵した。
冷蔵した枝肉は冷と体重を測定した後、表 1
に示した項目について測定した。
4) 肉の理化学的検査
最後腰椎と仙骨問の椎間部および最後腰椎か
ら4番目の腰椎椎間部を鋸で切断し、この部位
のロース部および脂肪について理化学的検査を
実施した。調査項目は表2に示した。
肉の物理性の検査は、豚肉の肉質検査法に準
拠して実施した。また、ロース、背脂肪内層お
よび腎周囲脂肪の色調は色差計により、検体の
明るさ (L*値)、赤色度 (a*値)および黄色度
(b 汁直)を測定した。
脂肪の融点は、細かく細切した背脂肪内層お
よび腎周囲脂肪を1060
C2時間加温した後、へ
マトクリット毛細管に 1cmの高さまで吸入し毛
細管法による上昇融点を測定した。さらに、ガ
スクロマト法により高級脂肪酸の割合を測定し
た。
結 果
I 繁殖性および発育成績
IC家系およびBC家系により生産された、イノ
ブタの発育成績を表 3に示した。
乳頭数については、右乳頭および左乳頭数が
ICで5.5および5.4、 BCで5.6および5.8とICが有
意に少なかった。生時体重については、両者に
大きな違いは認められなかった。
一方、発育性を比較すると、 DGは、 ICが
443.7:t 111.2 g 、BCが638.5:t111.2 gと有意
にICのDGは低かった。また、 FCはICが5.9:t
1.4、BCが4.7:t1.3とICのFCは高かった。
2 枝肉成績
枝肉の各測定項目の成績を表4に示した。
と殺時体重および冷と体重の平均重量は変わ
らず有意な差も無かった。しかし、枝肉歩留は
ICが74.2:t2.1%、BCが72.4:t1.9%とICの枝肉
歩留が優れていた。 一方、と体長、背腰長Eお
よびロース断面積は戻し交配の影響を反映し、
戻し交配の家系で長く、また太かった。しかし、
表 1 枝肉の調査項目
枝肉各部の長さ 椎骨数 筋肉 部分肉重量 脂肪層の厚さ
と体長 胸椎数 ロースの長さ カタ 腹部(前、中、後)
背腰長 1 腰維数 /1 の面積 ロースパラ 背側部(肩、背、腰)
背腰長 2 ハム
と体幅
表2 肉の物理的成分の測定部位及び項目
肉の物理的成分 測定部位及び項目
物理性 水分、加熱損、加圧保水性、加圧損、
加塩保水性、伸展率
色調 ロース、背脂肪内層及び腎周囲脂肪の
L*、a*、b吋直
融点 背脂肪内層、及び腎周囲脂肪の融点
脂肪酸組成背脂肪、及び腎周囲脂肪の脂肪酸組成
表 3 イノブタ及び戻し交配豚における繁殖性 ・
発育性
繁殖項目 イノブタ(平均土SD)戻し交配(平均:!:SD)
乳頭数(右) 5.5土0.6a 5.9:!:0.7b
乳頭数(左) 5.4土0.5A 5.8士0.7B
生時体重 (kg) 1.6:t0.4 1.6:t 0.3
DG (g/日) 443.7土l11.2A 638.5:t 111.2B
飼料要求率 5.9:t 1.4A 4.7土1.3B
イノブタ例数:137頭 、戻し交配豚例数:57頭異符号聞に有意差(A, B p<O.Ol、a,b p<0.05)
ヴ
tqJ
群馬畜拭研報第6号(1999)
表4 枝肉成績
と体形質 イノブタ(平均士SD)戻し交配(平均:tSD)
と殺時体重 (kg) 88.3土3.l A 90.2:t2.9 B
温と体重 (kg) 67.4:t2.7 67.2:t2.8
冷と体重 (kg) 65.5士2.7 65.3:t2.7
枝肉歩留(%) 74.2:t 2.l A 72.4:t 1.9 B
と体長 (crn) 85.5:t3.4 A 89.9:t2.6 B
背腰長 1 (crn) 70.9:t2.8 A 75.1土3.0 B
背腰長2 (crn) 61.2士3.1 A 65.1:t 2.4 B
と体幅 (crn) 35.4:t 1.3 A 34.4:t 1.2 B
ロース断面積 (cnl) 15.l士2.2 A 16.8:t2.7 B
カタ重量 (kg) 9.9:t0.8 10.0:t 0.6
ロースバラ (kg) 13.8:t 1.1 A 13.l:!: 1.0 B
ハム重量 (kg) 9.6:t 1.0 9.7:t0.6
背脂肪厚(肩)(crn) 4.5:t0.7 A 4.1土0.5 B
(背) (crn) 2.4:t0.5 A 2.2:t 0.4 B
11 (腰) (crn) 3.5:t0.6 A 3.2士0.5 B
腹部脂肪厚(前)G四m) 22.2:t5.6 a 20.0士5.5 b
椎骨数 20.l:t0.7 A 20.5:t0.7 B
小腸長 (crn) 1.417.7:t 167.7 A 1,686.3:t 106.3 B
イノブタ例数・ 137頭 、戻し交配豚例数:57頭
異符号聞に有意差(A, B p<0.01、a,b p<0.05)
と体幅で、はICが広かった。
カ夕、ロースバラおよびハムの重量を比較し
た場合、ロースバラ重量のみがICで有意に大き
かった。
その他の形質として、背 ・腹脂肪厚はICが厚
く、椎骨数はICが少なかった。さらに、飼料効
率等に関連すると思われる小腸長を比較したと
ころ、 ICカq,471.7土167.7crn、BCカQ,686.3土
l06.3crnとICが有意に短かった。
3 肉の理化学的性状
豚肉の肉質検査法に基づき検査を実施したと
ころ、表5に示したとおりであった。
肉の物理的特性では、水分、加熱損、加圧損
においてBCが各々の項目で高い傾向が伺われ
た。しかし、肉の伸展率はICが大きく、肉のも
ろさの違いがうかがわれた。また、肉の色調で
は特にICがLヘ b掌値においてBCより低くかっ
表 5 肉の理化学的性状
理化学検査の項目 イノブタ(平均:tSD)戻し交配(平均:tSω
1)物理性水分 73.4士1.0 74.2:t0.5
加熱損 26.3:t3.0 27.4士4.2
加圧保水性 85.6:t3.4 85.0:t3.3
加圧損 37.2:t3.7 38.7:!:4.3
加題保水性 58.7:t5.5 58.2:t5.2
伸展率 34.l:t 5.6 32.5:t5.9
2)色調 ロースL* 44.3:t3.4 47.0:t2.8
11 a* 14.2:t 1.5 12.7:!: 1.3
H b ・ 6.3:t0.9 6.5:t0.8
背脂肪内層 L* 76.6:t3.6 76.9士2.4
a ・ 2.9:t 1.3 3.2土1.0
11 b* 5.2:t0.8 5.5:t0.8
腎周囲脂肪 L* 79.0:t 1.8 78.3土2.0
a* 2.l:!: 0.8 3.0:t 1.0
H b* 4.6:t0.8 5.4:t0.8
色調以外の単位:%
イノブタ例数:137頭、戻し交配豚例数:57頭
た。さらに、脂肪の色調ではICのaヘb*値が
低かった。
4 脂肪の特性
豚肉の品質に大きく関与する脂肪の特性につ
いて比較した結果、表6および 7のようであっ
た。
脂肪の融点を背脂肪内層および腎周囲脂肪に
ついて測定したところ、 ICがいずれの部位にお
いても低かった。
また、脂肪の融点とも関連する脂肪酸組成を
調査したところ、背脂肪内層および腎周囲脂肪
ともに飽和脂肪酸のC16、C18、および不飽和
脂肪酸のC18: 1の比率が高かった。また、背
表6 脂肪の融点
測定部位
背脂肪内層
腎周囲脂肪
イノブタ(平均士SD) 戻し交配(平均:tSD)
32.0土1.7
38.2土2.7
33.7土1.7
40.2土2.3
単位:oc イノブタ例数:137頭、戻し交配豚例数:57頭
- 38-
松原・湊・後藤・渋谷 :イノブタ実験家系から生産されたF2産子の経済形質の特徴
表7 背脂肪内層及び腎周囲脂肪の脂肪菌室組成
脂肪酸組成 イノブタ(平均:tSD)戻し交配(平均:tSD)
背脂肪内層(%)
C14 1.5 ::!:0.3 1.4::!:0.3
C16 26.2::!: 1.7 26.0::!: 1.8
C16: 1 2.3::!: 1.1 2.3::!:0.9
C18 14.1::!:1.3 15.2土0.6
C18: 1 46.2::!:2.3 45.8 ::!:2.6
C18 : 2 9.4::!: 1.3 9.1土1.2
C18 : 3 0.5::!:0.3 0.5::!:0.1
飽和脂肪酸 41.7 ::!:2.3 42.6::!:2.4
腎周囲脂肪 (%l
C14 1.4::!:0.2 1.5 ::!:0.3
C16 27.1 ::!: 2.l 27.8::!: 1.7
C16: 1 l.8::!: l.0 2.0:t l.0
C18 18.3::!: 1.8 18.5::!:1.9
C18: 1 4l.8::!:2.3 40.9土2.4
Cl8: 2 9.2::!: l.2 8.9::!: l.3
C18 : 3 0.5:t0.2 0.5::!:0.1
飽和脂肪酸 46.8 :t 2.8 48.0 ::!: 2.4
イノブタ例数:137頭、戻し交配豚例数:55頭
脂肪内層と腎周囲脂肪を比較すると、飽和脂肪
酸のC18が腎周囲脂肪に多く、不飽和脂肪酸の
C18: 1は背脂肪内層に多く含まれていた。脂
肪の質に関連する飽和脂肪酸割合はICが41.7:t
2.3%、BCが42.6:t2.4%とBCの割合が多かった。
考 察
今回、農水省の委託研究により作出された実
験家系のイノブタを供試し、イノブタおよび戻
し交配豚の発育性および肉質等の経済的形質に
ついて比較調査した。繁殖性の項目では、 BCの
乳頭数がICより多かった。また、発育性におい
てはDGおよびFCともにICがBCより少なかっ
た。これを遺伝的差異によるものと考えた場合、
BCには 3/ 4ランドレースの遺伝子を保有し、
ICでは 1/ 2ランドレースの遺伝子が保有され
ている。従って、肥育効率等でランドレース遺
伝子の保有割合が今回の成績に現れたものと考
えられる。
と体形質では、枝肉歩留りでICが74.2:t2.1%、
BCが72.4:t1.9%でICが高かった。これは調査
した皮下脂肪層の厚さ、および腹腔内脂肪の蓄
積量がICに多く 、また小腸長もICが短いことな
どが枝肉の歩留りに影響したものと考えられた。
特に小腸長はICが1,471.7:t167.7cm、BCが
1.686.3:t 106.3cmと有意に短いことが枝肉歩留
りの差として現れた可能性が高い。これは同時
に、 DGやFCなどの飼料効率がICにおいて劣る
点も反映している。
肉の理化学的検査の結果、肉の色調に大きな
違いが認められた。肉色のL*値およびb*値は
ICがBCより低く、 IC肉が暗く、赤みが強い性質
が認められた。
肉の色調は、構成する筋肉繊維の密度及びミ
オグロビン含量によるものと考えられ、 IC肉が
これらの構成要素を多量に含んでいたことを裏
付けていた。
脂肪の融点では、 ICが背脂肪および腎周囲脂
肪ともに低かった。
脂肪の硬さの主因は、脂肪を構成する飽和 ・
不飽和脂肪酸の割合により決定される。従って、
融点温度の違いは脂肪酸の構成割合に依存する。
今回の脂肪酸分析では、これを反映しICの飽和
脂肪酸割合が41.7:t2.3%、BCが42.6:t2.4%と
ICが低かった。この原因について明確な考察は
できないが、野生動物では、食糧確保が極めて
不安定であり、生体維持に重要な不飽和脂肪酸
の体内蓄積は死活問題として優先される代謝過
程ではないかと思われる。
以上の結果から、ランドレース種を母系とし
た場合、野生イノシシの遺伝的割合により F2
の経済的形質が変化することが明らかとなった。
参考文献
1)渋谷立人 ・後藤美津夫 ・友野邦夫.1997.
県内肉豚の脂肪融点に関する研究.群馬畜
試研報 4 : 57-63.
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