「特別の教科 道徳」...

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小学校の道徳科の授業では、道徳的諸価値の理解を基に、自己を見つめ、物事を多面的

・多角的に考え、自己の生き方についての考えを深める学習を通して道徳的な判断力、心

情、実践意欲と態度を育てます。そして道徳的諸価値の理解は、学校や家庭、地域社会に

おける様々な体験などを手掛かりとして、自己との関わりを問い直すことによって深まり

ます。これらを行う道徳科の授業では、質の高い多様な指導方法を、主題やねらい、児童

生徒の実態に応じて適切な改良を加えながら選択することが求められています。

(出典:平成29年度道徳教育指導者養成研修ブロック説明会行政説明資料)

学校訪問では、「考え、議論する道徳」授業の実現に向けて積極的な取組が展開されて

います。実際の授業では、児童生徒が主体的に考えることを意図して、対話の場面が多く

設定されていました。問題を自分との関わりで捉え、友達との議論を通して道徳的価値へ

の理解を深めるためにはどのような工夫が必要なのでしょうか。学校訪問で参観した授業

の一場面を取り上げて考えます。

自分のこととして考えさせるための「土台作り」ある小学校4年生が資料『たっ球は4人まで』(出典:裏面下欄参照)を読み、友情、

信頼(内容項目B‐10)について考えました。資料の概略は次の通りです。「しゅん」は

他の仲良し3人を誘って校外の施設で卓球をすることにしました。4人が計画について話

し合っているのを聞いていた「とおる」が一緒に行きたいと言い出します。しかし「しゅ

ん」は、特に仲良しというわけではなかったので断ります。その後、予定どおり4人で卓

球をしましたが、「しゅん」は罪悪感が芽生え心から楽しめませんでした。他の3人とと

もに「とおる」に謝罪し、5人で遊ぶ計画について相談するところで終わります。

下の発話記録は、授業の前半で、「しゅん」が「とおる」の申し出を断った理由を考え

させているところです。

令和元年 10月中越教育事務所学校支援第2課

長岡市沖田2丁目 173-2

「特別の教科 道徳」

自分のこととして考える授業

T :「なぜ、しゅんはとおるを仲間に入れなかったのだろう。」

C1 :「しゅんは、(とおる以外の4人で遊ぶことを)ちゃんと計画していたから。」

C2 :「予約は4人しか登録していなかったから。」

C3 :「得意な人がいると、球に触れないかもしれない。」

C4 :「(とおるは)卓球クラブに入っているもんね。」

T :「上手な人が入ると、みんなで楽しめないってことかな。」

C5 :「上手な人の球は取れないから、楽しくなさそうだと思います。」(数人の児童が少しうなずく。)

T :「なるほど。で、計画どおりに4人で遊んだんだよね?上手な人は入らなかった。それなのに、しゅんは

楽しくなかった。なぜだろうね。このことについて考えてみよう。」(課題を板書する。◎『しゅん』は、

仲良しの4人で卓球をしたのに、あまり楽しくなかったのはなぜでしょう。)

左図は、文部科学省

「道徳教育アーカイブ」の

pick up に掲載されています。

授業改善リーフレット2019・フォローアップ 第3号

授業改善リーフレット2019・フォローアップ 第3号

A教諭はC3の 「得意な人がいると、球に触れないかもしれない。」とC4の 「卓球クラブに

入っているもんね。」という発言を 「上手な人が入ると、みんなで楽しめないってことかな。」と

言い換え、問い掛けています。本時の目的は、登場人物の思いを自分のこととして捉え、

「友達と互いに理解し、信頼し、助け合うこと。」という道徳的価値にまで自分の考えを深

めることにありました。A教諭の言い換えは、「しゅん」のようなことが自分たちにもあ

るのではないかと児童に考えさせるための働きかけでした。自分たちの生活や経験と結

び付けて考えさせるための土台をつくってから課題を提示しているのです。

動作化などの表現活動でさらに実感授業では、道徳的価値について自分のこととして考えさ

せることが大切ですが、特に、低学年の児童は発達段階と

して「こうしたら相手がどう思うか」とか「自分と違う考

え方をする人もいる」と想像することが困難です。そこで、

経験の不足を補ったり体験を想起することを助けるため

に、動作化などの表現活動を取り入れることが効果的です。

この授業でA教諭は、代表児童を前に出して動作化させ

た後、「しゅん」の気持ち、断わられた「とおる」の気持ち、

見ていた他の3人の気持ちを考えさせました。児童は登場人物の気持ちと自分の気持ちを

重ね合わせ、「しゅん」については、「言ってから、嫌な気持ちになったと思う。」など、「と

おる」については、「ダメと言われた時、周りの人が何も言ってくれないのも嫌だったと

思う。」「こんな感じで言われたら、もう入れてとは言いたくない。」などと発言しました。

これは、動作化をしたことにより、理解を深めることができた場面と捉えられます。

内容項目について解説で確認しましょう!教師の道徳的諸価値の理解の深さが、児童生徒の活動を支えます。そして、教師が内容

項目について理解するには、学習指導要領解説の中で、各内容項目ごとに示された「内容

項目の概要」と「指導の要点」を読むことが大切です。

「B‐10 友情,信頼」については「友達のよさを発見することで友達のことを理解した

り…」とあります。A教諭の授業では、課題「『しゅん』は、仲良しの4人で卓球をしたのに、あ

まり楽しくなかったのはなぜでしょう。」に対して、「『しゅん』は『とおる』がかわいそうにな

ったから楽しくなかった。」という発言が出ました。この児童に対しA教諭は、「『かわいそ

う』と思うから友達になるのかな?」と確認しました。そして全体に、「断ってしまった後、

『しゅん』は気になって『とおる』を見ていたよね。」と投げかけ、資料へ目を向けさせま

した。すると児童は、「『とおる』は『しゅん』の仕事を手伝ってた。」「『しゅん』は自分の

ことだけを考えてたから、『とおる』に悪かったと思って、楽しめなかった。」と発言しま

した。振り返りの中には、「友達のよいところを探して、もっと仲良くしたい。」など、友

達を理解することの大切さに目を向けた記述がありました。内容項目に関わる子供の発言

を見方を変えて示すことは、道徳的価値の理解を深めさせる大切なポイントです。

学校訪問では、教師がチームとなり授業づくりをしている様子が伝わってきます。今後も授業か

らの気付きを共有し、子供が心の成長を実感する授業づくりをお願いします。

文部科学省HP「道徳教育アーカイブ」 https://doutoku.mext.go.jp資料『たっ球は4人まで』は文部科学省の道徳教育アーカイブ「文部科学省

作成教材 小学校道徳 読み物資料集」から閲覧できます。 (QR コード→)

「それは(言い換えると)□□ってことかな?」「〇〇ってどういうこと?」「どうしてそう思ったのかな?」

「もう少し詳しくみんなに教えてくれる?」など

動作化

ぼくも卓球

やりたいな。

仲間に入れて

くれないか?

だめだめ。ダブルスの

試合をやるから4人でな

いとダメなんだ。時間も

1時間半しかないし。

発言を生活や経験と結び付ける教師の言葉がけ

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