LNG輸送技術の最新動向...47石油・天然ガスレビュー JOGMEC...

Preview:

Citation preview

45 石油・天然ガスレビュー

JOGMEC

アナリシス

LNG 輸送技術の最新動向はじめに

 LNG(liquefied natural gas)は主に LNG 船で海上輸送されている。このため、ここでは LNG 船の輸送技術の概要と最新の技術動向を説明する。 LNG 船の船腹量の推移を図1に示す。2008 年 3 月時点で約 260 隻の LNG 船が運航しており、さらに、約 130 隻の LNG 船が建造中である。 長期輸送契約に基づく商業ベースでの LNG の海上輸送は、1964 年にアルジェ(アルジェリア)からキャンベイ島(イギリス)へ向けた LNG 輸送で開始された。当時の LNG 船は、タンクの容積が 2 万7,400m3 で、タンク材にアルミ合金を使用し、防熱材にバルザ材を用いて船体の断熱・漏

ろうえい

洩保護と、タンクの支持とを兼ね備えたいわゆる「独立タンク方式」が採用された。その後、船型の大型化が進むとともに、タンクの形状、構造、材料の選定と防熱材の改良等を行うことで、信頼性・安全性を維持した上で経済性を高めた各種のタンク方式が開発されて現在に至っている。したがって、他の船では例のない複数のタンク方式が混在する特殊な船となっている。また、LNG 船の推進システムも特徴的である。通常の船舶は、油燃料を使用したディーゼル機関が主流となっているが、LNG 船では常に LNGが気化するので、この気化した BOG(ボイル・オフ・ガス)を燃料として有効に活用する必要がある。このため、BOG をボイラーで燃焼して蒸気を発生させて蒸気タービンを駆動する推進システムが長く採用されてきた。この方式は燃料効率が悪いので、一般の船舶では現在ほとんど使用されなくなり、LNG 船のみに採用されていた。 最近では、環境負荷低減の要請と燃料価格の高騰に伴う経済性改善の要請に応える形で、燃料消費量の大幅な改善を図った「ガス焚

きエンジン電気推進」「低燃費型蒸気タービン」等の LNG 船向けの新たな推進システムが開発・実用化されるに至った。また、LNG の効率的な再液化も可能となったので、BOG 処理と推進システムを分離して、通常船同様にディーゼル機関を使用した LNG 船も実現した。さらに、再ガス化設備を設けた LNG 船、LNG の 洋 上 生 産 設 備(LNG-FPSO)、圧縮ガスを運搬する船(CNG 船)等の新たな技術も開発・実用化されつつある。

 現在、LNG 船として実用化されている主なタンク方式の特徴を以下に説明する。

1-1 独立タンク方式

 独立タンク方式とは、船体とタンクが独立の構造で、

船体の中に自立タンクが配置されている方式で、タンクの外面に防熱が施されている。したがって、タンクの熱伸縮による変形は船体には直接伝わらない構造となっている。また、タンクの液荷重は自立タンクに作用するので、防熱材には直接荷重がかからない構造となっている。

1. タンク方式

ロイド船級協会次席カントリーマネージャー 湯浅 和昭

LNG 船の船腹量の推移図1

出所:ロイド統計データを基に筆者作成

0

50

100

150

200

250

300

350

400

1960 1970 1980 1990 2000 2010 2020建造年

建造隻数(累

計)

462008.7 Vol.42 No.4

JOGMEC

アナリシス

一方、タンクを支持する部分には自立タンクのすべての荷重が作用するので、支持部分には十分な強度と断熱性能が要求されるのが特徴である。また、万一の LNG の漏曳に対する船体保護の観点から、2 次防壁を備える必要がある。 当初の LNG 船は、LNG の漏洩対策として完全 2 次防壁を備えた方形の独立タンク方式であったが、その後、経済性の向上のために 2 次防壁の低減を図った方式として、球形独立タンク方式(モス方式)と方形独立タンクタイプB方式(SPB 方式)が開発・実用化された。

① 球形独立タンク方式(モス方式) モス方式の概略を図2に示す。

 モス方式は、球形シェル構造のタンクで、すべての液荷重はタンク板材の膜応力で受け持つので、応力集中が避けられる。また、球形シェルは円筒形の支持構造(「スカート」と呼ぶ)で船体に据え付けられており、球形タンクの熱伸縮変形は、このスカートの撓

たわ

みによって無理なく吸収されるのが特徴である。また、方形独立タンク方式と同様にタンクの外面に防熱が施されている。 球形タンクおよび円筒形スカートという軸対称の単純な形状・構造であるために、高精度の応力解析が可能であるので、「LNG は漏れない。また、仮にクラックが発生してもその進展は極めて遅いので、漏曳 LNG は少量にとどまる」ことを実験的・解析的に証明して、部分 2次防壁が認められている。この設計思想は「リーク・ビフォー・フェィリア(スモール・リーク・プロテクション)」

と呼ばれており、球形タンク方式は IGC コード(国際液化ガス運搬船規則)のタンクタイプBとして、安全性の高いタンク方式として認知されている。 スカートは金属製の構造であるので、この部分からの侵入熱を抑制することが大きな課題であった。スカート構造は、タンクに直接繋

つな

がるアルミ合金部分と、船体に繋がる低温用鋼部分を STJ(異材継手)*1 で接合していた。現在のスカート構造は、アルミ合金と低温用鋼の中間に熱伝導率の低いステンレス鋼を挿入して、侵入熱の低減を図ったサーマルブレーキ構造となっている。 このサーマルブレーキ構造の技術課題は、アルミ合金とステンレス鋼との間に挿入する STJ の開発であった。また、スカートの防

ぼうじょう

撓構造についても、垂直方式から水平リング方式に変更して、侵入熱の削減を図った。 1990 年に BOR(ボイル・オフ・レート)*2 0.10% / 日の超低 BOR の LNG 船が竣工したが、その後の LNG 船では、BOR 0.15% / 日が主流となっている。

② 方形独立タンクタイプB方式(SPB 方式) SPB 方式の概略を図3に示す。 コンピューターの発達による応力・疲労・破壊機構解析技術の開発と、厳格な溶接施工管理によって、方形タンクでも球形タンク方式と同様に「リーク・ビフォー・フェィリア」の設計思想に基づいたタンクタイプBが実用化された。この方式は SPB 方式(セルフ・サポーティッド・プリズマティック・タンクタイプB)と呼ばれ、球形タンクと比べて船体の形状に収まりやす

*1:アルミ合金と、ステンレス材ないし低温鋼材等の異なる材料(異材)を接合する場合、特殊な接合方法が必要になる。この部分の継手を異材継手と言っている。一般には爆着で接合するが、この方法は 20 年以上前から使用されており、特に技術的に目新しいものではない。新しい接合方法の開発もあるが、実用上は従来の方法が主流となっている。

*2:BOR(boil off rate)とは、LNG 貯蔵タンク内の BOG の発生率のこと。

モス方式の概略図図2

出所:筆者作成

モス方式(ALTO ACRUX)写1

出所:三菱重工業株式会社

防熱 /スプラッシュバリア

部分2次防壁

スカート

STJ

タンク(1次防壁)

タンクカバー

47 石油・天然ガスレビュー

JOGMEC

LNG輸送技術の最新動向

く、コンパクトな設計もできるので注目されていたが、建造コスト面での競争力から、現時点では 2 隻の建造実績にとどまっている。タンクの材料としてアルミ合金を使用していたが、最新の設計船ではステンレス鋼を使用することになっている。 独立タンク方式であるので、タンクの外面に防熱が施されており、BOR 低減は比較的容易に行うことができる。タンクは二重殻の船体内に特殊合板の支持材を介して据え付けられており、水平方向の移動防止装置、ホールド漏水時のタンク浮上防止装置、ドリップパンによる部分 2 次防壁等が設けられている。 この方式はタンク内部に強度部材が配置されており、モス方式と同様に任意の積み付けが可能である。モス方式のような船の甲板上に突き出た構造体がなく、甲板を広く利用できるというタンクの形状の優位性からLNG-FPSO 向けのタンク方式として最近再び注目を集めている。

1-2 メンブレン方式

 メンブレン方式の概略図を図4に示す。 メンブレン方式は、船体内部に防熱材を取り付けて、その内面をメンブレン(金属の薄膜)で覆った構造と

なっている。このメンブレンは漏洩防止の液密を保持する目的で、貨物タンクとしての強度は防熱材と船体構造自体が受け持っている。 メンブレン方式の狙いは、超低温用特殊金属材料の削減である。貨物液の荷重は防熱材から船体に直接作用するので、防熱構造は断熱性能のみならず、強度面での配慮が必要となる。また、タンク内は補強材のない構造であるので、液の自由運動による圧力変動に対するタンク保護の観点で、一般的に積み付け制限が必要となる。

① ガストランスポート方式(NO.96) ガストランスポート方式の構造概略を図5に示す。

 ガストランスポート方式は、線膨張係数が極めて小さい特殊材料のインバー(36%ニッケル鋼)をメンブレン材として使用しているので、熱伸縮対策が実質的に不要である。また、防熱構造は、パーライトを充

じゅうてん

填した防熱箱を煉瓦状に積み重ねた構造となっている。2 次防壁に

メンブレン方式(SERI BIJAKSANA)写2

出所:三菱重工業株式会社

ガストランスポート方式(NO.96)の構造概略図図5内殻

上甲板

外板

トランクデッキ

空所 /バラストランク

1次メンブレン

2次メンブレン

1次防熱

2次防熱

メンブレン方式の概略図図4

出所:筆者作成

No.96

インバー

出所:GTT 社

SPB 方式の概略図図3

InsulationInner Hull

Access Space

Support

InsulationCenterline Bhd

Ballast Tank

Tank DomeWalkwaySwash Bhd

出所:IHIMU 社

482008.7 Vol.42 No.4

JOGMEC

アナリシス

は 1 次防壁と同一材料のインバーを使用していることも本方式の特徴である。 この方式は、1960 年代の開発以来、種々の改良が加えられて、信頼性・経済性の改善が図られている。 旧来のガストランスポート方式は、BOR 0.25% / 日であったが、現在の NO.96 は 1990 年代前半に開発・実用化された。防熱箱の増厚により BOR 0.15% / 日を実現したこと、防熱箱の大型化で個数を半減した上で金属スタッド / カプラー固縛方式を採用して施工性が向上したこと、隅部のメンブレン支持構造にインバーチューブを採用して信頼性を高めたこと等の改良を織り込んでいる。

② テクニガス方式(マークⅢ) テクニガス方式の構造概略を図6に示す。 テクニガス方式は、波形のしわ付きのステンレス鋼

(SUS304)をメンブレン材として使用している。縦横の波形のしわで熱伸縮を吸収する構造となっている。 陸上のメンブレンタンクでもメンブレン材の変形を熱伸縮対策としているものがあるが、陸上タンクでは船体変形の影響がない分だけ変形量が小さいので、波形以外の形状も採用されている。また、波形の場合でもその寸法は小さくなっている。 防熱構造については、初期のマークⅠではバルサ材を使用していたが、低 BOR の要請を受けて、マークⅢが

開発された。マークⅢでは、防熱材に強化プラスチックフォームを採用し、2 次防壁にはトリプレックス(アルミホイルシートをグラスクロスで補強した材料)を使用しているのが特徴で、1994 年に 1 万 9,000m3 型の小型LNG 船で初めて実用化し、1999 年以降、大型 LNG 船でも採用され現在に至っている。マークⅢは、プラスチックフォーム防熱材を用いたメンブレン方式であるので、LNG 船としては最も軽量でコンパクトな船型が達成できるものの、防熱材・2 次防壁の信頼性を確保するために、施工面での慎重な配慮が必要である。

③ メンブレン CS-1 方式(CS-1) CS-1 方式の構造概略を図7に示す。 ガストランスポート方式とテクニガス方式は、もともと別の会社で開発された方式であった。 現在は、この2 社が GTT 社(ガストランスポート・アンド・テクニガス社)として統合されており、両方式の長所を結合した方式が開発・実用化されている。基本的な考え方として、メンブレンにはガストランスポート方式のインバー、防熱と 2 次防壁にはテクニガス方式の強化プラスチックフォームとトリプレックスを採用した方式で、CS-1(コンバインド・システム)と呼ばれている。2006 年以降、本方式で 3 隻の LNG 船が建造されたが、初期の 2 次防壁の漏洩問題もあり、その後の受注・建造船はない。

2. 大型化の動き

 LNG 船の大型化の推移を図8に示す。 LNG 船の大型化による経済性のメリットは、単位輸送コストの低減にあるので、経済性を追求すると大型化は必然の傾向である。 大型化した場合の課題は、既存の LNG 基地、特に受

け入れ側の基地との船陸整合である。大型化により、船自体の運航経済性の向上は明確だが、受入基地の建設・改造費用も含めた LNG チェーン全体の経済性を確認する必要がある。既に多くの既存基地は従来の標準的な LNG 船向けとして建設されているので、これらの

テクニガス方式(マーク III)の構造概略図図6CS-1 方式の構造概略図図7

出所:GTT 社 出所:GTT 社

MarkⅢ

プラスチックフォーム

CS-1インバー

プラスチックフォーム

49 石油・天然ガスレビュー

JOGMEC

LNG輸送技術の最新動向

基地との船陸整合を図るためには急激な大型化は一般的には困難であった。1970 年後半以降 2000 年前半までの間、標準船型は 12 万 5,000m3 から 15 万 m3 程度までに徐々に大型化してきていた。この常識を塗り替えたのがカタールプロジェクト向けの大型プロジェクトであった。 カタールプロジェクトでは新規の大型基地の建設と輸送距離の長距離化を克服するために、Q-flex 型と呼ばれる 21 万 m3 型と Q-max 型と呼ばれる 26 万 m3 型の超大型 LNG 船が開発されて、2007 年に Q-flex 船が竣工、2008 年には Q-max 船も竣工する予定であり、LNG 船の大型化が一気に進んでいる。これらの LNG 船は、再液化装置付きの 2 基 2 軸ディーゼル推進システムを採用している。

 世界初の Q-flex 船の写真を写3に示す。外観は従来の LNG 船と変わらないが、全長 315m と、従来の主寸法制限の全長 300m よりも一回り大きな船型となっている。また、Q-max 船は全長 345m と、さらに大型化が図られている。 標準船型も大型化が進み、全長 300m の制限のなかでの最大化が図られており、パシフィック・マックスと呼ばれる 17 万 7,000m3 型の新たな大型 LNG 船が開発・建造されている。 一部の既存基地では、改修して大型船を受け入れる態勢を整えつつある。 現時点では、内航・近距離向けの小型船、地中海向けの中型船、標準的な大型船とカタール向けの超大型船の四つの船型がある。

 LNG 船では、貨物と外気の温度差による侵入熱と、船体運動による運動エネルギーによって BOG が発生する。この BOG は、従来、ボイラー用の燃料として利用されていたが、燃料消費量の改善を図った駆動機関、BOG を貨物として回収を狙った駆動機関等の各種推進システムが提案され実用化されつつある。 現時点では、「蒸気タービン」「ガス焚きエンジン電気推進」と「再液化装置付きディーゼル機関」の LNG 船が実用化されており、「コガス(ガスタービン+蒸気タービン)」「低速ガス焚きディーゼル機関」も開発されている。

(1)蒸気タービン

 蒸気タービンは、従来、ほとんどすべての LNG 船に採用されており、信頼性は高い。主ボイラーの燃料と

しては、BOG と重油のいずれの燃焼も選択可能であり、混焼もできる等の長所がある。特に、BOG 専燃時の排出ガスは最もクリーンである。一方、燃料効率が悪く、燃費が劣る点が短所である。 従来の蒸気タービンは、高圧タービンと低圧タービンで蒸気の熱エネルギーを回収していたが、最新の再熱サイクルを用いた蒸気タービンは、蒸気条件を高圧・高温化することに加えて再熱器(リヒーター)で再加熱した蒸気を新たに追加した中圧タービンで蒸気の熱エネルギーを効率よく回収することにより、大幅な燃費改善を図ることが可能となった。、最新の「蒸気タービン・リヒートプラント」も日本で開発され、17 万 7,000m3

の LNG 船で採用が決定した。リヒートプラント系統図の一例を図9に示す。

3. 推進システム

Q-flex 船 “Al Ruwait”写3

(注)ProNav 社向け大宇造船所の建造船出所:ロイド船級協会

LNG 船大型化の推移図8

出所:ロイド統計データを基に筆者作成

0

50,000

100,000

150,000

200,000

250,000

300,000

タンク容積(m

3 )

1960 1970 1980 1990 2000 2010 2020建造年

502008.7 Vol.42 No.4

JOGMEC

アナリシス

(2)ガス焚きエンジン電気推進

 ガス焚きエンジン電気推進は、BOG と軽油の混焼が可能で燃料効率も大幅に向上する。また、軽油に加えて重油も使用可能となった。一方、取り扱う燃料油によって適切な潤滑油を選定する必要があること、燃焼に必要な最小限のパイロット用燃料が必要なこと、BOG 専焼ができないこと等の短所もある。また、各種のオぺレーションで発生する余剰ガスはガス焼却設備で燃焼することになるので、この分のエネルギーの回収ができない。蒸気タービンと比較して、エンジンの保守(メンテナンス)費用の負担も大きい。 このシステムを採用した LNG 船は、2006 年以降に竣工し、運航を開始したところなので、今後の実運航を通じて信頼性・経済性を確認することになる。 ガス焚きエンジンの一例を写4に示すとおり、外観

は従来のエンジンと変わらないが、燃料供給システムに特徴がある。また、ガス供給ラインも二重管として安全性を高めている。

(3)再液化装置付きディーゼル機関

 再液化装置付きディーゼル機関は、BOG を再液化してタンクに直接戻すことができるので、推進機関とBOG 処理を完全に分離できるのが他のシステムと異なる点である。主機関は一般商船で使われている通常のディーゼル機関で燃料効率も良いが、再液化のための設備投資と追加の駆動電力が必要となるので、重油の消費量はその分増加する。また重油焚きディーゼル機関であるので、窒素酸化物、硫黄酸化物の排出は他の駆動機関よりも多い。再液化装置のシステムダイアグラムの一例を図10に示す。この図で示すシステムは、初期のシステムと比較して冷媒のシステムに工夫を施したものであり、最新のシステムである。 蒸気タービンと比較して、再液化装置とディーゼルエンジンの保守費用の負担が大きい。 この推進システムは、Q-flex 船、Q-max 船で採用されており、2007 年後半に竣工したが、就航実績はわずかであるので、「ガス焚きエンジン電気推進」と同様、今後の実運航を通じて信頼性・経済性を確認することになる。

(4)コガス( ガスタービン+ 蒸気タービン)

 コガスは、BOG をガスタービンで燃焼するとともに、排ガスエネルギーで蒸気を発生させて、蒸気タービンを駆動する。陸上のコジェネシステムと類似のシステムで、通常の蒸気タービンと比較して燃料効率が向上する。排気ガスは蒸気タービンと同様に比較的クリーンである

リヒートプラント系統図の一例図9

出所:三菱重工業株式会社(UST)

ガス焚きエンジンの一例写4

出所:Wartsila 社(50DF)

再液化装置のシステムダイアグラムの一例図10

出所:Hamworthy KSE 社

DualEco.

Eco.Circ.PP.

RH

USTTurbine driving steam9.80 MpaG × 560°C

Fwp Fwpt

HP

To Drain tank

M/C

PROCESS FLOW DIAGRAM OF A THIRD GENERATION LNG RELIQUEFACTION SYSTEM COOLINGWATER

COOLINGWATER

BOG FEED

VENT

TO TANKS

51 石油・天然ガスレビュー

JOGMEC

LNG輸送技術の最新動向

 LNG 船で輸送された LNG は、通常は液体のまま受け入れターミナルへ荷揚げされるが、近年、船上に LNG気化装置を搭載し、陸上の LNG 受入基地を介さず、船上で LNG の気化を行い、直接天然ガスパイプラインに接続するシステムが開発・実用化されている。米国のように、高圧パイプライン網が整備されて、なおかつ、新規の LNG 基地の建設が困難な場合には長距離パイプラインが一種の貯蔵タンクの役割を果たすので、このシステムが有効となる。再ガス化船の一例を図11に示す。 ブラジル等では、既存の LNG 船を活用して、海上での LNG 貯 蔵・ 気 化 に 特 化 し た LNG FSRU(LNG Floating Storage & Re-Gas Unit)が計画されている。

 LNG 船で確立したタンクシステムは、洋上浮体や洋上浮体設備の貯蔵タンクとしても利用が可能で、LNGの生産システム技術と組み合わせた、LNG FPSO

(Floating Production Storage and Offloading system)の開発も進んでいる。 さらに、LNG の生産から輸送、再ガス化まで、一貫して行うことのできる新たなコンセプトの船「FLEX-LNG」が開発され、注目を集めた。当初は、生産・輸送・再ガス化までの一貫システムであったが、最新のコンセプトでは、LNG 生産設備と船外荷役設備を搭載して生産面を重視したものとなっている。図12にその最新の概観図を示す。

4. 再ガス化船、洋上液化設備等の LNG 船の新たな技術

が、高品質の石油燃料が必要なこと、BOG との混焼ができないこと等の短所があり、現時点で実用化には至っていない。今後とも環境にやさしいシステムとして注目を集める可能性がある。

(5)低速ガス焚きディーゼル機関

 低速ガス焚きディーゼル機関は、BOG と重油の混焼が可能で燃料効率も向上するが、BOG 燃焼のために高圧のガスを供給する必要がある。また、パイロット用燃料が必要で、BOG 専焼ができない等の短所があり、柔軟性で劣る。ガス焚きであるので排ガス中の硫黄酸化物の大幅な削減が可能であるが、ディーゼル機関で燃焼温度が高いため、窒素酸化物の排出の削減が難しい点が短所と考えられる。1990 年代に陸上で発電用としてテスト運転しており、技術的には実用化の段階にある。また、近年の電子制御エンジン(カムレスエンジ

ン)との組み合わせで、環境にやさしい駆動機関として注目される可能性を秘めている。 燃料経済性は、燃料油と BOG の価格に大きく左右されるので、一般論で経済的に最適な駆動機関を評価することはできない。BOG が燃料油に比べて安い場合には、「蒸気タービン機関」が最も経済的であるが、燃料油が高くなるとともに、「ガス焚きエンジン電気推進」

「ガス焚きディーゼル機関」の経済性が高まる。環境問題を重視すれば、「コガス(ガスタービン機関+蒸気タービン機関)」が注目されると思われる。また、BOG が相対的に高く評価される場合には、LNG を全量運べる「再液化装置付きディーゼル機関」の優位性が高まる。プロジェクトごとの判定基準により最適駆動機関の選択は異なり、一般論として最適駆動機関を特定するのは現実的ではない。

再ガス化船の一例図11

出所:Hoegh LNG 社

FLEX-LNG の概観図図12

出所:FLEX-LNG 社

LNG気化装置

配管荷役用の潜水ブイ

液化装置

ガス処理装置 居住区画ヘリコプターデッキ

オフローディング設備

ムーンプールとブイ接合部分

522008.7 Vol.42 No.4

JOGMEC

アナリシス

5. 天然ガスの新たな輸送技術

 天然ガスの輸送について、液化天然ガスによる LNG輸送が一般的となっているが、LNG 導入に際して、LNG とメタノールのチェーンコストの比較評価を行い、最も経済的な輸送方法として LNG が選定された経緯がある。 近年のエネルギー資源の高騰、生産開発環境の変化等を考慮した、天然ガスの新たな輸送技術の可能性が高まってきた。具体的には、ハイドレート化した天然ガスハイドレート(NGH:Natural Gas Hydrate)、圧縮高密度化した圧縮天然ガス(CNG:Compressed Natural Gas)、合成燃料化したジメチル・エーテル(DME:dimethyl ether)が注目されており、製造・貯蔵・輸送・再ガス化の全体のチェーンコストの低減を狙った輸送技術が開発されている。NGH、CNG、DME の貨物の性状を表に示す。輸送技術の開発を行う際には、これらの貨

物の性状に合わせた最適化を図る必要がある。 例えば、CNG に関して、天然ガスを圧縮して海上輸送するアイデアの歴史は古く、約 40 年前にパイロットプラントと輸送船までの実証試験も行われていたが、当時は経済性の面で実現しなかった。 CNG は、高圧であるのでタンクの重量が非常に大きくなること、また、貨物の比重が小さいので容積効率が悪いこと等が短所であった。ただし、ガスを直接圧縮するだけなので、製造・再ガス化コストを大幅に低減できる。したがって、タンクを適切に設計できればチェーンコスト全体で経済性を低減できるとの観点から、CNGは再び注目を集めるようになってきた。受け入れ設備として既存のガスインフラが整備されている地域、例えば米国、欧州で、なおかつ、短距離の輸送の場合にはチェーンコストが低減できる可能性が高まることも理解される

ようになった。 CNG 船として種々のアイデアが提案されているが、一例としてSea NG 社のコセル方式の概略配置を図13に示す。 直径 6 インチのコイルを巻き付けた円筒状のコセルと呼ばれる標準容器に、常温 20MPa の CNGを格納する方式で、1990 年代後半にカナダのクラン氏とステニング氏が開発したもので、CNG 輸送の経済性はパイプライン輸送とLNG 輸送の中間的な輸送距離で最適化が図れることを積極的にアピールして、CNG が再び注目を集めるきっかけとなった。 特殊な形状であるが、小径で板厚が薄く軽量化が図れるのが特徴で、コセルの製造、検査方法等も含めて実用化の段階まで開発されている。 その他の各種の CNG 船も実用化の段階になっており、LNG 船と同様に実用の段階で複数の方式が混在する可能性がある。

LNG NGH CNG DME

状態 液体 固体 気体 液体

温度(℃) - 162 - 20 - 29 / 常温 - 25

比重(t/m3) 0.43 0.85 ~ 0.95 0.23 0.74

圧力(bar) ほぼ大気圧 ほぼ大気圧 130 ~ 250 ほぼ大気圧

低位発熱量(kcal/kg) 12,000 1,000 ~ 2,000 12,000 6,900

表 天然ガスを利用した貨物の特徴

出所:各種資料を基に筆者作成

CNG コセル方式の概略配置図図13

出所:Sea NG 社

ShipLength OA204.0 mLength BP190.0 mBreadth 39.0 mDepth 30.0 mDraft 10.3 m

CNG CargoTotal Number of Coselles84Total Gas Capacity250 MMscfTotal Gas Weight5,450 mt

COSELLESTACK #8 P

COSELLESTACK #8 P

COSELLESTACK #8 S

COSELLESTACK #8 P

COSELLESTACK #7 P

COSELLESTACK #7 P

COSELLESTACK #7 P

COSELLESTACK #6 P

COSELLESTACK #6 P

COSELLESTACK #6 P

COSELLESTACK #5 P

COSELLESTACK #5 P

COSELLESTACK #5 P

COSELLESTACK #4 P

COSELLESTACK #4 P

COSELLESTACK #4 P

COSELLESTACK #3 P

COSELLESTACK #3 P

COSELLESTACK #3 P

COSELLESTACK #7 S

COSELLESTACK #6 S

COSELLESTACK #5 S

COSELLESTACK #4 S

COSELLESTACK #3 S

COSELLESTACK #1 P

COSELLESTACK #2 P

COSELLESTACK #2 P

COSELLESTACK #2 P

53 石油・天然ガスレビュー

JOGMEC

LNG輸送技術の最新動向

 LNG 船の輸送技術の概要と最新の技術動向について、大型船を中心に説明し、新たな輸送技術についても概説した。 LNG は極低温、可燃性の貨物であるので、安全性を確保、維持した上で、さらに経済性を高める輸送技術の開発・確立が望まれる。 例えば、近年実現した小型船による LNG の輸送技術は、陸上輸送タンクと同様にタンク内の圧力上昇で侵入熱エネルギーを吸収するいわゆる「蓄圧方式」を採用して

いる。この方式では、推進システムとして通常のディーゼル機関が使用可能である。本方式のタンクは、円筒ないし球形の圧力容器で、設計圧力は輸送期間を考慮して設定するので、小型船で比較的短距離の輸送に適している。 このように今後とも、輸送形態に適した新たな輸送技術の開発が行われるものと期待されている。

6. まとめ

執筆者紹介

湯浅 和昭(ゆあさ かずあき)ふるさと:千葉県市川市学  歴:昭和 50 年 3 月 東京大学工学部卒業。昭和 52 年 3 月 同大学大学院工学系修士課程修了職  歴:昭和 52 年 4 月 三菱重工業株式会社入社。平成 5 年 6 月 欧州三菱重工業(General Manager of

Ship Sales)。平成 8 年 1 月 三菱重工業計画主務。平成 12 年 4 月 同社商船計画グループ長。平成 17 年 4 月 同社船舶技術部 次長。平成 19 年 4 月 ロイド船級協会(Global Gas Ship Business Manager)、現在、次席カントリーマネージャー。

【参考文献】1.糸山直之、“LNG 船-英知の生んだ船”、成山堂書店2.湯浅和昭他、“クリーンエネルギー輸送~LNG船の昨日・今日・あした”、三菱重工技報、Vol.40 No.1、PP. 32

~ 35(2003-01)3.Pierre Jean、“Methane by sea – A history of French methane carrier techniques”、P.ACUSSEL EDITEUR4.湯浅和昭他、“LNG 船の保冷技術”、配管技術 Vol.41 No.8(1999-7)5.各社カタログ、ホームページ、ならびに提供資料(Flex LNG 社、Sea NG 社、 Hamworthy KSE 社 Waltsila 社、

Hoegh LNG 社、GTT 社、IHIMU 社、三菱重工業株式会社)

JOGMECは、石油・天然ガス開発ビジネスの基盤づくりに貢献します。

Recommended