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背景 疫学研究などにより抗酸化栄養素の抗動脈硬化作用が推定されている。酸化ストレスの増大が動脈硬化の進展に関与し、また酸化ストレスは高血糖状態において亢進していると考えられている。一方、上腕-足首間脈波伝播速度(brachial-ankle pulse wave velocity;baPWV)は糖尿病における早期の血管障害を反映するよい指標であるという報告がある。
目的 カロテノイドの抗動脈硬化作用を明らかにするために、血糖の状態を考慮して、baPWVとの関連を検討した。
方法・対象 浜松市三ヶ日町において平成15年4~5月に実施された健康診査対象者に研究への協力を依頼し、インフォームド・コンセントが得られた男302人、女584人(30
~70歳)を研究対象とした。このうち、血清カロテノイド濃度、およびbaPWVを測定できた男性297人、女性579人について検討した。対象者は空腹時血糖と糖尿病歴により、糖尿病(空腹時血糖≧126mg/dLまたは糖尿病歴有り)68人、IFG(impaired fasting glucose:
126mg/dL>空腹時血糖≧110mg/dL)47人、NFG
(normal fasting glucose:110mg/dL>空腹時血糖)761人に分類した。baPWVはform® PWV/ABI model
BP-203RPE Ⅱ(コーリンメディカルテクノロジー)を用いて測定した。baPWV高値は1,680cm/s以上(分析対象者5分位最上位)と定義した。血清は採血後凍結保存し、6種のカロテノイド(α-カロテン、β-カロテン、β-クリプトキサンチン、ルテイン、リコペン、ゼアキサンチン)濃度をHPLCにより測定した。血清カロテノイド濃度、baPWVなどは対数変換して分析した(再変換して表示)。分析はSPSS 12.0J for Windowsを用いて、分散分析、共分散分析(群間比較はBonferroni多重比
較検定)を行い、オッズ比はロジスティック回帰分析により求めた。
結果1.血糖の状態別にみた対象者の特性
baPWVの 平 均 値(95%信 頼 区 間 ) は 糖 尿 病1,695.5cm/s(1,615.1~1,779.9)、IFG 1,570.7cm/s
(1,482.8~1,663.9)、NFG 1,407.1cm/s(1,388.6~1,425.8)の順に高かった。また血清カロテノイドのうち糖尿病群におけるβ-カロテン濃度はNFG群より有意に低かった。
2. カロテノイド濃度3分位別に検討したbaPWVの
多変量調整平均値(図1:β-カロテンとβ-クリプト
キサンチンの結果を抜粋して表示)
NFG群ではβ-カロテン高位群のbaPWVの多変量調整平均値(1,386cm/s)は、低位群(1,432cm/s)より有意に低かった。またβ-クリプトキサンチン高位群(1,382cm/s)は中位群(1,424cm/s)より、ゼアキサンチン中位群(1,389cm/s)は低位群(1,430cm/s)より有意に低かった。糖尿病+IFG群(人数が少ないため合わせて分析)では有意な関連はみられなかったが、β-カロテンとβ-クリプトキサンチンについてはNFG
群と同様の傾向がみられた。
3. カロテノイド濃度3分位別に検討したbaPWV高
値出現のオッズ比(表1:β-カロテンとβ-クリプトキ
サンチンの結果を抜粋して表示)
baPWV高値出現の性、年齢、血糖区分調整オッズ比(95%信頼区間)はβ-カロテン高位群で0.35 (0.20~0.60)、β-クリプトキサンチン高位群で0.45(0.27~0.77)などであり(低位を基準)、多変量調整後や、循環器疾患既往のない者に限定した分析でも同様の傾向がみられた。
英文原著論文紹介 検査値13
74
β-カロテン、β-クリプトキサンチン高値は脈波伝播速度低値と関連している
High beta-carotene and beta-cryptoxanthin are associated with low pulse wave velocity.Nakamura M, Sugiura M, Aoki N.Atherosclerosis. 2006; 184: 363-9.
中村美詠子(論文執筆時:浜松医科大学衛生学、現所属:中部電力(株)浜岡原子力総合事務所)杉浦 実/青木伸雄
この論文は、「Arterial Stiffness」WEBサイトに掲載されています。その他の論文はこちらClick "Arterial Stiffness" web site for more articles.
英文原著論文紹介
検査値
13
75
考察 baPWVは糖尿病、IFG、NFGの順に高値を示し、baPWVが糖尿病における早期の血管障害を反映している可能性が支持された。また、糖尿病でβ-カロテン低値が観察されたことから、酸化ストレスと糖尿病との関連が推定された。しかし本研究は横断研究であるため、糖尿病という高血糖状態がもたらす酸化ストレスの増大によりβ-カロテンが消費されたのか、抗酸化栄養素(β-
カロテンなど)の不足により糖尿病という病態が引き起こされたのか、という関連の方向性は判断できない。また本研究では血糖の状態とは独立してβ-カロテン、β-
クリプトキサンチンが抗動脈硬化的に働く可能性が示さ
表1 血清カロテノイド濃度3分位別のbaPWV高値出現のオッズ比†:性、年齢、血糖区分を調整。‡: 性、年齢、血糖区分、収縮期血圧、BMI、総コレステロール、中性脂肪、高血圧・高脂血症・糖尿病治療薬服用の有無、現在喫煙・週6日以上の飲酒・週1日以上の運動の有無を調整。
血清カロテノイド濃度 nレンジ
(μmol/L)モデル1† モデル2‡
オッズ比 95%信頼区間 オッズ比 95%信頼区間
β-カロテン
低位 282 0.07~0.43 1.00 1.00中位 294 0.44~0.77 0.81 (0.49~1.35) 0.79 (0.41~1.52)高位 300 0.78~2.63 0.35 (0.20~0.60) 0.47 (0.23~0.96)
Trend p<0.01 Trend p=0.02
β-クリプトキサンチン
低位 288 0.12~0.96 1.00 1.00中位 295 0.97~2.16 0.89 (0.54~1.47) 1.04 (0.55~1.96)高位 293 2.17~8.61 0.45 (0.27~0.77) 0.48 (0.24~0.93)
Trend p<0.01 Trend p=0.01
れた。β-カロテン、β-クリプトキサンチンは野菜、果物に多く含まれる(特に後者は温州みかんに特異的に多く含まれることで注目される)物質であるが、さらに野菜、果物中の他の成分が関連している可能性もある。
結論 baPWVは糖尿病、IFG、NFGの順に高値を示したが、血糖の状態とは独立してβ-カロテン、β-クリプトキサ
ンチン高値はbaPWV低値と関連し、またbaPWV高値の出現リスクが低いなど、その抗動脈硬化作用が示唆された。本研究は横断研究であり、因果関係を明らかにするためにはさらに縦断的検討が必要である。
:NFG群、■:糖尿病+IFG群。
baPW
V(cm
/s)
2,000
1,500
1,000低位 中位 高位
β-カロテン
p=0.19
p=0.03
2,000
1,500
1,000低位 中位 高位
β-クリプトキサンチン
p=0.48
p=0.01
図1 血清カロテノイド濃度3分位別のbaPWVの多変量調整平均値
性、年齢、収縮期血圧、BMI、総コレステロール、中性脂肪、高血圧・高脂血症・糖尿病治療薬服用の有無、現在喫煙・週6日以上の飲酒・週1日以上の運動の有無を調整。
この論文は、「Arterial Stiffness」WEBサイトに掲載されています。その他の論文はこちらClick "Arterial Stiffness" web site for more articles.
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